「ねぇ、そこの…………アンテナさん?」
「これはアンテナじゃねぇ!!」
俺はこの日、不思議な女に出会った。
彼女は……。
彼女は……
前編
4月6日金曜日。
春休み最後の平日。
9日からは最高学年になる俺は、受験勉強という
そう、伝説のペンを求めて!!
……………………嘘ですごめんなさい。
200メートル程先に、商店街入口を見ながらも俺は考える。
さすが俺。
考える葦を地で行ってるな…。
考える事は、我が母上の事だ。
まったく、人を見れば勉強しろ勉強しろと…。
この俺が勉強してないとでも思っているのか母上は……。
……。
…………。
……………………して、ないなぁ。
人には得手不得手があって、そして俺は勉学に向いてない、と。
ね?
テレビの前の君もそう思うだろう?
………思わない?
思えやゴラァ!?
…………失礼。
紳士たるこのジャントル北川ともあろう者が熱くなってしまった。
つまり私は勉学は向いてないのですよおぜうさん。
……?
おぜうさんって誰だ?
しかし、愚痴を言いたくなる気持ちも分かってくれたまえよセニョール、セニョリータ。
2年の3学期辺りから学校でも家でも、やれ受験だ、それ受験だ、ほれ受験だと言われるこの身。
いい加減ウンザリするよなぁ…。
就職する人間にとっては五月蝿いだけだ。
……いや、俺は進学するけどね?
商店街に入ってもまだ考える。既に考えるというより思い出してるだけのような気もするが……無視だ。
先々月の進路指導で石橋め、こう言いおったわ!?
『北川。このままだとお前、この県のどこの大学にも入れないぞ?』
何たる屈辱…。
この紳士北川
(ん?ジェントルではないのかだと?あれは長いから俺的脳内会議で却下されたのだ)
これ程の屈辱を受けた事は40回くらいしかないというのに……。
……結構あるな。
全然大した事無いじゃん。
大した事がないと分かったからには遊ぶか!
全然脈絡が無い気がしないでもないが無視だ。
「そうと決まればまずはゲーセンに……」
…………はい?
何処ですかここは?
何で目の前に駅がありますか?
確かに商店街を抜けて真っ直ぐ進めば駅にぶつかるんだが…。
直線距離で1キロはあるんだぞ。
考え中に1キロ以上歩いてたのか?
……そこんとこどうよ俺?
「ママ、あのお兄ちゃん何やってるの?」
「しっ!!見ちゃいけません」
お兄ちゃんで見ちゃいけません?
駅出口からこっちを見回すが俺以外に人はいない。
……俺の事かよ!!
ボケっと駅を見上げてた所為か?!
いかんいかん、早めに立ち去らねば不審者にされてしまう。
さっさと商店街に戻ってゲーセンに入らねば。
俺は、
はっはっは、ここから俺の伝説が始まるのだ。
「ねぇ、そこの…………アンテナさん?」
「これはアンテナじゃねぇ!!」
一歩踏み出した途端俺の伝説は終わった。
ってつい反応しちまったが、俺じゃないかもしれないじゃねぇか。
これじゃあ俺もアンテナって思ってるって事に…………。
いやいや、さっき見たらこっち側には俺しかいなかったし?
必然的に俺が対象だよな?
な?
誰かそうだと言ってくれぇぇぇぇ。
「アンテナじゃないなら……触角でしょうか?」
「そうそうこれで形や匂いが分かるんだ……ってちげぇよ!!」
先ほどの声の主が後ろから近づいて言ってきた。
やはり
ついノリツッコミしちまったが、これも俺の
「ふふっ、良いノリツッコミですね。芸人さんですか?」
「あんたなぁさっきから…………」
振り向いた俺は声の主を見て固まってしまった。
白い帽子に白いワンピース。
日の光を受けて光る漆黒の髪。
切れ長の目に優しそうにほころぶ唇。
完全無欠のお嬢様がそこにいた。
悪友の周りには美人が多いから、俺だって美人は見慣れてる。
彼女らに劣らず、ともすれば勝ってるかもしれない美人がいきなり目の前に現れれば、そりゃ固まるだろ?
