上着から八景を抜刀し、

 少し低めに構える恭也。

 対して、真一郎はざからを鞘ごと持ち、抜刀術の構えを取る。

 

 サァァァァ・・・

 

 風が流れ、落ちていた木の葉が舞い上がる。

 そして、丁度、対峙する二人の間に木の葉が一つ舞い落ちる・・・

 その木の葉が地面に着いた瞬間!

 

 ザッ!!

 

 御神流 奥義乃歩法 神速  

 

 恭也の目に映る物が白黒になり、全ての物の動きはスローモーションに・・・

 

「覚醒」

 

 ならない!

 それでも真正面から一気に突っ込む恭也。

 そして真一郎の間合いに入ろうとした瞬間、

 

「!!」

 

 神速・改

 

 危険を感じた恭也は、あらん限りの力で右方向に飛び退く。

 

 ダン!!

 

 地面が少し凹む程の衝撃で横にそれる。

 そして、本来恭也が通ろうとしていた場所には、

 

 シュン!!

 

 小さな風を斬る音と、

 

 ドン!!

 

 空間が捻じ曲げられるような衝撃が走る。

 

 ザァァァ!!

 

 横飛びから着地し、地を削りながら止まる恭也。

 

「神速でも避ける事しかできない程の速度の抜刀術・・・」

 

 改めて目標を確認する恭也。

 因みに言っておくが、無策で突っ込んだのでは無い。

 恭也には抜刀術を払い除けて懐に入り込む自信があったのだ。

 さっきまでは。

 真一郎は先ほどを同じ体勢で1歩たりとも動いてはいない。

 いや、一つだけ違うのは、納刀していない。

 否、できないのだ。

 

「あの体勢から置き土産があるなんて、

 まったく恐ろしいよ、御神の剣士と言うのは」

 

 そう言って小刀が4本刺さった鞘を捨てる真一郎。

 その顔は何処か楽しげに微笑んでいる。

 そして、ざからを正眼に構える。

 

 その時、観戦しているメンバーは

 

「・・・・・・一体何が??」

 

 全く見えていない那美。

 

「私もほとんど見えない」

 

 二人の早さに驚愕する真雪。

 

「始まってすぐに神速に入った恭也君が、

 真一郎君の間合いに入る直前に霊力を使った神速で、

 横に跳んで、真一郎君の抜刀術を避け」

 

「その際、恭也君は、自分の上着の一部、小刀が隠してある部分を、

 右手の小太刀で切り落して、左手の小太刀で撃ち出したんだ」

 

「それを真一郎様は2段抜刀である鞘で受けとめたんですよ」

 

「因みに時間にしてそれ全てで1秒かかってません」

 

 解説をいれる耕介、薫、十六夜、御架月。

 

「人間業じゃないわ・・・」

 

 などと呟くさくら。

 

「まったくね」

 

 頷く雪。

 

「・・・いや、いいんだけどね」

 

 そんな二人を見て何か突っ込もうとした忍だが、取り合えず黙っておく。

 

「・・・再開するよ」

 

 セリスの声に再度観戦しているメンバーにも緊張が走る。

 

 恭也視点

 

 強いとは解っていたが、ここまでとは・・・

 真正面からでは無理だな。

 ならば、俺の持てる力の全てを持って闘うのみ。

 俺は今持てる武器とできる技で行える行動で、

 この相手に有効と思われるものをいくつか羅列し、勝てる勝機を見出す。

 ・・・よし!

 

 御神流 奥義乃歩法 神速  

 

 俺は再び神速に入る。

 

 

 真一郎視点

 

 まいったな〜、思ったより強いや。

 これは本気を出さないとこっちが殺られちゃうかも。

 でも、ざからを開放すると手加減が難しいんだよなぁ。

 ・・・ん?来るかな。

 恭也君に動きが見える。

 『神速』っているのでもう一度来るみたいだな。

 しかもまた一直線に。

 それは効かない事は解ってるはずだから何か策か?

 

 俺は恭也君を迎え撃つ為にざからを薙ぎの構えをとる。

 そして、恭也君が俺の間合いに入る、その1歩手前、

 

 ドゴン!!

 

 地響きが鳴るほどの勢いで地を蹴り恭也君。

 そして巻き起こる砂煙。

 

 つまりは目暗まし・・・だけじゃない!!

