二つの月と星達の戦記

第4話 過去から羽ばたく翼

 

 

 

 

 

 前の戦闘から20時間が経過したエルシオール。

 ミント・ブラマンシュは、自室の端末で、情報整理をしていた。

 見ている情報は、つい先日纏めたばかりのエルシオールの物資状況。

 それと、前回の戦闘記録だ。

 

「ふぅ……やはり、ダメですわね」

 

 前回の戦闘では、ほぼ全機、機体にダメージを受けている。

 装甲を削るだけではない、内部機構にまで至った傷もあった。

 ただ、この宇宙でも、トップクラスで優秀な戦闘機である紋章機だから、問題なく飛び続ける事ができたというだけだ。

 ここまでのダメージは、この戦争が始まってから、最初に包囲網を抜ける時に受けたくらいだろう。

 その時は、こちらの5倍を越える戦力を、ルフトの指揮の下、なんとか逃げる事ができたという時だ。

 それに対し、今回の相手は、その前に戦闘があったとは言え、大型戦闘機5機だけだった。

 

 前回の戦闘は、タクトの指揮の下、不意打ちと回避ばかりだったというのに。

 勿論、こちらが回避に専念し、攻撃しなかった事で、敵の攻撃が激しくなったというのもあるだろうが、その程度では言い訳にもならない。

 

「これだけでも大問題ですのに」

 

 ミントが次ぎに見るのは、物資状況のデータ。

 前回の戦闘後の最新のデータだ。

 ムーンエンジェル隊と対等か、下手をすればそれ以上の相手が現れたというだけでも頭が痛いが、実はこちらの方が問題だった。

 前回の戦闘、タクトは、物資不足を知りながら、かなり派手な作戦をとった。

 勿論、そうせざる得ない相手だったからこそだろう。

 どうやら、タクトと、そしてフォルテは、過去にあの敵―――ヘルハウンズ隊と名乗る者達の危険性を知っていた様だった。

 その敵に関して、ミントは調べてみたのだが、エルシールに蓄積されている情報では、それらしき記録は見つからなかった。

 

 まあ、それは今は置いておこう。

 兎も角、全機生還と、突破だけを考えた、大胆な作戦は見事成功した。

 エルシールはほぼ無傷で、エンジェル隊も全員無事だったのだから。

 ただ、そんな作戦だったのにも関わらず、機体にダメージを受けてしまったのは、今後のタクトの指揮にも大きく影響する事だろう。

 

 また話が戻ってしまったが、兎も角、その作戦があったせいで、整備用の物資はもう枯渇状態だ。

 フォルテの搭乗する4番機ハッピートリガーの実弾弾薬は、殆ど空の状態にまで陥っている。

 0ではないが、ストライクバーストは使用不能で、次ぎの戦闘の前半で実弾は弾切れとなる。

 エルシールが使うミサイルも同様で、次ぎの戦闘は逃げに徹し、ミサイルを撃つとしても、牽制の為にしか使えない。

 他の紋章機にしたって、実弾弾薬に余裕はない。

 

 つまるところ、戦力は大きく削がれ、大ピンチという訳だ。

 

「仕方ありませんわね……」

 

 解決手段はある。

 少なくとも物資不足の方は。

 そうだ、物がないなら補給すればいい。

 ただそれだけの話だ。

 

「……こちらから進言するべきでしょうか?」

 

 あるのだ。

 丁度、今エルシオールが居る位置、ここトルミナ星系ならば、信用してよいと、ミントが―――いや、ミントだから、そう言わなければならない取引相手が。

 そんな事、タクトも既に調べている筈だが、前回の戦闘から1日経っても実施していない。

 

「なんでかしら? まあ、それも確かめてみましょう」

 

 ミントは、そう考え、しかしやや重い足取りで部屋を出た。

 

 

 

 

 

 本来は重要な部屋な筈なのだが、あまり使われない部屋、司令官室。

 その中で、タクトは、珍しいと言える程、長時間に渡り仕事をしていた。

 本来、この手の仕事はタクトが時間を割くべき仕事ではない。

 なのだが、そうも言ってられない。

 それに、これを考える事は、タクトのメインの仕事の方にも大きく影響する事だ。

 

 何をしているかといえば、ミント同様の物資状況の確認である。

 何故それがタクトのメインの仕事に関わるかといえば、物資は、もう補給が必須になり、補給できるアテが1つしかなく、そのアテが問題なのだ。

 

「はぁ……まあ、これ以外に方法が無い以上、仕方ない」

 

 タクトは意を決し、通信回線を開こうとした。

 その時だ。

 部屋の呼び出しアラームが鳴り、端末で、扉の外をカメラで見てみれば、ミントがそこに居た。

 今丁通信で呼び出そうとしていた相手だ。

 タクトは直ぐに扉を開く。

 

 プシュッ!

 

「ミント、丁度よかった、今呼ぼうと思っていたんだ」

 

「あら、そうですの?」

 

「ああ。

 狙った様なタイミングだった。

 うん、ここは流石と言っておこう」

 

「ふふふ、ありがとうございます」

 

 テレパスで読めるから、タイミングも計れる事を冗談として言うタクト。

 当然、このタイミングがミントの計算によるものではなく、あくまで偶然である事くらい解っている。

 ミントのテレパスもそんな長距離、高精度で読めるものではないのだから。

 

「それで、私への用件は、物資の調達に関してですね?」

 

「ああ、流石に読まれるか」

 

「ええ、私ですから、当然です」

 

 ミントであれば、テレパスなど無くとも、それくらいは予想しているだろうという意味でも言っている。

 出だしから冗談を連発する2人だが、あまり2人とも笑えていない。

 この2人らしくない、とすら言えるのは、本題の問題であろうか。

 だが、事態に猶予は無い。

 

「さて、冗談はこれくらいにしておこう」

 

「そうですわね」

 

「物資状況は知っての通りで、危機的状況だ。

 特に、継戦能力は絶たれたと言っていい。

 早急に補給が必要となった。

 よって―――ブラマンシュ商会を利用したい」

 

 ブラマンシュ商会。

 日用雑貨から戦艦までを商品として取り扱う財閥の名である。

 ミントはその経営一族の娘であり、跡取りでもある。

 そのブラマンシュ商会の支社が、ここトルミナ星系に存在しているのだ。

 

「承知しましたわ。

 私の方から連絡しましょう」

 

「すまん、頼む」

 

 この戦時下で、物資補給をするには、信用も、取り扱う商品の幅も、必要十分を満たす相手だ。

 信用の面は、こちらにミントが居るのだから、尚更である。

 しかし、それでもタクトはミントに頼むのに、決意の必要があった。

 

「すまないな、ミント」

 

「あら、なんで謝りますの?」

 

「いや……実は他にも頼みがあってな」 

 

 タクトは、ある情報を持っていたが故に、この事は頼みづらかった。

 だが、ミントは少なくとも表では快諾してくれているのだ。

 これ以上言うべき事ではなかったと、話題を切り替える事にした。

 

「あら、ほかに何かありますの?」

 

「暫くの間、クロノ・ドライブ前と直後は偵察に出て欲しい」

 

 これは実際頼もうと思っていた仕事だ。

 ミントの乗る3番機トリックマスターには円盤型のレーダーアームが搭載され、他の機体を遥かに凌ぐレーダー性能を誇る。

 更に、ミントのテレパス能力との連動もあるので、普通に人が扱う高性能レーダーよりも索敵能力は高い。

 尤も、H.A.L.Oシステムにより、ミントのテンションでは通常のレーダーよりも性能が下がる可能性があるが、ニュートラル以上のテンションならば高性能レーダーだ。

 こと、哨戒任務に関しては、ミントのトリックマスター程の適任な機体は他に無いと言える。

 当然ながら、今までもミントに哨戒任務を頼む事はあったが、基本的には無人哨戒機を使用している。

 

 だが、前回、奇襲を受けてしまっている事を考えると、少なくともクロノ・ドライブの前後は、ミントに先行して索敵をしてもらう必要があるのだ。

 

「ええ、当然の事でしょう。

 私は構いませんわ」

 

「すまないね、君にばかり負担を増やす様で」

 

「仕事ですから。

 でも、そうですね、気になさっているのでしたら、今度私のお願いもきいてくださいますか?」

 

「俺にできる事なら何なりと」

 

 実際、他のメンバーよりも仕事が多いのだ。

 給料には繁栄されているだろうが、そんな指示を出しているタクトは、指揮官として即答した。

 そうすることで、ミントのテンションを維持できるなら、という打算も何処かにはあっただろうが、ミントが読める程の表にはない。

 純粋に、ミントに苦労を掛けているという気持ちと、感謝からだ。

 

「あら、いいのですか? そんなにアッサリと。

 では、また今度、難題を用意しておきますわ」

 

「怖い事言うなよ〜。

 まあ、俺にできる事なら、大体はさせてもらうよ。

 じゃ、とりあえずブリッジに行くか」

 

「そうですわね」

 

 2人は、最初の問題である物資補給に関して、ブラマンシュ商会と連絡を取るのと、艦内に周知する為にブリッジへ移動した。

 

 

 

 

 

 それから1時間後。

 ブラマンシュ商会との交渉は実にアッサリ終わった。

 ミントが通信すると、相手側の支社長が通信に出てきて商船団を出す事が決まったのだ。

 まあ、ある意味当然の反応だろう。

 ミントの存在だけでなく、白き月に所属するエルシールが交渉相手であり、現状劣勢とはいえ、軍にも恩を売れるのだから。

 尚、ここは戦地故、当然ながら、こちらは正式に名乗っては居ないが、エルシオール自体が儀礼艦として、それなりに名を知られてしまっているので、隠すだけ無駄である。

 ミントが乗っているというだけでも、エルシオールだという事は推察される事でもある。

 余談ながら、ミントがムーンエンジェル隊所属というのは、基本的には機密事項だが、相手が相手故に隠しきれないの実情である。

 勿論、ブラマンシュ商会内でもトップシークレットだろうが。

 

