刃で護れるもの

 

 

 

「強くなったら私の事も護ってくれる?」

 

 それは遠い日の事

 

「もし、貴方に、暴力が降りかかるのであれば」

 

 月明かりの下で少女と交わした、

 

「貴方を護る」

 

 大切な……約束……

 

 

「……夢……か……」

 

 早朝、自然に目が覚めた恭也は時計を見る。

 4:29

 鳥達も起きる前の時間だ。

 朝の鍛錬に出るにも少し早い。

 更に言えば美由希が香港の美沙斗の所に行っている為、

 走りこみや素振りしかできないのだが。

 

「……ん?」

 

 そんな事を考えていたら、何の夢だったか思い出せなくなってしまう。

 昔の、思い出と言えるシーンだったと言うのは覚えていたが、

 

「……あれは……いつ……誰との事だ……?」 

 

 どうしても相手が思い出せない。

 

 暫く考えて候補は絞り込めたものの確信が持てず、

 仕方ないので鍛錬に出た。

 そして、鍛錬を終えた頃には夢の事など忘れていた……

 

 

 その日の昼過ぎ

 

 

「と言うわけで任せた」

 

「は?」

 

 ある昼下がり。

 恭也は本業(表)である翠屋の仕事に勤しんでいたところ、

 リスティに呼ばれ、話があるとかで他の席からは死角且つ声の通らない席に座った、

 開口一番がそれであった。

 

「訳もなにも、まだ何も聞いてませんが?」

 

 用意したアイスティーはまだガムシロップも入れていない。

 それどころかストローもさしていない。

 

「いけずだな〜恭也。

 そこら辺は僕と恭也の関係で、YESと答えてくれればいいのに」

 

 などと言いながらアイスティーにミルクを入れるリスティ。

 

「いえ、リスティさん相手でそれは洒落にならない場合があるので」

 

 ちゃんと話をしても酷い事ありましたし、

 などと読まれる事を前提に考えながら答える恭也。

 最近はリスティのあしらい方も手馴れてきている。

 

「酷いな〜恭也、僕は悲しいよ」

 

 台詞の内容とは違いやたらと楽しそうなリスティ。

 大げさな手振り身振りで悲しみを表現してはいる。

 

「で、何があったんですか?」

 

 とりあえず、仕事中に『高町恭也翠屋風を一つ、テイクアウトで♪』などと指名で呼び出され、

 茶まで用意させたのだからまず『からかいに来ただけ』と言う事は無いだろう。

 尚、リスティを対応したなのはは、

 『専用メニューにつきテイクアウトはできません』と、営業スマイル付きで答えたらしいが、

 まあ、それはとりあえず置いておく。

 なお、普段の接客では普通の笑みで作り笑みでは無い事は記しておこう。

 

「そうだね〜、時間制の指名料付きだから本題に入らせてもらうよ」

 

 などとのたまいながらも少しまじめな顔になるリスティ。

 しかし、よく見るとカウンターにタイマーが置かれ、動いているのは何故だろうか?

 それもとりあえずおいといて、

 

「ここ数日、クリステラソングスクールの生徒が誘拐される事件が起きている」

 

 今までとは一変し、仕事の顔になる二人。

 

「初耳です」

 

 リスティはここ数日と言った。

 ならば自分が知らないのはおかしいと半ば睨む様にリスティを見る。

 

「全部未遂に終わったし、仕事をやり易くする為に隠蔽しているらしいよ」

 

 未遂とはいえ誘拐事件が起きている、更に言うと被害者はクリステラソングスクール生徒、

 それなのに情報が出回っていない、どころか恭也の耳にも入らない程に隠蔽されている。

 それの意図する事は……

 

「何か大きな裏があると?」

 

 考えられる事を導き出し、尋ねる恭也。

 

「ああ、そうらしい。

 まあ、騒がれるは困るって言うのは校長親子揃っての意見だけどね。

 今は結構大事な時期らしいし」

 

