夢の集まる場所で

第12話 その歌は誰が為に 

 

 

 

 

 

「俺に正義は無い」

 

 少年。

 そう、自分と同い年だと言う少年はそう言った。

 圧倒的な存在感を示し、血塗られた大剣を地に突き立てながら。

 

「こうしている事が、アンタの正義じゃないのか?」

 

 少年は戦っていた。

 一般的に悪と呼ばれるモノとして。

 だが、確かな目的がそこにあり、その先にあるものは焦がれるものだ。

 

「違うな。

 これは『正義』とは言わない」

 

 少年は断言した。

 自分の行いに対して。

 ならば、この少年のやっている事は一体なんだと言うのだろうか。

 その時は情けない事に解らなかった。

 そして、少年は続けた。

 

「俺は行く先々において、『正義の味方』や『英雄』、『勇者』を自称する存在を叩き潰す為の『悪』になる。

 よって、俺の悪行は場所によって変わる。

 そこには俺の正しいと考える仁義は無く、これは『悪』ですらない」

 

 一点の曇りも、一部の迷いも無い瞳で答えた少年。

 いや、そもそもこの深き瞳に曇りや迷いなど映るのかどうかすら疑問に思えてきてしまう。

 情報屋として多くの人を見てきたが、こんな瞳の人間は初めてだった。

 同種ともいえる人間はいたが、この深さ、一体どこへと向かう深さなのか。

 それも、この若さ―――いや幼さとも言っていい年齢でだ。

 

「故に、移ろう『悪』しか持たぬ、純粋な『悪』ではない俺に『正義』は無い」

 

 そう静かに、されど重く言い捨てる少年。

 つまらぬ事の様に言いながら、重大な何かを孕む言葉。

 この少年の情報を持ち、この少年を理解しようとしているならば、もうこれで十分だったろう。

 だが、まだ勘違いをしていた為、余計な質問をしてしまった。

 

「なら、そうやって、この世界の全ての悪でも背負う気か?」

 

 この少年の真実を見誤ると導き出される誤解。

 この質問をした時、少年は心底呆れていた。

 冷たさという温度すら感じられない視線を受ける事になった。

 だが、それに対し応えを貰えたのは大いなる慈悲とも言えるだろう。

 

「俺は人間だぞ? 一応にもな。

 この世の全ての悪?

 そんな存在はもう『神』の領域さ。

 そんなもの、なれる訳もないし、なってやる気もない」

 

 少年は言う、自分は人間であると。

 そう、この世界に住まう人間の1人だと。

 如何に行いとその結果は人の道からは外れ、超人じみていて、奇跡と呼べそうなものであっても。

 少年は確かに人間であった。

 自己犠牲で全てを救える堕ちたる神ではないし、そんな思い上がりも持っていない。

 これ程の力、これ程の想い、これ程の道を歩みながらも。

 全て人の身に余る様に感じられても、少年は人間であった。

 少年には人を超えるチャンスもあったのに、それに見向きもせず、人である事を当たり前の様に選んだのだ。

 

 この時既にその事を知りながら、なんと言う失言だろうか。

 この空気の中、仮にも知識を売り物にする者が、冗談のつもりでもなく放った在り得ざる問いだ。

 人生最大の失言だ。

 これ以上の失言など想像もつかない。

 だが、その失言に対する応えを聞いて、ちゃんと言葉として伝えてもらえた。

 それでやっと少年を理解する上で、大切な事に気付く事ができた。

 それは人生最大の幸いと言っても過言ではないだろう。

 

「で?」

 

 続けて少年から放たれた言葉は、本来の目的を果たす事への催促だった。

 こちらの仕事の成果を尋ねる、ただ一音の言葉。

 ああ、少し忘れてしまっていた、自分の役割を。

 

「あの自称『勇者』なら完全に崩壊した。

 一応医学的には生きてるが……まあ、何故とどめをささなかったかはよく解った。

 で、アンタが御執心のあの男だが、今はここから北北東に45kmほど離れた名も無い小さな村にいる。

 地下に基地を作ってるらしく、体勢を立て直しているぞ」

 

 まだ、この王国の誰もが知らぬ情報だ。

 知れ渡ったならばもうこの戦争は終ってしまうだろう。

 クーデターが鎮圧されたという結果をもって。

 

「そうか、手違いで追い込みすぎたかとも思ったが。

 まだ、使えそうで何よりだ」

 

 少年は笑う。

 顔だけが。

 そこに心は無く。

 反射行動に近いほどの表情作り。

 解っていても背筋が凍る様な光景だった。

 

「……さて、食い終わったか? ファフナー」

 

 暫く何かを思案していた少年は、突き立てていた剣を抜き、振り返る。

 そう言えば、ここに着いた時から聞こえていた、何かを砕き潰す様な音が聞こえなくなっていた。

 そして、その代わりに聞こえた音があった。

 

 グルルルルルルルゥ……

 

 低く、深く、押し潰される様な錯覚を覚える声。

 少年の背後に聳え立つ巨大な黒い影。

 その影が唸り声を上げた。

 その声は、言葉ではなくとも不満を語っている事が解った。

 一般人ならば、恐ろしくて逃げ出す事もできず、いっそ死という安楽を求めるかもしれないくらいの恐怖を誘う声だ。

 

「まあ、そうだろうな。

 一応念入りに洗浄はしたんだが、傷物ではな。

 やはりあまり回復にはならなかったか」

 

 巨大な黒い影と向かい合って立ち、再び剣を地に突き立てる少年。

 一応にも勇者を自称する者ですら、尻尾を巻いて逃げ出したこの巨大且つ強大な黒い影。

 それと向かい合って立って尚、少年の存在感は薄れない。  

 見た目として解りやすい恐怖である巨大な黒い影。

 それと同等の何かを少年からは感じられた。

 そう、恐怖する程の何かを―――

 

「さて、あの男がまだ使えそうならば、次はちょっと面白いショーをやろうか。

 ちょうど、先日あの男の妹を捕らえられたしな。

 お前が持ってきた情報のお陰で」

 

 少年は笑う、深く、暗く、楽しげに。

 ただ、その瞳の色を変える事無く。

 

「そうか……」

 

 この時はそう答えるだけしかできなかった。

 例え、少年の意図する事が解っていたとしても。

 すぐに言葉で返す事ができなかった。

 まったく、今考えても未熟さが嫌になる。

 

「さて、仕込みをしておくか。

 どんな料理も、仕込みで手を抜いては不味くなるからな」

 

 黒い影と共に去っていこうとする少年。

 その先に見えるのは闇だけだった。

 一点の光すらない闇の道だ。

 

 だが、少し遅れたが言えた言葉がある。

 そう、それは、

 

「では、俺は次何を調べればいい?」

 

 呼び止めた、去ろうとした少年を。

 彼を理解し、また今以上に知りたいと想うから。

 

「……お前もつくづく変人だな」

 

「よく、言われるさ」

 

 あまり本当の感情を見せない少年であったが、この時は見えた。

 本気で呆れているという感情。

 それは先ほどの呆れとは違う、確かな感情が見えるもの。

 

「そうだな、次はあの男のトラウマとかがあるか調べてくれ。

 すぐにだ。

 半日しか待たん」

 

「承知した」

 

 少年の注文に嬉々とその場を去った。

 またもや時間制限の厳しい注文ではあるが、果たして見せよう。

 

 興味がある。

 人生をかけてもと思う程に強く望む興味が。

 この少年の行く先を。

 闇の道から来て、闇の道に進むこの少年が何処に辿り付くのか。

 だから力を貸そう。

 

 

 そう、俺の情報力をもって―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝ちまってたか」

 

 夢から覚めたジュンイチは目の前の作業を再開した。

 今日は仮眠を取る事なく、倉庫で作業をしていたのだ。

 それなのに不覚にも眠ってしまい、いつもの夢を見ていた。

 内容については改めて考える必要はない。

 あの男の事だろう。

 だから、考える必要も無く、ただ、今やっている事を進めるのみ。

 

 

 

 

 

 それから数分後、ジュンイチは居間に移動してた。

 既にそこには3人の気配があり、いつも通り夕食の準備が始まっていると匂いで解る。

 

「あ、お兄ちゃん……」

 

「兄さん、おはようござ……」

 

 居間に入ったジュンイチに、いつも通り声をかけようとした2人だが、その言葉は途中で止まってしまった。

 何故なら、入ってきた筈の人物と、視線を向けて確認した人物とが合致しなかったからだ。

 

「サクラ、魔法を使える程度には回復しているか?」

 

 声を聞いても、やはりそれは兄だと確認できる。

 でも、違う。

 声の質は同じでも、まったく別の声だった。

 

「う、うん、大丈夫だよ。

 ごめんね、心配かけて」

 

「いや……全て俺が弱いせいだよ」

 

 サクラの言葉にそう答えた一瞬、確かに兄であると確認できた。

 その一瞬だけ、兄であるという確証を持てる目と声だったから。

 それが例え、悲しみと後悔に満ちた物であっても。

 

「早速で悪いが、作戦会議を行う。

 何時までもこんな三つ巴をやっている暇は無い。

 今日、勢力を一つ潰す」

 

 そう言って指揮を執る兄の姿は昨日までと同じ様でいて決定的に違うものがあった。

 それはきっと覚悟だろう。

 兄は何かを覚悟してしまった。

 そう、2人の妹は解った。

 

 

 

 

 

 ジュンイチがここに来てから5日が過ぎていた。

 非常事態が起きて、厄介な事に巻き込むと解っていながらも、どうしようもないからと呼んでから5日。

 再会してからまだたった5日の筈だった。

 なのに、何故ジュンイチはこうも変わってしまったのだろうか。

 再会したときには、別れた時と何も変わる事のないジュンイチであった筈なのに。

 

 ああ、解っている。

 理由は自分が巻き込んだからだ。

 そして、昨日の事がジュンイチに覚悟を決めさせてしまった。

 その覚悟の現れが、ジュンイチの手にあった。

 昨日まで使っていた盾と似て非なる物。

 あの盾を元にして作りながら、方向を誤って失敗作となったもの。

 あの盾がある以上、完全に死蔵となる筈で、そうすべきだったアレを持ち出している。

 

 解っている。

 ジュンイチをこうしてしまったのは自分だと。

 サクラはそう思って、ただ黙ってジュンイチの作戦に従った。

 

 

 

 

 

 ここへ来て今日で5日目。

 まだたったの5日だ。

 だが、それでもあの街で平和に暮らしていたのが、ネムはもう何年も前の事の様に思えていた。

 ここに着てから非日常が続き、毎日が現実離れした日々であったからだ。

 そして、今目の前にネム、いや2人の妹にとって最も非現実的な光景があった。

 

 兄が何かの覚悟を決めた。

 ここに着てからの兄はネムの知る兄とは別人の様であったが、それでもジュンイチはジュンイチだった。

 しかし、今目の前に居るのは一体誰なのだろうか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間が迫ってきたな……」

 

 出撃前にヒロユキは呟いた。

 ここへきて5日目。

 予想では1週間が限界と見られた黒い桜の侵食。

 つまり、後2日しかないのだ。

 そして、昨日までの4日間、調査の進展は無いに等しい。

 

「今日は俺があの男に当たる」

 

 皆にそう宣言するヒロユキ。

 何かの決意をもって。

 

「……はい」

 

「……ええ、解ったわ」

 

「……了解しました」

 

 それを了承するセリカ達3人。

 だが、その了承には間があった。

 何故、一瞬答えを迷ったのか、3人とも言葉にはできなかった。

 理性的に考えて、それが正しいと思えたから、そう了承した。

 しかし、感情、直感はそれを一瞬だけ拒んだのだ。

 何かがヒロユキとあの男を戦わせる事を危険ではなく、良くない、と判断した。

 それが何なのか、ヒロユキとあの男が戦う事を再検討してみたが3人とも解らなかった。

 

