闇の中のコタエ

第8話 選んだ道の上で

 

 

 

 

 

 遠見市のとあるアパート

 

 真夜中のアパートの廊下。

 ある部屋の前に立つ人影があった。

 

 部屋の表札には『フィアッセ』『アイリーン』とある。

 

 ピンポーン

 

 来客を告げるチャイムが鳴る。

 だが、このアパートは玄関にオートロックの扉が備え付けられており、来客があるならばまずそこからの連絡がある筈なのだ。

 

「はいはい、どちらさまですか?」

 

 部屋の住人の1人であるアイリーンは慎重にインターホンに出た。

 一応宅配便などの場合、マンションの玄関口からの連絡が無い場合があるのだが、時間が時間なのでそれは在り得ない。

 ならば一体誰が。

 更に、チャイムが鳴ったのに、部屋の玄関に備え付けられているカメラにはその姿が見えない。

 

「どうしたのアイリーン」

 

「あ、フィアッセ、人が来たみたいなんだけど……」

 

 もう1人の住人であるフィアッセが様子を見に出てくる。

 フィアッセへはアイリーンの言葉と手振りから大体の事情は伝わった様だ。

 

「う〜ん、人は居るわね……」

 

 少しだけ力を解放するフィアッセ。

 普段なら滅多な事では使わないHGSの能力を。

 

「私が出るわ」

 

「OK」

 

 放っておく訳にもいかず、能力を開放したフィアッセを先頭に慎重な足取りで玄関に向かう。

 チェーンも掛けた上で、HGS能力でシールドも展開しながらゆっくりと扉を開ける。

 フィアッセのHGS能力は戦闘の為の訓練をしていないが、そこいらの暴漢程度なら軽くあしらえるだろう。

 逆にプロであるならば、今から恭也達を呼んでも間に合うまい。

 そう考えての行動だった。

 

「どちら様……」

 

 そうして扉を開けた先、そこには人が立っていた。

 長身の黒い人影。

 家の中からの光に照らされ、現したその姿は……

 

「恭也!」

 

「え? 恭也?」

 

 そこに立っていたのは不破 恭也だった。

 虚ろな瞳でただ直立するその姿は、この夜の闇に溶けて消えてしまいそうな気がした。

 

「恭也、どうしたの? 恭也っ!」

 

「……ん? ああ、フィアッセ。

 む……俺はどうしてここに……」

 

 フィアッセの呼びかけで、恭也の瞳に色が戻る。

 だが、恭也は自分がどうしてここに居るのか、どうやって来たのかが解らない。

 

「……兎に角入って」

 

「ああ」

 

 フィアッセは恭也を引っ張って強引に家に上げる。

 どうあっても恭也をこのまま帰してはいけないと感じたのだ。

 

「なにかあったの?」

 

 ソファーに座らせて真正面に立って尋ねるフィアッセ。

 今恭也が何をしているかを知っているから、そんな事は聞くべきではないのだろうが、しかし今の恭也はどう考えても普通ではない。

 恭也を大切に想うフィアッセとしては聞かずにはいられない。

 

「いや、特になにも」

 

 だが、恭也は答えない。

 いや、事実恭也としては特別な事があった訳ではないかもしれない。

 しかし―――

 

「じゃあ、どうしたの?」

 

 見たところ外傷は無く、疲れているかもしれないが、衰弱している程ではない。

 外見上は恭也ならばどうと言う事は無い状態だと考えられる。

 だが、それなのに何故かフィアッセには今の恭也は危ういと思えてしまう。

 この家の光の下に居ても尚闇に溶けて消えてしまうのではないかという不安が消えないのだ。

 

「ああ、何でかな。

 多分フィアッセ達の顔が見たくなったんだと思うが」

 

 恭也はどういう訳か意識が朦朧としているものと思われる。

 普段口にしないだろう台詞までこうして言葉にしている。

 その内容は2人にとって嬉しいものであるが、しかし逆に心配でもあった。

 

「OK、そんなに私の歌が恋しいのね?

 じゃあ歌ってあげる」

 

「そうね、今日も私達のステージを聞いていきなさい」

 

 ならば、と2人は歌う。

 それはこの状況に対しふざけている訳ではなく、フィアッセとアイリーンにとって歌というものは己そのものと言ってよいレベルのもの。

 故に、今の状態の恭也に何かできる事があるとすればそれはきっと―――

 

「ありがとう……」

 

 魂まで染み渡る2人の歌に、恭也は最後にそう告げて、眠りについた。

 

 

 

 

 

 翌朝 フィアッセとアイリーンの部屋

 

 朝日が差すリビング。

 ソファーで眠る2人の女性と1人の男。

 

(破損修復完了)

 

「む……」

 

 頭にだけに響く声に目を覚ました男、恭也。

 周囲を見回して状況を確認、及び眠る前の記憶を引き出す。

 

「ふむ……」

 

 昨晩、フェイトが封印したジュエルシードを強奪し、初めてジュエルシードの力を使った事は覚えている。

 最後に力を見せ付けるようにして去った事も。

 だがその後だ。

 その後、記憶がこの部屋の玄関先に飛んでしまう。

 そこまで移動した記憶がなく、どうしてここに来たのかも良く思い出せない。

 

 と、その時だ。

 

『おはようございます。

 お加減はいかがですか?』

 

『はい、おはようございます。

 特に問題は無いと思います。

 昨晩の戦いの後の記憶が曖昧な事以外は』

 

『そうですか』

 

 デバイスの中からの声、リンディの声だ。

 リンディなら昨晩の戦いの後から今に至るまでの経緯を知っている筈だ。

 そして、恭也が昨晩の戦い以降の記憶が曖昧だという事を予測していた様子でもある。

 

『とりあえず移動を。

 説明はそこで』

 

『ええ、でもその前に』

 

 昨晩迷惑を掛けただろうフィアッセとアイリーン。

 恭也の記憶が正しければフィアッセは今日も翠屋で、アイリーンは午後からレコーディングがあった筈。

 時間はまだ5時だから2人とも十分間に合う筈だ。

 

「とりあえず朝食の準備をするか」

 

 2人が何時に眠ったかは知らないが、起こさなければならないだろう。

 フィアッセがここを出るぎりぎりの時間は解るので、それまでは恭也でできうる限りの事をしておく。

 

 

 

 

 

 それから3時間後 隠れ家

 

 朝食の準備だけしてフィアッセとアイリーンを起こしてすぐ移動した恭也。

 フィアッセとアイリーンは何か言いたそうではあったが、礼だけ述べて直ぐにフィアッセ達の部屋を出た。

 恭也にはやる事があるし、どの道フィアッセ達が聞きたいだろう内容は話せる事ではない。

 

「で、昨晩の戦いで使用したジュエルシードの力ですが」

 

「まあ、アレが問題だったのでしょうね」

 

「ええ」

 

 隠れ家に着いた2人は早速リビングで会議を行う。

 昨晩の戦いで使用したジュエルシードの力とその影響についてだ。

 

 尚、今日もまた管理人は不在。

 今後の事を考えると呼び戻さなければならないだろう。

 後で連絡を入れる事を決める。

 

 それは兎も角。

 

「昨晩の戦いでは、『見えない』という力と、力を『示す』という指示を出しました。

 その効果としては、強力で即効のステルスと、擬似的な力の具現となり、大凡制御には成功と言える結果でした」

 

「はい、上手く行ったと思います」

 

 ほとんど実験無しの理論上での使用方法を実戦でやったのだ、危険な賭けに近かった。

 だが成果としては上々で、目的は果たせた。

 なのは達には完全に敵対意識を持たせる事ができたし、恭也達の危険性も認識させられただろう。

 

「力の代償は私と恭也さんの魔力で、代償の供給も成功しました。

 ですが、やはり指示が適切ではなかったのかもしれません。

 恭也さんはステルスという範囲を越え、消えかけてしまいましたし、力を示すのに私達の力を大量に消費しました」

 

「そうですね」

 

 恭也はここに到着するまでの間で、自分なりに昨晩の戦いから今にかけての自分自身を解析していた。

 その結果、『見えない』という力を使った以後から、自分の存在は薄れ、更に力を示す為に膨大な力を消費した事がそれに追い討ちを掛けた事が解った。

 それは恭也が指示した『見えない』というものには、恭也の中で『闇に溶ける様な』というイメージが加わったからだと推測される。

 その為、肉体的にも精神的にも疲労損傷は無い筈なのに、大量の『自分自身』というものが闇と一体化する、溶けてしまう、という表現できる事象が発生したのだ。

 これがジュエルシードを制御して尚出てしまった代償であり、ジュエルシードの大きすぎる力の証だ。

 

「とりあえず、この一晩で回復はしたと思います。

 私の方は魔力を消費しただけでしたので問題ないのですが、恭也さんはそうはいきません。

 シンクロしているのが幸いして、私も貴方そのものを復元するのを手伝えたので良いのですが……

 たしか神咲さんでしたね、あの方々の診察を受けてくださいね」

 

「ええ、解りました」

 

 消えかけた『自分自身』、その回復は自分でその存在を思い出す事で成された。

 消えた時と同じようにジュエルシードを使い、自分はここに在ると意識する事で。

 はっきり言ってどう『消えて』、どう『復元した』のかリンディですら理解可能の範囲を超える現象であった。

 ともかく、『消える』という危機を回避する為に無意識で行っていた『復元』、その為昨晩フィアッセ達の前では半分意識が飛んでいる様な状態だったのだ。

 そして、消えるのは簡単でも復元は慎重に行わなければならなかった上に、代償とする魔力も少なかったので即効とはいかなかった。

 だがそこで、フィアッセ達の歌を聞いていた事で復元が加速された。

 この事件の間、1度2人の歌を聴き、やるべき事を再認識していたのが大きかったのだろう。

 いや、なによりも恭也にとって2人は特別な存在である為、自分と言う認識を強く持つ事ができたのだ。

 

「兎も角これでデータは取れました。

 効果を絞れば次はもっと実用的に制御できます」

 

 危険な賭けであったし、事実危険だった。

 だが、それだけで終わらないのが時空管理局提督リンディ・ハラオウン。

 僅か3回の発動だけで、完璧とはいかなくとも制御する算段を立てていた。

 

「そうですか。

 ではとりあえず俺の方で使うのは『デスカウント』と『闇の力』に絞りましょう。

 『デスカウント』の方は一瞬俺を視認できなくなればそれだけの効果で構いません。

 『闇の力』の方は見せかけられればそれでいいです。

 そうですね、俺の心の闇でも表現してもらえば」

 