 更に言えば、ブラマンシュ商会が、エルシール相手に商売をしてくれるのも、ある意味当然と言える。

 無人艦をどこぞから大量に生産し、無人兵器ばかりで勢力を広げ、交渉の余地が無いエオニア軍は、ブラマンシュ商会にとっても都合の悪い相手であろう。

 ならば、ここで物資補給という、商人ならば当たり前の仕事をして、例えエオニア軍が今後勝利したとしても、立場が悪くなりずらい事くらいはすべきだろう。

 

 と、そんな話はとりあえず置いておいて。

 ブラマンシュ商会との交渉が上手く行った事で、補給が決まり、現在必要な物資を再調査しているところだ。

 ブラマンシュ商会から、直ぐに出荷できる物資のカタログも貰ったので、それとの照らし合わせで忙しい。

 軍としての補給物資もそうだが、女性だらけのエルシオールにおいて、日用雑貨の吟味もまた大変な事である。

 しかし、ほぼ敵の勢力下と言える場所での補給になる為、合流地点と合流時間は限られている。

 ゆっくり選んでいる余裕はない。

 ただ、逆に言えば、選べる程に品揃えがよく、嬉しいほどに困っているのだ。

 それに、

 

「しかし、シャトヤーン様には感謝しないとな」

 

「全くだ。

 まさかこの時代、これ程の金塊を用意されているとはな」

 

 金の心配はほぼ無い。

 何故か、というレベルで、脱出時に月の聖母シャトヤーンが、大量の金塊を預けてくれたからだ。

 『黄金』は、人間が文明を持って以来、変わる事無く安定した価値を持つ物質である。

 勿論、金属としての『金』は、加工のし易さと、電気伝導率の高さから、電子部品には欠かせない物質というのもあるだろ。

 そう言う使われ方をし始めてから今日まで、その地位を譲っていないのは大きい。

 だが、今では、黄金よりも希少で、高値で取引されるレアメタルは多い。

 しかし、それでも、その美しさからか、黄金に対する価値は決して落ちたりはせず、常に安定した価値で取引され為、一部の金持ちはデータ化されたカネよりも、金塊で資産を管理する者も居る。

 

「白き月でも、『金』はよく使用される金属ですから、貯蔵があるのは当たり前なんですが。

 正直、私もこれ程の量は一体何処に在ったのか、不思議でした」

 

「コンテナで渡されましたし、脱出時は確認する余裕が無かったんですけど、ある程度落ち着いたときに、皆で開いときは、もう……

 エンジェル隊の方々も、ルフト准将も唖然としてらっしゃいましたよ」

 

「はははは、だろうね。

 実際俺も、データでしか見てないから、桁を間違えてるとしか思えないんだよね、実際。

 皆が在るって言うから、信用してるけど」

 

「全くだ」

 

 タクト達が金塊の存在を知ったのはつい先ほど。

 ブラマンシュ商会との連絡の際、ミントが口にした時であった。

 通信はほぼミントしか出ていなかったので、唖然としたタクトとレスターの顔が映らなくて良かったと、今更ながらに思うのだった。

 相手の支社長も相当驚いていたが。

 

 実は、黄金の存在は、今回は特に大きかった。

 先ほども述べた様に、今現在、人々は一部の開発地域を除き、ほぼデータでしかカネを使わず、紙幣が全く使えない星も珍しくない。

 タクトは、この緊急時であるし、軍のカネをある程度動かせるのだが、データ上であり、纏ったカネがポンと用意できる訳ではなく、次の予算編成時に出してもらえる、というものだ。

 だが、この戦争の顛末次第では、次の軍予算など無くなってしまい、支払いはできなくなる。

 そして、今この様な、トランスバール皇国軍が劣勢と言える状況では、信用などできる筈もあない。

 

 タクトとレスターは当初、軍内部及び、軍だから知れる情報―――その中でもスキャンダルになる裏の情報をもって、取引をしようと考えていたくらいだ。

 勿論、エオニア軍が勝利してしまえば、今のトランスバール皇国軍の内部情報など、その価値は激減するが、当然、それだけの数、質、及び勝敗に影響しずらい物を選んでいた。

 ミントが居れば、普通にカネで取引もしてくれると思うのだが、それでも切れるカードは多いほうがよい。

 例え、今後タクトにとって不利になりかねない、ブラマンシュ商会との繋がりができてしまっても、この戦争に勝利しなければ全て意味の無い事だ。

 だが、十分な量の黄金が在った事で、その出番の確率は大幅に減る事だろう。

 ブラマンシュ商会としては、残念な事だろうが。

 

 ただ、ミントにとっては、その方がよかった筈だと、タクトは考えている。

 

(後で一度会っておくか)

 

 と、そんな事を考えるタクト。

 それと同時に、思う事がある。

 

「本当に、よくこんなに都合よく黄金があったものだよ。

 助かったけど」

 

「ああ、実際不自然な量だよな」

 

 レスターにしか聞こえないように話すタクト。

 レスターも他のブリッジ要員には聞こえない様に答える。

 妙な不安をブリッジに広める事を防いでいるのだ。

 

 実際、変なのだ。

 白き月にこれ程の黄金が、取引に使い易い形で保管されていたのは。

 勿論、白き月でも金属として部品に使用するが、それで言い訳できる量ではない。

 ココやアルモは、非常時用の貯蔵だったとかそう言う風に考えているだろうが、それでも尚多い。

 何せ、枯渇状態だったミサイルなどの弾薬を含めた兵器を補充して、尚余るほどの量だ。

 大体、非常時、などという事なら、本来白き月にはそんな物は必要ないのだ。

 何故なら、白き月は、この宇宙を自由に移動できる人口の星。

 事実として、クロノ・クエイクすら耐え凌ぎ、何百年という時の中、宇宙とう闇を渡れる、完璧と言える内部循環システムを持っている。

 だから、もし、月の聖母シャトヤーンが、『非常用』と考えて貯蔵じていたのなら、それは―――

 

「まあ、直接聞いてみればいいか」

 

「そうだな、その機会もあるだろう」

 

 タクトとレスターは、とりあえずその事は考えるのを止める。

 何せ、今は非常に忙しい。

 2人とも、ブラマンシュ商会から送られてきたカタログを見るのにだ。

 勿論、2人が見ているのは兵器の類。

 この火力に乏しいエルシオールをどうにかできる物は無いかと、カタログを1から見て回っている。

 時には整備班と連絡を取り、取り付けが可能か確認しながら、リストからピックアップしていく。

 

 ただ、その中で、タクトは、あまり兵器には関係なさそうなページも開いていた。

 何かを考えながら、何かを探していた。

 

 

 

 

 

 それから更に1時間後。

 

「ふぅ……なんとか間に合ったな」

 

 とりあえず、各部署から必要な物資情報が集まり、それをブラマンシュ商会へ送信。

 2時間後に合流する予定となった。

 尚、相手側の要望で、可能な限り物資受け渡しの時間を確保して欲しいとの事で、合流後、移動しながら3時間を取っている。

 物資の受け渡しと、確認には余裕を持ちたいのはこちらとしても同じ事だ。

 勿論、敵に見つかったら、直ぐに逃げて貰う事になる。

 

 ともあれ、後は、合流まで敵に見つからない事を祈るのみだ。

 

「さって……

 ああ、そう言えば」

 

 ミント達に会おうかと思ったタクトだったが、少し気になることがあって、先ほど送信した物資の注文内容を確認する。

 タクト達はエルシオールの武装を見ていた為、集まった注文の内容をチェックする事は出来なかったのだ。

 専門分野の事に口を出す様な事はあまりしないが、少なくとも、紋章機の武装に関して、つまりは整備班が何を頼んだのかが気になった。

 

「一通りの弾薬はあったか」

 

 流石ブラマンシュ商会と言うべきか、紋章機で使う弾薬類も全て取り扱っていた。

 勿論、紋章機といえど、使っている実弾は、汎用の物であるので、特別という事もないが。

 だが、ハーベスター用のナノマシンも、トリックマスター用のフライヤーまで補給できたのは大きい。

 ただ、当然ながら、そのものが商品として在ったのではなく、限りなくそれに近い材料があり、それさえあればエルシオール内で簡単に作れてしまう、というだけである。

 それででも十分なのだが。

 

 しかし、自分でエルシオール用の武装を見ていた時も思ったが、ブラマンシュ商会はあまりに大きな企業だ。

 軍事関連も取り扱っていたのは、今回にすれば幸いな事であったが、それにしたって強力な兵器を取り扱い過ぎではないか、とタクトでも考えてしまう。

 勿論、あくまで商人である為、それを自ら使ってどうこう、という事は心配していない。

 

「ちょっと複雑な気分だ……」

 

 だが、武器を、戦艦まで扱う商人というのを、タクトはあまり快く思えない。

 軍人であり、武器をどこかから買うというのは、日常的にしている事であり、必要だとは解っていてもだ。

 

「ま、それを考えても仕方ないだろう。

 とりあえず、問題無しか……な? お?」

 

 と、その時、タクトは整備班の注文一覧の中に、他の物とは明らかに種類の違う物を発見する。

 それが1つや2つならいいし、事前に聞いていたのもあったのだが。

 

「いやいやいや……

 あー、レスター、格納庫に行ってくる」

 