 感情、直感で言うならこの中でも最も強いだろうアヤカも。 

 理性的な考えならば誰にも負けないだろうセリオも。

 そして、知性では4人の中でも最も高く、またヒロユキを最も深く理解し、心が繋がっているセリカも。

 誰一人として、あの一瞬以外、ヒロユキとあの男が戦う事を避けるべきだという考えは出なかった。

 

「アイツは、俺が倒すべきだと思うんだ」

 

 どこか遠くを見ながらそう告げるヒロユキ。

 この時、ヒロユキが何を決意したのか、セリカにも解らなかった。

 何か何時もとは違うと思いながら、その違和感の正体が解らなかったのだ。

 

 だが、何なのかが解らないのに、セリカは何故か、それを悲しいと感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は休んでください」

 

 出撃前、そう言い出したのはアキコだった。

 いや、サユリとマイも同意見の様で、アキコの後ろでそう無言で訴えているのが解る。

 

「何を言い出す。

 時間が無いのは解っているだろう」

 

 ここへ来て既に5日。

 情報は集まりつつあるが、依然として状況は進展していないと言っていい。

 ユウイチ達の見解では後2日程度での解決が期限としている。

 そんな中、ユウイチが休める暇などあろう筈はない。

 

「しかし、ここへ来てからの連日の負傷度合いは異常です。

 いくら回復しているとは言っても限度があります。

 それに……」

 

 冷静に見えて、アキコは少し泣きそうだった。

 確かにここへ来てからは1日目は勇者の禁呪で瀕死になり、3日目は半身が管理者の魔法で炭化した。

 そうでなくとも、オートマータ関連で精神が少し不安定になっていたのだ。

 それに付け加え、4日目の昨日は、トラウマを抉る結果となり精神が一時停止した。

 ユウイチはつい先ほど、やっと精神の再構築が終わり、心がここにある状態で目を覚ました。

 今日この日、コトリが1日中歌を歌ってくれていたおかげで、少しは早めに回復できた。

 

 だが、回復したとは言え、この4日間で一回は完全に死んだくらいのダメージを受けているのだ。

 肉体も、精神も、両面において。

 最早、今彼が立っているというだけでも不思議を通り越して不可解。

 如何に魔法で回復させたと言っても、腕や内臓を取り替えるくらいの事をしている。

 本来ならリハビリに数年は掛かるところだろう。

 更に、精神停止まで至るほどの心の傷。

 いや、本来復旧など不可能とされる精神崩壊から、精神を再構築して目覚めたのだ。

 それもたった一晩でである。

 

 それで今夜も戦えるというのは、もう奇跡と呼ぶしかない。

 これが彼の起こせるただ一つの『奇跡』だと言うなら皮肉以外の何物でもないだろう。

 

 加えて、昨日の作戦失敗と、勇者達に対して行った撤退時の行動。

 それらが、今日に及ぼす影響は大きい。

 具体的にどうなるか、ユウイチは勿論、アキコ達も予想できる。

 

「確かにここへ来てから俺は醜態を晒してしまっているな。

 だが、それならば尚の事俺は休めない。

 ここでお前達の帰りを待つなんて事俺は耐えられんよ。

 それに、休息が必要なら、この戦いを終らせてしまえばいい。

 そうだろう?」

 

 ユウイチは僅かに微笑んでアキコ達を見る。

 一片の迷いも一欠けらの不信も無い真っ直ぐな瞳で。

 誰にも負けないと信じられる強い眼差しで。

 

「……はい」

 

 そんな瞳で言われてはアキコ達は何も言えない。

 今日こそは休んで貰おうと3人で話し合いまでしたというのに。

 

「では行くぞ」

 

「「「了解」」」

 

 でもいいだろう。

 それならばユウイチの言う通りこの戦いを終らせてしまえばいい。

 アキコ達は気持ちを切り替え、ユウイチの後ろに付いて拠点を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日もまた一人、森の中央へと進むユウイチ。

 アキコ達は周囲の調査で、ユウイチは中央付近の調査、という名目だ。

 だが違う。

 アキコ達も気付いているが、今日は他のチームの動きが違う。

 昨日は、ユウイチが管理者と戦う為に、アキコ達が勇者達を止める役割を担っていた。

 だが、今日は逆になるだろう。

 それが解っていながら、彼女達はユウイチを一人向かわせた。

 ユウイチに何が降りかかるかも解っていながら。

 

 それでも行かせたのは、信頼と自信故だ。

 ユウイチは負けないし、万が一にも自分達がいる、と。

 そして、ユウイチはその信頼を現実のものとする為、この状況を逆に利用する為にここに来た。

 

 ここは初日、勇者と戦った場所だ。

 

 ザッ

 

 そして、それは現れた。

 桜の花びらを踏み越えて勇者ヒロユキが。

 

「これはこれは勇者殿。

 ご機嫌麗しゅう」

 

 ユウイチはいつも通り悪役の様な、人を馬鹿にしような敬語で話し、見下した様な目でヒロユキを見る。

 最早地なのではないか、というくらいに染み付いた行動だ。

 そして、纏う気配は夜よりも深き闇。

 誰しも彼を本能的に敵だと感じる全ての偽装。

 それを勇者にも使ってみせる。

 いや、違う。

 彼が本物の勇者だからこそ使うのだ。

 

「今までうちの連れが世話になった分を清算させてもらう」

 

 返ってきたのは静かな、まるで感情が無いかの様な言葉。 

 だが違う。

 感情はそこに確かにある。

 ただ、静かなだけで。

 

「それはあの美しいお嬢さんの事ですかな?

 それとも先日壊し損ねたお人形さんの事ですか?」

 

「両方だ」

 

 そっけなく答える勇者。

 いや、そっけない様にしか見えない、と言ったほうが正しいだろう。

 

「それはそれは」

 

 静かにただ静かに言葉を交す2人。

 その奥に深い想いを抱きながら。

 これは、そう、ありきたりな表現をすれば、嵐の前の静けさだ。

 

「ああ、そうそう、そこの君」

 

 そこでユウイチは、顔を少しだけ回し真後ろに視線を向ける。

 何も無い、何も居ない筈の空間に。

 

「殺気を隠す気が無いなら、そんなものを着ける意味は無いぞ」

 

 そう、何も無い、誰も居ない筈の場所から殺気が飛んで来ていたのだ。

 刺すような、などと言う表現では生ぬるいほどの殺気が。

 

 程無く、ユウイチの視線の先の気配が揺らぎ、管理者の少年が現れる。

 どんな魔法構造か知らないが、高性能のステルス機能があるマントを外したのだ。

 姿を表した少年は昨日までと変わらぬ姿をしていた。

 ただ、瞳に満ちる殺意を隠そうともしていない事を除けばであるが。 

 いや、後一つある。

 両手につけている一対の盾が、昨日までのものとは異なっていた。 

 

「心地よい視線だ。

 して、何をそんなに殺気立っているのかね?

 昨晩あの娘を傷物にした事かね? それなら責任をとって私が買い取ってもよいぞ?」

 

 ザワッ!

 

 その言葉に反応し、殺意が一層膨れ上がる。

 桜の木々がざわめく程に。

 

 正面に静かな殺意を秘めた勇者が。

 背には荒ぶる殺気を放つ管理者が立つ。

 2人はユウイチしか見ていない。

 勇者は管理者を、管理者は勇者を全く見ていない。

 

 そう、2人は今ユウイチを殺す為にここに居る

 

「さて、独り言にも飽きたし、始めるか」

 

 その言葉を合図に判断を下した2人が動く。

 

 そして、初めて一堂に会したユウイチとヒロユキとジュンイチ。

 

 3人はサイカイした。

 

 コウカイの為の宴の下で。

 

 3人のオトコ達は、過ぎ去りし刻をここに満たすのだ。

 

 

 

 

 

 一方、アキコ達は調査をせずに今勇者のメンバーと対峙していた。

 森に入って間もなく、勇者のメンバー達はアキコ達を、ユウイチの下へと行かせるのを防ぐ様にこちらを囲んだ。

 それならば、と3人は打って出たのだ。

 どの道、この戦いを終らせる為には、勇者達は障害なのだ。

 例え今日ユウイチがヒロユキを倒そうとも。

 ならば、今後の行動をスムーズにする為にも今倒すべきだと判断した。

 

 相手は3人で、こちら側3人を囲んでいたのだ。

 故に、一人ずつ相手をするようにアキコ達は移動した。

 

 

 その一組目。

 森の西側に2人はいた。

 

「……」

 

「あら、今日は貴方なのですか」

 

 無言のマイはセリカと対峙していた。

 魔導師であるセリカに対し、高速機動型で特異能力を持った剣士のマイ。 

 今まで無く、一見してマイの方が有利に思える組み合わせだ。

 一般的に、前衛の居ない魔導師など、高速機動型の戦士には一般人とさしたる差はない。

 

 そう、あくまで一般的に。

 

「……」

 

「……」

 

 無言で刀の柄に手をかけ、抜刀体勢をとるマイ。

 それに対しセリカは慌てる事無く、ただじっと立っている。

 普段から騒ぐ事もなく、静かな2人がより静かに、無音で対峙する。

 

 普通に考えればマイは楽にとはいかなくても苦戦など考えられない相手だろう。

 だが、マイは一切油断しない。

 それは当たり前の事でもあるが、それに付け加え、相手は仮にも勇者の一員。

 例えただの『一員』というものであっても、『勇者』と呼ばれる事が如何なる意味を持つか、マイは知っている。

 そうだからこそ、セリカは前衛をつけず、ここに一人でいるのだ。

 

 

 

 

 

 森の北側。

 そこで待っていたセリオは相手を確認して一瞬眉をひそめた。

 そして、現れた者に問う。

 

「それは、私達への対抗手段ですか?」 

 

「私は元々魔槍士ですから」

 

 セリオの元に現れた青い髪の女性。

 その周囲には、水が手鞠ほどの大きさの球体となって浮かんでいた。

 セリオのセンサーで確認した限り7つ。

 

 相手の魔力が高い事は承知していた。

 故に、魔槍士である事も予想はしていた。

 そして、相手の主属性が『水』である事も。

 

 だが、水の魔槍士であるとはあまり考えなかった。

 

 何故なら、水と言うのは操るのは兎も角、使えるだけの量を召喚、もしくは収集するのに時間が掛かる。

 火などの『熱量』と違い、水は確たる『存在』と大きな『質量』をもっているからだ。

 そして、その為に水は『発生』させるという手段に大きな力を必要とする。

 通常水は水の精霊と他の力を連動させて『召喚』するか『収集』しなければならない。

 その上、熱や電気と違い、触れただけではダメージを与えられない水は、量を駆使しなければ戦闘には使い辛い。

 その為、大量の水を集めるのに更に時間がかかり、量を操るのに負担も掛かる。

 よって、水の無い場所では通常水の魔法を戦闘に使わない。

 それ故に、戦闘をする魔導師で水をメインとする者は少ない。 

 

 が、それはあくまで一般的なレベルの話だ。

 一流の魔導師が使う水は少量でも恐ろしい。

 単純な攻撃以外の戦略上では使い方が難しい熱や電気と違い、大きな『質量』を持ち、状態変化もする水は使い道が多い。

 それに、『水』というのは、その使い方次第で、僅かな量でも人間を死に至らしめる事も可能だ。

 そして、水が無い場所で戦うならば、最初から水を持っていけばいい。

 今、目の前の女性がしている様に。

 

(量は全部で4リットル程度でしょうか。

 それを7つに分散させて運ぶのは、数量、分量共に魔導師としてはそこまで高いレベルという訳では無いでしょう。

 ですが……魔槍士としては……)

 

 魔法を使うのには集中力を必要とする。

 勿論、水を球状に浮かせて運ぶだけでも相当の集中力が要る。

 一般レベルの魔導師ならばそれだけで手一杯だろう。

 一般レベルでは水の球体を浮かべたままで剣を使える人はそうは居ない。

 

