月夜

第参夜 予感

 

 

 次ぎの日

 

 今日は月曜日、よって就職先が決まっているとは言え学生である俺は、

 一応学校に行かなければいけない。

 今日もただただ、授業を右から左へ流すだけの時間が始まる。

 

「いいな、お前は気楽で」

 

 休み時間、赤星が少々羨ましげに俺を見る。

 

「その代わり就職先は、一瞬でも気を抜けば死ぬ世界だ」

 

 赤星だからこそ言える言い方で説明しておく。

 こんな事、母さんやなのはの前では死んでも口にできん。

 

「ま、確かにそうだな」

 

 納得する赤星。

 因みに赤星も久遠その他の秘密を大体知っている。

 頻繁に家に来ているので、家と関わりが深いからどうせいつかバレると踏んで、

 那美さん達の許可をちゃんと得て、俺が大抵の事を話してある。

 流石に驚いてはいたが、赤星は全て受け入れてくれた。

 

「そう言えばお前大学はやっぱり行かないのか?」

 

 などと問うてくる赤星。

 

「一応短期大学に行く予定だ。

 今時は忍者でも大卒の肩書きがいるらしいからな」

 

 これはセリスさんやこの仕事の先輩たる人達に言われたことだ。

 かーさんにも大学には通っておいた方がいいと言われていたので、

 一応短期大学に行くことになっている。

 

「じゃあいいのか?勉強しなくて?」

 

 まあ、当然の疑問だな。

 

「肩書きが必要なだけだしな何処でもいい」

 

 それでも最低限の学力が必要だからこうして登校してる訳だ。

 かーさんあたりがこんな事知ったら怒るだろうが・・・

 因みに隣で今日も眠っている眠り姫、こと忍は一応専門学校に通う予定らしい。

 那美さん、美由紀、レン、晶も大学には通う予定だそうだ。

 真一郎さんも薫さんも大学は出ていると言っていたし。

 

「そう言うお前はどうなんだ?」

 

 赤星は寿司屋の跡取と言う道がある。

 そのわりには板前修業をしているわけじゃなさそうだが。

 

「いや、実際俺は今物凄く悩んでるんだよ。

 一応大学には入るがな。

 親も俺を板前にしようとは特に考えてないらしい」

 

 大学に行くとなると本気で寿司屋を継ぐという未来は想像しがたいな。

 この場合、親に期待されてないのか、それても自由に育てられてるのか・・・

 そう言えば赤星に兄弟はいたか?

 

 昼休み

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 やっと午前の授業が終った。

 俺はやっていた詰め将棋の本を仕舞って、弁当を出す。

 因みに弁当は店の試作品だ。

 

「お、その詰め将棋やってたのか?」

 

 俺のすぐ後ろにいる赤星が俺の仕舞おうとした本を見る。

 

「ああ、簡単過ぎてつまらなかったがな」

 

 次ぎの暇つぶしをみつけなくてはな。

 

「ああ、俺にも簡単過ぎて、すぐに止めた本だ」

 

 と、俺の意見に同意する赤星。

 因みに俺が読んでいたのは『虎波出版 竜王詰将棋百選』とか言う奴だ。

 まったく、題名だけ大げさな物だ。(本当は難しい)

 

「ところで、どうする?」

 

 メンバー(忍、那美さん、美由希、レン、晶、赤星)には試作品は朝、既に渡してある。

 俺は何処で食うかを問う。

 

「いや、今日はちと部の奴等と先約があってな」

 

「そうか」

 

「悪いな、感想は直に言いに行くよ」

 

 そう言って教室を出る赤星。

 さて、俺はというと、最近は中庭で食べるのが常となっている。

 因みにメンバーは那美さんと忍と美由希、俺。

 たまにレンと晶、赤星も混じる事がある。

 

「じゃ、そろそろ行くか・・・」

 

 と言う訳で、忍と共に中庭に行こうと思うのだが・・・

 

「まだ寝てるのか」

 

 眠り姫の二つ名は伊達ではない様だ。

 まだ、肘を付いてノートをとるフリの体勢で寝ている。

 

「・・・」

 

 俺はそれを見て、何となく忍の分の弁当を頭に乗せてみる。

 何?女性の鞄を漁るな?