 恭也もまた上手く使う方法を考えていた。

 もとより『デスカウント』は神速を魔法の様に見せかける為に用意していた名前であった。

 それを完全に視認できないものにする為に、昨晩は『見えない』という願いを具現してもらったのだ。

 だが、神速のスピードがあれば最初から最後まで『見えない』という効果を維持する必要など無い。元々神速は人間に知覚できない速度が出るのだから。

 ただ、空中で一定以上の距離と複数の方向からの視線が在る場合、流石にその全てから外れる事はできない。

 だから1度注目させ、その上で一瞬だけ視認から外れる様な手段があれば、全員に『消えている』と錯覚させる事が可能だと考えている。

 

 『闇の力』は、なのは達の勇気を試す為だけにあるので、本当に見せかけだけで良い。

 それを行使できる必要はないハリボテ、表面だけの薄いもので構わない。

 

「解りました、その様に調整しておきます」

 

 制御の一部をデバイスで行う為、デバイスの改造を行う事になった。

 ついでに、前回のアースラとの通信で注文しておいた物資を受け取り、元々計画していた改造も平行で行う事となる。

 

 そうなると恭也に手伝える事は無く、恭也は別行動をとる事になった。

 

 

 

 

 

 昼前 翠屋

 

 神咲姉妹の診察を受けたいところであるが、しかし今日は平日である為両者はまだ不在。

 と言う訳で恭也はまず買出しに出る事になった。

 その途中、恭也は翠屋に寄る。

 ここで買うものがあるのと、フィアッセに会う為だ。

 

「いらっしゃいませー。

 って、あ、恭也」

 

「フィアッセ、昼はまだだよな?」

 

 フィアッセが昼休憩に入る時間は知っていたので、恭也はフィアッセを連れ出した。

 

 

 

 それから臨海公園まで移動する2人。

 屋台で適当な物を買い、ベンチで座って食べる事になった。

 

「昨日はすまなかったな」

 

 食事も一段落してから話を切り出したのは恭也からだった。

 

「何があったの?」

 

 恭也が怪我しているのを見るのはまあ、よくある事だと言えてしまう。

 しかし、昨晩の様な弱り方をしているのを見るのは初めてだった。

 膝がダメになった時にも近いものではなったが、しかしそれとは全く異質のものだ。

 

「そうだな、簡単に言うと、ちょっとしたミスで記憶が混乱した状態になっていた、というところか。

 まあ、それもおかげで解決した。

 昨日の事は真面目な意味で忘れて欲しい」

 

 説明できない部分は曖昧に、且つどうとでも取れるように説明する。

 尚、真面目な意味で、とはなのはには言うなという意味である。

 まあ男としては、情けない姿を忘れて欲しいというのも当然あるが。

 

「それはいいけど……」

 

 なのはに内緒なのは良いとする。

 だが、やはり気になってしまう。

 恭也が一体何をしているのかが。

 

「約束はちゃんと覚えてる?」

 

 しかし、やはりこれ以上問い詰める事は無い。

 恭也なら間違った事をしているとは思わないし、この約束―――必ず帰ってくると言う約束が果たされるならばそれで良いのだ。

 例えどんなに傷つき疲れ果てていようと、帰ってきてくれたならば、後は自分達が―――

 

「ああ、大丈夫だ。

 そもそも俺には護るものが多すぎて当分は死んでいる余裕はないさ」

 

「そうだね」

 

 昨晩の事に関してそれ以上話に上る事はなかった。

 後はただ2人で他愛も無い会話をして別れる。

 

 そう、約束の確認ができたならもうそれ以上は必要ない。

 何故なら、そもそも恭也が昨晩フィアッセ達を訪ねたのは、自分の最も長く傍に居る人であり、最大の理解者である人だからだ。

 それは、いかに忍や那美が強い絆を恭也と結んだとしても立ち入れぬ、戻れぬ過去からの積み重ねに因るものだ。

 少なくともその一点に於いて、恭也が他に頼る人は居ない。

 

 

 それから翠屋に戻り、ケーキをいくつか購入した恭也は、その一部をレコーディング中のアイリーンに届けた。

 その時、恭也の話し方とアイリーンのいつもの態度から、危うく雑誌に載りかねなかったのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃 隠れ家

 

『転送完了しました。

 全部無事届きましたか?』

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 隠れ家の2階、通信用の部屋でリンディはエイミィと連絡をとって注文していた部品を受け取っていた。

 インテリジェントデバイスとしては故障しているリンディのシャイニングソウルを修復する為の部品であり、恭也の為のデバイスにするのに必要な部品でもある。

 

『でもどうしてこんなに高性能処理装置を?

 それにこれ……彼女が独自に作ったベルカ式カートリッジシステムの劣化コピーのバッテリーシステムまで』

 

 ベルカ式カートリッジシステム。

 リンディ達が属するミッドチルダとは別の魔法体系、ベルカ式と呼ばれる魔法体系に於いてデバイスに取り付けられるシステムの事である。

 弾丸の様なものに魔力を詰め、それを魔法発動時に使う事で瞬間出力を向上させるシステムである。

 ただ、扱いが難しく、ミッドチルダ式の魔法やデバイスに使うにはあまりに乱暴なシステムである。

 更に弾を用いると言う事は弾切れというリスクを負うことや、瞬間威力を上げた分魔法自体の制御も難しくなる為、今ではベルカ式の魔法体系自体が衰退してしまっている。

 

 だが、現在でも根強い使用者が居る為技術も部品も残っており、そこからある女性によってある応用システムが作られた。

 それがバッテリーシステムである。

 

 その性能としては、一発使い捨ての弾ではなく、常時充填・使用可能な魔力の充電電池の用なシステムである。

 ただ、これはエイミィですら『劣化』と呼ぶように、応用したと言うにはいささか雑な構造の品である。

 瞬間出力も低く、元のカートリッジシステムの利点を悉く無くし、単なる魔力の一時的な入れ物でしかない。

 また、溜めておける魔力量も少ない為、Cクラス以上の魔導師の魔力ならまず必要になる事はないと言われている。

 更には、Dクラスの魔導師であっても、あまりに嵩張るシステムの為、邪魔にしかならないというのが一般的な評価である。

 

 そもそも、魔力を充填するものなら、基本的にどんなデバイスにも装備されている。

 電気部品でいうならコンデンサーと言える、極一時的な出力調整の為の部品で、使い捨てではなく瞬間出力を調整できるシステムだ。

 バッテリーシステムとの違いは、その蓄積容量と蓄積していられる時間が大きく改善されている点だろう。

 どちらかと言えばコンデンサーの改良に近い。

 だが、開発はカートリッジシステムから始まり、あくまでカートリッジシステムを土台にしているので、カートリッジシステムの応用品となる。

 ただし、カートリッジやコンデンサーの様な瞬間出力が得られず、カートリッジシステム程の魔力蓄積時間が得られない。

 どちらにしても、システムとしては劣化でしかなく、使いどころが無いに等しい。

 

 所詮独自で開発したものである為の限界であるが、発展性も無い為研究もされていない。

 現在のところ彼女以外誰も使う人のいない部品である。

 そう、リンカーコアに障害があり、魔力の出力が予測不能のタイミングで瞬間的に下がってしまう彼女の為だけの部品なのだ。

 魔力が普通に出ている時はバッテリーシステムに常に満タンの魔力を溜めておけば、それで大体の事は一応乗り切れるからだ。

 カートリッジシステムを元にしたのは、デバイスに装備できるもので他に相応しい物がなかったからだ。

 

『これまさか全部は使いませんよね?

 処理装置にしても、このバッテリーシステムにしても、全部積んだ記憶媒体としてのキャパシティが殆ど残りませんよ?』

 

「ええ、解ってるわよ。

 でもそれで良いのよ。

 あ、とりあえずこの通信内容も、転送した部品の記録も消しておいてね」

 

『はい……

 ところで自己修復機能を応用して組み込むんですよね?

 いっそこっちで組んで改めて転送した方がよくないですか?』

 

「ん〜、本当はそうしたいのだけど、流石にそれだとね、いろいろと問題なの」

 

『そうですか』

 

『まったく、姉さん達は2人してまた妙な事ばかり企んで』

 

 その時、通信に割り込んできた者がいる。

 黒い装甲服を着た少年、クロノ・ハラオウンだ。

 今では映像のやり取りもできているので、クロノは今までわざと画面から外れていた様だ。

 

「あら、クロノ、居たの?」

 

『ええ、まあ』

 

 クロノとしては、自分が姿を見せなければ恭也が姿を見せるかもしれないと潜んでいたのだったりする。

 尤もそれ以前に、通信相手によっては姿を出す事ができないので最初は隠れ、且つ黙っている事にしている。

 

『ああそうそう聞いてくださいよリンディ提督。

 クロノ君ったらね、恥ずかしがってアリサちゃんとなのはちゃんと通信してる時に隠れちゃったんですよ』

 

「あらあら」

 

『バッ! 何を言い出すんだ!』

 

 だが、何故相手がアリサだと隠れるのかをエイミィに話していなかった為にそんな事を言われてしまうのは油断というものだろう。

 エイミィの場合、先ほどの通信内容で少し雰囲気が暗かったのを打開したかったという意図がある。

 

「クロノったら、いくらなのはちゃんが可愛いからって。

 手を出したいなら彼とよーーく話し合ってね」

 

『だから違うって!