 全国ツアーのコンサートまであと2ヶ月。

 それも含めて騒がれるのは困るだろう。

 しかし、その身の安全を保障できない状態で……

 

「フィアッセ達は心配ないよ。

 向こうには優秀なガードがいるし、それに……

 僕が知りうる限り、最強にして最凶の男が付いてる」

 

 フィアッセの身を案じていたのを読まれたか、顔に出ていたのを察したか、

 何かを言う前に説明するリスティ。

 

「だから全て未遂だったんですね?」

 

 リスティがそう言う言い方をする人は一人。

 恭也も良く知っている人物だ。

 知りうる限りの人物で自分が最も勝てる確立が低いと思われる人。

 しかし、その人物が動いているとなると……

 

「ああ、因みにたまたま近くにいた、らしいよ。

 まだそこまで事の全貌は明らかになってないんだ」

 

 またしても先読みして答えるリスティ。

 最悪フィアッセに直接コンサート中止を申告せざる得ないとまで考えていたが、

 とりあえずはその考えを破棄する。

 

「そうですか……

 とりあえずは安心ですが……」

 

「舐めてもらっては困るね〜もう動いてるよ」

 

 リスティは何に対してか、口元を緩める。

 が、すぐに元に戻ると、

 

「もう手は打った、がまだ彼女達の安全が保障された訳じゃない。

 と、言う訳で、今現在日本にいるアイリーン・ノアの護衛を依頼したい」

 

 今現在日本にいるクリステラソングスクール出身の人物の片方の名前を挙げるリスティ。

 それは勿論恭也も良く知っている人物であり、護りたいと思っている人の一人でもある人だ。

 

「因みにゆうひさんは?」  

 

 椎名 ゆうひ、日本で活動中のもう一人の現在日本在中クリステラソングスクール生徒の事を尋ねる。

 最近はコンサートの多いゆうひの方がアイリーンより危険度は高い筈である。

 

「愚問だな〜

 ゆうひはさざなみ寮生だよ?」

 

 笑いながら答えるリスティ。

 それを聞いて確かに愚問だったと反省すらする恭也。

 さざなみ寮生である事、それはつまり『あの』さざなみ寮が動くと言う事だ。

 ゆうひ一人の護衛ならこれ以上は考えられない。

 あの人達+久遠が付けば、敵が人間である限りは近づく事もできまい。

 

「つう訳だからアイリーンを頼むよ」

 

 今までのシリアスモードは何処へやら軽いノリに逆戻りだ。

 

「……嫌だという訳ではありませんが、

 俺である理由は?」

 

 そう事情があると知れば例え依頼されなくとも護るつもりではあるが、

 護衛に関してはプロ、とは言えない自分に話が来たのは不自然だ。

 まだそう言う世界で名が売れている訳でもない。

 恭也の実力を知っているのは極限られた人間だけだ。

 

「護衛対象がアイリーンで、

 恭也だからさ」

 

 これ以上無いくらい端的に答えるリスティ。

 けっしてふざけてそう答えている訳ではないのだが、

 

「依頼と言いましたね?

 誰からの依頼ですか?」

 

 リスティや恭也の周りの人間ならまず『依頼』などとは言わない。

 アイリーンの身を案じる人であり恭也の実力を知り、且つ『依頼』をしてくる人物。

 恭也にはそれが浮かばなかった。

 

「恭也にしては洞察しきれてないね〜

 むこうにあの人が居るっていったろ?

 アイリーンのご両親からの依頼でね、君が推薦されたんだ」

 

 リスティの言葉になるほど、と納得する恭也。

 

「事件が公にされていないから警察としても動きにくし、

 そもそも、ガードが付いていても彼がいなければ誘拐が成功していたかもしれない、

 という事態もあったそうだ。

 はっきり言うと、日本の警察くらいじゃ役に立つとは思えない。

 だが、君なら実力もアイリーンからの信頼もある。

 つきっきりだとしてもなんの問題も無い。

 それに……」

 

 何かを付けたそうとして止めてしまうリスティ。

 

「それに?」

 

 流石に気になって尋ねるも、

 