「ん? ああ、行って来い。

 ついでに、暫くは大丈夫そうだから1時間くらは帰って来なくていいぞ」

 

「ああ、頼むよ」

 

 注文した武装の活用方法を練っていたレスターは、タクトに顔を向けずにそういった。

 いつものタクトの仕事だと思ったのだろう。

 勿論それも行うつもりではあるが、タクトは、今は格納庫にエンジェル隊が居ない方がいいと考えていた。 

 

 

 

 

 

 格納庫に着いたタクトは、直ぐにクレータを探した。

 そして、アッサリ見つける事ができたので、少し離れた場所で話をする事となる。

 

「クレータ班長。

 整備班としての発注に私物が混ざっているんだが?」

 

「ああ、すいません、みんな忙しくて、私物としての発注ができなかったもので。

 後で会計を分けておいて貰えないでしょうか?」

 

 実際問題として、整備班は特に、必要な物資を調査、選別する為に先の1時間は掛かりっきりだった筈だ。

 その中で、私物を注文するのに、僅かな時間で個人宛にする暇がなかったのは理解できる。

 

「ああ、それはいい。

 休み無く働かせているのは俺達だからな。

 それはいいんだ。

 外部映像メディアのプレイヤーくらいなら、経費で払ってもいいと思っている」

 

「え? 本当ですか?」

 

 前に聞いた話しで、クレータ班長はアニーズプロダクションのアイドルグループにご執心で、精神衛生維持に大いに役立っているとの事だった。

 しかし、外部メディアを再生できる機器を、脱出時に持ち込めなかった為、仕方なく整備班の休憩室で見ているのだと。

 ならば、今後も多大な苦労を掛けるであろう整備班の班長には、その再生機器の1つや2つ、経費扱いにしても問題にはならないと思っている。

 

 それだけなら、だ。

 

「が、クレータ班長。

 これはなんだね? わざわざ梱包注文までしているアニーズプロダクション系のグッツの注文の山は?」

 

「……へ?」

 

「個別で20はくだらない、細かない注文で、全部整備班として必需品で発注が掛かっている。

 いくらなんでもやりすぎだ」

 

「え、いや、ちょ、ちょっと待ってください! これ私じゃないです。

 最新のPVはちゃんと個人として出してますし、整備班の発注に混ぜてしまったものは再生機器くらいで……」

 

 慌てふためくクレータ。

 自分でも発注の一覧を見て、プレゼント用の梱包注文が掛かっているのもあり、軽く見ただけでは解らないが、プロモーションビデオやら、アルバム、人形に至るまで、多数のグッズの注文がある。

 しかも、どれも最優先で発注の必要がある物としてカテゴライズされているのだ。

 精神衛生維持は確かに必須だが、これは流石に職権乱用としか言いようが無い。

 

「しかし、君以外に誰がこんな事を」

 

「ち、違うんです、信じてください」

 

 必需品として発注している事と、その内容から、タクトはクレータ以外には居ないと思い、こうして問い詰めている。

 普段なら笑って済ませるタクトであるが、流石にある程度の罰則は必要だろうと考えている。

 緊急の補給で、こんな事を当たり前にされては、モラルが崩壊してしまう。

 しかし―――

 

「そ、それは私です!」

 

 その時だ、離れて話していたタクトとクレータの下に、整備員のメンバーがやってきていた。

 

「アルバムは私がやりました。

 どうしても必要で、でも他の人に知られたくなくて、チェックの入らない必需品に……

 申し訳ありませんでした!」

 

「プロモーションビデオは私です。

 脱出時に何も持ってこれなくて、もう気が変になりそうだったので、どうしても欲しくって。

 ごめんなさい!」

 

 と、一人一人告白する整備班のメンバー達。

 次々と話を聞いていくと、見事整備班全員での犯行という事が解った。

 共犯ではなく、個人でだ。

 

「ははは……良かったな、クレータ班長、皆仲間だぞ?」

 

 タクトはもう笑うしかない。

 他に犯人が居ることも考えたが、まさか整備班全員がアニーズプロダクション系のアイドルのファンだったとは。

 

「え、あ、はい。

 私も、全然知りませんでした」

 

「班長、今まで黙ってて申し訳ありません、私も恥ずかしくって」

 

「もう、恥ずかしがる事なんてないんですね。

 こんな近くに仲間がいるなんて」

 

 思わぬところで絆を持ち、団結を深める整備班。

 これで精神的なストレスの心配も大分減るだろう。

 

「まあ、今回はそれでいいとしよう。

 これで、もう恥ずかしがる必要もないんだから、今回みたいな注文の仕方は勘弁してくれよ」

 

 とりあえず、これのせいで必要な物の発注ができなかったという事はなさそうなので、よしとする。

 忙しさのあまり、私物を発注できなかったのは、タクトにも責任があるのだから。

 

 にしても、整備班が全員同じアイドルグループのファンというのは在り得る事なんだろうか、とか考えてしまう。

 尚、この後、その事をランファに聞いた所、『芸能人、アイドルに全く興味が無い人は少ないし、その中で特に有名で、人数も多いアイドルグループなのだから、ファンも多いから、不思議ではない』との事。

 後は、類は友を呼ぶというか、ある程度の確率で集まればこうなるのだろうか、などと思うのであった。

 

 と、そこで、タクトは良い事を思いついた。

 

「ところで、全員アニーズのファンという事だが……

 実は、俺、これでもあのプロダクションを持っている会社のお偉いさんとは知り合いでね。

 この戦争が終わったら、エルシオール艦内でくらいなコンサートを開いてもらう事は頼めるよ」

 

 艦内でくらいなら、というのは、当然白き月では無理だから、という事である。

 どこかのコンサートホールを貸しきってもいいが、そこへ整備班全員を連れて行く、つまりエルシオールから整備班が居なくなるという事態はあってはならない。

 

「本当ですか?!」

 

 知り合いというのも、その内情はあまり人に言えたものではないが、それは本当だ。

 そして、大佐としての地位と、今後築ける実績を持ってすれば、タクトならばそれくらいできるだろう。

 だから―――

 

「ああ、本当だとも。

 今後とも整備班には特に苦労を掛けるしね、それくらいはしていい。

 ただ、ちょっと仕事を頼まれて欲しいんだ。

 給料に反映できない、ちょっとした仕事を」

 

「何でもしますよ!」

 

「何でも言ってください!」

 

「リッキー君に直接会えるなら、私なんだってします!」

 

 いろいろと含んだ、普通なら警戒する様な言い方でタクトは言ったにも拘らず、凄い勢いで食いつく整備班一同。

 タクトでも計算外な程だ。

 

「じゃあ、悪いんだけど―――」

 

 まるで、小悪党の様な黒い笑みを浮かべながら、話を進めるタクト。

 これは、計画していた事。

 その報酬が少し予定外だっただけだ。

 

 

 

 

 

 次にタクトが訪れたのは格納庫からも近い射撃訓練所だ。

 当然、用があるのはフォルテで、やはりフォルテはここに居た。

 

「やあ、訓練はかどってるかい?」

 

「勿論さ。

 弾薬の補充もできるし、テンションもあがるってもんさ」

 

 前回の戦闘で2度のストライクバーストを使ったフォルテは、次の戦闘では実弾が殆ど無い状態での出撃をする事となっていた。

 暫くそんな状態が続く事を考えて、今後の戦い方を考えていたフォルテとしては、憂いがなくなって、よほど嬉しいのだろう。

 

「ところで、今回の補給に使う相手だけど。

 ミントから言い出した事かい?」

 

「半分はね。

 俺が呼ぶ前に、自分から来たくらいだったし」

 

「そうかい。

 まあ、この状況じゃ仕方ない事か」

 

 どうやら、フォルテにとっては、ミントが今回、ブラマンシュ商会を使う事を決めたのが意外だったらしい。

 という事は、フォルテも、タクトが知っている程度か、それ以上に、あの情報は知っているのだろう。

 いや、むしろ傍に居た仲間なのだから、タクト以上に知っているのは当然の事だ。

 

「俺も、情報として知っていたから、本当は使いたくなかったんだけどね」

 

「やっぱり、知ってたのか。

 昨日の時点で言い出さなかったから、ここいらのブラマンシュ商会の支社がある事を知らないのかと思ってたよ。

 ……まあ、ミントのアレは、正直、私にとっちゃ、唯一ミントについてはっきりと解っている心情なんだけど。

 私には、『なんとなく』でしか解らない感情だけど」

 

 フォルテは、エンジェル隊のリーダーだ。

 その中、ミントは全員と1歩距離を置いて接している為、リーダーのフォルテでも、ミントについては掴めていない部分が多いのだろう。

 そして、唯一掴めている部分にしても、フォルテの出生と経歴の関係で、理解したくても、理解できない物である。

 

「俺は……実のところ、良く解る。

 嫌と言うほどに。

 だからこそ、今回ブラマンシュ商会は使いたくなかった」

 

「そうかい。

 司令官殿には解るのかい。

 そこは、羨むべきところかね」

 

「いや、こんなもの、いっそ解らない方が幸せさ……」

 

「そうかい」

 

 フォルテは、それ以上は何も言わない。

 きっと、ミントにもそうしてきた様に、下手な気遣い程は無駄になると判断しての事だろう。

 それは、タクトにとってもありがたい対応だった。

  

「ところで、頼んだ物は注文しておいてくれた?」

 

 そこで、タクトは話題を変える。

 実は、こちらがタクトにとっては本題だ。

 

「ああ、火薬を少し余分に。

 しかも、他人が見ても怪しまれない程度に頼んでおいたよ。

 アレなら、よっぽど私の事を理解しつつ、火薬の知識がないと解らないさ」

 

