月夜

夜 始点

 

 

 とある山の中

 草木も眠るといわれる真夜中。

 全てが眠りについている筈のこの山の中で揺らめく闇。

 そしてそんな中を駆け抜ける二つの影。

 一人は、黒いジャケットを着た青年。

 もう一人は、露出の高い巫女服の様な物を着た少女。

 二人は並び、闇に染まった山の中、道無き道を音も無く駆けぬけていく。

 

 グラ

 

 二人の前の景色が少し揺らぐ。

 そこで、一旦足を止める二人。

 

「・・・」

 

 青年は無言で少女に目配りさせる。

 

「・・・」

 

 少女はそれだけで青年の意図を察したのか、頷く。

 

 ザッ!

 

 そして、二人は左右別々の方向に飛び、二手に分かれる。

 音も無く、道の無い道を難なく駆ける青年が向かった先、

 そこには、

 

 オオオオオオ!!

  

 闇、そう表現できる塊が、そこにあった。

 青年はそれを視界に捕らえると、即座に、ジャケットに両手を入れたかと思うと、

 速度を落とさず、その闇に駆け寄りながらも、

 目にも止まらぬ早撃ちで、飛針を両手から計8発、その闇に投げつける。

 

 ヒュン!!

 

 その飛針は真っ直ぐ、正確に闇を射抜いた。

 普通なら、そんな物理攻撃など、素通りしてしまうはずが・・・ 

 

 オオオオオオ!!

 

 大きく揺らめく闇。

 飛針が射抜いた個所は、その穴の回りの闇を消し去っていた。

 

 オオオオオオ!!

 

 今までとは違う咆哮。

 その闇は顔がある訳でもない、目があるわけでも無いが、

 あきらかに、青年の方に意識を向け、怒りと言える感情を向けている。

 青年はその間も闇との距離を詰めている。

 

 オオオオオオ!!

 

 三度目の咆哮。

 闇は向かってくる青年に、己の一部を向けた、その時だ。

 

 ザッ!!

 

 闇の背後、青年と闇を挟んだ反対側から先ほどの少女が飛び出してくる。

 その手に雷を纏って。

 

「ハァッ!!」

 

 少女はその雷を纏った手の爪で、

 闇を切り裂く。

 

 ザシュッ!!

 

 切り裂かれ、最早咆哮すらあげない闇。

 その切れ端に、

 

「破!!」

 

 青年がジャケットから抜刀した小太刀、二刀で止めの一撃を放つ。

 

 ザシュン!!

 

 霧散する闇。

 それを、油断せず、構えながら見届ける二人。

 

「・・・終ったな」

 

 完全に消滅した事を確認し、青年は刀を納める。

 

「うん」

 

 少女は嬉しそうに頷いて、青年に歩み寄る。

 と、そこで、

 

「恭也さ〜〜ん!くお〜〜ん!

 終ったんですか〜〜?」

 

 遠くから別の少女の声が聞こえる。

 と、思ったら。

 

「きゃ!!」

 ズサッ!

 

 つまずいたのだろう、派手にこける音も聞こえる。

 

「さて、那美さんを回収して帰るか」

 

「かえろ」

 

 二人は、苦笑に近い微笑みを見せて、もう一人の少女の元へと向かった。

 

 

 翌日 3時頃 翠屋

 

 翠屋の奥の人席、

 俺と那美さんが並んで座り、その向かいに美少女、久遠(小)、なのはが座っている。

 

「はい、これ今回の報酬」

 

 俺と那美さんと向かいに座ってる一人の金髪のポニーテイルの美少女、

 セリス ルーン シルフィアさんが俺達に封筒を手渡してくる。

 

「どうも」

 

「ありがとうございます」

 

 封筒を受け取り、中身を確認する俺。

 結構な額だ。

 

「あ、恭也君の方は、今回使った銀製飛針の代金は抜いてあるからね。

 あと、久遠には、これね〜」

 

 と、となりに座っている、久遠(小)の頭を撫でるセリスさん。

 因みに、今の久遠は普通の服を着ている。

 来る時は尻尾をしまって、帽子を被って着たのだ。

 

「おまたせしました〜」

 

 丁度そこに美由希が翠屋の菓子類を運んでくる。

 

「しゅーくりーむ、けーき、好き♪」

 

 目の前に並べられたお菓子に喜ぶ久遠。

 

「あと、これね」

 

 と、セリスさんは持ってきたのだろう、大福をテーブルに置く。

 

