恭也サイド
「ぐ・・・」
爆発直前、敵の腕を斬り落し、何とか跳んで避けたものの、
完全に回避することはかなわず、爆撃を受けてしまった。
「・・・足を少しやられたか」
自分の状態を確認する恭也。
「この服が無ければ危なかった・・・」
耐刃性の高いこの服のおかげで、そこまで酷い外傷は無い。
服も破けてるし、頭も含め各所から血も出ているから、
見た目的には少し重症に見えるだろうが・・・
ただ、身体を後ろに倒して跳んだ為、足のダメージが大きい。
立てないほどでは無いが・・・
「一応これで片付いたか・・・」
恭也が立ち上がり、敵の殲滅を確認しようとしたその時。
ザッ!
爆炎の中で蠢く影が二つ。
「なっ!?」
ザ・・ザ・・ザ・・
それはさっきの3人の黒服の、初めに首筋を斬り裂いた2人・・・
恐らく、踏みこみが甘かった為、斬り込みきれなかったのだろう。
それが、静かに爆炎の中から歩み寄って来る。
「感情が無いと思ったが・・・消されているのだな」
それはまさに『人形』となったものの末路・・・
ゾンビ・・・これほどピッタリの形容は無い。
ゲームなどで出てくるゾンビさながらのボロボロの姿で、
生きてるとは思えない外見で、
それでもまだ俺を狙っている。
「いけるか・・・」
足をやられ、神速は無理だろう。
だが、向うも既に生きる屍。
後は放っておいても死に至るだろう。
恭也は八景を構え、カウンターを狙う。
ザ・・ザ・・ザ・・
静かに歩み寄って来るゾンビ2体。
それを迎え撃つ恭也。
そこへ、
ヒュッ! ダンッ!
恭也とゾンビの間に突如、降り立ったのは・・・
「恭也!」
恭也の血の匂いを嗅ぎつけた久遠。
そして、恭也の姿を確認し・・・
「・・・久遠・・・久遠!待て、こんなのただのかすり傷だ!」
突然の久遠の登場に驚き、少し固まっていた恭也。
久遠の変化に気付き、慌てて弁解する。
そう、今の恭也は手榴弾を受け、ボロボロで、所々から血を流し、
頭も少し切ってしまっていて、血が流れている。
そう、見た目には重症に映る姿なのだ。
「貴方達3人が、もし、傷付くような事があれば・・・
あの子は再び『祟り』に憑かれるでしょう」
恭也の脳裏に過ぎる言葉。
そして、久遠は、ゾンビ達の方を振り向き、
「・・・許さない」
そう、静かに・・・いや、地獄の底からの呪詛の様に呟いたかと思うと。
ヒュン・・・
風が流れた・・・一般人にはそうとしか見えないだろう。
その一瞬で・・・
シュバッ!
細切れになるゾンビ2体・・・
そして、
ズドォォォォオオオン!!
雷撃で一瞬の内に消し炭へ、
「ああああ!!」
ヒュンッ! ザシュッ! ガシュッ!
それでも飽き足らず、更に細かく切り刻み、
ズドォォォォオオオンッ!!
塵へと変えてしまう。
「久・・・遠・・・」
その姿に恭也は動けなかった・・・
「あああぁぁぁあああ!!」
バチッ! バチバチッ! ズドォォォオオン!!
全て敵を斬り払い、焼き払ってなお爪を、雷を振るい続ける久遠。
瞳には、怒りと憎しみしか映さず、
明らかに・・・暴走していて・・・
「久遠!久遠!もう敵はいない!」
恭也はなにがなんでも久遠を抑え様と、
跳びつこうとした。
その時、
ザシュッ!
久遠は死角から跳びかかった恭也を・・・
「がっ!」
ドサッ!
