そして、奇妙な黒い水晶球が乗った、ツルの様な物が固まってできた、
と言った感じの、台座の前まで到着する。
「これか?」
この山の中にあってあからさまに妖しく、異様な物体だった。
「そうみたいですね」
那美さんが確認する。
「じゃあ、破壊の準備を・・・」
と、思い、俺が近づいたその時、
ヒュゥゥゥゥゥ!!
黒い煙の様な物がその黒水晶の周りに漂い始める。
「これは!」
俺にも解かるほど魔の気配がその場に膨らんでいく。
「瘴気が収束して?!」
観察していた那美さんが叫ぶ。
そして、それとほぼ同時に、
カッ!
周囲一帯が黒い光りに照らされ、
「グオォォォォォォオ!!」
一体の白銀の鬼が出現した。
一方 真一郎&さくらサイド
「こんなトラップまで仕掛けてあるとわな!」
出現した鉄色の鬼。
確かに普通のと比べたら強い力を感じるが、
だが、この程度じゃあな。
俺は相手の攻撃を掻い潜り、正拳突きをお見舞いする。
勿論、霊力を込めた一撃必殺の威力がある。
ドゴッ!!
他のヤツ等と変わらず、俺の攻撃をもろに食らい、
それで終る筈、
だった・・・
「・・・ってぇぇ!!」
だが、ダメージがあったのは俺の拳の方で、
多分この感触は、骨にヒビがいった・・・
「先輩!」
さくらの声で我に返り、振り下ろしてきた腕から逃れる俺。
「ちっ!」
拙いな、ざからが無い以上、右手はもう使えない。
「このっ!!」
俺の負傷を見て、さくらがその爪を持って斬りかかる。
しかし、
ガイィィィン!!
斬鉄すらやってのけるさくらの爪が、
敵の身体に傷を付ける事もできずに弾かれる。
「うそ!」
ヒュン!!
振りかぶって来た腕から逃れ、俺の隣に着地するさくら。
「グオォォォ!!」
まるで勝ち誇ったかのような咆哮を上げる鬼。
ざからが無く、雪もいない俺達に、あそこまで物理防御の高い敵、
これは厄介だ・・・
一方 雪&ざからサイド
ズガガガガガガ!!
蒼いレッサーデーモンが撃ち出すマシンガンの様な魔弾球。
その早さと威力に、二人は距離を詰めることが出来ない。
しかも、それは木を突き抜けて襲いかかってくる。
「ざから!」
「く、仕方ない!!」
二人は一旦距離を取り、様子を伺う事にした。
「こっちは木が邪魔で氷柱が使えないのに・・・」
「まったく、自然愛護精神の足らん奴だ」
全包囲+上空からの敵にも自動で迎撃するマシンガン、
それが相手だ。
しかも、こちらは木が邪魔で長距離攻撃は出来ない。
一方 耕介&薫サイド
ヒュン! ヒュン!
木々の合間を流れる風の音、
そして、
「耕介様、上です!」
「ちっ!!」
御架月の声を聞き、上段の刀を向ける耕介、そこへ、
ガキィィン!!
白色の鬼の爪が襲いかかる。
「この!!」
それを、薫が斬ろうとするが、
ヒュン!
また、もの凄いスピードで跳んで行ってしまう。
「くそ!ジリビンだぜ!」
耕介が叫ぶ、そして、また薫と背を合わせ攻撃に備える。
先程から、速さに翻弄され、二人はじりじりと追い詰められていた。
一方 メティサイド
ズドォォォン!!
突然出現した紅いレッサーデーモンは、
少女自慢の守護方陣をもろともせず、殴りかかってくる。
その攻撃は地面を抉り、木々をまとめて薙ぎ倒していく。
どうも、この鬼は、複数の台座に敵が近づくと、自己防衛の為に出現する物の様だ。
「ちっ!私の結界をこうも簡単に・・・
ちょっと屈辱よ!」
敵の攻撃を避けながら、反撃のチャンスをうかがう少女。
戻って 恭也サイド
ズドォォォン!!
