その夜 なのはの部屋

 

 くーちゃんと二人で連れて行ってもらう場所を選んでいて、

 夕飯まで寝てしまい、くーちゃんも一緒に夕飯を家で食べました。

 それで、ついでに那美さんに電話で許可を取って、

 今日はくーちゃん、家にお泊まりです。

 因みにくーちゃんは今子供モードです。

 

「やっぱりこっちかな〜

 でも、こっちも捨てがたいし〜♪」

 

「くぅ〜ん♪」

 

 今私達はまだ決まっていない行き先を決めるのに悩んでいます。

 おにーちゃん、あんまり何処かに連れて行ってくれるとかはしてくれないから、

 慎重に、よく吟味して選ばないといけません。

 

「あれ?そう言えばこことここ、近くにあるんだ・・・」

 

 私はふたつのパンフレットに書かれている場所と地図を見比べます。

 

「よし、両方に連れて行ってもらっちゃおう♪」

 

「くぅ〜ん♪」

 

 えへへ、決定です☆

 明日おにーちゃんに言っておこうっと。

 そう、おにーちゃんと言えば・・・

 

「ねぇ、くーちゃん、今日、夕飯前に寝てた時の夢ってくーちゃんの夢写しだよね?

 何か、今までの夢写しとは違ったけど」

 

 私は夢を見ました、でも何かが違った。

 これは、そうくーちゃんと一緒に寝た時に起きる『夢を見せられる』感覚。

 しかし、それも今日は少し違いました。

 その夢には私もいて、つまり見せられる夢に出演したのです。

 夢の内容は・・・

 場所は神社、時刻は夕暮れ、私とくーちゃんはいつもの様に遊んでいて、

 いつもの様に落ち葉を集めている那美さんと、

 社の階段に座って私達を見ているおにーちゃん。

 そんな、いつもの、夕暮れの風景。

 ささやかな幸せ、永遠に続くかのような儚き夢・・・

 

「くぅん」

 

 くーちゃんは笑顔で肯定します。

 と言う事は、くーちゃんは、あの情景を夢に見るほど望んでいる言う事でしょうか・・・

 

「ねぇ、くーちゃん、おにーちゃんの事、好き?」

 

 私は気になりました、くーちゃんがおにーちゃんをどう思っているのか・・・・

 私や那美さんと同じ友達なのか・・・

 それとも・・・

 

「恭也、好き」

 

 それはいつも聞いている答え、 

 いつも通り、笑顔で答えるくーちゃん。

 

「じゃあ、くーちゃんはおにーちゃんと恋人さんになりたいと思う?」

 

 何で私はくーちゃんにわざわざこんな事を聞いているのでしょうか・・・

 

「恋人?・・・久遠、解からない・・・

 恋人って、なに?」

 

 困った顔をするくーちゃん。

 私も困っちゃいました。

 質問しておいて、私も『恋人』を上手く説明できる自信がありません。

 

「じゃあ、くーちゃんは誰が1番好き?」

 

 少し卑怯な聞き方でしょうか?

 私はそう尋ねました。

 

「久遠、皆好きだよ」

 

 困った顔で答えるくーちゃん。

 

「そっか・・・そうだよね」

 

 くーちゃんにとって私達とおにーちゃんは同じ好きなのだろう。

 ・・・いや、違う、私には解かります。

 くーちゃんにとっておにーちゃんは特別な位置に在ります。

 何故解るの?と聞かれても・・・ん〜・・・同じ少女の勘としか言えませんが・・・

 

「なのは?」

 

 少し考え事をしていた私に、くーちゃんが声をかけてきました。

 

「ああ、なんでもないよ。

 じゃあ、そろそろ寝ようか?」

 

 私は今まで考え事を振りきるように、パンフレットを片付けます。

 

「くぅ〜ん」

 

 そして私はくーちゃんと抱き合ってベットに入りました。

 

 その日見た夢は、くーちゃんと一緒におにーちゃんと遊ぶ夢・・・

 これもくーちゃんの夢写し・・・くーちゃんの望む明日・・・

 そしてそれは、私も望む明日・・・

 

 

 それから2日後の夕方

 

 あれから俺は日々のトレーニングをイメージトレーニングと、

 霊力等の基礎トレーニングに重点を置いた、一人での鍛練をし、

 美由希はレンや晶などとの鍛練に勤しんでいる。

 そして、今日もなのはと共に神社に赴き、

 那美さんと一緒になのはと久遠が遊んでいるのをお茶を飲みながら眺めるのであった。

 

「く〜ちゃ〜ん」

 

「くぅ〜〜ん」

 

 楽しそうに、本当に楽しそうに笑顔で戯れる二人。

 

