「さて、目的も決まったことだし。

 さっそくイリヤスフィールの城に行きましょうか」

 

 イスカンダルへの対策として、イリヤとの共闘を決めた俺たち。

 遠坂は、さっそくイリヤの城に行くことにしたようだが………う〜む。

 本当にイリヤは共闘に応じてくれるんだろうか? ちょっと気懸かりなんだよなぁ。

 

「ミス・遠坂、できれば私も連れて行ってくれないか?」

 

「え? 私としては嬉しいけど………大丈夫なの?」

 

 っと、バゼットが無茶を言う。

 動けるまでに回復したって言うけど、幾らなんでも無茶だぞ。

 

「問題ないさ。第一、アインツベルンは相当プライドが高いぞ。

 君たちだけで行っても、話しを纏めることなど出来はしないだろう」

 

 あ、そうか。

 俺が懸念していたのは、イリヤのプライドと、バーサーカーへの絶大な信頼だ。

 イリヤのプライドは、マスターとしてだが相当高い。

 それは『昼間は襲わない』と自分で決めたルールを忠実に守ってたり、言葉の節々からも分かることだ。

 加えてイリヤのバーサーカーへの絶大な信頼、そしてそれに応えるだけの実力を持つバーサーカー。

 これらを考慮すると、イリヤのことだ……………一人で戦いかねない。

 

「確かに……ね。

 ミス・バゼット。アーチャーのマスターとして、貴女に協力を要請します」

 

「フッ、堅苦しいね……。

 了解しました、ミス・遠坂。バゼット・フラガ・マクレミッツは貴女に協力します」

 

 え? え? え〜っと、俺もやった方が良いの?

 

「あぁ、衛宮君はやらなくても良いわ。魔術師どころか、マスターとも呼べないから」

 

「クスクス…確かに、君にはお願い(プリーズ)、と言えば充分だな」

 

 シクシク………虐めは良くないんだぞ!

 

 

 

 

 


 

 

Twin Kings

 

第十話「斜陽の闇」

 

 


 

 

 

 

 

 衛宮家から少し遠い場所にある郊外の森。俺を含めて七人は、その森の前に立っていた。

 深い深い森は、まるで異界の入り口のようで、あの時イリヤに見せて貰った森と変わってない。

 

「成程。この森全てが、アインツベルンの領域って訳ね」

 

 これが森の前に立ったときの遠坂の感想だ。遠坂曰く、この森全体に結界が張られているらしい。

 それがどんな類のものなのかは兎も角、相当高度な結界だそうだ。

 何せ、遠坂にも在ることは分かっても、その効果などはさっぱり分からないらしい。

 

「メディアなら分かるんじゃないのか?」

 

「当然よ。どうやら、人除けと簡単な攻撃力を持たされ、加えて内部のものを隠匿する結界ね。

 一般人なら近付きたがらないようになるし、無理に近付けば電気ショックを受けるはずよ」

 

 おぉ、流石メディア。一目で看破するとは、流石だ。

 

「ふぅん。結界を破壊せずに通過は可能?」

 

「バレても構わないのなら、可能よ」

 

「問題ないわ。じゃ、行きましょうか」

 

 颯爽と歩き始める遠坂。しかし、そんな遠坂の前に自然とセイバーとアーチャーが出る。

 つまり先陣を二人が務め、マスターである遠坂を守っている。

 そして遠坂の後ろに俺が続き、俺の両隣がキングとメディア。後ろにバゼットが続いている。

 特に決めていた訳では無いが、結構理に適った隊列だと思う。

 やや後ろからの襲撃には弱いように見えるが、そうそう後ろからの奇襲なんてされないだろう。

 何せ、そういった感覚の鋭いセイバーも居るし、メディアも魔力の流れを掴むのが上手いからだ。

 

「そこよ。そこの木の間が、一番結界が弱くて影響を受け難いわ。

 ………………これで良し。これで結界を通過しても、静電気程度の痛みしかないわ」

 

「って、結局は電撃を喰らうのね」

 

 メディアの言葉に遠坂は苦笑する。しかし、歩みを止めず、全員が結界を潜り抜けた。

 

―――――――――轟ッ!!

 

 途端、凄まじい魔力を帯びた突風が吹き荒れた。

 これはまさかッ!?

 

「やばいわ。間違いなく、誰かが此処を襲撃してる!!」

 

 クソッ!! やっぱりか!!

 考えられるのは、やっぱりイスカンダルたちだけど……………、

 

「何ボサっとしてるのよッ!! 走るわよ!!」

 

 遠坂の言葉を皮切りに、同時に駆け出す。

 ふと、バゼットは大丈夫なんだろうか? と思い、振り返ってみる。

 

「大丈夫か、バゼット」

 

「ん、あぁ、問題ない。ミス・メディアに強化≠オてもらってるからな」

 

 え? いつの間に………というか、他人を強化するのって、相当難しいはずだぞ。

 それをあっさりとやってのけるメディアは、流石としか言いようが無い。

 

「シロウッ! サーヴァントの気配が増えました!!」

 

「何ッ!?」

 

「数は……………バーサーカーらしき気配を含めて、五体ですッ!!」

 

 なっ!? 五体だって!?

 バーサーカーに、イスカンダルに、ランサー。じゃあ、残る二人は………誰だ?