 俺と忍の関係だ、気にするな。

 

「・・・お、以外に安定するな。

 よし・・・」

 

 俺は調子にのってノートを2冊立てて並べ、その上にノートを乗せて、筆入れを置き、

 更にその上に教科書などなどを乗せていく。

 足りなくなったので俺のも足しておこう。

 

 

「・・・忍は相変わらず寝相がいいな。

 お、もう乗せるものが無いか。

 仕方ない」

 

 俺は寝ながらにして曲芸を披露している忍を置いて、

 一人中庭へと向かう。

 そんな俺と忍に数多の種類の視線が向けられていることなど言うまでもないだろう。

 その中には勿論、忍の扱いに対する殺気も混じっている。

 

 

 中庭

 

「あ、恭也さ〜ん、こっちで〜す」

 

 先に着ていた那美さんが手を振って俺を呼ぶ。

 

「すみません、遅れましたか」

 

 待っていた那美さんと美由希に謝罪する。

 

「そんなに経ってはないよ。

 ところで、忍さんは?」

 

 何時も一緒に来る忍がいないことを怪訝に思う美由希。

 

「ああ、すぐに来るだろう」

 

 あんな姿勢で寝ていてそう長く維持できるとは思えん。

 

「そう?」

 

 特に追求する事無く、その話題を終え、

 食べる準備を始める俺達。

 と言っても弁当を広げるだけだが。

 そして、食べ始めようとした時だ、

 

 ドドドドドドド!!

 

「きょ〜〜う〜〜や〜〜〜!!」

 

 学校だと言うのに目を赤く染めた忍が走ってくる。

 

「遅かったな、忍」

 

 しれっとそんな事を言う俺。

 

「恭也ぁぁ〜〜あんたね〜〜〜」

 

 お、結構怒ってるな。

 やりすぎたか?

 

「まあまあ、忍、落ちついて、目を戻しなさい。

 ダメよ、恭也君、年頃の乙女にあんな事したら」

 

 と、忍を宥めながら現れるセリスさん。

 

「何したの恭ちゃん?」

 

 忍の形相に冷や汗をたらしながら聞いてくる美由希。

 

「教室で辱められたのよ!」

 

 美由希の問いに答える忍。

 

「は、辱められた〜?

 恭ちゃん!!」

 

 何を想像したのか、顔を赤らめて問い返し、

 俺を睨む美由希。

 

「耐えがたい恥辱を味わったわ」

 

 更に続ける忍。

 これはかなり怒ってるな・・・さて、どう宥めるか・・・

 

「もう・・・どうして忍にあんな事するのかな〜」

 

 呆れているセリスさん。

 

「それは忍だからですよ。

 忍でなければあんな事しません」

 

 取り合えずセリスさんの問いに答えておく。

 

「私だから〜〜!!・・・私だけ・・・私は特別?」  

 

 何故か徐々に鎮火していく忍。

 

「ん?ああ、お前は特別だが?」

 

 良く解らんが取り合えず鎮火したようだ。

 

「ダメよ〜恭也君。

 好きな子をいじめたくなるのは解らないでもないけど、

 公衆の面前であんなことしちゃ」

 

 俺に笑顔のまま(この人が笑顔を崩す事は少ない)、軽く注意するセリスさん。

 

「はい、すみません」

 

 まあ、素直に謝っておくのが一番だろう。

 

「好きな子・・・特別・・・」

 

 何やら忍がブツブツ言っているな?

 しかも俺は美由希と那美さんにまで睨まれてるし・・・

 

「あ、いけない」

 

 と、そんな中、セリスさんが声をあげる。

 何かと思い、全員セリスさんを見るが、

 

「ごめんごめん、こっちよ〜」

 

 と、茂みの方に手招きするセリスさん。

 確かに、そこには何か気配を感じていてが・・・

 

「くぅぅん」

 

 なんと、久遠(大)が出てくる。

 しかもここの制服を着て。

 耳と尻尾はセリスさんが消しているのだろう。

 完全な人型だ。

 

「「「久遠(きつね)!!」」」 

 

 流石に驚いて皆で声をあげる。

 

「どお?かわいいでしょう」

 

 久遠を見て凄くうっとりしているセリスさん。

 そう言えば可愛い子(男女問わず)には目が無いとか言ってたな。

 

「そりゃあ、かわいいですが・・・」

 

 何故ここに?と問う前に。

 

「本当?久遠、これ似合う?」

 

 と、俺の言葉に対して問い返してくる久遠。

 

「ああ、良く似合ってるぞ、かわいい」

 

 俺は思っているままを答える。

 すると、

 

「恭也〜」

 

 と、抱きついてくる久遠。

 ん?何か後ろから殺気が2つと、羨むような視線が1つ・・・

 ま、いいか。

 

「で、何故ここに久遠が?」

 

 俺は久遠を抱きながらセリスさんに問う。

 

「私、今さざなみ寮から学校に着たんだけどね、

 久遠が家で寂しそうにしてたから」

 

 と、答えるセリスさん。

 セリスさんは今まで仕事だったのかな?