「平和ですね」

 

「そうですね〜」

 

 俺は那美さんと並んで二人を眺める。

 あの日から、久遠とできるだけ一緒にいるようにしているが、

 なにぶん、問題は久遠自身の事。

 俺達が直接何かできるわけではないので、ただ見守るだけだった・・・

 

「それにしても、 

 あの二人を見てると、久遠が悲しみを背負ってるなんてとても見えませんよね」

 

 少し悲しげに呟く那美さん。

 

「ええ、そうですね・・・」

 

 俺もそう思う。

 だが・・・事実、見ているのだ、久遠のあの、愛故に怒り、愛故に憎しみ、

 そして愛故に悲しみを宿した瞳を・・・

 

「大丈夫、昔は久遠にはあの弥太という少年しかいなかった。

 でも、今は、那美さん、なのは、そして俺達がいます」

 

 久遠はもう一人じゃない。

 友が、家族がいる。

 大切に思ってくれる人が沢山いるのだ。

 

「そう・・・そうですよね。

 私達がいれば、久遠を救えますよね」

 

「ええ」

 

 また静かに二人を見詰める俺達。

 そして、那美さんが俺に寄り添ってくる。

 元々すぐ側に座っていたのが、頭を俺の肩に預ける様にして。

 

「今度は皆で久遠を、

 今度こそ本当に救ってあげましょうね」

 

 少し弱気になっているのだろう、

 セリスさんにあんな宣言をされて・・・

 俺は那美さんの不安が安らぐならと思い、那美さんの肩を抱く。

 

「ええ、皆で久遠を、過去の悲しみから開放して、

 苦しんだ分、悲しんだ分、幸せにしてあげましょう。

 勿論、那美さん、貴方も一緒に」<勿論マジで他意は無く他のヒロインズにもそう思っている

 

 那美さんも久遠の祟りで両親を無くし、悲しみ、苦しんだんだ、

 那美さんも一緒に幸せにならなくてはいけない。

 俺は、俺ができうる限り優しく抱きしめて、優しくそう告げた。

 

「はい・・・」

 

 那美さんはそれで安らげた様で、

 やはり俺の行動が恥ずかしかったのか、ちょっと顔を赤くして、<勿論告白と受けとっている

 嬉しそうに微笑む。

    

 と、そんな中

 

「・・・」

「・・・」

 

 横目で見えたのか、

 俺達がこうしているのを、遊びを中断して、

 少し睨む様に見ているなのはと久遠。

 ・・・いや、見られると、流石に恥ずかしいのだが・・・

 その二人は、無言で俺達の方に走り寄ってきた来たかと思うと、

 

「那美、ずるい♪」

「私も〜♪」

 

 タッタッタッタ! バフッ!

 

「きゃぁっ!」

 

 そう言って、あたかも那美さんを押し退けるかの様に、

 俺に抱きついてくる二人。

 

「おい、こらこら」

 

 俺は軽く二人を叱りはするが、受け入れ、抱きしめてやる。

 

「うう・・・もう少し幸せの余韻に浸らせてくれても・・」

 

 那美さんは隅でいじけている・・・

 俺はそんな那美さんを少し心配するが・・・

 

「恭也、好き♪」

「おにーちゃん大好き〜♪」

 

 と、二人は更に俺に強くしがみついて離さない。

 まあ、それで二人が幸せなら俺はそれでいいが。

 

「子供の特権だけど・・・ずるいのは久遠よ・・・」

 

 なんか更に落ち込んでいる那美さん・・・

 

 まあ、平和である事には変わりない。

 

 

 その頃 さざなみ寮

 

 さざなみ寮の2階ベランダ。

 昔、美緒がよくやっていた様に、手すりに座り遠くを、 

 八束神社の方をジッと眺めているメティ。

 ほぼ無表情で・・・でも、その瞳は寂しいと訴えている。

 この子を想っている者でなければ気付けないだろうが・・・

 

「何を見ているのだ?」

 

 そんなメティに背後から話しかける美緒。

 

「・・・八束神社」

 

 少し答えを悩み、振り向かずにそう答えるメティ。

 

「久遠を見張ってるの?」

 

 珍しい真面目な顔で問う美緒。

 

「・・・そうよ」

 

 美緒を始め、寮生は皆、知っている、久遠の心の傷を。

 今更隠す必要は無いので、正直に認めるメティ。

 

「あのさ・・・どうせ見張るなら、

 なんで混ざって遊ばないの?」

 

 言うべきか、少し迷ったが、そう尋ねる美緒。

 

「・・・本気で言ってる?」

 

 そこで、始めて美緒に振り向き、

 少し怒った顔で問い返す。

 

「あたしは、そう言う冗談は嫌いなのだ」

 

 いたって真面目に答える美緒。

 その瞳は、意志が存在した。

 

「・・・は、バカバカしい」

 

 それを知りつつも、嘲笑う様に表情を崩し、

 また、視線を八束神社に戻すメティ。

 

「なんで、私が混ざって遊ばないといけないのよ」

 

 下らないと言わんばかりの口調で吐き捨てる様に言うメティ。

 

「友達・・・好きになったから、

 近づきすぎて、嫌われるのが怖い?」

 

 そんなメティの心を覗くかの様に尋ねる美緒。

 

「・・・な、何をいってるの?

