月夜

第肆夜 過去

 

 

 

 次ぎの日

 

 朝の病院で一騒動(矢沢先生にメスで斬りつけられたり)あったが、

 取り合えずまだ寝ている久遠(今は狐モード)を抱いて、家に帰って着た。

 フィリス先生はまだ病院のベットに縛り付けておきたかった様だがな。

 しかし・・・

 

「・・・暇だ」

 

 今日は平日。

 家に帰って着たが、誰もおらず、今日は鍛練も禁止されているので何もする事が無い・・・

 一応安静にしていろとの事なので、学校にもいかず、こうしてのんびりしている訳だが。

 久遠も寝てしまって、昨日戦闘の上に遅かったから、起きる気配が無い。

 取り合えず縁側でお茶を啜っているが。

 

「・・・待てよ。

 ここまで時間があるんだ。

 今日こそ盆栽の手入れができるじゃないか」

 

 今まで多忙に次ぐ多忙でろくな手入れができなかった盆栽達の事を思い出し、

 俺は久遠を座布団に置き、すぐさま道具を持ち、庭に出る。

  

 パチンッ!

 

「暫くできなかったし、これからもできない事がありそうだからな。

 今日はたっぷり時間を掛けてやろう」

 

 俺はそれから暫く盆栽達をかわいがる。

 

 たっぷり2時間ほどして

 

「ふぅ・・・」

 

 久々に趣味を堪能した俺は、紅葉を眺めながら縁側でお茶を飲む。

 

「平和だ・・・」

 

 昨日の様な事が常になってしまうと、

 こう言う時間が本当に貴重で大切な物だと実感できる。

 座布団で寝ている久遠も実に平和そうだ。

 俺は久遠を起こさない様に、頭を撫でてやる。

 

「む・・・」

 

 そこで俺は久遠に向けられている小さな視線に気付く。

 高町家の庭に生える松の枝の上、

 そこには、外見はネコとリスを足して2で割って、翼をつけたという感じだろうか?

 と言う、奇妙だが、愛嬌のある手のひらサイズの小動物が居り。

 それが、ジッと、久遠を見ている。

 俺がそれを見ていると、

 

「・・・くぅ・・・ん?」

 

 久遠が起きる。

 そして、少し辺りを見渡した後、  

 

 シュッパ!

 

 子供モードに変身する。

 

「恭也〜」

 

 目を擦りながらも俺に抱き付いて来る。

 

「起こしてしまったか?」

 

 俺が久遠の頭をなでながら問うと、

 久遠はふるふると頭を振る。

 

「恭也、おはよ」

 

 と笑顔でそう言ってくる。

 

「ああ、おはよう」

 

 俺は、それから少し、久遠が完全に起きるのを待って、

 

「久遠、アレに何か心当たりはあるか?」

 

 と、松の枝に乗っている奇妙な生物を指す。

 

 シュンッ!

 

 久遠がそれを見たと同時に、それは何処かに跳んで行ってしまう。

 

「あれケビン」

 

 久遠は聞いた事の無い名前を言う。

 

「ケビン?」

 

 アレの名前だろうが、聞いてみる。

 

「セリスの家族」

 

 と、答える久遠。

 家族・・・まああの人達だから・・・そう言うのもありか。

 あの人のなら特に気にする事もないだろう。

 

「ところで、お前はこれからどうする?寮に帰るか?」

 

 そう言えば、昨日の真夜中からだが、

 耕介さんに電話をしておくべきだろうか?

 

「恭也と一緒」

 

 笑顔でそう答える久遠。

 

「俺と一緒か?」

 

 俺なんかといてもつまらないだろう、と言う意味で聞き返す俺。

 

「恭也、久遠と一緒、嫌?」

 

 悲しそうな顔でそう問い返してくる久遠。

 

「いや、そんな事は無いぞ」

 

 俺は久遠の頭を撫でてやりながら笑顔で答える。

 

「じゃあ、一緒」

 

 久遠は嬉しそうに俺に寄り添ってくる。

 それから、俺と久遠は、暫し、茶菓子を頬張りながら、

 茶を飲んでのんびりとしていた。

 

 そして、

 少し、寂しいくらいの静けさが空気にみつる中、

 

「恭也」

 

 久遠が俺の腕に抱き付いて来る。

 でも、いつもの甘えた声じゃない。

 

「なんだ?久遠」

 

 俺は逆の手で久遠の頭を撫でる。

 

「恭也は何処にもいかない?」

 

 そう上目遣いでそう尋ねてくる。

 

「ああ、何処にも行かないぞ」

 

 俺は、その時は良く意味が解らず、

 軽くそう答えた。

 普段の久遠なら疑う事もなく、それで済むはずだった。 

 だが、

 

 シュパッ!