 艦長、解ってて言うのは止めてください』

 

『え? 解ってて、何が?』

 

『あの2人がいろいろ企んでるんだぞ?』

 

『あ、ああ、そっか……』

 

 最後にエイミィは1人納得し、深く考え込んでしまった。

 そんな先読みをしなければならないクロノを想って。

 

『大変ですね、ハラオウン家の人達は』

 

「ええ。

 でも愛する家族ですから」

 

『まあね』

 

 この場に居ない彼女の事を想う3人。

 最も頼りになりながら、しかし本心を決して語ってくれないかの女性を。

 

『とりあえず、次私は何をします?』

 

「そうね、上手く報告する方法を考えていて頂戴。

 隠蔽工作も必要になる可能性があるから」

 

『了解です』

 

『では艦長、お気をつけて』

 

「ええ、そっちもね」

 

 ひとしきり話あった後は、それぞれやるべき事を成す為に戻る。

 それぞれのできる事、それを最大限に成し遂げ、次へ繋げる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕刻 八束神社

 

 日が沈みかけた空の下、1人の巫女が境内の掃除をしていた。

 そこへ、1人の男が石段を登ってやってくる。

 

「あら、恭也さん、こんにちは。

 あ、もう今晩はでしょうか」

 

「こんばんは、那美さん」

 

 掃除をしていた巫女、神咲 那美は掃除の手を止めやってきた男恭也に歩み寄る。

 電話で連絡があり、姉である神咲 薫と十六夜と共に会うことになっていたのだ。

 この時間なら、久遠はもうなのはと合流に向かっており、なのはは今日も月村家である。

 まず2人がここに来る事は無いと、会う場所をここで指定している。

 

「あ、薫ちゃんも来たみたいですね」

 

 恭也の到着の直後、石段を上がってくる人の気配があった。

 見てみれば、夕日に照らされる中を上がってくる薫の姿があり、その手には霊剣 十六夜が握られている。

 

「薫さん、お呼び立てして申し訳ない」

 

「いや構わないよ。

 で、何の用だい?」

 

 既に那美も居ると言う事で、薫はさっそく本題に入る。

 事を急いている様であるが、しかし恭也からの集まって欲しいと言ってきたのだ、それ相応の用件がある筈なのだ。

 

「はい、用件というのも俺自身の事でして……

 まあ、御2人も十六夜さんも俺と向かい合っても何も感じないのであれば、ある意味来て頂いた事自体が無駄になるかもしれませんが」

 

 思わせぶりな台詞だけを口にする恭也。

 これだけで2人が気付かないのなら、本当にそうなると。

 

「ん? どう言う意味だ?」

 

 薫はまだ気付かない。

 十六夜はまだ剣の中。

 野外であるので出るタイミングを見計らっているのだろうが、恭也を見てはいる筈だ。

 

「恭也さん自身の事で、私達が気付か―――っ!!」

 

 那美が恭也の言葉から内容を推測しようとした時だ。

 気付いてしまった。

 恭也に起きている―――いや、起きていた異変を。

 しかし、那美は我が目を疑うように恭也の両腕を掴み、より傍で確かめようとする。

 

 間違いであった欲しいと想いながら。

 

「那美、どう……っ! なっ! 馬鹿な!」

 

 シュバンッ!

 

「恭也様、そのお身体、まさか!」

 

 薫と十六夜は同時に気付いた様だ。

 十六夜は思わず周囲を確認せずに飛び出してしまうくらいに慌てている。

 

「一応、見立てでは修復は完了しているとの事なんですが、どうでしょうか?」

 

「修復って……」

 

「兎も角、外じゃなんだ……中を使わせてもらうか」

 

 それから、4人は神社の本殿の中へと入る。

 過去巫女のアルバイトをしていた薫にとっても、現在巫女のアルバイトをしている那美にとっても使い慣れた場所であり、恭也にとっても同じ事。

 このメンバーならば使用しても誰も文句もなく、また怪しまれる事もないだろう。

 

「一体何をしたのですか? 魂と精神も1度かなりのダメージを負った様ですね」

 

「霊力攻撃を受けた……というには変だな、まるで身体を失って消えかけの霊の様な、存在そのものが薄れた感じだ」

 

「ええ、でも確かに回復していますね。

 よく見ないと痕跡が見えない程に」

 

 恭也に触れ、魂を感じ取る3人の女性。

 在り得ないと思いながらも現実を受け止め、診察する。

 

「ちょっと概念的ものというか、俺も説明しようのない事がありまして。

 ああ、もう同じ失敗はしませんので、大丈夫だとは思いますが、どうでしょうか?」

 

 恭也がどう、と聞くのは今後の活動に支障があるか、また久遠にバレないか、である。

 既に回復できる限りはしているので、どれ程危険だったかなどという話は聞く必要が無い。

 

「一応、私ができる限りで治療をしておきます。

 もう少し痕跡を薄くできるかもしれません。

 とりあえず久遠には暫く近づかない方がいいかと思います。

 言われないと気付かないとは思いますが……」

 

「ありがとうございます」

 

 那美を始めとし、霊のエキスパート3人の治療を受ける恭也。

 尤も、道具もないので3人の力だけでの治療である。

 が、既にダメージと言えるものは回復しているので、それでも十分なものであった。

 

「恭也さん、今後もまさかこんな傷を負うのですか?」

 

 そんな中、流石に心配なのだろう、那美が尋ねてくる。

 フィアッセ達では『感じがする』程度にしか解らなくとも、那美達には解るのだ。

 昨晩、恭也の精神と魂がどれ程危機的な状態だったかを。

 今こうして存在するのが奇跡のレベルであり、事実リンディがいなければ消えてしまうのがむしろ自然だった。

 

 肉体のダメージならまだ治療のしようがある。

 しかし、魂のダメージは―――それこそ、転生すら不可能になってしまいかねないのだ。

 

「大丈夫です、2度もこんな事はありません。

 本当にちょっとしたミスですから、俺自身が起こそうと思わない限りは2度と起き得ないですよ」

 

「そうですか」

 

 恭也の応えにも、直ぐには笑顔を戻してはくれない。

 それは薫と十六夜も同じ様だ。

 こればかりは、あまりに大きすぎる事態として。

 例え、2度と起きない事であったとしても。

 

 

 その後、治療を終えた後、恭也は薫と十六夜と別れ、那美を寮まで送る事になった。

 

「では、今日はありがとうございました」

 

「いえ、これくらいならお安い御用です。

 ですから、いつでも呼んで下さいね」

 

「はい」

 

「では、また」

 

「はい、また」

 

 その別れ際、再会を約束を交わした。

 簡単であろうと、確かな約束を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の深夜 海鳴臨海公園

 

 恭也とリンディはジュエルシードの制御だけを完成させ、しかしインテリジェントデバイスとしては未完成のデバイスを持って出撃した。

 敵は待ってはくれないのだ。

 そして、無視する事は絶対にできない。

 

(アレか……)

 

 深夜の臨海公園で人が3人居るのが見える。

 若い男が1人と同年代だろう女性が2人。

 所謂修羅場というやつらしい。

 

 その中の1人がジュエルシードの持ち手である事は間違いない。

 

『リンディさん』

 

『了解』

 

 キィィンッ……

 

 リンディは人払いの結界を展開した。

 そうする事で、持ち手とその関係者以外、この深夜の公園にいた他数組のカップルと通行人達が立ち去っていく。

 今回は立ち去る理由―――とばっちりを受ける可能性がある修羅場というのが在る為比較的簡単に立ち退いてくれる。

 これで、隔離結界を展開しても、怪しまれる事はないだろう。

 ただ、どうしても当事者である3人の内ジュエルシードの持ち手でない者が2名残ってしまう事になり、それを分離する事はできず、巻き込んでしまうのは確定事項だ。

 

 準備が整ったところで、修羅場の方も大詰めの様だ。

 女性の1人は泣き崩れ、もう1人は男に掴みかかっている。

 男は海を背にしており、手摺まで追い込まれてしまい、かなり拙い状態だ。

 

『ふむ……ああはなりたくないものだ』

 

『……あの、それツッコムところですか?』

 

 別に3人の様子を楽しんでいる訳でもなく、ふざけている訳でもない恭也とリンディなのだが、恭也がもらした率直な感想に思わずリンディがそんな反応を返す。

 もし、もう少し時間があったなら……まあ面白い事になっていたかもしれない。

 だがしかし―――

 

 キィィンッ

 

 ジュエルシードが起動した。

 

『結界展開』

 

 キィィィンッ!

 

 展開される指定された一部の者以外は出入りする事のできない隔離結界。

 小さな偽物の世界を構築する結界魔法。

 

『シンクロ開始』

 

『戦闘体勢へ移行、ジュエルシード装填』

 

『Yes Sir

 Load Jewel Seed』 

 

 リンディを持ってインテリジェントデバイスと成り、更にデバイスの部品の様にジュエルシード]Vを接続する。

 リンディによって一晩掛けて構築され、このデバイス、フォーリングソウルに組み込まれてる制御機関を中継して。

 常時使う訳ではないが、いつでもその力を使える様に。

 

「きゃぁぁぁっ!」

 

「な、なんの冗談?!」

 

 その準備の間にジュエルシードは想いをカタチにしようとしている。

 持ち手は男だった様だ。

 男の右手にジュエルシードがあり、男の両手が黒く巨大になる。

 大人の女性をそのまま覆える位の大きさだ。

 

「ひっ!」

 

「な、なによ、これ……」

 

 男の変化に驚く女性2人は逃げようとするが、しかし1人は腰が抜けたのか動く事ができない。

 更にもう1人は気付く、既に2人の周囲には闇の獣人、ジュエルシードの防衛機構によって囲まれている事に。

 そうして逃げることができない2人は、男の手が変化した黒く巨大な手の様なものに掴まってしまう。

 

「い、いやぁぁぁ!」

 

「くるなぁぁぁっ!」

 

 女性2人を捕まえた黒い巨大な手らしきものは、そのまま女性を包み、飲み込もうとする―――

 

 ヒュンッ!

   ザシュンッ!

 

 その時だ、突然風が吹いたかと思うと、女性を飲み込もうとしていた黒い何かは切り裂かれ、バラバラになった。

 半ば飲み込まれていた女性を傷つける事なく。

 

「流石に、見過ごせんな」

 

 持ち手と女性達を囲む防衛機構軍をデスカウントで飛び越え、その渦中に飛び込んだ恭也。

 八景を抜刀し斬り裂き、即座にまた背に隠す。

 もう何時フェイトやなのは達が来てもおかしくないのだから、あまり使うべきではないのだが仕方が無い。

 それに、これも仕方が無い事であるが、恭也の力自体、あまりジュエルシード相手にも見せるべきは無かった。

 次は通用しないと、そう予測できてしまうのだから。

 

「しかしまあ、どうしたものかな」

 

「ギャオオンッ!」

 

 完全にジュエルシードの被害者である2人の女性を助ける為に飛び込んだはいいが、敵の真っ只中。

 数50程の防衛機構軍の中心。

 更には、ジュエルシードの持ち手も目の前にいる。

 

 その上で、恭也は被害者の連れである2人の女性を護りつつ持ち手からジュエルシードを引き剥がさないといけない。

 

(状況的に防衛機構が爆発する可能性は低いと思うが……)

 

 今回のジュエルシードは、恐らくこの男が2人の女性を取り込む事を目的としている。

 どんな想いからそうなったかはこの際考えないとして、それが目的ならば、ジュエルシードを持っていないこの2人を巻き込む様な無差別攻撃はしないと考えられる。

 何故なら、あくまでこの闇の獣人達はジュエルシードの防衛機構であり、ジュエルシードが想いをカタチにする事を護るのが存在意義だ。

 

(が、下手をすると……)

 

 ジュエルシードの持ち手の巨大な両手、と言うよりも吸収口と言ってよいのか、それはもう回復してしまっている。

 何度も斬る訳にもいかないだろし、かといって女性2人を抱えて逃げ切れる状態ではない。

 

「ギギ……」

 

 防衛機構達はジリジリと間合いを詰め、タイミングを見計らっている。

 いきなり襲い掛かってこないと言う事はそれなりに考え、更にこちらを力を警戒しているものと思われる。

 

(最悪、設定外のジュエルシードの力を使う事になるが……)

 

 昨日フィアッセや那美達を心配させたばかりであるが、このジュエルシードの事件において死傷者を出す訳にはいかない。

 少なくとも、あの子達が戦う表の舞台では―――

 

 と、その時だ、結界が侵入者を感知する。

 設定された人物の内の2人。

 

(来たか)

 

 フェイトとアルフが来たのは街側から。

 真っ直ぐにこちらに飛んできている。

 

 ならば―――

 

「フェイト! アルフ!」

 

 名を呼ぶ。

 2人の名を。

 これからやってもらう事があるからこそ呼んだ。

 

「ギギギ…・・・」

 

 しかしその行為、防衛機構達にもフェイト達の接近を知らせる事になる。

 そうだ、敢えて防衛機構達はフェイト達の方に視線を向けた。

 そうする事で隙が出来たのだ。

 その瞬間。

 

 ブンッ!

