「なぁ、遠坂。二人を励ますには如何したら良いと思う?」

 

 物凄く濃い敵……イスカンダル襲撃から一夜明け、私たちは学校を休んで対策を練っていた。

 ところが衛宮君ときたら、昨日の一件で凹んでいるらしい二人のことばかり。

 彼には、危機感というものがないのかしら?

 

「ねぇ、一つ訊きたいんだけど。あの二人………本当に凹んでるの?」

 

「何言ってるんだ、遠坂。どこから如何見ても凹んでるじゃないか」

 

 そう言われて、視線を居間へと向ける。

 居間には茶請けの煎餅を齧りながら、テレビを見ている二人……セイバーとキングの姿がある。

 ………………なんていうか、滅茶苦茶庶民的な光景ね。駄目な専業主婦みたいだわ。

 

「アレの何処が?」

 

「いつもなら、セイバーは道場で瞑想してる。

 そしてキングは通販雑誌を読みふけって、気に入った商品を注文してるぞ」

 

「英霊なのにッ!?」

 

 頭が痛い。過去の英霊っていうのは、こんな奴ばかりなの?

 大体瞑想は良いとしても、通販って何よ、通販って。

 

「朝飯の時も変だったろ?」

 

「…………それこそ、何処がよ。二人とも、三回もおかわりしてたじゃない」

 

「莫迦だな…………。あの二人は何時も五回はおかわりしてるぞ」

 

 …………………もう、言葉も無いわ。

 魔力供給が出来ない衛宮君がマスターの二人には、消費軽減の為に食事が確かに必要よ。

 えぇ、それぐらい…目の前に居る、半人前以下の衛宮君と違って分かってる。

 でもね…………だからって、五回は食べ過ぎよ! 明らかにッ!!

 

「別に気にすること無いわ。二人とも、子供じゃないんだし」

 

「そんな………遠坂は心配じゃないのか? 二人のこと」

 

 私が心配なのは、この家の食費よ!! まぁ、私が払うわけじゃないけど…………。

 多分、この家のエンゲル係数を調べたら、通常の十倍以上あるんじゃないかしら。

 

「兎も角、二人からも十年前の話を聞きたいから連れて来なさい。

 私はアーチャーとメディアを連れてくるから」

 

「……………分かった」

 

 ホントに二人には甘いんだからッ!! ……………あれ? 何でこんなに腹が立つんだろ?

 まぁ良いわ。それよりも、あのキチガイ野郎の対策を考えないとね。

 

 

 

 

 


 

 

Twin Kings

 

第九話「隠者の影」

 

 


 

 

 

 

 

 俺を含めた遠坂、メディア、セイバー、キングの五人が、家の居間に集まっていた。

 アーチャーは、昨日助けた魔術師の様子を見ている。

 

「さぁ、セイバー。前は有耶無耶にされたけど、今回ばかりは喋ってもらうわよ」

 

 遠坂の言葉に、セイバーは難しい表情。そして無言を返す。

 遠坂がセイバーから聞き出そうとしているのは、10年前にあった聖杯戦争のこと。

 セイバー、キング、そしてイスカンダルが参加し………切嗣(オヤジ)がマスターとして参加した戦い。

 キングは覚えていないのだが、セイバーは覚えているらしい。しかし、それは凄いことなのか?

 

「遠坂、前回の聖杯戦争を覚えているのって、そんなに凄いことなのか?」

 

「当たり前よ。良い? 英霊にとって、現界している間は夢みたいなものなのよ。

 普通、夢の内容を覚えていられる? それも正確に、よ」

 

 む………それは確かに無理だ。

 部分部分なら覚えていることが出来るが、正確に覚えることなんて不可能に近い。

 

「例えばキングは、セイバーと前回戦ったことは覚えているけど……それ以外は殆ど憶えていないでしょ?」

 

「うむ、全く憶えておらん」

 

 何故か大きく胸を張って答えるキング。…………誇示しているんだろうか?