 

 大人モードに変身し、俺を押し倒す形となる久遠。

 

「恭也、久遠と一緒?」

 

 真剣にそう問う久遠。

 

「ああ、一緒だ」

 

 俺は久遠に抱き付かれて、後ろに倒れそうになった身体を起こしながら、

 ほぼ即答で答える。

 しかし、それでも久遠は不安そうだ。

 

「ホント?」

 

 何時もなら一度で素直に納得する久遠がわざわざ問い詰めてくる。

 

「ああ、本当だ」

 

 何を不安に思っているか解からないが、

 俺は久遠を撫でながら答えた。

 

「恭也は、久遠を置いて行かない?

 久遠を一人にしない?一緒にいてくれる?」

 

 執拗なくらいに繰り返し尋ねてくる・・・

 瞳に涙を浮かべながら・・・

 

「久遠・・・」

 

 俺はこの言葉でやっと久遠の言いたい事がわかった。 

 我ながら自分の鈍感さが恨めしい。

 久遠の気持ちを理解できずに、さっきはなんと軽く答えた事か・・・

 

「久遠、大丈夫だ、俺はお前を置いて死んだりしない。

 那美さんもなのはも久遠も俺も、ずっと皆一緒だ」

 

 俺は久遠を抱しめ、耳元でそう囁く。

 

「恭也・・・」

 

 暫しお互いの温もりを感じ合う俺達。

 ・・・・・・・・

 

 く〜〜☆

 

「恭也、お腹空いた」

   

 と、訴えてくる久遠。

 雰囲気も何もあったもんじゃない。

 まあ、久遠は久遠だしな。

 

「ああ、そう言えばもう昼だな・・・」

 

 と、言う訳で台所に来る俺達。

 

「恭也、作れるの?」

 

 冷蔵庫の中を覗いている俺の後ろから話しかけてくる久遠。

 

「ああ、昔は頻繁に作ってたからな普通には作れる」

 

 美由希と二人の時、かーさんが妊娠していた時も俺が作っていた。

 今はレンと晶がいるから作る機会がないが。

 

「そうなんだ」

 

 素直に感心している久遠。

 

「と言っても・・・材料が無いな・・・」

 

 冷蔵庫の中は見事なまでに空同然だった。

 いくらなんでも材料が無ければ作れない。

 

「仕方ない、翠屋にでも行くか」

 

 久遠と食べるのに、弁当や他の所に行く気はしなかった。

 

「うん」

 

 久遠もそれでいいようだ。

 それはいいとして・・・

 

「流石にその格好じゃぁな」

 

 俺は久遠の服装、式服を見て呟く。

 

 久遠を着替えさせる為に2階に上がる俺達。

 取り合えず美由希の服でも借りようかと思って部屋の前まで来るが、

 

「あ、そう言えば久遠、お前自分の服のサイズわかるか?」

 

 身長はそう変わらないと思うが、

 なにぶん女性の服である。

 要所要所がきつかったり緩かったりしたら問題だろう。

 

「久遠、解からない」

 

 予想通りと言うか、やはりその辺の知識が無いのだろう久遠。

 

「じゃあ、この前、子供モードで着ていた服はどうしたんだ?」

 

 久遠がいるのはさざなみ寮。

 あそこには今子供モード久遠と外見年齢が近い人はいない。

 まあ、子供の頃の服を取っていた可能性もあるが・・・

 ああ、1人いる筈だな、セリスさんの妹が。

 そう言えば、俺はまだ一度もメティと言う子と会っていない。 

 昨日も結局念話の声だけで、顔を会わせなかった。

 

「あれ、セリスが作ってくれた」

 

 そう答える久遠。

 作ったって・・・手作りか?