    ドゴッ!

 

 恭也は棍を振るった。

 フェイトが来た事によって出来た僅か一瞬の隙。

 

 棍で突いたのは―――ジュエルシードの持ち手の男。

 ギリギリの手加減をしつつ腹部を突く。

 そして、

 

「おおおおおっ!!」

 

 ブンッ! ブォンッ!!

 

 そのまま、そう男を引っ掛けたままで振り回す。

 

 今恭也が居る場所は防衛機構に囲まれている。

 そこでそんな事をすればどうなるか。

 簡単な事だ、防衛機構達に当たる。

 

 だが、防衛機構はそもそもジュエルシードと持ち手を護る為にある。

 ならば、それを盾にする様に棍を振り回せばどうなるか―――

 

(予想外だ! 

 だが、まあいいだろう)

 

 ブオンッ!

 

 恭也は防衛機構が自己消滅すると思っていた。

 自分が持ち手とジュエルシードを傷つける事が無い様、無に帰ると。

 しかしどうだろう、持ち手に触れた防衛機構達は次々とその持ち手に引っ付いていってしまう。

 いや、一体化と表現した方がいいだろう。

 男を振り回し、防衛機構にぶつける度に、まるで雪玉までも転がしているかの様に膨らんでいくのだ。

 

「いくぞ!」

 

 ブンッ!!! ドォォォンッ!!

 

 粗方片付くと、そのまま恭也は持ち手を投げ飛ばす。

 フェイトに向かってだ。

 

「アルフ拘束を! フェイト、右手だ!」

 

 アルフには指示を、フェイトには情報を飛ばす。

 

「チェーンバインド!」

 

 ジャリィィィンッ!

 

 飛ばされ、防衛機構ごと蠢く闇の塊にアルフの拘束魔法が走る。

 それによって動きが止まる。

 が、防衛機構まで取り込んだその闇の塊は、アルフの力では僅かな時間しか拘束できない。

 

「はっ!」

 

 ザシュッ!

 

 しかし、そこにフェイトのサイズフォームの光の刃が入った。

 最早原型を留めていないとすら言えるその闇の塊の、中核となっている人の右手を見極め、正確に斬り裂いた。

 いや、更に正確に言えば、右手のジュエルシードを狙って押し出したのだ。

 僅か一瞬の交差で、である。

 

「バルディッシュ!」

 

『Sealing Form

 Set up』

 

 ガキンッ!

 

 そして即座にデバイスを変形。

 

「封印!」

 

 ザバァァァァンッ!!

 

 浄化封印が執行される。

 

(無駄が少なくて良い事だ)

 

 その時、恭也もフェイトの直ぐ傍まで来ていた。

 投げつける闇の塊の影に隠れていた為、デスカウントも神速すら使わずに。

 ともあれ、最近のジュエルシードの防衛力からまだ何かあると考えて予防策として傍につく。

 

 しかし、持ち手と一体化していた闇は消え、人の姿に戻っていく。

 アルフがそれをチェーンバインドで拘束しながらも地上に降ろす。

 そして、

 

Sealing』

 

 キィンッ 

 

 封印は無事完了した。

 ジュエルシードは『Y』のナンバーを表示し、正常化の証をここに示す。

 それを、

 

 パシッ!

 

「ご苦労」

 

 恭也は奪い取った。

 フェイトも恭也がジュエルシードを奪いに来ると考えていただろうが、封印中も封印直後も動けないのでは仕方ない。

 アルフも持ち手を預かっていた為動く事はできなかった。

 

「……返して頂きます」

 

「ふざけやがって」

 

 だからか、奪われたという事には特に反応も見せず即座に戦闘体勢に入る。

 いや、最初から覚悟していたのだろう、恭也と戦う事を。

 

「よかろう。

 ……おや、もう一組も到着した様だな」

 

 と、その時だ。

 結界に新たな侵入者が在った。

 設定された人物の残り3名、なのは、久遠、アリサだ。

 

「もう終わってるの?」

 

「みたいだね」

 

「また出遅れた訳ね」

 

 入ってきた3人は周囲を見渡して状況を把握する。

 これからフェイト達が恭也と戦おうとしている事も理解しているだろう。

 

「なのは、私は」

 

「OK」

 

 その中、アリサは一直線に倒れている今回の被害者達のところへと移動する。

 デバイスが無く、体調もまだ万全ではない事を自覚し、後方に回ったのだ。

 

「先に言っておく。

 ジュエルシードが欲しければ―――奪い取れ!」

 

 恭也はなのはが話し合いに持ち込もうとする前に先手を打った。

 話す事など無い、戦えと。

 恭也にはなのはの話を聞いてやる事はできないのだから。

 そして、同時に、

 

 ガキィンッ!

 

 衝突音が響く。

 突如後ろに回した棍と光の刃の衝突音だ。

 

「この様にな」

 

 言うまでも無くフェイトの攻撃だ。

 なのはに目を向けている隙にブリッツアクションで背後に回りこみ、斬り付けてきた。

 卑怯とは言わない、既にフェイトとは戦うと宣言しているのだから、他の女に構っている恭也に非があろう。

 

「……解りました」

 

 その光景に、なのはは決心した様だ。

 杖を構え、恭也に向ける。

 

「が、とりあえずは、邪魔な者達の相手は作っておくか」

 

 ガキンッ!

 

「っ!」

 

 力でフェイトを振り払い、首から下げたデバイスを構える。

 

Load Jewel Seed No.]V』

 

 キィィンッ

 

「―――っ!」

 

 その場の全員が息を飲む。

 ジュエルシードの使用が宣言されたのだ。

 

 ォウンッ!

 

 そして、現れたのは3体の闇色の獣人―――その人形。

 ジュエルシード防衛機構を元にした自律行動と遠隔操作が可能な魔力で出来た人形である。

 ロードが宣言されてはいるが、実際のところジュエルシードの力は全くと言ってよい程使っていない魔法だ。

 

「お前達の相手はコイツだ」

 

「なにっ!」

 

 無言のまま久遠とアルフに襲い掛かる3体の闇の獣人。

 リンディの操作により上手く2人を一箇所にまとめつつ、恭也達から引き離そうとする。

 そう、この3体の人形の目的はあくまで2人を引き離す事。

 その為、大した強さも機能も必要ない。

 

 尚、リンディが制御を行っている様に、デバイスの改良と鍛錬の成果によってリンディが99%シンクロしなくとも恭也はデスカウントを使用できる。

 その為今後は今まで出来なかった様な事が同時に出来る様になる。

 この人形の操作は今後の作戦展開の為の実験という要素も含んでいた。

 

「さて、始めるか」 

 

『Photon Lancer』

 

 キィィンッ

   ズダダダダンッ!!

 

 恭也が言ったとほぼ同時にフェイトの魔法が来る。

 

「いきます!」

 

Divine Shooter』

 

 キィィンッ 

 

 対し、なのはの方はわざわざ宣言したから魔法を発動させる。

 しかも、あくまで牽制目的の魔法であり、狙い方もダメージにならない様な形になっている。

 なのはらしいといえばなのはらしいが、既に敵対を宣言しているというのに、甘い事だ。

 

 ともあれ、恭也に迫る光の槍と魔弾。

 全弾直撃したなら、流石に頑強なリンディのバリアジャケットももたないだろう。

 

「ふっ!」

 

 ズババンッ! ズバシュンッ!!

 

 恭也は長い棍を中央で握り、コンパクトな連撃を繰り出し高速で迫る2種類の魔法を叩き落す。

 流石に全弾を叩き落す事は出来ない為、フェイトの方の操作できない魔法のいくつかは回避でやり過ごす。

 

「くっ!」

 

「そんなっ!」

 

 そんな様子に驚くフェイトとなのは。

 

(驚くな、単純な射撃を防がれたくらいで)

 

 そう思いながら誘う様に構える恭也。

 

 もしリンディに人形を操る以上の意識があったなら、これだけの数をその場から動く事もなく、シールドもバリアも使わずに防いだ事を高く評価しただろう。

 特にフェイトのフォトンランサーの弾速はかなり早い方で、こちらが高速飛行状態でもないと回避が難しい。

 それを恭也は一歩も動かずに叩き落すか、身を捻るだけの紙一重で回避しているのだ。

 わずか9歳の魔導師にそれを見て驚くなというのは些か難しいだろう。

 そう、あくまでフェイトもなのはも魔導師であり、恭也の様な元々バリアなどという便利なものを持っていない戦士とは違うのだ。

 

「はぁっ!」

 

 ブンッ!

 

 だが、少女達は驚きはしても怯む事なく次の攻撃を仕掛けてくる。

 フェイトはまずその特徴である高速をもって斬撃による連撃を撃ってくる。

 が、

 

「不意打ちまがいの攻撃がきかなかったのだ、真正面からの攻撃に意味があると思うな」

 

 ガキンッ!

    キンッ!

  ガキンッ!

 

 元より恭也が得意とするのは接近戦。

 単純なそれだけでは、武器の違い程度で負けてやる事はできない。

 尤も、フェイトも通用するとは思っていないだろう。

 何か策を練っていると思われるが―――

 

「はっ!」

 

 ダンッ!