「先日果たせなかった事、今夜果たしましょう」

 

 今までと同じ様に薙刀を構える女性。

 先日までとなんら変わりない刺突の構えだ。

 ただ違うのは、水の球体を浮かべながら、という事。

 

「もう一度言いましょう。

 不可能です」

 

 先日同様にハッキリとセリオは言う。

 このくらいでは自信は砕けない。

 砕ける筈は無い。

 今のセリオには姉がついているのだ。

 どんな敵だって倒して行くと決めている。

 

「姉妹揃って眠りなさいっ!」

 

 そして放たれる刺突。

 それは今までと全く変わらぬ鋭い刺突だった。

 不気味なくらい、静かに水を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 森で戦う最後の組み合わせ。

 森の南側。

 

 ザァァ

 

 桜吹雪の舞う中に立つ2人。

 それはサユリとアヤカだ。

 

「あら、貴方が相手なの」

 

「はい」

 

 一見、級友にでも会った様に軽く声をかけるアヤカ。

 サユリもそれに笑顔で返す。

 だが、それは上辺だけだ。

 

「1つ聞いていいかしら」

 

「内容にもよりますが」

 

 世間話でもするかの様な口調で。

 されど、その言葉は深く、重い。

 サユリは次に来る質問を解っているつもりだった。

 それはユウイチに関する質問だ。

 それには答える訳にはいかない。

 だから、もう答えも用意してある。

 だが、

 

「彼は、何?」

 

 先ほどまで世間話をしている様だったアヤカの瞳が少しだけ悲しげに沈む。

 そして、放たれた質問は昨日あの状態のユウイチ自身に問うた言葉と同じで、それでいて、何か、範囲が絞り込まれている言葉。

 そう、何かをユウイチの何かを理解しかけているのだ。

 

「……あの人は、あの人です」

 

 質問自体は予想範囲だった。

 だが、その意味するところが予想より遥かにユウイチに近づいていた。

 その為、サユリは一瞬、感情を出してしまった。

 サユリがユウイチを想う心を。

 そのほんの一片を、一瞬だけ。

 

「……そう」

 

 それを見たアヤカは、複雑そうな顔をした。

 何たる油断だろう。

 また1つ、この女にあの人の事を理解させてしまった。

 

「さて、そろそろお喋りも終わりにしてよろしいでしょうか?」

 

 サユリは少し無理やり、でも当然の転換をした。

 戦闘への強制移行だ。

 今読まれた事が拙い事だと主張しているのも同然になる。

 だが、もうそれは既に遅く、過ぎた事。

 

「ええ、そうね。

 ……なるほど、今の会話も無意味じゃなかったんだ」

 

 ザァァァ

 

 白い桜吹雪が舞い、一瞬視界が途切れた先で、構えていたアヤカは、少しだけ面白そうに笑った。

 それは、格闘家という人種が時々見せる歓喜の笑みに近いだろう。

 強敵と出会った時の歓喜の笑みだ。

 

「何かはしかけてくるとは思ったけど。

 そうか、こう言う防ぎ方があるんだ」

 

「私では、ラピードを受ける事はできませんから」

 

 2人の周りに降り注ぐ白い桜の花びら。 

 そう、『白い』花びらだ。

 ここで舞っているのは桜色か黒かのどちらかである筈なのに。

 

 その正体は単純。

 単に桜色の通常の花びらが少し凍ってしまっていて白く見えるだけである。

 そう、単に凍っている、それだけの事だ。

 

「いつから?」

 

「最初からです」

 

 それは、ここへ来る前、森に入る前から放っていた冷凍魔法。

 魔導師が無視してしまうほど弱く、人が肌で感じれない様に流れを調整したものだ。

 それが今ここで形を成したのだ。

 

「森の中では負けません」

 

 そう言って微笑むサユリ。

 ただ花びらが凍っているだけ。

 だが、アヤカなどの高速機動型で軽装の者にはそれだけでは済まない。

 冷気で空気中の水蒸気が凍り、花びらに付着したことで花びらの質量も増している。

 肌に触れれば温度差で張り付いてしまうだろう。

 それに、凍った花びらは硬度が増し、投げつければ人の肌くらいになら刺さる。

 尤も、皮一枚程度の傷がせいぜいであるが。

 

 さて、1枚ではその程度であるが、そんなものが無数に舞っている中である。

 そんな中を走ればどうなるか。

 普通なら無視できる程度の傷も無数となればどうなるか。

 1枚なら消し飛ばし、障害になりえなくとも、無数に張り付けばどうなるか。

 そして、1枚なら無視できる質量も、無数となればどうなるか。

 

「それでも、私は負けないわ」

 

 状況を不利にされた事、それは今言っても仕方の無い事だ。

 そもそも、自分が常に有利な状況で戦える訳では無い。

 アヤカの戦意は全く衰えない。

 それどころか高まっているだろう。

 仮にも勇者なのだから、それもまた当然なのだろう。

 

「勿論、これだけではありませんよ」

 

 サユリも負けられない。

 相手が誰であれ、どんな状況であろうとも。

 そう、相手が勇者で、敵地の中であろうともだ。

 

 

 今日ここで終らせる。

 この戦いを。

 

 

 

 

 

 そして、戦いは始まった―――

 

 

 

 

 

「破っ!」

 

 フッ ヒュッ!

 

 最初に動いたのは勇者だった。

 剣を手に、一歩で間合いを詰める歩法を使って斬り込んできた。

 

 キィンッ!

 

 歩法自体はアヤカも使っていたものだが、精度がやや落ちる。

 ユウイチにとって防ぐなどなんでもない事だ。

 右手で小太刀を抜き、上段からの斬り下しを止めた。

 だが、

 

「っ!」

 

 ギギギギィ

 

 受けた小太刀が軋む様な音を上げる。

 押し切られ様としているのだ、勇者の剣圧に。

 

「ちっ!」

 

 ガキンッ!

 

 仕方なくユウイチは後方に跳んで回避する。

 勇者の本気の剣を受けるのは、これが始めてであるが、やはりユウイチよりも勇者の方が力が上であった。

 尤もこの場合、勇者が両手で剣を持っているのに対し、ユウイチは右手だけで受けたからでもある。

 なら、何故ユウイチは両手を使わなかったか。

 それは、 

 

「ファイアーボール!」

 

 ユウイチが跳ぶのとほぼ同時に、響く魔導発動言語。

 そして、管理者がかざす手の先から直径1mほどの火炎球が放たれる。

 それは丁度ユウイチの真横に当たる方向だ。

 

「今日は一味違うね、少年」

 

 軽口を叩きながらもユウイチは地面すれすれまで身を屈める。

 勇者の攻撃を避ける為に退いた勢いをそのまま屈める勢いとした。

 更に、火炎球が放たれた方向、つまりは管理者が居る方向へと潜って抜ける。

 管理者の少年の攻撃を避けると同時に、勇者の追撃を妨害する壁とし、更に管理者との間合いを一歩詰めたのだ。

 

「守るものが無いと楽だろ?」

 

 ヒュンッ!

 

 火炎球を潜りぬけた所で、小刀を2本、管理者に放つ。

 それはただ真っ直ぐ投げただけの物。

 当たるなどとは思っていない。

 

「……」

 

 カンッ

 

 当然の様に両腕の盾で小刀を弾く管理者。

 だが見えた。

 腕を動かす瞬間、その手に紅い石が握られていたのを。

 その正体は魔石だろう。 

 先ほど、何の詠唱も無く魔法が放たれた。

 それだけなら今までと同じだが、先ほどの魔法は発動言語をもって放たれた一般的な火の魔法だ。

 まず間違いなく、先ほどの魔法は管理者が手にする魔石から放たれた物だ。

 

 そして、それはあくまで一般的な火の魔法。

 その証拠に昨晩まで使ってい火炎球ではこの森の物は燃えなかったに、今日は森の木々が焦げている。

 それでも燃え移ったりしない所を見ると、なんらかの手は加えてあるのだろうが、大違いである事には変わり無い。

 

 尚、魔石とは予め魔法を入れておくことで、後にキーとなる行動によって発動させる事ができるマジックアイテムである。

 一昨日の昼にスライムを対峙する時に使用した符と同じ種類になる。 

 キーになる行動というのはいろいろ種類があるが、管理者の物は発動言語、つまりはその魔法の名前を呼ぶ事で発動するらしい。

 また、通常石一つに対し一つの魔法を封じ込める事しかできない。

 符よりも入れられる魔法の威力が高いのだが、持ち運ぶには嵩張ってしまう為、何個も持つことはできない。

 つまり、そう何発も撃って来れないという事になる。

 だが、ヨシノは高位の魔導師だ、そんな普通の魔石であるとは考えないほうがいいだろう。

 

「ファイアーボール!」

 

 そう考えている時に、管理者は先ほどと同じ魔法を放ってくる。

 先日まで使っていた通常でない魔法とは違い感知できるし、発動言語もあるが、本来在るはずの詠唱などの準備が無い。

 対処の難易度が高い事には変わりないが、その脅威は大きく落ちる。

 

「今日は派手だね」

 

 恐らく、この魔法にならアンチマジックアイテムも普通に通用するだろうが、生憎とまだ使えない。

 しかし、この程度の魔法ならアンチマジックアイテムを使うまでも無いだろう。

 そもそも、あれは秘密兵器の類だ、並大抵の事では使えない。

 

 ただ、直撃すれば大ダメージである事には変わり無い。

 回避体勢をとるユウイチであるが、その前に気づいた。

 火炎球の軌道がこちらへの直撃コースではない事を。

 ちょうど、ユウイチの足元に着弾する様に狙われている事を。

 そして、背後からは勇者も近づいてきている。

 

「せっかちだな」

 

 勇者と管理者による挟み撃ちだ。

 そこへ更に、

 

「レイ!」

 

 ゴウッ

 

 管理者はユウイチの両サイドを通り過ぎる様に光の魔法を放つ。

 前に出れば火炎弾、後ろに下がれば勇者の剣、左右に逃げれば光の帯。

 勇者と管理者は連携を取っている訳ではない。

 ただ、互いの存在を利用しあっているだけだ。

 普通ならば、そんな関係など隙があるから大した脅威ではない。

 だが、相手であるこの2人の強さを考えれば少々厄介だ。

 

 ならば、まずをそれを崩し、逆に利用してみせよう。

 

 タッ

 

 ユウイチは跳ぶ。

 左右と前後がダメなら上がある。

 それも相手の計算の内だろう。

 だが、それでも跳ぶ。

 勿論、ただ上に跳ぶだけではない。

 バック宙返りをするように跳び、空中で大剣を抜き、上下逆さまの状態で勇者の剣を受ける。

 

 ガキィンッ!!

 

 低い金属音が響く。

 ユウイチは先ほどと違い大剣を使っているが、空中。

 加えて勇者が放った一撃もただの斬撃ではなかった。

 その為、ユウイチはこのままでは叩き飛ばされてしまう。

 尤も、目的はそこなので、問題は無い。

 後は、どう飛ぶかだ。

 大剣を軸にして、何処へ飛ぶべきか、何処へ飛べば先々の手が有利に進むか。

 状況を分析し、経験から推測し、全てを計算する。

 そして、導き出された幾多の手の中から最良だと思うものを選択、実行する。

 だが、

 

「ファイアーボール!」

  

 ゴウンッ!

 

 空中を移動中に管理者が更なる魔法が放った。

 それ自体は予想範囲内だ。

 しかし、それは直撃を狙った物ではなかった。

 

(これは、拙いな)

 

 経験から危機を予想したユウイチ。

 だが、今から方向は変えられない。

 

 ドウゥン!

