夜空に在るもの
第2話 絡み合う歯車
「―――っ!!」
深夜、八神 はやては飛び起きた。
何か、何かとても悪い事が起きた、そんな気がして。
気付けば息は荒く、汗もかいている。
冷静になって見渡せば、ここは自分の部屋のベッドの上。
床に入った時となんら変わらず、全てがそこに在る。
「どうしたんだ、はやて?」
どうやら隣で寝ていたヴィータを起こしてしまった様だ。
眠そうに目をこすりつつも起き上がる。
「なんでもあれへんよ」
「そう?」
「うん、もう1度寝よう」
時計を見れば時間は深夜の2時。
傍に置いてあったタオルで汗を拭い、再び布団に入る。
そこでふと、机の上の本に目を向けた。
寝る時と変わらずそこにある大切な本を。
(なんやったんやろう?)
悪い予感はまだ完全には消えていない。
だが確かなものが何もなく、それが何だったのかを確かめる術もない。
ヴィータは既に眠っている。
ただの悪い夢だったと思い、はやても眠りについた。
その頃 リビング
「眠ったか?」
「ええ」
シグナムとシャマルははやての部屋の方を見ていた。
シグナムは兎も角、シャマルはこの時間だと部屋で寝ている筈なのに、今は寝巻きですらない。
それに指には光る指輪がある。
「やはり感づかれてしまったわね」
「あれだけの事があったからな」
「仕込んでおいた眠りの魔法が役に立ったわ。
これでヴィータも一緒に朝までは起きない筈よ」
「そうか……嘘に嘘を重ねる。
これだけは慣れないな」
「……そうね」
悲しげにシグナムとシャマルは呟く。
今回は特にそう言う気持ちが強い。
偽りたくないと思える人が相手なのだから。
「さて、今はそんな事を悲嘆に暮れている場合ではないな。
こちらが問題だ」
「そうね」
だが直ぐに真剣な顔に戻り、2人が注目するのはシャマルが手に持つ本。
本当ならはやての部屋の机の上にある筈で、はやてがもう1度寝入る前に確認した筈の本だ。
「様子は?」
「やっと安定してきたわね。
はやてちゃんが眠ったのもあると思うけど」
このタイトルなき本。
本来の持ち主―――いや『主』は八神 はやてだがシグナム達もよく持ち出す本だ。
本の主にして、自分達の主、はやてに無断で。
そして今回この本が思わぬ事態を起こした。
それは良い事か悪い事か―――
「まさか、あの人を取り込むなんてね」
「確か、恭也と言っていたか」
「ええ、不破 恭也さんだそうよ」
あの戦いの最後、突然本が暴走し、結界を破壊してしまう程の力を発した。
幸い外に漏れる事こそなかったが、慌てて回収した時にはもう、あの仮面の襲撃者が本の中へと取り込まれた後だった。
死に瀕していた者が取り込まれたことで、現状命はまだ繋いでいる。
この本の機能の1つを使った仮初の形ではあるが、確かに死という結果の訪れを止めている。
問題は、この機能は決して『癒す』とか『治す』といった機能では無いことだ。
「よりにもよって主はやての思い人だったとはな」
「恋愛の対象というにはまだはやてちゃんは幼いと思うけれど、限りなくそれに近いわね。
聞いた話だと、助けてもらった事があるみたいだし、私達と出会う前まではあんな状況だったもの」
「そして、この男も主はやてを大切に思っていた。
だからこそのあの行動だったのだろうな」
シグナムは男の言葉を思い出す。
アレは確かにはやての事を知らなければ出ない台詞でもあった。
そして、それを考えればより深く心に刺さる言葉だ。
「……戻ったか」
その時、リビングから見える庭に出現する気配があった。
目には見えないその姿が、扉を開けてリビングへと入ってくる。
そうして始めて見えるのは褐色肌の男の姿、ザフィーラの人型の姿だ。
「今戻った」
「ああ、ご苦労だった。
結果は?」
「やはりあの女性は見つからない」
「そうか……」
仮面の襲撃者の内、片方はこの本の中に居る。
しかし、もう1人は解らない。
少なくとも本の中にはおらず、あの状態ではどこかへ移動する事もできないだろうし、そもそも転移魔法の気配はなかった。
尤も、本の暴走時の混乱中までは解らないが、しかし自力では不可能の筈だ。
いったい何処へ消えたのか、それもまた大きな問題だった。
「それと、最後に得た位置情報の方にはコンテナが在った。
中身はデバイスのパーツだ。
それもベルカ式カートリッジシステム対応の物だ。
とりあえずコンテナを少し移動した。
時間を見て運ぼう」
ザフィーラにとっても女性が行方不明というのは大きな問題だが、報告を続ける。
恭也が本の暴走前に念話の発信で残した情報がある。
それはこの街のある場所を示したもので、ザフィーラはそれの調査も行っていたのだ。
「ベルカ式用のデバイスパーツ……
そんな物まで用意していたなんて。
女性の方がミッドチルダの魔導師だった様だけど、それでも容易ではない筈だわ」
ベルカ式の魔法というのは現在では使用者こそ残っているものの、数は激減し、衰退したと言わざるを得ない魔導術式だ。
それ用のデバイスパーツも生産こそされているが、時空管理局でもそんなに数を常備はしていない。
それを恭也はシグナム達に与えるつもりで用意していたと考えて間違いない。
つまりは―――
「彼の言葉からそれは確実だったが、ここまでとはな。
ああ、そうだろう、彼は間違いなく主はやてにとって味方だった。
そして、私達にとっても味方となりえる人だった」
今まであっただろうか。
こんな自分達の味方になりえる人など。
主の味方というのはあっても、自分達にとってもそうなりえる人など居なかった。
それを失った。
いや、まだ死んではいない、いないが生きているとも言えない。
そうしたのは間違いなく自分達だ。
「ところで、本の中に居るには男の方だな?」
「ええ、そうみたいよ。
でもどうして?」
「いや、少し気になってな。
確認がとれているならいい」
ザフィーラは僅かながら違和感を感じていた。
本の位置が女性の側の方に近かったというのは些細な問題で、違和感を感じるには弱い理由の筈だ。
しかし、どちらにしろ事態の深刻さは変わらない。
「覚悟を決めよう。
今までも覚悟していた筈だったが、私も平和ボケが過ぎた様だ」
シグナムの目付きが変わる。
今までも十分に真剣な顔つきであった筈なのに、より鋭く、隙無く。
自分でも言っている通り、得てしまった穏やかな時間に腑抜けていたのだと、そう思える様な変化だった。
恭也達によって齎された変化であり、この変化もまた、良い事か、悪い事か、現時点では断定はできないだろう。
「シャマル、ザフィーラ。
本の完成を急いだのは将たる私の判断で、命令だ。
お前達はそれに従ったに過ぎない」
「シグナム、それって……」
シグナムが突然言い出したそれはある当たり前の事の確認だ。
それは上に立つ者が持つ責務の話。
そして、それが意味する事は―――
「こんなもの、気休めにもならないかもしれない。
だが、それでもやっておこう。
こんな事で済むのならば」
「解ったわ。
私は不破さんを何とかしましょう。
仮初の命でしかない私でどこまでできるか解らないけれど」
シグナム同様にシャマルもここに覚悟する。
結果として自分がどうなるかは同じ事だろうが、それでもやり遂げねば成らない事として心に誓う。
そうだ、本来ならそう言う仕事こそシャマルの望んだ事だったのだから。
「ああ、頼む。
ザフィーラは、最後の役目を頼む」
「解っている」
ザフィーラも今までと変わらない様でいてやはり違う。
今までは実現が難しいと思われ、事実として達成できなかった事だ。
それが実現したら、ザフィーラが下すそれは、2人の役目よりも重いものとなるだろう。
「……ヴィータは、ヴィータだけは残って欲しいものだな」
この場に居る3人の覚悟が決まった後、シグナムは少しだけ今朝までの顔に戻る。
今までも少しは考えた事だが、今までならその意味は悲惨なものにしかならなかった。
だが今は違う。
「そうね、実現できたならばこそ必要よね。
はやてちゃんを、私達の主に償う為、それに今までも―――」
「そうなれば、ヴィータが一番辛いだろう。
一緒に行きたいと望むだろうしな。
しかし、可能なのか?」
「騎士としてはまず無理だろうけど、おそらくは……
不破さんの事もあって同時の処理になるから難しいけど、やってみせるわ」
シャマルの役目は難易度が跳ね上がっている。
だがそれでもシャマルは一切の弱音は吐かず、ただ自分にできる事を計算しつくす。
2人に対する処理の天秤を思い浮かべた時、シグナムはなんとなく恭也という男ならヴィータを優先させるだろうと思えた。
殆ど知らない筈の男なのに、どうしてか間違っているとは思えなかった。
「それは更にあの子には辛いだろう。
それに全てを押し付けて行く形にもなるが」
「それでも、主はやてとなら、まだ希望はあるだろう。
これもまた他力本願となるが、恭也という味方もいる。
……この場にヴィータが居なくて良かった。
やるべき事は変わらない。
それが実現できるかも解らないが―――」
「解ってる、あの子に覚られる事はないわ。
だってあの子だもの」
「そうだな」
基本的に騎士としてヴィータを子供扱いはしないつもりでいた。
だがそれでもヴィータは精神的に幼い部分を残している。
だからこそ、きっと気付かれずにすむと、シグナムとシャマルは考えている。
ザフィーラは何も言わないが、否定もしない。
ここから始まる。
戦いはとうに始まってはいても、この時から動きだす。
永かった悲劇の幕に向けての戦いが。
翌朝 高町家リビング
休日のこの日、休日だからこそ忙しい人のいる早朝の高町家で、なのははリビングに居た。
結局昨晩は上手く寝付けず、殆ど眠れないまま朝を迎えた。
皆出かける準備に忙しい中、なのはは特に何をするでもなくソファーに座っている。
そこでは今朝早くやってきた久遠も一緒だ。
「くぅん……」
子供の姿のまま、どこか浮かない顔をしてじっとしている久遠。
実際2人とも何もする事がないのだが、しかしただ座っているのとも違う。
「なのは、久遠も、どうしたの?」
「あ、おねーちゃん。
おにーちゃんから何か連絡とかなかった?」
「恭ちゃんから? 特に無いけど」
様子のおかしい2人を気遣った美由希になのはは兄の事を尋ねた。
そう、待っているのだ兄の帰りを、連絡を。
昨晩からずっと気になって仕方が無い。
だが仕事中であることは解っているから、こちらから連絡を入れる訳にもいかない。
「そう……」
やはりただ待つしかない。
なのはでは干渉できない仕事中というのはこれほどもどかしいものかと、今更ながら感じていた。
と、その時だ。
知った気配が近づいてくる。
いや、なのはが感じているのは気配というよりは魔力、つまりは―――
「んん? こんな時間に誰かな」
家のインターホンが鳴る。
それと同時になのはは玄関へ移動した。
玄関に移動して、扉を開ければ門のフェイトの姿が見える。
アルフも一緒だ。
「フェイトちゃん、どうしたの?」
なのはは問う。
ここへ来た理由と―――ここへ来るのに飛行魔法まで使用した理由を。
2人の家から高町家へ来るには徒歩では遠く、車が必要になる。
だが車は近くにとめていないし、何よりなのはが感じた魔力から、飛行魔法を使ったのだと解っている。
人目のある日中に、飛行魔法で移動してくるなどよっぽどの理由がなければならないだろう。
「ごめんなのは。
セレネ来てない? それと、恭也は?」
「セレネさんとおにーちゃん?