 まあ、何でも作れるとは言っていたが・・・

 

「それじゃあ、久遠、その状態で、さざなみ寮の誰かの服を借りて着た事はあるか?」   

 

 参考までに聞いてみる。

 

「あるよ。

 でも、ゆうひのは腰が緩くて、薫のは胸がくるしくて・・・

 那美のは胸がきつすぎて、腰も緩かった。

 あ、セリスのはピッタリだった」

 

 と、寮生全員のが合わなかった事を述べる久遠。

 因みに、それが行われた日、美緒を除く寮生が全員凹んでいた事は言うまでもないだろう・・・

 美緒だけは、アノ過去一時期なっていた大人の姿に、

 現在進行形で成長中な為、一切気にしなかった。(元々気にする子でもないが) 

 

「なるほど。

 となると、美由希の服もダメか。

 あとはかーさんの服だが・・・」

 

 流石にかーさんの部屋を漁るのには抵抗があるな・・・

 ん?何?美由希はよくてなんでかーさんがダメっかって?

 まあ、気にするなそんな事。

 

「寮に帰れば、セリスがくれた服が沢山あるよ」

 

 悩んでいる俺にそう告げる久遠。

 セリスさんは可愛い子に目が無く、着せ替えも趣味だとか聞いたな・・・

 着せ替えた服は全てくれるらしいが、尋常で無い量で困るらしい。(さざなみ寮生談)

 

「でもここから寮に戻るのは大変だろう。

 それより、何で大人モードのままなんだ?」

 

 確かこの状態は燃費が悪く、お腹が空くからという理由で、

 戦闘以外はあまりならないはずだが?

 

「真雪とリスティがね、恭也といるなら、この姿の方がいいって言ってたから」

 

 真雪さんとリスティさんが?

 何でだろう?解からん・・・

 

「恭也、久遠がこの姿だと、嫌?」

 

 と、上目使いで聞いてくる久遠。

 

「いや、別にそんな事はないが。

 それだと疲れるんだろう?」

 

 俺がそう聞き返すと、

 

「うん。

 すぐお腹空く」

 

 と、ちょっと悲しげに答える。

 

「じゃあ、取り合えず子供モードになってくれないか。

 それならなのはの服があうだろうし」

 

 なのはと子供モード久遠のサイズはほとんど同じだ。

 何?なんでそんな事知ってるかって?

 そんなの、見た目もそうだし、抱いた感じで解かる。

 二人とも割りと俺に抱き付いて来る事が多いしな。

 

「解かった」

 

 シュパッ!

 

 すぐに子供モードに変身する久遠。

 

 と、言う訳でなのはの部屋。

 

「なのはには悪いが、ちょっと勝手に上がらせて貰うとしよう」

 

 携帯で許可を得るというのも考えたが、今はまだ聖祥付属は授業中で、

 終るのは30分も後。

 それまでお腹を空かせた久遠をこのままにしておくのも忍びないのでしかたなくだ。

 

「そう言えば、久遠。

 お前、結構この部屋に来てるけど、服のある場所とか解かるか?」

 

 流石になのはも女の子、

 俺が漁る訳にもいかないので聞いてみる。

 

「うん、知ってる」

 

 との事だったので、俺は着替えを久遠に任せて一旦部屋の外に出る。

 だが、少しすると、

 

「恭也〜」

 

 と、中から俺を呼ぶ久遠の声がする。

 

「久遠、もう着替え終わったのか?」

 

 と、言いながら俺は部屋に入ると、

 

「これ、どうやって着るの?」

 

 そこには、式服を脱ぎ捨て、下着も着ていない、

 完全に全裸の久遠がなのはの普段着を持って立っていた。

 

「着方が解からないのか?