 フォルテの持っている火薬を使うのは、前々から言っていた事だが、今回発注のついでに、タクトが計画しているものを為に余分に取り寄せたのだ。

 今回の物資補給では、エルシオール用と紋章機用を含めた、兵装の発注をしているのだが、それでも尚、タクトは念には念を入れ、あくまでフォルテの趣味の影に隠した。

 

「代金は後でまわすよ」

 

「ああ。

 ところで、そろそろ何に使うか教えてくれないのかい?」

 

「それを言いにきたんだよ」

 

 実は、フォルテに頼んでいるのは、趣味の影に隠すという理由だけではない。

 

「これを作ってもらいたいんだ。

 完成後、整備班と設置も協力して欲しい」

 

 タクトが渡したのは紙面の設計書だ。

 今時紙媒体でデータを渡すなど、滅多に無い事だが、理由によってはまだ行われる。

 例えば、儀礼的な意味がある時とか、万が一にもハッキングされて見られない様に、などだ。

 紙は、燃やしてしまえば、もう証拠は残らないが、データでは完全に消去する事は難しいのだ。

 

「これは……」

 

 その設計書に書かれている物は、フォルテなら作れるものだ。

 だが、一度も作った事はない、作りたいと思った事のない物。

 

「嫌な思い出もあるかもしれないが、必要でね」

 

「ああ、それはいいが、これ、本気で艦内に?」

 

「当然、安全は最大に考える。

 逆に言えば、何処に設置したかはこちらが把握できるから、撤去も確実だしね」

 

「まあ、そうだろうね」

 

「こんな策しか思いつかなかったのさ。

 もしもの時の備えとしては」

 

「確かに、有効ではあるだろうが……

 これだけじゃないんだろう? これじゃあ数が少なすぎるしね」

 

「勿論さ。

 トラップってのは何重にも仕掛けるものだからね」

 

「ふふふ、怖いねぇ」 

 

 含みのある笑みを浮かべる2人。

 ただ、2人とも、目は全く笑っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 計画を今できる限りは進め終えたタクトは、一度トイレで顔を洗って再び本職へと戻る。

 エンジェル隊の司令官としての顔である。

 まず立ち寄ったのは、位置的に近かった事から医務室のヴァニラのところだ。

 

「やあ、ヴァニラ、ケーラ先生。

 発注の方は問題なかった?」

 

「あら、マイヤーズ司令。

 ええ、問題なかったですよ。

 事前に足りない薬品類はチェックできてましたし」

 

「はい。

 ブラマンシュ商会の取り扱い製品で、全て補う事も可能でした。

 私のナノマシンも補充できました」

 

「そうか」

 

 ナノマシンペットの外見は、そのままナノマシンの量に比例する筈である。

 タクトが見た感じでは、減っているとは感じられないのだが、ヴァニラが減っていたというのならば減っていたのだろう。

 同じ無表情で解りにくいが、補充ができるという事で、ヴァニラは安心している様子だ。

 

「ところで、2人は何か私物とか頼んだの?」

 

 ついでなので、そんな事も聞いていみる。

 整備班などと違って、ある程度余裕があったと思われるが、それでも重要な医療品の発注だ。

 私物を頼む暇があったかは、少し気になるところである。

 

「私物というと、そうね、コーヒーなんかを頼んだけど」

 

「コーヒー?

 ああ、ここで淹れているやつですか?」

 

 タクトも飲んだ事があるが、主にヴァニラが淹れているコーヒーがある。

 それなりに良い豆を使っているコーヒーで、ヴァニラの淹れ方もあって、かなり良いコーヒーだ。

 

「ええ、それ、医療品と混ぜちゃったのよね。

 後で修正しておくけど」

 

「ああ、それならいいですよ。

 ここへ来る人にも出してるんでしょう? ケーラ先生がカウンセリングもしている事を考えれば、経費で落としますよ」

 

「あら本当? 今回まとめ買いしちゃったんだけど、助かるわ」

 

「いえいえ、何か言われた俺の方に回してください。

 で、そういった医務室で使う物じゃなくて、自分達の私物って見てる暇ありました?」

 

「自分達の? マイヤーズ司令、女性にそう言うことを聞くのはどうかと思いますよ?」

 

「あー、いや、そう言う意味じゃなく手ですね……」

 

 確かに、女性のプライベートに立ち入る事となる質問だ。

 やや迂闊だったかと反省するが、心配だったのだから勘弁して欲しいところである。

 尤も、ケーラも解っているから、冗談口調である。

 

「でもそうですね。

 ヴァニラの新しい服を見るくらいの時間はありましたよ。

 後、趣味で毛糸を頼みましたね。

 その他は秘密です」

 

「ヴァニラの服ですか?」

 

 敢えて答えた中に、なかなか興味深いものがあった。

 

「ケーラ先生、衣料品を見ているのは知ってましたが、ご自分のを見ているものと思っていました」

 

 ヴァニラは、驚きと戸惑いの反応を見せる。

 尤も、やはり無表情のままで、外見的には解らないが。

 

「ええ、この子のクローゼットはそれは、もう悲惨な事になってますから」

 

 そんな事をわざわざ言うのだから、ケーラはタクトに何かをさせたいのだろう。

 それくらいは、タクトでも察する事ができる。

 

「毛糸は、何かを編むんですか?」

 

「ええ、趣味で編み物をやっているのよ。

 ヴァニラにも何か編んであげるからね」

 

「そんな、私なんかに……」

 

 ヴァニラはただ戸惑うだけだった。

 それにしても、毛糸の手編みなど、なかなか珍しい趣味と言える。

 宇宙にまで出る時代でも―――いや、だからこそ、と言えるだろう。

 こういった技術は、積極的に保存される。

 ただ、実行する人は極めて少ない。

 

(懐かしいな……)

 

 嘗て、そういった事を趣味としていた人を、タクトは1人だけ知っている。

 今はもう、思い出の中にしかいないが―――

 タクトは、一瞬、思い出に耽るが、直ぐに今目の前にいる子のことを意識を戻す。

 

「じゃあ、ヴァニラ。

 この戦争が終わったら、それを着て何処かに出かけよう。

 記録見たけど、休日もろくに消化してないみたいじゃないか」

 

「え? しかし……」

 

「あら、いいわね〜。

 ヴァニラ、いい機会だから、連れ出してもらいなさい」

 

 半ば保護者の承認も得た。

 見れば、ケーラもなかなか楽しそうだ。

 

 尚、当然ながら、ヴァニラはエンジェル隊として、ロストテクノロジー探索の為、広い宇宙を飛びまわっていた。

 だから、外の世界を知らないと言う訳ではない。

 それに、医療に携わっているから、人との触れあいが無かった訳でもない。

 しかし、それでも、全て仕事上での話しでしかない。

 仕事上ではダメだという事ではないが、それでも、きっと足りてない部分がある。

 ヴァニラの年齢を考えれば、それは当然されるべき心配だ。

 

「ヴァニラ、君は一度見て回るといい。

 この戦争、何が奪われ、君達が、何を護れたのか。

 それを確認できれば、君はもっと成長できるよ」

 

「……そういうものでしょうか」

 

「ああ」

 

 ヴァニラは、良く解らないという顔をしていた。

 やはり、そう勧められた経験もあまりないのだろう。

 後にエンジェル隊のメンバーにも確認したが、休暇も殆ど医務室の手伝いなどをしていた。

 エンジェル隊のメンバーが連れ出す事もあったらしいが、それも稀だったとの事だ。

 

 とりあえず、今日のところは、この口約束だけを交わしておく事にする。

 出かける先などを決めるのは、まだ早いだろう。

 

 

 

 

 

 

 続いて、タクトはトレーニングルームを訪れる。

 やはり、と言うべきか、トレーニングルームではランファが鍛錬に勤しんでいた。

 

「やあランファ、精が出るね」

 

「あらタクト。

 なんかその言い方年寄りくさいわよ」

 

「え? そう?

 まあ、それは兎も角。

 どう、発注とか問題なくやれた?」

 

 とりあえず、真っ先に聞く事はこれだ。

 一応全員に聞くつもりでいる。

 

「ええ、なんとかね。

 私とミルフィーは食料の発注を手伝ってたけど、食堂のおばちゃん達がちゃんと纏めててくれたから、わりとすんなり終わったわ」

 

「そうか、食事は大切だからね。

 問題なく発注できてよかったよ」

 

 食料、こと食堂で出す食事に使う調味料を含めた食材となると、その量と種類は相当なものになる。

 整備班も、整備で使う道具から部品、それこそネジ一本レベルになるから相当なものだが、食料の発注も相当大変だった筈だ。

 本来、どちらも1時間などという短時間で済ませられるものではない。

 

「私物とかもちゃんと頼めた?」

 

「なんとかね。

 流石に雑誌とかを過去に遡って発注する暇はなかったけど。

 必要なものは頼めたわ」

 

「雑誌かぁ。

 それは宇宙コンビニとかでは取り扱ってないの?」

 

 雑誌の類は、今でも尚、紙に印刷された物が多い。

 PDAでも読むデータだけの購入もあるが、それでも、印刷された雑誌は一定の需要がある。

 宇宙船内となると、雑誌を大量に扱う場合、古くなった物を再生紙として、それに最新のデータを印刷するという手法が用いられている。

 つまり、販売する場合、販売店がデータを持っており、印刷して、売っているのだ。

 よって、多少古い物でも、データだけは持っている可能性があり、頼めば印刷してくれる事もある。

 

 今現在は戦時中で、そう言った商業用データの送受信も、敵に位置を報せる様なものなので、基本的に行っていない。

 だが、今回の補給で、そう言ったデータの更新も行われる筈である。

 

「取り扱ってないのよ。

 流石に、こんな時に、特別に発注してるとも思えないし、まあ、別の機会にしておくわ」

 

「そうか、悪いね」

 

「いいわよ、アンタが悪い訳じゃないし。

 ところで、やっぱりアンタもクールダラス副司令も忙しいの?