来てないし、おにーちゃんは昨日から仕事で出かけてるよ」
「何かあったの?」
ずいぶん慌てた様子のフェイト。
アルフは先程から周囲を警戒している。
ただ警戒するだけでなく、簡単な言語操作系の結界も展開している。
ただ事では無いのは確かだ。
「それが、セレネ昨日の夜から出かけていたみたいで、今朝も姿が見えなくて。
アリサも何処へ行ったから知らないの」
「それって……」
恭也は兎も角、セレネは現在管理局の監視下におかれている。
管理責任はハラオウン家にあり、その一員であるアリサが行き先を知らないというのはあってはならない事だ。
セレネに限って脱走など在り得ないだろうが、しかし行方をくらましたというだけで大問題になる。
そして、セレネがそんな事をする限りは、何らかの大きな理由があるだろう。
家族の管理責任能力を時空管理局から問われてしまう事よりも大切な何かが―――
「リンディさんは?」
「リンディも解らないみたいなの。
恭也との連絡もとれないみたいで、今アースラで広域探知をしてるの。
アリサも街の方に探しに出てる。
でも、そもそもリンディと2人が連絡が取れない事自体が本来在り得ない筈だから……」
リンディと恭也、セレネは召喚の契約を結んでいる。
それは余程空間的にも遠い場所でもない限りは、空間を越えて呼び出せる権限だ。
その為にリンディと2人の間には特別なラインが常時築かれており、使い魔との関係ほどではないにしろ、余程の事がなければ途切れる事はない。
それがありながら連絡が取れないと言う事は、その『余程』の事が発生した事に他ならない。
「フェイト、車が。
ん? あれは月村のところの……」
周囲を警戒していたアルフが接近する車に気付いた。
それは月村家の車で、運転席にもノエルが見える。
この道に入ったと言う事は目的はここ高町家だろう。
ノエルが運転する車と言う事なら、恭也が乗っている事も期待できるのだが―――
「どうしたの、玄関先で」
「何か大切な話?」
とその時、玄関先で話し込んでいるのを心配してか、母桃子とフィアッセ、美由希が顔を出す。
アルフの方で会話内容の外部に漏れてはいけないワードはブロックしてもらっているが、恭也とセレネの行方が知れないと言う部分は聞こえてしまったかもしれない。
だが、それよりも車だ。
やはりと言うか、車は高町家の前で止まる。
ただ、出てきた人物は期待していた人とは違った。
「すずかちゃん?」
後部座席から降りてきたのはすずかだった。
それに車の中には忍の姿も見える。
だが、すずかは車から出てくるのにファリンを待たず、自分で扉を開けていた。
それに、その手に持っているのは―――
「なのはちゃん……
ごめん、ごめんね……」
すずかはなのはの前に駆け寄り、そう言ってただ謝る。
涙を流しながら。
その胸に、八景とセイバーソウルを抱くように持ちながら―――
「―――っ!?」
そのすずかの姿に、フィアッセが大きく揺らいだ。
リミッターであるイヤリングもあるのに一瞬HGSの翼が出てしまう程に。
そして、その力がどう流れたか解らないが、この場の全員の脳裏に映像が浮かぶ。
それは幼い日のフィアッセの姿。
すずかと同じ用に八景を抱いて涙を流している姿で、今のすずかとあまりに重なる姿だ。
フィアッセはその後直ぐに気を失い、その場に倒れこむ。
押し寄せた大きな感情の流れにより、人間に備わるリミッターが働いたのだ。
嘗てなのはの父、高町 士郎を失った悲しみに今のすずかの悲しみが加わり、心の許容を超えてしまったのだろう。
召喚の契約を結んだ者達が連絡が取れなくなるその原因。
最も安易に思いつき、最も可能性が高いのは―――対象者の『死』だ。
「あっ、フィアッセ!」
慌てて抱きとめる美由希。
比較的素早く冷静に行動できたのは、美由希自身すずかの姿に嘗てのフィアッセの姿が重なっていたからというのもあるだろう。
それとフィアッセの様に間違ってすずかの心を直接受けとる様な事もないし、そもそも日頃からの鍛え方も違う。
だが直ぐに手は足りなくなる。
「あっ、かーさん。
ちょっと、晶ー! レンー! ちょっと来てー」
桃子もその場に崩れる。
フィアッセの様に気を失いはしていないが、フィアッセが見せた嘗ての姿もあり、やはり心に受ける衝撃は大きかった。
フィアッセも桃子も繋げてしまった。
すずかのその姿の意味、士郎に続き恭也をも失ったのだと。
「くーちゃん、アルフさん、2人を中にお願いします。
すずかちゃん、話を聞かせて」
「……うん」
なのはは比較的冷静だった。
美由希やフィアッセがショックを受ける原因となったのは、まだなのはが生まれる前だというのもある。
だから、まず話を聞こうという思考に至った。
何があり、今どうなっているのか、それを知る必要がある。
一方その頃
アリサはモイラと共に街中を歩いていた。
セレネと連絡が取れないとリンディから聞いたのはつい1時間程前の事だ。
リンディは昨晩からずっと2人に呼びかけていた様で、一晩で随分やつれた様に見えた。
互いの連絡が取れない、相手に何かあったのだと実感できるのは召喚の契約主ならば尚更の事だから仕方ないかもしれない。
それからフェイトはなのはの下へ、アリサは探索の為に街に出た。
当然何のアテも無い訳では無い。
「……」
アリサは携帯電話を見ながら歩いていた。
もし一般人がその画面を覗き込んでもGPS機能を使っているとしか見えないだろう。
携帯電話からの情報を頼りに道を歩いているのだと。
それはある意味で正しい事だ。
モイラも傍に居ることで危険な行為とも思われないだろう。
「こちらの様です」
「ええ、反応もあったわ」
モイラが何かを見つけ、それとほぼ同時にアリサの持つ携帯電話の画面にも表示が現れる。
2人は周囲に怪しまれない様に路地裏へと入り込んだ。
そこから少し進んでまったく人気の無い場所に辿り着く。
そこには何もない、そう見える。
だが、
「モイラ」
「はい」
フッ!