 

「二体が此方に近付いてきます!!」

 

 先頭に立っていたセイバーが急ブレーキを掛けて止まり、全員の足も自然と止まる。

 そして……………その二人は現れた。

 

「…………………」

 

「また会うことが叶ったな。セイバー、キング、そして衛宮 士郎よ」

 

『なっ!!?』

 

 現れた二体のサーヴァントは、どちらも知った顔だった。

 無言で佇む紫色の髪の美女…………ライダー。

 蒼い髪、群青の陣羽織を着た男………佐々木 小次郎。

 悠然と立っている二人だが………どうしてこの二人が一緒にいるんだ!?

 

「アサシンッ!! 貴方、どうやって此処に!?」

 

「マキリ 臓硯と契約した………ただそれだけのことだ」

 

 流麗とした振る舞いのまま、小次郎はあっさりと言う。

 なんだって臓硯なんかと……!!

 

「フッ、私が何故臓硯などという妖術師についたか分からぬようだな、衛宮士郎」

 

「あぁ、分からない。

 アンタとはちょっとしか話してないけど、臓硯の仲間になるとは思えない」

 

「ほぅ……それはまた、随分と評価されたものだ。

 しかし、その見立ては間違ってはおらぬ」

 

「じゃあ、何でッ!!?」

 

「簡単だ。臓硯は、私が欲したものを提供すると言ったのだ。

 利害の一致とでも言おうか………仲間では無いが、協力関係にある」

 

 そんな…………一体、臓硯と何の利害が一致するって言うんだ!?

 

「見損なったぞ、アサシンッ!!

 己が私欲の為に、悪しき者の手先に成り下がるとはッ!!」

 

「如何思われようとも構わぬ。私が欲するのは、強き者との闘争。

 その為なら外道に身を堕とすも一興というものだ」

 

 セイバーの裂帛の言葉にも、小次郎は柳に風とばかりにあしらう。

 そうか、見返りはセイバーたちと戦うこと。戦う為に臓硯なんかと契約したっていうのか!?

 

「さて、交わす言葉はこれまでとしよう。衛宮士郎よ、急がねば幼き少女の命は散るぞ」

 

 幼き少女? …………イリヤのことかッ!!

 

「どういうこと。臓硯は他にもサーヴァントを持ってたってこと?」

 

「それは是であり非である。今、あの巨人と戦っているのは、青き槍兵だ」

 

 青き槍兵…………多分、ランサーのことだな。

 

「衛宮君、ちょっと痛いけど戦力を分散しましょう」

 

「そうだな………それしかないか」

 

 恐らくイスカンダルが後に控えている状況で、戦力の分散は相当痛いが………仕方ないか。

 

「此処は私が引き受けます。シロウたちは先へ!」

 

「ならば私も此処を引き受けよう。凛、君は先に行くがいい」

 

 先陣に立つセイバーとアーチャーの言葉に、頷きで応じ、俺たちは小次郎たちの脇を抜ける。

 イリヤ…………無事で居てくれ…………!!

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 シロウたちの姿が、森の奥へと消えていく。

 相手はキチガイですが、恐ろしく強いイスカンダル…………私も急いで駆けつけないと。

 

「では、始めるとしよう」

 

 背負っている長刀を引き抜く、アサシン。

 刀とは日本独特の剣で、反りをもつ刀身に片刃が特徴だとシロウから聞いている。

 しかし、通常の刀は1m強なのに対して、アサシンのは目測で150cmはある。

 下手をすれば槍にも匹敵する長さ…………しかし、間合いさえ詰めれば。

 

「セイバー、あの佐々木 小次郎は任せた。私はライダーを相手する」

 

「分かりました。異論はありません」

 

 アーチャーの言葉に応じ、私は『風王結界(インビジブル・エア)』を構える。

 元々戦士では無いらしいライダーと違い、刀身の見えない風王結界(インビジブル・エア)はアサシンには有効だ。

 戦士にとって、間合いは特に重要視するものの一つ。

 それが分からないとなれば、相手もやり難いはずだ。

 

「準備は出来たか? では、死合おうか」

 

 スッ、と静かに踏み込むアサシンに対して、私は大地を踏み抜くような勢いで踏み込み、加速する。

 一足で最高速度に達し、私は一気にアサシンの間合いを侵略する。

 出来れば……………一撃で決めるッ!!

 

「剣に焦りが出ているな」

 

「…ッ!?」

 

 なッ!? 何て軽い………完全に受け流されたかッ!!

 

「今度は、此方からいくぞ!」

 

「…クッ!!」

 

 バーサーカーとはまるで違うタイプの剣技は、まるで清廉なる風を思わせる。

 何より、剣が独立した生き物のように動く軌道は………何て、美事(みごと)………。

 

「やはり見えぬ剣が相手では、間合いが掴み難いか」

 

 再び間合いが開き、アサシンはダラリと剣を下げたまま口を開く。

 私の剣が見えない状態で、これほどとは…………悔しいが、剣技では完全に負けている。

 

「しかし………負けるわけにいかない!!」

 

「良い気迫だ。己が主を守らんとする様は、実に美しいなセイバーよ」

 

 そうだ。私は負けるわけにはいかない。

 私の民を救う為に、そしてシロウを護ると誓ったのだからッ!!

 

「ハァァァァァッ!!」

 

ギィィィィィンッ!!