 全然、ここを使ってる様子がないけど」

 

 そう言えば、思い出してみると、タクトはここに寄ることはあっても、利用はした事はない。

 レスターに至っては来た事すらないかもしれない。

 タクトにしろレスターにしろ、軍人で、タクトは素手と銃、レスターはフェンシング等の剣技を得意しており、いざと言う時の戦闘力を維持する為には利用しておかなければならない筈だ。

 そうでなくとも、適度な運動というのは、健康維持の為にも必要不可欠なものなので、ここを利用しないクルーは居ない筈である。

 

「流石に今の状況だとね。

 まあ、もう少し落ち着いたら、使うと思うよ」

 

「そう。

 まあ、忙しいのは解るけど。

 あんまり腕を鈍らせない様にしなさいよ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 気遣ってきたつもりが、心配されてしまった。

 そうならない様にしておかなければと、いろいろ考えつつも、タクトはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 続いて、タクトはミルフィーユの部屋まで来た。

 

「あら、タクトさん、どうしたんですか?」

 

「ああ、ランファから食堂で食料の発注を手伝ってたって聞いて。

 自分の物は頼めたのかと思って」

 

「大丈夫ですよ。

 私が欲しかったのは、お菓子の材料が殆どでしたから。

 食堂で手伝っていた方が、頼む時、ついでに自分用として注文できますし」

 

「なるほどね」

 

「あ、届いたらまたお菓子焼きますから、一緒に食べましょうね」

 

「そりゃ楽しみだ」

 

 ミルフィーの料理は、エンジェル隊全体のテンションに影響する。

 その材料となれば、必要経費として支給したいくらいであるが、ミルフィーユにはそんな事を言わない方がいいだろう。

 これからも、変わらぬミルフィーユで居てもらう為にも。

 

 話して解ったが、急な発注作業の直後でありながら、ミルフィーユは特にテンションの低下がみられない。

 それどころか、物資が入るという期待でテンションが上がっている。

 ヴァニラ、ランファ、フォルテも元々下がっていると言うほどではなかったが、やはり自己管理は全員できていると言う事だろう。

 しかし、1名、今回はそうも言えない人物が居る。

 

「ところでミント見なかったかな」

 

 タクトはここに来る途中、ラウンジを覗いて見たが、ミントは居なかった。

 他にも一通り見たが、その姿を見つける事はできなかった。

 

「ミントですか? 部屋に居るんじゃないでしょうか」

 

「そうか、ありがとう」

 

 何処にもいないとなると、やはりそうなるだろう。

 タクトもそう思っていたが、一応ミルフィーユに尋ねておきたかったのだ。

 タクトは、ミルフィーユと別れ、ミントの部屋へと移動した。

 

 

 

 

 ミントの部屋の前まで来たタクト。

 とは言っても、ミルフィーユの部屋からすぐ近くであるが。

 で、着いたはいいのだが、タクトは扉の前で動きを止めていた。

 

(どうしたものかな。

 寝ている可能性もあるしな)

 

 先の発注の際には、ブラマンシュ商会と連絡、内部の注文の調整を中心となってやっており、タクトやレスターよりも疲労している筈だ。

 それに、心労も大きかっただろうと、タクトは考えている。

 だからこそ、気遣っておきたいのだが、もし寝ていた場合、今起こしては逆効果になりかねない。

 

「どうすっかな〜」

 

 悩むこと1分程。

 

 プシュッ!

 

 目の前の扉が、勝手に開いた。

 

「寝てませんから、大丈夫ですわよ」

 

 勿論、開けたのは中にいたミントだ。

 

「あ、ごめん、ミントにとっちゃ、独り言を言われているのと同じだったか」

 

 部屋の中から扉の前までなら、十分にテレパスの有効範囲内だ。

 扉という物理的な障壁があるから失念していたが、テレパス能力に金属の扉程度の障害は意味がない、との情報である。

 となれば、ミントから見れば、扉の前まできて、ブツブツと悩んでいるヤツ、という風に見えていただろう。

 テレパスが使え、相手が何かを考えていれば、そこに居るのも解るのだから。

 

「お茶にしようとしたところですから、一緒にいかがですか?」

 

「あ、部屋入っていいの?」

 

「ええ、かまいませんわ。

 タクトさんの期待している様な物はありませんけど」

 

「え? 今なんか反射的に考えてた?」

 

「ふふふ、どうでしょうね」

 

 そんな冗談を交わしながら、タクトはミントの部屋へと入る。

 部屋は、全体的に落ち着いた感じになっている。

 財閥のご令嬢という肩書きから連想できる様な、きらびやかな装飾はなく、質素と言える類レベルだ。

 尤も、配置されている家具の値段は、タクトの鑑定眼程度では高いか安いかの区別はつかないので、実際のところどうかは解らない。

 変わったところといえば、部屋の奥に、大きなぬいぐるみがある程度だろう。

 

「さ、どうぞ」

 

「ありがとう。

 って、ジュースと、駄菓子か。

 ある意味、らしいと言った所だね」

 

「趣味ですから」

 

「おお、しかもこれは、ギャラクシーペッパー・ブルー。

 その名の通り、目の覚めるような青の炭酸飲料として一部では大人気。

 しかし、元々このシリーズは好き嫌いが綺麗に分かれていた上に、見た目が毒々しいという事で、取り扱う店が少ない希少品だ」

 

「お分かりになりますの?」

 

「当然さ。

 俺はこのシリーズは好きだし、一通りは飲んだ事あるよ。

 と言っても、あんまり手に入らないんで、最近は飲んでなかったんだけど」

 

「よかったですわ、これ、嫌いな方もいますし。

 用意していたのがこれしかなかったので、出してしまいましたけど」

 

「そうだよね、レスターなんかは嫌いだよ」

 

「エンジェル隊でも、ランファさんは毛嫌いしてらっしゃいますね。

 フォルテさんとミルフィーユさんは微妙な顔をします。

 ヴァニラさんは感想をくださいませんし、孤立無援でした」

 

「大丈夫さ、この飲料のファンは多いから、君は間違ってないさ」

 

「そうですわよね」

 

 などと、出された飲み物だけで、大いに盛り上がる2人。

 狙った訳ではなく、タクトとしても、大助かりの展開となった。

 

「本当に、タクトさんは変わってますわね。

 軍の大佐で、辺境とは言え、部隊の指揮官ともあろう方が、私とこの趣味で話し合えるなんて」

 

「それに関しては、財閥ご令嬢の君がいえたことではないだろう。

 まあ、反動ってもんさ。

 きっと、互いにね」

 

「そう言うものでしょうかね」

 

 和やかな雰囲気で会話が進む。

 このままでいてくれれば、タクトとしては何もいう事はなかった。

 しかし、意外にも、この流れを断ち切ったのはミントの方からだった。

 

「ところで、タクトさんは、随分と今回私の事を心配してくださいますが、どうしてですの?」

 

「それは……」

 

 今回、交渉相手はブラマンシュ商会である事を考えれば、家との繋がりを利用したとは言え、商売であるので、悪い話でもなかった。

 ミントへの気遣いは必要だろうが、それでも、タクトは妙に気を使いすぎていると言える。

 他のエンジェル隊やブリッジメンバーにも、そんな様子は見せていないが、ミントには隠しようもない。

 タクトは、どう答えようかと一瞬考えたが、それもミントの前では無駄な事だと気付く。

 

「悪いとは思ったが、君が家を、父親を嫌っているという情報を耳にしてね」

 

「あら、この気の使い様、そうではないかと思っていましたが、やはりそうですか」

 

「ああ」

 

 ミントは実家との折り合いが悪い。

 ミントに関する情報で、プライベートに関わる情報だ。

 持っているという事自体を隠しておきたかったくらいである。

 

「でも、別に今回は父と直接話をした訳ではありませんから。

 そこまで気になさらなくても」

 

「それでも。

 俺ならきっと、父に連なる全てと関わりを絶っておきたいと思うだろう。

 俺には、それが不可能だったけど」

 

 タクトは思う。

 自分がミントの立場だったら、上官に言われて、同じ様に振舞えただろうかと。

 そうせざる得ない状況というのがあったから、そうしても、ならばその後、どんな気分になるかと。

 その結果が、ミントへのこうした気遣いとなっているのだ。

 

「え? それって―――」

 

 だが、今の言葉。

 元々隠せないとは言え、非常に重要な内容であった。

 ミントは、思わずそれに対して追求しようとした。

 その時だ、

 

『タクト、後1時間で商船との合流時間だぞ、一度ブリッジに戻ってこい』

 

 レスターからの通信で会話が途切れる。

 

「解った、直ぐ戻るよ。

 あ、ミントすまないが……あー、いや……」

 

 会話が途切れ、軍の任務へと思考が戻る。

 その時、ミントには先行して周囲の警戒をしてもらおうと考えた。

 そう、考えてしまった。

 ミントには休んでいてもらおうと、そう考えるよりも速く。

 

「いいですわよ。

 こんな時は、紋章機で宇宙を飛んだ方が気分も晴れますから」

 

「そうか、すまない。

 じゃあ、ミント、改めて、先行し、合流ポイントの警戒を頼む」

 

「了解しました」

 

 ミントと一緒に部屋を出て、直ぐに別れる。

 ブリッジに向かうタクトと、格納庫に向かうミント。

 