モイラが手を掲げ、何かをした。
その瞬間空間が少し歪んだ様に見える。
そうして、そこには何時の間にか手甲の様なものが現れる。
いや、最初からそこに在ったのだ、見えなかっただけで。
「やっぱりか」
「損傷が見られます。
戦闘があったものと推測されます」
「そうね」
落ちていた手甲を拾い上げる。
それはセレネのデバイス、ASTVだ。
最初見えなかったのは、一般人から隠す為のデバイスとしての自律機能が働いたものだ。
そして、微弱ではあったが味方への信号も発信していた。
主を失い、ここに在るという情報を。
そう、主たるセレネは居らず、デバイスだけがここにある。
魔導師にとってそれがどういう意味かは今更口に出すまでもなかった。
「……あの馬鹿っ!」
アリサは悔しそうにそう呟き、デバイスを隠してまた歩き出す。
報告と、会議が必要だ。
アリサは努めて冷静に今やるべき事を考えていた。
高町家 リビング
すずかの訪れにより、高町家の朝の様子は一変した。
深く沈んだ雰囲気。
それも仕方の無いことだろう。
すずかからの情報は、恭也の命に関わる事だった。
すずかによれば、昨晩両親と会った帰りに突然周囲から人がいなくなり、ゴーストタウンの様でいて、しかし同じ街の中に迷い込んだ。
何かの音が聞こえたので街の中心部の方へ向かうと、少女がいて、自分の事を『乱入者』と言ったこと。
その直後、直ぐ傍のビルの壁に何かが衝突し、すずかに瓦礫が降り注ぎ、それを恭也によって助けられた。
瓦礫をいくつか斬り払い、しかしそれでは足りずに身体を張って庇ってもらい助かったのだと。
ただそれだけでも恭也は重傷の筈だが、剣らしきものが恭也の胸に突き刺さっていたのを見た。
その後、恭也は八景と首飾りをすずかに託し、すずかはまた突如として普通の世界に戻ってこれたのだ。
すずかはその際気を失ったが、ファリンによって発見された。
忍の鑑定では、すずかの身体と八景に付着していた血は恭也のもので間違いないらしい。
また、すずかが居なくなった時点からファリンから出されていた通信に恭也からの応答がなかった記録を確認すると、相手先である恭也の端末を発見できなかったらしい。
すずかは何かに巻き込まれ、この世界とは違う場所に居て、おそらく恭也はすずかと同時にその世界に入っていたものと推測される。
「同じ様でいて、人のまったくいない街、か」
すずかの言葉を繰り返すなのは。
その世界には心当たりがある。
ジュエルシード事件でも使った結界の中がそれにあたるだろう。
しかし、そのくらいならこちらの技術でも可能で、怪奇現象としても起こりえる事だ。
それだけで魔法が絡んでいるとは断言できない。
「今アリサから連絡があった。
セレネの持ち物が見つかった。
すずかが発見された場所のすぐ近くだ」
話の途中から携帯に連絡が入って席を立っていたアルフが戻ってくる。
その情報はまだ断定できるものではないが、大きく可能性を揺るがすものだ。
恭也だけなら兎も角、セレネまで今回の件に関わっているとなれば、なのは達の知る魔法の世界の絡みである可能性が大きくなる。
「2人は?」
「周囲を捜査したけど見つからないそうだ。
これから徹底的な捜査が掛けられるから、痕跡くらいは見つかるだろうけど」
「少なくとも、遺体が発見された訳じゃない。
すずかちゃんの話なら、自力でそう遠くへはいけない筈」
無事でいる、などと楽観はしない。
少なくとも恭也は致命傷を負っている筈で、セレネもデバイスを放棄している状態だ。
けれど、まだ希望を捨てるには早い、そう考えてなのはは立ち上がる。
「おかーさん、わたしおにーちゃんを探してくる」
フィアッセはまだ気を失っているが、せめて母桃子だけでも元気付けようとここで宣言する。
そんな娘なのはに、桃子は優しく微笑んだ。
「私は大丈夫よ、なのは。
まだ遺体が出た訳でもないのですもの、だから私もまだ諦めない。
なのは、探しに行くのはいいけど、無理はしないでね」
「うん、私には皆がいるから」
「私も手伝います」
「久遠も一緒にいるよ」
「何があっても、なのはもフェイトも死なせはしないさ」
なのはに続き、フェイト、久遠、アルフもここに告げる。
暗くなった空気を吹き飛ばす様に。
そんななのは達に続き、美由希、忍も立ち上がる
「なのは、私も探しに出るよ。
なのは達の方の絡みかもしれないけど、恭ちゃんは少なくともあの事件の調査で出ていたんだから」
「私もこちらで調査を続けるわ。
あの事件の調査協力も受けてるしね」
「うん、一緒に探そう」
「ええ」
美由希も自分にできる事をする。
例え魔法や霊的な現象が相手であれ、美由希がまったくの無力な訳ではない。
むしろ恭也に次ぐ剣士である美由希の力はどこかで必要となる可能性が高い。
忍の科学力も元々事件の調査に協力していたくらい必要とされている力だ。
それにファリンがすずかを探す時、微弱ながらも反応を検知していた事もあり、そこが事件解決の糸口になる可能性も秘めている。
「微力ながら、うちらも手伝うで」
「おう、実力が劣る分は足で稼ぐぜ」
更にレンと晶もここに名乗りを上げる。
もはやこの場から暗い空気は消え去ろうとしていた。
最後は、別室で眠っているフィアッセを除いて後1人。
「なのはちゃん、私……」
「泣かないですずかちゃん。
すずかちゃんは何も悪くないよ。
おにーちゃんだってわたしがきっと見つけてくるから」
「……うん」
すずかは顔にはまだ暗いままだった。
恭也の最後の姿がまだ脳裏から離れないのだ。
アレだけの光景を目の当たりにしたのだから仕方の無いことかもしれない。
これには少し時間がかかるだろう。
「これは、わたしが持っておくね」
話が纏ろうとする中、なのははすずかが持ち帰ったセイバーソウルを手にした。
すずかが恭也より託され、届ける事を頼まれた物だ。
セイバーソウルの中には本来ならジュエルシードNo.]Vがある筈だが、きっと今はないのだとなんとなくなのはは感じていた。
だが、それよりも恭也を見つけた時に渡す為にもこれを持っておくべきだと感じたのだ。
「……なのは、これ、私が持っていいかな?」
フェイトが手にしようとするのは八景。
これもまた恭也に必要なもので、恭也を探すなら持ってゆくべきものだろう。
恭也の物を預かる許可、それをとりあえず最も身近ななのはに確認した。
「おねーちゃん」
「使い方は解る?」
フェイトに許可を求められたなのはは、それを姉美由希に振った。
小太刀であるなら、この中では持つに最も相応しいのは美由希だろう。
だが美由希はフェイトにするのは、ただ持ち歩くだけなら必要のない問いだ。
「はい、恭也に刃物のあつかいは教わっています。
八景そのものは抜いた事はありませんが」
「じゃあいいよ、私はこれ以上小太刀を沢山持っても仕方ないから」
「はい、ではお預かりします」
何を持って美由希がそんな事を確認したのか、フェイトは言葉にはできないが、何かを感じ取った。
そして、覚悟を持って八景を手に取る。
セイバーソウルがその名に示すとおりの存在であるのと並び、それ以前から恭也の半身である存在。
今は預かり、しかし必ず本人に返すのだと、ここに誓う。
「なのはちゃん、フェイトちゃん……」
「大丈夫だよ、すずかちゃん。
待っててね。
わたしも待っているから」
恭也の残した物を受け継ぐ2人を心配そうに見つめるすずか。
そんなすずかになのはは微笑んでそう呼びかけた。
なのはが何を待っているかは、それは言葉にする事はなかった。
八神家 リビング
朝食を終え、食器も片付け終えた朝のリビング。
それはいつも通りの朝の風景と変わらなかった。
テレビからな流れるニュースも特に大きな事件の報道はなく、平和な朝だ。
何かあったかといえば、昨晩1度夜中に妙な夢を見て起きた事くらいだろう。
その後は直ぐに寝つけたし、どんな夢だったかも思い出せないので、さほど気にならない。
後は―――
「ところでシグナム。
今日なにか様子がおかしい様な気がするんやけど、なにかあったん?」
少し気になること。
これも大したことではない。
ただ少しだけシグナムがいつも通りの様で少し違う気がしたのだ。
何がおかしいという訳でもなかったので、尋ねるかどうかも迷ったが、気になっているくらいなら聞けば良いと尋ねる事にした。
「いえ、特には。
ですが、そうですね。
ここへ来てもう2ヶ月が経ったのだと少し考えていました」
「ああ、そうやったね。
もう2ヶ月か、早いもんやね。
う〜ん、1年経ったら何かしたいところやな〜」
シグナムに言われてカレンダーを見てはやても思い出した。
いまやシグナム達が居ることが自然となってしまっているが、これがまだ2ヶ月しか経っていないのだ。
最初は心配もあったが、馴染むのは早く、もう2ヶ月なのか、まだ2ヶ月しか経っていないのか、表現に迷うところでもある。
それを考えてはやては、来年何かしようかと考え付いた。
誕生日というのをシグナム達と祝うのは、ある事情から少し違う気がするが、出会って1周年となる日には何かしたい。
これからもずっと一緒に居られるだろうシグナム達と、出逢えた日を記念としたかった。
「そうですか、楽しみです」
「まだ気が早いやろうけど、ゆっくり考えておくわ」
優しく微笑むシグナムにはやてはますますやる気になる。
まだ気が早いと自分で言いながら、きっと暫くはその事を考えてしまうだろう。
「さて、ザフィーラ散歩に行こか」
「……」
そんな楽しい気分ではやては日課となった散歩に出かける。
シグナム達に見送られ、返って来るこの家で帰りを待っていてくれる。
もう当たり前となりつつあるが、それでもはやてにとってはそう考えられるだけで幸せだった。
はやてを見送ったシグナム、シャマル、ヴィータはリビングに集まっていた。
「とりあえず、昨日あの後からどうなったんだ」
「先ずはその説明からだな」
主を誤魔化す為にも一緒に布団に入って眠っていたヴィータ。
シグナムはヴィータにザフィーラが持ち帰った情報と現在の本の状況について説明した。
「一応まだ死んでねぇってことか。
まったく楽観できねぇけど」
「そうだな」
「てか、もしかしてあの男……えっと、きょうや、だっけ?」
「不破 恭也さん」
「ふわ? この世界の名前はいまいち覚えづらいな。
まあいいや、恭也、か。
恭也ってこの世界の人間なのか?