 

 漸く私とアサシンの剣から、金属のぶつかり合う音が響く。

 しかし、これも最初ほどではないが、完全に受け流された。

 

「クッ! 受け流してばかりか、アサシンッ!!」

 

「フッ、刀というのは存外脆い物でな。まともに剣をぶつけ合えば、半ばから折れよう」

 

 だから受け流してばかりなのか…………それにしても、やり難い!!

 

「ふむ。刀身は三尺余り、幅は四寸といったところか」

 

「なっ!?」

 

 馬鹿なッ!? たったこの程度の打ち合いで、風王結界(インビジブル・エア)を見破った!?

 

「では、そろそろ本気でいこう」

 

―――――――――ザッ

 

「なっ! はや…」
キィィィィィィン

 

 殆ど反射的に刀身を上げ、辛うじてアサシンの攻撃を防ぐ。

 先程までも充分疾かったが、今はそれを凌駕した神速!!

 

「いつまで鞘に納めたまま戦うつもりなのだ、セイバー。このままでは、私が勝つが?」

 

 過信でも、私を過小評価しているのでもない。

 このままでは、間違いなく私が負ける……だが、抜けば私の正体どころか現界すら危くなる。

 どうすれば……………、

 

「ふむ………しかたあるまい。私が先に技を見せよう」

 

―――――――――ドクンッ!

 

 鼓動が跳ね上がる。

 そして私の勘がけたたましい警鐘を鳴らす……アレは必殺であると。

 如何なる戦場に於いても、私を幾度となく救ってきた直感だ。疑う余地など、元より無い。

 

「躱せるかな?」

 

ヒュォォォォォォッ!!!

 

 神速の速さだった剣は、今、それを越えた。

 上段からの振り下ろしの一撃は、空気を切り裂き、私を脳天から両断せんと差し迫る。

 予知染みた直感により、刀を振るう一瞬前に動いた私は、右へと身を躱す。

 これで躱したは―――――――――ッ!?

 

ザシュゥゥゥゥゥッ!!!

 

「グゥッ!!」

 

「見事………。

 完全では無いとはいえ、私の秘剣を躱すとはな」

 

 有り得ない……………何だったのだ、今のは!?

 縦の軌道を描いた剣は、確かに躱した。しかし、同時に出現した横の軌道の剣が私の左腕を薙いだ。

 そうだ………アサシンの持っている剣は一つにも拘らず、私の見た剣は確かに二つ。

 二つ在るように見えたのではなく、本当に二つ在ったのだ。一連の動きに、宝具の気配は無かった。

 つまり宝具では無い。無いのだが、そんなことありえな……いや、たった一つだけある。それは……、

 

多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)………宝具ではなく、人の身で魔法の高みへ到ったというのか!?」

 

「ふむ………セイバーよ、貴殿は燕という鳥をご存知かな?」

 

 動揺する私を余所に、アサシンはあくまでも静かに問う。

 左腕を斬られたことにより、僅かに荒くなった息を整えつつ、私は沈黙を守った。

 

「ある時、私は戯れに燕を斬ろうと思った。しかし、どれだけやっても一向に斬ることは出来ない。

 何故なら燕は風を読み、剣の軌道を見切る。これではどれだけ速い剣も無意味だ。

 しかし……私はそれでも燕を斬ろうと思い、剣を振るい続けた…………」

 

 まさか………たかが燕を斬る為に、魔法と同じ剣技を得たというのか!?

 私は今、漸く思い知った。

 私の目の前に立つのは、アサシンなどではない…………佐々木 小次郎という規格外の剣士だ。

 

「敬意を表そう…………心より」

 

「ほぅ………」

 

 私は舐めていたようだ。目の前に立つ、剣技に於ける最強のサーヴァントを。

 

「今こそ全力を尽くす。我が一撃を、我が全てとせんッ!!」

 

―――――――――轟ッ!!

 

 風王結界(インビジブル・エア)を解放し、周囲に風が吹き荒れる。

 そして風の中から私の剣が現れる。

 人の幻想により生まれ、星の中で鍛え上げられた至高の聖剣こそ、我が刃!!

 

「美しい…………まるで天上に煌く太陽のようだな、セイバーよ」

 

 一撃で決めてみせ―――――――――

 

「然れど、宝具も名を呼ばねば使えぬとのこと。

 少々無粋だが、その宝具………使わせんッ!!」

 

ヒュォォォォッ!!

 

 クッ! 疾い………ッ!!

 絶対に外せない一撃の上に、私の宝具は周囲への影響が大きすぎる。

 並のサーヴァントが相手ならば、戦いながらでも考慮できたが……佐々木小次郎が相手では不可能。

 

キキィンッ!  カァン!  ザッ…

 

  シュィィィン!   シュパァァァ!

 

 ザォォォォ……   ガキィンッ!!

 

 次々と繰り出される佐々木小次郎の剣は、まさしく息も吐かせぬ猛攻だった。

 私はそれを防ぐので精一杯。もしも無理に宝具を使おうとすれば、今度こそ腕を切断されるだろう。

 両腕が健在ならば、如何にかなったが………いや、それでも無理だろう。

 

「片手が使えない状態で良くやる。

 ならば、見せよう……………我が必殺の秘剣を」

 

 クッ! タイミングが………合わせきれない!!