「・・・・・・・え?」
朱くそまった久遠の手・・・
その感触で正気に戻り、見た光景は・・・
「恭・・・也?」
5本の何か腹部から胸部にかけて、抉る様に切り裂かれ、
膝をつき、血を大量に流している愛しの恭也の姿・・・
「く・・・おん・・・正気に戻ったか・・・」
内蔵にまで達した裂傷で、胃から逆流した血が口から流れる・・・
それでも、笑顔で久遠を見る恭也。
「あ・・・ああ・・・」
そして、自分の手に残る肉片・・・
それは明らかに恭也の物で・・・それが自分の爪に付着していると言う事は・・・
更に、
「おにーちゃん!!」
「恭也さん!久遠!」
「恭也!久遠!!」
何と言うタイミングの悪さか・・・
「なのは・・・那美・・・メティ・・・」
ほぼ同時に恭也と久遠の前に現れる久遠の親友3人。
「!恭也」
一番始めに恭也の傷に気づいたのはメティ。
続けて、
「恭也さん!」
「おにーちゃん!」
那美となのはも蒼白になって叫ぶ。
「ぁああ・・・」
見られた!よりにもよって親友達に・・・恭也を愛する二人に・・・
あまりに残酷なタイミングだった。
自分が今した事、
それによって悲しむ親友・・・
「ぁぁああああ!!」
ズドンッ!
慟哭と共に地を蹴り、その場から跳んで行ってしまう久遠。
逃げる様に・・・いや、逃げたのだ、この現実から。
「久遠!」
「くーちゃん!」
突然跳び出した久遠に驚く二人。
「久遠・・・」
恭也は、傷口を押えながら、久遠の跳んだ方角に手を伸ばす・・・
「那美!」
ヒュン!
そんな中、メティは那美に向かって小ビンを一つ投げ渡す。
「え?」
それを受け取った事を確認し、
「恭也は任せたわよ!」
タッ!! ズドンッ!!
そう言って、跳び、二人に見えなくなった所で最大速度で飛ぶ。
「・・・」
渡された小ビンを確認する那美。
中身は血の様に紅い液体が詰まっている。
那美は、それが何だか解ると、
「ん・・・・」
即座にビンの蓋を開け、一気に飲み干す。
「それ、おにーちゃんに飲ませる薬じゃないんですか?」
流石にその行動には驚いたなのは。
「ええ、飲んでもらってもいいけど、
今の恭也さんが飲むより、私が飲んだ方が効果的だから」
そう言って空き瓶を置き、再び恭也と向かい合う那美。
すると、
ポォ
那美の身体が淡く光り始め、
髪と瞳も少し金色がかった色になる。
「これは、その人に掛かっているリミッタ―を解除し、
限界を超えた力を引き出す為の薬です」
そう簡潔に説明し、いつも治癒の能力を使う時の様に、
恭也の傷に手を添える。
だが、
パァァァァアアアア!
いつもとはレベルがまるで違う。
周囲から光りの粒子の様な物が那美の手の平に、
恭也の傷に集まって行く。
「凄い・・・」
その光景を見て、少し呆然としているなのは。
見る見る塞がっていく傷。
あれだけの大きな傷が僅か数秒で塞がってしまう。
「・・・これで、傷は塞ぎました」
少し、疲れの見える那美。
「すみません・・・
ぐっ!」
無茶をした那美に謝りながらも、立ち上がろうとした恭也。
だが、立ちあがることは出来ない。
「・・・やはり、私の力では、失った血まで完璧に補充することはできませんか」
傷は塞がった、しかし、塞がるまでに失った多量の血。
致死量寸前の血が補われていない・・・
「くっ!」
何とか身体に力を入れて立ち上がろうとする恭也だが、
最早、霊力も切れ、気合でどうなるレベルの損失でもない。
「・・・恭也さん」
こんな状況、そんな恭也を前にしているというのに、
妙に冷静な那美の声・・・いや、違う、冷静なんかではない。
「もう、久遠を説得できるのは貴方しかいません。
悔しいけど、私じゃダメなんです・・・
譲る気もありませんけど、今は、久遠の事、お願いします」
何かを決した瞳で、
いまだに動けず、膝を地に付けている恭也の首に抱き付く様な体勢を取る那美。
まさに、キスの体勢と言える状態だ。
「那美さん?」
流石の恭也も、この状況に困惑する。
動けないから抵抗できないが、この状況で一体なんのつもりかと。
しかし、
ガキッ!
