ブオォォォォォン!!
350km/hで駆け抜け、あっという間に目標地点まで到達する。
「ここか」
俺達の目の前に立ちはだかる山。
俺にでも解るくらいの濃い瘴気に覆われている。
ん?それにしては山から溢れ出てはいないな。
「たくさん、いる」
久遠も敏感に感じ取っている様だ。
「はぅ・・・」
那美さんはぐったりしている・・・
取り合えず、ブラックハウリングから降り、那美さんの気付をして、
装備の確認をする俺達。
俺の装備はいつもの特殊銀製飛針が20本。
封魔飛針が『聖』×15、『火』×15、『冷』×15、『爆』×15。
これは、物にささると、それぞれ、込められた魔法が放出されると言うものだ。
主に袖口に装備されている。
因みに『爆』は爆発、つまりは極小のミサイルみたいな感じの効果になる。
あと、方陣用が15本。
特殊退魔用破魔銀製小刀が20、銀製0番鋼糸、5番鋼糸。
鋼糸は袖口、小刀はジャケットの裏側だ。
設計はしっかりしているので、これだけあっても動きを殺されず、また外見では解らない。
そして、封魔刀『八景・改』、予備封魔小太刀二振。
予備小太刀背中に、八景の鞘は腰に刺し、抜刀しておく。
久遠にも飛針が数本。
那美さんは雪月と護符数種類(主に儀式、援護用)。
よし、確認完了。
あ、そうそう、今回の任務の様に俺達が自分で武装を選択できず、
依頼者側(セリスさんだが)が用意する場合は、支給品となる。
まあ、要するに、使っても代金を払わなくていい(何時ものは修理(補充)費だからな)
ばかりか、余った分はお金に換算されて、こちらに入ってくる。
・・・だからなんだとはこの際いわないが。
次ぎは任務内容も確認しよう。
『昨夜、目標地点で浄化任務を行っていたところ、
大元を倒したまでは良かったのですが、
その大元の消滅と同時に、トラップが発動しました。
トラップは目標地点の地脈のエネルギーを利用し、
ほぼ無限に下級魔族『レッサーデーモン』、日本では『赤鬼』と言われるものを、
精製、召喚する物です。
トラップの装置は全部で5つの魔水晶です。
これを同時に壊さなければいけません。
今回は、山の麓、北東部、北西部、南東部、南西部の4箇所から侵入し、
それぞれ、魔水晶のところへ向かってください。
担当は北東部、恭也、久遠、那美。
北西部、真一郎、さくら。
東南部、雪、ざから。
南西部、耕介、薫。
となります。
その際に出くわした敵は全て排除し、トラップを破壊、
目標地点から全ての敵を排除したら任務達成となります。
なお、南部を担当する私の妹が張っている結界で、敵が外に出る事はありませんが、
それは同時に、貴方達も逃げられない事を示しています。注意してください』
取り合えず、敵が街に出ることは無いが、
早めにトラップを破壊しないと、こっちが逃げられもせずに全滅となる可能性があると。
しかし・・・海鳴最強メンバー総出か・・・共同任務こそ初めてではないが、
ここまで大事になったことはなかったな。
いや、今回はただ単に5チーム必要だったと言うのもありそうだがな。
まあ、取り合えず、
「那美さん、他のメンバーは着ているか解かりますか?」
俺は那美さんに尋ねる。
攻撃能力だけと言っていい俺と久遠。
対して、応用力に効く那美さんの能力はこう言う時に必要となる。
俺達が3人で行動するのは、主にこう言う理由だ。
「ちょっと待ってください・・・
ええ、到着しています。
あ、もう皆は結界内に入っちゃってます」
目を瞑り、意識を集中させていた那美さんが、そう答える。
「そうですか。
じゃあ、こっちも急がないと」
こっちには久遠がいるとは言え、
先輩方は早そうだからな。
「あ、あそこが結界の境界面ですね」
と、前方5mくらいを指す那美さん。
俺は言われないと解からなかったが、
注意して見て見ると、そこで空間が歪んでいるのが解かる。
「行くぞ」
戦地に踏み込み気合を入れる俺。
「了解」
「はい、行きましょう」
二人の返事を聞き、俺達は戦場に侵入する。
一方
「やっと到着か〜
もう、これじゃあ今日は完全に欠席だよ〜」
トラップの要の魔水晶の1つが乗った簡易な台座の前、
右手を掲げた聖祥付属の制服を着た少女がやれやれといった感じで呟く。
「この速度だと・・・20分はかからないかな?」
自分の結界内に侵入してきた9人の動きを察知する少女。
「あ〜あ、もう本気で飽きてきたから早くしてよ〜」
呼びかけようと思えばできるが、
あえて独り言で終らせる少女だった。
戻って
「そう言えば、レッサーデーモンって、どんな奴なんです?」
戦場に侵入し、気配を探知しながらも、
俺はそんな事を那美さんに尋ねる。
因みに、那美さんは俺と久遠の後ろ、ほんの少しだけ離れた位置を歩いている。
「ああ、そうですね。
実は私もそう何度も見たことがあるわけじゃないんですが、
まあ、良くありそうな赤鬼の図を獣っぽくした感じでしょうか?」
と、説明していたその時、
ガサッ!