 

秘剣―――――

 

 私に背を向ける独特の構えは一瞬…………、

 

―――――燕返し

 

 必殺の一撃は、遂に放たれてしまった…………。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 セイバーとアーチャーに、小次郎たちを任せた俺たちは、漸くイリヤの城に到着した。

 そこで繰り広げられていたのは………、

 

■■■■■■■■―――――――ッ!!!

 

「ハッ! 流石だなバーサーカー!!」

 

 鉛色の巨人と、青き獣の死の舞踏。

 暴風の如きバーサーカーの斧剣を、突風の如きランサーの槍が捌く。

 一瞬、拮抗しているようにも見えるが………バーサーカーが押してる………。

 

「ランサーッ!!」

 

「…ッ!!」

 

 思わず叫んでしまったバゼットの声に、ランサーが反応して硬直……危ないッ!!

 

■■■■――――ッ!!

 

「しま―――――ッ!!」

 

ドガァァァァァンッ!!

 

 バーサーカーの斧剣が、ランサーを捉える。

 何とか紅い魔槍(ゲイ・ボルグ)で防いだようだが、 バーサーカーの一撃は易々とランサーを吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたランサーは、凄まじい勢いで城の外壁に叩き付けられ、倒れる………。

 

「クッ!!」

 

「バゼット、ランサーの近くに」

 

「ッ!? …………良いのか?」

 

「当たり前だろ」

 

 一応、視線を遠坂たちにも送ると、遠坂とメディアは苦笑しつつ頷き、キングは無言で頷いた。

 それらを確認して、バゼットはすまない、と呟きランサーの元へ走る。

 ランサーがバゼットを襲うことはまず無いだろうと、楽観的かもしれないが、確信している。

 だから意識は全て、戦場に向ける。……あのキチガイに向けるのは、ちょっと躊躇われるけどな。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 イスカンダルのことはミスタ・士郎に任せ、私は壁に凭れ掛かって座った彼に近付いた。

 

「ったく、久し振りだってのに………しまらねぇなぁ」

 

「君らしいじゃないか」

 

 言いたい事は色々あったはずなのに、私はランサーの軽口に応じてしまう。

 派手に吹き飛ばされた割に、傷らしい傷は何一つ無い。

 それでもランサーは壁に凭れ掛かったまま、動かなかった。

 

「躰はもう良いのか?」

 

「完治には遠いな。搾取され続けた魔力もそうだが、体力が著しく低下している。

 この聖杯戦争中に完治することはまず無いだろう」

 

「そっか、悪かったなバゼット」

 

 違う。謝らなければならないのは、私だ。

 なのにランサーが先に謝って…………私は何も言えない。

 

「もうちょっと早く助けやれれば良かったんだけどよ………言峰の奴が監視してやがって」

 

 ブツブツと言峰の文句を言い始めるランサーに、私は黙ってそれを聞くことしか出来ない。

 なんて不様な姿だ…………本当に馬鹿すぎる。

 

「あー、その何だ………シロウの奴は良くしてくれるだろ?

 魔術師とは思えねぇぐらいお人良しな奴で………ありゃあ人生損するタイプだな」

 

 終始無言の私を気遣ったのか、ランサーが突然ミスタ・士郎の話をし始める。

 私としても会話の糸口が無かったところなので、それに乗ることにした。

 

「あぁ、ミスタ・士郎には良くして貰っている。本当に、魔術師かと疑うほどにね」

 

「ミスタ・シロウ? ははっ、何だそりゃ! シロウの奴、そんな呼ばれ方してんのかよ」

 

 いきなり笑い始めるランサーに、少し安堵する自分がいる。

 馬鹿馬鹿しい………魔術師かと疑うのは、自分自身だ。

 狩人(ハンター)たる私が、サーヴァント相手に一喜一憂するなど笑い話にしかならない。

 

「可笑しいかな?」

 

「あぁ、可笑しすぎるぜ。シロウは小僧とか、坊主とか呼べば良いんだよ」

 

「それは失礼すぎるだろう。命の恩人だぞ」

 

「あー、そうだな。じゃあ、ボウヤとかいって誘惑してやれ」

 

 誘惑? 私のように男みたいな奴が誘惑しても迷惑だろうに。

 

「彼には既に可愛らしい子が何人かいるさ。私のような奴に言い寄られても迷惑だろう」

 

「シロウの周りに、良い女が揃ってるのは認めるけどよ。

 バゼット、オマエだって良い女だぜ。意志の強いところなんか、俺の好みだしな」

 

「……………君は」

 

「あ?」

 

 私は……何を言おうとしている?

 

「私に誘惑されて、嬉しいか?」

 

 私は……何を言っているんだ?

 

「………………あんま嬉しくねぇな」

 

 ―――――――フッ、私は何を落胆しているんだ。

 そんなこと、初めから分かっていたこ―――――――――

 

「俺は口説く方が好きだからな」

 

「え?」

 

「だから、俺は口説く方が好きなんだよ。逆に誘惑されんのは苦手だ」

 

 ニヤリと笑いながら言うランサーに、もう私は何も言えなかった。

 サーヴァントの言葉に一喜一憂する私…………本当に、笑い話にしかなりそうも無いな。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「やぁ、ハニー。今回は、会いたくなかったよ………」

 

 まだ一度しか会ってないが、やたらと暗いように見えるイスカンダル。

 ……………なんだろう、こっちの方がまともな筈なのに、違和感を憶えてしまう。

 

「気色悪いな…………、一体何を企んでいる」

 

「ハハッ、酷いなハニー。ただ、今回の目的に気が乗らないだけさ」

 

 目的だって………?