 ある程度距離が離れた所で、改めてタクトは思う。

 レスターの通信は、本当に助かったと。

 危うく、エンジェル隊には―――いや、誰にも知られては過去の1つが、ミントに知られてしまうところだった。

 あの男の事を明確にイメージしてしまう所だった。

 

 そう考え、改めて『あの男』の事を思い出し、タクトは移動中、一人自分を落ち着かせるのに忙しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミントが偵察に出てから30分後。

 合流まで後20分という時間となった。

 

「少し早く着いてしまうか」

 

「何事も無く順調だったからな」

 

 いつも通りに会話している様で、実はタクトもレスターもやや緊張している。

 敵勢力下での民間船との合流という事もあり、ブリッジでは索敵に余念がない。

 こちらから敵を引き連れてきて、民間船が巻き込まれた、などという事態だけは避けなければならない。

 

「ミント、そっちはどうだい?」

 

『今のところ異常はありませんわ』

 

「そうか」

 

 因みに、現在他のエンジェル隊は格納庫待機となっている。

 この位置、商船を巻き込むかもしれない位置での敵に遭遇した場合、速やかに排除する為と、商船側が敵を引き連れてきた場合、速やかに救助する為だ。

 どちらにしろ、このエルシオールは勿論、商船を護る為、積まれている補給物資を護る為の待機になる。

 

「さて、補給完了まで平穏なままいってくれるかな……」

 

 願う様に、そう呟いたその時だった。

 

『タクトさん、3番機、商船団をレーダーに捉えました』

 

 どうやら、あちら側もやや早く到着してしまったらしく、トリックマスターのレーダー範囲に入るくらい近づいた様だ。

 ともあれ、レーダーに捉えられたという事は、商船団は途中で敵に撃墜された、という事態にはならずに済んだという事だ。

 しかし、

 

『タクトさん! 商船団の背後に敵影! 無人艦隊です! 数、少なくとも5です』

 

「エンジェル隊、全機出撃!

 ミント、悪いが先行してくれ。

 無茶はしなくていい、攪乱して時間を稼いでくれ」

 

『了解しました!』

 

『格納庫、エンジェル隊1番機、2番機、4番機、5番機、出るよ!』

 

「細かい指示は追って出す、とりあえずは距離を詰めてくれ。

 エルシオールも全速前進! ココ、急いで敵勢力分析を」

 

「了解、エルシオール、進路そのまま、全速前進」

 

「データ、3番機トリックマスターから受信、解析します」

 

 事前に予測していた事である為、現場に混乱は無い。

 しかし、緊張は高まる。

 物資補給の為もある。

 しかし、実のところ、誰かを護りながらエルシオールで戦うというのは、これが初めての事なのだ。

 

 

 

 

 

 先行する3番機トリックマスターは、全速で商船団の背後に迫る敵に向かっていた。

 

「こちらムーンエンジェル隊ミント・ブラマンシュです。

 聞こえますか」

 

『ミ、ミントお嬢様! て、て、敵が!』

 

「落ち着いてください。

 あと30秒でそちらに到着します。

 私が敵を食い止めますから、貴方達は全速でこのポイントへ向かってください」

 

『りょ、了解しました』

 

 敵に追われる事など初めてなのだろう、商船団の艦長は若干取り乱していた。

 とは言え、ある程度の訓練はしているし、その覚悟も持っていた出てきたから、対応に問題はない。

 ミントが伝えた、タクトの指示によるポイントへ、速やかに全速移動を開始する。

 

(それにしても、このポイントって、エルシオールの背後?)

 

 ミントは、確認こそしたもの、深く考えずに商船団にポイントを指示したが、進路上、エルシオールの方向へ逃げる事になる。

 他に安全を確保できるポイントが無いとは言え、商船団を戦闘に巻き込まない為には、エルシオールが盾になるという形にならざるを得ない。

 

『タクト、このポイントだと、エルシオールの後ろじゃないか。

 大丈夫なのかい?』

 

 通信から、ミントの疑問に答える様に、フォルテがタクトに尋ねる。

 ミントの疑問、というよりも、当然思う疑問だろう。

 なにせ、エルシオールには、この戦争の勝敗そのものと言える人物が居るのだ。

 エルシオールは、何をおいても死守せねばならない。

 

 だが、

 

『戦闘は基本君達に任せて、エルシオールが最前線に出す事はないが、エルシオールは商船団の盾となる。

 自分達で呼んだ民間人だ。

 安全は確実に護らねば『軍』の威厳は地に落ちる。

 それに、ここで補給ができないとなれば、俺達の敗北はほぼ確定してしまうしな』

 

 確かに正論だ。

 いかにエルシオールに重要人物が居るにしろ、目の前の民間人を見捨てたとあっては、今後の政治にも大きく影響するだろう。

 そして、この商船団の積荷を考えれば、確保しなければ継戦能力が失われ、降伏せざる得ない状況に陥る事となってしまう。

 だから、それは正しい。

 それだけで十分に理由となる。

 

 しかし、タクトは更に続けた。

 

『何より、これ以上、我等の前で、力無き人が犠牲になるのは耐えられない。

 エンジェル隊、君達の力、その本来の意味をここに示せ!』

 

 ミントは、タクトを、計算高い人だと思っていた。

 天然の様でいて、全てを計算して喋る人だと。

 だからこれも、指揮の為の演出だろうか。

 いや、トリックマスターのレーダー機能はミントのテレパスによって運用され、H.A.L.Oシステムによって能力を増幅できる。

 つまり、トリックマスターに乗り、テンションが一定以上の数値であれば、ミントのテレパスが増幅されるという事だ。

 流石に増幅された能力では、タクトの心を細かく読む事はできない。

 だが、それでも、それが計算によるものではなく、本能の様に自然に出た言葉である事が解る。

 

『了解!』

 

 他のエンジェル隊も、タクトの言葉が伝わったのか、テンションが高揚しているのがミントにも解る。

 

「でも―――皆さんの仕事、あまり無いかもしれませんわね」

 

 ミントは、自分も気分が高揚していることを自覚する。

 自覚しながら、それを鎮め様とはまるで思えない。

 こんな気分は、初めてかもしれない。

 

「いきますわ」

 

 ミントはスロットル全開で前へ出る。

 程なく、商船団を通り過ぎ、後方についていた敵を肉眼で確認する事となる。

 数は10隻。

 駆逐艦5、巡洋艦5の部隊。

 巡洋艦3隻がほぼ横一列にならび、その後ろに駆逐艦3、更に後ろに巡洋艦1、駆逐艦2の3隻の3列に加え、1隻の巡洋艦がかなり後方に遅れてついてきている、という形になっている。

 若干数が多いが、エンジェル隊ならば問題ない数と言える。

 全機揃っていれば、の話だが。

 

 今ミントは単機で先行しており、後方には護るべき民間人がいる。

 ブラマンシュの船は、それなりに足がある方なので、ミントを完全に無視しない限りは、このまま逃げ切る事ができるだろう。

 それに、他のエンジェル隊も2分もあれば追いつく筈だ。

 だから、ミントは攪乱だけをしておけばいいのだが―――

 

「いきなさい!」

 

 フライヤー3基が最前列、中央の巡洋艦にレーザーを発射する。

 小型の独立した機体であるフライヤーは1機の攻撃力は低く、射程も短い。

 しかし、3基の同時砲撃、それもピンポイント集中、拡散と使い分ける事で、効果的なダメージを与える事ができる。

 

 だが、その間にも、3隻からのミサイルとレーザーの雨がトリックマスターを襲う。

 ムーブの機能で、変幻自在の飛行を可能とするトリックマスターだが、飽和攻撃を回避する事はできない。

 カンフーファイターなら、自慢のスピードで振り切るかもしれないがトリックマスターでは、そうはいかない。

 だが、その代わり、トリックマスターには、別の回避手段がある。

 

「もう見飽きましたわ、無人艦の砲撃など」

 

 嫌な事ではあるが、ここへ来るまで、何度も実戦を潜り抜けてきた事で、ミントも戦いには慣れている。

 それと同時に、無人艦のデータも集まりつつある。

 そうなれば、活躍するのがトリックマスターに搭載されるECM(電子対策)発生装置だ。

 高出力のジャミングが、誘導される筈のミサイルの軌道を狂わせ、無人艦のレーダーをも欺く為、狙った筈のレーザーも当たらない。

 当然、無人艦側にもECCM(対電子対策)装置はあるが、ハイテンション状態のミントが乗るトリックマスターの前では、たいした意味を成さない。

 勿論、ECM効果範囲は、どんなにハイテンションでも戦域全体をカバーしきれる訳ではないが、今単機で戦うミントには関係の無い事だ。

 

「その構造も、もう見切ってますのよ」

 

 フライヤーのレーザーが正確に無人艦の砲門と機関部を破壊していく。

 全速で無人艦の上面を通り過ぎながらも、尚レーザー照射は止まらない。

 フライヤーでの攻撃は、トリックマスターの向きは関係ない。

 真下にいる時も、真後ろにいる時も、最善の攻撃が続けられる。

 

「1隻撃墜しましたわ」

 

 トリックマスターの真後ろで、大きな爆発が起きる。

 巡洋艦の1隻が落ちたのだ。

 

「さあ、続けてまいりますわよ」

 

 最前列を通し過ぎ、前には2列目の駆逐艦3隻が見えるが、まだ距離があり、相手の射程に入っていない。

 ミントはそこから旋回し、最前列の残り2隻の後ろにつく。

 一方、無人艦は、どうやら商船団か、もしくはエルシオールを狙っているらしく、ミントをほぼ無視して直進している。

 速度では圧倒的にトリックマスターに分があるに。

 

「それならば、遠慮なく落とさせていただきますわ」

 