 その前に、久遠、お前、下着はどうした?」

 

 俺は少し呆れながらも問う。

 

「下着?着てない」

 

 あっさり答える久遠。

 ああ、そうか、久遠の服は巫女が着るような式服。

 しかも参考にしているのは300年前。

 だから下着の知識が無く、具現化していないのか・・・

 つまりは大人モードでもあの布がめくれた先は何も履いてないと・・・

 いかん、これは忘れよう・・・いや、忘れる前に、今度、何とかしてもらわんとな・・・

 

「仕方ない・・・下着もなのはのを借りるか」

 

 俺はタンスからなのはの下着を適当に取りだし、

 久遠に渡そうとするが、

 

「もしかして、履き方知らないか?」

 

 一応聞いてみたのだが・・・

 

「知らない」

 

 きっぱり答えられた・・・

 那美さん・・・それくらい教えておいてください・・・

 

「解かった、じゃあ俺に掴ってまず片足を上げて」

 

 仕方なく、俺は久遠に服を着せていく。

 まあ、要領はなのはで知っているので問題は無かったが・・・

 

 

 十数分後 翠屋

 

 カラン カラ〜ン♪

 

 なのはの服を着て、帽子を被った久遠と俺はカウンター席に座る。

 因みに久遠の尻尾はスカートでちゃんと隠れてる。

 

「いらっしゃ〜い。

 って、あら恭也」

 

 出てきたのはかーさんだった。

 かーさんは俺と久遠を見ると、

 

「あら、現役の高校生がこんな時間に、

 そんなかわいい幼女を連れて何をしているの?」

 

 などとのたもうた。

 

「学校を休んでいるのはドクターストップだ」

 

 あからさまにからかっているが、一応真面目に答えておく。

 

「あら、そうだっけ?

 それで、なんでなのはの服を着た久遠ちゃんがいるの?」

 

 俺の言い分をほぼ無視して、そう久遠に問うかーさん。

 

「お腹空いた」

 

 と、簡潔に・・・といっても久遠のボキャブラリーでは精一杯の答えか。

 

「久遠が着ていて、お腹が空いたから、

 そのまま移動するわけにもいかず、なのはの服を借りて、

 ここまで昼食を取りにきたんだ。

 家には食材が無かったからな」

 

 俺は説明を加えておく。

 

「そう。

 じゃあ、何にする?」

 

 やっと本題に入れた・・・ 

 取り合えず俺達は適当な物を頼んで昼食を済ませる。

 

 昼食を済ませた後は、二人でちょっと商店街をぶらぶらと回って、

 その時、一回職務質問された・・・これは退魔師の名刺だけで済んだが。

 少し買い物をしてから家に戻り、また縁側でお茶を啜るのだった。

 

 そして3時ごろ 

 

 その後もまた、縁側で、のんびりとした時間を堪能していると、

 

「ふぁ・・・」

 

 久遠が眠そうに欠伸をする。

 

「久遠眠いか?」

 

 俺が聞くと、こくこくと頷き、

 

「元の服に戻りたい」

 

 流石に着なれない服では寝苦しいのか、

 そう述べる久遠。

 

「元の服は変身の要領で具現化するんだよな?

 じゃあ、それを脱ぐだけでいいんじゃないのか?」

 

 と、俺が聞くと、

 久遠は服に手をかけるが・・・

 

「ボタン、取れない」

 

 ・・・またか?

 と思いつつも、俺はこの場では拙いので、取り合えずリビングに移動し、

 久遠の着ているなのはの服を脱がそうと・・・

 したその時、

 

「「ただいま〜」」

 

「「おじゃましま〜す」」

 

 玄関に美由希となのはの声と、那美さんとセリスさんの声が響く。

 そして・・・

 

 カチャ!

 

 こっちが何かをする間も無く、リビングの扉が開き・・・

 

「恭ちゃんただい・・・」

 

「おじゃまし・・・」

 

 入ってきてすぐに固まる美由希と那美さん。

 俺の今の状況。

 久遠が着ているなのはの服を半分脱がしている。

 と言ったものだ・・・

 

「なのは、那美、美由希、セリス」

 

 無邪気に入って来た四人に声を掛ける久遠。

 

「あらあら可愛いわ、久遠」

 

 セリスさんはそんなことをのたまって、久遠しか見てない・・・、

 

「くーちゃん、おにーちゃん、何をしているの?」

 

 状況が全く解かっていないなのは。

 曲解されたら困るが・・・

 そして、まあ、予想はつくと思うが・・・

 