「いや、なんでも……」

「アイリーンさんの彼氏さんは退院しちゃいましたしね」

 

 と、そこへ突然現れたなのは。

 因みに翠屋制服なのは専用を着込んでお手伝い中だ。

 

「なのはちゃん、気配の消し方を覚えたのかい?」

 

 恭也は気付いていた様だが、リスティはまったく接近に気付けなかった。

 一瞬飛びのかんばかりの勢いで驚いていた。

 まあ、なのはの台詞の内容も原因だろう。

 

「あの長期入院の子は退院したのか……

 だが、それが何の関係があるんだ?それに何故それを知っている?」

 

 アイリーンの彼氏こと海鳴大学病院に入院中だった女の子の事は、

 自分だけが知っている秘密だと思っていた恭也もその事には驚いている。

  

「家は何故か入院沙汰になる人が多いですから」

 

 微妙……では無く、まんま棘付きの言葉を笑顔で放つなのは。

 フロア担当の晶とレンがそそくさと厨房に入っていくのが見える。

 聞こえた……というか二人にも聞こえる様に言ったのか?

 

「美由希も最近多いしな」

 

 なのはの笑顔から顔をそむけながら、などとのたまう恭也。

 相当痛いらしい。

 

「そうだね〜、

 はいアイスティーのおかわりです」

 

 リスティのアイスティーをグラスごと交換する。

 因みに恭也は飲み物に手をつけていない。

 

「お、悪いね」

 

「いえいえ、ごゆっくり〜」

 

 最後まで笑顔を崩さずに戻っていくなのは。

 

「……と、まあともかくそう言う事だよ」

 

 ちょっと強引に話を戻すリスティ。

  

「解りました」

 

 アイリーンを護る事には何の躊躇いも無い。

 即答する恭也。

 

「一応警察もそれとなく配置はしておくみたいだから」

 

 後は任せると言う風に何時もの軽いノリのリスティ、

 だったが、

 

「そうそう、今までの犯人の手口だけど、

 殺すつもりと、金が目的って訳ではなさそうだ」

 

 シリアスモードに急転し、まだ話していなかった事件の詳細を説明する。

 殺す目的ではないのはわざわざ誘拐するという行為で。

 金ではないと言うのはクリステラソングスクール全員が対象だった事。

 後問題なのはあまりに犯行グループの人数が多い事などがある。

 もう既にいくつかの誘拐未遂の犯人は捕まっているのにも関わらず犯行は続いているのだ。

 そして、

 

「あと、車に押し込まれて子の話だとね、

『どうも乱暴されかけたらしいんだ。

 直前で救出されたそうだけど。

 それと、犯人達の会話じゃ全員をそうするつもり』だったらしい」

 

 途中リスティは言葉を発さず、唇だけを動かす。

 カウンターで聞き耳を立てているなのはへの配慮だろう。

 恭也は難なく読唇術でそれを読み取る。

 

「つまり……クリステラソングスクールを崩壊させるのが目的ではないか、と?」

 

 今の話から推測される犯人……いや黒幕の目的。

 クリステラソングスクールは、どう見たって良い事しかしていないだろう。

 しかし、だからこそ、それが邪魔になる組織は一つや二つではない……

 コンサート中に爆弾、という手段は失敗している。

 個人個人を殺すにはいろいろ手間とリスクが伴う。

 が、相手は全員女性、しかも美女ぞろいの集団。

 恐らくはチンピラでも金で雇っているのだろう。

 殺しの依頼とは違ってある程度金を積めば簡単に引き受けそうな事だ。

 彼女達の生業の性質上、そうするだけで十分に殺したと同然の効果が得られる可能性が高い。

 なまじ耐えれたとしても、世間に知れ渡ってしまえば……

 それなら犯行が未だに続いているのも解る。

 つまり、裏で動いている元となっている組織を止めない限り、この事件は終わらない。

 

「ああ、僕達もそう考えてる」

 

 あまり見られない……いや、見られない方がいい、

 リスティの強い怒りと憎しみを宿した瞳。

 