「だいふく、すき♪」

 

 目の前の大好物の山に目が輝いている久遠。

 

「じゃあ、2人で仲良く食べるのよ」

 

「うん、なのは、食べよ」

 

 セリスさんにそう言われると、久遠は隣に座っている親友に声をかける。

 

「え?なのはもいいの?」

 

 そして2人で仲良くお菓子の山を食べ始める。

 

「いいんですか?こんなに?」

 

 そんな2人を見て那美がセリスさんに問う。

 

「あら?安い物でしょう?金額的には貴方達と比べたら」

 

 と、微笑むセリスさん。

 

「久遠はいいですけど、なんでなのはもなんです?」

 

 と恭也。

 

「それが久遠の望みだからよ。

 ホントいい子よね〜」

 

 久遠を見て微笑むセリスさん。

 なるほど、だからわざわざなのはまで呼び出されたのか。

 

「それにしても、もう、このレベルの仕事は楽勝みたいね〜

 『意志を持った瘴気』程度では実戦訓練にもならないわね」

 

 と、昨晩の結果レポートに目を通しながら何処か嬉しそうに言うセリスさん。

 結果レポートと言っても、何処に何がいて、どうやって倒したか、と言う程度の物だが。

 因みに、ほぼ全て那美さんが書いた物だ。

 

 今年の春の花見を始点としたように、次々と起きた事件の数々、

 その全てを、何度かの入院を交えながらも解決し(人はそれをご都合ルートと呼ぶ)。

 最後の久遠の祟りの事件での入院時、

 入院中、暇だったので(鍛練していた事がフィリス先生にバレて、監視されてたから)

 那美さんとお見舞いに来ていた薫さん、耕介さんに、霊とかについていろいろ聞いていた所、

 俺にも耕介さんほどではないが(薫さん基準)才能があったらしいので、

 退魔の仕事を教えてもらった。

 那美さんの仕事を手伝う事と、忍達の事の更なる理解為と言う事で習ったのだが、

 

「ホント、流石は御神流、不破の最後の継承者ね。

 その剣技と精神力で、もう攻撃能力なら那美を超えたわね」

 

 らしい、

 実感は無いが、どもう退魔の世界でもかなり強くなってきた様だ。

 因みに、昨晩使った退魔用の飛針、などの武器は彼女から購入。

 俺の愛刀、八景も退魔の為に彼女の手によって改造されている。

 どこが変わったかは俺ではさっぱり解らないが、

 習った程度の霊力の回し方だけで、霊をも斬れる様になっている。

 

「ええ、もう恭也さんと久遠がいると、

 もう私じゃあサポートしかできませんよ」

 

 那美さんはちょっと複雑な気分の様だ。

 

「俺なんかまだまだですよ。

 大体、仕事の度に飛針とかの代金でほとんど報酬は消えますし。

 それに、那美さんがいるからこそ、俺達は闘えるんですよ」

 

 俺は、フォローと言うか事実をそのまま述べる。

 因みに昨晩の那美さんの役割は敵の退路を断つ事。

 結界の維持だ。

 

「そう、那美、いないと、闘えない」

 

 久遠もフォローする。

 久遠は封が無くなって以来、自由に身体を変化させられるだけでなく、

 戦闘力は比較にならないほど上昇している。

 こう言うのは何かと思うが、流石は、かつて神咲が総出でやっと封じた化生だけある。

 と言っても、普段は2段変身目でも力はかなり抑えられている様だが。

 

「那美は本来前線で戦う様なタイプじゃないじゃない。

 貴方は、優しく霊を逝かせててあげるか、傷ついた仲間を癒すのが役目でしょう」

 

 とセリスさんも優しい笑顔でフォローする。

 そこへ、

 

「そうそう、那美は攻撃力を求めちゃいけないわ。 

 貴方は回復役で、浄化も担当する言わば、僧侶なんだから」

 

「那美様は素敵な力をお持ちです。

 こう言っては恭也様達に失礼でしょうが、

 破壊する事は誰でも出来るのです。

 ですが、癒す事は、誰でもとはいきませんから」

 

 忍とノエルさんだ。

 二人とも普段着での登場だ。

 

「あら、こんにちわ、忍、ノエル」

 

 と、二人に挨拶するセリスさん。

 俺は良く知らないが、二人とセリスさんはかなり古くからの知り合いなんだそうだ。

 