「ふふふ」
「……はっ!あ〜、え〜」
俺は余程のアホ面晒してたのかもしれない、彼女の笑い声で我に帰り、ガラにも無く赤面して意味不明な事を口走った。
「……んんっ。で、あんたは何で俺に声かけたんだ?」
何とか異常なビートと刻む心臓を落ち着け質問。
悪友の私生活を見ている俺の心臓は、乱れても直ぐに元の心拍に戻るようになったいるのだ。
あいつの生活って心臓に悪いもんなぁ…。
「貴方の面白い髪型に惹かれたのです」
「あんたは髪型が面白ければ声かけるのか……」
「外見は重要な要素ですよ?」
「それはそうだが、普通顔とか体格とかじゃないのか?」
「貴方の髪型は声をかける価値があると思ったのだけれど……」
「それは褒められているのか?」
「少なくとも私は褒めていますよ?」
「それはアリガトウ…。じゃあな」
彼女は天然なのか故意なのか、微笑みながら喋っている。
せっかく美人と2人きりだが、これ以上話ていても意味が無さそうな…。
俺には約束の地に行くという使命もある、ここは退散だ。
それに、どっかの悪友と話しているような気分にもなってくるし……。
「お待ちになって下さい」
「ぐぇ…」
踵を帰した俺が1歩を踏み出す前に襟首を掴まれた。
「貴方に頼みたい事があるんです」
後ろから彼女が囁く。
耳に吐息が…。
「お聞き入れくださる?」
「は、はい!!」
耳に息を吹きかけられてお願いされたら断れるかだろうか?
否!
答えは否!!
男……いやさ漢なら死んでも断れん!!
そして私こと北川潤、現在17歳も漢なんですよ。
断れないだろ?
テレビの前の君なら分かってくれるよな?
彼女の頼みというのは、初めての土地であるここを案内して欲しいというものだった。
どうやら今日引っ越して着たらしい。
−CDショップ−
「随分と分かり難い場所にありますね。商売は成り立っているのかしら……」
「この店は商店街七不思議に数えられているのだ」
「他の六つは?」
「……さぁ?」
客は一人もいなかった。
ほんとに大丈夫か?
−百花屋−
「ここのイチゴサンデーが美味い………らしい」
「らしい?」
「知り合いが毎日食ってるから、美味いんじゃないかと」
「へぇ、今度食べに来ましょう」
何時もいるはずの女性陣がいなかった。
明日悪友に聞いてみよう。
−ゲームセンター−
「ここが約束の地だ」
「……?」
「こっちの話だ」
「そうですか」
格ゲーで対戦したが全敗。
何者だ?
−学校−
「ここが俺の通っている学校だ」
「それは良いですけど、ここに来る必要あったのでしょうか?」
「……無いです」
「はぁ」
一瞬視線を感じたような気がした後、悪寒に襲われた。
風邪か?
学校に行った後、日が傾いてそろそろ暗くなりそうな時間になったため案内はお開き。
彼女とは学校の前で別れた。
この学校が家までの地図に載っていたらしい。
女性と2人きりなんて初めての体験だったなぁ…。
これって所謂デートってやつじゃなかろうか?
……初体験。
良い響きだ……。
月曜に
でも何か相沢と一緒にいたような感じだったな。
あ。
名前聞くの忘れた。
後編へ
後書き
このSS、プロットだけは学生時代にあった物。
卒業制作前に、シナリオ担当するためにリーダーに見せたのですよ。
ダークじゃなきゃ良かったらしいんですがね。
ちなみに私、ダーク大嫌い。
SSにして何時かは仕上げようとは思ってました。
せっかくHP作るんだし短編くらい必要かと思って急遽作ったんですがね。
終盤になるにつれてギャグのキレが悪くなったのが反省点かな。