「護ってみせます」

 

「アイリーンにはもう話してあるから。

 アイリーン、喜んでたよ〜」

 

 恭也の目を見た後にはもう元に戻っていたリスティ。

 いつものからかい口調だ。

 

「俺は今話しを聞いたのですが?」

 

「恭也なら断る訳が無いと解っていた故の事さ。

 因みに、細かい事を無駄に書いた面倒な紙はアイリーンが持ってるから」

 

 リスティの台詞に一応突っ込む恭也だが、

 あっさり返されてしまう。

 ちょっと溜息を吐きながらも、一応信頼として受け取っておく恭也。

 

「では」

 

 そして、席を立ち、準備に向かう。

 

「がんばれよ」

 

 リスティの言葉を背で聞き、まずは桃子に事情を説明をしようと厨房に入る恭也。

 リスティに背を向けた時にはすでに、翠屋の店員高町 恭也から不破 恭也になっていた。

 

 

 それから1時間後

 

 ピンポーン♪

 

「はいは〜い」

 

 完全武装と小道具一式を鞄に詰めた恭也がアイリーン宅を訪れたのは、

 リスティと話した一時間後の事だった。

 

「恭也、いらっしゃ〜い」

 

 無防備に扉を開けて恭也を招き入れるアイリーン。

 なお、服装は普段のロック少年の様な格好だ。

 

「こんにちわ、アイリーンさん」

 

 軽く挨拶を交わした後、アイリーンは恭也を部屋に上げる。

 恭也はまず、盗聴器が無いか、忍に携帯に埋め込んで貰った、装置で検索する。

 アイリーンには気付かれない様に。

 

「話は聞いていますね?」

 

 無い事が確認されていから、本題を持ちかける。

 最も、今回の敵の目的上、そんな物が今の時点であるとは思わなかったが。

  

「ええ。

 恭也、私を護ってくれるのね〜」

 

 状況は知っているだろうに、随分楽しそうなアイリーン。

 まあ、怯えていられるよりはマシであろうが……

 

「ご両親から依頼を受けました。

 貴方の身辺警護を」

 

 少し事務的に答える恭也。

 まあ、リスティの言っていた内容を確認する意味でもあったのだが。

 

「……恭也。

 フィアッセの時は自主的だったのに、私は依頼じゃないと護ってくれないの?」

 

 恭也の態度に、悲しげに目を伏せ、瞳を潤ませるアイリーン。

 ……かなり演技がかっているが。

 

「そんな事ありませんよ。

 今回はたまたま依頼と言う形で来ただけです」

 

 流石に演技だとバレバレの行為はサラっと流す。

 

「ん〜残念。

 依頼じゃなかったら成功報酬は私が身体で払ったのに〜」

 

 恭也が流したのには特に気にする事は無く、次なる冗談を用意するアイリーン。 

 

「では長期拘束料金として頂きますよ」

 

 冗談に冗談で返す恭也。

 流石にこの手のやり取りは忍らへんで慣れている様だ。

 だが、

 

「え?」

 

 急にアイリーンの動きが止まる。

 

「?」

 

 忍ならこの後更に会話が発展するのだが、

 それが来ないのを怪訝に思い、アイリーンを見ると、

 

「あの……欲しい?」

 

 初々しく赤面したアイリーンが上目遣いで尋ねてくる。

 

「あ……いえ、その……冗談ですから」

 

 まずい事を言ったかと、後悔しながら言い繕うが、

 

「なんだ、残念」

 

 次の瞬間には背を向けながらも何時ものアイリーンに戻っていた。

 やられた……と、今の反応は新手の冗談と判断し、ちょっと落ち込む恭也。

 故に、アイリーンの頬が紅潮しているのに気付けなかった……

 

 

 その後、細かい打ち合わせをして、

 恭也はアイリーンに気付かれない様に、アイリーンが絶対掛からない場所に対人トラップを仕掛ける。

 そして、最後に、

 