シグナム苦戦してたよな」
「ああ、それは認めよう。
攻撃能力の程は解らないが、少なくとも私は昨晩の戦闘で勝てる見込みはあの時点ではなかった」
シグナムはあの戦いで武器を破壊され、その間恭也に攻撃を当てる事ができなかったし、その動きを見切る事ができなかった。
その為、勝てる『見込み』はあの時点ではなかった。
武器を破壊され、戦闘力も大きく削がれ、負けたと言ってもいいだろう。
だがだからといってシグナムよりも強いと断言はできない。
負け惜しみの様に聞こえるかもしれないが、あの時点ではシグナムはまだ負けてはいなかった。
「情報を見る限り、多分この世界の人間よ。
後、今見える情報だけだと身体能力の高い一般人にしか見えないのよね。
魔力は少し変わった特性は持っていても、魔導師になるにはあまりに魔力量が少なすぎるわ」
シャマルが言う『一般人』とはあくまで騎士から見たものだ。
それにまだ閲覧できる状態にある情報も少なく解らない事が多い。
「武装や戦術については何か解ったか?」
「戦術とか、まだそこまでの細かいデータは閲覧できないわ。
武装については本人を取り込んでいるから、基本的に一式全て取り込んでいる筈だけど。
でも剣とデバイスらしきペンダントは渡していたのでしょう?」
「ああ、短剣らしきものを2本だったな。
ペンダントはデバイスではあるだろうが、力を感じなかった。
戦闘用デバイスではなく、ミッドチルダの魔導師が一緒に居た事から連絡や翻訳機能がメインだったのかもしれない」
恭也はこの世界の住人であると見てほぼ間違いないだろう。
シグナム達はまだこの世界の全てを知りえた訳ではなく、昨晩の戦いにしてもこの世界の技術である可能性も考えられる。
今後の事を考えてできれば情報が欲しいところだった。
騎士から見れば一見一般人にしか見えなくとも、手ごわい相手であったことには変わりない。
「渡してしまった武装も、本当に必要なものならレプリカが作成されるだろうな、記憶を元に。
戦術もすべて本が恭也を取り込みきり、解析が進めば解る事だ。
けど、本によって情報の解析が進むのも好ましくねぇだろう。
取り込まれたって事は、私達と同じ様に……」
「……そうだな。
十分な戦闘力がある事、私が苦戦を強いられた事を考えてもその可能性は高い」
しかしだからこそ、あそこまで追い込まれた能力と、取り込んだという行為の2つがシグナム達にある事を連想させる。
ある意味そうなれば命の危機は脱するかもしれない。
だがそれでは何れ意味が無くなる。
「なんとかそうなりきる前に対処しないとな」
恭也の負傷についてはヴィータも責任を感じていた。
庇ってもらったというのもあるが、あの場に乱入者が近づいたのはヴィータの存在があったからだ。
乱入者とあのビルの倒壊は運が悪かったとしか言い様がないが、それでもそもそも事件を起こしたのも自分達だ。
「まあ、今ある肉体を破棄はしないと思うが……治せる見込みの薄い重体だからな」
「ええ、残念だけど、今外に出したとしても私が命を取り留める事ができるかは運次第よ」
猶予はあまりないだろう。
どれくらいの時間があるのかは解らないが、時間が経過して良くなる事は無い。
その事もシグナム達の心に圧し掛かる問題となる。
「で、更には土産もあったんだってな」
「ああ、デバイスのパーツが一通り、しかもベルカ式カートリッジシステム搭載デバイス用だ。
カートリッジパーツも多数取り揃えられていた」
「そりゃ助かる。
カートリッジは回収しなくちゃいけなかったからな」
まだ恭也が用意したデバイスのパーツが入ったコンテナは持ってこれていない。
一応この家の地下部分に隠し置く予定で、今日の午後はやてが出かけた後に実施する事になっている。
「それとヴィータ、アレは『戦利品』だからな」
「……ああ、解ってる」
シグナムは恭也の用意した物資を『戦利品』と呼ぶ。
戦いに勝利して得た物だと。
本来そう呼べる物ではない事はシグナムもヴィータも解りきった事だ。
だがそれでも、ヴィータは自分を偽りきれなくともそう呼ばなければならない。
これがどれ程の効果があるか解らないが、やっておく事に越した事はない。
心は偽りきれきれねども、言葉にしておく事で意味を持つ事もある。
「ところで、あの乱入者については何か解ったのか?」
とりあえずヴィータはあの男が本の中で、女は行方不明というのは解った。
あの2人が味方だったかもしれないという事も含めて。
残るはあの事故の切欠となった少女の事だ。
「それについてはまだ何も解っていない」
「ええ、本の方も調べたけど原因は解らないのよ」
「そうか……」
事故が起きた最大の要因はあの少女の乱入と言っていいだろう。
となれば、何故乱入が起きたかははっきりさせておきたかった。
もう2度とあんな事が起こさない為にも。
だが一晩シャマルが調べた限りではその原因は特定できなかった。
結界の構築に問題は無かった様に見えている。
自分達以外は入れない結界としてちゃんと機能していた筈なのだ。
これ以上の調査はその乱入してきた少女を調べないと進みそうになかった。
「その少女についても問題だな」
「すまねぇ、顔は殆ど思い出せない。
というか、暗くてあんまり見えなかったし」
「それは多分相手も同じだろうから大丈夫だろうけど」
もう1つの問題は一般人と思われる者があの戦闘を目撃し、ヴィータの顔を見て外に出た事だ。
それもヴィータは魔力を封じられた状態だった。
騎士甲冑が完全無力化される程ではなかったが、補助としてかけていた認識をずらす魔法は機能していなかったものと思われる。
シグナム達は彼女達の活動をする際、弱いながらも外見を誤魔化す魔法を使っている。
戦闘時の姿を見ても、それだけでは直ぐに普段の姿を見ても同一人物とは思わない程度の効果がある。
潜伏する必要のあった際に使ってきた魔法で、実績もある。
ただ非戦闘時、つまりはその魔法を掛かってい無い時の姿を知っていると見抜かれる可能性が高い。
恭也の場合もその所為だったと考えられる。
非戦闘時に魔法を使わないのは、魔法を使う行為自体が情報を発信しているのと変わらない為だ。
ザフィーラは流石にその世界にいない種の動物の姿である為、最低限それっぽく見える程度の魔法でまた別となる。
一応まったく非戦闘時が完全に素顔かというと、そう言う無い訳ではないのだが、環境適応の延長の様なもので捜査される事になった場合はあまり意味を成さない程度のものだ。
ともあれ、あの時はヴィータは素顔を見られたに等しいだろう。
この世界では、結界の中で魔法による戦闘があった事など話したところで誰も信じないだろうが、どうやら恭也の知り合いらしい。
そうなれば、時空管理局に伝手のある知り合いが居てもおかしくはない。
「そもそもあの女の方は恐らくミッドチルダの魔導師だ。
帰還できていないのならいないで、行方不明になったことで何れは何かあった事は知られてしまう。
その覚悟は必要だ」
「ああ、解ってる。
近いうちに時空管理局とも戦闘になるんだな」
時空管理局は大きな組織だ。
強力ではあっても個人の集まり、それも4人しかいないシグナム達にとっては脅威だ。
例え個人の能力では負ける気がなくとも、組織というのは個人では出来ない事を行う為のものと言ってもいい。
ある理由からこの場所が見つかる事はたとえ時空管理局クラスの組織相手でも考え難いが、それでも今後の活動が難しくなる事になるだろう。
「時空管理局か、ミッドチルダも大きくなったよな」
「そうだな。
組織力という意味では嘗てのベルカでも、もう負けているかもしれないな」
シグナム達は時空管理局の強大さを知っている。
同時に嘗てまだ栄えていたベルカの姿も知っている。
その2つを直接比べる事ができるのは、もしかしたらシグナム達だけかもしれない。
「ともあれ、先ずは女2人か」
「襲撃者、あの仮面の女の方はザフィーラとシャマルで探索する事になっている。
まあ、時間のある時に可能な範囲でとなるが。
少女の方は、恭也の知り合いらしいからその線で調べられない事もないだろうが……」
「危険ね。
顔を見られているのがヴィータだけとはいえ、下手な調査は向こうにも知られる事になるし」
「何より私達にはそんなスキルがねぇ」
「そうだな」
戦闘能力にほぼ特化したシグナムとヴィータ。
守護という意味での能力に特化したザフィーラ、補助としてのシャマル。
一番調査に向いているのはシャマルだろうが、それでも一般社会の人間を探す能力とはまた別の話になる。
調べるとすれば、はやてと同じ病院に通っている筈の恭也から調べがつけられるが、あの病院もセキュリティのレベルは高いし、こちらの世界の能力者まで居る。
スキルの無いシャマルにはとても手は出せそうにない。
「特にヴィータは暗がりではっきりとは見えていないにしろ顔を見られているんだ。
調査には関われないぞ」
「ああ、外出も注意するよ。
けど、それでもやっぱ心配だな。
巻き込んじまったからな」
「……そうだな」
自分達の事が知られる心配も勿論ある。
だがヴィータはそれよりも少女の心を心配していた。
知り合いらしい恭也のあんな姿が最後だ。