 

「今回の目的は、ヘブンズフィールと、イリヤスフィールの心臓の回収なんだよ」

 

『なっ!?』

 

 ヘブンズフィールが何なのかは分からないが、イリヤの心臓が目的だってッ!?

 じゃあ、イリヤを殺すっていうのかッ!!

 

「全くもって気分が乗らないよ。その子も、後五年もすれば麗しく成長するだろうに」

 

 イスカンダルが視線を向けるのは、城の門近くにいるイリヤたち。

 一人はリズで………もう一人、リズに良く似た人が居るけど……あの人がセラって人か。

 

「イリヤッ!!」

 

「シロウッ!」
「シロウ」

 

 俺の叫びに、イリヤとリズの二人が言葉を返してくれる。

 良かった…………あの様子じゃ、まだ何もされてないみたいだな。

 

「キング………」

 

「言わずとも分かっている。あのキチガイを殺せば良いのだろう?」

 

 え? いや…あれ? なんか俺が言おうとしたのより……物騒な気がするんですが。

 

「衛宮君は、イリヤスフィールの傍に行って。

 あの子に事情を話して、共闘関係を作らないと……下手したらバーサーカーにも攻撃されかねない」

 

「分かった」

 

 チラッと視線をバーサーカーに送ると、真っ赤な眼で此方を見ていた。

 ……………イリヤに近付く前に、バーサーカーに斬られそうな気がするんですが…………。

 

「やれやれ、ランサーも使えなくなった今。我輩しかやれるものは居らぬか」

 

 気分が乗らん、とばかりにブツブツ文句を言いながら槍を構えるイスカンダル。

 バーサーカーの紅眼が、イスカンダルを射抜く。

 

「ハニー、気分は乗らないが見てておくれ…………我輩の格好良い所を」

 

■■■■――――――ッ!!!

 

 それぞれの戦いの声を上げ、遂に二大英霊が激突するッ!

 

ドオオオォォォォォォンッ!!!

 

 バーサーカーの振り下ろしの一撃は、大地を砕き、土を天へと巻き上げる。

 な、何て一撃だ…………たった一振りでクレーターが出来たぞ。

 

「あぁ、もう少し綺麗にやってもらいたいな。土煙で我輩の鎧が汚れてしまうよ」

 

 え? あ、いつの間にかバーサーカーの攻撃を躱している!?

 やはり強い………キチガイだけど強い。

 

「イリヤ、大丈夫か?」

 

「う、うん……でも、アイツ何者なの?

 いきなり私たちを襲ってきて、リズとセラに嫁に来ないか? って…………」

 

 アイツ、リズたちにも言ったのかよ。

 

「時間が無いから簡単に説明するぞ。

 アイツの名はイスカンダル。征服王とか世界王とか呼ばれてるから知ってるだろ?」

 

「うん」

 

「10年前の聖杯戦争に参加していて、それからずっと現界し続けていたらしい。

 それで…………アイツのマスターは、監督役の言峰 綺礼だ」

 

「なっ!? …………聖杯戦争のルールを破ったのね」

 

 幼い容貌に怒りを映し、その瞳に冷酷な色を映す。

 

「そこでだ、俺たちと共闘を「必要ないわ」

 

 俺の言葉を途中で切り捨てて、イリヤは大人びた振る舞いで俺に向き直る。

 

「セイバーのマスター、貴方の情報を有難く頂戴致します。

 ですが、ここから先はアインツベルンの名に於いて言峰 綺礼を粛清致しますので、協力は不要です」

 

 マスターとしてのイリヤとも違う………これがアインツベルンとしてのイリヤなのか?

 

「無茶だ! あのイスカンダルは単独じゃあ危険すぎる!!」

 

「大丈夫よ、バーサーカーは強いから」

 

 ニコッと微笑むイリヤの顔は、歳相応の少女。

 クソッ! 危惧していたことが、そのまま現実になったか!

 

「見てて、シロウ。私のバーサーカーの力を」

 

 一言俺に囁き、イリヤは視線をイスカンダルと戦うバーサーカーに。

 

「バーサーカー、狂いなさい」

 

■■■■■■■■――――――ッ!!!!

 

 今までとは比べ物にならない咆哮は、大地を揺るがし、大気を震わせる。

 バーサーカーは本当に元・人間なのか!?

 全てを恐怖で引き攣らせるような咆哮なんて、聞いたことが無い。

 バーサーカーを援護しようとしていたキングや、メディアたちも凍り付いたように動きを止めているぞ。

 

「理性を代価に、全能力を上げる狂化の能力よ。

 今のでバーサーカーの能力を30%引き上げたわ」

 

 ふふん、と自慢げに語るイリヤ。

 いや、確かに自慢するだけのことはある………桁が違うんだ、バーサーカーは。

 しかし、そんなバーサーカーを前にして尚、イスカンダルは笑みを浮かべていた。

 アイツの自信は何処から来るんだ? それともキチガイだから分かってないのか?

 

「これはこれは……流石に凄まじい気配だねぇ」

 

「もう謝っても赦さないわ。やっちゃえ、バーサーカー」

 

■■■■■■――――――ッ!!!