 

 直撃する直前で爆砕した火炎弾はユウイチを飛ばす。

 ダメージはマントでほとんど殺せたが、吹き飛ばされるのは防げない。

 飛ばされてしまう。ユウイチが跳ぼうとしていた方向へ。

 都合よく、ではない。

 そちらに向かわされているのだ。

 敵の手によって。

 

(さて、どうなるかな)

 

 ほどなく地面に近づき、着地体勢をとるユウイチ。

 そして、着地する為に、地に足をつく。

 だが、

 

 グチャッ

 

 桜の花びらの絨毯が敷き詰められていても、確かに地面を踏んだ筈なのに、足に返ってきた感覚は粘性の何かだった。

 目を向ければ先ほどまで確かに他の場所と変わりなかったそこにへ、先日駆逐したスライムがいた。

 

(まだ、あるな)

 

 ユウイチがそう考えた瞬間だった。

 

 ズドォォォォォォォンッ!

 

 突如、踏んだスライムが爆発した。

 

 

  

 

 

 ジュンイチの目の前で仕掛けたトラップが作動する。

 先日使ったスライムの生き残りを改造したトラップだ。

 トラップとは言ってもスライム自体が爆発した訳ではない。

 敵がスライムに触れると、その座標にサクラがあの攻撃を発生させる仕組みだ。

 最初はサクラとジュンイチが2人傍にいて、傍へ攻撃、次に2人が傍にいて離れた場所から攻撃。

 更にサクラが離れた状態でも攻撃可能となった。

 だが、離れているといっても、攻撃を命中させるのにサクラの視認による照準が必要であった。

 

(これで、この攻撃方法は完成したと言えるだろう。

 察知も難しく、回避は不能で攻撃力は即死クラス。

 しかも、術者は空間的に隔離された場所にいて安全だ)

 

 そう考えながらいまだ燃える炎を見るジュンイチ。

 スライムという粘着性の物を座標特定に使用して、触れる事を条件としている為、掛かれば逃れられない。

 更に、あのスライムは今戦っている場所を包囲する形で展開し、抜け出す隙間は無い。

 一撃でも即死な上にこの配置なら負ける事も取り逃がす事もない。

 ジュンイチはそう考えた。

 

(そうだ、普通なら、もう終っている。

 既に一撃当てているのだからな。

 だが……)

 

 そう、それでも尚ジュンイチは炎から視線を外さず、更に全包囲を警戒する。

 相手はあの男故に。

 傍目で見れば勇者も同じ様に警戒を解いていない。

 普通に考えれば在り得ない、あの炎の直撃を受けて生きている人間など。

 だがしかし、

 

「護る事を止めて利用する事にしたか」

 

 声が響いた。

 揺らめく炎の奥から。

 ジュンイチは身構える。

 奴の反撃に。

 

「楽しいだろ?

 自分の為だけの戦いは」

 

「っ!!」

 

 だが、次ぎに聞こえた声は背後から。

 炎に視線を向けていたジュンイチのすぐ後ろから聞こえた。

 そして、振り向けば大剣を振り上げたあの男がいる。

 どうやってあの炎を脱したのか解らないが、スライムが付着していた足が多少焦げている他は、熱で少し焼けているだけだった。

 殆どダメージは無いと考えていいだろう。

 

 ガキィンッ!!

 

「ぐ……」

 

 上段からの打ち下しをなんとか両の盾を合わせて受ける。

 だが、

 

 ミシッ

 

 僅かに盾と身体が軋む。

 昨晩まで使っていた盾ならばこの程度の物理攻撃を受けたところで何の影響もなかったのに。

 

「ハッ!」

 

 ジュンイチと男の攻防の横から勇者が入ってくる。

 男の側面から切りかかる。

 

「がっつき過ぎだよ、勇者殿」

 

 ガキィンッ!

 

 男はこちらを抑えている大剣を片手持ちにし、勇者を空いた手に小太刀を持って受け止める。

 いや、最初からそうなる事を予測していてのだろう。

 対応が早く、また隙も発生しなかった。

 

「このっ!」

 

 そんな中、ジュンイチは力技で男の剣から自らを弾く様に抜け出し、下がる。

 同時に、相手に死角から魔石の1つをその地面に投げ、打ち込む。

 

「おや、君は控えめだね」

 

 ジュンイチが離れたことで、男は大剣で勇者を薙ぎ払おうとする。

 が、勇者はその薙ぎ払いを半歩下がって潜り抜けると、再度男を下段から斬り上げる。

 

 ガキィンッ!

 

 体勢からして直撃かと思われた一撃だったが、男は大剣から手を離し、大剣の柄についている鎖で勇者の剣を絡めとって受ける。

 今ジュンイチの位置からすれば、男は完全に無防備となった。

 

「行けっ!」

 

 ヒュンッ!

 

 ジュンイチは右の盾を円盤の様に男に投げる。

 昨晩まで使っていた物と違い、今使っている盾にはこう言う武器として用いる機構がある。

 それ故に、昨日まで使っていた物よりも防御力が劣っている。

 いや、正確にはまったく別問題なのだが、今使っている分にはその程度の変化でしかない。

 だからこそ持ち替えた。

 

「ふむ」

 

 男は何かに納得した様子で、僅かに前へ出て回避する。

 最低限の動き、首を狙った一撃を紙一重で避けたのだ。

 勇者と交戦を続けながら。

 だが、この盾にも昨晩まで使っていたのと同様の機能がある。 

 この男がアッサリ見抜いた機能ではあるが。

 

「戻れ!」

 

 ギュゥンッ!

 

 男を通り過ぎた盾が突如逆回転をしだし、そして、戻ってくる。

 ジュンイチの元へ一直線に。

 男を通過点とする様に。

 

 ガキィンッ!

 

「2度ネタは関心しないな」

 

 男は、勇者を止めるのを片手で持った大剣に切り替え、空いた手で盾を小太刀で叩き落した。

 昨晩の様に素手ではないのは、その攻撃機能を予想した故であろう。

 だが、当然ジュンイチもこんな攻撃が有効だとは思っていない。

 今男は動けない筈だ。

 勇者の攻撃を片手で押さえ、更に片手でこちらの攻撃にも対処した。

 ついでに言うと、今勇者の攻撃は上段からのものだ。

 つまり、上にも逃れられない筈。

 だから、このタイミングしかない。

 

「フルバースト!」

 

 カッ! ドゴォォォォォォォンッ!!

 

 ジュンイチの声に応え、先ほど放っておいた魔石が爆発する。

 正確には、蓄えられていた魔法が全て開放されたのだ。

 今男のいる足元で。

 威力はサクラの放つ火炎級よりも大きい筈だ。

 祖母の遺産である貴重な魔石を一つ失う事になるが、あの男を倒せるなら安い代償だろう。

 ただ、普通の魔法というところがやや問題ではあるが。

 それでも、普通の人間なら4,5回は死ねる威力で、それを0距離から受けたのだ。

 

「……」

 

 が、相手が普通であるなら、勝負などとうの昔についているだろう。

 

 スタッ

 

 少し離れた場所に勇者が着地する。

 爆発を察知し、爆風を利用し、上に逃れたのだろう。

 多少焼けてはいるがダメージにはなっていないだろう。

 巻き込んだ事に関しては恐らくなんとも思っていない。

 最初から互いに利用しあうだけの関係なのだから。

 

 ジュンイチと勇者は炎を睨む。

 先ほどと同様に、一切の油断無く。

 どうしてか自分でも不思議なくらいだが、これでは終っていないという確証があるのだ。

 

 ヒュンッ!

 

 と、そこで先ほど放った盾が戻ってくる。

 炎の中から。

 随分と遅れたが、そこでふと考えた。

 

(……俺のミスだな)

 

 それが何を意味するのか、察したジュンイチは静かに警戒を強めた。

 そして、自分の未熟さを再認識する。

 

「いいね。

 昨日までとは段違いじゃないか。

 今のは割と良かったぞ」

 

 バッ!

 

 マントで残った炎を払う男。

 恐らく叩き落した盾で地面にあった魔石から放出される炎を防ぎ、熱もマントで殆ど防いだのだろう。

 男はやはり多少熱で焼けてはいるがダメージにはなっていない。

 

「……」

「……」

 

 男を睨むジュンイチと勇者。

 失敗への後悔も反省も後にし、ただ純粋な殺意を込めて男を見る。

 

「楽しいだろう?

 やはり君もそう言う人間だよ」

 

 妙に楽しげにそう言いながら大剣を構える男。

 何がそんなに楽しいのか知らないし、考えたくも無いジュンイチ。

 ただ、今ある武装で目の前の男を殺す事だけを考える。 

 

「君もそう思うだろ? 勇者殿」

 

 男のその言葉に、まず勇者が動いた。

 

 

 

 

 

 フッ

 

 ヒロユキはまず、歩法を使って瞬時に男との間合いを詰め、男の目の前に出現する。

 そして、剣を振りかぶると見せかけ、もう一度歩法を使い、男の横へ、更にもう一度使い男の真後ろへと移動する。

 一瞬の内に男の眼前から背後に回り込む。

 

 ヒュンッ!

 

 歩法の瞬間連続使用で足が軋むが、痛みは気合でねじ伏せ、剣を振る。

 現状で有効と考えられる攻撃手段が無い故の無理やりの瞬間回りこみ。

 男は今、目の前に残っている残像を見ている筈だ。

 普通なら、男は背後に回りこまれたと気付かず、また気付いても対処できない筈。

 だが、

 

 ガキィンッ!

 

 男の背中を斬る筈だった剣が、大剣によって阻まれる。

 男は先ほどまで普通に構えていた大剣を背に背負う様にして移動させていたのだ。

 

(これが、予知にも似た戦闘予測か!)

 

 こんな浅知恵で勝てるとは思っていない。

 そもそも、アヤカのラピードも通用しなかったのだ、レベルの劣るヒロユキの歩法の瞬間連続使用程度で裏を掛ける筈もない。

 だが、目の当たりにするとキツイものがある。

 最初対峙していた時は確かに男は大剣を前に持って構えていた。

 それをこのタイミングで戻すなど、最初からヒロユキがこうする事が解っていなければ間に合わない筈だ。

 そして、ヒロユキの攻撃が歩法の瞬間連続使用の影響で、この一撃に力が入らず威力が半減している事も解っていなければならない。

 

「無茶な演出は興ざめするだけだぞ、勇者殿」  

 

 男の嘲笑うかの様な声。

 背を見ながら聞く男のその声は、ヒロユキを下がらせた。

 それは、逃げる為の後退ではない。

 

「なら……行くぞ!」

 

 低く構え、剣も地面に付くくらい低く薙ぐ体勢で構える。

 見るからに普通ではない横薙ぎの体勢であり、事実普通の斬撃ではない。

 これは、嘗ての戦友が使っていた技だ。

 

「もう少し楽しいのを頼むよ、勇者殿」

 

 急ぎもせず振り向いた男。

 そして、大剣を構える。

 ごく普通にだ。

 見るからに普通ではない構えをしていると言うのに、正面から受け様と言うのだろうか。

 

「破っ!」

 

 ゴウッ!!

 

 ならばと、ヒロユキは放つ。

 斬でなく、破の一撃を。

 風を巻き込み、高速で放たれるそれは、爆音にもにた音と共に男を襲う。

 

 ガギギィンッ!

   

 だが、男はその一撃を大剣の刃ではなく面の方で受け、更に身体をマントで防御していた。

 本来ならば、剣は止められても纏う風で敵を切裂く技だというのに。

 こちらの技を完全に理解していないとできない行動だろう。 

 更に、男は衝撃を自ら剣を受けている方向と逆方向へ跳ぶ事で緩和する。

 

(やはりこうなるか。

 ならば!)