 

「キングのが、当然の反応なの。けど、セイバーはそうじゃない」

 

 言葉と共に視線をセイバーに。セイバーは柳眉を寄せたまま、表情を変えなかった。

 

「答えて、セイバー。詳細は良いから………貴女がイスカンダルを倒した方法を」

 

 そう、セイバーは10年前にイスカンダルを倒したらしい……いや、そう思っていた。

 イスカンダルは実は生きていて、10年間…この冬木市に潜伏していたらしい。

 しかし、勘違いであっても有効な戦術かもしれない。そう思い、遠坂は訊いているんだが……。

 

「シロウの前で………話せるようなことでは………」

 

「は? どうして衛宮君の前だと話せないのよ」

 

「それは…………キリツグに関する話だからです」

 

切嗣(オヤジ)のッ!?」

 

 そういえば、俺も殆ど忘れてたけどセイバーの前・マスターが切嗣(オヤジ)だったんだよなぁ。

 ということは、切嗣(オヤジ)がその戦術を考えたのか?

 

「え? え? ちょ、ちょっと待って! もしかして貴女の前・マスターってッ!?」

 

「はい? シロウの養父・キリツグですが………聞かされていないのですか?」

 

「初耳よッ!!」

 

 ギヌロ、と睨まれた俺は、思わず脂汗が出る。………正直、怖いぞ。

 確かに今まで言うのをすっかり忘れてたけどさ………。

 

「ハァ…………まぁ良いわ。そのことは、後で衛宮君を吊るし上げるから」

 

 上げるのッ!?

 

「それで、衛宮君……聞くの? それとも聞かないの?」

 

「え?」

 

「貴方のお養父さんのことよ。セイバーの様子じゃ、あんまり良い話じゃないみたいだけど」

 

 ふむ…………確かにセイバーの様子は可笑しく、切嗣(オヤジ)の話もきっと良いことじゃない。

 思えば、臓硯に切嗣がセイバーを召喚したと聞いた夜……セイバーにも話を聞いた。

 まぁ結局は答えて貰えなかったけど、俺が切嗣の話をした時、セイバーは困惑していたからなぁ。

 少なくともセイバーの中の切嗣(オヤジ)は………昔の切嗣(オヤジ)は違ったんだ。

 

「教えてくれセイバー。10年前の………魔術師としての衛宮 切嗣を」

 

「…………………分かりました。

 先に言っておきますが、私が言うことは全て真実だと心得てください」

 

 きっぱりとしたセイバーの言葉は、これから語る真実が信じ難いのだと思わせた。

 ふぅ………と、吐息を一つ。セイバーはいつになく真剣な表情で、俺たちを見据える。

 

「10年前………私はキリツグに召喚され、聖杯戦争に参加しました」

 

 話は召喚からか………。

 

「順調に勝利を重ね………いえ、苦戦することなど、キング以外ではありえませんでした」

 

「ふふん、当然だな」

 

 じゃあ、キング以外では苦戦せずに勝てたってことなのか? イスカンダルも?

 

「そんなに強かったの?」

 

「確かに強かったです。魔力供給は万全、キリツグの実力も桁外れていました。

 しかし……………それ以上に、キリツグには感情というものが無かった」

 

 厳しい表情で語るセイバー。感情が…………無い?

 

「他のマスターを罠に嵌めるのは当然。相手の恋人を人質にとったこともありました」

 

「なっ!?」

 

 人質だってッ!? 切嗣(オヤジ)が……そんなことを?

 

「イスカンダルは、そうやって倒したんです。

 イスカンダルのマスターの恋人を人質に取り、私の宝具で倒した筈でした………」

 

「おぉ、そうだ思い出した。(ワタシ)がイスカンダルと戦ったのはその後だ。

 ズタボロになっていた奴は、偶然にも(ワタシ)の前に姿を現してな。

 そして(ワタシ)の蔵≠使い、殺してやった筈なのだが……………」

 

 二人揃って難しい顔をする。しかし、俺はそれ以上に切嗣(オヤジ)に関する話を聞きたい。

 

「セイバー………もっと詳しく話してくれ。切嗣(オヤジ)のこと」

 