「恭ちゃん!」

「恭也さん!」

 

 最早これはお約束なのだろうか・・・・

 

 十数分後

 

 飛びかからんとしていた美由希はセリスさんが押えてくれたので、

 何とか大事に至る事なく、誤解と解く事ができた。

 セリスさんは話しが解かる・・・と思ったら、その後じっくりたっぷり、

 那美さんと二人でお説教をされた・・・人格否定を交えながら・・・

 

 で、それも一応終った様で。

 

「ところで、おにーちゃん。

 くーちゃんは下着も穿いてなかった筈だけど?」

 

 と、聞いてくるなのは。

 そう言えばなのはは一緒にお風呂に入っていた事があったな・・・

 

「それもお前のを借りた」

 

 この状況でウソを言うと洒落にならなそうなので正直に答えておく。

 

「なのは、借りてる」

 

 などと言いながら、スカートをめくってパンツを見せる久遠。

 

「「「あああああ!!!」」」

 

 そんな久遠を慌てて止める那美さん、なのは、美由希。

 

「だめよ、久遠、そう言うのは出し惜しみしなくっちゃ」

 

 セリスさんだけは落ち着いた笑顔だ。

 しかし何故そんな楽しげなんだ?

 

「もう、ダメだよくーちゃん。

 で、おにーちゃん。

 この下着もくーちゃんが選んだの?」

 

 スカートを裾を持つ久遠の手を離させながら、俺に問うなのは。

 

「これ、恭也が選んだ」

 

 俺が答える前に言ってしまう久遠。

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

 黙って俺を睨む3人。

 いや、普通の白いパンツだぞ?

 

「恭也君こういうのが趣味?」

 

 趣味ってなんですか?趣味って・・・

 

「いや、穿かせないわけにもいかないだろう?

 適当に取ったんだ」

 

 取り合えず弁解する俺。

 

「む〜〜〜!」

 

 ポカポカポカポカ!

 

 顔を赤く染め、俺の腹のあたりを叩いてくるなのは。

 身長の関係で、そこまでしか手が届いていないのだが・・・

 恐らく、なのはにしては全力・・・はっきりいって可愛いだけの攻撃だ。

 

「悪かった、今度何か買ってやるから許してくれ」

 

 少し泣きそうな顔をしていたので、俺はそう言って宥めてみる。

 

「じゃあ、今度の休み、くーちゃんと一緒に何処かに連れてって」

 

 上目遣い+ちょっと涙目で訴えるなのは。(対兄用絶対無敵コンボだ)

 

「わかった、何処へでも連れてってやる」

 

 俺は考えもしないで答えた。

 

「それなら、まあ許しましょう」

 

 取り合えず機嫌の直ったなのは。

 

「くーちゃん、おにーちゃんが今度何処かに連れてってくれるって。

 何処に連れて行ってもらうか決めよう〜」

 

「くぅ〜ん♪」

 

 楽しそうに2階に向かう二人。

 インターネット等で行く先を探すのだろう。

 

「ふぅ・・・

 ところで、何で那美さんとセリスさんが家に?」

 

 俺は始めから聞きたかった疑問を聞いてみる。

 

「貴方と那美に話しがあるからここに来たの」

 

 そう、セリスさんは答えた。

 

 そして、俺の部屋に移動し、

 

「私はお邪魔?」

 

 と聞いてきた美由希は、

 

「あ、構いませんよ、貴方にも関わりますから」

 

 とのセリスさんの答えに、一緒に話しを聞く事になった。

 なのはと久遠は2階のなのはの部屋。

 俺、那美さん、セリスさん、美由希は俺の部屋に集まる形となった。

 座布団に正座する4人(俺達は勿論、セリスさんも正座は平気の様だ)。

 セリスさん一人と、俺達3人が対面する形で座る。

 

「ちょっと暗い話しになります」

 

 セリスさんはそう切り出した。

 俺達は黙ってセリスさんの話しに耳を傾ける。

 

「まず、昨日の任務での事は妹から聞いています。

 私達の情報提供のミスでご迷惑をお掛けしました」

 

 と、俺と那美さんに頭を下げるセリスさん。

  