物音と共に、気配が1,2,3,4つ、急接近してくる。
そして、姿を現したのは、
『グオオォォォォ!!!』
那美さんが形容した通りの、
全長2m程度の化け物だった。
「知性はあるらしいですけど、獣じみていて、
あまり賢いとは言えないそうです」
俺達を完全に信用してくれているのか、
余裕そうな那美さん。
俺は雄叫びを上げて迫ってくるそいつ等を、
ザザシュ!!
交差の瞬間、敵が振りかぶってきた腕をくぐり、二刀で十字に切り裂く。
バシュッ!
霊力付与された刀で、『十字』に斬り裂かれた事で、消滅する敵。
更に、俺は振り向く事無く、真横から突っ込んでくる敵の腹に、
飛針〈火〉を3本投げつける。
ヒュン! ザシュ!
狙い通り刺さった飛針は、
ゴゥ!!
刺さった瞬間発火し、敵を焼き尽くし、
灰となった元レッサーデーモンは塵と消えていく。
・・・ちょっと勿体無かったな、この封魔飛針、1本でも結構なお値段するのに。
「能力としては殴るなどの物理攻撃が主体で、
一応炎や冷気も精製できる物もいるそうです。
あと、瘴気から作られていますが、実体があるので物理攻撃も効きます」
目の前で戦闘が始まっているのに解説を続けている那美さん。
こう落ち付いていてくれれば護る側としてはやり易いくていい。
さて、半分を任せた久遠の方はっと、
「ふぅ・・・」
雷撃で消し炭にした敵2体を前に、溜息をついていた。
「数でこられると厄介かもしれませんが、
恭也さんと久遠なら難なく倒せる敵じゃないかと思います・・・ってあら?」
と、解説を終えた那美さんは俺達の方を見て、
ちょっと止まる。
「どうかしました?」
止まった理由がわからず聞いてみる。
「あの〜・・・今更なんですが」
いい難そうに苦笑する那美さん。
「なんです?」
俺は促す様に聞くと、
「ええ〜っと・・・驚いていいですか?」
とのたまう那美さん。
「・・・は?」
俺はちょっと素っ頓狂な声を上げてしまう。
「那美、反応、遅い」
と、呆れている久遠。
つまりはそう言う事だったようだ。
俺達以上に周りの魔の気配を読み取る事ができる那美さんも、
1つの事に集中すると、他が疎かになるからな。
それが何もないところでこける原因だろうが・・・
まあ、今回は俺が質問したからだろう、つまりは俺のせいだ。
「はやくいこ」
と、先を急かす久遠。
「そうですね、
先に行きましょう」
と、那美さんも苦笑しながらそう言う。
少々出鼻を挫かれる様な感じだが、俺達は先を急いだ。
その頃 真一郎&さくらサイド
戦場と化し、瘴気渦巻く山の中を疾走する二人の美少女・・・
もとい、一人の美少年と美少女。
美少年は姪の『趣味』と言わんばかりの服装(そのメイドの外行きの服参照)
に、その手には篭手の様な物が装備されている。
美少女もそのお揃い、だが、武器は持っていない。
そんな二人の前に、
『グオオォォォォ!!!』
咆哮をあげ、現れるレッサーデーモン6体。
「よっと」
ヒュン! ダダダンッ!!
美少年はそのままの速度で敵の腕を潜り抜け、
その際に、それぞれ一撃ずつ加えて通りすぎる。
「うるさいです」
ヒュン! ザザザシュッ!!