「シロウ…………いえ、分かりました。

 私がキリツグに関して知っているのは、行動と言う結果だけです。

 何故なら、私がキリツグの言葉を聞いたのは回数にして、たった三回なのです」

 

「三回って………それってまさか?」

 

「リンの想像通りです。私は、令呪を使用する時以外の言葉を聞いたことが無い」

 

 う……そ……だろ? そんな、そんな人間が…………。

 

「シロウには悪いですが、私には到底キリツグが人間には見えませんでした。

 人と呼ぶには、余りにも冷酷すぎる。………いえ、冷酷ですらない虚無を抱えていたのです。

 イスカンダルを倒す為に利用した人質ですが………用が無くなった瞬間、キリツグに殺されました」

 

 ガクリ、と全身から力が抜ける。

 セイバーから語られた切嗣(オヤジ)の過去…………それは俺の想像を絶していた。

 そして俺の知る切嗣(オヤジ)とは余りにも違い、現実感がまるで無かった。

 

「……………究極的な魔術師ね、その衛宮 切嗣って人」

 

 眉根を寄せ、短く呟く遠坂。

 確かに魔術師とは真理への到達の為に、如何なる犠牲をも厭わないという。

 しかし、幾ら口でそう謳ったところで、人間である以上はそう簡単にはいかない。

 それを切嗣(オヤジ)は具現した存在。それはつまり、人間性の喪失に他ならない。

 

「衛宮君、悪いけど今はイスカンダルへの対策を考えて」

 

「……分かってる。

 でも、如何するんだ? 少なくとも10年前の方法は取れないぞ」

 

 相手のマスターの正体が分からない以上は、人質なんて取れるわけが無い。

 第一、仮に取れたとしても絶対にやらない。やっちゃいけないんだ、そういうことは。

 

「言われなくても分かってるわよ。

 けど、セイバーから聞いた話でもやっぱり情報が足りないわね………」

 

「申し訳ありません。キリツグは何も話さず、淡々と戦う舞台を整えるだけでしたので」

 

「え? じゃあ、イスカンダルとも一度しか会わなかったの?」

 

「いえ、キングと初めて戦った時、奴は現れました」

 

 過去の場景を思い出し、セイバーは嫌そうに眉根を寄せた。

 あのキチガイ………いったい何をやらかしたんだ?

 

「私とキングの中間に立ち、イスカンダルはこう言いました。

 我輩の名はイスカンダル。見目麗しき少女たち、我輩の嫁に来ないか?≠ニ」

 

「うっ…………我も思い出してしまったぞ。

 迷わず攻撃目標を奴に合わせ、攻撃したのだが………倒すには至らなかった」

 

 呆れた様子で言うセイバーに、悔しそうなキング。

 ………あのキチガイっぷりは変わってないんだなぁ。

 

「あのキチガイ………昔から直ぐに真名を明かしてたのね」

 

 頭痛を抑えるようなな仕草を見せる遠坂。……多分、本当に痛いんだろうな。

 

「しかし、如何するつもりなのマスター?

 あのイスカンダルというサーヴァント……キチガイでも、間違いなく強い」

 

 メディアの言葉通り、イスカンダルは間違いなく強い。

 昨日、最後に見せた目にも映らない神速の動き……あの速さが相手では、如何なる攻撃も無意味だ。

 

「やっぱり情報が必要ね。あの魔術師が目覚めるのを待ちましょうか」

 

「その必要は無い」

 

 突然の声に、自然と視線がそちらに集まる。

 そこには魔術師の様子を見ている筈の、アーチャーの姿があった。

 

「目を覚ましたの?」

 

「あぁ、ついさっきだがな」

 

 短いやり取りを終えて、遠坂が立ち上がる。

 

「それじゃ、話を聞きに行きましょうか」

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ふむ………、雑種たちは話を聞きに行ったか。

 しかし、先程のセイバーの話でかなりのことを思い出したな。

 奴に召喚され、セイバーと戦い、あのキチガイが現れ…………そして前回の戦いの最後。

 

「セイバーよ」

 

「何でしょうか、キング」

 

「前回の最後………(ワタシ)が座≠ノ戻った後のことを聞きたい」

 

 ピクリ、とセイバーが反応しおった。何か、重要なことを知っているのか?