 私はなのはの事なんて・・・」

 

 隠そうとはしているが、動揺しているのが解る。

 声は震え、何処か落ちつかないメティ。

 

「そう、なのはって子もそこにいるのだな」

 

 誘導尋問に近い形でその名前を出させた美緒。

 

「・・・那美達が戻ってくる。

 美緒、貴方も早くバイトに行ったら?

 店長、悲鳴を上げてるわよ」

 

 バサッ!

 

 その体勢のまま飛び立るメティ。

 逃げる様に・・・いや逃げたのだ。

 

「アンタも乗り越えないといけない傷があるのだな」

 

 夕闇に溶けて見えなくなるメティ。

 そんな彼女を見て呟く美緒。

 

 

 それから数十分後 さざなみ寮前

 

「それでは、行ってきます」

 

 巫女服でタクシーに乗りこむ那美さん。

 なんでもちょっと遠出で御払いに行くそうだ。

 因みに今さざなみ寮の人はほとんどが外出していないらしい。

 薫さん、耕介さん、セリスさんも遠出の仕事。

 そう言えば真一郎さん達も仕事と言っていたな。

 俺達には久遠の事があるから話が回ってこなかったが。

 

「気をつけていくださいね」

 

 今回は簡単な御払いらしいので、

 俺は必要無いらしい。

 それでも久遠は同行する事になっているが。

 

「くぅ〜ん」

 

 狐モードで那美さんの腕の中にいる久遠は、

 自分がいるから大丈夫と言っている様だ。

 

「はい。

 あ、遅くなるかもしれませんが、

 ちゃんと明日の夜には帰ってきますから」

 

 明後日はなのはとの約束で、久遠と3人で水族館と遊園地に連れて行く予定だ。

 二人はえらく楽しみにしてるからな。

 

「くーちゃん、明後日ね〜」

 

「くぅ〜ん」

 

 なのははそう言って久遠に手を振る。

 

「では那美さん、がんばってください」

 

 俺もそう言って那美さんを送り出す。

 

「はい。

 では、お願いします」

 

 そしてタクシーが発車する。

 俺達は見えなくなるまで見送ってから、

 

「じゃあ、帰るか」

 

「うん」

 

 帰路に着いた。

 当然来ると思っている明日を夢見ながら・・・

 

 

 その日の夜 なのは 

 

 夢・・・夢を見ています・・・

 私の大切な二人の夢を・・・

 静かに愛し合う二人の夢を・・・

 

ダメ・・・もう・・・久遠は・・・

 

 泣いているくーちゃん。

 なんだろう?近くで見ているような気がするのに・・・

 望遠鏡か、スクリーンを見ている様な感覚・・・

   

そんな事は無い、俺と一緒に帰ろう、久遠!

 

 2人の会話はよく聞き取れないけど、

 何をしようとしているのかは、何となく解る。

 おにーちゃんは必死にくーちゃんを説得しようとしてる・・・

 

ダメ・・・帰れない・・・

 

 泣きながらも拒絶するくーちゃん。

 

なのはだって那美さんだって、怒ってなんかいない、

 お前を嫌ってなんかいない!

 大丈夫だ、俺と帰ろう、皆の所に

 

 それでも必死に説得しようとしているおにーちゃん。

 ・・・違うよ、おにーちゃん、くーちゃんが聞きたいのはそんな言葉じゃないよ!

 もっとちゃんと・・・

 と、その時、

 

時間切れよ、恭也君

 

 おにーちゃんの背後から現れるたのは・・・セリスさん?

 酷く悲しい顔をしています。

 

・・・

 

 おにーちゃんはゆっくりと振り向き、

 そして、小太刀を構える・・・

 なんで?何でおにーちゃんがセリスさんに剣を向けるの?!

 

セリス・・・殺して・・・

 

 全てを諦めた様な顔で、セリスさんに頼むくーちゃん。

 それでも、おにーちゃんは、くーちゃんの前に立って、

 セリスさんと対峙する。

 

・・・退いてはくれないの?