 

 咆哮と共にバーサーカーが突進する。速い………今までも充分速かったけど、今のは更に速い。

 

「おっと」

 

ドオオオオォォォォォンッ!!!

 

 しかし、それすらも軽い調子で躱せるイスカンダルは、違いすぎる。

 暴風のように繰り出される斧剣も全て躱し続け、イスカンダルは不敵な笑みを崩さなかった。

 

「ふむ。いつまでも君のような猛獣と遊んでいる訳にもいかないし………しょうがないな」

 

 またしても目にも映らない速さでの移動………バーサーカーとの距離を開けて、一体何を?

 

「我輩の宝具の力を………見せてやろう」

 

 魔力を槍に注ぎ込んでいる? ランサーのような必殺の宝具か!?

 

王を守る、万物の兵(アレクサンドロス)

 

 イスカンダルが、魔力を注いだ槍を大地に突き刺す。

 途端、大地から次々に人影が盛り上がっていく。

 

土機像(ゴーレム)?」

 

「ふははははははは、違うな。これこそ我輩の宝具『王を守る、万物の兵(アレクサンドロス)』の効果だ!!

 魔力を槍に注ぎ、槍を突き刺したものから我輩の意のままに動く兵を作り出すのだよ!!」

 

 うわっ…………宝具の効果、全部言いやがった。

 調子が出てきたのか、キチガイっぷりがどんどん露になってきたな。

 

「さぁ往け、我が僕たちよ」

 

■■■■■■――――――ッ!!!

 

 土で出来たイスカンダルの兵たちが、次々にバーサーカーに襲い掛かる。

 しかし、力の差は歴然としている………あんな土機像(ゴーレム)なんかで………、

 

「三○無双みたいだな…………」

 

 バーサーカーが斧剣を振るうたびに、土機像(ゴーレム)が吹き飛んでいく。

 その様子は、アクションゲームの三国○双そのままだ。………現実で見ることがあるなんて驚きだが。

 ん? 可笑しい……バーサーカーがさっきから一歩も動いていない。

 それに土機像(ゴーレム)の数も、まったく減って…………そうか!!

 

「イリヤ、バーサーカーを退かせるんだ!!」

 

「む、どうしてよシロウ! バーサーカーが圧倒的に倒してるじゃない!」

 

「良く見てみろ!! 数が多すぎて、バーサーカーが全く身動きが取れなくなってるじゃないかッ!!」

 

 10………20………40………80………まだ増えるのか!?

 

「で、でも、バーサーカーは負けてないわッ!」

 

「違う、イスカンダルの目的はッ!!」

 

「退いてくれるかな」

 

ドンッ!!

 

 突然の衝撃に、俺は地面を転がっていく。

 たった一撃だが、余りにも不意の一撃だった為、躰がバラバラになった錯覚すら受ける。

 や……っぱり、そう……か。

 初めから、土機像(ゴーレム)はフェイク。バーサーカーを足止めする為のものだったんだ。

 アイツが自分から目的を明かしてたのに…………クソッ!!

 

「さて、目的のものを回収させて貰うよ。小さなお姫様(リトル・プリンセス)

 

「あ……」

 

 駄目だ、イリヤもイスカンダルの気配に呑まれていて動けない。リズとセラも同様だ。

 他だと俺が一番近いけど、イスカンダルがイリヤの心臓を抜き出す方がもっと速い。

 クソォッ!! イリヤに手を出すなぁッ!!

 

「真に残念である。我輩の趣味ではないが、これも我輩の野望の為か」

 

 俺の叫びは届かず、イスカンダルは………その狂槍を振り上げた………。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ふむ、アサシンの方はセイバーに任せ、私はライダーを請け負ったが、

 

「少々、読み違えたか………」

 

 間桐慎二がマスターのままかと思いきや、本来のマスターのところに戻ったようだな。

 筋力、敏捷は見れば分かる。恐らく耐久に関しても、ワンランクは上がったと見るべきだろう。

 荷が勝ち過ぎるとまでは言わないが、楽には勝たせて貰えないか………。

 

「如何しました、アーチャー? 貴方の実力とは、この程度なのですか」

 

「なに。急に力の上がった君に、少々動揺しただけのこと。

 君も本来のマスターに戻ったようで、気合の入りようが違うな」

 

「ッ!?」

 

 私の周囲を動くライダーから、僅かな動揺が見える。

 フッ、相手に悟られるようでは未熟だな。

 

「誤差も既に把握した。そろそろ攻めさせて貰うぞ」

 

 両手に夫婦剣・干将(かんしょう)莫耶(ばくや)を生み出し、構える。

 この陰陽剣は、私に最も適した双剣として、良く使っている。

 さて、そんな如何でもいいことはさて置き、さっさと私の役目を終えるとしよう。

 

ザッ………

 

 私は周囲を回りながら隙を待つライダーを無視して、一歩前へ出る。

 本来、私はセイバーのように突破力に任せた戦い方などしないのだが、相手がライダーでは別だ。

 元々戦士ではないライダーが相手であれば、私程度の剣技でも、

 

キキィンッ!!  カァンッ!!