 

(ワタシ)のマスターが不甲斐無くもやられ、(ワタシ)は何故かすぐに座≠ノ戻った。

 その後、貴様には敵はいなかった筈だ。なのに何故、貴様は未だ聖杯を求めている?

 あの時、10年前の最後の戦いの後…………貴様は聖杯を手に入れたのではないのか?」

 

「興味深い話ね。私も聞かせて欲しいわ」

 

 む………魔女の奴が話しに割り込んで来たか。

 こやつの料理は上手いのだが、何かにつけて雑種に触れようとする。

 それが何故か腹立たしい………イライラする。だから(ワタシ)は、魔女は嫌いだ。

 

「確かに、私もそう思いました。遂に聖杯を手に入れることが出来た、と。

 しかし、それも最後の令呪で脆くも崩れ去りました」

 

「令呪…だと? では、まさか!」

 

「はい、キリツグの最後の令呪は聖杯を破壊しろ≠ナした。

 必死に抵抗したんですが、令呪の力が強く………」

 

 悔しげに唇を噛むセイバーだったが、(ワタシ)は更に疑問が増えてしまった。

 衛宮 切嗣……(ワタシ)も見たことはあるが、何の目的もなく動く男では無い。何故ならアレは機械だから。

 与えられたものがなければ決して動かない、殺戮人形(キリング・ドール)。それが(ワタシ)の印象だ。

 そんな奴が何故、

 

「何故、聖杯を破壊しろと言ったのか…………」

 

「さぁ? それは私にも分かりません。ただ、あの男は私を裏切りました………それは赦せることでは無い」

 

 怒りに震えるセイバーには、少し呆れる。何故そうまでして、聖杯などを求めるのか?

 ―――――――――あぁ、いや。この疑問は無意味だったな。

 何故なら10年前にも同じ問いかけをし、その答えは既に貰っていた。

 

「兎も角、私が憶えているのはそこまでです。

 その後すぐ、キリツグの真意を聞く暇もなく座≠ノ戻りましたので」

 

「一つ聞いても良いかしら?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「その最後の戦いの場所って、ひょっとして住宅街の中にあった公園?」

 

 む? ……………そういえば公園だったな、あそこは。

 

「確かに公園ですが、それが何か?」

 

「この町で起こった10年前の大火災。

 焼け出された建物は百三十四棟、死傷者は五百名を越える。火元は、公園だったそうよ」

 

 では、それが聖杯を破壊した時の余波か。随分な惨事になったものだな。

 

「そ………んな………」

 

 どうやらショックを受けているようだな、セイバーめ。

 くだらんな。そのんな如何でもいいことを、一々気にするまでも無いと言うのに。

 

「あら? キングはショックを受けていないみたいね。やはり他人事?」

 

「無論だ。人間など、何人死んだところで知ったことでは無い」

 

「キングッ!! そのような暴言、死者に対して失礼です!! 撤回してくださいッ!!」

 

「知らぬな。顔も知らぬ、名も知らぬ……挙句、王である(ワタシ)が何故人間などの死を悼まねばならん」

 

 まったく………くだらないことを一々問いおって。何が目的なのだ。

 

「キングッ!!」

 

「落ち着きなさい、セイバー」

 

「ですがッ!!」

 

「私の話には続きがあるのよ」

 

 漸く本題か。まったく……長々と回りくどい言い方をしおって。

 

「なんだ? 早々に言うが言い」

 

「では、端的に言わせて貰えば………士郎さんはその時に全てを失っているわ」

 

 ―――――――――え?

 

「親しい友人、近所の大人、そして優しい両親…………大火災で、全員死亡が確認されたわ。

 幾つか地脈の集まるところ調べている内に、偶然にも彼の過去を知ったのよ。

 当時、七歳の彼が見たのは………どんな地獄だったのかしらね」

 

 雑種が………雑種がそんなもの見た? いつもヘラヘラとしていて、給仕にしか役に立たない奴が?