 砂煙の中から向かってくる飛針、しかも霊力付きが1,2,3,4本。

 更に上から時間差で3本。 

 これくらいなら・・・

 いや、まだ!

 五時の方向から気配!

 これ霊力と大きさは恭也君本人か!!

 しかし、この程度なら!

 

 ゴゥ!!

 

 俺はざからをやや斜めに切り上げ、風圧で正面の飛針を吹き飛ばし、

 返刀で上方の飛針も飛ばし、そのまま切り落しの形で、

 つまりは、円を描く様な形で刀を振るい、

 最後に間合いに侵入して来た恭也君を脳天から斬り・・・

 

「な!」

 

 飛針を払う為に巻き起こした風圧で晴れた砂煙、

 その中で俺に向かって来ていたのは恭也君のジャケットだった。

 

 

 視点変更恭也視点

 

 今真一郎さんは俺の投げた囮の飛針を予想通り風圧だけで切り払い、

 最後に俺の残りの未使用の飛針と予備の小太刀の入ったジャケットに斬りかかっている。

 その真一郎さんから見て4時の方向。

 俺はそこから真一郎さんに斬りかかる!

 俺のジャケットは特性で対刃性が高く、重りである飛針と小太刀の位置の関係で、

 切り落す形で斬られると、絡まる様にした。

 いくら真一郎さんでもこの隙は埋められまい!

 

 御神流 奥義乃壱 虎切

 

 遠間からの抜刀術。

 真一郎さんの刀はまだ切り下している最中、

 このタイミングは避けられい!

 

 ヒュン!!

 

 そして、刀は鞘から抜かれ、真一郎を斬り・・・

 

 ガッ!

 

 だが、そこで真一郎は右腕を差し出し、その斬撃を受けとめる。

 

 く!やはりか。

 俺でもそうする。

 命より腕1本の方が安いからな。

 だが、これが絶対霊力量の違いか?

 腕に集中され、蒼く輝くまでの密度になった霊力で斬撃が皮一枚斬っただけで進まない!

 

 更に、真一郎は強引にそこから恭也の右手を取りに来る。

 

「ちっ!」

 

 恭也が長く留まりすぎた事に気付いたが、少し遅く、

 右の八景を握り取られてしまう。

 真一郎はその女性の様な外見からは想像できない握力で八景を握り、放さない。

 恭也は取られた八景を見捨て、一旦後退しようと飛ぶ体勢に入ったが・・・

 

 間に合わない!

 

「ハァァッ!!」

 

 絡まったジャケットごと恭也を斬りつける真一郎。

 その目は、殺気で満ちていた。

 

 ドオゥン!

 

 叩き飛ばされる恭也。

 空中で反転するほど勢いで飛ばされながらも、なんとか意識を保ち、

 真一郎から8mほど離れた位置で着地する。

 

「がっ・・・」

 

 ポタ・・・ポタ・・・

 

 口から流れる血。

 右足からもかなりの出血をしている。

 

 斬撃自体は、絡まっていたジャケットと、途中で止めたおかげで防げたが。

 止められなかった分を右足に受け、もう跳ぶ事はできないだろう。

 斬撃を止めるとき左の八景の峰に添えていた右腕も折れた。

 後、衝撃が内臓まで伝わったな・・・

 もう、後一撃が限界か・・・

 だが、まだ勝機はある!

 後は真一郎さんそのまま向かってくれば・・・

 

 真一郎は恭也これだけの瀕死の重傷を負わせたにも関わらず、 

 隙を見せず恭也に向かい、構える。

 ざからに絡まったジャケットは取っていない。

 それを取るような隙は作れないからだ。

 そして、真一郎は一気に距離を詰める為に跳ぶ!

 

 今だ!

 

 恭也は左てに絡めていた特殊0鋼糸に霊力を走らせ、

 先ほど、砂煙を巻き上げた際に囮と一緒に作っておいた、

 飛針による簡易結界の方陣を発動させ・・・

 

 ドゴォオンン!!!

