月夜

第伍夜 過ち

 

 

 

 次ぎの日 放課後 なのはサイド

 

 帰りのバスから降り、そこからいつものメンバーで帰路に着く私。

 

「で、どうなの思い出せた?」

 

「う〜ん、もう喉まで出かかってるんだけどねぇ」

 

 一緒に歩いているのは七瀬ちゃんとメティちゃん。

 今は七瀬ちゃんが、昔好きだった人がいるけど思い出せないという話題です。

 でも昔って何時なんでしょう?

 

「どんな人かは思い出せないの?」

 

 私も気なるので聞いてみます。

 

「ん〜〜優しい人だったは覚えてるんだけど・・・」

 

 七瀬ちゃんは考えすぎて眉がハの字になってます。

 

「愛してた人じゃないの?

 ちゃんと思い出さなきゃ」

 

 そう言って助長しようとしているメティちゃん。

 そう言えばメティちゃん、よく七瀬ちゃんにはアドバイスをします。

 仲がいいのでしょうか?

 

「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

 腕を組み、目を瞑って、唸りながら思い出そうとしている七瀬ちゃん。

 と、そこで、七瀬ちゃんとはお別れの道にさしかかります。

 

「七瀬、貴方はあっちでしょう」

 

 気付かずに私達に付いてこようとしていた七瀬ちゃんに、

 ちょっと呆れながらも声をかけるメティちゃん。

 

「あっと、いけない。

 じゃあ、二人ともまた来週〜」

 

 気付いて、手を振ってその道を曲がる七瀬ちゃん。

 

「ちゃんと前見て歩かなきゃダメだよ〜」

 

 道を曲がると、また考え始めた七瀬ちゃん。

 危なそうなので注意はしておきますが、

 

「ん〜」

 

 生返事の七瀬ちゃん。

 

「交通事故にでもあって、また死んじゃったら、

 今度は間に合わないわよ〜」

 

 と、よく意味の解からない事を七瀬ちゃんに叫ぶメティちゃん。

 でも、

 

「んん?」

 

 その言葉で七瀬ちゃんは余計に考えこんでしまいました。

 今度は立ち止まって。

 

「大丈夫かな?」

 

「ダメかも」

 

 それから、私達は、考えるのは帰ってからと七瀬ちゃんを説得し、

 帰路に着きました。

 暫くはメティちゃんと二人きりの帰り道。

 メティちゃんは最近休む事も多いです。

 理由は、本人曰く『乙女の秘密』らしいですが・・・ 

 そんな事もあって、皆と仲は良いけど、『友達』はいないメティちゃん。

 そんなメティちゃんと、仲良くなりたいのですが、何かと私は避けられます。

 それでも、この帰り道だけは二人で話せるので、利用しちゃいます。

 

「ねえメティちゃん、学校楽しい?」

 

 何気ない会話、きっとこれも意味がある筈です。

 

「うん、勿論よ」

 

 笑顔で答えてくれるメティちゃん。

 こう言う会話はちゃんとしてくれます。

 

「お休み多いけど、勉強大丈夫?」

 

「まあ、慣れてるから」

 

 微妙に繋がってない気もたまにしますが。

 それから、少し何気ない会話を続けました。

 そして、時間が迫った頃、

 

「ねぇ、私、明日おにーちゃんに水族館と遊園地に連れて行ってもらうんだけど」

 

 と、話しを切り出します。

 

「ああ、久遠が自慢してたわ〜」

 

 あ、そっか、さざなみ寮にはくーちゃんもいるんだった。

 ちょっと失敗でした。

 でも、

 

「それで、メティちゃんも良ければ、一緒に行かない?」

  

 私は勇気を出して聞いてみます。

 

「・・・ごめん、明日は私デートなの」

 

 メティちゃんは申し訳なさそうにそう答えました。

 またです。

 こっちが何か誘うと、何かと断られます。

 大体理由はデートですが・・・因みに既に、永久の愛を誓った男(ひと)がいるそうです。

 

「そう・・・」

 