美少女の方も同じ様に通りぬける際に己の爪をもって、
敵を横薙ぎに切り裂く。
そして、
バシュッ!!
断末魔の叫びを上げる間もなく塵と消えるレッサーデーモン6体。
それを止まって確認する事も無く、疾走する二人。
「ところで先輩」
走りながら隣を走る美少年に話しかける美少女。
「何?」
明るく答える美少年。
因みに、普通の人の全力疾走以上の速度で山を駆け上がりながら戦闘しているのに、
二人ともまったく息を乱れていない。
「それ、いつもの篭手ですけど、
この間忍が作っていたあのガンレットみたいな物は使わないんですか?
背中に3つの羽根のオプションがあるやつ」
と、思い出しながら尋ねる美少女。
「ああ、あれ?
一日に3発が限度で使い物にならないからね〜」
苦笑しながら答える美少年。
「それなら忍が回転する羽根に改造するとか言ってましたが?」
「それ、最終進化がほとんどサルだからね。
却下した」
苦笑から呆れ顔になる美少年。
「そうなんですか?
では精神力で操るといっていた人形の方は?」
美少年の返答に?を浮かべながらもまだ尋ねる美少女。
「そっちも最終進化が全身タイツだし・・・
そもそもヒロインも俺自身の性格も合わないし。
ああ、そう言えば恭也君ならヒロインは合う子がいるな。
恭也君の方が全くあわないけど」
溜息をついた後、などとのたまう美少年。
「ヒロイン?」
そんな美少年の様子を美少女は、少し殺気を放ちながら少し睨む。
「ああ。
ま、さくらの方が比較にならない程かわいいけどね。
比較対象にならないって言う方が正しいけど」
などと、お得意の微笑みで美少女を見詰める美少年。
「もう先輩ったら♪」
初々しくも顔を赤らめ、照れ隠しに振った手が、
バコンッ!!
美少女に近づいていたレッサーデーモンを消滅させる。
・・・二人とも敵が近づいている事はしっていたが、
美少女は照れ隠しに利用したようだ・・・
「あはははは」
(あの世界のヒロインは皆こんなに強くないからな〜
まあ、さくらの方がかわいいくて、愛100%なのは本当だけど、勿論雪も♪)
などと心で呟く美少年だった。
一方 雪&ざからサイド
式服姿の美女を乗せた白銀の大型の狼の様なものが山を駆けぬけて行く。
その前に現れる数体のレッサーデーモン。
真剣な表情だった美女は更に緊張感を増し、
「氷柱っ!!」
美女の言葉と共にその両手に出現する二本の氷の剣。
そして氷の剣を構え、
「グオォォォォ!!」
美女を乗せた獣は走る速度を増し、突撃する。
ヒュン・・・ズ・・・バシュゥンッ!!
一人と一匹が通り過ぎた後には、
ただ塵が風に舞うのみ。
そして、振りかえることも無く突き進んで行く。
「それにしても、いまだに信じられませんよ、
私が貴方に乗って戦うなんて。
ねえ、ざから」
周りから敵の気配が無くなった頃、
美女がちょっと微笑んで、そう獣に語り掛ける。
「わしもこの様な事考えもしなかった」
何処か嬉しそうにそう答える獣。
「そうよね・・・
そう言えば、なんで二手に分かれる任務だと、
貴方は私の乗り物になってしまうんでしょう?」
ふと、そんな疑問を口にする美女。
「ふむ、わしもたまに疑問に思う」
次ぎの敵に遭遇するまでその事を考える二人だった。
実は作者の趣味以外のなにものでもなかったりします。
一方 耕介&薫サイド
式服姿の二人の前に無数の赤鬼と呼ばれし魔物が突っ込んでくる。
二人は、冷静に剣を構え、
「「神気発勝」」
二人は同時に力を解放する。
「神咲一灯流」
美女の声と共に二人の刀が輝き、
「真威!」
青年の声と共に、二人は二人の間で刀を重ねる様に横薙ぎの構えを取り、
「「楓陣刃ッ!!」」
ズドォォォォォォオオオオ!!!