「あ、こんにちわ、忍さん、ノエルさん」

 

「こんにちわ〜」

 

「忍、のえる」

 

 其々挨拶を交す。

 

「食べに来たのか?」

 

 俺は挨拶がわりに当然と言えるような事を尋ねる。

 

「うん、相席いいかな?」

 

 回りを見る、まあ、混んでると言う訳でもないが、

 断る理由も無い。

 

「ああ。

 いいですよね?」

 

 俺は一応皆にも聞いておく。

 

「ええ、勿論よ」

 

「はい」

 

 と、言う訳で、忍、俺、那美さんと言う風に座り、

 反対側をノエルさん、セリスさん、久遠、なのはと言う感じで座ることとなった。

 

「あ、因みに、恭也は主人公にして、戦士ね。 

 久遠は魔法戦士ってところかな?」

 

 座りながら先ほどの例えを他のメンバーにも当てはめる忍。

 おそらくは、ゲームの事だろうが。

 

「じゃあ、赤星さんとおねーちゃんも戦士で、

 フィアッセさんとフィリス先生は魔法使い。

 晶ちゃんとレンちゃんが武闘家かな」

 

 なのはも当てははめていく。

 まあ、その基準はわからんでもない。

   

「その基準でいくと私は?」

 

 とセリスさんが自分を指す。

 

「ん〜、セリスは、イベント戦とかでしか仲間にならない、

 いろんな意味でゲーム中最強の味方キャラってところかな」

 

 ちょっと考えて答える忍。

 いろんな意味って・・・

 

「裏技で仲間になるかもよ?」

 

「仲間にできたら最強だけど、ゲームバランス崩れそう」

 

 どうもセリスさんは解っている様だが。

 俺にはサッパリだ。

 

「おにーちゃんが主人公だと、

 正統ヒロインは那美さんになるの?」

 

 と何気なしに言うなのは。

(作者の独断と偏見ですが、ことRPGにおいては、回復役になるのが正統ヒロインなのです)

 

 ピキッ!

 

 その一言で、笑顔が凍りつく忍。

 ノエルも何気にフリーズ気味だ。

 

「正統ヒロインと言う事は私が恭也さんと・・・」

 

 と、何故か頬を赤らめて何かを呟く那美さん。

 不可解な。

 

「今の無し、撤回、キャンセル!」

 

 突然、忍が乗りだしぎみでそんなことを訴える。

 何をそんなに慌てているんだ?

 

 その後は、皆で他愛も無い話しをして、その場はお開きとなった。

 そして、俺は、那美さん、久遠とセリスさんとさざなみ寮に向かう。

 耕介さん、薫さんに今日も教えてもらう為だ。

 因みに、セリスさんも寮生だったりする。

 更に言うと、俺の後輩で、那美さんの同級生だ。

 表、裏、闇の仕事の斡旋から、武器の改造、販売までする人が、

 俺の後輩だったとは、始は信じられなかった。

 更には、父さんとは友達だった言うのだから、本気でその正体を疑った。

 那美さんや忍は何か知っている様だが、どうも秘密らしい。

 

 

「教えるって言ってもなぁ。

 もう、教えることは無いって、言いたいくらいだよ」

 

 寮に着いて、さっそく耕介さんにお願いしたら、

 開口一番がこれだった。

 

「戦闘に関しては、基礎が完璧と言っていいから、もううちらに言う事はないよ。

 純粋な剣技に至っては、うちらでは十六夜、御架月がおらんと手の出しようすらない。

 後は、地道な日々の鍛練で霊力を練る精度を上げたりするくらいだよ」

 

 と薫さん。

 それは誉めすぎだと思う。

 実際、十六夜、御架月を持った薫さん、耕介さんにはまだ勝った事が無い。

 

「後は霊力の放出とかですけど、

 なんか、恭也さんを見てると、必要なさそうにも見えますし。

 あの飛針の使い方なんかもう、私なんかでは否の打ち様も無いですし」

 

「恭也様の戦術はすばらしいです。

 昨晩の仕事など、開始2分で終了など、

 薫でも考えられませんから」

 

 剣から出て二人の後ろに控えていた御架月さんと十六夜さんも、

 誉めてくれる。

 

「いえ、アレは久遠がいたからこそ、その時間で済んだんですよ」

 

 久遠の戦闘力を考えれば、多分、昨晩程度の敵ならそんな物だろう。

 