 

「ぐっ!」

  

 棍でデバイスごと吹き飛ばす。

 魔力はあったとしても体格が違い過ぎる為、容易に発生する事態だ。

 これをどうするだが、

 

Divine Shooter』

 

 キィィンッ 

 

 その前になのはの攻撃が来る。

 今度は先程よりも数を揃えて、更に操作できる特徴を活かして全方位からの攻撃だ。

 更に、

 

『Arc Saber』

 

 ヒュンゥッ!

 

 フェイトは飛ばされながらもアークセイバーを放つ。

 

「ふっ!」

 

 バシュンッ!

 

 だが、恭也はアークセイバーを紙一重で躱しながら、迫る魔弾を叩き落す。

 2人の連携が甘い為、アークセイバーはむしろディバインシューターを殺す事になり、比較的楽に行う事ができた。

 

「またっ!」

 

 それがまだまだ理解できていないなのは全弾落とされて事に驚愕している。

 

「くっ!」

 

 フェイトもカウンターの要領で撃ったアークセイバーまで簡単に躱されたのが予想外だった様だ。

 

(流石に即時連携というのは無理か。

 なら、もう少し遊んでやろう)

 

 2人は一応連携を考えてはいるが、流石に互いの理解が足りていない。

 ならばと、恭也は攻勢に出る事を決める。

 

「もうお終いか?」

 

 まずは誘う。

 2人は理解しているだろう。

 相棒としている者の援護は無く、単発の魔法は効かず、連携も上手くとれないこの状況というものを。

 そして今は考えている、この状況の打開策を。

 

 それは直ぐに出るものではないだろう。

 

「来ないなこちらから行くぞ?」

 

Hells Rider

 Death Count Mode』

 

 故に、こちらからこの状況を崩す。

 否応なしに動かざる得ない状況へと移す為に。

 

 告げる魔法は『デスカウント』。

 前回見せ付けた死の宣告たる魔法だ。

 

「「っ!!」」

 

 前回見せている魔法故、2人とも即座に構える。

 そうして見せるのは対応の動きだ。

 

『3』

 

 前回より改良されたデスカウントは、この3の数字を告げた一瞬のみ、恭也を見ている者の視認を解除してしまう。

 ステルスと同じ原理の魔法を前触れ無く一瞬だけ発動させる魔法である。

 後は―――

 

 ドクンッ

 

 神速を持って進めば、全員の知覚の外を移動できる。

 元より神速は人が知覚できなくなる程の速度で動ける歩法である。

 ならば、空中に於いて唯一の難点たる死角への移動を少しだけ魔法に頼れば事足りる。

 人の知覚は、1度対象を見失うと再認識に少し時間が必要になる。

 それが静止している状態から超高速移動へ変化しているとならば尚更だ。

 

Wide Area Protection

 

Defenser

 Wide Area Shift』

 

 キィィィンッ!!

 

 なのはとフェイトの対応、それはバリア魔法の展開だった。

 しかしそれは攻撃を防ぐ為、などという浅はかなものではない。

 

『2』

 

 2つ目のカウントが告げられた時、既に恭也はなのはの背後にいる。

 そこで、棍を振り下ろした。

 

「っ! そこ!」

 

Magic Coat

 

 ガキィンッ!

 

 その時だ、なのはは突如振り向いて恭也の棍での一撃を止めた。

 そう、気付いたのだ、恭也の接近を。

 その為のバリア魔法である。

 

 2人はデスカウントを使われたら視認は不可能と踏んで、知覚領域を拡大させたのだ。

 バリアという自分の延長を使って。

 いかに恭也が理解不能の移動方法を使おうとも、攻撃の瞬間はそこに存在するのだ。

 ならば、近接攻撃をするには広域に展開されたバリアに触れなければならないだろう。

 それを利用した対応方法である。

 実際、バリアはそれこそ破られる事を前提として弱く、その代わり可能な限り広域に展開されており、恭也はそれに触れざるを得なかった。

 

「ほう」

 

 60点だ、とそんなことを考えながら恭也は笑みを浮かべていた。

 辛い評価を下しながらも、しかしきちんと対応してきた事を心の底では歓喜していた。

 わざわざカウントを告げ、高速移動に入るタイミングと抜けるタイミングを教え、対応できる部分を作っている。

 だがしかし、仮にも御神の奥義である神速を、わずか9歳のなのはが対応してきたのだ。

 兄として喜ばずにはいられない。

 

『Photon Lancer』

 

 キィィンッ

   ズダダダダンッ!!

 

 横から放たれる射撃魔法。

 恭也となのはの側面に回りこんだフェイトがフォトンランサーを放つ。

 狙いはきっちり恭也のみにしぼり、なのはには当たらない様に配慮もしてある。

 だが、

 

(遅い上に遠いな)

 

 回りこむまでの時間と位置の関係で、十分に恭也が対応できてしまう。

 

「せっ!」

 

 ドゴッ!

 

「きゃっ!」

 

 まず、なのはを杖の上から蹴り飛ばし、武器を自由にした。

 蹴り飛ばす際は、ギリギリ手加減もしておく。

 流石に頑丈なバリアジャケットがあるとはいえ、恭也の本気の蹴りを9歳の少女が受ける事はできないのだから。

  

「ふっ!」

 

 ガガガガンッ!

 

 フリーになったところで、迫りくる光弾を弾く。

 弾速は早くとも単純な射撃である為、見切りやすい。

 だが、これで終わりではあるまい。

 

 そもそも恭也のバリアジャケットの強度は前々回の自爆する防衛機構軍の時に大凡の予測はできている筈だ。

 事実としてフォトンランサーやディバインシューターでは貫く事はできない。

 それが解っているなのはとフェイトは、それこそこの2つの魔法を足止めか隙を作る為に撃っている筈だ。

 今は2人で戦っている事を利用して。

 

 例えば、この様に。

 

「ディバインバスター!」

 

 ズダァァァァンッ!!

 

 フォトンランサーを叩き落している横でなのはのバスターが放たれる。

 蹴り飛ばしながらも杖を変形させ、幾つかの行程と射撃様の魔法陣をカットしての速射である。

 至近距離である為姿勢安定は必要なく、威力も恭也のバリアジャケットの強度を計算したギリギリのものだ。

 

「なるほど」

 

 恭也は素直に感心する。

 攻撃を受けながらそれだけの行動がとれる事をだ。

 

(しかし、まだまだ甘いな)

 

 なのはの攻撃は少し遅く、なのはにしては狙いが甘い。

 恐らく、一瞬バスターという自分の主砲を人に向ける事を躊躇したのだろう。

 

(やはり覚悟はまだ出来ていないか。

 ならば、仕方ない)

 

 戦う覚悟が出来ていないものならば、今は勝たせてやる訳にはいかない。

 元々今回負けてやる気はなかったので、もう暫く戦った後は勝ちに行くつもりだ。

 とりあえずは、この甘い攻撃を絶望的に回避しよう。

 

Hells Rider

 Death Count Mode』

 

 恭也は再びデスカウントを発動させる。

 今度は回避行動の意味も込めて。

 

 そう、この魔法は攻撃魔法と言えるかもしれないが、その実相手に視認を許さないという追加効果のある高速移動魔法でしかない。

 故にこれくらいの使い方はむしろ当たり前の事だ。

 

「「っ!!」」 

 

『3』

 

 ドクンッ

 

 発動と同時に移動。

 それによってなのはのバスターは空を切る。

 そのまま結界の境界面にぶつかるが、速射で、近距離用だった事もあり減衰する事もあり、リンディの結界なら問題にならない。

 それよりも、

 

Defenser

 Wide Area Shift』

 

Wide Area Protection

 

 キィィィンッ!!

 

 再び先と同じ対応手段を用いて構える2人。

 

『2』

 

 恭也は今度フェイトの背後に回っていた。

 そこでフェイトのディフェンサーに触れる。

 解っていた事だが、触れざるを得ないのだ。 

 その瞬間。

 

『Scythe Slash』

 

 キィィンッ!

    バシュンッ!

 

 振り向くと同時に魔法が発動した。

 まだ見た事の無い魔法だ。

 

(ふむ、流石に接近戦が主体なだけあるな、反応も早いし良い魔法を持っている)

 

 恭也はその魔法を危険と判断する。

 このタイミングで撃つ魔法である事と、その光の濃度からも相当の魔力が収束されていると解る。

 

 ガキンッ!

 

 だから恭也はその魔法の刃ではなく、デバイス本体の柄を棍で押さえた。

 どんなに刃が鋭かろうとも、その根元を押さえられては意味を成さないのだから。

 

「なっ!」

 

 驚愕するフェイト。

 こんな形で攻撃を防がれた事が想定外だったのだろう。

 まあ、ここで初めて使う程の取っておきだったのだからある程度仕方のない事か。

 

「なかなか良い攻撃だ」

 

 事実としてまず褒める。

 ディフェンサーに触れてからの反応の速さと攻撃の的確さ。

 それに攻撃の威力も申し分ない。

 直撃していれば倒されていただろう。

 

 が、既にデスカウントはなのはでも止めているのだから、それでも尚使うのであれば、それ以上の何かを用意していると考えるべきだろう。

 確かにそれを差し引いてのカウンターではあったが、しかし、止められたからといってそこで動きを止めてしまえば同じことだ。

 

Divine Shooter』

 

 キィィンッ 

 

 そこになのはのディバインシューターが来る。

 なのはのシューターの場合、操作できる為、発射する場所は選ばない。

 が、魔弾を回り込ませている時間と、発射までがやや遅いので同じ事になってしまっている。

 

「ふむ」

 

 ガッ! ダンッ!

 

 ならばと、恭也は先程なのはにしたのと同じ用に、力でフェイトを押し払う。

 同じ失敗はしない筈だから、何か用意しているのだろうと期待しながら。

 

「くっ!」

 

 フェイトは飛ばされながらも攻撃態勢をとった。

 デバイスがサイズフォームからデバイスフォームへと変わり、

 

『Photon Lancer』

 

 キィィンッ

   ズダァァンッ!

 

 放つのはフォトンランサー1発。

 しかし、通常発射よりも力を収束させた一撃だ。

 

Divine Buster』

 

 ズドォォォンッ!

 

 更に、ディバインシューターに最後の入力をして、なのはは再びバスターを放つ。

 先程よりも更に速射で威力はシューターと合わせてやっとバリアジャケットを貫ける程の威力しかない。

 シューターもフォトンランサーも命中する事が前提の攻撃だ。

 

「甘い」

 

 フッ!