 

 と、言う訳で、珍しい面子を加えての昼食が開始した。

 楽しく、雑談しながらの食事となり、華やかな昼食となった。

 

 そして、賑やかな食事も終り、のんびりしていると、

 

「さて・・・」

 

 セリスさんは俺と久遠、那美さんの方に向き直り、

 自分の制服の胸の部分を引っ張ったかと思うと、

 谷間に手を入れ、封筒らしき物を取り出す。

 

「恭也君、那美ちゃん、久遠、仕事よ」

 

 と、真剣な顔で俺達にその封筒を差し出す。

 

「相変わらず変な所に入れてるわね〜」

 

 横から忍の呆れた声が聞こえてくるが、

 取り合えず、仕事の方を確認する。

 

「仕事は低級魔族の撃破及び、発生源の破壊よ。

 場所は地図にある通り。

 武装は持ってきているわ。

 裏に貴方のブラックハウリング(バイクだよ)を置いてあるから。

 更に、今回は大仕事になる為、耕介さん、薫、真一郎君、さくらちゃん、雪にも依頼し、

 既に他のメンバーは現場に向かっているわ」

 

 ここまで用意がいいとは、つまり、すぐに向かえと言う事か。

 久遠を連れてきたのもそれが本当の目的か?

 いや、この人だから、解からん・・・

 

「依頼受諾は自由だけど?」

 

 最後にそう俺達に問うセリスさん。

 勿論俺達は、

 

「受けます」

 

 そして、俺達は学校の裏に移動し、武装を受け取り、その場で武装する。

 言っとくが、那美さんはちゃんと、セリスさんの持っていた布を広げて、

 簡易更衣室を作って着替えたんだ(学校の更衣室は使いたくない)。

 俺は制服の上着を預けて、制服のズボンの色にあったジャケットを羽織るだけ。

 久遠の服はそもそも久遠自身が具現化しているので、変身すればOK。

 

「ところで、バイクにどうやって3人乗るの?」

 

 見送りに来た美由希がそんな事を尋ねてくる。

 因みに運転するのは俺だ。

 イレイン事件の時から思ってたんだが、移動力の無さを痛感していたので、

 久遠事件後、耕介さんに教わって(表から裏まで)、一発で免許を取っている。

 俺の乗るブラックハウリングだが、一見普通の黒いバイクだ。

 見た目はな。

 その実はセリス ルーン シルフィアが考案、設計、製造し、

 形になったところで、更に忍が手を加えている。

 機構は・・・もう俺だとさっぱりだが、現代科学を軽く2世紀くらい凌駕する物らしい。

 今は出力も普通の400CCくらいの出力だが、

 確か、リミッタ−を1つ外した状態で最大8M〈r/min〉とか言ってたかな?

 俺はよく解らんが赤星に言ったら、『そりゃあ絶対に間違えだ』と言われた。

 

「ああ、こうするんだ」

 

 とまあ、中は凄いけど見た目は普通のバイクにどうやって3人乗るのか解らない美由希に、

 俺は実際に乗って見せる。

 まず、

 

「久遠」

 

 俺が呼ぶと、

 

「くぅぅん♪」

 

 バシュ!!

 

 子供モードになる久遠。

 俺はそれを抱いて、ブラックハウリングに跨り、

 

「那美さん」

 

「あ、はい」

 

 那美さんが俺の後ろに乗る。

 言わなくても解ると思うが、巫女服なので横座りでだ。

 その為、俺の事をしっかり掴んでもらわないといけない。

 

「と、こう言う風に乗るんだ」

 

 と、示して見せる俺。

 

「ふ〜〜〜ん」

 

 何故かじと目で不機嫌そうな美由希。

 この乗り方を知っていた忍もいつもどおり不機嫌そうというか、 

 何故か羨む視線だ。

 ま、いいか、今はそんな事どうでもいい。

 

「では、出陣(で)ます」

 

 俺はセリスさんに一礼して、

 

「よろしく」

 

 ブオォォォォォン!!

 

 急発進で出発する。

 

「きゃぁああ!!恭也さぁぁん安全運転を〜〜〜!!」

 

「恭也〜もっと早く〜♪」

 

 対称的な要求をする那美さんと久遠。

 

「しっかりつかまっていろ」

 

 俺は可能な限り全ての車両を、壁走りを使ってでも追い越し、

 信号だろうが、横断歩道だろうが車、人を縫う様に避けて通って行く。

 これが、槙原 耕介直伝の転がし方だ。

 

「もっともっと〜♪」

 

 楽しそうに俺の腕を掴んではしゃぐ久遠と、

 

「いやぁぁぁ〜〜〜〜!!」

 

 半泣で叫び、力の限り俺にしがみ付く那美さん。胸は必要以上に恭也の背中に押しつけられる

 緊急なので我慢してください。因みに恭也は、厚い装備のせいと『無さ』でほとんど感じない

 

 

 その頃 忍視点

 