 

 男が跳んだ方向は管理者が居る方向だ。

 管理者は跳んで来る男に対して魔石の魔法を放ち迎撃している。

 だが、空中で回転した男はそれを魔導銃で撃ち落していく。

 管理者が撃つよりも早く撃って、完全に管理者の魔法が力を発動させる前に無力化しているのだ。

 

 タンッ

 

 ヒロユキは跳ぶ。

 男へ向かって。

 ただ、一直線ではなく、上へ。

 木々の枝を伝い跳んで男の遥か上方へと移動する。

 そこから、

 

「斬ッ!」

 

 ただの自由落下ではなく、空中で天上を蹴って降りたかの様な加速で男へ向かって落下する。

 全体重、重力と加速をもった剣による切り下ろしだ。

 相手はまだ空中にいて、こちら歩法使用時並の速度だ。

 回避どころか防御も間に合わない筈だ。

 

 ガギンッ!

 

 だが、やはりというべきか、男は大剣と受け止める。

 尤も、それも承知の上でだ。

 

「沈め!」

 

 ヒロユキはそのまま力任せに男を地面に叩きつけんと剣を振り切ろうとする。

 予測され、防御されていようとも、関係無く叩き伏せる。

 

 ミシッ

 

 だが、そんな中軋む音が響いた。

 ヒロユキの剣から、悲鳴の様な音が。

 

 バキィィンッ!

 

 そして、砕け散るヒロユキの剣。

 先ほど使った戦友の技も、今使っている技も剣に負荷が掛かる事は承知の上だった。

 だが、これほど早く限界がくるとは計算外だ。

 

「ちっ!

 まだだ!」

 

 まだ勢いが残っていたヒロユキは男よりも先に着地する。 

 そして、剣を捨て、拳を構えて魔法を構成する。

 

「空を駆けし蒼き光よ

 我が手に宿りて全てを貫く力となれ」

 

 擬似高速圧縮言語で唱えられた詠唱。

 その間に男も着地する。

 ヒロユキに背を向けて。

 

「砕けろ! ライトニング ブロー!」

   

 着地して体勢を直さずに完成させた魔法拳。

 それを靡くマントごしに男の背を打つ。

 筈だった。

 

 バッ!

 

 突如、マントが上へ引かれる様に消えていく。

 

「なっ!」

 

 そして、マントが消えた先にいたのは、管理者の少年だった。

 

 ガギギギギギィィン!!

 

 管理者は咄嗟に盾を構え、ヒロユキの拳を受ける。

 そして、火花を散らす拳と盾。

 やがて拳に宿した魔法は力を失っていく。

 

「やれやれ、2人だけで楽しまないでくれるかな?」

 

 離れた場所から男の声が聞こえる。

 どうやら、男は着地の前に管理者を大剣に付いた鎖で絡めとり。

 ヒロユキに背を向けて着地したと見せかけて、その場にマントだけ残る様に跳び、管理者をこちらに引き寄せたのだろう。 

 

(何をしているんだ! 俺は!)

 

 自らの失態に心で叫ぶヒロユキ。

 だが、後悔も反省も後でいい。

 今は男と戦う事だけを考える様にする。

 

「まだだろう?

 さあ、楽しもうじゃないか」

 

 男はそう言って笑っていた。

 

 

 

 

 

 上手くいっている。

 ユウイチはそう思ってワラウ。

 今の本人達に自覚は無いだろう。

 自分達の行動一つ一つがどれほど荒くなっているか。

 如何に互いの力を消しあっているかは。

 

「夜はまだ長いぞ?」

  

 もう少しだ。

 もう少しで倒す事が可能となる。

 この2人を相手にして、両者を倒す事ができる。

 だからもう少しだ。

 

 

 俺を憎め―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガキィンッ!!

          バキィンッ!

 

 2人の黒髪の少女が舞う中、森に金属の衝突音が響き渡る。

 あくまで『様な音』であって、金属音ではないのだ。

 それもそうだろう。

 今2人がぶつけ合っているのは金属ではない。

 『ざん』という意思と『じん』という力なのだから。

 

「ハッ!」

 

「ダークファング」

 

 マイの意思によって出現する『斬撃』。

 セリカの魔力によって生み出される『刃』。

 その2つがぶつかり合い、相殺する。

 

「せっ!」

 

「ふっ!」

 

 ガキィィンッ!

 

 マイの力を宿した刀と、セリカの魔力で刃を付け、大鎌となった杖が衝突する。

 マイの剣士としての高速剣技と、セリカの魔力による身体能力強化。

 マイの純粋な剣術のレベルと、セリカの変幻自在の魔力の刃。

 それら全て総合し、今2人の戦いは拮抗したものになっていた。

 

「貴方は何故戦うのですか?」

 

 戦いの中、セリカは何度か問いかけをしてきた。

 何故、そんな事を聞いてくるのかはまだ解らない。

 

「戦いたいから」

 

 マイはその問いに戦いながらも自分の言葉で答えていた。

 ユウイチに関する情報を引き出されないように注意を払いつつ。

 

 ガキィンッ!

 

 再度マイの剣とセリカの刃が激突する。

 実物の剣と、半ば実体化している魔力の刃の衝突により火花の様に互いの魔力がショートする。

 

「何故、彼と共に戦うのですか?」

 

「共に戦いたいから」

 

 息がかかる程の距離。

 セリカの問いにマイはただ一言で答える。

 全ての想いを凝縮したただ一つの言葉で。

 それは、長い時間を共に居るサユリでも全て理解する事の叶わないマイだけの真実だ。

 故に、マイは躊躇無く答えた。

 ユウイチの事を何一つ理解していないセリカに解る筈はないと。

 

 バキィンッ!

 

 魔力の衝突もあり、弾かれる様にして距離をとる2人。

 そして、少しの間。

 セリカは静かに問いかけてきた。

 

「では、貴方は今幸せですか?」

 

 風が吹き、桜の花びらが舞い踊る。

 セリカは真っ直ぐな瞳でマイを見つめ、ただ静かにマイの答えを待っていた。

 マイは思う。

 今までの問いに答えたことで、セリカは自分達の事を断片的な情報から少しだけ解った気でいるのだろう、と。

 だからマイはハッキリと答えるのだ。

 自分の本物の気持ちを。

 偽りも飾りも一切無いただ一つの事実を。

 

「この世界の誰よりも」

 

 例えユウイチと歩む道が血塗られていたとしても、例えユウイチと共に居られる時間が少なくとも。

 これだけはハッキリと言える確かな事実。

 だからこそマイは言葉を続けた。

 今この想い故の言葉を。

 

「だから、消えろ!」

 

 バサッ!

 

 言葉と共にマイはリボンを解いた。

 髪を纏めているリボンが解かれ、風に黒髪が靡く。

 片手に剣を、もう片方には青いリボンを持った黒髪碧眼の少女。

 桜が舞い、月の光が照らす中、その姿は幻想的に見えた。

 

 キィィ

 

 そして、先に告げた言葉を実現させるべき、少女の意思を具現するモノが出現する。

 少女の周囲、全方位に顕現する『斬』の意思。

 それは先ほど剣を振るいながら出していたものとは、数も質も圧倒的に違うものだった。

 

「そうですか。

 それならば、私は貴方を越えていきます」

 

 対し、セリカは三角帽を脱ぎ捨てると、赤いリボンを取り出し下していた髪を結う。

 そして、改めて魔力の刃の大鎌を構え宣言する。

 

「ケルベロス ファング」

 

 ォォォォ

 

 何時の間に魔法を完成したいたのか、セリカは発動言語を口にした瞬間それは出現した。

 彼女の精神力から生み出される力の具現、闇色の『刃』。

 その数は視界にあるだけでも50を下らない。

 そして、魔力の密度から、その切れ味も先ほどの物とは別格である事が解る。

 

 似て非なるもの同士が対峙する。

 互いに引けない理由があり、進む道もその先にある。

 故に―――

 

「斬る!」

「噛み砕きます!」

 

 ―――2つの想いと力は放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシャッ!

 

 水音が響いていた。

 森のど真ん中の戦場で。

 

「くっ!」

 

 精密に操られた水に阻まれ、全ての行動が僅かな時間停止してしまう。

 剣を振れば腕に、前に出ようとすれば足に、跳ぼうとすれば頭上に水が纏わりつく。

 

「セッ!」

 

 ヒュンッ!

 

 更に、水を精密に操りながら、昨日までと全く劣らない薙刀まで飛んで来る。

 いかにパワーアップしたセリオと言えども今はほとんど防戦になってしまっている。

 

(自在に動く水が相手ではあのシステムも使用不能ですね)

 

 先日使った電撃を纏うシステム。

 相手が水を纏っていたならば逆に有効だっただろう。

 だが、相手はそれも考慮してか、水を身につけることはせず、周囲に浮かべて操っている。

 これでは多少指向性を持っているとはいえ電撃は水に吸収されて逆に利用されてしまうだろう。

 

「これ程の力を持ちながら!」

 

 常々思ってきたことを、言葉にしてしまうセリオ。

 あの男も、男と共にいる女性達も皆相当の実力者。

 嘗て魔王と戦ったメンバーと並べても見劣りしない。

 

「自分の周りにだけ大事が起きていると思っているのですか?」

 

 女性はセリオの叫びに対し冷たい瞳と感情の無い言葉を返してきた。

 機械にも似た冷たさであるが、セリオはなんとなく解った。

 それは単に何かを隠している故のものだと。

 

「正論です。

 ですが、ならば何故貴方達程の力の持ち主が無名なのですか」

 

 先の言葉は少々自己中心的な感情の暴発だと反省しながら、セリオは改めて言葉を紡ぐ。

 解っている。

 あの事件は所詮ある大して広くない国の、ほとんど国内だけで済んでしまった事件だ。

 そして、特にあの事件が起きた時期の前後、そして今も世界では規模的に小さいと言えるが、多くの内乱や戦争が起きている。

 あの事件で出た被害者の数など、その中に埋もれてしまうだろう。

 だがしかし、なればこそ、仮にも勇者に選ばれたヒロユキ達と同格かそれ以上の力を持つ彼等が、何故今まで無名なのか。

 名を上げる、いや、名が挙がってしまう事件に、遭遇しない様にする事が難しいこの時期においてだ。

 

「……そんな問いなど。

 所詮貴方達は『勇者』でしかない、という事です」

 

 誰に、いや、何かに叫びながら水を操り、刺突を放つ女性。

 薙刀を払う為に振り上げた腕は水に邪魔され、牽制しようと前に出ようとした足に水が絡みつく。

 後退しようにもどこかしらに水の抵抗が入り、隙ができてしまう。

 もし、マルチのコアをフル稼働していなかったら、とうに切り刻まれていただろう。 

 だが、センサーで感知する相手の魔法構成に少しセリオは疑問を感じていた。

 

(先ほどの言葉の意味は解りません。

 ですが、同じ魔法を何度もかけ直していますね…… 

 やはり、同時に全て操っているのでは無いという事ですが……それにしても効率が悪い様に思えます)

 

 高位の魔導師がよくやる事だが、空中に浮かぶユニットの操作は全て同時に行わず、条件付けなどで半自動化する。

 また、他のものと連動させて同時に動いているのと変わらない動きをさせる。

 なやり方は様々だが、基本的に複数のユニットを完全同時には操作しない。

 ある程度は複数同時に出来ない事もないだろうが、自分自身の操作に割り振られる処理能力が低下するのを避ける為だ。

 特に、この女性の様に魔槍士として戦っている以上、水を操作しながら戦っているだけでも高等技能だ。

 今、この女性は大体1度に2つの水を操って動かしている。

 高速で切り替え、1秒もかからず全てを操作しているから同時に動いている様に見える。

 

 それだけなら普通だ。

 言うなればお手玉をしている感じになるのだが、この女性は少し違う。

 何故か、操る水に対し操作の魔法を掛けて、操作し終わったらそこで魔法を終らせているのだ。

 そして、また操作するときに掛けなおす。

 様は、地面に置いた玉を使うときに持ち上げ、また地面に戻しているという感じだろう。

 確かにそれならば常に使わなければいけない魔力も少なくなるが、操作する時に新たに魔法を起動しなければならない。

 その分があり、また回数が多い為、多大な魔力を余計に消費している事になる。

 長時間戦闘するには逆に不利になる筈だ。

  

(短期で決着を付けるつもりなのか……

 それならば、防戦に徹していれば良いのですが)

 

 オートマータとしての戦闘理論がセリオに防戦を指示する。

 そして、ここはそうすべきだと判断し、セリオは攻撃の隙を窺うのを止め、防戦へと入った。

 体勢が全ての迎撃モードより解除され防衛モードに移行する。

 だが、完全に切り替わる前に、それは来た。

 

「訂正しましょう。

 貴方は勇者ですらない!」

 

 突き刺さる様な女性の言葉。

 そして、一歩後退した足に返ってきた感触があった。

 

 ビチャッ 

 

(水?)