 

 突如、その場の誰しも予想しなかったタイミングで、

 真一郎に雷が降り注ぐ。

 

「な!?」

   

 あまりに突然の事態に驚愕する恭也。

 真一郎は間一髪直撃を免れ、多少焦げながらも、後退していた。

 そこへ、

 

「恭也をいじめる奴、許さない!!」

 

 大人モードの久遠が現れる。

 その瞳を怒りと憎しみに染めた・・・

 

「久遠!」

 

 そんな久遠を見た俺は、咄嗟に叫んだ。

 何をそんなに慌てて叫んだのか、解らなかったが・・・

 

「!・・恭也」

 

 俺の声でいつもの目に戻った久遠が俺に駆け寄ってくる。

 

「大丈夫だよ」

 

 泣きそうな目をしている久遠に俺はそんな言葉をかける。

 かなり嘘だが・・・本当はこのままだと死ねる程の重症だ。

 

「く〜ちゃ〜〜ん」

 

 更にそこになのはが戻ってくる。

 久遠を追い掛けて来たのだろう。

 

「くーちゃん、急にどうし・・・

 わっ!おにーちゃん凄い怪我!!」

 

 俺を姿を見て驚くなのは。

 まあ、当然といえば当然の反応だ。

 

「今日はここまでね。

 さ、フィリス、那美、呆けてないで治療、治療」 

 

 結界を解き、パンと手を鳴らして未だ呆けていた観戦組みの気を戻すセリスさん。

 そして、少し遅れ、慌てて俺に駆け寄ってくるフィリス先生、那美と忍。

 

「「「恭也(君)(さん)!!!」」」 

 

 すぐに治療を始めてくれる3人。

 久遠はその3人に跳ね除けられる様にして後ろに下がる。

 

「那美さんは痛めてる内臓に治癒を!

 忍さんは外傷をでき得る限り止血をして!

 失血が多いわ、くれぐれも吸わないように!」

 

 俺を見てすぐに指示を出すフィリス先生。

 

「解りました!」

 

「任せて!」

 

 珍しい3人の共同作業により治療される俺。

 俺は3人に身を任せた。

 

 

 なのは視点

 

 フィリス先生、那美さん、忍さんの3人の女性に看護されているおにーちゃん。

 このメンバーではなのはにできることは無いので大人しく離れて見ている。

 子供モードになったくーちゃんは3人に押し退けられる様にして離されたせいか、

 3人とおにーちゃんを見てかなり悲しげだ。

 

「ふ〜・・・疲れた」

 

 そう言って縁側に座る真一郎さん。

 

「大丈夫ですか、先輩?」

 

 さくらさんがちょっと焦げている真一郎さんを少し心配そうに見る。

 

「まあ、なんとか。

 ごめんな、久遠、恭也君をいじめてるつもりはなかったんだ」

 

 そう、くーちゃんに謝罪する真一郎さん。

 

「うん・・・真一郎も大丈夫?」

 

 先ほど自分で放った雷撃で焦げている真一郎さんを見て、

 悲しげに問うくーちゃん。

 

「ああ、俺は大丈夫だよ。

 むしろ、あの時止めてくれて助かったよ」

 

 そう言って笑顔を向ける真一郎さん。

 

「取り合えず止血はしますね」

 

 と、さくらさんは真一郎さんの腕、

 多分おにーちゃんがつけたのだろう傷を舐める。

 

「じゃあ、私は火照った身体を冷やしましょう」

 

 と真一郎さんに抱きつく雪さん。

 

「・・・あ〜何気に二人とも吸ってない?」

 

 こっちはいたって平和そうだ。

 そんな中、私はふとセリスさんの方を見る。

 

「ん〜、私、出番無し?」

 

 ちょっと残念そうに溜息をつくセリスさん・・・に見えたが・・・

 その目はくーちゃんを見ている。

 ・・・なんでだろう?微笑んでいるのに・・・悲しそうな目・・・

 

「?どうしたの?」

 

 なのはの視線に気付いて私を見るセリスさん。

 

「はにゃ、何でもないです」

 

 なのはは別に悪い事をしたわけじゃないけど少し慌ててしまう。

 

「そう?」

 

 ちょっと怪訝そうにはしたけど、すぐいつもの笑顔に戻るセリスさん。

 その時の目は、もういつもの、皆をみて楽しそうにしている目だった。

 

 

 1時間後 真一郎サイド

 

 治療その他が残っている恭也君達を残し、

 先に帰路につく俺達3人。

 

「それで、正直な所どうなんです?あの恭也君は」

 

 さざなみ寮が見えなくなった頃、聞いてくるさくら。

 

「強いよ、本気で怖いよ、あの子は」

 

 俺は正直な感想を述べる。

 

「2度目の接触、剣を腕で止めた時は本気でしたね」

 

 真剣な目の雪。

 