ショックを受けている事だけは間違いない。
シグナムはヴィータの少女を心配する表情に少し驚いていた。
やはりヴィータも変わった―――いや戻っているのだろう。
相手を思いやる心は元々持っていて、完全に消えることは無かったが、それでも最近は薄れてきていたのだから。
「ともあれ、最終的にやる事は変わらねぇ。
そうだろ、シグナム」
「ああ、そうだ」
だがやはりヴィータだ。
昨晩一時期闘気が感じられない事があったが、やる気に満ちているヴィータが最も輝いている。
シグナムはそう感じながら、しかしやはり少し悲しかった。
そのやる気の向かう先は―――
けれど同時に考える。
だからこそ、せめて、と。
そして、それと同時に思う事がある。
はやてが出かける前に残した言葉。
それはシグナムが用意していた変化を誤魔化す理由から始まったものだが―――
「1年か……なんとも遠い事だ」
今から見れば10ヶ月先と言う事になる。
だが、どの道シグナムにとっては同じ事。
まるで永劫の彼方かの様に思えた。
その日の昼過ぎ アースラ会議室
なのは達はリンディより召集を受け、アースラの会議室に集まっていた。
議題は言うまでも無い。
行方不明の恭也とセレネについてだ。
「先ず、一応改めて説明しておきます。
私と不破 恭也、セレネ・F・ハラオウンの両名は召喚の契約を結んでおり、それを持ってしても連絡が取れていないのが現状です」
会議の席に座るリンディはやはり少し疲れが見える。
それでもアースラ艦長として、皆のトップとしてその雰囲気を出さない。
疲れが見てとれるというのもリンディを良く知るなのは達だからこそ解る事でしかない。
「召喚の契約を結んだ者同士が連絡を取れなくなる。
これには幾つかの理由が考えられます。
召喚にも距離の制約があり、何らかの理由で遠くへ時空転移させられた可能性。
または時空転移を妨げる『場』に囚われている可能性。
そして最後に、対象者がこちらの呼びかけに応えられない状態という可能性です。
召喚に要請は通常眠っていても通る様になっており、応えられないというのはなんらかの外的圧力による意識不明や昏睡状態という事も考えられます。
それに、対象者の『死』というのも当然考えられます」
淡々と告げる2人の『死』の可能性。
それによってリンディはずっと苦しんでいた筈だが、ここで言葉にする。
自らも現実を受け止める為に。
「一応、その『死』というのは『死』んだのだとラインが生きていれば解る事だ。
どの道、今現在2人は例え遺体の状態であれ召喚契約のラインすら届かない場所に居る事は間違いない」
一応の捕捉としてクロノが付け加える。
クロノもリンディに次いで疲れが見える状態だ。
それでも仕事ができる辺りはやはりこの世界に携わってきた年月が違うのだろう。
「恭也さんが例の事件の調査で出ていたというのはもう皆さんご存知ね」
例の事件。
海鳴市で起きている人が倒れる事件の事だ。
調査の結果、一定範囲内で魔力が抜き取れる事象が起きた事が推測されているが、その方法すら不明という事件。
なのは達を含め、アースラの人間も知っている事件だ。
外部からやってきた魔導師の可能性もある為、情報を収集していた事件でもある。
「セレネはその調査に協力していました。
恭也さんと一緒に『もしも』の時の為についてもらっていたのです」
リンディから与えられる情報。
それはアリサとクロノ以外は初耳となる情報だった。
『もしも』というのは今回の事件が外の世界の魔導師が起こした物だった場合の事だ。
現段階では時空管理局の人間はこの事件には関われないのだ。
だがその点で言えばセレネは時空管理局の人間ではなくなっている。
それを今回は利用した形にしたのだが―――
「これについては私の召喚契約の過信が原因と言えるでしょう。
多少の不測の事態には対応できるものとして遠隔地での活動を許可しました」
責任者としての責任の話。
だがこれはあくまでアースラの艦長としての言葉だ。
本音はまた違う責任がある。
そう、セレネは先のジュエルシード事件を見ても解る通り、大きな何かを背負ってしまう可能性がある。
恭也にしてもそうで、ジュエルシード事件の際はリンディとの共同作業だったが、この2人を2人だけで行動させるのは大きなリスクがあるのは明らかだった。
それでも、召喚契約という手綱があれば大丈夫だと、そう考えてしまっていたのだ。
「続いて現在の調査報告だ」
リンディが責任が自らにあるとした後、なのは達がそれを否定する前にクロノが話を続ける。
今はそんな事を話している時ではないのは参加者全員が解っている事として敢えて飛ばした。
クロノの話が始まると同時にモニターに映し出されるのは文字による情報だった。
「回収されたセレネのデバイスから得られた僅かな情報だ。
記録を見る限り突如結界の中に取り込まれ、戦闘をしたものと解る。
そして最後にセレネの魔力出力に異常が発生し、その中で魔法を強行する為にデバイスをパージした。
また、恭也殿のデバイスを見たが、やはり記録は残っていなかった。
月村 すずか嬢が発見されたという現場付近から結界を展開したものらしき魔力の残滓も見つかっている。
すずか嬢の証言から、最後にすずか嬢を元の世界に戻したのがセレネの最後の魔法だったとも考えられる。
情報はこれだけだが、少なくとも恭也殿とセレネが何者かと戦っていた事だけは確実だろう」
アリサが持ち帰ったセレネのデバイスと、すずかが持ち帰りなのはが持ってきた恭也のデバイスは今メンテナンスルームだ。
セレネのデバイスは戦闘の記録をとる様な機能は無く、セレネ自身の状態を見る方を優先している為、情報が少ない。
恭也のデバイス、セイバーソウルにしろチェーン部分のストレージデバイスの方は元々そう言った機能が無い為情報が無いのだ。
戦闘の記録を詳しくとる様な機能は極めて重くなる為、搭載できない事も多いが2人のデバイスはその中でも特別少ない事が今回災いしている。
尚、すずかと時空管理局は直接の聞き取り調査などは行っていない。
これはあくまでなのは達がすずかから聞いた話を報告したものをそのまま使っているに過ぎない。
すずかにとっては恭也の最後の姿を伝える為の情報だが、これもまた状況の解析に有益な情報なのだが、それでも。
「これらの情報から推測される事がある。
戦闘をした上でセレネは魔法を使うためにデバイスをパージし、その後で行方不明になったと言う事だ。
だがその敵は何故かパージしているのを気付いている筈なのに、デバイスは放置されていた。
デバイスの保護機能はあくまで一般人向けで、この結界を展開した主なら直ぐに見つける事ができた筈だ」
もし敵が自分達の正体を知られたくないのであれば、記録を残している可能性のあるデバイスを見逃す筈がない。
それなのに放置しているのはおかしい。
敵は何故セレネのデバイスを回収しなかったのか、そこに何かあるかもしれないという事だ。
現時点ではその何かはいくつもの推測を挙げる事しかできないが、これは重要な情報になるだろうとクロノは考えていた。
「現在解っているのはここまでだ。
続いて今後の話をしよう。
今回セレネが行方不明になったことで時空管理局としても介入口実ができた事になる。
既にAチーム及びBチームを現地に派遣し、調査する事が決まっている。
ジュエルシード事件の後始末は一時中断しこの事件の解決に臨む」
「我々も協力しよう」
クロノの報告に口を添えた人物が居た。
この会議に入る事を許されたアースラから見れば部外者、グレアムだ。
グレアムとその使い魔2名も今回の会議に出席している。
「これはこちらからの報告になるが、先日発生したここと近い管理外世界での騒動は外部から侵入した者によって起こされた可能性がある。
この事件との関連性については不明だが、セレネ君を行方不明にしてしまえる者が相手となる。
かなりの戦闘力を持っていると見て間違いないだろう」
先日ブリッジでエイミィが気にしていた異世界での出来事。
その調査に出ていたグレアム達だったが、まだその報告は上がっていなかった。
はっきりとした調査結果としてはまだ完成しておらず、しかし関連性が考えられる為今ここで報告したのだろう。
もし同一人物の仕業となればかなり強力な魔獣の住まう星を荒らしたのだから警戒は必要となるという意味で。
「ありがとうございます、グレアム提督。
後ほど細かい話をさせていただきます」
今は人手が欲しいのもあり、リンディはその申し出を受ける事にする。
この場では組織的な行動にグレアムを組み込む話はできない為、今は話は置いておく形となる。
そうして最後に話すのはなのは達の事だ。
「なのは、フェイト、久遠、アルフの4名は、調査協力を願い出てもらったが、現状こちらからの指示は『待機』だ」
「クロノさん、それは……」
「待機といっても、謹慎といっている訳でもない。
今は情報が不足している為、時空管理局の正式な局員でない人を動かす事ができない」
現状恭也、なのは、久遠はあくまで時空管理局の現地協力者だ。
フェイトとアルフは先のジュエルシード事件から時空管理局の管理下にある一般人だ。