「依頼内容は付きっ切りでの護衛なんでしょう?」

 

「はい、そうなります」

 

 年頃の女性と一日中一緒にいろと言う事だが、

 まあ、両親からの依頼だし、アイリーンも構わなそうなので、

 恭也も特に何も言わなかったが、

 

「じゃあ、今日から恭也は私の恋人ね♪」

 

 突然などとのたまうアイリーン。

 しかもやたら楽しげに。

 

「……は?」

 

 また冗談をと思った恭也だが、

 

「だって、一日中一緒にいるのを、仕事先とかで他にどう説明するの?」

 

「なるほど」

  

 楽しそうな割に合理的な提案で、ちょっと感心した恭也。

 が、

 

「それとも、恭也、私が恋人じゃ不満?」

 

 やっぱり絶対遊んでいる。

 

「まさか、そんあ訳ありません」

 

 無難に答える恭也だが、

 

「じゃあどう思ってるの?」

 

 アイリーンはそれでは許してくれない様だ。

 ほんの少し考え、恭也は、

 

「命に代えても護りたいと思う大切な女性です」

 

 正直な想いを告げた。

 その場しのぎの為のものでは無く、心から思っている事を。

 

「……ん〜まあいっか。

 でも、命に代えたらダメだよ。

 もし恭也が死んだら後を追うからね〜」

 

 やっぱり別の言葉を期待したアイリーンだが、とりあえずは納得した様だ。

 なお、ついでの様に訂正させた内容だが、目だけはふざけていなかった。

 

 

 この日は後、買い物をして、家でのんびりするだけのアイリーン。

 日が沈むまでは何事も無くゆったりとした時間が流れた。

 が、

 

「恭也〜シャワーどうするの?」

 

 バスローブのみと言ったまた魅惑的な格好で恭也の前に立つアイリーン。

 

「……」

 

 が、言った言葉の内容はかなりシビアな物だったりする。

 今回の恭也の任務はアイリーンの護衛。

 しかも単独で、だ。

 交代できる人はいないのだ。

 トイレならまだいいだろう、気配を探って周囲に敵がいない事を確認して、

 アイリーンの所在を確認すれば、対人トラップも仕掛けてある自宅の中だ、

 それくらいの余裕はある。

 が、風呂となるとちょっと余裕が無い。

 しかも一時的に武装を解かないといけない。

 身体を拭くだけでもいいのだろうが、任期は今のところ不定であり、

 且つ、その間はアイリーンの恋人として振舞わなければいけない。

 つまり、それなりには身だしなみを整えておく必要がある。

 誰か信用できる人を呼べばいいのだが……今現在動ける人でそれなりの実力を持っている人……

 なお、晶、レンは、こっちに呼んでしまうと美由希がいない高町家が心配になる。

 ノエルを呼ぶと忍が心配だし、フィリスは忙しい。

 高町家も月村家も戦力を0にしてしまえないという事情があるのが困りものだ。

 残るは、ゆうひの護衛中だがまだ向こうには戦力に余裕のあるリスティだが……

 

「心配なら、私恭也が入ってる間脱衣所にいるけど?」

 

 最終手段であるリスティでも呼ぼうかと考えていた所に、

 などとまた楽しげに提案するアイリーン。

 

「……じゃあお願いします」

 

 背に腹は変えられない、と言う事でアイリーンの提案を受ける。

 

「覗かないから♪」

 

 やっぱりアイリーンは楽しげだ。

 なお、覗きはされなかったが、脱衣所で待ち構えられ、

 出られなくされたりはしたりする。

 

 更にその後、

 

「恭也〜寝る時間だよ〜」

 

 時刻も深夜となり、恭也の腕を取ってベットルームに誘おうとするアイリーン。

 

「どうぞ、お気人なさらず寝てください」

 

 流石にアイリーンのそう言った行動に対し全て真面目に対応していたら日が昇るので、

 つれなく受け流す。

 

「え〜一緒に寝ないの〜?」

 

「寝ません」

 

「恋人同士でしょ〜私達」

 