 雰囲気に溶けこむけど、指し伸ばした手は取ってくれない、

 一定の距離を保とうとする、そんなメティちゃん。 

 でも、きっといい子なので友達になりたいです。

 私、あきらめ悪いです。

 

「じゃあ、またね」

 

 分かれ道来て、さざなみ寮への道を登っていくメティちゃん。

 

「また来週ね〜」

 

 でも取り合えずは明日が楽しみなのです。

 

「明日は何を着て行こっかな〜♪」

 

 私はスキップ気味で家に向かうのでした。

 

 

 メティサイド

 

 なのはと別れ、なのはも見えなくなった頃、

 

「私は、貴方が思ってるほど綺麗じゃないよ、なのは・・・」

 

 自分でも珍しいと思ったけど、そう呟いた。

 お姉ちゃん達以外の名前が独り言に出るなんて・・・

 と、その時だった、

 なのはの帰った道に嫌な気配を持った人間が通る。

 

「・・・ケビン、いるでしょう?追って」

 

 私は草叢に潜んでいた使に魔をその気配の後をつけさせる。

 それで、何かあればすぐに解かる様にしておく。

 

「・・・悪い予感って当たるからね」

 

 私は気を配らせながらもさざなみ寮に戻る。

 

 

 さざなみ寮

 

 帰ってきて着替えも済んで、

 私はベットに寝っころがって、フローラルを読んでいる時だった。

 

 プルルルルル!

 

 寮の電話が鳴る。

 今は真雪しかいないな。

 あ、でもさっき冷蔵庫に何か漁りに行ったから、出るか。

 と言うわけで私はコールを無視してページをめくる。

 だって私に電話なんてかかってこないし。

 で、少しして

 

「はい、さざなみ寮」

 

 眠そうな声の真雪が電話をとった様だ。

 

「ああ、啓吾さん久し振りっすね」

 

 相手は陣内 啓吾か。

 生憎美緒はバイトだ。

 

「美緒はバイトで遅くなる・・・え?シルフィアに?」

 

 ん?

 違うみたいだね、

 今いるシルフィアを名を持つ者は私だけだよ。

 しょうがない・・・

 私は部屋を出る。

 

「・・・急ぎですか?今は1番下の小娘しかいないんですよ」

 

 真面目な顔で対応している真雪。

 

「真雪、私にでしょう?代わって」

 

 私は真雪に受話器を渡すよう、手を差し伸べる。

 

「・・・今代わります」

 

 真雪は少し悩んで私に受話器を渡し、

 その場を去る。

 

「代わったよ、久し振り、啓吾」

 

 軽く挨拶をしておく。

 

『ああ、久し振りだなメティちゃん。

 ところで、他の人達はどうした?』

 

 何?私じゃ不満なの?

 

「後数日は帰ってこないよ」

 

 皆仕事。

 私はまた留守番。

 

『そうか・・・』

 

 啓吾は少し悩んだが、

 

『私と、不破 美沙斗からの依頼だ。

 パターンブラック、ランクAのな』

 

 パターンとは私達が使う仕事の種類の事。

 ブラックは、対人暗殺任務。

 誰にも知られない様、対象を処理すること。

 ランクは仕事の難易度、まあ目安だけど。

 Aは成功率10%〜15%だったかな?まあ規模にもよるんだけど。

 

「じゃあお姉ちゃんよりかは私向きの仕事じゃない」

 

 いくら仕事、相手は極悪人とは言え、お姉ちゃんは命を消すのに躊躇する。

 

『・・・君にもできればさせたくない仕事だ』

 

 悲しげに吐き捨てる啓吾。

 

「なぁに言ってるの?

 伊達や酔狂じゃ『シルフィア』は名乗れないのよ?」 

 

 言っておくけど言葉通りの意味よ。

 

『・・・そうだったな。

 内容を言渡そう。

 ・・・龍がその街に潜入した、かなりの数だ』

 

 へぇ、じゃあさっきのも龍か・・・

 となると狙いは・・・

 

『狙いは高町家、全員、居候も含めている様だ。

 実は詳しい事は解かっていない。

 解かっているのは、かなりの人数が割り振られ、

 銃器、爆薬と『龍香湯』の改悪型・・・持ち出されているらしいと言う事だ』

 

 少し暗い声の啓吾。

 ダメよ〜、そんな弱気じゃ。

 

「わかったわ。

 任せといて」

 

 まあ、何とかなるでしょう。

 言っちゃ悪いけど人間相手には負けられないから。

 

『すまない、ありがとう』

 

 私に仕事をさせるのがそんなに問題なのか、

 わざわざそんな事を言う啓吾。

 

「だから、いいって。

 それと、これ、対象が高町家でしょう?