白銀の鬼の攻撃を跳び避ける俺達。
更に、敵は手に闇を収束させ、
「久遠!」
俺は咄嗟にそう叫ぶ、
俺の意図を読んだ久遠は那美さんを抱えて跳ぶ、
同時に俺も神速を発動して跳ぶ。
ズガガガガガガン!!
マシンガンの様に放たれる敵の魔法弾。
俺達は全速で後退し、それを避ける。
新たな敵は、早く、硬く、攻撃は重く、魔法まで使う。
後に聞いた話を総合すれば、万能型といえる奴だ。
「くっ!」
あんな拡散する攻撃をされては、
那美さんは避けられない。
どうする・・・
俺達は一旦一箇所に集まる。
「恭也」
那美さんを脇に抱えた久遠が俺を見る。
久遠の力を使えば何とかなるが、
俺では那美さんを抱えて避けきる自信が無い。
「あの、恭也さん」
俺が、策を考えていると、
那美さんが俺に話しかけてくる。
「なんです?」
あまり話をしているのは得策とは言えないのだが、
俺は聞いて見る。
「私は、護られてるだけの女でも、ただの回復役でもありませんよ」
意志のある瞳で俺にそう言う那美さん。
「・・・そうでしたね」
そして、作戦が決まった。
ザザザザッ!
山を駆ける俺と那美さんを抱えた久遠。
「グオォォォ!」
後方から敵が追ってくるのを確認し、
ザッ!
二手に分かれる。
それぞれ逆の方向へと跳ぶ。
ザザザザッ!
久遠が木々を蹴って跳んでいくのを背に、俺は山を駆ける。
「グルルルゥ」
中途半端に頭の良い敵は、予想通り、俺を追ってくる。
相手が複数なら確実に数を減らして行った方がいいからな。
俺は暫し敵の攻撃を掻い潜りながら山を駆け巡る。
すぐ後ろに敵がつけている事を確認しながら。
そして、数分走ったかと言う頃、俺は、一瞬立ち止まり、
「グオォォォ!!」
敵が俺に殴りかかってくるのを確認した上で、
神速・改
ザッ!
俺の最高速で跳び上がる。
そして、攻撃を空ぶった敵は、慣性でそのまま前に飛んだままで、
バシュンッ!!
俺の立っていた位置から少し前方に仕掛けられていた、
捕縛の結界が発動する。
那美さんが、俺が逃げまわっている間に仕掛けた、
昨日俺が真一郎さんにかけようとした物の完全版だ。
「グオォォォ!!」
結界に引っ掛かり、もがく敵。
腕はまだ少し動く様だな。
なら!
俺は、空中からそれを確認し、落下の速度と合わせ、
再度神速・改を発動させ、加速を付け、
ザシュ! ザシュ!
敵からみて後方上より、俺が右腕を、ほぼ同時に、
敵から見て前方上より飛び出した久遠が左腕をそれぞれ切り落す。
そして、その勢いを殺しながら地面を削っていた時、
「恭也さん、久遠、そいつのコアは人間で言う心臓より少し上にあります!」
那美さんが俺達に叫ぶ。
俺と久遠は、その状態から反転し、
ザッ!!
地を蹴り、
ザシュ!!
俺が前から、久遠が背からそれぞれ言われた場所を八景と爪で突き刺す。
確かに、何か球状の物を刺した感触がする。
そして、そこへ
「ハァ!!」
「あああ!!」
ズガゴォォォォン!!
俺が霊力を叩きこみ、久遠が雷を落す。
「グオォォォ・・・」
断末魔の叫びを上げ塵となり消える白銀の鬼。
完全に消滅するのを確認し、
「・・・ふ」
「・・・くぅん」
俺と久遠は向かい合って微笑み合う。
二人の勝利を祝って。
「・・・あの〜、私は?」
そんな所に那美さんが除け者にされた〜という顔でやってくる。
「ああ、すみません」
「ごめん、那美、忘れてた」
慌てて謝る俺達。
その後、ちょっと那美さんはいじけてしまった。
その頃、他の場所でも 真一郎&さくらサイド
ガキィン! ガキィン!