ただ、2人の場合はジュエルシード事件の事もあり時空管理局の職務を嘱託される事を受け入れている。
だが一応民間の善意の協力者レベルであり、やはり正式な局員とは数えられず、開示される情報も限られている。
組織としての面倒な部分であるが、これもまた仕方の無い事だ。
しかし、2人共その中でもまた例外且つ特別な位置に居る。
それに、これだけの有能な人員を放置できる状況でもないのだ。
なればどうするか。
「情報は渡すし、探してもらうのもいい。
だが1つ、必ず複数で行動してくれ」
なのはと久遠については特にまだ管理外の世界と言う事になっている世界での現地協力者。
そこでの活動になのは達が介入できない理由はなく、本人達の希望で行動するというのも止めるには理由が必要になる。
ただ、局員との共同の捜査には今のところ組み込めないというだけの話。
面倒な話の中ではあるが、そこはいろいろなんとかできる方法も存在する。
そして、それこそ大人達、クロノ達の領分だ。
「今回、恐らく恭也殿とセレネは2人が揃っていたこうなっている。
本音を言えば家で大人しくしていて欲しいくらいだ」
「解っています。
無理も無茶も、油断もしません」
最後に挟んだクロノの私情。
しかしそれに応える事はできそうにない。
もう置いていかれるだけは耐えられないと、なのはもフェイトも行動を決める。
だが兄達を行方不明にしてしまった相手だ。
慎重さも忘れない。
母を悲しませる事はしないし、兄も見つける。
その覚悟はもうできている。
「ではこれにて今回の会議を解散とします。
各員は行動に移ってください」
「了解」
組織として恭也とセレネの捜索が始まる。
そして、個人としても動き出す。
今回の事件の解決にむけて、それぞれの想いが駆けてゆく。
メンテナンスルーム
会議が終わった後、エイミィはメンテナンスルームに来ていた。
恭也とセレネのデバイスから情報を収集した後、会議中は自動のメンテナンスもしていた。
それを取りに来たのだ。
「終わってるね。
元々問題もなかったけど」
自動メンテナンスの記録を見ながらデバイスを取り出す。
セレネのデバイスは多少の傷こそあったものの、デバイス自体の修復機能で済んだくらいだった。
恭也のデバイスに至っては使われてすらないなかった。
だが今後の事も考え、できる内にとメンテナンスをしておいたのだ。
「それにしても……」
2人のデバイスを手に取りつつ、エイミィは視線は別の方向へと向いた。
この部屋に残る2つのデバイスへ。
「この子達が完成していたら、こんな事にはならなかったのかな?」
ほぼ完成していたが、まだ完璧ではなく持ち出す事もなかったあの2人の新しいデバイス。
飛躍的な戦力アップにはならなくとも、その意味は大きかった筈だ。
だからどうしても思ってしまう。
もしも、と。
それに担い手が行方不明となってしまったデバイスも不憫でならない。
「おっと、私がこんな事をしていても仕方ない。
とりあえず届けに行かないとね」
エイミィが退室し、無人となったメンテナンスルーム。
そこで2つのデバイスはただ静かにそこに佇んでいた。
アースラ 休憩室
会議の終了後、なのは、フェイト、アリサ、久遠、アルフ、モイラの6名は休憩室に来ていた。
そこで行われるのは会議の中ではできなかった話だ。
「まあ、まず無いわね。
セレネはそもそも結界魔法はリンディに次ぐ魔導師よ、取り込まれて連絡を取ることもできませんでした、なんて事は考え難いわ。
セレネも、それに恭也さんも何らかの理由で自ら結界に入ったのよ、リンディにも知られない様に」
アリサは断言に近い言い方で状況を推測する。
先程会議の場での報告は管理局の上への報告にも使われるもので、それに確定情報もないからこその話でしかなかった。
リンディにも報告を上げず勝手に戦闘行為を行ったとあってはセレネ本人は勿論、ハラオウン家全体、フェイトも含めて立場が危うくなる。
おそらく恭也とその辺りの調整もしていたのだろうが、恭也も含めて行方不明ではどうしようもない。
ともあれ、リンディもクロノも、恐らくはグレアムも同じ考えの筈だ。
2人はまだ管理局には報せるべきではない理由を見つけ、戦闘を行い、帰れなくなったのだと。
「そこでおにーちゃんは重傷を負った」
「ええ、セレネも持病がかなり危ない状況だと思うわ」
帰れない理由が管理局に報せるべきではないなんらかの理由によるものなのか、敗北によるものなかは解らない。
しかし少なくと両名は『無事』ではない。
だがまだ希望が無いわけでもない。
「けどおかしいのよね。
もし2人が既に死亡したというのなら、結界を展開した奴等は2人の遺体を回収した事になる。
それなのにセレネのデバイスは放置、すずかも無事だわ」
これは先の会議でも一部話に上がった事だ。
この事があるからこそ、2人がまだ生きているという可能性が見えてくる。
勿論、重傷を負っている事は変わりないので楽観はできない。
因みにすずかに関しては現状管理局側で監視や護衛といった事は行われない事になっている。
下手な介入はそれこそすずかを相手側にも見つけやすくする事にもなりかねないからだ。
取り調べもそれを理由に現在は行う予定もない。
保護と言う意味では久遠やアルフによって見守る事になっている。
「すずかちゃんの事を『乱入者』って言っただろうという件については?」
「結界への乱入。
結界展開と展開と同時にその中への入る物体の選定、その設定次第では意図しない者が入ってしまう事は稀にあるわ。
それを言ったのでしょうけど、わざわざ声に出し呼びかけた意図はまだ解らないわ。
恭也さんによって魔力を封じられ、身動きが取れない状況だったとのもあるでしょうけど、自分の位置を報せる事にもなるし。
その直後にビルが倒壊。
すずかを消そうとしたにしても乱暴すぎるし、味方も巻き込んでいるわ。
事故、というの考えられるわね」
「事故、か」
それによってすずかを助ける為に2人は負傷し、帰れない原因となっていると思われる。
だからといってすずかをどうとは考えないが、それでも納得しきらない部分はある。
戦場は非常な場所だし、全ての戦いに救いがある訳でもない事は解ってはいる、教わっている。
しかし、それでも理論と感情は別だ。
「1つ気になるのがジュエルシードね。
なのは、確かセイバーソウルにはもうジュエルシードはないのよね?」
「うん、なんとなくってだけだけど」
すずかが持ち帰ったセイバーソウルには既にジュエルシードはなかった。
アースラの検査でも元々ジュエルシードの存在は確認できていないので、無くなっているという確証はとれない。
だが同じジュエルシードを持つなのはが無いというのなら、やはり無いと考えるのが妥当だろう。
「ジュエルシードは恭也さんの願いの下、セイバーソウルに組み込まれていたわ。
セイバーソウルは本当に恭也さんの剣の魂である為に。
そのジュエルシードが無くなっているというのは、どういう事かしら」
最悪のケースとして考えるのはやはり恭也の死だろう。
ジュエルシードNo.]Vはあくまで恭也の為に在ったのだ。
恭也が死亡したとなればここに留まる理由はなくなる。
「最も望ましいのはジュエルシードによって恭也さんの命が保たれている事だけど。
恭也さんがそんな事を願うとは考え難いのよね」
「うん、それはわたしもそう思う。
それに、ジュエルシードは今なら願いの真意を理解して行動しそうだし」
「そうだね。
でもなら恭也は何を願ったのだろう」
「そこまでは推測もできないわね」
恭也やセレネの考え方というのは、なのは達は理解できている様でしきれない。
最終的に他者である以上はある程度仕方の無い事だろうが、あの2人はその中でも別格だろ。
話が一通り終わったところで、エイミィがやってきた。
デバイスを届けに来てくれたのだ。
「デバイス持って来たよ。
はい、なのはちゃん」
「ありがとうございます」
「いえいえ。
で、アリサちゃんはこっちね」
「ええ」
その中で、アリサも受け取るものがあった。
プレート方のスタンバイモードを持つデバイス。
それはセレネのデバイスだ。
「恭也のデバイスをなのはが、剣をフェイトが持つなら、私はセレネのデバイスを持つわ」
エイミィから受け取ったそれを大事にしまい、ここに宣言する。
それは自分達で恭也とセレネを見つけようという宣言だ。
アリサは時空管理局の一員として捜査に加わり、なのは達が外部から探す。
恭也とセレネを見つけるならこの形こそ好ましいとアリサは考えていた。
「でも気をつけてね」
「解っているわ」
「気をつけというのが見つけた時にも言える事もね」
「うん、そうだね」
エイミィの言葉に返すアリサ、なのは、フェイト。
「何を考えているのか解らないっていのうが、本当に一番困るよ」
「そうだね」
それにアルフと久遠も続く。
そう、セレネと恭也は何かを隠した上で行方不明になっている。
だからこそ、見つけた時にそれがこの事件の先を見通した上でも良い事なのかは解らない。
だから見つけたとしても慎重に動く必要があるだろう。
(そう言えば、お2人の新しいデバイスはこのまま置いておくべきでしょうか?)