 

 悲しげにおにーちゃんに問い掛けるセリスさん。

 

・・・

 

 おにーちゃんは構えたまま黙っています。

 

そう・・・ですか・・・」

 

 悲しげに何かを呟くセリスさん。

 そして、一度目を閉じて、開くと、

 

では、2人一緒に・・・

 

 セリスさんの手に光りが集まり、

 収縮していく・・・

 そして、

 

お休みなさい

 

 バシュッ!

 

 短い音と共に放たれ、

 それは一直線におにーちゃんと、その後ろのくーちゃんを・・・貫く・・・

 それを涙を流しながら確認するセリスさん・・・

  

 スローモーションで倒れるおにーちゃんとくーちゃん・・・・・・・・

 

 

 ガバッ!!

 

「っ!!はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・

 ・・・・・・・・ゆ、夢?」

 

 布団を飛ばして起き上がった私・・・

 鮮明に思い出される倒れる二人の映像・・・

 私は、居ても立ってもいられず、ベットから抜け出し、

 階段を降り、おにーちゃんの部屋へと向かう。

 

「どうした、なのは」

 

 私が降りてくるのに気が付いたのだろうおにーちゃんは、

 私が部屋の前まで来ると、自分で襖を開けて、私を心配そうに見詰める。

 私は、そのままおにーちゃんに抱きつく。

 

「怖い夢でも見たのか?」

 

 多分震えていたのだろう、

 私に優しく問いかけてくるおにーちゃん。

 私は何も言わずに暫くおにーちゃんにしがみ付いていた。

 その間、おにーちゃんは私の頭を優しく撫でてくれました。

 そして、暫くして、

 

「おにーちゃん・・・一緒に寝てもいい?」

 

 私は上目使いでお兄ちゃんに聞きました。

 多分、涙が目に溜まっていたと思います。

 

「・・・ああ、いいぞ」

 

 おにいちゃんは少し考えましたが、

 そう言ってくれました。

 私は、おにーちゃんにしがみ付いたまま布団に入りました。

 おにーちゃんは、そんな私を優しく抱しめてくれました。

 それで、私の不安は少しずつ和らいでいきました。

 

「ねぇ、おにーちゃん・・・くーちゃんの事好き?」

 

 それでも消えない不安から、私はおにーちゃんに聞きました。

 

「ん?久遠か?

 ああ、勿論だ」

 

 そう答えてくれるおにーちゃん。

 

「だったら、ちゃんと言ってあげないとダメだよ。

 くーちゃんは態度だけじゃなくて、

 ちゃんと言葉でも言ってあげないと解からないから。

 くーちゃん、おにーちゃんと同じくらい・・・どんかん、さん・・・なん・・・だから・・・」

 

 私は、そこで強烈な眠気に襲われ、おにーちゃんの胸の中で眠りました。

 

「それはどういう・・・

 ・・・寝てしまったか」

 

 そして、私は、私の言葉で少し難しい顔をしたおにーちゃんに、

 優しく包まれて深い眠りにつきました。

 

 

 

 

 その頃 香港近海 とある島

 

「さて、ここもあらかた片付いたか・・・」

 

「そうですね」

 

 仕事で地図には載っていない島にきていた美沙斗と啓吾。

 そこは龍の一端の秘密基地の一つだった。

 そこに居た龍の構成員も今しがた全滅させ、

 今は、何か情報が無いか探っている所だ。

 

「ん?」

 

 そこで、美沙斗は点けっぱなしの端末を見つける。

 

「何かいい情報あるか?」

 

 啓吾も覗き込む。

 美沙斗が軽く操作していると、

 

「こ、これは!!」

 

 少し弄って出てきた情報に驚愕する美沙斗。

 

「おいおい・・・」

 

 啓吾にも緊張が走る。

 計画の内容もそうだが、それに割り振られる規模の大きさ。

 

「啓吾さん・・・」

 

「ああ」

 

 急いで島を出る二人。

 そのディスプレイに映っていたのは、とある一族の生き残りを、

 完全に抹殺する為の計画。

 過去と同じ方法で・・・

 

 

 続く

 

 あとがき

 

セリス「さてさて、物語はついに佳境に入りました〜」

メティ「ついでに続編であるなのは編への布石がそこいらにばら撒かれてるわね」

セリス「そうね〜

     まあ、回収し損ねる様な真似だけはしない筈だから大丈夫でしょう」

メティ「そうだといいけど・・・

    にしても、なのはは未来視系の能力者?」

セリス「そこらへんは細かく突っ込まないでね♪」

メティ「まあいいけどね」

セリス「ではまた次回でお会いしましょ〜」