 やっぱり状況を楽しんでいるアイリーン。

 なお、忍の時は一緒に寝てたのに、アイリーンとそうしない理由は、

 忍の時とは明らかに状況が違うからである。

 忍の時は忍とノエルの両方を無傷で手に入れなければ意味は無く、乱暴な手段は取れない。

 腕を落とされたのは事故に当たる。

 忍の腕が無いとノエルを解体できなくなるのだから、完全な相手のミスだろう。

 だが、今回は狙撃、暗殺は無いに等しいと考えても、むしろ殺した方が手っ取り早いのだ。

 だから夜中の襲撃の可能性は極めて高い。

 なお、忍の時の夜中の襲撃は、夜襲でありながら正面からの物であった。

 

「俺は貴方を護る為にここにいます」

 

 状況が状況故にアイリーンの冗談には付き合えない、

 真剣にそう答える。

 

「ん〜〜、凄く残念」

 

 流石に友人達が襲われている事実があり、

 恭也が本気で心配して来てくれているというのは解っているので、

 すぐに引き下がるアイリーン。

 

「でも恭也いつ寝るの?」

 

 当然の疑問、ここでも交代要員がいないのがキツイ。

 

「心配いりませんよ、ちゃんと寝ますから」

 

 できるだけ優しい声で答え、心配を掛けまいとする。

 なお、嘘は言っていない。

 

「そう?

 無茶はしないでね」 

 

 士郎の様にはならないで……と、一瞬アイリーンは言葉に出そうかと思ってしまう。

 でも、今回は爆破なんて事は無いし、少なくとも恭也が死ぬ事は無だろう……

 それに傷を抉るような事になるかもしれないから、言わなかった。

 でも、   

 

「絶対、無茶はしちゃダメだよ?」

 

 アイリーンの知る恭也ならそんな事言うだけ無駄だろう。

 恭也は、大切な人の為なら本当に命を捨てる事になっても護ろうとする。

 アイリーンはそれを知っている……・・

 だから、少し怖かった…… 

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 そう答える恭也は、やっぱり嘘吐きなのだろう……

   

 

 

 

「はじめまして」

 

 幼いフィアッセの隣に立っている子に手を握手を求められた。

 フィアッセにでも教えてもらったのか、慣れない日本語で。

 

「はじめまして。

 不破 恭也です」

 

 握手に応じ、その少女の手を取る。

 少女は明るく微笑み、

 

「わたしの、なまえ、は…………・・

 

 

 

 ピンッ! 

 

 対人トラップが作動した証である、鋼糸が動く。

 

「……」

 

 仮眠から即座に覚醒した恭也は、ベランダに向かう。

 

 

 トンッ!

 

「!……」

 

 無音で近づき、ベランダから侵入しようとしていた不審者の延髄を打って気絶させる。

 恐らく、相手は自分が見つかった事も気付いていないだろう。

 なお、恭也が張った対人トラップは、鋼糸で作った侵入者探知トラップだ。

 流石にマンションで殺傷能力のあるものは使えない。

 

「さっそくか……」

 

 まさか来たその日から来るとは予想外だった。

 自分が来るのが一日遅かったらと怖くなる。

 

 ピッ!

 

 恭也は携帯を取り出して、とある場所にメールを送るり、

 

 ブンッ!

 

 気絶した不審者をそのままベランダから投げ捨てる。

 下にある木に引っかかる様に。

 

 ガサッ ガサガサッ!

 

 見事木で衝撃吸収されながら木に引っかかって落ちる不審者。

 因みにここは4階だが……

 まあ、死にはしてないからいいだろう。

 

 1分ほどで、その近くに車が止まり、不審者を回収する。

 黒服の人が手で軽く挨拶してきたので、恭也もそれに答える。    

 手際よく、十数秒で帰っていく。

 なんか便利でいいな〜などと考えつつも、トラップを仕掛けなおし、

 部屋に戻る恭也。

 

 初日からこれでは、明日からの行動は練り直さないといけない、と考えながら……




 続く