 ミントは、背後から巡洋艦2隻に攻撃を仕掛ける。

 ミサイルこそ飛んでくるものの、ECMの働いたトリックマスターに当てる事はできない。

 人が乗っていたならば、目視でのレーザー攻撃も在り得るだろうが、無人艦ではそれもない。

 ミントは、近接信管で爆発したミサイルの爆風で多少ダメージを受ける事はあっても、直撃を受ける事なく、フライヤー以外の武装もフル活用し、後ろについたままの状態で、2隻の巡洋艦を沈めた。

 

「これで3隻。

 では、そろそろお見せしましょう、フライヤーダンス!」

 

 2隻の巡洋艦が爆発する中、旋回し、3隻の駆逐艦と向かい合うミント。

 今は絶好調である事を感じたミントは、収納しているフライヤーを全基射出。

 必殺としている『フライヤーダンス』を展開する。

 19基のフライヤーが駆逐艦3機の全方位を取り囲み、踊る様にレーザーを照射する。

 普段3基しか使わないフライヤーを19機同時に操作する、ミントとしてもかなりの負担が大きい技だ。

 勿論、H.A.L.Oシステムの補助があるが、19基ものフライヤーを同時操作するフライヤーダンス中は、他の機能、ECM、ECCM、そしてトリックマスターの操作能力が落ちるという危険を伴う。

 自機の安全が確保できなければできない技なのだ。

 

 その代わり、効果は絶大。

 3隻いる駆逐艦も、1隻につき6基以上、通常攻撃の2倍以上のフライヤーからレーザーを照射され、各部が爆発、ミントに攻撃を加える事なく沈んでゆく。

 

「これほど上手くいくと、嬉しいものですわね。

 さて、残りは―――」

 

 ミントは、どんどん自分が高揚していくのを自覚する。

 少し危険かもしれないが、タクトが後ろで見ているのだから、危なければ指示が出ると、そう思うと、安心して戦える気がした。

 

 だが、そこへ仲間が合流してきた。

 

『ちょっとミント、せっかくやる気出したのに、私達の分がないじゃないか』

 

『ミントがんばりすぎだよー』

 

 仲間からちょっとしたクレームが出る。

 1人で半分以上落としてしまったのだ、確かにやりすぎたのかもしれない。

 だが、

 

「あら、皆さん、遅いおつきですわね」

 

 今のミントは、全ての敵を落とす気ですら居た。

 

 

 

 

 

「3番機、駆逐艦3隻を撃破。

 残りは4隻です」

 

「商船の被害状況は軽微。

 まもなくエルシオールの後方に回ります」

 

 ブリッジでは、順調に進む戦いの報告が入ってくる。

 レスターもタクトも、もう指示を出すまでもなく、静観していても問題ないレベルになりつつある。

 

「なんとかなりそうだな」

 

「ああ」

 

 まだ戦いは終わっていないから、当然緊張は保ち続けている。

 だが、勝敗は既に決し、護らなければならない民間人への被害も、もう出る事はない。

 

「ところで、あの最後尾の1隻、いつもの無人艦と少し様子が違わないか?」

 

「ああ、それを調べているんだが……」

 

 そんな中、レスターとタクトは、敵の中、1隻だけ遅れている機体が気になっていた。

 エオニア軍の無人艦隊の巡洋艦である事には違いないのだが、外観からも、若干の差異が見えてならない。

 スキャンして情報をとりたいが、まだ距離がある為、トリックマスターからの中継される情報を見ているだけになる。

 だが、戦闘も開始して数分。

 情報が集まりつつある。

 それに、その動きも、おかしい事に気付くには十分な時間だった。

 

「……これは……っ!

 ミント、最後尾の1隻を最優先で落とせ! 見られている!」

 

『え? っ!! 了解』

 

 何かがおかしいと思って調べていた最後尾の1隻。

 何故か速度を落とし、戦闘に参加しないで、何をしているかと思えば、どうやら商船とエルシオールをスキャンしているという事が判明した。

 一体いつからそんな頭を使うようになったのか、何処かに操作しているヤツがいるのか、それは解らないが、商船とエルシオールの撃墜を諦め、何を補給するかと、エルシオールの現状を調査しているのだ。

 

『トリックマスター、覗き見をしていた巡洋艦を撃破しました』

 

 直ぐに向かったミントによって、程なくその機体は撃墜される。

 だが、どれ程の時間見られていたのか、どれ程の情報を取られたのか、それは不明だ。

 

「迂闊だったか」

 

「いや、仕方ない。

 こんな状況じゃ、気付く気付かない以前に、そっちまで手が回らなかった」

 

 どんな情報を取られたかは、心配ではあるが、もう過ぎた事だ。

 それに、程なく残りの3隻もエンジェル隊によって撃破され、戦闘も終了した。

 民間人を守り抜き、エルシオールも、エンジェル隊もほぼ無傷で勝ったのだ。

 それは、喜ぶべき事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘が終了して30分ほどが経過した。

 商船団の損害は軽微で、無視して飛行できるレベルだったらしく、問題なく補給が行われている。

 ランファを周囲警戒に残し、エルシオールへと帰還したフォルテ。

 ミントが殆ど倒してしまったせいで、足の遅いハッピートリガーは完全に無傷。

 補給前の出撃であり、弾薬が切れ掛かった状態だったので、丁度良かったと言えば良かったのだが、やる気を出したのに、という気持ちもある。

 とは言え、戦闘は無いに越した事はない。

 紋章機のチェックを済ませ、一度自室に戻り、射撃訓練でもしようと考えていた。

 ところが、自室に戻ったところだった。

 

「シュトーレン様。

 少々お時間をよろしいでしょうか」

 

 部屋の前でフォルテを呼び止めたのは、シヴァ皇子付きの侍女、ヘレス・アンダルシア。

 白き月でも何度か顔を見た人物であったが、シヴァ皇子付きだと知ったのはクーデターで脱出した後だった。

 

「なんだい?」

 

「お疲れのところ恐縮ですが、シヴァ皇子の護衛をお願いしたいのです。

 先ほど、マイヤーズ司令からホールでブラマンシュ商会が展示販売を実施するとの連絡があり、皇子が興味を持たれました。

 しかし、私は、補給物資の搬入作業があるので、同行できないのです」

 

「なるほど。

 戦闘も、私の出番はないくらいでしたから、問題ありません。

 シヴァ皇子の護衛、承ります」

 

「お願いいたします」

 

 と言う訳で、戦闘から戻ってきたフォルテは、そのままシヴァ皇子の護衛をする事となった。

 

 ただ、この時、基本的に何をおいてもシヴァ皇子の傍に居る筈の侍女が、補給物資の搬入くらいで同行できないというのはおかしい、とフォルテは考えていた。

 護衛にしたって、確かにフォルテが適任なのはそうだが、ヘレスでも問題ないことは、フォルテも見抜いている。

 他には誰も気づいていないが、ゆったりとした侍女用の装束の下には、武器がいくつも隠されているし、その身のこなしも、只者ではない事が伺える。

 元々、護衛も兼任してのお付なのだろう。

 そんな彼女が、人が多く集まる場所に同行しないのはおかしい。

 今回は、全開の偵察用プローブの事件があったので、エルシオールに入るブラマンシュ商会の人間も、荷物も全て厳重にチェックされているが、それでも、皇子が無防備に歩ける状態とは言いがたい。

 シヴァ皇子を見て、皇族である事が解る人間も極少数だろうが、ヘルハウンズまで雇っているとなると、スパイの1人や2人、いてもおかしくはない。

 

(ん、いや、だからこそ、隠れて2重の護衛をするつもりなのか?

 まあ、いいか、私は私の仕事をするとしよう)

 

 そこまで考えたフォルテだが、一度考える事を止め、シヴァ皇子に意識を集中する事にする。

 丁度、部屋から、少し楽しそうなシヴァ皇子が現れたところだ。

 フォルテも、シヴァ皇子の存在は脱出後に知ったのだが、今のシヴァ皇子の姿を見ていると、戦後の政治が少し楽しみに思えた。

 この皇子は、どんな政策を布いて、世界を平和にしてくれるのだろうか、と。

 

 

 

 

 

 それから暫く、フォルテはシヴァ皇子と共に展示販売の場を見て回っていた。

 特に何が起きるでもなくウインドショッピングの様に時間は過ぎていく。

 皇族の方々には馴染みの無い品が多く、皇子にいろいろと説明しているフォルテは、初めて動物園に子供を連れて行く母親の様な感じであろう。

 フォルテ自身はそんな事は考えていないし、そう言う考えを持つ事はないだろうが。

 

「あれ、フォルテ、と……シヴァ皇子!

 どうなさったんですか? こんな所で」

 

 そこへ、仕事が終わったのだろう、タクトが姿を現す。

 

「うむ、臣民の生活を間近で見られる良い機会だと思ってな」

 

「で、私はその身辺警護さ」

 

「なるほど。

 では、皇子のお買い物に、私もお付き合いしてよろしいでしょうか?」

 

「うむ、許す」

 

 タクトは、少し、多分シヴァ皇子には解らないくらいのレベルで、笑みの意味が変わる。

 どこか、優しい、というか、希望を称える様な笑みに。

 きっと、タクトも、この皇子に期待しているのだろう。

 こうして、臣民の生活を間近で見られるからと、艦内とは言え、人ごみに入る皇子。

 ただ珍しさからだけではなく、臣民の『生活』の様子を考えながら視察するその姿に。

 

「お、宇宙スルメイカの一夜干しがある。

 皇子、これなんかどうですか? 噛めば噛むほど味が出て美味しいですよ」

 

「フォルテ、自分の趣味を皇子に勧めるなよ」

 

 と、暫くそんな感じで視察を続ける。

 皇族との接し方としては、かなり不遜な気がするが、皇子も気にする事なく、むしろ楽しんでいる様子だった。

 そんな中、

 

「あ、立体チェスがありますね。

 皇子、これなんかどうですか?」

 

「チェス? チェス、とは何をする道具なのだ?」

 

「盤上に駒を並べて対戦するゲームです。

 互いに駒を相手の陣地へと進め、相手のキングの駒を取った方が勝ちとなります」

 

 と、そこまでタクトが説明した後、フォルテはある事に気付いてタクトの脇を突付いた。

 

「ちょっと、司令官殿、皇子に1人では遊べない物を勧めてどうすんのさ?