敵の攻撃を掻い潜りながら、何度も同じ場所に爪を突き立てるさくら。
俺は敵の攻撃を避けながら少し離れた場所にいる。
「グオォォォ!!」
無駄だとでも言いたいのか、余裕の様子で、
さくらをいたぶる様に攻撃する敵。
まあ、全然当たってないけど。
ガキィン! ガキィン!
またく通じていない攻撃をひたすら繰り返すさくら。
だが、
ガキィン! ガキィン! ガッ ピキィッ!!
敵の装甲に初めて亀裂が走った。
そこで、俺は、後方から飛び出し、
同時にさくらが下がり、
「破ッ!!」
ドゴォンッ!!
左手による全身全霊の正拳突きをその亀裂に放つ。
ピィッ パキィィ・・・バリィィィィィン!!
その攻撃で、完全に決壊する敵の装甲。
「グオォォォ!!」
それに慌てた敵は、滅茶苦茶に腕を振りまわしてくる。
だが、
「気付くのが遅過ぎだ」
バキィィィン!!
俺は装甲の裏に隠れていたコアである黒水晶球を砕く。
「グオォォォ・・・」
断末魔の叫びを上げ塵となり消える鉄の鬼。
完全に消滅するのを確認し、
「先輩、腕は大丈夫ですか?」
心配そうに俺に駆け寄ってくるさくら。
「さくらこそ、愛らしい爪が」
俺はさくらの手を取り、ボロボロになってしまった爪をさする。
「爪なんか簡単に生やせまし、痛覚もありませんから」
そう微笑むさくら。
だが、爪自体に痛覚はなくとも、それを支えた指には相当の衝撃がいっている筈だ。
俺はさくらの指をさすってやる。
「先輩こそ、腕は大丈夫なんですか?」
逆に俺の腕を取り、俺の拳を見るさくら。
「まあ、なんとか」
と、言うのは嘘でかなり痛い。
「・・・はやく終らせてざからと雪と合流しましょう」
やっぱり解ってしまったのか、
そう言うさくら。
「そうだな」
俺達はさっきの台座の元に向かった。
雪&ざからサイド
全方位を静かに警戒し、魔弾球を放つ準備をしている蒼い鬼。
ドゴッ!
その鬼の真下の地面から、突如としてツタの様な物が生え、
鬼の足に絡み付く。
「グルルル・・・」
鬼がそれを振りほどこうとした時には、
ガキィィィィン!!
その姿のまま完全に氷に閉ざされる蒼い鬼。
そこから離れた場所では、
狼の姿のざからに乗った雪が静かに、瞑想する様に佇んでいた。
ざからが、ツタを地面から進入させ、敵の足を取り、
ざからとリンクした雪がそれを伝って鬼を氷で閉ざしたのだ。
そして、完全に敵を捕らえた事を確認すると、
「敵も、地面からの攻撃には無警戒だったわね」
「そうだな」
そんな会話をした後、氷漬の敵を砕き、コアを破壊すると、
台座の元に向かう二人。
耕介&薫サイド
木々に囲まれた山の中、二人はそれぞれの相方を構え、
静かに、目を閉じ、瞑想する様に集中している。
そこへ、
ヒュンッ!
白い鬼が接近する。
その神速並の早さに、二人ではついていけない。
霊剣姉弟でなければ・・・
だが・・・
スゥ・・・
まるで流れる様に正眼に構えていた刀を動かす二人。
二人の、耕介からみて右上方で刀が止まる。
そして、
ザクッ!
その一瞬後に、鬼がその二つの刀に串刺しとなりに飛んできた。
見事にコアを貫かれる形で。
バシュゥゥ・・・
断末魔の叫びも無く消えて無くなる白き鬼。
「・・・俺と御架月、薫と十六夜さんの同調を甘く見たな」
ゆっくりと目を開けて呟く耕介。
「我々姉弟からはどんな早さを持ってしても逃げられません」
続けて御架月も出てきて誰になく言う。
「そして、私とシルビィ、耕介様と薫は一心同体」
十六夜も出てきて御架月に続ける。
「4人の絆の深さは、この程度では測れない」
薫も十六夜に付いた塵を振り落しながら呟く。
そして、4人で、ちょっと微笑み合い、台座に向かう。
メティサイド
ドォン!