唇が重なる直前、なんと那美は舌を噛みきった。
「な!ん!!」
驚愕する恭也に対し、そのまま唇を重ね、
こともあろうに、自らの血を恭也に飲ませる那美。
ドク! ドク! ドク!
「ん・・・ぐ、ん・・・・」
流し込まれる大量の那美の血。
抗う事も出来ず、恭也はそれを飲むしかなかった。
だが、何故か、恭也はそれを不快とは思えなかった。
いや、むしろ身体に力が戻っていく感覚がする。
「・・・那美さん?」
立て続けに起きた驚愕の事態に呆然としていたなのはも、
やっと声を出すことは出来た。
それでも那美は、変わらない瞳で・・・その行為を続ける。
良く見ると、那美は恭也の首を抱くと同時に、
恭也の背中から治癒の能力を使う様に、光りを、恭也の身体に流しこんでいる。
その行為は1分ほど続いた。
最後に、那美は自ら切った舌を止血し、口を離す。
「私の血を、能力の応用で貴方の物にしました」
無茶な霊力治癒に続き、その応用と同時に大量失血。
既に顔は青く、血の気も無く、霊力も尽きかけている那美。
「感謝の言葉もありません・・・」
那美の行動に、もう何も言えない恭也。
那美にこんな負担を掛けた自分の不甲斐なさが悔しい・・・
だが、今はそんな事よりも大切な事がある。
恭也は自分の身体が動くのを確かめる。
「何とか動けます」
少しふらつきながらも立ち上がる恭也。
そして、久遠を追い掛けに向かおうとする。
だが、やはり那美の血だけでは体重の違いすぎる恭也の失血は補いきれず、
戦闘で霊力も尽きかけ、とても走れる身体ではない。
「那美さん、今のもう一度できます?」
そんな兄と、覚悟を見せた那美の姿を見たなのはの瞳にも決意が宿る。
「なのは・・・」
それに対し少し悲しげな顔をする恭也、
「なのはちゃん・・・
できるよ」
驚くも、受け入れる那美。
久遠の親友として、気持ちが解るから・・・
「おにーちゃん、くーちゃんを、助けてあげて」
ガキッ!
舌を噛みきり、恭也と唇を重ねるなのは。
恭也もそれを受け入れ、なのはの唇を貪る様に血を飲み干す。
那美はその恭也の後ろから同じ能力の応用を掛ける。
30秒ほど・・・なのはは致死量ギリギリまで輸血をし、
那美に舌を癒して貰った後、
ドサッ!
力なく倒れる。
倒れきる直前、ちゃんと恭也が抱きとめたが。
倒れるのは当然と言えば当然。
そして、
「恭也さん、あの子をよろしくお願いします」
そう微笑むと、
フッ・・・
那美の身体を纏っていた光り、瞳の光が消え、
髪の色素が完全に脱し、白髪となり、
倒れる。
「約束します。
二人の気持ち、確かに受け取りました」
抱きとめ、そう囁く恭也。
辛うじてまだ意識はある様で、微笑む那美となのは。
丁度そこへ、
「恭ちゃん!」
戦闘を終えて駆け付けた美由希。
「え・・・なのは!那美さん!」
口から血を流し、恭也の胸で動かない二人を見て蒼白になる美由希。
「龍以外で厄介事が起きたんだ。
大丈夫、那美さんは貧血と霊力の使いすぎ。
なのはも貧血だ、重度だがな」
そう言って二人を美由希に渡す恭也。
「恭ちゃん?」
状況が掴めず、困惑する美由希。
「俺は今すぐ久遠を追わなければならない、
二人はお前に任せた」
それだけ伝え、山を駆け下り始める恭也。
同時に特製故生きていた携帯を取り、忍にかける。
プルルル! カチャ!
「俺だ、ノエルと至急、俺のブラックハウリングで八束神社前に来てくれ。
あと、造血剤を2本。
それと、ブラックハウリングのリミッタ―、まだ在るなら解除を頼む」
繋がると同時に用件を伝える恭也。
『・・・了解』
カチッ!
内縁の妻を自称するだけの事はある忍は、
一瞬戸惑うものの、声だけで状況の切迫さを理解する。
数分後
恭也が八束神社前まで来るとほぼ同時に到着するノエルと忍。
「恭也!」
ブラックハウリングから降り、恭也に駆け寄る忍。
「すまん、一刻を争う!