 嘘だ……………い、いや、それよりも(ワタシ)の動揺は何だ? 何故だ、何故こんなにも心が乱れる!!

 

「辛うじて生き残った彼を引き取ったのが、その衛宮 切嗣だったそうよ。

 同じような境遇の子供たちは、新都にある教会の………確か、言峰神父が引き取ったみたいね」

 

「「コトミネッ!?」」

 

 我は思わずセイバーと顔を見合わせる。そんな馬鹿な………コトミネは、あの時確かに………。

 ぬぅ……10年前に何かがあったのか……全てはそこに起因しているのかも知れぬな。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 閑散とした衛宮家の客間。その中央に白い布団が敷かれ、彼女は体半分を埋めていた。

 上半身を起こし、少し虚ろな瞳で此方を見据える女性。……この人が、バゼットなのか?

 

「初めまして、協会からこの冬木市の管理を任されています遠坂です。

 尤も、今は聖杯戦争に参加しているマスターの一人ですが……」

 

 学校で被っている猫とは、また違う猫を被った遠坂。

 これが管理者としての遠坂なんだろう。

 

「如何やら助けられたようね。感謝致します、ミス・遠坂。

 私の名はバゼット・フラガ・マクレミッツ………協会所属の狩人(ハンター)≠ナす」

 

狩人(ハンター)ッ!?」

 

 なんか、知らない単語が出てきたな。

 協会っていうのは、魔術師協会のことだろうけど……………狩人(ハンター)って何?

 

「おや? 其方の少年は知らないようですね。ひょっとして一般人ですか?」

 

「限り無く近いけど、違うわ。一応、こんなのでもマスターよ」

 

 一応とか、こんなのでも、っていうのは余計だぞ遠坂。

 

「なぁ、遠坂。その狩人(ハンター)って何だ?」

 

狩人(ハンター)って言うのは、協会が保有する魔術使いのことよ。魔術使いのことは分かるわよね?」

 

「おう。魔術を真理への到達の道程ではなく、魔術を術として使う魔術師のことだろ」

 

 それぐらいは分かってる。思いっきり切嗣(オヤジ)の受け売りだが。

 

「それで狩人(ハンター)っていうのは、悪く言えば殺し屋よ」

 

 え?

 

「魔術師に於ける、禁忌(タブー)を破った者に差し向けられる殺し屋………それが協会の狩人(ハンター)よ」

 

 この人が魔術師専門の殺し屋ッ!? そ、そうなのか?

 

「怯えなくても大丈夫よ。私は封印指定を専門に取り扱っている変わり者だから」

 

 だから半人前の貴方を狩ることは無いわ、とバゼットさんは言っているようだ。

 …………それはそれで、ちょっと莫迦にされた気分だが。

 

「封印指定専門? 貴女、相当強いのね……それとも、魔術師に於ける切り札を持っているのかしら?」

 

「正しい反応ね、ミス・遠坂。けれど、人の魔術を下手に探らない方が身の為よ」

 

 互いに笑顔なんだが、そのバックには竜虎が見える。………幻覚だろうか?

 しかし、封印指定って………あの封印指定だよ?

 魔術師が不世出の位にまで到った時、協会が認定する最も誉れ高く、最も受けたくない称号。

 切嗣(オヤジ)の話だと、脳ミソだけを取り出して永久に保存するらしいけど………冗談だよな。

 

「痛…………ッ!」

 

「大丈夫ですか、バゼットさん!?」

 

 急に肩口を右肘を押さえるバゼットさんには、明らかな苦悶の表情が浮かんでいた。

 右肘といえば、何者かに切断された部分だ。傷口はメディアが完全に消してくれたが………、

 

「手が無い…………そうだったな、私は敗れたんだった」

 

 この時浮かべていたのは、悔しさではなく……………なんだろう、謝っているような?

 

「さっそくですが、貴女には色々と聞きたいことがあります。

 助けた代価として、話してくれますね?」

 

「何言ってるんだ!! 如何見てもバゼットさんは体が回復して無いんだぞ!!

 最低限、後一日様子を見るべきだ!!」

 

 何言ってるんだ、遠坂の奴。如何見ても、休ませるべきだろうが。

 

「アンタこそ、何言ってるのよ!