タナトスから放たれた一発の魔弾。
「・・・うそ・・・」
そのいく先を見詰めた少女は驚愕する。
「そんな・・・」
そう、銃弾は真っ直ぐに敵に向かい・・・敵のコアを一発で破壊した。
で、当然、断末魔も無く消滅する敵。
「なんで〜〜〜まさか完全に力バカなの〜〜〜!」
あまりの弱さに頭を抱えて怒る少女。
「人を馬鹿にするのもたいがいにしなさ〜〜い!」
そして怒りながらも台座に向かうのだった。
台座の前
「しっかし、強さは別として、
あそこまで厄介なトラップを作れるなんて・・・
本人の実力はなかったけど」
そんな事を呟きながら、
少女は、全員が台座の前にいる事を確認し、
『準備はいい?』
念話で、そう問いかける。
『こっちはOKだ』
台座に向かい拳を構える真一郎。
『いつでも構いませんよ』
刀になったざからを上段に構える雪。
『こっちもOKだ』
御架月を上段に構える耕介。
『問題無い』
八景を納刀して、抜刀術の構えを取る恭也。
『よし、じゃあ0で同時に破壊するよ』
タナトスに魔力をチャージするメティ。
『3、2、1、0!』
ドゴォンッ!!
銃口から放たれた特大の魔弾が台座を消滅させ、
『破ッ!』
バキィィン!
霊力の篭った拳で砕け散り、
『せっ!』
ザシュッ!
振り下ろしたざからで、縦に一刀両断し、
『ハッ!』
ザシュッ!
同じく、御架月で、縦に一刀両断し、
『ハッ!』
ザザザシュッ!
八景による連撃で細切れにする。
全て無事、同時に破壊でき、これで終った、
と、誰もが思った・・・
しかし!
ドドドドドドドドド!!
突然の地鳴り。
山が何かに震える。
「何!」
叫ぶ少女。
台座を消滅させた魔弾がその地面に吸収されるのを、
『グォォォ!』
同時にざからと、
『力が・・・』
『くっ!これは!!』
御架月と耕介の声も。
間を置かず、山全体に邪悪な力が満ちて行く。
「これは・・・まさか、私達の力を吸収してるの?!」
少女が理解したその瞬間。
ドドド!!・・・ドゴォォォォン!!
地鳴りが止み、一瞬の静寂の後、落雷のような音が山に響く、
そして、
『グオォォォォ!!』
山を埋め尽くす鬼と、その咆哮・・・
少女の周りにも、他の皆の周りにも無数の鬼が出現する。
「くっ!なんて性質の悪いトラップを!
護衛機能だけでなく、こんな物まで仕込んであるなんて」
これでトラップ自体は消滅したが、
とんでもない置き土産だ。
現在、真一郎、さくら組は両者武器としていた物が拳と爪がぼろぼろで、
雪、ざから組はざからが今ので戦闘不能。
耕介、薫組も耕介、御架月が戦闘不能。
まともに動けるのは私と恭也、那美、久遠だけ・・・
でも恭也の所は那美を護らないといけないから・・・
「こんな長時間台座の前にいて気付かないなんて!
私のミスだぁぁ!!」
バサッ!!
少女は自らの不手際に怒り、
持てる力の全てで敵を倒して行く。
瞳を紅く染め、血の色に染まりし悪魔の翼を展開し、爪と銃を同時に使い、
捨て身に近い戦闘をする・・・
自分のせいで誰かが傷付くのは耐えられないから、
急いで皆を援護する為に・・・
その頃 恭也視点
那美を挟み、背を合わせて戦う恭也と久遠。
「ちっ!何なんだ、突然!」
流石の恭也も突然発生した無数の鬼に悪態をつく。
「どうも、このトラップの最後の悪あがきがこれの様です」
雪月を抜刀し、攻撃に加わっている那美。
もっとも、援護射撃のみだが。
「完全に囲まれた」
流石の久遠も、この数を相手では、
護る者がいる為、余裕は全く無い。
周囲何処を見ても鬼しか見えない。
逃げ場も無く、気配を感じられる限り、突破口も無い。
「久遠、あまり離れるなよ」
「うん」
そして、厳しい戦い始まった。
俺と久遠は那美さんを中心に180°をカバーしなければならない、
接近されすぎると那美さんにも影響がでるので、
少し離れた位置で敵を倒していく。
数が多すぎ、倒しても倒しても後から押し寄せてきて、きりがない・・・
那美さんも『桜月刃』で何匹か倒しているが、放出技の連発ですでにバテてしまっている。
「くぅ!!」
そんな時間が続き、ついに久遠が、
「ああ・・ぁぁああああ!!」
バチッ! バチバチッ!!