 

 だが、操作をカットしたディバインシューターは減衰し始め、消えかけている。

 これでは攻撃としての意味は無く、操作をカットした事で単純回避で避けられてしまう。

 恭也はシューターの包囲網を抜け、フォトンランサーとバスターの射軸から外れた。

 

「穴だらけだ。

 反撃としてのフォトンランサーは兎も角、バスターを撃つタイミングは間違っている。

 無駄に力を消費しているだけだ。

 フォトンランサーも牽制以外が目的なら、撃つのが遅すぎた」

 

 なのはは無茶をし過ぎなのだ。

 いくら速射で魔力消費も少ないとは言え、バスターの連発。

 元々の利点を殺してまで撃つ様なタイミングでもなかった。

 

 フェイトも恐らく自分より速い相手と戦った事がないからだろうが、対応が若干遅い。

 速度のある相手では、そのタイミングの遅さが致命的な事になりかねないのだ。

 

 

 現状として、恭也はなのはとフェイト2人が相手でも圧倒している。

 しかしそれは当たり前の事だ。

 何せ、恭也にはリンディがいる。

 一流の戦士たる恭也と一流の魔導師たるリンディの2人が力を合わせて戦っているのだ。

 戦っているのは恭也1人で、リンディの支援もバリアジャケットやインテリジェントデバイスとして飛行魔法の補助くらいではある。

 だがそれでも、残念ながら付け焼刃程度の連携しかとれないなのはとフェイトでは勝つのは困難だろう。

 

 それに、1人はまだ恭也と戦う事自体に戸惑っている。

 

「くっ……」

 

 恭也の指摘に悔しそうな顔をするフェイト。

 だが、反発している訳ではなくちゃんと理解しているだろう。

 

 なのはは―――

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 なのはを見ると、既に息を切らしていた。

 フェイトも恭也もまだまだ戦えるというのにだ。

 

(やはり戦闘理論が重いのだろうな)

 

 フェイトもアルフを維持する為に常に魔力を使っているが、なのはの戦闘理論魔法の方がそれよりも負荷が高い。

 更にはなのはは射撃主体の為魔力消費が大きいのもあるし、飛行魔法自体がフェイトよりも重い。

 次で最後になってしまうだろう。

 

 それはフェイトも気付いており、久遠とアリサも心配して、必死に人形を振り切ろうとしている。

 下を見ればアリサは援護ができない事を口惜しそうにしていた。

 だが、

 

(コレで終わりと言う訳ではあるまい)

 

 なのははまだ戦う事を良しとせず、攻撃を躊躇している。

 その上、魔力枯渇寸前となり、最早勝てる見込みは皆無と言って良いだろう。

 

 だが、そんな状況でも尚、なのはの目はまだ死んでいない。

 まだ何も諦めていない。

 だから―――

 

「こないのか?

 あまり待ってはやれないぞ」

 

 誘いの声を掛ける。

 何か思いついているのなら試してみろと。

 

「……」

 

「……」

 

 恭也の言葉が最後通告として受け取られたのか、なのはは決意してフェイトに視線を送った。

 何かを伝えようとしている。

 そして、改めて向き直って放つ魔法は、

 

Divine Shooter』

 

 キィィンッ 

 

 最後の魔力でなのはが撃ったのはディバインシューター。

 決して致命打にはなりえない魔法だ。

 

『Photon Lancer』

 

 キィィンッ

   ズダダダダンッ!!

 

 同時にフェイトもフォトンランサーを放ってくる。

 2人の同時射撃だ。

  

「1つ覚えだな」

 

 カッ! バシュンッ! バンッ! ズバンッ!!

 

 こんなつまらない攻撃を見たい訳ではない。

 2人の全力の連射でも、この距離ならば十分に対応できてしまう。

 

(さあ、どうする?)

 

 確実に何かを狙っているのは解る。

 いつそれが来るかと恭也は待ち構える。

 

 その時だ、

 

 キィィィンッ!

 

 なのはのディバインシューターに変化が起きた。

 

「……むっ!」

 

 カンッ! カッ! バシュッ!!

 

 威力が変わったわけでも操作性能が上がったわけでもない。

 ただ―――狙いが変わった。

 いままでのなのはの射撃は全てボディーを狙っていた。

 牽制の為にも、的としても大きく狙うのに良い場所であるが、それ故に恭也にとって打ち払い易かった。

 だが、今なのはは恭也の仮面を狙ってきたのだ。

 今在る全ての魔弾が仮面を狙って一斉に迫ってくる。

 

「なるほど」

 

 ブンッ! バシュンッ!!

 

 恭也は笑みを浮かべ、大振りの攻撃で魔弾全てを叩き落す。

 そうしなければ仮面を護れなかったからだ。

 

(倒せぬのならば、正体を、か)

 

 面白い、とそう思いながら誘いにのった。

 そう、誘いだ。

 仮面を狙う攻撃はそれ自体も意味はあるが、しかし囮に過ぎない。

 大振りの攻撃を誘う事こそ裏の目的であり、そうする事で、

 

 ガッ!

 

 フェイトの攻撃へと繋がる。

 大振りの攻撃をしたことで完全に空いてしまった護り。

 大振りの攻撃をしたことで止まった武器。

 

 フェイトはすでに恭也の棍の間合いの内側にいた。

 左手だけで持ったデバイスで棍を押さえながら。

 

 キィィンッ!

 

 その上でフェイトは空いた右手に魔法を収束させていた。

 その正体は『サンダースマッシャー』だろう。

 前々回の自爆する防衛機構の時の最後に封印魔法を乗せたフェイトの射撃魔法だ。

 威力はディバインバスターより少し下、だが雷の属性であり、着弾すればその効力が発揮され破壊力は上かもしれない。

 

 しかし、それをこの状態、ほぼ0距離から放つと言う事は半ば自爆になってしまう。

 

(それはダメだな)

 

 自分よりも防御力が高い相手に自爆紛いの攻撃などしたら次が無い。

 恭也はフェイトの攻撃を不合格として攻撃に移る。

 

「良い連携だ。

 が、考えが甘い!」

 

 第一、恭也とて手なら空いているのだ。

 棍は片手でも持てるのだから。

 それによる対応をフェイトはどうする気なのか。

 

 ブンッ!

 

 恭也は拳を振るった。

 若干の魔力が、そう、魔法の壁に触れる為に、元々弱い恭也の魔力で覆われているだけの拳であり、しかし全力の拳打。

 フェイトのデバイスがオートでディフェンサーを発生させるが、それごと押し飛ばすつもりだった。

 

 そう、素手でとはいえ意識上からも全力の攻撃。

 それによって恭也自身意識していなかった事が起きた。

 

御神流 貫 

 

 日頃の鍛錬の成果とも言える無意識での技の発動。

 それが、

 

 ガッ!

 

 本来ならばディフェンサーで止まる筈の打撃を、

 

御神流 徹 

 

 ドッ!

 

 ディフェンサーをそのままに、

 

「がっ!」

 

 ゴウンッ!

 

 衝撃だけを奥に、フェイト本体へと徹してしまう。

 

(しまっ……)

 

 恭也が思った時は遅かった。

 恭也の全力の拳打の衝撃はフェイトの腹部へと入り、更にフェイトは海へと落下する。

 元より防御力の低いフェイトに、防御無視の全力拳打だ。

 フェイトはダメージによって気を失いかけ、飛行魔法も停止してしまっている。

 

(拙い!)

 

 フェイトが気を失う。

 それは極めて危険な事なのだ。

 今フェイトはサンダースマッシャーを放とうとしていたのだから。

 デバイス側ではなく自分の手から。

 このままでは暴走してしまう。

 

 ダンッ!

 

 恭也は駆ける。

 暗い海に落ちようとするフェイトに向かって。

 

 フッ!

 

 だが、それよりも早くフェイトに向かう者が居た。

 白い影に桃色の翼のなのはだ。

 なのはは全力で飛行し、フェイトに手を伸ばす。

 

(魔法の暴走に巻き込まれるぞ!)

 

 ダンッ!

 

 恭也は更にその先に回り込もうと空を蹴る。

 

『リンディ!』

 

『了解』

 

 バシュンッ!

 

 シンクロと人形の操作をカットし、リンディは魔法のキャンセルに集中する。

 なんとかなのはの前に回り、フェイトの手の魔法を払い取る。

 バルディッシュも何か動いていた様だが、どちらにしろ主であるフェイトが気絶状態ではどうしようもなかっただろう。

 

 ズバァァンッ!

 

 術者から強制的に排除された魔法は恭也の手の中で爆発する。

 リンディのキャンセルとバリアを持ってなんとか防ぐが、完全に0距離で受けた為雷の力で手が少し焼けてしまった。

 

 

「ぐっ!」

 

 それに耐えながら、恭也は再び下を目指す。

 見ればなのはも既に気を失っている。

 魔力枯渇直前なのに全力で飛んだりするからだ。 

 

「間に合わんか」

 

 魔法を打ち払った恭也は、2人とは大分引き離されてしまっている。

 2人の落下を止めることはもうできない。

 ただ、幸い下は海なので、激突して死ぬ事はないだろう。

 しかし、2人は気絶してしまっているから、それもあまり良くないし、この高度からの着水はかなりの衝撃になる。

 

 バシャンッ!

     バシャンッ!

 

 程無く周囲に水音が響いた。

 まずは2つの大きな水音で、その後に1つの鋭い水音であった。

 そして、

 

 ザバンッ!

 

 数秒後、2人を抱えた恭也が上がってくる。

 

「ごほっ!」

 

 やはり2人とも水を少し飲んでしまっており、恭也は背を叩いて吐き出させてやる。

 それでなのは水を吐いた。

 だが、フェイトの方は……

 

「拙いな」

 

 フェイトは呼吸も止まっていた。

 腹部を強打した直後だったのが拙かったのだろうか。

 兎も角、恭也は水の上、なのはを肩に抱きながら、フェイトに人工呼吸を試みる。

 と、その時、

 

「なっ、なななっ、何してるんだ、この変態!!」

 

 ドウンッ!

 

 赤橙の蹴りが飛んでくる。

 アルフだ。

 怒りによって周囲が見えておらず、威力は高いが真っ直ぐなだけの蹴りだ。

 その為、恭也は人工呼吸を続けながらも回避に成功する。

 

 人形が解除された為直ぐに飛んできたのだろう。

 久遠もジャンプと浮遊だけで直ぐ傍まで来ている。

 

「がっ! ごほっ! ごほっ!」

 

「ふぅ……」

 

 人工呼吸は成功し、フェイトも水を吐き出す。

 これで2人ともなんとか大丈夫だろう。

 恭也はフェイトをアルフへ、なのはを久遠へと投げ渡した。

 

「そらっ!