「いえ、皆無事だったんですから」

 

 既に俺の傷も完治に近く、昨日も駆け付けて貰った時に謝られ、

 その事での謝礼なら報酬の十分過ぎる上乗せもあるので、何も言う事は無い。

 それでも、セリスさんは本当に申し訳なさそうな顔をしている。

 

「皆無事かもしれませんが、

 それでも、問題は起こってしまいました」

 

 悲しげな顔をするセリスさん。

 

「昨日の久遠・・・封印が外れましたね」

 

 その言葉に緊張が走る俺と那美さん。

 美由希は昨日の事は詳しく知らないので?マークを浮かべている。

 

「貴方が傷付くのを見た久遠は全ての敵を雷の力で焼き払いました。

 それが何を意味するか、貴方達は気付いているのでしょう?」

 

 真剣に俺達を見詰めるセリスさん。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 俺と那美さんは言葉が出ない・・・

 

「久遠は、一度那美の優しさで『祟り』から開放されました。

 でも、あの子は『あの悲しみ』を乗り越えたわけじゃないんです」

 

 『あの悲しみ』、それは、俺と那美さんは解かる・・・

 弥太という少年との悲しい過去・・・

 

「今は、那美、なのはちゃん、恭也君、その他皆がいるから、そんな風には見えないけど、

 久遠の心は非常に不安定です。

 久遠の今の大切な人のトップ3である、那美、なのはちゃん、恭也君、

 貴方達3人が、もし、傷付くような事があれば・・・」

 

 そこで、一旦言葉を切り、目を伏せる。

 そして、決意したかのように、でも悲しみに満ちた瞳を、俺達に向け、

 

「あの子は再び『祟り』に憑かれるでしょう」

 

 ハッキリとそう述べるセリスさん。

 

「「「!!!」」」

  

 久遠が再び祟りに、この言葉は深い事情を知らない美由希も含め、

 俺達を驚愕させるには十分過ぎた。

 

「そして、再び久遠が『祟り』となった時、

 私は、あの子を・・・

 殺します」

 

 セリスさん本人かを疑いたくなるような冷たい、

 いや、『無』の瞳・・・

 そして、俺は、かつて目を赤く染めたさくらさんに睨まれた時、

 いや、その時以上に、動く事ができなかった・・・

 この人がさっきまで久遠を愛しそうな目で見詰めていたセリスさんなのか!?

 

「セリスさん!!」

 

 セリスさんが一旦目を閉じ、雰囲気が若干戻ると、

 立ち上がって抗議しようとする那美さん。

 勿論俺も立ち上がって掴みかかってでも、と言う気になるが、

 

「セリスさん、那美さんは一度久遠を『祟り』から救っています、

 それならまた憑かれても、もう一度救い出す事も・・・」

 

 俺はそう抗議しようとした、

 が、

 

「ええ、『祟り』からは救えるでしょうね。

 でも久遠自身を救えなければ何の意味もないわ」

 

 冷たく、痛いほど冷たく言い放つセリスさん。

 普段の温厚な雰囲気からは想像もできない冷たい瞳で。

 でもその冷たさの中に見える悲しげな色・・・

 

「久遠の力は、普段久遠自身で設けているリミッタ―と、

 私がかけた封印で、大人モードでも抑えられているのよ。

 貴方達が『祟り』を倒した時も、久遠は自我があったから、力は抑えられていたわ。

 久遠の本当の力・・・それは昨日見たでしょう?」

 

 久遠の力・・・山を覆い尽くさんばかりに発生していた鬼を、 

 一瞬にして全て焼き払ったあの力・・・

 

「あの子が本気になれば、神咲当代全員の命をもってか、

 『ざから』を開放した真一郎君くらいしか太刀打ちできない。

 もし、全力の戦闘が起きれば、この街は壊滅。

 神咲、真一郎君が街を庇いながら戦えば、良くて相打ち」

 

 感情の無い瞳で説明するセリスさん。

 俺達はただ聞くしかなかった。

 

「あの・・・力だけ封印とかってできないんですか?」

 

 そこに、美由希がもうしわけなさそうに尋ねる。

 

「無理よ、あの子があの子である限り。

 昨日だって怒りと悲しみで力を解放した久遠に、

 私の封印は紙ほどの役にも立たなかったわ・・・」

 

 その答えを聞き、完全に沈黙する俺達。

 つまり・・・打つ手は無しと・・・

 

「あら?貴方達まで何をそんなに暗くなっているの?

