月夜
第弐夜 綻
次ぎの日 午前9時 高町家
毎朝の鍛練を終え、朝食も終り、
居間で少しのんびりしていると、
プルルルルル!
居間に小さなベルの音が鳴り響く。
俺の携帯からだ。
取り出した携帯のディスプレイに映っているのは那美の名前と番号。
「はい」
俺はすぐさま電話に出る。
『あ、恭也さん、那美です。
おはようございます』
いつもの那美さんの明るい声が聞こえる。
「おはようございます。
で、どうしたんですか?
また仕事ですか?」
俺は那美さんから電話が来る理由のなかで、
最も高いものを取り合えず聞いてみる。
『いえ、今日は仕事は来ないそうです。
仕事じゃないんですけど、恭也さんは今日お暇ですか?』
「暇といったら暇ですよ」
久々に盆栽の手入れでもしようとは考えていたが・・・
また無理かな?
『よかったぁ。
あの、昨日お話しておいた真一郎さんが、今日、寮に来るそうなんですよ』
昨日の今日でか・・・
まあ、たまたまだとは思うが。
「真一郎さんは相手をしてくれるので?」
『はい、耕介さんが話してたんですが、
前々から一度手合わせしたかったそうですよ』
実は俺の方もそうなのだが。
前会ったときはそんな話しが出きるような状況ではなかったからな。
忍が片腕を切られた後だったから。
第1、初対面でそんな事言える筈もないか。
「何時頃に行けばいいですか?」
『真一郎さん達が来るのは10時頃だそうですよ。
あと、さくらさんと雪さんもくるそうなので』
雪さん?
あ、忍に聞いた事があるな。
確か、さくらさんの家族にして最凶のライバルだとか・・・
聞いたときは冗談だと思っていたが、本当の所はどうなんだか?
ま、それは会って聞いてみればいい事か。
「ではすぐに伺います」
『はい、おまちしてます』
俺は電話を切ると、すぐに部屋に戻り、完全武装する。
完全武装と言っても、夜の鍛練の装備と大差はなく、勿論、見た目は普通の服装だ。
「いくか」
俺が玄関まで来ると。
「あれ?おにーちゃん、完全武装なんかで何処に行くの?」
なのはに出くわした。
それはいいのだが・・・
「なのは、何故兄が完全武装していると解った?」
俺は完全武装を指摘された事に少し驚いてなのはに問う。
カモフラージュは完璧とはいかなくても、素人に解るような物では無い筈なのだが・・・
でないと、隠し武器の意味も無く、そもそも出歩く事ができない。
「だって、毎晩同じ様なのを見てるもん。
それくらい解るよ」
と、当然とばかりに答えるなのは。
「・・・それもそうだな」
確かに、毎日見ていれば見分ける事も出きるか。
「で、おにーちゃん、何処にいくの?」
再度聞いてくるなのは。
「ああ、さざなみ寮に、模擬戦をやりに行く」
隠すような事でも無いので正直に答える。
「さざなみ寮?
だったらなのはもくーちゃんに会いに行くから一緒に行っていい?」
「ああ、構わんぞ」
特に拒否する理由も無いので承諾する。
「じゃあ、ちょっとまってて、準備してくるから」
「ああ」
俺がそう答えると、妙に嬉しそうに階段を登り、自室へと移動するなのは。
と、そこへ、
「あれ、師匠、お出かけですか?」
「お師匠、どちらへ?」
と、晶とレンも現れる。
「ああ、さざなみ寮までな」
答える俺に対し。
「もしや、また退魔の修行ですか?」
「毎日の剣の修行に付け加えて退魔の修行まで、大変ですね〜」
と驚く二人。
「ああ、まあ、その為の完全武装でもあるわけだし」
完全武装で出かける先など、そうは無い。
「師匠、完全武装なんですか?」
「毎日見ても見分けられへんわ〜」
と、俺の言葉に驚く二人。
・・・なに?
「・・・解らないか?俺が完全武装だって」
俺は疑問な事を確認する。
「解りませんよ〜、
それで確か八景に予備小太刀が2本、小刀が8本、飛針が30発、後鋼糸でしたっけ?
一体どうやったらそんな巧妙に隠せるんですか?」
因みに指摘しておくが、それは通常武装。
完全武装だからもっとあるぞ。
それを小太刀抜きでなら、わりと普段から持ち歩いてる。
「ほんま、見ただけじゃさっぱりですよ」
・・・解らない?この二人が?