「あらあら、現神咲最強、歴代の神咲でも最強クラスの二人に、

 そこまで言われちゃうんだ」

 

 と、からかい気味?いや、多分本人にはそんな気は無いと思う。

 セリスさんも会話に参加する。

 

「皆さん誉めすぎです。

 俺なんかまだまだです」

 

 俺の反論に、

 

「勿論よ」

 

 と、セリスさんは笑顔で答えた。

 ・・・いや、確かにそう言って欲しかったのだがな・・・

 

「貴方はこの程度のレベルで満足されたら困るわ。

 貴方はまだまだ強くなれる」

 

 どうもかなり期待されているようだ。

 理由は解らないが。

 

「はい、勿論まだまだ強くなるつもりです。

 というわけでお手合わせ願いたいのですが」

 

 俺は持ってきた八景を持つ。

 

「ん〜・・・実戦に勝経験なしとは言うが・・・

 もう俺達じゃ訓練にもならないしな」

 

 大分困った顔の耕介さん。

 

「そうですね。

 うちでも、もう恭也君を鍛えるなんてできませんよ」

 

 薫さんも同様の様だ。

 それに後ろの霊剣姉弟も。

 

「なんで?薫ちゃんと耕介さんなら霊剣を持てば恭也さんよりまだ強いんでしょう?」

 

 今まで黙って様子を伺っていた那美さんが口を挟む。

 そう言えば那美さんは修行にはよく付き合ってくれるが、

 耕介さんや薫さんとの打ち合いを見ることは稀だった。

 まあ、那美さんも忙しい人だからな。

 

「ああ、確かに俺は御架月を持てば恭也君には負けないよ。

 一撃で倒せる」

 

 と答える耕介さん。

 

「それなら、手加減して鍛練できないんですか?」

 

 その答えに疑問を持つ那美さん。

 まあ、当然の疑問だろう。

 

「一撃で倒せるっていうのは、

 『一撃で倒さなければこっちが負ける』って事なんだよ、これがね」

 

 苦笑混じりに答える耕介さん。

 

「恭也君の戦術の要でもある『神速』。

 あれがあるからうちらじゃあ、十六夜を霊気のレーダーにして、

 接近された所を完全な力押しで吹き飛ばすしか対応できん。

 仮に恭也君が神速を使わなかったしても、

 御神流の剣術は元々対人用だし、うちらではこれも、霊力でねじ伏せるしかない」

 

 そう、俺はそれで完全に力負けするので、正面からの勝負では、

 今の所、絶対にこの二人には勝てない。

 密林の中とかならまだ変わるだろうが。

 と、そこへ、

 

「そうなのだ、耕介と恭也君の戦いは、

 まるで、2回行動で飛影が近づいてきた所を、ひらめきで避けて、

 魂、必中掛けのサイフラッシュで倒している様なものなのだ」

 

 陣内さんが乱入してきた。

 でも例えがさっぱり解らん。

 

「あら、いい例えね」

 

 と、セリスさん。

 どこか楽しげだ。

 

「情けないのだ、耕介!」

 

 耕介さんを指差して激励する陣内さん。

 

「いや、そんな事言われてもなぁ。

 達人同士の戦いは一瞬で決まる。

 そう言う事にしといてくれ」

 

 苦笑してそう答える耕介さん。

 

「しかし、困りましたね。

 やっぱり基礎をやるしかないのでは?」

 

 因みに、基礎訓練のやり方は一通り教え貰っているので、

 毎日欠かさず行っている。

 

「あと、恭也君に戦闘訓練をつけられるなんて、

 真一郎君か、後は久遠くらいか?」

 

 久遠は解るが・・・もう一人は?この神咲最強の二人よりも強い人なのか?

 ・・・真一郎?はて?

 

「あの、その真一郎って人、もしかして相川 真一郎さんですか?」

 

 俺はもしやと思い、一応聞いて見る事した。

 忍の叔母、さくらさんの夫が真一郎という名前だった。

 一度だけ会ったことがある人だ。

 とても綺麗な人で、俺も最初は女性かと思ったほどの。

 

「ああ、多分そうだよ。

 忍ちゃん径由での人でしょう?」

 

 どうやらあっていたらしい。

 しかし、あの人が?確かに何か秘めたる物を感じたが・・・

 

「取り合えず、今日は無理か。

 真一郎君は今度呼んでみよう」

 

「後は久遠だけど・・・」

 

 と、那美さんの足元にいる狐モードの久遠を見る薫さん。

 

 シュパ!!

