無銘の華

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 あれから1年が経とうとしていた。

 

「しっかしあんな三文小説のシナリオが、こうも上手く行くとは思わなかったな〜」

 

 とある街の酒場に集まっていた6人+1。

 

「それにしてもまさか死んだ筈の敵が、真昼間の街の酒場にいるなんて思わないでしょうね」

 

「それも英雄側の傭兵と一緒にですからね」

 

 この街はちょっとした大きさの革命戦争の舞台となった街である。

 つい先日革命軍は皇帝を打ち倒し、今街では英雄を新たな王となって祭り騒ぎだ。

 なお、一応というか当たり前だが戦争中は全員変装レベルのイメチェンと、認識を狂わす高度魔法を使っていた為、バレることは無い。

 

「あはは。

 それにしてもアレはちょっとビックリしましたよ」

 

「事前に知らせる」

 

 ユウイチが打った最後の演出に、ちょっと本気で怒っているサユリとマイ。

 

「アレは私も驚きましたよ。

 私にすら事前に詳しくは話してくれないんですもの」

 

(まあ、いつもの事だがな)

 

 既に慣れきったシグルドはともかく、ユウイチと共に敵内部に潜入していたアキコも少し不機嫌だ。

 今回ユウイチは敵の黒幕の様に動いていた為、一応死んだことにしなければならない。

 で、とんでもなく演出過多な死に方を披露したのだ。

 因みに今回は、仮面の闇竜騎士ことユウイチと、ユウイチ専属の暗殺者としてアキコが敵側に潜入。

 サユリ、マイ、カオリ、ミシオが英雄側に付き、連絡を取り合って双方内部から戦況を操作していた。

 それで、まあまるで三文小説の如きストーリーで英雄側の勝利となった。

 役者が良かった事もあり、後の歴史では舞台化くらいはされるだろう、ドラマであったりした。

 

「まあ、あの場はちょっと不確定要素が多かったんでね、アドリブを効かせる為ですよ」

 

 最後の英雄との直接対決は、実際ユウイチが予期しなかった事が起きたりしていた。

 おかげで演出過多に拍車がかかったりしたのだが。

 どんな最後かと言うと、先に死亡したかのように偽装したアキコを抱いて、自ら炎の中で燃えるなどという最後だ。

 サユリが怒っていることからも解るように、サユリですら本当に死んでしまったのではないかと疑うくらいの演技と偽装。

 きっちり消し炭程度であるが、死んだ証拠の遺体として、人骨まで用意している周到っぷりである。

 

「毎回思うんですが、ああいうの一体何処で用意するんですか?」

 

 ユウイチと旅を始めてもう1年を過ぎたのだが、未だにユウイチについては謎とされる部分が多かった。

 毎回サユリでも、ユウイチのものではないかと疑う偽装遺体(大抵消し炭の骨)を用意するのもその1つ。

 その他、偽装の技術は勿論、偽装に使うアイテムも毎度皆を驚かせる。

 武器の類は一般レベルなのにそういったハッタリは演出の為の道具はありえないほど充実している。

 

「まあ、今回のは結構前から持ち歩いてた物なんだけどね」

 

 さらりと、とんでもない事を言うユウイチ。

 鑑定した所、本物の人骨であった物を前から持ち歩いていたなどと。

 

「……流石にそれはちょっと説明してくれないと困るんだけど?」

 

 たびたび奇怪な事をするユウイチであるが、流石に今のは引いたらしい。

 かなり本気で弁解を求めるカオリを始めとするメンバー。

 

「あぁ、まあ、なんだ。

 今回演出過多だったのはちゃんと理由がある。

 俺とアキコさんが演じたキャラは、実在したんだ」

 

 表向きには外から来た人間となっている2人だったが、その裏の設定として、この国が昔研究していた強化人間の生き残りで、国を乗っ取ろうとしている、となっていた。 

 更にその裏、極々一部には本当は復讐などより、自分達の様な人間を作らせない為、戦争を煽りながらも国の寄生虫と言える貴族を裏で始末し、国を案じていた認識されている。

 被害を最小限に抑える為の行動も見抜けれ、そこからいろいろと深読みされ―――

 それが結構事実を掠めていたので、ドラマがいろいろと盛り上がったりしたのだった。

 

「実際強化人間、人のキメラに関する研究は行われていたと調べがつきましたが。

 じゃあ、その人達って……」

 

 その研究が最終的に失敗で終わってる記録と、ユウイチの言葉が過去形である事から推測される事。

 

「4年前にこの国に来たとき、俺と師匠で研究所を襲撃したんだ。

 その時救出したのが俺たちの演じた2人の元となった人物だ。

 最も、救出したといっても、数日間しか延命してやれなかった。

 その数日間でいろいろ話してな、不遇な人生だった割りにいい奴等で、時がきたらこの国を叩き直す事も約束した。

 僅か数日間だがその2人の人格は把握し、もし生き残って俺と同様に師の下で修行したら、を想定したキャラが俺達の演じた2人だ。

 で、見取った後、遺言通りに2人の遺骸をちょっとした方法で保存し今回利用した訳だ」

 