「あの時、本気を出さなかったら殺されていたね、確実に。

 ホント、久遠が止めなかったら、あのまま切り殺していたかもしれないよ」

 

 俺はざからを握る。

 

『あるいわ、主が殺されていたか、だな』

 

 ざからの声が3人の頭に響く。

 実はあんまりこの念話って好きじゃなけど。

 

「そう、結局、発動もしなかったけど、飛針で画いた結界・・・

 もし、久遠が来ないで、あれが発動していたら・・・」

 

 俺が結界でどれくらい足止めされるかだな・・・

 とにかく、どっちかが死んで、下手したら相打ちになったかもしれない。

 

「世の中に、しかもこんな近くにまだあんな子がいるなんてね」

 

 感心する様に呟く雪。

 

「しかも、忍の夫最有力候補ですし」

 

 と、呟くさくら。

 敵は多いけど、とはちょっと怖くて言えない。

 

「ま、今回学んだのは、

 取り合えず御神の剣士を敵に回したら、

 出し惜しみせずに一撃で殺らないといけないって事だね」

 

 俺は冗談っぽく言うが、内心はマジだ。

 願わくば、敵に回らないことを。

 

「それはそうと、今晩の晩御飯の食材がありませんけど?」

 

 唐突にそんな事を言い出す雪。

 

「そうでしたね。

 あ、先輩は先に帰ってください。

 怪我人に荷物を持たすわけにはいきませんし」

 

 俺の怪我を気遣ってそんな事を言ってくれるさくら。

 

「いや、この程度なら荷物持ちくらい問題ないよ」

 

 流石に女の子二人に力仕事を任す訳にもいかないので、そう答える俺。

 

「だめですよ。

 このまま買い物に行ったらざからを握ってられないじゃないですか」

 

「そうですよ。

 今夜の為に、あと数時間でキッチリ全快してくださいね」

 

 二人して立ち止まって静止される俺。

 つーかそっちですか?

 因みに、ざからを握っていれば俺の身体能力は高まり、

 自己修復も早くなる。

 この程度の傷ならあと二時間も握っていれば回復するだろう。

 ただ、スタミナは消費されるけど。

 

「では、私達はスタミナの付く食材を買って来るので、

 家で大人しく待っててくださいね」

 

「じゃあ、ざから、真一郎さんをよろしくね」

 

『ふむ、承知した』

 

 などと楽しげに街に向かう二人と。

 楽しげに了承するざから。

 

「は〜・・・俺に明日はあるのかな?」

 

 二人が見えなくなってから呟く俺。

 

『どれくらいでどちらか一方を沈めるかにかかっておるな』

 

 キッチリ返してくるざから。

 こいつも随分俗化したな〜と思う・・・

 俺は、今夜の対策というか作戦と言うか、

 戦術を考えながら家に向かった。

 

 

 恭也サイド

 

 あの後、フィリス先生の正確な診断と那美さんの治癒能力、

 忍の止血もあいまって、病院に行く事無くその場で治療を終えた。

 ただ、今日一日は運動をしてはいけないと、フィリス先生にかた〜〜く言われ、

 更にはなのはを見張りに立てられてしまった。

 仕方ないので、取り合えず寮でお風呂をかり、血と汚れを落とし、

 何故か完全に切断した個所や血のシミも完全に修復されていた服を着て、

 現在、那美、久遠、なのはと神社でのんびりとした時間を過ごしている。

 

「あはは、くーちゃん、いったよ〜」

 

「くぅぅ〜ん♪」

 

 ボールで遊んでいる二人。

 因みに久遠は子供モード。

 実に楽しげだ。

 

「♪〜♪〜〜」

 

 那美さんは鼻歌を歌いながら落ち葉を集めている。

 俺はというと、そんな3人を眺めながらお茶をすすっているのである。

 ・・・運動を禁止されたのですることが無いのだ。

 しかし・・・

 

「見事なまでに修復されているな」

 

 俺はジャケットを確認する。

 確かに切り落した場所も、縫い目もなく修復されている。

 むしろ新品の時のように綺麗だ。

 更には飛針と小刀も完璧に元に戻っている。 

 これは新調したのかもしれないが・・・

 

 ピ! ピ!

 

「ん?」

 

 俺が武具の確認をしていると、近くから機械音が聞こえてくる。

 見ると、なのはが携帯を弄っている。

 

「あ!ちょっと待てなのは!