 さっさと話を聞いて、あのキチガイを倒す方法を見つけるのが、先決でしょ!!」

 

「いいやッ!! 休ませるんだ!!」

 

「話を聞くのが先よッ!!」

 

「休むんだッ!!」

 

「話よッ!!」

 

 互いの意見を真っ向からぶつけ合い、睨み合う俺と遠坂。

 他の何を退いても、こういうことに関しては絶対に退けない!!

 

「くっくっくっくっくっ…………ハハハ………」

 

「「えっ?」」

 

 突然の笑い声に、睨み合っていた俺と遠坂も呆気に取られた。

 見れば可笑しくて腹が痛い、とばかりに腹を押さえたバゼットさんが、苦しそうに笑っている。

 

「お、面白過ぎるよ……ハハ……君たち………クスクスクス」

 

 遂に畳をタップするように叩き始めた。俺と遠坂は顔を見合わせて、

 

(アンタの所為よ)

 

(遠坂の所為だろ)

 

 取り敢えずアイコンタクトは完璧だった。

 それこそ念話レベルだ。……………って、なんでさ。

 

「君たちの名前をちゃんと聞いて無かったね」

 

「………遠坂 凛よ」

 

「衛宮 士郎です。えっと、バゼットさんで良いですか?」

 

「バゼットで………え? エミヤッ!?」

 

 ん? 俺の姓に何故か反応されたけど…………。

 

「……………いや、まさかな。失敬、気にしないでくれ。

 それよりも私はバゼットで構わない。私も君をミスタ・士郎と呼ばせてもらうから」

 

 フッ、と笑うバゼットは本当に綺麗だ。

 男装のままだが、綺麗な笑みは女性としての彼女を見せ、俺は思わず鼓動が早くなるのを感じる。

 

「鼻の下を伸ばしちゃって………」

 

 ふん、とソッポを向く遠坂。な、何でそんなに不機嫌そうなんですか……?

 

「フフフフ、大変だなミスタ・士郎」

 

「えぇ、理由の分からないのが大変です」

 

 遠坂の奴、何でこんなに不機嫌そうなんだ? やっぱりさっき反論したからか?

 

「………クク、成程。大変なのはミス・遠坂も一緒のようだ」

 

「激しく勘違いしているみたいだけど…………まぁ良いわ。今は話を聞く方が重要だもの」

 

「遠坂、お前…まだ「私なら構わないよ、ミスタ・士郎」

 

 え? と視線を向ければ微笑んだバゼットの顔。しかし、それは明確な意思を秘めた表情でもあった。

 

「体ならば大丈夫だよ、動くことぐらいなら支障は無い。流石に戦闘は無理だがね。

 それにミス・遠坂ではないが、私も時間が惜しいのだ。アイツのことを考えれば………」

 

 アイツ………それってやっぱり、

 

「ランサー………ですか?」

 

「…! どうして、そう思うんだ?」

 

 この反応、間違いないな。そうか、そういうことか………。

 

「貴女はランサーのマスターだったんですね」

 

「………あぁ、不甲斐無いマスターだったよ。旧友に会っただけで警戒を怠り、片腕を持っていかれた。

 そこからは意識を失っていたが、君の様子ではランサーは奪われたか………」

 

 僅かに目を伏せ、口を閉ざしたバゼットは………ランサーに謝っているように見えた。

 

「バゼットを路上で助けてから、ランサーが家に来ました。

 ランサーは別に何もしなかったんですが………最後にバゼットを頼む≠チて」

 

「…ッ!」

 

 一瞬身を震わせ、左手をきつく握り締めるバゼット。

 手から血の気が引き、肌の色がどんどん白くなっていくことから、余程の力が掛かっていることが分かる。

 その様子が見ていられなくって、俺は思わず声をかけようと、

 

「成程。その様子じゃ、メディアの言葉は正しかったみたいね」

 

「え?」

 

 と、遠坂の奴…いきなり何を言い出すんだ?