じゃあ、何故・・・
「おにーちゃん、お待たせ〜」
と、そこになのはが戻ってくる。
「あれ?なのちゃんもおでかけ?」
「うん、おにーちゃんとさざなみ寮に。
くーちゃんに会いに行くの」
答えて靴を履き始めるはのは。
「あれ?どうしたのおにーちゃん?」
少し考え事をして、止まっていた俺を見るなのは。
「・・・いや、なんでもない」
俺は、なのはに問いただそうかと思ったが、その場では止めておいた。
俺も靴を履き、なのはと共にさざなみ寮に向かう。
そして、さざなみ寮に着く。
「あ、恭也さん、いらっしゃい」
「くぅ〜ん」
久遠(狐)を抱いた那美さんが門の前で出迎えてくれた。
「おはようございます、那美さん、久遠」
「おはようございます、那美さん。
くーちゃんもおはよ〜」
挨拶を交す俺達。
「なのはちゃん、おはよう」
シュパ!!
那美さんの腕の中から飛び出して変身する久遠。
「なのは」
そしてなのはに駆け寄る。
「くーちゃん、あそぼ〜」
「うん」
本当に、微笑ましく仲の良い二人だ。
そして、俺達、なのはと久遠も一緒に寮に入る。
そう言えば、仮にも女子寮に男子が入っていいのだろうか?
普通の女子寮は男子禁制だと思うが・・・
「そんなもの、管理人が寮生を全員堕としている時点で意味はないさ」
と、そこに、俺の思考を読んだのだろう。
リスティさんが現れる。
「・・・それもそうですね」
堕ちている本人が言うと説得力があると言うか・・・
「ハイ、恭也」
「こんにちわ、リスティさん」
取り合えず挨拶を交す俺達。
因みに那美さんとなのは、久遠は会話に付いてこれず、?を浮かべているが、
取り合えず、残りも挨拶を交す。
「因みに、ここのメンバーで耕介が手を出してない奴は、
全員、その後入って来て、更に、他にちゃんとした男がいるからね」
と、先ほどの話題に付け加えるリスティさん。
なるほど。
俺が知っているこのさざなみ寮の寮生で、
耕介さんに堕ちているという確証を持っていないのは、
那美さんとセリスさんくらいだけど・・・
「あ、セリスも男がいるよ」
またしても思考を読んだのだろうリスティさんが、
先に釘をさしてくる。
じゃあ、残るのは那美さんだけど・・・どうなのだろうか?
「・・・恭也、それ本気かい?」
と、思考を読み続けているのだろうリスティさんが、
何か、少し怒ったような顔をする。
「・・・貴方が読んでいるのは俺の思考ですよ?」
取り合えず、そう答えておく。
それを聞いたリスティさんは、大げさなほどの溜息をついて、
「はぁ・・・・・・耕介と同じタイプか・・・真一郎も似たようなものだったけど・・・」
と、何やら呟き、那美さんの肩に手を置き、
「まあ、がんばれ那美。
因みに僕は今までとこれからの借金のかわりに妹を応援するから」
と、多分同情のだろう、そういう眼差しで那美さんを見る。
なんの事だかさっぱりだが・・・
「はい・・・がんばります〜」
何故か、滝の涙を流しながら答える那美さん。
謎だ・・・
と、そこへ、
カチャ!
リビングへの扉が開き、
「できれば今までの借金も返して欲しいんだけど」
とフィリス先生が出てくる。
「こんにちわ、フィリス先生」
「こんにちわ、恭也くん」
それぞれ挨拶を交す。
それを見計らってか、リスティさんが、
「フィリス、今までの借金を普通に返すのと、
これからの僕の援護、どっちがいい?」
ちょっと小悪魔的な笑みでフィリス先生にそんな事を問う。
意図、意味は俺にはさっぱりなんだが・・・
そんな、俺を見てフィリス先生は、
「・・・援護をお願いします〜」
先ほどの那美さん同様の反応をする。
いや、本当に謎だ・・・
「でも、なんでいまだ捕まえきれてないんだ?