そんな話をしている時、モイラは1人メンテナンスルームのデバイスの事を思い出した。
2人を探し、場合によってはその場でデバイスを返すつもりで持ち歩くのだ。
それなら新しいデバイスも持ち出した方が良いとも考えられる。
だが何故かそうすべきとは思えなかった。
ここにいる誰もが。
メンテナンスルームから帰って来たエイミィも、今その事を思いついたモイラも、何故か持ち出そうとは考えなかった。
その頃 さざなみ寮
何故か力を持つ者や特殊な立場に居る者が集まりやすいこの場所。
その一室、那美の部屋にその力を持つ者が集まっていた。
1人はこの部屋の主である那美、そして前にこの部屋に住んでいた薫、同じ寮に住むリスティ、その妹のフィリス、更に綺堂 さくらだ。
例の事件の捜査関係者でもあり、今はある人を中心とした集まりでもあった。
「なかなかの大事になったわね」
月村邸から来たさくらの言葉は重かった。
さくらは恭也に頼まれ、事件解決の為に裏で動いていた。
前回の会議では場所が警察署であった事もあり、表の世界のそう言った場所に近づく事を避けたかったさくらは参加しなかったが、メンバーには協力者の1人として認識されている。
今回は恭也という仲介がなくなり、情報を持つ者の1人として来ている。
集合場所がここさざなみ寮というのは、集まりやすい場所としてさくらに配慮したものでもあった。
ここならさくらにも縁のある場所なのだ。
「すずかちゃんは大丈夫なんですか?」
「一応落ち着いているわ」
まだ沈んでいるが、なのはに話し、恭也からの預かり物も渡した事で幾分かはマシになっている。
昼食も一応食べていたし、会話もちゃんとできる。
あんな目にあって、恭也も行方不明のままである今、元の様に振舞えと言うのは無理な話だろうから、まだ時間は必要だろう。
「忍さんは?」
「流石に驚いてはいたけど、大凡普段通りだったわ。
ただ、すずかの前だからそうして振舞っていただけかもしれないわね、あの子の心の底は私にも解らないわ。
那美さん、貴方はどうなの?」
「私はもショックはショックですけど、実感が沸かないのもあります。
私は普段通り行動できるつもりです」
すずかの情報は信用するし、恭也の事は心配だ。
だがやはりまだ遺体は出てい無い事もあり、そこまで動揺はしていなかった。
これが遺体が出た場合はどうなるか解らないが、薫も那美は普段通り行動できると判断していた。
「頼もしい事だ」
そんな話を聞いてリスティが笑みを浮かべる。
このメンバーは恭也を中心としている所があるが、現状すずかの情報で崩れている者はいない。
実感が少ないにしても、それでも活動が続けられる事は素晴らしい事だ。
「さて、ではそろそろ本題に入ろうか」
今日この場に集まったのは何も皆の様子を見る為だけではない。
それも必要な事だったが、例の事件の解決こそ目的。
それこそ恭也の行方を知る手段にもなりえるのだから、やはりこれが本題だ。
「恭也は昨晩、那美達が作った予想地点の中の1つに居た。
そして、そこからやや離れた場所ですずかが発見され、その場所は予想地点の1つの近くであり、やはり例の痕跡もあった。
恭也は何故か私達に連絡を展開せず、例の事件の犯人と接触したと考えるべきだろう」
リスティ達は恭也が連絡しなかった理由、そして離れた位置が中心地点なのにその場への到着が間に合った事からも、恭也が春頃になのはと共に抱えていた事に関連するものだとは予想している。
場合によっては自分達は介入すべきではないものだと。
だが今回恭也からそう言った話はまだ貰ってい無いし、この世界に直接関わっている事件だ。
なれば、ここで捜査を中止する事はできない。
自分達のできる事をただ全力でするだけだ。
「今回の事で、更に絞込みができる可能性があります。
それはこちらで検証し、解り次第展開します」
「頼む」
事件発生の予想地点の絞込みは神咲の2人の仕事。
この2人は夜間の実動も行っているので負担は大きいが、今回はこちら側の力を必要とする可能性は高い。
リスティも2人には期待している。
「こちらはすずかが迷い込んだ世界についての調査と、出入りができるかを検証するわ」
「ああ、犯人と接触できるかはそれに掛かっている可能性が高い、頼んだよ」
ファリンが採取したデータとすずかが持っていた携帯電話に記録されたデータと証言。
それらから犯人が居たと思われる空間へ干渉できるかは綺堂と月村で行う事になった。
こちらも神咲の担当に近いイメージだが、綺堂や月村にそれに近い技術が無い訳ではない。
それにデータはファリンやすずかの携帯電話が元である為、解析には忍の力が不可欠となる。
「私の方は神咲の方と被害者のデータ検証と、回復手段を検証しておきます」
「おお、任せるよ」
被害者は今回と前回は無い事になっている。
だが相手はやろうと思えば一般人を動けなくする程度の魔力、霊力を取り上げる事ができるのだ。
それを向けられれば全員が行動不能になりかねない。
元々霊力量が少なく、多少失っても無くても困らない一般人なら兎も角、那美達では活動に大きく支障がでてしまうだろう。
その解決はやはり医療機関関係者であるフィリスの仕事だ。
既に那美の力を合わせた医療技術の開発もしている事もあり、神咲との連携も可能となっている。
「よし、当面の行動は以上だな。
恭也が抜けてしまったが、やる事は変わらず、できる事はいくらでもある。
皆がんばってくれ、こちらもやれる事をやっておく。
では解散」
殆どできる事、している事の確認レベルでの会議となったが、それもまた重要な事。
互いに何ができて、何をしているかを把握する事は組織的に動く事には欠かせない事だ。
そして、皆が纏って動いているという意識も必要な事であり、それを取り纏めているリスティも意識していなければならない。
今は個人で動いている訳では無いことを。
会議の後、リスティはフィリスと車で移動していた。
フィリスは今日も病院での勤務、それを少し抜けてきていたのだ。
それをリスティの運転で送るところだった。
「で、お前は本当に大丈夫なのか?」
「……全く問題ない、と言えば嘘だけど。
それでも大丈夫よ」
リスティは妹であるフィリスを心配していた。
フィリスの恭也への想いは知っている。
だから取り乱す可能性も考えたが、こう静かだと逆に後の反動が怖くもある。
心の支えでもあった恭也が居なくなる事で、フィリスが壊れてしまうのではないかと。
「大丈夫よ。
まだ希望はあるもの。
それに重傷を負っているのならば尚更、私は冷静でいなければならないわ」
「そうだな」
恭也は自身の傷を基本的にフィリスにしか診せていない。
医者としてフィリスを信頼し、信用しているのだ。
生きているのであれば、その傷もフィリスを頼るだろう。
重傷を負ってからの時間を考えれば、ある程度の治療は既に受けているだろうが、聞く限り1度の治療で完治できるものではない筈だ。
「まあ、何かあったら言ってくれ。
たまには姉として働くさ」
「本当に、普段はそんな感じはないものね」
リスティの言葉にフィリスはそう茶化した。
だが運転しているリスティがちらっとフィリスを見れば、フィリスは窓の外を見ていた。
その表情は見えないが、きっと笑っている訳ではない。
「でも、その時は……いろいろ頼るかもしれないわ」
「ああ、頼ってくれよ、たまにならな」
フィリスは恐らく大丈夫だろう。
恭也の遺体でも見つからない限りは。
だがもし最悪の事態として恭也の遺体が出てしまった場合、恭也を失った場合はどうか。
これは那美や忍にも言える事だ。
恭也は下手をすれば自分など必要なかったなどと思っているだろうが、そうではない。
ここ数年、彼はどれ程の人を救い、どれ程心の支えになっているか。
例え恭也本人にその自覚がなくとも、彼女達にとって恭也という存在は大きい。
存在そのものを揺るがす程に。
(頼むぞ恭也、こんなBADENDはごめんだ)
恭也の行こうとしている道を考えればいつかは訪れる事かもしれない。
それでもまだ早い、とリスティは思う。
無理難題だろうが、それでもなお彼女達が幸せでいられる様にしておいて欲しい。
そんな事を願うくらい、リスティは恭也に期待しているのだ。
妹達の心を救ってくれた人、自分にはできなかった事をした人なのだから。
次の日の夜 某所
海鳴の街の上空、今日もシグナム達は本を片手に蒐集作業を行う。
恭也からデバイスパーツを得た事でデバイスの修理も行え、シグナムも問題なく出る事ができる。
恭也が用意した物資には、簡単ながらデバイスを修理する為の機器まで在った為、今後の戦闘もデバイスの損傷も殆ど気にしなくて済むだろう。
(ところで、まだこの街で蒐集を続けるの?)
移動中、シャマルが接触による念話で問いかけてきた。
間違っても拾われてはならない会話内容だけに、そうした手段を使う。
(ああ。
まだ見つかっていないからな、ジュエルシードに関する情報が)
シグナム達がこの街での蒐集を拘る理由はそこにある。
シグナムがこの街で活動を開始したのは2ヶ月程前だ。
その時、ある方法で蒐集していた情報の中に、ジュエルシードの残滓があった。
この街でジュエルシードが活動していた事を示すものだ。
ジュエルシードの悪名は嘗てのベルカでも響き渡り、問題となっていた。
しかし、この街はそのジュエルシードが活動していたのに、被害らしい被害が見当たらない。
どの程度の数だったかはわからないが、ジュエルシードに打ち勝った可能性があるのだ。
その情報はシグナム達にとっては是非とも欲しいものだった。
(上手くすれば根本的解決に繋がるし、甘えた話になるが、ここでの活動が失敗しても次に有益な情報となるかもしれない。
危険は承知だが、それ以上の価値があるだろう)
(そうね、あのジュエルシードですものね)
この話も既にされている話で、この街での蒐集活動は最優先に近い位置にある。
ただ、時空管理局が動き出した可能性と、この世界の警察機構も動いてしまっている。
恭也がこちらの手にある為、行方不明扱いとなっている筈で、捜査のレベルは上がっている可能性が高い。
シグナム達から見ても決して油断できないこの世界の警察機構だ。
危険の度合いは嘗ての話し合いの時よりも大きく跳ね上がっているだろう。
だがそれでも尚ジュエルシードの情報の価値の方が大きいのだ。
もし、本当にジュエルシードに打ち勝ったのだとしたら、それはもしかしたら―――
(さて、ここだな)
(ええ、私は下に降りて展開するわ、本をお願い)
(ああ)
住宅街の外れに来た所で2人は止まり、シャマルは地上へ降りる。
シグナムは周囲の警戒と蒐集の準備の為にここに残る。
程なく大規模な魔方陣が展開し、この街の一部の裏の世界を作り上げる。
シグナム達が居るのはその裏の世界。
表はからは見えず、しかし表へ干渉できる場所だ。
「さて……」
結界を展開し終えた。
前回の恭也の様な事もなく、今回結界の展開には全く問題は無い。
一呼吸置いた後、蒐集作業に入ろうとした。
その時だった。
ガキンッ!
音にならない感触が結界に響く。
この世界が、別の世界によって捕らわれた。
「むっ!」
結界展開の際、周囲に魔導師は居なかった筈だ。
それは確かだった。
いくらシグナムに索敵能力が高くなかったとしても、それが解らぬ様ならこんな活動はできない。
しかし、明確な敵意をもってこの世界が干渉を受けている。
恭也の時の様な異質さはなく、むしろこれが本来のやり方。
シグナムも何度となく経験のある結界に対する進行手段だ。
フッ!
程なく、この世界に入ってくる者が居る。
シグナムとは10m程はなれた位置に出現したのは青年。
時空管理局の制服を着た魔導師だった。
「どうもー、時空管理局です、こんばんはー」
一見ふざけた様子のその青年。
しかし、それでいて隙らしい隙はなかった。
そうした上で、自らが本当に時空管理局の人間である事を示す階級章をここに示した。
「いやー、2日目で見つかるとは、運がいいわ。
これも日頃の行いかね。
ああ、それはそうと、そこの貴方、こんな仮面を被った2人を知らない?」
青年が魔法で浮かべた立体映像の仮面は、間違いなく恭也ともう1人の女性の被っていた仮面だった。
やはりというか、当然というかあの2人は時空管理局と繋がりがあったのだ。
そして、こんなにも早くシグナム達は時空管理局に見つかってしまった事になる。
「まあ、知っていようがいまいが、不法侵入で逮捕するけどね。
おたくら、ベルカの魔導師だろう?