 

「クッ!!」

 

 あしらうことは不可能ではない。

 しかし、予想以上の怪力だな。

 そのまま攻撃に転じるつもりだったが、それは叶わなかったか。

 

「弓兵でありながら、剣が得意なのですね…………」

 

 フッ、悔し紛れの挑発か。良いだろう、乗ってやろうでは無いか。

 

「ならば、望みどおり弓を使ってやろう」

 

 干将を真下に突き刺し、莫耶を真上に投擲する。

 そして片手に弓を、空いた手に矢を作り出し、弦を引き絞った。

 ライダーは、未だ私の周囲を高速で動き続けている。

 如何な私といえど、障害物の多いこの場所では矢を当てるのは難しい。

 しかし、初めから私はライダーを狙っては居ない。狙うのは、ライダーが移動し続けている軌道上!

 

ドドドドドドドドンッ!!!

 

「クッ!!」

 

 高速で放った矢は、八つ。

 全ては狙い通りに木に刺さり停止したが、同時にライダーの動きも一瞬だけ止める。

 当然だ。矢が目の前を過ぎれば、反射的に動きは止まる。そして、それこそが私の狙い。

 素早く足元に突き刺さった干将を引き抜き、全力でライダーに投げつける。

 しかし、驚異的な反射神経でライダーは干将を回避した。

 

「これで――――――

 

「あぁ、私の読み通りだ」

 

ドンッ!!

 

ゴフッ!!

 

ズブッ……

 

 私の読み通りにいったな。

 ライダーに莫耶が突き刺さり、次の瞬間、干将も突き刺さる。全て予定通りだ。

 

ガハッ!…………そん、な。何処か、ら……? いや、躱し……た筈なの、に」

 

「言い忘れていたが、干将莫耶には互いを引き寄せ合う特性がある」

 

 私の言葉に、ライダーは目を見開き、全てを理解した。

 弓を使ったのはライダーの動きを止め、莫耶の動きに気付かせない為のフェイク。

 そして最初に投擲した干将も、ライダーに当てるつもりは無かった。

 私の狙いは、その後の特性によって引き寄せられた莫耶。

 更には、干将も莫耶に引き寄せられて、ライダーに突き刺すのが私の狙いだったわけだ。

 

「初めから宝具でも使われれば、私が負けていたんだろうが………残念だったな」

 

 躰に突き刺さった干将莫耶が、致命傷だったのかライダーは浅い呼吸を繰り返す。

 ……………ここで始末するべきか。

 今回の聖杯戦争は私の知っているものとは大きく違う。敵となるものは少ない方が、好都合か。

 

「さらばだ、ライダー。君の命は、ここで散らせる」

 

 新たに作り出した干将を振り上げ、ライダーに止めを………、

 

秘剣―――――

 

 この声はッ!? 不味い、このままではセイバーがッ!!

 

―――――燕返し

 

「ハッ!!」

 

 持っていた干将を投擲し、必殺の一つをセイバーから逸らす。

 セイバーは………チィッ、体勢が崩れていて直ぐには動けんか!!

 しかし、私の剣ではあの秘剣を止めることなど不可能。

 ならば、その間合いからセイバーを弾き出す他無いか。

 

ザシュウウウゥゥゥゥゥッ!!!!

 

 ゴポッ…………口から大量の血が吐き出される。

 そして、同時に左腕の感覚が無い。しかし、意識自体はある。

 腕一本であの秘剣を喰らって生きていられるのだ。安い買い物か。

 

「アーチャー? あ、貴方は何をッ!?」

 

「ほぅ、感服したぞアーチャー。私の秘剣を受けて尚、生きているか」

 

 セイバーとアサシンの声に、思わず意識が遠退き掛ける。

 流石に………ダメージが大きすぎるか。

 

「アサシン………」

 

「む、その様子では手酷くやられたようだな」

 

 いつの間にか、ライダーが此方に来ていた。

 躰には夥しい血が付いているが…………チッ、傷口も大分回復しているようだな。

 

「セイバー、そしてアーチャーよ。今回は痛み分け、ということで良いかな?」

 

「アサシンッ!?」

 

「そうしてくれると助かるな」

 

「そうか………では、私は此処で退かせて貰おう」

 

 ライダーがアサシンに対して何か言っているようだが、アサシンは柳に風か。

 完全に感覚の消えた左腕が気になるが…………今回は引き分けか。やれやれ。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

やめろおおおぉぉぉッ!!!

 

 イスカンダルの槍がイリヤを突き刺そうとした瞬間、口に出たのは叫びだった。

 我ながら、よくこんな大音声が出たなとか、喉が潰れたんじゃないか? と思うほどの叫び。

 それと同時に、左手の甲から焼け付くような痛みが奔る。

 

「ハアアァァッ!!」

 

「…! おっと」

 

 一瞬黒い穴が宙に生まれ、そこから煌びやかな黄金の鎧に身を包んだキングが現れる。

 そしてそのまま何の躊躇いもなく持っていた剣を振るい、イスカンダルを牽制した。

 

「そうか……令呪」

 

 左手の甲にあるキングの令呪は、画数が減ったように白くなっていた。

 これでキングの令呪は残り一つか。…いや、そんなことは如何でも良い。

 俺にとって重要なのは、イリヤが助かったってことだ。

 

「ハァァ…………」

 

 思わず口から安堵の息が漏れる。本当に良かった………守れたんだ。

 緩みそうになる顔を全力で引き締め、立ち上がる。

 そして再びイリヤの前へ移動し、彼女を守るように立つ。

 

「キング、頼むぞ」

 

「そこの小娘を護る為というのが気に食わんが………まぁ良い。

 イスカンダルよ、今度は(ワタシ)が相手してやろう」

 

 啖呵を切るキングは、本当に凛々しくてちょっと見惚れてしまう。

 

「おぉ、マイハニー。

 何ということだ、愛する人と戦わねばならないなんて………なんて悲劇なんだ」

 

 芝居染みた動きで悲観するイスカンダルは、本当に莫迦みたいでかなり呆れてしまう。

 っと、ん? 服の袖を誰かが引っ張ってる?