 

 自分に話しを振られている事を感じたのか、人型(大)になる久遠。

 

「薫、なに?」

 

 いつもの久遠。

 この久遠と戦闘訓練か・・・

 でも・・・

 いや、ものは試に。

 

「久遠、俺と闘ってくれないか?」

 

 俺は単刀直入に久遠に頼んでみる。

 

「え?・・・久遠が・・・恭也と・・・闘う?」

 

 復唱する久遠。

 その久遠の表情はみるみる怯えた表情へと変わって行く。

 

「・・・やだ・・・・いや!」

 

 後づさる久遠。

 

「ど、どうしたの、久遠?」

 

 そんな久遠の変貌に驚く那美さん。

 やはり・・・

 

「やだ・・・久遠、恭也と殺し合いたくない!!」

 

 泣き叫ぶ久遠。

 

「久遠、悪かった」

 

 俺は武器を捨て、久遠を軽く抱しめてやる。

 久遠はいままで仲間と戦闘訓練などする必要も、機会も無かった。

 久遠にとって、闘うとはつまりは殺し合う事。

 それだけだ。

 俺達もそう言う傾向があるが、久遠は尚更だろう。

 

「やだ!恭也、久遠と一緒にいてくれなきゃやだ!」

 

 俺にしがみつく久遠。

 

「悪かった、久遠、そうだな、俺達が闘う必要なんてないな」

 

 それから、取り乱した久遠を静めるのに時間がかかり、

 この日はそれで解散となった。

 

   

 その日の夜 

 

 いつもの時間、いつもの美由希との鍛練。

 

「・・・美由希、弱いぞ」

 

 が、ひと段落したところである。

 俺の前でうつ伏せに倒れている美由希。

 

「う〜・・・恭ちゃん、霊力使うなんて反則〜」

 

 俺が打った後頭部をさすりながら立ち上がる美由希。

 惨敗がショックだったのか、呼び方が普段のものになってるな。

 

「バカ言え、俺は霊力など使っていない。

 確かに使っている武器は八景で飛針も銀製のやつだが」

 

 因みに、訓練で使う飛針はちゃんと回収してるぞ、

 1本の値段でも洒落にならないからな。

 仕事で使うと、溜めこんである『力』が消費さてしまう為、回収しても無駄なんだがな。

 

「でも絶対異常に強くなってるよ〜

 前以上に勝てる気がしないんだけど・・・」

 

 美由希は一度俺から龍麟を奪い取っているのだが・・・

 確かに、最近全然負ける気がしない。

 だが、美由希が弱くなっている訳ではない。

 むしろ、確実に強くなっているし、そのペースも予定より速いと思う。

 

「まあ、膝が完治したのは大きいと思うが」

 

 言い忘れていたが、俺の膝は、久遠の事件の後、

 那美さん、知佳さん、フィリス先生、十六夜さん、

 ついでに(本人がそう言ってた)セリスさんの5人の力により、

 治療開始から僅か数秒(時間の感覚が無かったから実はよく解らない)×数日で完治した。

 そりゃあもう、今までなんで悩んでたんだろうって思うくらい完璧に。

 因みに、矢沢先生曰く

 『これだけの超絶贅沢なメンバーに治療されたんだ、治るのは当然』

 だそうだ。

 一応、定期検診は今でも受けている。(よくサボって、その度にフィリス先生が直接来るが)

 

「霊力と複合してほとんど神速使い放題なんでしょう?」

 

「今日は3回、膝が壊れていた頃と同じ時間と数しか使っていないぞ」

 

 因みに、俺の今の神速は一回の戦闘で5回(神速後、ほぼ万全で動ける限界回数)。

 霊力と複合させて持続時間は大体15秒まで伸びた(無理すれば倍になる)。

 確かに、無理をすれば、回数も時間はこれ以上になるが、

 それはあくまで無理をすればだ。

 いくら膝が治ってても、これ以上やると膝だけでなく全身に負荷がかかり、

 今度こそ再起不能になってしまうだろう。

 因みに霊力との複合というのは、まず各関節に重点的に霊力を集中させ、衝撃緩和、

 脳の方も、霊力のレーダー(十六夜さんよりは数段劣るが)で、処理負荷の軽減、

 を主に行っている。

 つまり全て負荷の軽減により、精度を増しているわけだ。

 勿論、これを攻撃の方に回して威力を上げる事もできる、霊力を放出させて、

 それをブースター代わりにするなどして。

 だが、人間相手なら、まずその必要は無い。

 神速の速度、そこから放つ技だけで、十分に敵を無力化なり殺すなりできる。

 余談だが、この説明を聞いていたなのはは、

 