 

 それは確かに水溜りを踏んだ様な感覚だった。

 水なら周囲に先ほどから浮いているから不思議ではないのだが。

 絡み付くでもなく、ただ水を踏んでいるだけなのだ。

 そして、その感触はもう一方の足にも感じられた。

 

「なっ! まさか!」

 

 セリオが足元を見れば、そこは、セリオを中心とした大きな水溜りとなっていた。

 いや、正確には水溜りではない。

 水がセリオの足元に集まってきているのだ。

 それも、大量に。

 

(そうか! 先ほどまで何度も魔法を再構成していたのはこれを隠す為。

 ここは島の北側、恐らくは貯水池の水でしょう。

 それを持ってきたのですね。

 そして、宙に浮いている水はカモフラージュでもあったと)

 

 最初は驚愕しながらも、冷静に状況を分析するセリオ。

 だが、分析するだけでは状況は変わらない。

 今相手にしているのは、こんな物を引っ張ってきながらも、水を浮かべながら戦える魔槍士だ。

 更に、十分な水が無くとも、アレだけの戦術的利用ができる魔導師に、これだけの水があればどうなるか。

 

(考えるまでも無いですね。

 強大な魔法の構成が既に9割以上完成しています。

 先ほどまでの魔法の再構成はこれを隠す為にもあったと言う事ですね)

 

 構成からして、恐らく水が吹き上がる圧力で相手を圧壊させるものだろう。

 これだけの水、質量の流れを受けてはオートマータのボディも無事では済むまい。

 

(効果範囲予測……通常手段では脱出しきれませんね。

 非常手段として、姉さんのコアをもって復旧した機能のもう一つの使い方を用いれば……

 データが不足手いる為効果の程が解りません)

 

 前回使った電撃の機能、要は内蔵器官で電気を発生させる機能である。

 それを使い電撃を纏うのが通常の使い方であるが、それだけの機能ではない。

 例えば、電界の力を使って、レールガンの様に両腕から生えているブレードを射出する事も可能だ。

 炸薬と併用すればかなりの反動を代償に高速での射出が可能となる、というのが理論上の話だ。

 そしてこの状況ならその反動を使って相手の攻撃を回避できる可能性がある。

 実際使った事が無い為、上手く機能するかも解らない。

 

(ですがやりましょう。

 これならば、脱出と同時に反撃も可能です。

 安全を第一にするならば、狙っている余裕はありませんが、ブレードをなくしては戦闘続行はほぼ不可能。

 ならば、この一撃で勝ちましょう)

 

 考えながらエネルギー充填を始める。

 相手の魔法完成の時間を考えると1秒もない充填時間だ。

 攻撃としても使うなら本当にギリギリまで時間を割かなければならない。

 自分の破壊と紙一重になる程に。

 

「やりますとも。

 私は勇者の一員ですから!」

 

 セリオの言葉と共に、両者の攻撃の準備が完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザァァァ

 

 凍りつき、その1つ1つが半ば凶器となった白い花びらが舞う森の中。

 踊る様に動く2人の少女の姿がある。

 同時に、舞う白い花びらの流れも2つ存在した。

 

 ヒュンッ!

 

 アヤカの拳から発生する風を斬る様な音。

 様なであって、風を斬ってはいない。

 風を纏い、花びらを纏い、打ち出しているのだ。

 

「あらら」

 

 相手の女は自らが操る風で、その花びらが乗る気流を逸らしながら躱す。

 どうやら可能であればその気流も自らの風に乗せ様としたみたいだが、失敗したらしい。

 無理に乗せようものなら、自らの気流を崩してしまう為に。

 

「大分慣れてきたわ」

 

 凍りついた花びらは、凍りついた力は兎も角、その核となっているのは『花びら』という自然物だ。

 相手はそれを風で操っているだけであって、すべてを統制管理している訳ではない。

 ならば、こちらも利用すればいい、と考え付いた方法である。

 数発の試し撃ちと調整を経て、ただの拳圧よりも効果的な飛び道具となった。

 

「流石、と言うべきでしょうか。

 いえ、それとも、『勇者』ならば当然と言うべきでしょうか?」

 

 花びらを風で操り、姿を隠す女性の声が響く。

 慌てている様子は全く感じない。

 彼女が自分で言っている通り、それくらいは予想していたのだろう。

 

「『私』だから当然なのよ」

 

「それは失礼」

 

 ザァァ

  

 返答と共に迫ってくる花びらの嵐。

 それを、力の入れ方を変えた拳で、

 

 ブンッ!

 

 打ち崩し、且つ、一部を声のした方へと打ち返す。

 

「……」

 

 ほんの一瞬だけ相手の顔が見えた気がしたが、もう見えないし気配も追えない。

 元々花びらが舞うせいで視界が悪かったのだ。

 それを都合のいい様に操られては、視界は無いと考えた方が良いだろう。

 勿論視界が0になるほど花びらを風で操って完全な壁としている訳ではないので全く先が見えない訳ではない。

 しかしここが森で、木という大きな障害物がある事もあり、相手は自由に隠れる事ができる。

 不自然に花びらで壁を作り視界を遮るといった事をする必要はない。

 それに対し、相手は花びらを操っているのだから、アヤカの位置はほぼ正確に把握できているだろう。

 

(さて、どうしようかしらね。

 こう言うのは元々好きじゃないんだけど)

 

 言い方は悪いが殴り合っているのが性に合うアヤカにとって、こう言うちまちましたのは耐え難い。

 かといって無闇に突っ込むのは不可能だ。

 間違って操られている花びらの嵐に突っ込もうものなら、全身を花びらに切り刻まれ、絡めとられ、下手をすれば窒息するだろう。

 

(誘い出すっていうのもあるけど……それはもっと好きじゃないのよね)

 

 あの男がやっていた様に言葉巧みに誘い出すという手段。

 それは元々得意じゃないし、嫌いな部類の行動だ。

 だが、そこでふと思う。

 先ほどの会話と、それに続く新たな疑問ができた事を。

 

「ところで、また1つ聞きたい事ができたんだけど?」

 

「内容によりますよ」

 

 アヤカの問いかけに返ってきたのは先ほどと同じ返答だ。

 そう、先ほどと同じ様に下手な問いならば力づくでも潰すという意思が、周囲に出現した気流でも解る。

 尚、声は響き渡ってしまっている為、声での位置判別はできない。

 

「では聞くわね。

 彼は……今、幸せなのかしら?」

 

 ザァァ……

 

 その問いを言葉として口に出した瞬間、周囲の空気が変わった。

 気流も、温度も、アヤカがその肌で感じる全てが。

 

「ええ、幸せだと、そう彼は言っていますよ」

 

 返答が来る。

 だが、その声はここに来て一番初めに聞いた時とも、彼について訪ねた後のものとも違った。

 確かに相手にしている彼女の声であるのに、まるで違うのだ。

 質が、重さが。

 

「だから」

 

 その声の質を変えている要因、それが何なのかは解らない。

 恐らく単純な事ではないだろう。

 凄く複雑で、中には事実彼女も幸いとしている所もある筈だ。

 それでも、今のアヤカでは想像もつかない複雑な何かがあって、こんな想いとなっているいるのだろう。

 そして、その想いは―――

 

「この場で消えてください、勇者さん」

 

 ガキンッ! ガキィィンッ!!

 

 その言葉と同時にアヤカの上空に出現した女と強大な氷のピラミッド

 更に同時に、アヤカの周りに花びらの柱が出現する。

 

(なるほど、全部時間稼ぎだったんだ。

 全てはこれを作る為の)

 

 生成された巨大なピラミッドはその先端をアヤカに向けて突っ込んでくる。

 周囲に発生した花びらの柱は、アヤカの逃げ道を塞いでいる。

 こんな巨大で広域に渡る魔法、気付かなかったのは全て花びらのせいだ。

 既に魔法がかかっていて、魔法で操られている、更に同系の魔法での生成だった。

 その為に気付けなかったのだ。

 更に、花びらを核としている為、生成の為の力も隠せるし、そもそも力をほとんど必要としていないだろう。

 

「最初からここまではめられるとはね。

 でも、受けて立つわ。

 こう言うのは好きだもの」

 

 相手の女はピラミッドの上にいる。

 ピラミッドの一辺の長さはおよそ2mと言った所。

 構成は中に花びらが混じっているが、殆どただの氷だろう。

 それを生成する為の水は何処からもって来たのかまでは解らないが、今はそんな事どうでもいい。

 アヤカはその巨大なピラミッドを拳で打ち抜き、相手を倒す気でいる。

 

「……」

 

 相手は、そんなアヤカを見て何も言わないし、何も表情に出さない。

 ただ、攻撃を確実に当てんと集中する。

 

「来なさい!」

 

 そして、両者はぶつかろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 島の北側の海岸の近くで眠っていた少女が目を覚ましていた。

 

「ん……んん?」

 

 赤い髪の少女、コトリが目をあけると、まず空で静かに光を放つ月が見えた。

 そして辺りを見渡し、何故こんな所で眠っていたのかを思い出そうとする。

 一応にも乙女たる自分が、こんな無防備に野外で寝入るなどという行為に至った理由を。

 

「お目覚めかね、シラカワ嬢」

 

 背後から知っている男の声が聞こえて振り返るコトリ。

 

「スギナミ君」

 

 そこに居たのは嘗ての友、ジュンイチとマコと自分と、そして彼。

 あの頃、仲の良くて一緒にいる事が多かった4人の最後の1人だ。

 

「歌いすぎでそのまま倒れたのだぞ。

 まったく、彼の為とはいえ無茶をする」

 

 久方ぶりに再会した友人は少し咎める様でいて、少し嬉しそうにそう言った。

 何故スギナミがここにいるかとかは考えない。

 スギナミとはそう言う人物だと認識しているからだ。

 

「あ、そっか……私」

 

 そして、彼の言葉でやっと自分が何故こんな所で眠っていたのかを思い出す。

 そう、自分にできる事を全力で行って、そしてちょっとだけ成果を出して倒れたのだ。

 本当に、ほんの少しだけだけれど。

 

「ほら、喉も痛めているだろう?」

 

 なにやら液体の入ったビンを手渡すスギナミ。

 辺りが暗くて色もわからないし、匂いもよく解らない。

 だが、少なくともこう言う時に彼が渡すものは、変な物ではないだろう。

 

「ありがとう」

 

 特に躊躇う事なく飲み干すコトリ。

 すると、喉を中心に疲労していた筈の体が軽くなっていく様だった。

 この即効性は間違いなく何かの魔法薬だ。

 それも高級な。

 

「ま、歌の代金だ。

 それに、必要だろうしな」

 

 コトリが何かを言う前に、そう言って森の方に目を向けるスギナミ。

 コトリも一緒に森を見る。

 今の森からは強い殺意が満ち溢れ、戦いの音が鳴り響いていた。

 

「先ほどアサクラ兄に会ってきたよ」

 

 森を見つめたまま、普段通りの様でいて、悲しみを宿した声で言い出すスギナミ。

 彼が最も信頼する友と会ったというのにである。  

 