 何も今すぐ殺すなんて言ってないでしょう?」

 

 暗い雰囲気に沈んでいた俺達に、

 もう元に戻り、いつもの明るいセリスさんが声をかける。

 

「要は、そうなる前に、貴方達に。久遠が悲しみを乗り越える手伝い、

 乗り越えるのはあくまで本人の問題だから手伝いよ、

 それをしてあげて欲しいって言っているのよ。

 それで、乗り越えるまではケガには気をつけてねって事よ」

 

 笑顔で一気に場の雰囲気を変えるセリスさん。

 

「あ、ああそうですよね。

 解かりました、久遠の親友として、がんばります」

 

 那美さんもいつもの調子に戻る。

 

「それで、恭也君と美由希ちゃんはね、

 そう言うわけだから、二人での鍛練は暫くしないで欲しいの、

 今は恭也君が強くとも、急激な成長期にある美由希ちゃんが、

 何時、有効打を入れるか解からないからね」

 

 美由希と俺にそう説明するセリスさん。

 

「あ、はい、解かりました。

 そう言う事なら仕方ないですね」

 

 納得する美由希。

 場の雰囲気が明るくなって行く。

 そして、場がお開きとなり、セリスさんは帰宅、那美さんは神社に向かい、

 美由希は翠屋に行こうとしていた。

 そんな中、

 

「恭也君、貴方は特別な事はする必要ないけど、

 ただ、あの子が大切なら、その気持ちを表現してあげてね」

 

 俺の横を通り過ぎる際にそう俺の耳に囁いたセリスさん。

 

「じゃあ、またね〜」

 

「おじゃましました〜」

 

 俺が振り向いた時には、もう、セリスさんは門を出ようとしていた。

 そして、呼び止める事もできず、去っていってしまうセリスさん。

 

 暫し、俺は縁側に座り、お茶を飲みながら考える。

 先ほどの言葉の意味を・・・

 

 

 それから、レン、晶が帰ってくるが、すぐに二人して夕飯の買出しに出かけ、

 また、家から人の気配が無くなる・・・

 

「ん?なのはと久遠はどうしたんだ?」

 

 2階になのはの部屋の方に目を向けるが、

 動く気配が感じられない。

 俺は立ちあがり、なのはの部屋へと移動する。

 

 コンコン

 

 ノックをすれども反応無し。

 中に二人ともいるのは確かだが・・・

 

「入るぞ」

 

 一応断ってから部屋に入る。

 すると、

 

「す〜・・・す〜・・・」

「く〜・・・く〜・・・」

 

 予想通りベットで寄り添いながら寝ている二人。(久遠(小))

 周りを見れば遊園地や動物園、水族館等の娯楽施設のパンフレットなどが広がっている。

 俺に連れて行ってもらう所を選んでいるうちに寝てしまったのだろう。

 俺は、そんな二人が寝ているベットに腰をかけ、

 久遠の頭を軽く撫でる。

 

「・・・なあ久遠、俺はお前に何ができる?」

 

 答えが帰ってくるとは思っていない。

 ただ、何となくで口にだした言葉・・・

 

「ん・・・」

 

 それに反応したかの様に動く久遠。 

 起こしてしまったかと思ったが、

 

「・・・恭也・・・好き・・・」

 

 そんな事を言って、また安らかな寝顔で寝息を立てる久遠。

 

「寝言か・・・」

 

 一体どんな夢を見ているのだか・・・

 

「えへへ・・・おにーちゃん・・・」

 

 今度はなのはも俺を呼ぶ。

 これも寝言の様だが、流石に少し驚いた。

 

「ふ・・・」

 

 多分俺は微笑んでいるのだろう。

 俺は暫く二人の寝顔を見詰めていた。 

 願わくば、この二人がいつまでも笑顔でいられますように・・・








 その2へ