ノエルと国守山のなのはと那美さんを」
即座にノエルに代わり、ブラックハウリングに跨る恭也。
そして久遠を求め、闇を駆け抜ける。
ロスタイムは約10分。
追いつけるか?
いや!追いついてみせる!!
そう心で叫び、疾走するのだった。
一方その頃
ヒュゥンッ!
高速で夜空を駆けるメティ。
対して、我を忘れて闇夜を走り抜ける久遠。
「くっ!なんて早さ!
これがリミッタ―を外したあの子の実力・・・」
準備していたトラップの数々は紙ほどの役にも立たず突破され、
飛行と地上疾走と言う早さの勝負でもメティの旗色は悪い。
「ダメ・・・見失う!」
マーキングも解かれ、追跡の魔法も跳ね除けてしまう今の久遠。
全てを拒絶する意思が、追跡の魔法から逃れる力となった。
魔力による目からほぼ完全に隠れ、
そして、今、視界からも消えた。
「ったく、こんな時にとんだ才能を発揮してくれるものだわ・・・」
追跡する手段を失い、一旦止まるメティ。
何か力を使ってくれない限りは、最早久遠を発見できない。
打開策を模索するメティ。
その時、
「・・・え?」
久遠の消えていった方向へ超高速で移動する気配を感知するメティ。
「この感じ・・・恭也?
なんで?!」
速度はいい、ブラックハウリングを使えば自分より早くなれるだろう。
だが、瀕死の重症で那美が薬を使っても応急処置しか出来ない、
ブラックハウリングに乗るどころか、動く事も出来ない身体の筈である。
「・・・なのはと那美の生体反応が弱い・・・まさか!」
自分の知るあの二人ならやりかねない治療法を思い出し、
事態を理解するメティ。
「そう・・・久遠、貴方は幸せ者ね」
微笑みながらもどこか悲しい瞳のメティ。
「・・・説得は任せるわ、恭也。
でも私は物事を楽観できるほど、まともな生活は送ってないのよ」
そう、呟き、愛銃に2発の特殊銃弾を装填するメティ。
そして、恭也の後をつける。
一方 恭也サイド
ブオォォォォォオオ!!
闇を切り風を切り、久遠のもとへ。
俺には霊力をレーダー代わりにする事も出来ないし、
HGSの人みたいにサーチできる訳でもない。
でも解る、久遠が何処にいるか、
久遠が1人で泣いている場所が解るんだ。
俺の中の何かが、お前の場所を教えてくれる。
そして
久遠、薬でリミッタ―を外すなんて、どんなに危ない事か知ってるか?
自分から舌を切って相手に血を与えるなんて、
並大抵の覚悟ではできない事だぞ。
お前は、あの二人から、どれだけ想われているか・・・
そして、俺も・・・
『セカンドリミッタ―解除! スパイラルブースター スタート!』
キィィィィィ!!
警告メッセージの後、エネルギーがチャージされる様な音。
そして、
「久遠ーー!!」
ズドォォォォォ!!
ブースターを全開にして走る。
周りの物など、流星の様に過ぎ行く。
全てを追い越し、久遠のもとへ、俺は限界を超えて走り抜ける!
あとがき
セリス「さ〜いよいよクライマックスです。
果たして恭也は無事久遠を説得する事ができるのでしょうか!」
メティ「まあ出来なければ物語が終わっちゃうけど。
あ、そうそう私達の名前『シルフィア』は、私達のファミリーネームであり、
組織の名前でもあるのよ、まあ組織っても互が知れてる少数精鋭のだけどね」
セリス「今回使われた作戦コードは家の物だけど、
そんなに種類ないから知り合いに教えて、たまに知り合いからもそれで頼まれるの」
メティ「裏では名の知れた組織よね〜私達って」
セリス「表でも退魔とかでそれなりにね」
メティ「普段は仕事ばっかでこまっちゃうわよね〜」
セリス「ま、それは置いといて、
次回はついに最終回(エピローグを除く)です」
メティ「お楽しみに〜」