 3人を見送ってから取り合えず校内に戻る私とセリスと美由希ちゃん。

 と、そこで、赤星君と出くわす。

 

「お、月村、美由希ちゃん。

 と、セリスさん、こんな所で何してるの?」

 

 裏から戻ってきた事を不思議そうに聞く赤星君。

 

「ちょっとね、恭也が仕事に行くのを見送ったのよ」

 

 赤星君は数少ない理解者なので本当の事を伝える。

 因みに恭也達は公欠になっているそうだ。

 

「あいつも忙しいな。

 ところで、月村、次ぎの英語は自習らしいぞ」

 

 次ぎの英語・・・

 

「うん、先生が出張だもんね。

 あ、美由希ちゃん、次ぎの体育は代行で鷹城先生が来るはずよ」

 

 私のクラスの英語の担任、そして美由希ちゃんの体育の担任は・・・

 セリスと同じ姓を持つ転任してきた教師・・・

 

「セリス・・・」

 

 私はセリスを見る。

 

「ああ、大丈夫よ、大した事無いわ。

 ま、私もすぐに向かわないといけないんだけどね」

 

 そう言っていつもの微笑みを見せるセリス。

 でも・・・

 

「もしもの時は、私、ノエルもいるから」

 

 ノエルもきつねの事件以後、対魔武装を施してある。

 イレインとの実戦データ、昨日の様な恭也達の模擬戦のデータも参照し、

 そんじょそこらの自動人形を軽く凌駕する強さになっている。

 

「ええ、もしもの時は、頼むかも知れないわ」

 

 そう言って、出かけて行ってしまうセリス。

 私はその背を見つめる・・・・

 

 それはそれで置いておいて。

 

「ふふ〜ん♪次ぎが自習なんてついてるわ〜」

 

 私は自習をいい事に誰もいない図書室へとやってくる。

 そして、最近開発した、腕時計型高性能無線機を使い、ノエルに連絡をいれる。

 

「ノエル〜、今恭也は何処?」

 

 実は、私が弄った時に恭也専用ブラックハウリングには、

 いろいろ機能が追加されてるのよね〜、私の為の♪

 

『たった今、高速道路に乗りました』

 

 ん〜タイミングばっちり〜♪

 

「その高速の状況は?」

 

『路面良好、天候、風ともに問題無し、

 道もすいています』

 

 尚もばっちり〜よ〜し・・・

 

 私はポケットからセリス曰く

 『貴方が持つと何かの自爆装置みたいだわ』

 とか評されたボタンを取り出す。

 そして、安全装置を外し、

 

 ポチッ☆

 

「とな♪」

 

 恭也〜、さっきの告白(勘違い)は嬉しかったけど、

 それでもね〜

 上官とケンカしても、メカニックとケンカはしちゃいけない、っていう格言があるのよ〜

 ふふふふ〜♪

 ま、恭也なら下手したら乗りこなしちゃうけどね〜

 それに、アレの機能上、こけたりする事はありえないし〜

 帰って着てからが楽しみだわ〜

 

 

 その頃 恭也視点

 

 ピピッ!

 

「ん?」

 

 俺が高速に乗って少しした頃、(ちゃんと料金は払うぞ)

 普通ならメーターが付いている所にあるパネル(普段はカモフラージュにメーターを映している)

 から機械音がしたので見てみると、

 

『1stリミッター解除』

 

 など表示されると同時に、

 

 ガチャ!!

 

 後輪の辺りで何か音がし、更に。

 

 キィィィィィン・・・・

 

「な、なんですか〜この音〜」

 

 泣きそうな声(実際泣いてたんだけど)で誰になく問う那美さん。

 そして、

 

『メッサーウィング展開、オーバーブースター、スタート』

 

 と、表示され、

 

 ズッドォォォォォォオオン!!

 

 物凄い爆発音と共に、爆発的な加速をするブラックハウリング。

 

「おお!!」

 

 流石に一瞬ハンドルを取られそうになったが、すぐに復帰させ、

 制御する俺。

 スピードは・・・319km/hか・・・

 その割には衝撃が少ないのは慣性中和チップとか言う物のおかげだろうな。

 因みに、景色は、周りの車が200km/hで突っ込んでくるような感じの景色だ。

 

「はや〜〜い♪」

 

「い〜〜〜〜や〜〜〜〜〜〜!!」

 

 完全に泣き叫んで俺に全力でしがみ付く那美さんと、胸を更に押しつけながら

 喜んでいる久遠。それでも感じないけど・・・

 因みに、私はそんな那美が大好きです♪

 それにしても便利な機能だ。

 まったく、忍も人が悪い、こんなのがあるならもっと早く出してくれればいいのに。

 俺は動体視力を軽く神速の状態にして、更に350km/hで目的地まで走りぬいた。









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