 友達関連は仕事じゃないよ、ってお姉ちゃん達言うよ」

 

 友達を護るのは無料なのだ〜、がお姉ちゃん達のやりかた。

 

『ありがとう、頼んだ』

 

 そう言って電話は切れた。

 さて、ケビンに動いてもらうか。

 

 私は使い魔(本当は私のじゃない)に頼んで探りを入れてもらう。

 勿論、何かあったらすぐに対応できる様にはしておいてだ。

 そして数分後、 

 解かったことは、高町家に数人が張りこみ、爆弾をしかけていると言う事、

 会話から全員同時に殺す様なので、桃子待ちと言う事らしい。

 恭也だけにはやたらと警戒している事。

 まあ、最近霊力まで操ってるから、それと知らなくても、危険視して正解ね。

 

「ふぅ・・・人数が多いわね」

 

 ただ全滅させるなら問題無いけど、

 ちょっと今回は訳が違う。

 部屋に戻っていた私は少し考える。

 一人じゃきつい。

 誰か使える人はいないか・・・

 真一郎、耕介、さくら、雪、薫は仕事、元より人殺しはさせられない。

 リスティ、知佳も仕事、二人ならサポートくらいは頼めたけど・・・

 ああ、フィリスはいるわね・・・まあ、あの子を使う気は無いけど。

 後は、高町家か・・・

 うん、あの子達にふりかかった火の粉だし、手伝わせましょう。

 恭也と美由希は使えるはずだわ。

 と、言う訳で、廊下にでて電話を取りに行く。

 

「あ、そう言えば連絡しようにも私恭也と面識ないじゃない・・・」

 

 電話の前まで来て思い出す私。

 念話での一方的な連絡なら1度してるけど、

 念話は、今から恭也対象にはできないな、登録してないし。

 連絡だけならなのは経由でいいかもしれないけど、

 仕事の話しだし・・・なのは、妙に勘がいいから・・・

 

「あ、そうだ、こんな所に那美が忘れていった携帯があったりして〜」

 

 と、昨日、テーブルに置きっぱなしなのを拾っておいた、

 那美の携帯を取り出す。

 後は、

 

「んんっ!恭也さん、お慕い申しております」(那美の声)

 

 よし、変声は完璧〜♪

 って、あれ?

 

 ドドドドドド!!

 

 突如として2階から物凄い勢いで下りてくる人物一人。

 

「知佳〜〜お前は私と一緒に、耕介に全てを捧げたんじゃないのか〜〜!!」

 

 などとのたまって降りてきたのは、

 勿論真雪だ。

 

「・・・あれ?知佳は?」

 

 廊下をきょろきょろ見渡して私に問う真雪。

  

「あのね、今の声私。 

 しかも那美の声を真似したんだけど?

 確かに似てるけど、貴方聞き分けられるんじゃなかったの?仁村姉」

 

 私は呆れながらも問う。

 

「ああ・・・いや、ちょっとショッキングな内容だったんでな・・・忘れろ」

 

 自分で言った言葉も恥ずかしかったのか、

 照れ隠しをして、2階にまた上がって行く真雪。

 

「じゃあ改めて」

 

 私は那美の携帯で恭也の携帯に電話をかける。

 ちょっと特殊な魔法で、ダミーの電波を乗せながら。

 

 

 その頃 恭也サイド

 

 プルルルルル!

 

 部屋で昨日の晩、なのはに言われた事について考えていた俺に、

 電話がかかってくる。

 ディスプレイを見ると、那美さんの携帯からだ。

 

「はいもしもし」

 

 俺はすぐさま出る。

 

『もしもし、恭也さん』

 

 携帯から聞こえるのは那美さんの声だ。

 しかし・・・

 

「・・・誰だ、お前は?