「酷い堕落っぷりだった。

 アイツらしさがほとんど見えなくなるくらい。

 言葉を残し、ヒント満載の過去まで見せたというのに……

 もう、気付こうともしていない」

 

 そう言って、今まで握っていた手を開き、役目を終えた桜の花びらを捨てる。

 コトリは黙ってそんなスギナミの背中を見ていた。

 

「まったく、彼が相手では、ある程度は仕方ないにしろ、完全にのまれるとはな……

 どうやら、男の俺ではあの腑抜けを起こす事はできんらしい。

 ついででいいから頼めないか?」

  

 そう言って振り向き、コトリを見つめるスギナミの瞳は、やはり悲しげだった。

 自分の無力に嘆く瞳だ。

 彼程深くはなかろうとも、確かな想いがそこにある。

 

「そうかな? 私は男同士の方がいいと思うんだけど。

 特に、相手が私じゃ異性である事が有利には働かないでしょう」

 

 スギナミの横を通りすぎながらそう言って森の前に立つコトリ。

 スギナミの言う現状、ジュンイチの状態はコトリも解っている。

 彼の為に歌っていたコトリだが、彼の為だからこそ他のものへ、この島にいる皆への歌でもあった。

 コトリの歌はヒロユキの耳にも、ジュンイチにの耳にも届いていた。

 しかし、2人にはコトリの歌は聞こえていなかった。

 音としては耳で聞き取っている筈なのに、2人の心に響かせる事はできなかった。

 それが、歌い手としてコトリには解ったのだ。

 

 一度気を失い、時間を経過した今だが、こうして森を見れば今何が行われているかは解る。

 コトリは一度目を瞑って、歌を口ずさみ、それを確認した。

 そして、もう一度スギナミの方に振り向いて言葉を続けた。

 

「それに、確かに私は彼の為に行く。

 でもそれは、だからこそアサクラ君とあの勇者さんの為でもあるんだよ」

 

 明るい、今朝までの沈んでいた彼女とはまるで別人の様な笑顔で告げる。

 小さくとも、確かにある光を持って。

 コトリは自分には歌しかないと、そう考えている。

 そうした上で、歌でできる事を考える。

 僅かとはいえ、彼の回復の手助けをできたコトリが今すべき事を―――

 

「ああ、そうだったな」

 

 それを見て、スギナミも笑みを浮かべる。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 スギナミに見送られ、コトリは森の中へと入っていった。

 激戦の続くこの桜の森に。

 自分でできる事を精一杯やり通す為に。

 

 

 

 

 

 月の光がさす夜の森に声が響いていた。

 音にならず、ただ静かに輝く声が。

 戦いを終らせん、という沢山の声が。

  

 そんな中に一つだけ『戦おう』と、そう誘う声がある。

 

 その一つの声も、本当は戦いを終らせたいのに、そう言わざる得ないのを少女は知っている。

 だから、歌おう。

 この全ての歯車が狂ってしまった森の中。

 その想いを一つにする為に―――

 

 

 

 

 

あの日誓った夢の影 貴方は今でも追いかける イナエカタタ ハタナア

 

 

 

 

 

 森に歌声が響いた。

 優しく、それでいて悲しい歌声が。

 変化としてはそれだけだった。

 ただ、それだけだというのに―――

 

「なにっ これ……」

 

「体が……」

 

 高位の魔法剣士であるマイが、勇者の一員でもある魔導師であるセリカが。

 発現させていた力を霧散させてしまい、膝を折る。

 

 

「これは、魔曲!?」

 

「私達まで……姉さん……」

 

 一流の魔槍士であるアキコが、オートマータであるセリオも。

 構成していた魔法が砕け、セリオは身体の制御を失い、マルチのコアにいたっては自身のエネルギー供給を逆転させ、セリオの動きを阻害し始める。

 

 

「まさか……こんな強力な……」

 

「力が……」

 

 同様に一流の魔導師であるサユリと、挌闘家としては間違いなくトップクラスのアヤカも。

 構築していた魔法は解け、水にもどって消え、収束させていた筈の力が消えていく。

 

 

「そんな……こんな場所にまで……」

 

「これは、通信システムからなの?」

 

 それは空間的にズレた場所にいるサクラとネム、ヨリコにも影響を与えていた。

 3人とも、身体に何の変調もないのに、ただ戦う力だけが消失する。 

 

 

 そして―――

 

「ぐっ!」

 

「何っ!」

 

「これは……」

 

 その影響は、3人の男達にも例外なく降りかかっていた。

 大凡考える限り最高位の戦士達が全員大地に膝をつく。

 全身から力が抜け魔力も制御できず、立ち上がる事も武器を握る事もできない。

 

 

 祈りの声は無く ただその手に剣を持ち イナタモヲキブ ハタナア

 

 

 それは魔曲と呼ばれる呪。

 楽器や音声で奏でられ紡がれた音楽、つまりは音を介し聴覚を介して相手の精神に作用する特殊技能。

 演奏や歌の技能と魔力と、それらを複合し得る才能があって初めて発現できる魔法である。

 半ば催眠術に近い効果を発揮し、強力なもので国一つを狂化したという伝説もある程に強大になりえる魔法の一つ。

 

 そんな事が出来る者、そしてなによりこの音色。

 原因となる者は直ぐに浮かび、その名を呼んだ。

 

「コトリか!」

「コトリか!」

「コトリか!」

 

 3人の男がその名を呼んだのは同時だった。

 そして互いに睨み合う3人の男達。

 それは、『何故この男から彼女の名前がでるのか』と。

 

 

 瞳に写る全てを求め その手にあるものすら砕く貴方 イナケツズキ ハタナア

 

 

 だが、今はそんな事を考えている暇は無かった。

 相手は動けない。

 こんな絶好の機会は無く、また逆にこんな危険な状況もない。

 

(聴覚を封鎖……)

(中和を……)

(魔力抵抗を……)

 

 如何に広範囲に広がる強力な呪とは言え、所詮は『聴覚』へと干渉する『歌』を使った『魔法』である。

 音を遮断し、歌の詩を解析中和したり、魔力が流れるのを押さえ込んでしてしまえばいい。

 

 ―――筈だった。

 

(何っ!)

(できない!)

(バカな!)

 

 3人の男達、そして他のメンバー全員魔曲への対策は持っていた。

 魔曲は使い手が限定されるとはいえ、その効果範囲と効果は大きい為、対抗手段を講じるのは冒険者、戦闘のプロであるなら当然の事だ。

 だが全員この歌の効力、戦闘不能の状態から復帰できない。

 『戦うな』と言う詩が体中を駆け巡るのだ。

 

 それもその筈、この歌は通常の魔曲とは違い音を媒体にしていても聴覚に干渉しているのではない。

 この歌は彼等の心、いや魂に直接響いているのだ。

 そう、本来の『歌』というものの在り方を単純に強化しているに過ぎない。

 だというのにこの効力、それは彼女の特殊能力、歌唱力、魔力、魔曲使いとしての才は勿論。

 彼女がここにいる者達全員を知り、理解し、真に心から想っているからこそできる芸当。

 

 心に直接響いているから聴覚を封鎖など無効。

 魂に直接届いているのだから中和など不可能。

 真に心から歌われているが故に魔法抵抗など無意味。

 

 心から心へと歌っているが故に、作り物とはいえ人よりも人に近い心を持つオートマータ・セリオもまた動けない。

 そして、心から魂へと響くが故に意思力すら関係無く動けないのだ。

 

 勇者を含む地上最強の一と言える筈の彼等は、抵抗もできぬままにたった1人の少女、コトリによって無力化されてしまった。

 

 

 ひび割れた夢を罪と罰で繋ぎとめながら それでも貴方は行くのですか イナセロコ ハタナア

 

 

 それでもヒロユキとジュンイチはなんとか動かんと全身に鞭を打つ。

 あらん限りの気力を振り絞り、動く事を拒否する体を無理やり立ち上がらせる。

 

(くっそぉぉ、こんなかったりぃのは生まれて初めてだぞ!)

 

(よもやコトリの歌がコレほどとはなっ!)

 

 2人は辛うじて立ち上がるも、それだけだった。

 武器を握る力は出ない。

 魔石を発動させるだけの魔力も出せない。

 ただ立っているだけでも精一杯なのだ。

   

 後一歩で、憎きユウイチを倒せるかもしれないと言うのに―――

 それが2人は悔しかった。

 

 と、そんな事を考えた瞬間だった。

 

 

 全てに意味を求め 全ての夢を背負い イナマクニ ハタナア

 

 

「ぐっ!」

「ぐわっ!」

 

 戦う事を考えてしまった為に、より一層歌が体から力を消していく。

 再び膝を折り、今度こそ動けなくなってしまう。

 

(なんて力だ!

 いくらコトリの能力を組み合わせているからと言ってこんな……

 それに、こんな無茶苦茶な事をしたらコトリは……

 そうだ! コトリは何故!?)

 

 コトリの能力の全てを知っていると言っていいジュンイチでも、想定していなかった出力の魔曲。

 一応理論上は可能だとは考えていたが、実行した場合のリスクについてはほとんど予測できないのだ。

 伝説にその存在は記されていても、これほどの効果範囲でここまでの効力を出した者が、どうなったか記録には無いのだ。

 

「何故だっ! コトリッ!!」

 

 ジュンイチは叫ぶ。

 彼女が裏切ったなどと微塵も考えなくとも、不可解なのは確か。

 どこかのチームに味方するなら兎も角、全員を行動不能とする意味が解らない。

 コトリはもう知っている筈なのだ。

 この戦いに時間を掛けられない事くらい。

 例えジュンイチが敗れ去り、勇者が勝利してもいい、だがこのまま三つ巴を続ける事はできないのだ。

 

 だというのに、コトリは何故こんな事を。

 これほどの効力が出せるのは解る。

 彼女の特殊能力、心を読む力があれば、ここに居る人間全てを『理解』する事ができる。

 そうすれば、各人へ魂へ詩を直接響かせる事は可能だ。

 

 だが、それを行うのには代償が必要だ。

 どんな魔法にもそれ相応の代償が必要になる。

 通常の魔法ならば魔導師は魔力を消費するだけだ。

 しかし、彼女は魔導師ではなく、ただ多少の魔曲の能力を持った、1人の歌い手でしかない。

 

 そんな彼女が、これほどの広範囲、これほどの効力を発揮する魔曲を歌い続けるのに。

 一体、何を代償にしているのだろうか。

 

「誰一人にも理解されなくとも 貴方は一人走り続ける」『イナタモヲイキテ ニシイノソ ハタナア』

 

 ジュンイチの声に応える様に、コトリはその場に姿を現す。

 この森の中で唯一自由に動ける少女が。

 誰が為の詩か、歌を歌いながら3人の中央に立つ。

 今にも零れ落ちそうなくらいの涙を瞳にもって、ただ純粋な少女の心で紡がれる歌を歌いながら現れた。

 

「コトリ……」

 

 ヒロユキにもコトリが何をしたいのか解らなかった。

 一体何に悲しんでいるかも解らない。

 ただ、彼女が味方では無い事が確かな事実なのだろう。

 

 

「コトリ、お前はもう少し頭のいい女だと思ったが」

 

 ヒロユキとジュンイチがコトリに注意を向けている中、響いたユウイチの声。

 見ればユウイチは何時の間にか立ち上がり、大剣を握っていた。

 この魔曲の中にあって彼は武器を持つ事ができていた。

 

「私は隣に立つことはできないけれど、ただ歌を届けたい」『イナイハキテ ニタナア』

 

 コトリはそれでも歌い続ける。

 ただユウイチを悲しげに見つながら。

 大剣を構えたユウイチと対峙する。

 

「そこをどけ」

 

「誰もが忘れ 誰も求めぬ貴方の名」『イナワカタタ ハタナア ラカダ』 

 

 本当に人を殺せそうな殺気と共に放たれた声と視線。

 コトリも知っている。

 ユウイチは目的上邪魔になるなら、私情を挟まず誰でも殺せる事を。

 だが、コトリは全く動じる事無く、ただ悲しげにユウイチの瞳を見つめていた。

 

「どけぇぇぇぇ!!」

 

 木々が揺れるほどの声、森がざわめく程の殺意。

 しかし、それでもコトリは歌い続ける。

 ただ、一つの想いと共に―――

 

「月の光の下 貴方の名前を歌にする」『イナハトコウカタタ ハタナア』

 

 ユウイチを見つめ、そんな詩を奏でる。

 例えこのまま斬り伏せられたとしても。

 心から願っている事がある。

 それを実行する為にここに居る。

 だから、コトリは退かない。

 

「ぐ……」

 

 ユウイチが揺れる。

 その声が、視線が、コトリがその全てで訴える気持ちがユウイチに剣を振るわせてはくれなかった。

 

「俺は、そんな事を望んだ覚えは無いぞ」

 

 コトリの言葉を、詩を、想いを受けてユウイチはただ言葉でそう返す事しかできなかった。

 最早剣を握る手に力は無く、一歩も前に踏み出す事も出来ない。

 ただユウイチのそんな言葉だけが紡がれるも、ただただこの森の空へ消え行くのみ。

 歌は間奏にあたる部分にあるのか、今はコトリも歌っていない。

 だが、歌は続いている為、全員魔曲の影響下にある。

 誰も動けず、状況は何も変わらない。

 

「あの日求めた夢の在り方 貴方は今もそこにいる」『イナレマクニ ハタナア』

 

 程無く再びコトリの詩を奏でる。

 変わる事無き悲しい瞳で、ただ力と心に満ちた声で歌い出す。

 

「ぐっ……俺が自身で望んだ道、これは全て我が業だ!