病室で二人っきりという、超がつくほどの好条件を持ってるくせに」
なにやらひそひそと話し始めるリスティさんとフィリス先生。
因みに、俺には聞こえない。
「さり気無く、セリスさんに教えてもらった、『そういう態度』はとった事はあるんだけど・・・
私って、そんなに魅力無いのかしら・・・」
「ま、確かに、同じ遺伝子を持ってる割には・・・」
と、そこで、フィリス先生と自分の身体をまじまじと見つめるリスティさん。
「うう・・・どうして・・・同じ遺伝子なのに・・・」
何やら、かなり落ちこんでいるフィリス先生。
「まあ、趣味によっては、その方が良いって言う奴もいるだろう。<個人的にはフィリスの方が良いのですよ〜、リスティもいいけど
まあ、それはしかたないから、そう言う時は、セリス特製のこの発情剤で・・・」
「そ、そんなものまで作ってるんですか?!セリスさんは」
「割りと種類は豊富に揃ってるみたいだよ。
あの手の男は一度物にしてしまえば、こっちの物だよ」
「でも・・・薬で手に入れる愛って・・・」
「そんな事言ってると、僕達みたいになるぞ」
「・・・説得力抜群ね・・・」
「全くだ・・・
それに、早めに決着を着けないと、
那美だって似たような条件をもってるよ」
「え?」
「あの二人の任務は夜、絶対と言ってい良いほど人里離れた人気無い、山の奥などの場所。
任務が完了するも、帰るだけの時間は無く、しかたなくその場で野宿する二人。
勿論、野宿の用意など持ってきているはずも無く、二人は身を寄せ合って身体を温める。
そして・・・」
何か、身振り手振りも加え物語を語る様に喋っているリスティさん。
それを聞いて青ざめていくフィリス先生。
俺とその二人の間にいて、多分その会話が聞こえている那美さんはというと、
「な、なるほど・・・つ、次ぎの仕事で・・・」
何故か、頬を赤らめて、そんな事を呟いている。
・・・激しい悪寒がするのは気のせいだろうか?
一方、それの様子を見ていた純心無垢な二人は、
「なんか、黒いオーラが漂ってない?」
「那美も、少し憑かれてるみたい」
と、話しているのであった。
そこへ、
「ちょっと〜、いつまで廊下で話しているの〜」
痺れを切らしたのだろうセリスさんがリビングから顔を出す。
そして、全員でリビングに移動する。
今この寮にいるのは、耕介さん、那美さん、久遠、薫さん、十六夜さん、御架月さん、
真雪さん、リスティさん、フィリス先生、セリスさん。
陣内さんはバイト、愛さんと知佳さんは仕事らしい。
「そう言えば、なんでここにフィリス先生がいるんですか?」
一段落した後、俺はさっき聞け無かった事を聞いてみる。
「ああ、今日は久し振りの休みだったんですけど、
珍しく朝早くに呼ばれたんですよ、
本当に、仕事の都合以外でははじめてじゃないかってくらい早起きのリスティに」
リスティさんは普段は何も無ければ昼まで寝ているらしい。
「そりゃあ、耕介よりは多少劣るにしても、
いい男同士の決闘だろ?
これを見逃すてはないだろう?」
因みに、リスティさんは、こうやって、ことあるごとに俺を耕介さんを比べてくる。
これで、どれほどリスティさんが耕介さんにご執心か伺える。
「その通り!
二人の美男子が血と汗を流しながら本気で行う決闘!
これほど良い酒の肴はそうはないぞ」
と、真雪さん。
因みに、一升瓶を片手に持っての演説だ。
「もう、リスティ!」
「真雪さんも!