 私の聞いた限りじゃ、シヴァ皇子の傍に、チェスができる人は居なかったよ。

 私も含めてさ」

 

「え? そんな筈は……」

 

 シヴァ皇子には聞こえない様に話す中、タクトはちょっとした隙を見せた。

 自分では気付いてない様だが、普段は隠しているはずの情報を出してしまっている。

 

(今の台詞、シヴァ皇子の侍女の人がチェスができる筈だという意味だね。

 どうやら、司令官殿にとって、あの侍女さんは弱点みたいなものらしいね)  

 

 タクトと、侍女ヘレスの間には何かある、と言う事にフォルテは気付いている。

 まだ、何が、とまではいかないが、どうも普段は冷静な司令官殿も、ヘレスが出るとボロを出す可能性があると判断できる。

 と、そこへ、

 

「あら、シヴァ皇子、チェスですか?」

 

 丁度そこへ侍女のヘレスが現れる。

 隠れて護衛をしてたのかどうかは定かではないが、タイミングの良すぎる登場だ。

 

「チェスは非常に知能を使うゲームです。

 遊ぶにしても、良い物かと。

 生憎私はできませんが」

 

「そうなのか?」

 

 せっかく興味を持った物が、1人では遊べない物で、遊べる相手が居ない。

 シヴァ皇子は少し残念そうだった。

 だが、

 

「ならば私が相手になりましょう。

 仕事の合間になってしまいますが。

 しかしながら、これでも立体チェスの腕には自信があります」

 

「そうか、ならば相手に任命しよう」

 

 タクトの一言で、明るい笑顔を見せるシヴァ皇子。

 そして、タクトが金を出して、立体チェスを購入する事となり、立体チェスは侍女が持ち帰る事となった。

 

「シヴァ皇子、珍しいお茶が手に入りましたので、お茶の時間に淹れてみようと思います」

 

「そうか、それは楽しみだ」

 

 そんな会話をして、侍女は先に戻る事になった。

 少しの間、その背中を見送る事となる。

 その時だ、

 

(ん? 司令官殿……『う・そ・つ・き』か。

 私が居るのに、それもまた迂闊だねぇ)

 

 タクトが、なにやら侍女に向けて唇を動かしていたのを読めば、『うそつき』と言いたかったらしい。

 何に対してか、と言えばチェスができないと言った事だろう。

 侍女がどうして『できない』と言ったかは、恐らくタクトにも解っていない。

 けど、タクトという相手が居るので、とりあえずチェスの件は問題ないだろう。

 

「シュトーレン、そろそろ別の施設も見て回ろうと思う」

 

「了解しました」

 

「私は仕事がありますので、これにて失礼いたします」

 

「うむ。

 チェスの件、忘れるなよ」

 

「はい、勿論でございます」

 

 そうして、タクトとも別れ、この後格納庫などを見て周わった。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  

 

 3時間後。

 補給も完了し、展示販売も撤収、商船団と別れ、再びローム星系を目指すエルシオール。

 因みに、展示販売は、タクトからの連絡もあり、クルー全員、交代で買い物ができた。

 やはり1時間では私物の発注に不足もでており、展示販売という形で財布の紐も緩かった事もあり、今回訪れた営業部長は心から笑みを浮かべている事だろう。

 尤も、ミントと軍に対して何らかの借りを作っておきたいと考えていた様だが、そちらはミントもタクトも事前に読んでいた事なので、なんとか防ぐ事ができた。

 金塊もまだ半分くらいは残っており、後1回は補給ができると思われる。

 ともあれ、これでローム星系までは何とか戦っていけるだろう。

 

「補給がこれほど大変だとは思わなかったよ」

 

「全くだ」

 

 実戦中、敵陣の中での補給は難しいものという認識はあっても、こんな体験はしたことがない。

 覚悟はしていたが、心身ともにかなり疲労してしまっている。

 しかも、レスターとタクトにとっては、今からが本番と言えるので、気が重い。

 

「さて、じゃあ敵が来ない内にやってしまうか」

 

「そうだな」

 

 レスターはエルシオール外装の装備の取り付けとテスト。

 タクトは、計画していた内部への仕込みの実施で忙しい。

 今から20時間程度の突貫作業で終わらせなくてはならない。

 特に外装に関しては、ドックに入れる訳でもなく、動きながらである為、設置出きる物は限られるし、作業には時間が掛かる。

 

「あ、そうそう。

 タクト、発注の品なんだが、ちょっとおかしなのを見つけてな」

 

 と、その前に、補給前、タクトが出ている間に見ていた、全体の発注リストについての報告を行うレスター。

 

「ん? 整備班の物なら俺が話をつけてきたぞ?」

 

「ああ、それはもう行ったのだろうと思っていたが。

 こっちでな」

 

「ん?」

 

 レスターが見せてきたのは、どこのという特定の部署からの発注ではない。

 ほぼ全体に散らばった中から、ある品だけをマークしている。

 

「なんだ? これ」

 

 発注自体は、その部署から出るのはおかしくないもので、マークしてある理由もつかめない。

 タクトが見ても、特に怪しい箇所はないものだ。

 

「これは、シヴァ皇子付きの侍女が持っていった物のリストだ。

 各部署に紛れ込ませて発注していたらしい」

 

「……そうか」

 

 何故そんな事をしたのかは、そのリストにある物資を見れば解る。

 とても、シヴァ皇子に必要な物とは思えない物ばかりだ。

 

「タクトは、あの侍女さんの事、何か知ってるんじゃないか?」

 

「……今は、何も聞かないでくれ」

 

「そうか、解った」

 

 話はそれで終わった。

 レスターにも感づかれていた事に、タクトは驚く余裕もなく、そのリストにある物資の名に眩暈を覚えていた。

 だが、タクトも動かなくてはならない。

 それらを使わせない為にも、今の計画は必要になってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 補給も終わり、警戒態勢のレベルも下がったエルシオール。

 ミントはやっと自室で落ち着く事ができた。

 補給中は、仲介など、作業に忙しく、発注作業からずっと仕事をしていたのだ。

 もう、ベッドに入って眠ってしまいたいくらいにくたくただった。

 

「それにしても、タクトさん、あのイメージは……」

 

 けれど、その前に考えたい事があった。

 発注後、気遣って訪れてきたタクトが、最後に見せたイメージ。

 自分の父への感情に良く似た、しかしそれよりももっと黒いイメージが、タクトの中にあった。

 直ぐにレスターから通信が入ってしまった為、それが何か、誰かなのかは解らない。

 しかし、アレは―――

 

「あの人は、一体何を経験して、今まで生きてきたのかしら……」

 

 ただ頭の切れる指揮官ではない。

 そんな事は最初の会話で解っていた。

 頭の切れるけどれ、一切経験の伴わない様な、そんな人とは違うのだと。

 

「謎が多すぎますわね」

 

 ヘルハウンズ隊への反応にしてもそうだった。

 一体、フォルテとタクトは何を知っているのか。

 

「全体の不利益になる事を隠してるとは思えませんけど。

 でも、どうして何もいわないのか、それが気になりますわ」

 

 この状況で、敵の情報、知りうる限りでも教えないのには、それなりの理由があると思われる。

 あのフォルトとタクトならば尚更だと、ミントは考える。

 

「難しいですわね、人と付き合うのは」

 

 最後に、ミントはそう呟いて、考える事を一度やめる。

 疲労した身体では、ろくな答えに辿り着かないと判断したのだ。

 それに、戦闘はいつ起きるか解らない。

 この疲れをいつまでも放っておく訳にもいかない。

 

「偵察もまた頼まれる事でしょうし。

 人使いの荒い指揮官を持つと大変ですわ」

 

 少し笑みを浮かべ、1人、そんな冗談をいいながら、眠りにつくミント。

 この旅は、まだ終わりが見えていない。

 

 

 

 

 

To Be Continued......

 

 

 

 

 

 後書き

 

 と言う訳で、4話をお届けしました。

 今回も間を開いてしまい、申し訳ないです。

 今回は、本格的に戦闘にエンジェル隊視点を取り入れてみましたが、どうでしょうかね。

 相手が雑魚だったので、戦闘自体短くなってしまいましたが。

 やっぱり機動兵器同士の戦闘は難しいですね。

 人同士の戦闘も上手く書けてないですけど。

 もっといろいろ考えておきたいと思います。

 

 では、また次回お会いできればとおもいます〜。








管理人のコメント


 4話です、少しずつキャラクターが原作と違う動きをしてきましたね。

 やはり一番違ってきているのはタクト。

 原作では過去とか出てきていなかったですけど、この話だとそこらへんもちゃんとしているようで楽しみです。

 そこらへんはオリジナルなのでしょうけど、どのような設定になっているのか。


 そして相変わらず存在感を感じさせるヘレス(侍女)さん。

 タクトとの繋がりも徐々に表に出始めてますが、どういった付き合いがあったのか。

 まだまだ目が離せませんな。


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