 那美さんはどうした?」

 

 那美さんと俺の絆をその程度で欺こうなど、

 甘いにも程がある。

 

『何を言ってるんですか恭也さん、私那美ですよ』

 

 まだ那美さんの声を使う相手。

 

「電話とはいえ、声だけで騙せると思うな。 

 俺と那美さん関係は、そんな浅いものじゃない!

 那美さんはどうした?」

 

 ハッキリと、電話越しでも伝わるような気迫で言い放つ。

 

『はぁ・・・人がせっかく気を使ったのに・・・

 那美は携帯を忘れていったの。

 それと、そのセリフ、那美に直接言ってあげたら?

 きっと楽しい事が起きるわよ』

 

 ばれた事が心外だったのか、溜息をつく相手。 

 

「で、貴方は?」

 

 先ほどの言葉を信じるなら、寮生だろう。

 

『メルティーナ ザイン シルフィル。

 セリス ルーン シルフィルの妹よ。

 メティって呼んで。

 後、怪しまれない様にちゃんと友達と話している様にして』

 

 確かに、セリスさんからはそう言う名前の妹がいると聞いた。

 それに、なのはの同級生だったな。

 一応言われた通りの雰囲気は作っておく。

 

「で、何のご用で?

 まさか、ただの悪戯か?」

 

 悪戯にしては悪質な事だろうが、

 そうした理由がわからない。

 

『貴方、なのはの同級生から、

 人を殺す事を要求されたら信じる?』

 

 至極真面目な声で聞かれる。

 

「・・・電話越しでも、冗談か、本気かは区別できる」

 

 さらに言うならあのセリスさんの妹だ。

 普通でないと考えていいだろう。

 

『そう、ならいいわ。

 ・・・龍が貴方と貴方の家族に牙を向けているわ』

 

「!!」

 

 そんな衝撃的な言葉から切り出され、

 事の次第を聞いた。

 

『と、言う訳で、貴方にして欲しいのは、

 私が高町家にしかけただろう爆弾を除去する為に、

 デコイとなって、周辺の雑魚を持って行って欲しいのよ。

 貴方、調べた限りじゃ相当危険視されてるから、結構な人数が付いて行く筈。

 その際、ついでだから美由希にもやらせたら?』

 

 家の周りをうろついている奴がいる事は解かっていたが、

 そこまでしていたとは・・・俺もまだ未熟だ。

 思えば、御神と不破の人間が集合したあの時だって爆破されたんだ・・・

 

「俺が外に出た瞬間爆破される可能性は?」

 

 逃がさない為ならやりかねない事だろう。

 

『桃子も殺すつもりだし、バラでやるのは得策じゃないからな〜

 それに、もしそうなったら、私が命をかけて全員こっちに回収するわ』

 

 回収、つまりはフィリス先生やフィアッセもやるアポートだろう。

 桁外れな出力になるが・・・だから命をかけて、なのか。

 

『警察、消防への根回しは私がしておくけど、

 国守山付近か八束神社をつかってね。

 そこらへんなら、私達も非常事態に使うつもりでいたから、

 いろいろセッティングしてあるわ』

 

 そりゃあ、いくらなんでも人のいる所で騒動は起こさない。

 

「了解」

 

 少々あの付近が焼け焦げるかもしれないが、

 仕方ないか・・・

 

『時後処理は私が全部やるから、安心して殺っちゃっていいわよ』

 

 ・・・なのはと同級生の少女からそんな言葉を聞くのは、

 なんとも言えない気分だ・・・

 

『じゃあ、いいわね。

 そうそう、解かってると思うけど、携帯の会話って傍受されちゃうから、

 事前に向うにはダミーを傍受させてあるの。

 ちょっと那美と明るい会話しているつもりで立ちあがって、携帯持ったまま、

 部屋を出てちょうだい』

 

 俺は言われた通り、部屋を出る。

 

『じゃあ、お願いしますね』

 

 また那美さんの声になるメティ。

 恐らくはダミーをカットしたな。

 