 

「貴女を此処へ運んで来て直ぐにメディア……キャスターに診せたんだけど、

 貴女からランサーの魔力が感知されたそうよ。この意味、貴女には分かるでしょう?」

 

「…………………ランサーの奴に助けられたんだな、私は」

 

 どういうことだ?

 ランサーとバゼットの間には信頼関係があるのは分かったけど、今のは良く分からないぞ。

 

「ハァ……その様子じゃ、衛宮君は分かってないみたいね。いいわ、一応口に出して説明しましょうか。

 バゼットが今のランサーのマスターに欺かれて、ランサーを奪われた。

 そして彼女は、ランサーとイスカンダルを現界させるための餌として生かされた。

 じゃあ、ここで質問。どうしてバゼットは逃げ出せたでしょうか?」

 

「え? そりゃあ魔力が回復して…………あっ!!」

 

「そう、ランサーがこっそりと魔力を送ったんでしょうね。バゼットが逃げられるように」

 

 そうか、ランサーは今でもバゼットを守っている。

 だからあの時の言葉、バゼットを頼む≠チていうのは『お前に預ける』ってことなんだろう。

 『任せる』ではなく『預ける』…………かっこつけすぎだ、ランサー。

 

「ホントに駄目なマスターだな、私は………………ミス・遠坂、ミスタ・士郎。

 私に協力できることは何でもしよう、だから言峰を倒すのを協力してもらえないだろうか?」

 

「「え?」」

 

 今………バゼットは誰を倒すって?

 

「そうか、君たちもそこまでは調べていないか。

 まぁ用心深い奴のことだ。そんな失態は見せないか」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! バゼットの旧友で、罠に嵌めたのはッ!?」

 

「言峰 綺礼。今回の聖杯戦争の監督役を務めているあの男が、黒幕だ」

 

 アイツがッ!?

 確かに胡散臭くて、いけ好かなくて、無性に敵意が湧いて…………あれ? 妙に納得できる。

 

「綺礼の奴………やってくれたわね」

 

 ニヤリとした悪魔的な笑みを浮かべる遠坂。……メッチャ怖いです。

 

「でも、ある意味助かったわ。他の誰より、綺礼が相手の方が確率が高い」

 

「そうなのか? 言峰ってそんなに強くないのか…………」

 

「莫迦、違うわよ。監督役が、聖杯戦争に参加してるってことが重要なの。

 ちなみに、綺礼の奴は強いわよ。当然サーヴァントは及ばないけど……中国武術の達人だから」

 

 監督役であることが重要?

 

「そうか、確かにそうだな。しかし、あのサーヴァントに勝てる奴がいるのか?」

 

「バゼットの言っているのは、大方イスカンダルのことでしょ?

 確かにアイツも破格だけど、私が知っているのも桁外れだから」

 

「ほぅ………イスカンダルだったのか、奴は。

 しかし、それに勝てるというサーヴァントが居るとは……今回の聖杯戦争は相当な戦いらしい」

 

 遠坂とバゼットの二人だけで話してて、俺は蚊帳の外。………正直、寂しいです。

 

「またアンタだけ分かってない見たいね」

 

「面目ない」

 

「じゃ、簡単に説明するけど。綺礼は教会から派遣された代行者なの。

 そして、綺礼が受けた命令は……恐らく聖杯の回収。つまり、全マスターにとって綺礼は邪魔な存在ね」

 

「確かにそうだな。聖杯を求めて戦ってるのに、横から掻っ攫おうとしてるんだから」

 

「そいうこと。そして、綺礼は監督役をやってる。監督役は常に第三者であらねばならない」

 

 ………あ、そうか。そういうことか。

 

「分かったみたいね」

 

「おう。皆、言峰を邪魔だなぁと思っていたけど、監督役だったから手が出せなかった。

 けど第三者であるはずの監督役のくせに、勝手に参加している。これはルール違反だ。

 違反で大義名分も立つから、誰かと共闘して言峰を倒しちまおうってことだろ?」

 

「はい、大正解。ま、ここまでヒントあげてれば当然ね」

 