 懐かしむ様に話すユウイチ。

 演じていたアキコも初耳の過去。

 ユウイチの指示通り動いてきたメンバーだが、そんな過去の話をされては笑えない。

 同時にユウイチが、今までどんな事をしてきたのかを改めて思い知る。

 本人は決して話そうとしないが、時折こうして垣間見る事ができる。

 どれ程人の生み出した地獄を見、また踏み越えてきたのかを。

 だが、

 

「これでやっと2人は報われた。

 今回のばかりは1人では不可能だったから、ありがとう、皆」

 

 晴れやかな笑顔でそう言うユウイチ。

 過ぎ去った過去の事は仕方ない。

 それを現在でどうするかが問題なのだ。

 およそ人の身であるユウイチ達でできる最良の事をし、それは良い結果となった。

 だから今は笑う。

 

「私達は好きで貴方につき、私達も同様にそうしたいと思ったからしたことです」

 

「そうですよ、お礼なんていりませんよ」

 

「いらない」

 

「そうそう、何時もみたいに笑ってごまかしていればいいのよ」

 

「親しき仲にも礼儀ありとはいいますが、それは蛇足でしかありませんよ」  

 

 5人もユウイチと同じように微笑む。

 

 パレードが近づいてく様だ、外が一層賑やかになる。

 

 

 多くの人を傷つけ、殺め、屍を乗り越えたがこの者達は何を得たのか。

 

 表の英雄達と同様に戦いながらも暗躍し、考え、悩み、傷ついてきたこの者達は決して賛美を送られる事は無い。

 

 多くの代価を払えど、それに見合う報酬があった訳でもない。

 

 正義の味方を気取り陶酔する事もない。

 

 むしろ人々から忌み嫌われ、石を投げられかねない。

 

 彼等は人並みの幸せを手にすることはできないだろう。

 

 それでも彼等は笑っていた。

 

 街には笑い声が響き渡っている。

 

 人はエゴだとか自己満足だとか罵るかもしれない。

 

 それでも彼等は笑っている。

 

 楽しそうに、満足そうに。

 

 

 そして幸せそうに笑い合っている

 

 ただそれだけが、彼等の今を表していた

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く談笑していたユウイチ達。

 そこに1人の青年が近づいてきた。 

 

「ユウイチ アイザワ殿」

 

 微妙に軽そうな同年代くらいの青年はユウイチを見てその名を呼ぶ。

 

「っ!?」

 

 それに反応する5人。

 ユウイチの名前と顔を知っている人物など、この街には居ない筈なのだ。

 そして、知ってなお近づいてくるとするならそれは―――

 

「ああ、いい、知り合いだ」

 

 だが、ユウイチはそれを制した。

 同時に5人は少し耳を疑ったほどだった。 

 この1年、ユウイチの名を知り近づいてくる者で、ユウイチが知り合いと呼ぶ者は無く、敵でしかなかったからだ。

 

「よう、久しいなスギナミ」

 

「ユウイチ殿は、ますます悪名が名高くなっている様で」

 

 軽く挨拶を交わす2人。

 スギナミの言葉は丁寧な様でどこか軽く、2人の雰囲気からそれなりの親しさが感じられる。

 

「貴方の師より手紙を預かりまして、参上した次第だ」

 

 そう言って手紙というか小包を手渡す青年。

 

「では確かに渡したましたぞ」

 

 ユウイチが小包を受け取ると、そう言って颯爽と去って行ってしまう。

 ユウイチはそれをさして気にすることも無く、まず手紙から開封する。

 

「ふむ……」

 

 読む限り厄介事の依頼の様だ。

 そして小包は結構な額の金。

 察するに命の保障の無い仕事である。

 だが、ユウイチは嫌だと思う事も迷いもしない。

 

「これはかなりの厄介事だな。

 で、まあ次ぎの仕事が決まった訳だけど」

 

 視線でどうする? と尋ねるユウイチ。

 解りきった事かもしれない、それでもユウイチは問う。

 

「では早速準備をしますね」

 

 そう、5人は迷う筈が無い。

 例え何度死にかけたか解らない1年だとしても、これからどんな地獄が待っているとしてもだ。

 彼女達の答えは決まっていた。

 

「んじゃ、行こうか」

 

 平和を祝うパレードを背に彼等は旅立つ。

 

 そこがどんなに居心地のいい場所だとしても、それが彼等の決めた道故に

 

 彼等は迷わない

 

 

 誰に決められた訳でもない、ただ自分だけが信じる道を進むのだから

 

 

 

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