「はい、では美由希も連れていきますよ。

 俺は少し寄る場所があるので、遅れますが」

 

 俺はわざとらしくならない様、喋る。

 

『何かありましたら、電話ください』

 

「はい、では後ほど」

 

 俺はそこで電話を切り、

 美由紀の部屋へ向かう。 

 

「美由希」

 

 俺は美由希の部屋に入り美由希と向かいあう。

 

「何?恭ちゃん」

 

 俺の雰囲気を察してか、少々緊張気味の美由希。

 俺は暫しの沈黙の後、

 

「・・・お前は、その刀を、血で染める覚悟はあるか?」

 

 その言葉に完全に真剣な顔になる美由希。

 そして、美由希が出した答えは、

 

 高町家玄関 

 

「ちょっと出てくるぞ」

 

 俺と美由希は普段着の下に完全装備を仕込み、

 今、殺し合いに行こうとしている。

 

「あれ?師匠、美由希ちゃん、こんな時間に何処に行くんですか?」

 

「もうすぐ御飯だよ」

 

 エプロン姿の晶と、手伝っているのだろう、なのはが顔を出す。

 

「ああ、ちょっと食前の散歩だ」

 

 靴を履きながら答える俺と、

 

「私はちょっとそこまで買い物に」

 

 美由希。

 俺達は平時を装い、二人にそう説明する。

 

「そうですか、いってらっしゃい」

 

 と、送り出してくれる晶の声を背に、

 俺達は門をくぐる。

 

「・・・嘘は・・・いけないんだよ」

 

 後ろから、なのはのそんな悲しげな呟きが聞こえたが、

 俺達は振り返る事無く扉を閉め、門の前で作戦通り、お互い逆の道を歩き始める。

 少し歩いて付いて来る気配、かなり上手く消しているが解かる。

 少なくとも俺に6、美由希に3か・・・これでまだ少しは家の周辺に残っている・・・

 どうやら、本気で俺達を全滅させるつもりらしいな・・・

 後は、彼女を信じ、俺は俺のできる事をしよう。

 

 

 翠屋前 桃子サイド

 

 少々足りなくなった果物を買出しに行っていた桃子は、

 店の前で恭也を見かける。

 

「あら、恭也、何処に行くの?」

 

 こんな時間に見かけたらから、何となくそう尋ねてみただけだった。

 

「ああ、ちょっと散歩をしてくるだけ」

 

 そう簡潔に答える恭也。

 

 ドクンッ!

 

『ああ、ちょっと散歩してくるだけだ』

 

 それを聞いた桃子は何かがデジャヴ(既視感)・・・

 ソレハカツテノシロウノスガタ。

 

「・・・そう」

 

 その感覚に少し戸惑いながらも、

 恭也と士郎がダブるのは今に始まった事じゃないと思いなおす桃子。

 しかし、

 

 ドクンッ!

 

 突然、言い知れない不安にかられる桃子。

 この時間に散歩?

 ソレハカツテシロウモモチイタウソ。

 

「・・・どれくらいで帰ってくる?」

 

 自分でも何故そんな事を口にしたのかは解からなかった。

 だが、そう尋ねずにはいられなかった。

 

「晩御飯までには」

 

 恭也は少し怪訝そうではあったが、そう答えた。

 デモシロウハソウイッテカエッテキタノハヨクジツ、チダラケニナッテイタ・・・

 

「そう・・・気をつけてね」

 

 何故だか解からないが、恭也を止めなければいけない。

 そう思いながらも見送る桃子。

 

 ドクンッ!

 

 キョウヤハマダニンゲンアイテノジッセンハナイニヒトシイ・・・

 

「ああ」

 

 そして歩いて行ってしまう恭也。

 桃子は、その背中を見ていると、先ほどからの感覚がより強くなり、

 今すぐに抱きついてでも止めなければいけない、そう感情が溢れて止まらないかった。

 そう、この感覚は前にもあった・・・

 アレハシロウガフィアッセヲマモッタトキ、シロウガヤクソクヲマモレナクナッタトキ・・・

 

「恭・・・也・・・」

 

 止めるべきだ、と思った時には、既に恭也の姿は無かった。

 

 

 その頃 さざなみ寮 メティサイド

 

 カチャ!