 さっさと連れて帰れ、この時期の水はまだ冷たい。

 風邪を引くぞ」

 

「自分でやっておいて!」

 

 アルフはフェイトを受け取りながら殺意を恭也にぶつける。

 

 カッ!

 

 だが状況が見えていなかった先程とは違い、また殴りかかってくる程愚かではない。

 すぐに閃光魔法を使って撤退するアルフ。

 

「……まったくだ」

 

 アルフが消えた後、その最後の台詞に1人呟く恭也。

 そして、

 

「で、お前もさっさと行ったらどうだ?

 まさかこのまま戦うつもりはあるまい?」

 

 まだ残っていた久遠に向き直る。

 なのはを大事に抱きしめながら恭也を見る久遠に。

 

 しかし何故だろうか、その恭也を見る久遠の瞳にはアルフの様な怒りなどの感情は見えず、むしろ悲しみにも似た感情を宿していた。

 

「……何故」

 

 久遠がその感情を言葉にしようとする。

 だがその時だ、1本の光の剣が恭也に向かって飛んでくる。

 アリサの魔法だ。

 

 カッ!

 

 それは恭也が打ち払うと同時に強い閃光を放つ。

 アリサは久遠の撤退を支援したのだ。

 

「何故、か……」

 

 流石にアリサの魔法を無駄にはせず、久遠は撤退していた。

 最後に残った恭也は1人、夜の海の上で空を見上げる。

 この偽りの世界の中、月も星も無い空を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所

 

 何処かの空間に存在する研究室の様な空間。

 明かりの少ないその暗い部屋の中で、1人の少女が倒れていた。

 

「がっ! はぁ……はぁ……」

 

 ポタ…… ポタ……

 

 一方の手で腹部を押さえ、もう一方の手で口を押さえてうずくまる少女。

 口を押さえる手からは紅い液体が滴れ落ち、呼吸も切れ切れだ。

 

「姉さん……何が……」

 

 信用する家族の事を思いながらそのまま少女は倒れて動かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘から1時間後 隠れ家

 

 戦闘終了後、事後処理を済ませた恭也は隠れ家に戻ってきていた。

 今回もアリバイ工作はしない。 

 それよりも少し話し合わなければならない事ができてしまった。

 

「つまり、俺は無意識で使った『徹』、『貫』がフェイト嬢のバリアを抜けて衝撃を通してしまったと言う事ですね」

 

「はい、恐ろしい事に」

 

 議題は、先程の戦闘の最後に発生した意図しないフェイトのダウンであり、その時に起きた事象についてだ。

 

 しかし、答えは既に出ており、その時恭也が全力で拳打を撃った為に、無意識で使った『貫』が原因であった。

 御神流の『徹』という技、これは撃った衝撃を表面ではなく内部へ徹す技である。

 更に『徹』の次の段階である『貫』は相手の防御を見切る技であり、それを身体で覚えてしまう事である。

 『貫』をマスターした者と対峙した相手は、まるで防御をすり抜けて攻撃されている様な錯覚に陥ると言われている。

 

 恭也はフェイトを殴る時に、バリアとバリアジャケットがあるからこそ全力で殴った。

 何の魔法も掛かっていない、微弱な魔力で覆われただけの拳打程度なら、フェイトのバリアでも耐えられる筈だったのだ。

 そもそもその魔力というのも、バリアに触れるからこそ展開していたものである。

 

 だが、その魔力があったからこそバリアに対して『徹』が機能したとも考えられる。

 

 兎も角、恭也はバリアが在ることを前提としながらも、全力という意識によって身体が自然と『貫』を行ってしまったのだ。

 そこでその『貫』には恭也の中にあるリンディの知識に繋がってしまったのだ。

 意識して考えるよりも早く、無意識のレベルでの処理が行われ、フェイトのバリア用の『徹』が導き出された。

 更に恭也の戦闘技術が、フェイトの動きを見切り、完全に衝撃を徹し、バリアもバリアジャケットも貫いてしまった。

 

 結界魔導師としては時空管理局でも名を馳せているリンディの知識だ、恐らくほとんどのバリアやシールドを『貫』いてしまうだろう。

 

「理論上は可能かと思っていましたが、しかし実現は不可能だと考えていましたのに」

 

「俺もできてしまうとは」

 

 そう、恭也ですらできるとは思っていなかった。

 まさか、魔導師のバリアを無視しようなどと。

 

 本当に理論上だけの話でなら可能だと恭也も考えていた。

 しかし理論的に考えれば、それを実現させてしまう事は無いだろうという結論に辿りついてしまう。

 だが、その理論もリンディが持っていたものであり、あくまで魔導師としての結論でしかない。

 

 そう、恭也が体得している技術は魔導的にどう作用するか、正確に予測する事ができないからこそ出ていた仮の結論だったのだ。

 

 それが本来在り得ざる知識の共有という方法を持って得た結界魔導師の知識と、恭也の技術が合わさった事で実現してしまった。

 

「フェイトさんのバリアだったからかもしれませんが、兎も角今後は手加減に気を使わないといけませんね」

 

「そうですね」

 

 とりあえずそれを結論として話し合いは終わった。

 そして2人は休息を取る。

 今日も3度神速を使い、リンディも人形を操って疲労している。

 明日もまたやるべきことは数多くあるから、今は休むのだった。

 

 そう、とりあえず、だ。

 これにはもっと大きな問題があった。

 今はまだ無視できるが、しかし今後恭也がリンディと共に在るならば考えなくてはいけない問題が。

 

 リンディの予想が正しければ、この力はこの先―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝 高町家

 

 恭也は朝、まだ皆が学校や仕事に行く前の時間に高町家に戻ってきていた。 

 本来ならなのは達と遭遇するのはよろしくないのだが、しかし昨晩の最後が最後だけに様子を見に来たのだ。

 尚、リンディは隠れ家で今日もデバイスの調整を行っている。

 リンディと離れるのも得策ではないがデバイスの調整は必要だし、それに万が一にもデバイスを持っているのを見られる事を考えれば置いて来た方が良いとも考えられる。

 

「ただいま」

 

 家に入るとリビングになのは以外の全員が集まっている様なのでそこに向かう。

 

「恭也」

 

「あら、恭也おかえり」

 

「恭也、おかえり」

 

「恭ちゃん」

 

「お師匠」

 

「師匠」

 

 リビングに入ると一斉に視線が集まる。

 久遠を含み、しかしなのはを除く高町家全員の視線だ。

 

「どうした? 皆で集まって」

 

「丁度良い所に帰ってきたわ」

 

 やはり、と言うべきか、桃子から受けた通達はなのはが風邪をひいたと言うものだった。

 

 

 

 

 

 数分後 なのはの部屋

 

 学校や仕事がある皆に代わり、風邪をひいたなのはの看病をすることになった恭也。

 元より自分が招いた事であり、その為に帰ってきたのだ。

 

 兎も角、恭也は水の入った桶とタオル、久遠はお盆に薬や水を持って部屋に入る。

 

「なのは、入るぞ」

 

 一応一声掛けて部屋に入る。

 熱を出して寝込んでいる為返事は無い。

 が、慌てて動く気配があった。

 なのはについていたアリサが結界に戻ったのだ。

 

「ぅ……ん……って……」

 

 部屋に入るとベッドで眠るなのはのうなされている様な声が聞こえた。

 

「なのは……」

 

 心配そうな久遠、それと結界の中からアリサも覗いていると思われる。

 

「わたしは……」

 

 何も無い宙に手を伸ばすなのは。

 昨晩、フェイトを助けようとして、しかし何もつかむ事ができなかった手を。

  

「なのは」

 

 恭也はその手を握る。

 伸ばす手をとるのではなく、添える様に外から覆った。

 あくまで、なのはが掴みたかったのはあの少女の手なのだから。

 そして、恭也が出来る事は―――

 

 なのはの手を握りながら、もう片方の手でタオルをなのはの額に乗せる。

 

「……」

 

 すると、流石にその冷たい感触で目を覚ましたか、なのはが目を開けて恭也を見る。

 

「起きたか。

 だが寝ていろ」

 

「おにーちゃん」

 

「ああ」

 

 恭也の存在を確認し、安心した様に微笑むなのは。

 しかし、また目を閉じて笑みを消してしまう。

 

「おにーちゃん。

 わたし、まだ足りないのかな?」

 

 その問いは熱にうなされているが故のものだろうか。

 今のなのはの事情を知らなければ解らぬ問いだった。

 

「大丈夫だ、お前なら近い内にきっと」

 

 なのはは後でちゃんと覚えているかは解らない。

 だからこそかもしれないが、恭也はそう応えた。

 心から思っている答えを。

 

「ありがとう、おにーちゃん……」

 

 言葉としては答えになっていない筈だが、しかしなのははもう1度微笑む。

 それで十分だと言う様に。

 

「だから今は休め」

 

「うん……」

 

 最後にそう答えてなのはは眠る。

 先程とは違い、もううなされることなく、安らかに。

 

「なのは……」

 

 その様子に少し安心した様子の久遠。

 アリサも同様かと思われるが結界の中では恭也でも様子は解らない。

 

「久遠、なのはは俺が看ているからいいぞ」

 

「……うん、恭也おねがいね」

 

「ああ」

 

 1日中付き添うものと思いながら、しかし一応尋ねるが、返ってきた答えは意外なものだった。

 いや、それも当然かもしれない。

 久遠は決意した様に外に出る。

 

 久遠は今日1日、何かあったら1人でも動ける様に外で街を見張る気の様だ。

 

(すまんな、久遠)

 

 なのはを護らせなかったのは恭也だ。

 責任を感じさせる様な事をしてしまったと、心で謝罪する。

 決して口には出せぬ事であるが故に、深く心に想う。

 

 

 

 

 

 昼過ぎ

 

 アレから半日、ずっとなのはの手を握りながらこまめにタオルを変え、水と薬を与えていた恭也。

 そこでふと気が付く事があった。

 

「酷い汗だな」

 

 熱が高い所為だろうか、なのはのパジャマは汗でぐっしょりと濡れていた。

 更にベッドのシーツまで汗が及んでいる。

 

「少し待っていろ」

 

 そうなのはに伝え、手を離して部屋を出る恭也。

 数分後、着替えとシーツの代え、それからお湯の入った桶とタオルを用意して戻って来る。

 

「なのは、脱がすぞ」

 

「……んん……」

 