それじゃあ恭也さんに失礼じゃないですか」
二人に説教するフィリス先生と那美さん。
「すまないね、恭也君」
謝罪してくる耕介さん。
「いえ」
ま、リスティさんの方は既に慣れている。
「そう言えば、真一郎君達遅いね」
時計を見る耕介さん。
見ればもう10時を回ってた。
結構話していたんだな。
「おかしいな、時間に遅れるようなメンバーじゃないんだけど」
首をかしげる薫さん。
「多分あと5分くらいだよ。
いつものトラブルみたいだから」
と、セリスさん。
その言葉に納得する俺となのは以外のメンバー。
それはそうと、
「なのは、お前は久遠と遊んできなさい」
俺はなのはと久遠に外に出るよう促す。
真一郎さん達が到着してから行われる事は、
別に見られては困ると言う訳では無いが、
今回は、血が飛び散るような戦いなるような気がする。
そんな戦い、二人にはできるなら見せたくは無い。
なのはは、御神流を習うというなら見せておく必要もあるが・・・
「うん、そのつもりだけど・・・」
と、そこでセリスさんの方を向くなのは。
「メティちゃんはいないんですか?」
と、問うなのは。
「メティ?ここの寮生なのか、なのは?」
俺は知らない名前だったので、なのはに問う。
「私のかわいい妹よ〜☆
言っておくけど、貴方にはなのはちゃんがいるんだからあげないわよ〜♪」
代わりに答えるセリスさん。
冗談なのか本気なのか、判別の難しい満面の笑顔で。
因みに、聞いたところ、彼女は冗談と言うものを滅多と言わないらしい。
「今年の春に転校して来た子なの」
なのはも続いて答える。
今年の春か、つまりはセリスさんと同じ時期か。
「ごめんね、メティ、今朝早く何処かに出かけてしまって」
申し訳なさそうに答えるセリスさん。
「そうですか・・・」
それを聞いて少し悲しそうななのは。
「友達なのか?なのは」
大体予想はつくが、一応確認しておく。
「私はそのつもりなんだけど・・・」
予想に反し、悲しい顔をするなのは。
そして、セリスさんに問う、なのは。
「セリスさん、なんか、私、メティちゃんに避けられている様な気がするんですが」
やっぱりその表情は悲しげだ。
それを聞いたセリスさんは、笑顔でも、少しまじめに、
「そう、あの子が・・・
でも、メティは貴方の事、好きよ。
帰ってきて、学校の話しをする時はあなたの事がほとんどだし、
それに、本当に楽しそうに話すもの」
優しい笑顔でそう告げるセリスさん。
「そうなんですか?」
その答えに少し驚くなのは。
「ええ。
あの子は・・・いえ。
なのはちゃん、あの子と仲良くしてあげてね」
何かを言おうとして中断し、
そして、本当に、聖母の様に優しい笑顔でなのはにそう頼むセリスさん。
「はい」
なのはは、それにいつもの笑顔で答える。
そして、なのはと久遠は森の方へ遊びに行った。
なのは達が見えなくなってから俺は、
「セリスさん、メティと言う子がなのはを避ける理由を解っていますね?」
俺がそう問うと、セリスさんは、少し悲しげな表情を見せ、
「・・・貴方や美由希ちゃんが友達を作らない理由に似て否なるもの・・・かな」
そう答え、すぐにまたいつもの笑顔に戻り、
「あ、着たみたいよ〜」
と、真一郎さん達の来訪を知らせる。
「遅れてしまってすみません」
遅れたことを謝罪するさくらさん。
「理由は、まあ、いつもの事です。
ただ、記録的な数でしたが」
苦笑している紫の髪の美少女。
この人が雪さんなのだろう。
「ホント、相変わらず凄かったわ〜」
と、忍。
・・・って、何故忍がここにいる?
「君が付いて来ると言い出したのに、寝坊したのも原因の一つなんだけど?」
忍を睨んでいる真一郎さん。
「あら、そんなの微々たるものだと思うけど?」
寝坊した事に関しては罪悪感0なのだろう忍。
「確かに忍も原因を作ってるね。
美女が一人増えて、4人もの美女が並んで歩いてたら、
そりゃあ、男は黙って行かせるような事はしないだろう?」
と、リスティさん。
ああ、なるほど、遅刻した理由は解った。
つまりは、ナンパされてたんだな、街で。
確かに、真一郎さんは見た目は・・・
「恭也君、何か不穏な事を考えてないかい?」
笑顔、確かに表情としては笑顔だが、
人を殺せそうな殺気を込めた目で俺を見る真一郎さん。
「いえ、気のせいでしょう」
キッパリキッチリ答えておく俺。
よほどその事で気が立ってるらしい。
「それにしても今日は凄かったわね〜
この時間に一番星から67番星まで昇るとは思わなかったわよ〜」
と、セリスさん。
どうやって知ったかは知らないが、どうも真一郎さん達は67人斬りをしたらしい。
これで帰りもやれば100人斬りにいくんじゃないか?
「一人目からきっちり逝かせてやっているというのに、
後から後からうじゃうじゃとぉぉ!!
ほんっと鬱陶しい事この上なかったよ」
思い出しているのだろう、凄い殺気だ。
「でも、先輩、だからって街中でざから鞘とはいえ振りまわし、
更に抜身にするのはやめてくださいね」
ざから?