 俺は武具の確認をしているだけで、別に鍛練をしようとしていた訳じゃないぞ」

 

 フィリス先生に掛けているのだろうから、俺はすぐに止める。

 

「ホント〜?」

 

 疑いの眼差しで俺を見るなのは。

 

「ホントだって」

 

 因みにフィリス先生はなのはの連絡があれば飛んで来ると言っていた。

 あの人は下手したら本気で『飛んで』来るからな・・・

 

「疑わしい行為も止めてください」

 

 そう指摘するなのは。

 

「解った」

 

 俺が答えるとよろしい、と言った感じに微笑んで、

 久遠との遊びを再開する。

 

「厳しいのね、なのはちゃん」

 

 そんな様子を見ていた那美がなのはにそう微笑む。

 

「おにーちゃんは普段無茶が過ぎますから、

 これもおにーちゃんの身体の事を思っての事ですよ」

 

 などと答えるなのは。

 なのはにそんな事を言われるとは思わなかった。

 やはり俺は割と心配を掛けているんだと改めて思う。  

 そう言えば最近は前にも増して死にかける事が多い・・・ 

 

 暫しして、遊びに飽きたのか、久遠となのはも俺の両脇に座り、

 一緒にお茶を飲み始める。

 那美さんは、この季節、集めても集まりきらない落ち葉をまだ集めている。

 声を掛けた所、きりのいい所で中断して来るそうだが・・・きりがあるのか疑問だ。

 

「ところでおにーちゃん。

 訓練の時っていつもあんなに怪我してるの?」

 

 唐突にそんな事を聞いてくるなのは。

 少し、不安げな目で。

 

「いや、あそこまで競った事も無いし。

 今日みたいなのは初めてだよ」

 

 俺がそう答えると、

 

「そうなんだ」

 

 少し安心した様子のなのは。

 だが、またすぐに少し不安げな目で、

 

「おにーちゃんは、このまま退魔師さんになるの?」

 

 そう聞いてくる。

 俺は少し答える事を悩んだが、

 

「・・・初めは那美さんや久遠、忍の事をもっと理解したくて学んだんだがな。

 意外に才能があるらしいんだ。

 俺は、きっと、このまま那美さんと久遠と退魔の仕事を続けるだろうな」

 

 俺は真剣にそう答える。

 まだ、かーさんにもちゃんとは言っていない事だ。

 そして、俺は、

 

「仕事の時は久遠と那美さん、大抵この3人で行う。

 俺達は3人なら無敵だ。

 それに、そうしたら、俺達はずっと一緒にいられるし、

 同時に、お前と久遠もずっと一緒にいられるしな」

 

 そう付け加えてなのはの頭に手を置く。

 

「あ、そうか・・・」

 

 いろいろ、この先の事を考えるなのは。

 ちょっと複雑そうだが、嬉しそうだ。

 

「恭也、久遠とずっと一緒?」

 

 久遠が俺の腕を引っ張って聞いてくる。

 

「ああ、ずっと一緒だ」

 

 俺は躊躇する事無く答える。

 すると、

 

 シュバ!!

 

 大人モードに変身する久遠。

 

「恭也、ずっと一緒〜♪」

 

 嬉しそうに抱きついてくる久遠。

 

「おいおい、久遠」

 

 おだやかに宥めて見るが離れる気配は無い。

 更には、

 

「あ、い〜な〜、なのはも〜☆」

 

 なのはものしかかってくる始末。

 

「おいおい、二人とも」

 

 嫌というわけでは無いが、できれば退いて欲しい、俺としては。

 だが、

 

「なのは、はんぶんこ」

 

 と、前面ぎみだった抱きつきかたを側面に変える久遠。

 

「うん、はんぶんこ」

 

 意図を理解して反対側に抱きついてくるなのは。

 俺の自由はどうなるのだろうか?

 

「楽しそうですね〜」

 

 そんな状況を何時の間にか来ていた那美さんが微笑ましく見ている。

 

「できれば助けて欲しいです」

 

 自力では無理そうなので助けを求めて見る。

 

「はい、それはいいですけど・・・

 あの、私達はずっと一緒ですか?」

 

 と、何故かちょっと顔を赤らめて聞いてくる那美。

 多分、先ほどの会話も聞いていたのだろう。

 まあ、声の聞こえる範囲だし。

 

「ええ、一緒ですよ」<他意は勿論無い

 

 別に躊躇する事もないので即答する俺。

 

「そうですか〜♪」

 

 それを聞くと、何故か浮かれ気味で、再びホウキを持って、

 落ち葉を掃きに戻ってしまう那美。

 

「あの〜もしも〜し?」

 

 聞いちゃいない・・・

 

「恭也〜」

 

「えへへ」

 

 俺に抱きつくのが何が楽しいのか、

 やたら嬉しげな二人。

 

 この状況は美由希が来るまで続くのだった。

 美由希は何故か殺気を纏っていたが・・・何かあったのだろうか?