久遠の周りに収束する電気。
何時まで経っても埒のあかない戦闘に、
雷撃を放とうとする。
「!久遠ダメだ!そんな技今使ったら!!」
それに気付いた恭也が叫ぶが、遅かった。
「ぁあああ!!」
ドゴォォォォォン!!
久遠の正面やく180°、半径10mほどの位置までの敵を雷撃が襲う。
一撃で塵となり、消えていく雷撃が当たった敵。
だが・・・
「グオォォォ!!」
すぐ後から波の様に無傷の鬼が押し寄せてくる。
「あ!」
久遠は、今の大技でエネルギーを使いきり、動けない。
再充填には数秒かかる。
技後硬直と言ったところか。
実戦の、この状況ではその数秒が命取だ!
「「久遠!!」」
俺と那美さんは同時に叫ぶ。
那美さんは霊力も尽きかけ、援護は出来ない。
くそっ!!
神速・改
本日、大小合わせて既に20回を数える神速・改を発動させ、
今相手をしている敵を斬り、久遠の元に跳ぶ。
既に鬼の腕が久遠の目掛けて動いていた。
久遠も防御しようとしているが、技後の為その動きは鈍い・・・
ガシッ!
距離は短かったので何とか間に合い、久遠を掴む事ができるが・・・
ドクンッ!
突如として身体から力が抜けていく。
同時に神速からも抜けてしまう。
霊力の限界だ・・・
こんな所で・・・せめて久遠だけでも!!
俺は久遠を後ろに投げる様にして、久遠の前にでる。
久遠が後ろに倒れて、俺が盾になっている時間があれば、
久遠の再充填が終る。
俺は・・・戦闘不能かな・・・
神速から抜けたのに、妙にゆっくりに見える鬼の腕を見ながら、
俺はそんな事を考えていた。
久遠視点
動けない・・・敵が来てるのに・・・
「「久遠!!」」
後ろから那美と恭也の声が聞こえる・・・
でも間に合わない・・・敵の腕が久遠に向かってくる・・・
アレに当たったら痛いかな・・・
ガシッ!
漠然とそんな事を考えていたその時。
突然後ろから腕を掴まれ、後ろに投げられる。
そして、久遠と代わる様に久遠の前に出てきたのは恭也・・・
でも、恭也もそこから攻撃も防御もできず・・・
ザシュッ・・・
舞い散る赤い飛沫。
敵が振り抜いた腕は赤く染まっていた・・・
私の前に立つ恭也。
でも、恭也は、飛ばされる様に倒れてくる・・・
赤い物を撒き散らして・・・
倒れていく・・・恭也・・・
恭也はお腹から赤いもの流していて・・・
一匹の鬼が腕を真っ赤にして歓喜しているかの様に狂った様に何かを叫んでいる・・・
そしてそれを取り囲み、同様に咆哮を上げる無数の鬼達。
何かが、
ナニカガカサナル・・・
ゾウヲエグリダサレチヲナガシコトキレテイル
目の前で血を流して倒れていく
クルッタヨウニサケビツヅケルグウジト
ソレヲトリカコミ、キミョウナキトウヲツヅケルシノヤマイニオカサレタヒトビト
歓喜の叫びを上げる一匹の鬼と、それと取り囲む様に咆哮を上げる鬼達。
キツネヲアイシキツネガアイシタ ショウネンノスガタ
久遠を好きだと言ってくれて、久遠が好きな 恭也の姿。
カラッポニナッタオナカカラチヲナガシテシンデイルヤタ
腹部を切り裂かれ、血を流している恭也・・・
アノ、アイシタヒトヲウバワレタヒノコウケイト
今の目の前の状景が・・・
「あ・・・あ・・ああ・・・」
久遠ガ愛シタ人ガ奪ワレル・・・
「・・・・・・・あーーーーーーーーー!!」
嫌ダ、モウ失ウノハ・・・
「・・・ああああああ・・・・」
憎イ、愛スル者ヲ奪ウ存在ガ・・・
「あああああああああああああ!!」
キエテシマエ
「あああああああああああああ!!!」
ズガガガガガン!!