『騎士』かどうかは知らないけど」
先程からふざけた風であって隙のない青年。
しかし同時に感情が昂ぶっているのも解る。
シグナム達を犯人だと確信した上で、何か強く思うところがあるのだろう。
恭也達はこの者達にとっても大切な存在だった事が解る。
「ああ、逃げようとは思うなよ、4人で展開している強化結界だからな」
「逃げはせんよ。
それと、そんな仮面の男女など知らん」
「男女って知ってんじゃねぇかよっ!!」
シグナムの答えに青年はついに怒りを顕わにした。
だが突っ込んでくる様な愚もせず、隙も相変らず無い。
シグナムから見てもかなりの実力者だ。
しかし、そんな実力者にも隙が生まれる瞬間がある。
「ん? アンタ、どっかで見た事が……どっかで指名手配でもされて―――」
シグナムの顔を見ていた青年の顔が一瞬青ざめる。
知っているのだ、この顔を、シグナムを。
それが誰で、どんな存在かを。
「行くぞ」
シグナムは静かに剣を抜いた。
フッ!
そして一気に距離を詰め、剣を振り下ろす。
実に単純な一撃だ。
だが動揺していた青年は対応が遅れる。
いや、動揺からの回復と対応は十分に早いと言えるが、それでも間に合わない。
ガキィンッ!
防御の為に構えた杖、ミッドチルダではオーソドックスな杖型のストレージデバイスの柄が切り裂かれる。
いくら咄嗟で、対応が遅れたとは言え防御の為に魔力を展開していた杖の柄がまる小枝でも切るかの様に切り裂かれた。
だが青年の眼は破壊された自らのデバイスに向かっていない。
あくまでシグナムを見ている。
「お前は、ヴォルケンリッターの―――」
青年のその感情はなんだろうか。
普通に考えれば『恐怖』というものだろう。
だが、それが解る前に更に動きがある。
ズバッ!
「ぐあっ!!」
青年の胸から手が生える。
シャマルの手だ。
地上から魔法を使い、青年のリンカーコアをここに摘出する。
その衝撃も加わり、青年は2つに切り裂かれた杖を落としてしまう。
杖は結界の中の街に消える。
「知っているなら話が早い。
お前のも、頂いておこう」
冷たい眼でそう宣言したシグナムは本を掲げる。
そして始まるのは蒐集。
外で4人で展開している強化結界をも無視し、予定通りの蒐集と、更に目の前の青年のリンカーコアからも蒐集する。
予定通り行われる蒐集は蒐集される側から気付かれる事のないだろうが、青年に対しては違う。
リンカーコアから直接ある物と一緒に魔力を吸い上げる。
本来の在り方とは大きくかけはなれたコレだが、相手を行動不能にまで陥れるのが利点の1つと言えるかもしれない。
シグナム達の戦い方は相手を殺さない様にするのが難しいものだから。
「ぐおおおおおおっ!!」
リンカーコアから直接魔力を吸い上げられる事に苦しむ青年。
本来蒐集はそこまで苦しみを与えないが、抵抗すれば別の話。
青年は知っている筈なのに、抵抗を試みているのだ。
それは本能的なものでしているのか、それとも―――
バッ!
青年が動いた。
この状況下で動き、自らの胸から生えるシャマルの手を掴む。
それは先日のあの女性と同じだが、しかしその手に力はなく、シャマルでも容易に振りほどけるだろう。
だがこの状況下でそれを行い、更には青年の眼がシグナムを睨んでいる。
それはシグナムの経験でも非常に稀な事だった。
更に反対の手でジャケットの背から何かを取り出した。
「むっ!?」
大きい筒状のものと、小さな筒状の物体。
その大きい筒状の物体にシグナムは警戒した。
大きな魔力を感じる。
自分達が使うカートリッジシステムのカートリッジと同じ様なものだった。
それはアースラで恭也達のデバイスを作る為に取り寄せたベルカ式カートリッジシステム搭載デバイスのパーツの余りでエイミィが作った物。
お遊びで作ったものとはいえ、こちらの世界でいえば手榴弾程度の魔力爆発が起こせる事から、許可をもって持って歩いていた物だ。
この状況、この距離なら、自らの命と引き換えに相手に一矢報いる事ができるだろう。
しかし―――
「……」
青年はその大きな筒を手放した。
落としたのでは無い、手放したのだ。
その代わり、小さい方の筒をここに放った。
カッ!
それは閃光弾、いや信号弾だった。
その直後、外に展開していた強化結界は消え、魔導師の気配が離れるのが解る。
どうやら撤退の合図だった様だ。
自分を置いて逃げろと仲間に命じたのだ。
生きてこの情報を他の仲間に伝える為に。
それだけでも見事と言える。
「お前達だったとはな……よりにもよってお前達に元隊長がっ!」
青年の目はまだ死んでいなかった。
リンカーコアを摘出され、直接魔力を吸い上げられているこの状況下で、尚目は真っ直ぐにシグナムを見ている。
青年の言う『元隊長』というはおそらく女性の方だろう。
なぜ『元』かは少し気になるところだが、どちらにしろ上司以上に大切な人だった事は解る。
それがこの青年をここまでかき立てたのだと解ったが、なおも青年の言葉は続いた。
「だが……なればこそ、俺達はここでは戦わない!
あの人の指揮下で、あの人と共に今度こそ必ず―――必ず俺の仲間がお前達を止めるからなっ!!」
自分は最早数えず、それでも仲間を信頼し最後に言葉を残した青年。
先程魔力の爆弾を取り出しておいて捨てたのはその意思表示だったのだ。
攻撃の手段はあるが、だがしないと。
自らの命が惜しいのではなく、戦力上ここで自らが消える代わりにダメージを与える事が有効だと解った上で尚行わないのだ。
青年は魔力の大部分を失い、気を失うまでシャマルの手を離す事も、シグナムを睨む事も止めなかった。
いや、気を失って尚目を見開き、シグナムを見据え、シャマルの手を掴んだままだった。
「……お前達の邪魔がなければもっと早く終わるかもしれんがな」
終わった後、シグナムは近くのビルの屋上に気絶した青年のを置き、そんな事を呟いた。
そして、撤退の為に結界を解除しようとした。
その時だ。
バッ!
気配を感じ、その場から大きく後退したシグナム。
その次の瞬間には倒れていた青年の姿はなく、遠くに飛び去る影が見えるだけだった。
どうやら撤退した筈の仲間がこの隙を待ち、回収していったのだろう。
最後に情報攪乱の閃光弾を放ち、今度こそ時空管理局の魔導師は撤退した。
「……今度は苦労しそうだな」
「そうね」
シャマルと合流し、時空管理局の魔導師が撤退していった方向を見る。
もとより一筋縄ではいかない時空管理局だ。
その中でも、かなりの実力と意思を持つ者達が敵となった。
だがそれでもシグナムの心は揺るがない。
やるべき事は変わりなく、進むべき道も変わりない。
どんな敵が相手でも、関係などないのだ。
その時、シグナムが持っていた本のページの1つに反応があった。
その反応は小さく、短かい事もあって、シグナムもシャマルも気づく事はなかった。
しかし、確かに本に何かが追記されたのだ。
その頃 某所
そこは小さな研究施設の様な場所だった。
用途不明の機器と薬品の並ぶ場所。
その中心に大きなシリンダーがある。
不思議な液体によって満たされたその中に、人の姿が見える。
身体に多数の傷がある女性だ。
「どうしてこんな事に……」
そのシリンダーの前にも人影がある。
暗い室内で姿は確認できないが、声は女性のものだった。
「こんな事にならない為に動いてきたのに……」
悲しげに目の前のシリンダーの中に浮かぶ女性の姿を見ていた。
涙を流し、シリンダーに手を添えて。
「このまま、この中に居れば貴方は死ぬ事はない。
けど、それだけ。
ごめんね、ちゃんとした治療をしてあげたいけど、まだここを知られる訳にはいかない」
少なくともこの中なら女性の問題が進行する事もなく、命は繋いでゆけるだろう。
それはきっとこの女性の望まぬ事ではあるだろうが、それでも今までしてきた事が全て無駄にする訳にもいかなかった。
女性は決心した瞳でシリンダーから手を離し、その場を後にした。
女性の居なくなったこの場所には、ただシリンダーの中の女性の命を繋ぐ為に動き続ける機械の音だけが響く。
暗い室内。
だが、そこへ一筋の光が降りてきた。
それは杖と、種の様な形をしていた―――
後書き
と言う訳で2話をお送りしました。
いやー、話殆ど進んでませんけどね。
最後の方に出てきたオリジナルキャラクター、雑兵Aとかの位置で、訓練時はやられ役の彼等です。
しかし、出した限りは有効活用するし、ある程度話に絡める所存です。
とはいえ、核心部には基本的に絡みませんけどね、物語の裏側では当然いろいろやる担当ですけど。
さて、2話となってシリアスシーンしかありませんね〜
いやぁ、物語の構成上ギャグを挟める場所がほぼないんですよね、自分で作っといてどうかと思ったりしちゃいますが。
重苦しい展開が続くんで予めご了承ください。
管理人のコメント
母を悲しませる事はしないし兄も見つける、「両方」やらなきゃいけないのが魔王少女の辛いところですね、わかります。
子供陣営もしっかり頑張ってますが、やはり目を引くのはとらハ勢でしょうか。
原作では(仕方ないとは言え)大人が目立ってませんでしたから、活躍してくれると新鮮で良いですね。
蒐集された方々の回復方法をフィリスが気にしている描写がありましたが、フィアッセやアイリーンらソングスクール関係者の歌を聴かせたらどうでしょう?
マクロス7的な意味でスピリチアドリーム=リンカーコア内での魔力無限循環とか……。
最後に出た雑兵A君は、あの激し方から見て、クロノと同様の身の上だったりするんでしょうかねぇ。
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