 

「…………イリヤ」

 

 俺の服の袖を引っ張っていたのは、イリヤだった。

 無表情ともいえない不思議な表情で、ジッと俺を見つめてくるイリヤに、俺は訳も無く焦る。

 えっと…………どうしたんだ?

 

「どうして助けてくれたの?」

 

「え?」

 

「どうして大切な令呪まで使って、協力関係にも無い私を助けてくれたの?」

 

 いや、そんなことに理由なんて問われても困る。

 なんせ理由なんて無いんだから。けど、イリヤの瞳は答えるまで退かないことを表している。

 う〜ん、なんて答えれば………………あ、そうだ。

 

「妹を守るのは当然だろ」

 

「え?」

 

「俺はイリヤのお兄ちゃんなんだろ?」

 

 初めてイリヤに会った時や、それ以外でも時折言われたお兄ちゃん≠ニいう言葉。

 イリヤからすれば冗談だったかもしれないが、俺からすればイリヤは妹みたいな感覚が近い。

 だから妹は守るのは当然だ。俺はイリヤのお兄ちゃんなんだから。

 

「違うかな? イリヤ」

 

「………ううん、違わないよ」

 

 身長差から、俺の腰に抱きつくイリヤに、俺はちょっと困る。

 なんせキングが必死に戦っている最中だし、遠坂とメディアも頑張ってるし……俺だけ和むわけには。

 リズとセラは何やら羨ましそうにこっち見てるし………いや、イリヤを止めてくれよ。

 

―――――――――――――ゾクッ

 

 ッ!? 何だコレ……………殺気?

 けど、俺に向けられたものじゃ狙いは―――――――イリヤかッ!?

 その考えに到った瞬間、暗い森の影から漆黒の短剣が飛び出した。

 速い………ッ! まるで弾丸のような速さの短剣は、一直線にイリヤを目指している。

 イリヤ、リズ、セラの背後から投擲された短剣は、俺以外気付いて無い。

 クソッ! 俺に抱きついたままのイリヤは、突き飛ばすことも出来ない。

 だったら、こうするしかないッ!!

 

ギュゥ

 

「あ……シロウ?」

 

 イリヤの少し嬉しそうな声も、どこか遠く聞える。

 腰に居たイリヤを強く抱きしめ、イリヤを覆い被さる。これで短剣は…………。

 けど…………なんか色んな場所からの視線が非常に痛いような…………。

 

ゾプッ!!

ガ…ッハ!!

 

「シロウ!?」

 

 ア、グッ…………お、思ったよりも痛いな。

 でも、笑顔を作ってイリヤを安心させない、と。

死ね

 左肩が変だ。

死ね

 そこは確か………あの影の………

死ね

 ノイズが………奔る。

――――――――――――――――――

 

「シロウ、しっかりしてッ!!」

 

 いり……あ? あぁ、だ………めだ………ノイズが煩くて、

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「シロウ、やだ、やだやだ、しっかりしてッ!!」

 

 あぶ、ない………から。離れ、ろ!

 

ドンッ!

「きゃっ!?」

 

 壊れ、る。溢、れる? 堕ち……る。

 

アギィィィィアアァァァァ!?!?!?

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 壊れて、溢れて、堕ちていく……………。

 

 

 

GO AHEAD!

 

 

 

後書き

 

 あ〜、僅か一日で書いただけあって、なんか凄いことになってるなぁ。(汗

 多分、最速で書き上げて疲れ気味な放たれし獣です。

 今回は三者三様の思惑で、三つ巴の戦いでした。一つ辺りの戦いが薄いですが、まぁその辺はご勘弁を。

 しっかし、ランサー兄貴とバゼットが何やら甘い雰囲気。むぅ………フラグが立て難くなった。(爆死

 他は………やはりイリヤかなぁ。お兄ちゃん発言を逆手に取った、士郎のイリヤ落とし。(ぉ

 キングとイスカンダルが戦っていても、ロリっ子の魅力には敵わないのですよ。(核爆

 さて、今回はこの辺で。

 最後に士郎が物凄いことになってますが………多分生きてます。だって主人公だもん。(核爆死

 

 

 

管理人の感想


 士郎やばいなぁ、の10話です。

 原作でもここまで侵食された事はないはず。

 彼の死は心配してませんが、精神が心配ですね。


 期待したセラとの会話はありませんでしたが、見事イリヤをゲットした士郎君。

 その割に気になるリアクションとってた彼女でしたが。(笑

 無自覚ゆえか、あらゆるニーズに対応せんとするはまさしく漢。

 もうランサー兄貴もびっくりですよ。



 そのランサー兄貴はバゼット嬢とラブロマンス展開中。

 今後の展開的には切ないかも?




感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思います。

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