同調し増幅し合った二人の霊力が向かって来ていた敵を切り裂く。
山の木々をすりぬけ、敵のみを。
そして、一帯に静寂が訪れる。
「ふぅ・・・流石にこの数となると面倒だな」
肩の力を少し抜いて溜息をつく男。
「そうですね。
まあ、今回は皆いますから」
大技を放ったので流石に少々息が上がっている女性。
「そうだな。
よし、行こう」
男がそう言って、奥に向かって走り出す。
女性もすぐ後ろに続く。
メティサイド
ドドンッ!!
山に響く銃声。
身体を射抜かれ、塵と消えるレッサーデーモン。
「ふぅ・・・雑魚が」
黒い装飾銃を構え、塵と消えていくレッサーデーモンを見送る少女。
その表情は無表情で、手にしている武器も、あまりに凶悪な物。
聖祥付属の制服と、そのかわいい外見とはあまりにも不釣合いで、悲しい・・・
「最近は、いたいけな少女に重火器を持たせるのが流行ってるらしいけど、
私にはこの銃が結構似合うでしょう?
わたしが本当に『いたいけ』かはべつとして」
敵を倒した時の無表情は何処へやら・・・
笑ってそう、誰になく言う少女。
「この銃『タナトス』は、兄が考案設計し、姉が作り上げた魔道兵器。
オリハルコン製、装弾数6のリボルバー式で、銃身の施された、
銃の機能とは無関係そうな装飾部分は盾としても使える攻防一体の兵器。
普通の銃として使うのは勿論、今は特殊な薬莢を入れて、
持ち主の魔力を弾にして撃ち出しているんだよ。
リロードは自分の意志で出来て、魔力が切れるまでは半永久的に打ちつづけられるんだ。
因みにチャージショットもできるんだよ」
と、兄から授かった自慢の銃を誇らしげに説明する少女。
聞いているのは木々と大地だけだが・・・
因みに銃の形は]Vと刻めば、某黒猫の持ち物と同型であったりする。
「はぁ・・・暇・・・」
やっぱりヒマなだけだった様だ。
戻って 恭也視点
「はぁっ!!」
ヒュッヒュッヒュッヒュンッ!!
空を駆け、木々を縫う様にして敵に一直線に向かって行く飛針。
それらは俺の思惑通り、全て命中し、16体の敵を燃やし、凍らせ、爆砕する。
俺のすぐ隣では久遠が雷球で敵を焼き尽している。
結構登ったが、敵は増える一方だ。
「那美さん!目標地点までの距離は」
俺はすぐ後ろで治癒の準備をして待機している那美さんに問い掛ける。
「後・・・1キロといったところです」
戦闘開始から15分、緊張のしっぱなしで那美さんの声にも疲労が見える。
後1キロか・・・微妙だな・・・
実は、俺の装備も拙い事になってきた。
既に普通のと方陣用の飛針は投げ尽くし、属性付与飛針も今ので、
残るは『聖』を残すのみとなり、小刀も残り3本。『聖』は1番高いんだ。
雑魚相手に鋼糸はあまり役に立たない。
罠を張れるなら別だが、増え続けるとの事なので時間勝負だ。
「恭也!」
久遠が俺を呼ぶ。
長い付き合いとは言えないが、俺と久遠だ、
何が言いたいかくらいは解かる。
「よし!」
俺は久遠と那美さんから離れ、一人敵の中へと突っ込む。
「グオォォォォ!!」
咆哮を上げ、俺を狙い集まってくる。
俺は神速を発動させ、敵の腕を掻い潜りながら、
脇を切り、腕を切り落し、囲まれない様に戦う。
「あ・・・ぁあ・・・」
バチッ! バチバチッ!!
その頃、久遠はその身体に大量の電気を纏い、
それを更にチャージしていく。
「くっ!」
俺は囮となり敵を一箇所に集め戦い、
そして、
「恭也さん!」
那美さんの声、合図だ。
神速・改
俺はその脚力を使い、一気に木々を通り越し、真上に跳ぶ。
「ああぁあぁぁあああ!!」
ズガゴゴゴゴォォォォンッ!!
久遠の放った特大の雷撃が、密集していた敵を一掃する。
そして、残ったのは塵のみ。
「ふぅ・・・」
俺は那美さんの前で着地する。
「はい、恭也さん」
流石に数に囲まれて何箇所か掠った傷を那美さんに癒してもらい、
「今の内に行きましょう」
「「了解」」
目標地点まで一気に駆けぬける。