真一郎さんが持ってる刀の事か。
「よく警察が来なかったものです」
ちょっと呆れている雪さん。
「勿体無かったよね〜、
いくらそれが原因の一つだからって、
いきなりまとめて肩の下まであった髪をざからで切り落しちゃうんだもん」
そう言えば、真一郎さんの後ろ髪は無造作に切った感じだが、
なるほど、伸びて更に美女と化していたから、それを切ったのか、街中で。
「せっかく、すっごい美人だったのになぁ。
勿体無い」
と、真一郎さんの後ろ髪を名残惜しそうに触る忍。
「忍ちゃ〜ん、もう血、あげないぞ♪」
かなりキている様だ・・・本気で怖いですよ、真一郎さん。
「ん〜それは困るけど・・・ま、いっか、今は恭也がいるし」
そんな真一郎さんにも動じず、そんな事をのたまう忍。
因みに俺は忍の家に行く度に(週に一度は行ってる、泊まりもしばしば)
結構な量を吸われている。
と、そこで、
「ちょっと待ってください、何で忍が先輩の血を飲んだ事があるんですか?」
ちょっと驚いていると言うか怒っているさくらさん。
「ん?いや〜かわいい姪の頼みで、前はちょくちょく吸わせてあげてたけど・・・」
ガシッ!!
そのセリフを聞いて突然真一郎さんの肩を掴むさくらさん。
「先輩・・・貴方の血は私だけの物だって言いませんでしたか?」
まるで地獄の底から聞こえてきそうな声のさくらさん。
「い、いやあ、でもほら、かわいい姪が栄養失調で成長しないのはどうかなぁと、
思ったりしたわけなんだけど・・・」
先ほどまでの殺気は何処へやら、完全にさくらさんに気圧されている真一郎さん。
「いいじゃない、さくら、それくらいケチケチ・・・・いえ、なんでもないです、ごめんなさい」
さくらさんに睨まれて怯んでいる忍。
しかし、何故そこまで怒っているんだ?
「ああ、さくらはね、一度雪に真一郎を寝取られて以来、
独占欲が強くなってるんだよ」
と、俺の疑問に答えてくれるリスティさん。
まあ、答えてくれるのは助かるが、四六時中心を覗いているのだろうか?
「まあ、近くにいれば大抵は」
左様ですか・・・
あ、真一郎さんがさくらさんに血吸われてる。
「あの〜さくらさん、私この後模擬戦やらんといけないのですが〜」
逆らえないのか、身を委ねている真一郎さんだが・・・
あれ、結構吸われてるぞ・・・経験者なのだから解る。
「さくらちゃんだけずるいです、私も♪」
と言ってさくらさんとは逆側に抱きつく雪さん。
そして・・・
「あ〜〜雪まで俺の熱(カロリー)を奪うな〜〜」
涙ながらに訴える真一郎さん。
一見美女(美少女と言っても差し支えないだろう)
二人に抱きつかれる美少年という風景だが・・・
後で聞いた話だがこれが普通らしい。
数分後。
「いや〜待たせてしせちゃったね・・・」
庭先に出て刀を持つ真一郎さん。
・・・フラフラだけど。
「大丈夫ですか?」
血と熱を奪われて、結構参ってるんじゃないだろうか?
「いや、まあ、これくらいなら支障は無いよ」
・・・そうか。
「ま、ざからを使用してならという条件がつくけどね」
そう言いながら柄に手を添える真一郎さん。
その瞬間
ザワッ!!
この空間が揺らぐ・・・そんな感じがした。
そして、真一郎さんの気配が変わる。
「庭全体に結界を張ったし、これだけのメンバーが揃っていれば、
即死でもない限りは癒してあげられるから、
全力で闘っていいわよ〜」
と、セリスさん。
庭先で俺達の闘いを観戦する皆。
確かに、この場には十六夜さん、那美さん、フィリス先生、セリスさんがいて、
さくらさん、忍も止血はできる。
考えて見れば贅沢な面子が揃っている。
「だってさ。
じゃあ、遠慮無く行くよ?」
「ええ」
俺は八景を抜き、構える。
その頃
ザワッ!!
「!!・・・なんだろう?嫌な感じがする」
森で久遠と遊んでいたなのはは、周囲の空気の変化に気付く。
「ねえ、くーちゃんは何か感じた?」
と、一緒に遊んでいる久遠の方を見る。
すると、
「・・・」
黙ってさざなみ寮の方角を見つめる久遠。
「くーちゃん?」