その時、何かが・・・久遠から外れた・・・
メティサイド
「今度は何!?」
敵を滅茶苦茶な戦法で倒しながらも、
山全体に起こる異変に気付いたメティ。
そして、聞いた、久遠の嘆きを・・・
「!!ダメ!!
久遠、貴方は憎しみに囚われたら・・・」
伝え様とした瞬間だった。
ズガガガガガン!!
この山全体に、山全体にだ、雷が落ちる。
メティが発生させていた結界を粉々に砕いて、
「くっ!ああ!!
み、皆にフィールドを・・・」
その衝撃は、結界を支えていたメティの右手まで及び、
メティの右腕が雷撃で消し炭と化す・・・
その雷が何を狙っているのか解らなかったから、
結界が破られた瞬間、結界を維持する力を、
味方全員を個々に守護する方陣へと変換させた。
ガガガガガン!!
雷は山全体に無数といた鬼を全て焼き尽くした。
味方には直撃こそ無かったが、
近距離で落ちたらその人にも影響はでる。
結界を移行したのは正解だった。
「く・・・久遠・・・」
そして、山から全ての敵の気配が消えた。
それを確認しながらも、メティは久遠の元へと飛ぶ。
未だ雷を放出し続ける妖狐の元へ。
那美視点
何があったかは良く見えなかった。
でも動けなかった久遠が危なくて、
それを助けた恭也さんがケガをして・・・血を流して倒れて・・・
そしたら・・・雷が落ちて・・・
久遠が・・・久遠が・・・
アノヒオトウサントオカアサンヲコロシタヨウコモドッテイタ
私はその時、淡い光に包まれた事に気付きもせず、
ただ呆然としていた・・・
恭也視点
敵の攻撃を受けて、一瞬気を失って、
物凄い音に目を覚ますと、
そこには久遠が・・・まるであの時に戻った様な悲しく怒りに満ちた顔で立っていた。
「く・・・お、ん・・・」
俺は痛む腹を押えながらも立ちあがる。
前と同じだ・・・どうしても、その久遠を見て、立ちあがって、
止めないといけないと思えた。
俺の中の何かが、久遠を止めろと叫ぶ。
「久遠・・・久遠!!」
敵はもう塵と化し消えているのに雷を纏って全てを睨んでいる久遠。
俺はそんな久遠に叫ぶ。
「久遠、もう敵はいない!!」
叫ぶと血が激しく流れたが、そんな事は気にならなかった。
「・・・・恭也・・・」
二度目の呼びかけで、やっと久遠の目に俺が映り、
いつもの久遠に戻った。
「恭也!!」
そして俺に駆け寄って来て、
涙を流しながら俺の名前を呼ぶ。
「恭也!恭也!
血が、血が・・・那美!!」
俺の傷を見て泣きながら叫ぶ。
「・・・あ!恭也さん!」
その声で、さっきまで呆然としていた那美さんも気が付いて、
すぐに治療を始めてくれる。
尽きかけた霊力を全て使って。
それで、何とか傷口は塞がって、数分で他の皆も集まって、
セリスさんの救援を待って帰還した。
「・・・久遠・・・やっぱり貴方は・・・」
恭也が那美の治療を受けているそばの木の陰で、
少女は左手にタナトスを持ち、フルチャージ状態を維持していた。
俯き、泣きそうな顔で・・・
その4へ