 それと私の教え方も良かったし、などと自画自賛まで始める遠坂。

 ……………まぁ良いけどね。実際、教えるのは上手い訳だし。

 

「けど、誰に協力を頼むんだ?」

 

「決まってるじゃない、イリヤスフィールよ」

 

 どこに迷う余地があるのよ? と言いたげな遠坂。

 まぁ確かにそうだな。慎二にせよ臓硯にせよ、余り安心して背中を任せられない。

 それに、ライダーの実力の全てを知っている訳じゃないけど、イスカンダルを倒せるとは思えない。

 その点、イリヤはいきなり裏切ったりしないだろうし、バーサーカーの実力も申し分ない。

 確かに迷う余地どころ、考える余地すら無かったな。

 

「イリヤスフィール…………確か、アインツベルンが送り出した少女か。

 情報でしかないけど、確かに彼女のコンビは破格だと聞いている。

 しかし、ミス・遠坂。君は彼女が何処に住んでいるのか知っているのか?」

 

「あ………」

 

 いつぞやのキングの言葉を思い出す一言。

 これはやっぱり、

 

「忘れてたんだな」
「忘れていたようだね」

 

「ち、違うわよッ!!

 だ、大体住んでる場所に行かなくても、夜ウロウロしてれば会えるわ!!」

 

 やれやれ、夜中に歩いてたら問答無用で襲われるぞ。

 下手したら、イスカンダルにも会うかもしれないし。

 

「取り敢えず、イリヤの城なら俺が場所を知ってるぞ」

 

「えっ!? どうしてアンタがイリヤスフィールの城を知ってるのよッ!!」

 

「一昨日、俺が一人で買い物に行ったろ。あの時に、偶然にも会ってさぁ」

 

「会ってさぁ…じゃないッ!!

 それならそうと、早く言いなさいよ! 余計な恥をかいたじゃないッ!!」

 

 なんだか、滅茶苦茶理不尽な怒られ方してないか、俺。

 上司に恵まれない時か…………○ー人事、○ー人事に電話しようかなぁ。

 

 

 

GO AHEAD!

 

 

 

後書き

 

 今回は心象ばかり書いている気がする放たれし獣です。

 先に言っておきますが、セイバーとキングは言峰が存命だとは知りませんでした。

 多分、これまでの話でも二人が言峰に会ったり、名前を聞いたことは無かったはずです。

 あった場合は……………忘れてやってください。見なかったことでも可。(爆死

 そして、ついに言峰の正体がバレました。

 凛の兄弟子の彼ですが、凛が迷っていないのは察してください。彼女も苦労してるんです。(ぉ

 そしてランサー兄貴が格好良い………いや、良くしてくれという意見が多かったので。(笑

 兄貴に助けられたバゼットですが、まだフラグが立ってません。(ぇ

 やはりバゼットの中では、ランサー兄貴が大きいです。士郎はランサーを超えられるんでしょうかねぇ?

 え〜っと、BBSでもツッコミを受けましたが、イスカンダルはライダーじゃないのか? という意見ですが。

 TwinKingsでは、ランサーとして突っ走りたいと思います。

 しかし、イスカンダルがランサーと表記されることは、多分設定以外では無いと思いますがね。(核爆

 さて、次回は風雲イリヤ城です。(ぉ 次回もお楽しみに〜。

 

 

 

管理人の感想


 士郎は何時遠坂嬢の部下になったのだろう? の9話です。

 確かにス○ッフサービスは必要ですけどね。



 原作に比べると、情報を握っているキャラクターが多い所為か話が早いですね。

 まぁ情報を得たからといって直ぐ終わる問題じゃないですが。

 これによって各キャラが変な方向に動きかねませんし。

 終わりが見えたときが1番危ない危ない。


 イリヤと共闘しようとする面々。

 それが成ればかなり楽でしょうけど、そう簡単にいくでしょうか。

 個人的には士郎とセラの顔合わせが気になるところ。(後再会時にリズがどうボケるか



 ランサー兄貴の活躍も期待します。




感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思います。

感想はBBSかメール(isi-131620@blue.ocn.ne.jp)で。(ウイルス対策につき、@全角)