『おにーちゃんって放出系よりの強化系だったんだ。

 私はてっきり変化系と具現化系の中間くらいかと思ってたよ』

 

 と、言っていたな。

 俺には意味がさっぱり解らん。 

 

「更に言うと、私が一人で鍛錬するしかない日は、

 恭ちゃん実戦にいってるんだもん。

 こう言ったらなんだけど、ずるいよ」

 

 確かに、実戦に赴いているのと、一人で鍛練するのでは差があるだろうな。

 なのは曰く、

 

『実戦で経験値を稼いでいるおにーちゃんの方が、 

 一人で素振りをしているおねーちゃんよりレベルの上がり方が早いのは当然だと思うよ』

 

 だそうだ。 

 でも、それはしょうがない。

 俺のは仕事だ。

 

「私も薫さん達に習おうかな?」

 

 多分かなり本気で悩んでいる美由希。

 

「・・・今度素質を見てもらえ。

 でも、確かお前オバケとかって嫌いじゃなかったか?」

 

 確か、春ごろ、那美さんとの会話でそんな話しをしたと思う。

 

「それは、剣で斬れないから怖いの!

 だから、斬れるようになれば平気だよ」

 

 なるほど。

 確かにそうだろうな。

 

「それは置いておいて。

 まだ元気そうだな」

 

 俺は意識を戦闘モードに切り返る。

 

「・・・」

 

 美由希も瞬時に切り換える。

 そして、森に再度剣戟の響きが木霊する。

  

 

 その頃 さざなみ寮

 

 さざなみ寮2階のベランダ。

 久遠(狐)はそこから恭也と美由希が鍛錬している場所を見つめている。

 久遠には聞こえる剣戟の響き。

 久遠には解る、今の二人の様子が。

 二人がお互いに高め合うために闘っている事は知っている。

 恭也は美由希に負けない事も解るし、

 万が一美由希が勝っても、それは恭也の死を示す事ではない事だって解っている。

 でも・・・

 

「あら?久遠、こんな所で何してるの?」

 

 そこに、那美がやってくる。

 お風呂上りの様で、もう寝る前と言ったところだ。

 

 シュパ!!

 

 那美の存在に気付いた久遠は人型(小)になる。

 

「那美・・・久遠、もう、恭也達と戦わなくてなくていいよね?」

 

 どこか悲しげに問う久遠。

 

「貴方、まだ昼間の事を気にしているの?

 大丈夫、私も、薫ちゃんも、恭也さんも、もう誰も貴方をいじめたりしない。

 久遠も誰も傷つけたりしないでしょう?」

 

 優しく久遠を抱しめる那美。

 

「うん・・・久遠は那美、恭也、なのは、薫、耕介、みんな、好き」

 

 那美に抱きつく久遠。

 

「私達も皆久遠の事、好きよ。

 だから安心して」

 

 那美は優しく久遠の頭を撫でる。

 

「うん。

 だから、みんなをいじめるひと、久遠、許さない」

 

 真剣な顔でそう言う久遠。

 

「ありがとう、久遠。

 もう遅いから、寝ましょう」

 

「・・・うん」

 

 那美の後に続いて部屋に戻る久遠。

 最後にもう一度、まだ闘いつづける恭也達の方を見て。

 

 その日、那美は久遠の夢写しにより、

 あの夢を見ることとなった。

 

 

 続く

 

 あとがき

 

セリス「始めましたセリス ルーン シルフィアで〜す、よろしくお願いします

     この作品だけじゃなオリジナルキャラクターになります、私の詳細データは後ほど」

知佳「こんにちわ〜皆の永遠のアイドル仁村 知佳で〜す

    私は出番が少ないとかで特別出演だったりします」

セリス「はい、ここに始まりました『月夜』は作者の初の普通のとらハSSで、

    かなり暴走気味恭也最強主義(?)に乗っ取ったSSになります」

知佳「え〜、原作の雰囲気を壊さない様にはしてますが、

    オリキャラがでているとか少し暴走気味なところもありますのであらかじめご了承ください」

セリス「では、まだ一話ですので今日はこのへんで、次回またお会いしましょう」

知佳「また見てね〜」