 

 そして、今日も平和に一日が過ぎて行った。

 

 

 その日の深夜 とある山の中

 

 草木も眠る丑三時。

 深い山の中を歩く二人の少女。

 一人は風芽丘の制服をきた16ほどの金髪ポニーティルの美少女。

 もう一人は私立聖祥付属の制服を着た8歳くらいの、

 腰まである赤髪を首のところで結った美少女。

 時間、場所に不釣合いこの上ない格好の二人だ。

 

「どう?今回、お姉ちゃんの見つけた原石は?」

 

 聖祥付属の制服を着た少女が風芽丘の制服を着た少女に問う。

 

「順調よ〜♪ 

 このままなら私を殺せる様になる日も近いわ〜」

 

 楽しげに答える少女。

 

「ふ〜ん、それほどなんだ。

 それにしてもやっぱりお姉ちゃんも磨くと光る物、好きだよね」

 

 答えを聞いた少女は少し意外そうな顔をして、

 いつもの様に、姉をそう評する。

 

「どこぞの実年齢57歳、外見子供の人じゃあるまいし・・・

 私は素質を活かせればいいな〜っと思ってるだけよ」

 

 妹の評しかたが少しに嫌そうに反論する姉。

 

「ま、そう言う事にしてあげる」

 

 意地悪く微笑む妹。

 

「も〜」

 

 ちょっと拗ねる姉。

 いつものやりとりである。

 少し間を置いて、姉は少しまじめな顔をして

 

「・・・今日なのはちゃんが貴方を探してたわよ」

 

 妹に告げる姉。

 

「・・・そう」

 

 その名を聞いた妹は、先ほどまでの明るさは無く、素っ気無く答える。

 

「ねぇ、メティ、なのはちゃんはあの久遠も受け入れたわ。

 だから、貴方も・・・」

 

「お姉ちゃん!」

 

 何かを言おうとする姉の言葉を遮る妹。

 

「私は、お姉ちゃん達さえいてくれればそれでいいんだよ。 

 友達なんかいらないよ」

 

 真剣な顔で、そう言いきる妹。

 

「・・・そう」

 

 少し悲しげな姉。

 

「それより、なんで今日の仕事、あの原石に回さなかったの?

 丁度いいレベルだと思うけど?ボスも大したことないみたいだし」

 

 話題と雰囲気を変えようとする妹。

 

「ん〜確かにレベルは丁度いいんだけどね」

 

 そう言って立ち止まる姉、妹も同時に気付き足を止める。

 

 カサ カサ・・・

 

 少女達の前方から、出現するスーツ姿の男、女子高生、OL風の女性などなど・・・

 それらも少女達同様にこの場に似つかわしく無いが、

 ただ、少女達と違うのは、それらには生気、と言われる物は無く、

 服も、肌もところどころただれている。

 そうそれはかつて人だった物・・・

 

「まだ、これは早いわ、まっとうな人生を送ってきた子達にはね」

 

 そう言って軽く構えを取る姉。

 

「それもそうね」 

 

 妹もそれに続く。

 

 そして、夜の山に光と闇が交差する。

 


 続く


 あとがき

 

セリス「は〜い、この世の果てで愛の唄う錬金術師セリスちゃんで〜す」

メティ「今回初登場メルティーナです。

    因みに私達、サブであってヒロインではありませんのであしからず」

セリス「私は既婚者だし〜メティは婚約者がいるもんね〜」

メティ「残念ながら二人ともでてこれないけど」

セリス「そうね〜残念よね〜

    それはそうと、私達の事ですが、私達、結構強いです」

メティ「あと、組織的に大きいから恭也達や薫達は私達が『雇う』形をとってるけど、

    まあ、彼らとは対等な仲だよ」

セリス「お友達よ〜」

メティ「じゃあ、あんまり長くなっても仕方ないので」

セリス「また次回お会いしましょう」