 

 黒い装飾銃に弾を込める。

 装弾数6のリボルバー。

 そのくせサイレンサーは万全だったりする、兄にして我が夫の愛用品。

 服も、闇にとけこむ仕事の服。

 外も暗くなってきたし、もう、街は私の時間だ。

 

「行くのか?」

 

 準備を終えて、出かけようとした時に、

 真雪に声をかけられる。

 窓からこっそり出るべきだったかな?

 

「うん、ちょっと行ってくるよ」

 

 私は軽く散歩に行くかの様に返事をする。

 

「そうか・・・気を付けてな」

 

 珍しく真面目な顔でそう言ってくる真雪。

 

「ふふふ〜、もう日も沈み、夜となる。

 そうなればそこは私の世界、人間には負けないよ」

 

 不敵な笑みで答える私。

 

「・・・やっぱりお前も同じなんだな。

 あいつ等と」

 

 あいつ等、多分お兄ちゃんの事。

 

「だって人間じゃないも〜ん」

 

 そう、私は人間じゃない、私は恐怖の象徴。

 

「・・・そうやって自分を偽って、虚勢を張る所がさ」

 

 悲しげに私を見る真雪。

 

「虚勢?心外だな〜、これが本来の私だよ」

 

 ワタシハバケモノダカラ、ヒトヲコロスコトナンカニチュウチョシナイ。

 

「いくら人あらざる者として生を受けても、

 あの極甘バカのシルフィア家で育てば、そういう価値観が備わる。

 ま、元々そう言う性質をもって産まれたのもあるだろうがな」

 

 そう言って私の目を見る真雪。

 

「やだな〜、私はそのシルフィア家でも闇に該当する場所にいるんだよ」

 

 バケモノガココロナキモノヲカルノニナニヲチュウチョシヨウカ?

 

「そうか・・・

 そうそう、今日は耕介もいなければ知佳もいない。

 と言う訳で夕飯を作るのは私だ。

 お前の分も作っとくからな」

 

 『大体いつもの調子』でそう言う真雪。

 

「あ、そうなんだ、真雪の料理は滅多に食べられないから楽しみだよ」

 

 チニソマッタワタシガイテモイイバショ・・・

 

「私が仕方なくでも作った料理を食いに帰ってこなかったり、

 残したりしたら承知しないからな」

 

 そう言って少し微笑む真雪。

 

「解かってるよ〜」

 

 デモ、コノアタタカサニアマエルワケニハイカイ・・・

 

「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

 

 そして、私は夜の闇に染まりかけた街に飛び立つ。 

 

 

 一方 美由希サイド

 

 八束神社の境内に立つ私。

 

「ごめんね、那美さん、神社が少し汚れちゃう」

 

 誰に無くそう呟く。

 黒服の男が4人、私の四方を囲んでいる。

 全員先回りして、わざわざ脇道を登った様だ。

 恭ちゃんとの鍛練、お母さんとの初の実戦・・・

 どれとも違う初めての戦場・・・

 私の持っている物は脅しの道具じゃない。

 私の持つ技は人を殺す為の技術。

 相手を殺す覚悟とは、自分も殺される覚悟を持つ事だ。

 私と、この4人の違いは・・・

 

 私には護る者が在ると言う事だ。 

 

 

 恭也サイド

 

 気配がちゃんと付いてきているのを確認しながら、

 俺は、鍛練で使っている森に来た。

 そして、この山の中央付近、街まで音が聞こえないくらいの所まで来る。

 多分、結界が発動しているな。

 先日の経験がなかったら気付けなかった。

 巧妙に隠してある陣。

 恐らくは、敵を逃がさず、外に情報が漏れない様にする結界。

 そんな思考をしている間に、動く気配が5,6,7・・・

 俺を完全に包囲し、

 

 ヒュン・・・

 

 四方八方から何かが飛んで来る。

 これは・・・

 

「!!」

 

 チュドォォォォォオオオオンンン!!

 









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