 例え幾千年呪われ続けようとも、俺はっ!」

 

 歌が再開されユウイチの手からは更に力が抜けていた。

 戦おうとすればするほど、コトリの声が胸に突き刺さる。

 それを跳ね除けんとするも効果は無く、むしろより一層想いがユウイチへと集中される。

 

 勇者でも膝を折るこの魔曲の中ユウイチはまだ立っていた。

 それは心と体を分離できる、体だけでもユウイチは自身の決めた行動を実行できるからだ。

 だが、それはこの場において良い事ではなかった。

 

「届かぬ願いは無いと ただその心に夢を持つ」『イイテクナタモヲキブ ハタナア』

 

「う……」

 

 あのユウイチが苦悶の表情を浮かべる。

 演技では無く、片手で胸を抑える程に。

 

 私情を挟まない為に、自分の意志で心と体を分離できるユウイチではあるが、それは己が意思で決定した事だからだ。

 コトリの歌は心に響き、魂に突き刺さり、ユウイチの内側から戦う事を拒絶させるのだ。

 だが戦術的判断はコトリを斬ろうとする。

 それ以外、コトリを斬ろうという意見などあろう筈もない。

 ユウイチの意思の上でもどこででもだ。

 普段ならば、それを分離できるが、今は魂に響く歌の中。

 ユウイチが持つ戦略的思考と、心が分離しているが故に常に互いを否定しあうのだ。

 そうしてユウイチは今、心の内部で崩壊しそうな苦痛を感じていた。

 

 ユウイチにとってそんな痛みも別段初めて味わう痛みという訳ではない。

 だが、今のコトリが訴えている事、それは―――

 

「あの人の名前を背負いながら あの人と同じ夢は見ない」『イナハトコルレラケツズキ ハタナア』

「やめろ……」

 

 ついに俯き、ユウイチは弱弱しく言葉を口にする。

 だが、コトリは歌を止めない。

 ユウイチが苦しんでいる事を解っていても。

 それでも、今彼に戦って欲しくは無いから。

 瞳に涙を溜めながらも歌い続ける。

 ただ、ユウイチを想って詩を歌う。

 

「乾きそうな夢を血で潤しながら それでも貴方は進み続ける」『イナハトコウカタタ ハタナア』

「止めろ……」

 

 ユウイチの手が震える。

 剣先は地面に付き、最早剣は手に乗っているだけの状態だ。

 それでも歌は止まる事は無かった。

 そして、ついに―――

 

「自ら砕いた夢のかけら その全てを拾い……」『……ヲタナア ハシタワ』

 

「止めろぉぉぉ!!」

 

 ユウイチは武器を落とし、両手で両耳を押さえながら叫んだ。

 

 

 この8年間で初めて彼は―――

 

 苦痛から逃れる為に、声を上げた。

 

 

 しかし、そこへ

 

「疾ッ!」

「ファイヤーボール!」

 

 コトリがユウイチ1人に気を取られた隙に、ヒロユキはナイフを投げ、ジュンイチは魔法を発動させた。

 威力は普段の半分にも満たないだろう。

 だが、今動けないユウイチを殺すには十分なものだ。

 

「っ!」

 

 それに気付いたコトリは歌を中断し、ユウイチの下へと駆けた。

 そして自分が動けなくしたユウイチを護る為に、覆い被る様に跳ぶ。

 

「「コトリッ!」」

  

 それを見た2人は叫んだ。

 

 普通に考えれば、それくらい予測できた筈なのに。

 コトリの運動能力上、それが間に合ってしまう事も。

 コトリの想い上、迷わず跳びこむ事も。

 

 なら何故2人は攻撃してしまったのだろうか。

 

 ドォォォンッ!!

 

 火炎球が爆発し、炎が上がる。

 

 だが、その炎は直ぐに消える。

 振り払われたのだ。

 ユウイチに。

 

 魔曲の効力はまだ残っている、歌うのを中断すれば即効果が切れるというものでもないのだ。

 ただ、コトリを守る事に心を全て傾けた為、コトリの魔曲はその意味を成さなかっただけだ。

 コトリを抱き込み、庇うと同時に火炎球を左腕で打ち払い、ヒロユキの投げたナイフはその背に受けたのだった。

 

「……」

 

 左腕を半ば炭化させ、ナイフに内臓を傷つけられ口から血を流しながらも、コトリをゆっくりと離す。

 ヒロユキとジュンイチの行動に気を払いながらも、ユウイチは悲しげにコトリと見詰め合った。

 そして先のコトリの訴えに応えた。

 それは言葉無き声で一言―――

 

 

 これが現実だ

 

 

「……」

 

 コトリは静かに涙を流す。

 

 それと同時に魔曲の効力は消滅した。

 

 

 

「……」

 

 カッ!

 

 ユウイチはコトリから離れると総員に撤退の合図を送り、自らも閃光弾を使ってその場から姿を消した。

 コトリを残して。

 

 

「俺は……何を……」

 

 同様にヒロユキも姿を消す。

 その心に迷いを残して。

 

 

「コトリ……」

 

 そして、最後にコトリとジュンイチだけが残った。

 ジュンイチは何とかコトリの名を呼ぶも、それ以上言葉を続けられなかった。

 

「……」

 

 コトリは何も言わずジュンイチを見つめる。

 涙を流した瞳で。

 

「……声、出なくなってるだろ?

 それに、他にもなにか異常があるかもしれない。

 来いよ、治すから」

 

 暫くして出せた言葉はコトリの事を心配しての言葉。

 今コトリは無茶な魔曲で声を失ってしまっていた。

 治療しなければ永遠に声を失うかもしれない。

 だから、それだけでもと思ったのだ。

 だが、

 

「……」

 

 コトリは首を横に振り、森の外へと消えていった。

 ただ一度だけ、悲しげな瞳でジュンイチを見て。

 

「何故……」

 

 1人残ったジュンイチは天に向かって呟いた。

 それが何に対しての言葉だったのか、あまりに多すぎて自分でも解らなくなっていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明かりの下、コトリは1人砂浜にいた。

 この島で初めてユウイチとであった場所だ。

 

「……」

 

 だが、いつもは笑顔で歌っていたコトリも今は静かに、ただ悲しげに月を見上げるだけだった。

 空を飛ぶ翼を持たず、囀る声すら失った小鳥は1人で人を待っていた。

 

「よくもおめおめとここに顔を出せましたね。

 覚悟はできているという事ですか?」

 

 声に振り向けばそこに立っていたのは巫女装束に薙刀を持った蒼い髪の女性、アキコ。

 その気高く美しい姿は月明かりの下で幻想的ですらあったが、今その瞳は静かな怒りに満ちていた。

 

「……」

 

 コトリは力の無い微笑みその応えとする。

 

「声まで失って……結果がアレですか」

 

 合流したユウイチは悲惨だった。

 傷は言うまでも無く酷いが、それは何時もの事と言えてしまえる。

 だが、どんな重体でもアキコ達に心配を掛けまいとするユウイチが、疲れきった顔を隠せない程精神的に疲労していた。

 そう、心の傷を抉られていたのだ。

 つい先日トラウマを抉られたばかりなのに、心に大きな衝撃を受けてしまった。

 本来なら誰にどんな罵声を浴びせられようとも、平気な顔をできるユウイチをここまで憔悴するなどトラウマ関連以外では初めての事だった。

 

「……」

 

 声は無いが弁明をする気はなく、素直に認める。

 コトリにとって、それは真実、罪状である。

 

「言った筈ですよ?

 あの人を裏切ったら許さないと」

 

 静かに薙刀を構えるアキコ。

 もう2度、コトリに対して薙刀は構えてきた。

 だが今日は脅しではない。

 アキコは本気だった。

 

「……」

 

 悔いは―――ある。

 むしろ今彼女の心には悔いで満ちていた。

 彼を一層傷つけてしまった事、そして今何もできずに終ってしまう事。

 そして、なによりも―――

 

「……逝きなさい」

 

 ヒュッ!

 

 風を切る音が響いた。

 アキコの薙刀がコトリの心臓へと迫る。

 最後の情けとして一撃で殺す為に放たれた全力の刺突。

 

 ザシュッ

 

 月下の砂浜に肉が裂ける音が響き、鮮血が舞い散る。

 

 砂は紅く染まり、冷たい海に消え行く。

 

 

 ただ月だけが今宵も美しく空に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 後書き

 

 今回も無駄に長い話でした〜。

 いい加減少しはまとめられたらと思います。

 戦闘が4箇所で起きているのである程度は仕方い事だったのですがね。

 

 さてさて、今回の話は自分に作詞の才能は微塵もないと痛感した話でした〜

 これでも数日悩みましたけどね。

 実はこの話全体を書いている時間と同じくらい考えてました。

 4箇所の戦闘を考えるよりも苦労して、これです、はい。

 曲は不可能でも詩くらいなんとかできるかな〜と思った結果の惨劇です。

 ですが、どうしても詩が必要だったので、書いてます。

 なので、歌詞の部分はあまりみないでやってください。

 

 そうそう、今回もまた無駄に長く、実は歴代1位の長さです。

 が、これより長いのを作る予定です。

 一体何話になるでしょ〜

 では、無駄に頑張る次第ですのでこれからもよろしくどうぞ〜










管理人の感想


 T-SAKAさんから12話を頂きました。

 最長記録更新です、長いです。



 各所で戦闘が発生してます。

 それぞれの陣営が終わらせようと思っているようなので、総力戦の様相。

 メインはやはり各パーティーリーダー同士の戦闘でしょうね。

 内容は実質ユウイチ対ヒロユキ&ジュンイチですが。

 でも2人は利用し合っていると言う、何とも殺伐とした……。(苦笑



 結局戦闘はコトリの乱入で全て終了。

 彼女は良かれと思ったのでしょうが、状況がそれを許さなかったと。

 全員正の感情で動いていても、最悪に到る可能性があるのが戦場でしょうしね。

 特にヒロユキもジュンイチも精神的に普通じゃないようでしたし。

 それは口数の少なさからも分かりますしね。




 しかし、また美味しいところで切りましたね。(笑

 コトリがどうなったか気になる方は下記まで感想をどうぞ。




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