 声は掛けるが、やはり起きはしない。

 どの道自分では無理だろうと恭也はなのはのパジャマを脱がし始める。

 

 が、その時、殺気を感じる。

 なのはの部屋のベッドの脇、ぬいぐるみが並ぶ場所、アリサの結界がある場所からだ。

 

「む……」

 

 殺気を向けているのがアリサなのに間違いは無い。

 何故そんな事をされるのか疑問だが、気付かぬ振りはできないし、しない方が良いだろう。

 この家の他の者に同じ事をされたら危ない。

 

 と言う事で、

 

「……」

 

 立ち上がってぬいぐるみを調べる恭也。

 アリサの居る場所をギリギリ偶然触れない様に見せかけながらだ。

 なんとなく、アリサが結界の中で慌てているのが解る。

 

「気のせいか?」

 

 調べ終わって後、そう呟きながら作業に戻る。

 これでアリサも下手な事はしなくなるだろう。

 

 しかし、何故アリサが殺気を向けてきたのか、恭也には解らなかった。

 

「さて……」

 

 パジャマも下着も全て脱がし終える。

 因みに下着は淡いオレンジだった。

 まあ、それは兎も角、お湯に浸したタオルで汗を拭う。

 体温が下がらないよう、抱き寄せながら。

 かなり全身汗でビショビショだったので全身を丹念に拭いておく。

 

「……」

 

 またアリサの視線を感じる。

 流石に殺気を飛ばす様な事はしていないが、睨まれている様だ。

 何がそんなに気になるのだろうか。

 

 兎も角、全身を拭いて新しい下着と新しいパジャマに着替えさせる。

 因みに下着は単純に手前に置かれていたのをとってきたもので、白だった。

 

「後は……」

 

 汗でぬれてしまったベッドのシーツも代え、改めてなのはを寝かす。

 これで暫くは大丈夫だろう。

 

「水も代えるか」

 

 額に乗せるタオルを濡らす水も代えに下に下りる。

 身体を拭きながら感じたが、まだ大分熱があるのでタオルはまだまだ必要だ。

 

 そうして、恭也はまた普通の看病に戻った。

 

 

 

 

 

 それから3時間後

 

 ピンポーン

 

 家のチャイムが鳴った。

 玄関に居るのは知った気配が1つ。

 

「すずかか。

 なのは、少し離れるぞ」

 

 眠っているなのはに一応断りながら玄関に向かう。

 

 そうして玄関を開けると、やはりそこにいたのはすずかだった。

 

「あ、恭也さん、こんにちは」

 

「ああ」

 

「なのはちゃん今日お休みだったので学校で配布されたプリントを」

 

「わざわざすまないな」

 

「いえ、あの、なのはちゃんは大丈夫なんですか?」

 

「ああ、ただの風邪だよ。

 とりあえず入るといい、ノエルには俺から連絡しよう」

 

「あ、はいすいません、おじゃまします」

 

 時間的にも格好をみても学校から直接来たのは解る。

 バスをこの近くで降りたのだ。

 ならば帰りの手段としてノエルを呼ばなければならないし、来るのにも時間が掛かる。

 

「あの、なのはちゃんは……」

 

「本当にただの風邪だから心配はない。

 まあ、まだ熱が下がっていないからあまり部屋に入るのはお勧めできないが。

 後、明日も休ませる事になると思う」

 

「そうですか……」

 

 複雑そうなすずか。

 最近のなのはの様子からもしかしたら風邪などという生易しいものではないかもしれないとも考えていたのだろう。

 ただ、普通の風邪であれなのはが体調を崩した事には変わりないのだ。

 

「なのはは大丈夫だ」

 

「はい……」

 

 もう1度敢えて恭也は告げる。

 それは逆に、このなのはの風邪はすずかが心配している、最近のなのはに起きている事に関係していると言っているに近い。

 しかしそれは真実であり、それでも大丈夫だと恭也は思っている。

 それにすずかも信じているだろう。

 

 そうして少し話している間に、表に車が止まる気配がする。

 

「ノエルが来たか」

 

「そうみたいですね」

 

「ああ、すまんな茶も出さないで」

 

「いえ、なのはちゃんの事お願いします」

 

「ああ」

 

 玄関先まですずかを見送り、その後でまた看病に戻る恭也。

 

 

 

 

 

 それから更に6時間後

 

 家の者もほとんど帰宅したが、恭也はまだなのはの傍に付き添っていた。

 夕食もこの部屋で軽く摂り、殆どこの部屋から出る事なく1日が終わる。

 時刻は21時半となっていた。

 

「さて……」

 

 なのはの病状も大分落ち着いた様子なので、1度額のタオルを取る。

 少しなのはに覆いかぶさるようにして自分の額をなのはの額に当てる。

 

 何故かその時、またアリサが騒いでいる様だったが、まあまだ無視できるレベルだったので無視した。

 

 兎も角、熱の方も落ち着いた様だった。

 今はただ静かに眠っているだけだ。

 

「すまないな」

 

 そろそろ良いだろうと、恭也は最後にそう耳元で謝罪し、部屋を出る。

 昼間にジュエルシードが発動しなかったのは幸いだが、この時間からまた危ない。

 なのははまだ出れないから、恭也側で何かと準備が必要になる。

 

「おにーちゃん」

 

 部屋を出る直前、なのはの声が聞こえて振り返る。

 まだ眠っているものと思ったが……

 

「待ってて、ね……」

 

 なのははまだ眠っている。

 ただの寝言だろうか。

 しかし、

 

「ああ、待っているよ」

 

 応え、笑みを浮かべながら部屋を後にする恭也。

 

 そう、恭也は待っている。

 なのはが辿り着くの事を。

 

 

 

 

 

 住宅街

 

 高町家を出て暫くした人気の無い道。

 そこで恭也を待っている人物がいた。

 

「恭也さん」

 

「おつかれさまです、リンディさん」

 

 人の姿で外に立つリンディ。

 手にはデバイスも持っていた。

 

「8割終わりました。

 後は調整を重ねて完成です」

 

「そうですか」

 

 リンディからデバイスを受け取り、そのまま2人で人気の無い道を歩く。

 今日ジュエルシードが発動した場合、恭也とリンディの2人だけで解決するつもりなのだ。

 なのはが風邪をひいた様にフェイトも体調を崩している可能性が高い。

 また、フェイトならば無理に出てきてしまう可能性が高く、しかしそうなると危ない。

 最近のジュエルシードは本当に危険なのだから。

 

 故に、2人は2人だけでジュエルシードと戦う為、リンディはデバイスと融合せず封印を担う予定なのだ。

 既に9割以上回復しているリンディなら、結界を構築し更に封印魔法を1回くらいならギリギリ使える計算になっている。

 

「そういえば、今日は1日中なのはさんの傍に?」

 

「ええ」

 

 だが、それは有事の事。

 今はただ2人は初めて並んで歩くと言う状況での会話をしていた。

 シンクロしてしまえば解る簡単な会話であるが、それも大切な事だろう。

 

「恭也さんには悪いのですけど、そう言うところもあの子とそっくりです」

 

「そうなんですか」

 

「ええ、アリサも昔1度酷い熱を出した事がありまして、その時私はとても帰れる状況じゃなかったんです。

 でも、同じ様に忙しい筈なのにあの子は帰ってずっと傍で看病したんですよ。

 今日の恭也さんの様に。

 ただ、アリサはずっと眠っていて、あの子はアリサが起きる前に出て行ってしまったので、アリサは看病したのは私だと思ってるみたいですけど。

 あの子もそう言うことにしておけって言うし」

 

「そうですか」

 

 そんな他愛の無い昔話をしながら、2人は民家の屋根の上を歩いていた。

 これは見回りであり、リンディ側でステルスの魔法も使っている。

 今日のところはここ住宅街を見回る予定でいる。

 

 何も無ければただの散歩。

 何かがあれば―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜 住宅街

 

 深夜の住宅街に人の姿があった。

 1人の小太りのメガネをかけた青年。 

 怪しげな笑みを浮かべながらフラフラを夜の街を歩く。

 

 ただ、ここは既に本当の住宅街ではない。

 

「本当に出るとはな」

 

「はい」

 

 本来の夜空とは違う空に立つ2つの影。

 デバイスを首から下げ、バリアジャケットを纏い、仮面を着けた恭也とリンディだ。

 

「しかし、こんな奴がこのタイミングでむしろ良かったも知れませんね」

 

「……そうですね」

 

 まだジュエルシードは発動していない。

 しかし、この男が持っている想いというものはどんなものか解る。

 何せ、そういう目つきなのだから。

 

 なんというか卑猥な目つきなのだ。

 

「とてもじゃないが、あの子達の相手はさせられん」

 

「……ええ」

 

 1人は居るのではないかと考えていたのだ、人間の3大欲求の1つを願いとする者が。

 いや、むしろ21のジュエルシードの内、1人くらいはいた方が自然とも言える。

 それが、今回のこの男だったという事だ。

 

 恭也はなのはもフェイトも動けない、これない事をむしろ良い事と考えている。

 結界は完全に外界と隔離するもので、赤星の時と同様に誰も入れない様になっている。

 

 その結界を作ったリンディの方であるが、やや顔が引きつっている。

 視線も敵である対象から逸らしたままだ。

 リンディもやはり女性であり、今回の相手は直ぐにでもこの場を離れたい気分なのだろう。

 

「すみません、耐えてください」

 

「大丈夫です。

 私は時空管理局提督を務める身。

 この程度の事で屈したりはしません」

 

 その様子に気付いて声を掛ける恭也。

 その言葉で今の自分の態度を改め、自分の身分を名乗る事で精神を集中しなおすリンディ。

 

 そう、今回はなのはもフェイトも来ない。

 リンディ1人で浄化封印をしなければならないのだ。

 今あるギリギリの魔力で。

 嫌な相手だからといって精神を乱している余裕など欠片も無い。

 

「発動次第瞬殺します」

 

「……お願いします」

 

 元より瞬殺は確定事項だ。

 リンディの援護もなく、なのはもフェイトも来ないとなると恭也に出来る事は神速による強襲しかないのだから。

 発動しきるまでの時間が勝負だ。

 即座に跳べる様に構える恭也。

 発動するその瞬間を待って。

 そして―――

 

「げへ……へへへ……」

 

 キィィィンッ 

 

 その瞬間は来た。

 だが、今までと若干発動の仕方が違う。

 が、

 

 

 ドクンッ

 

御神流 奥義之歩法

神速

 

 構わず恭也は神速を発動した。

 世界は白黒になり、空気は重くなる。

 その中、まだ完治していないらしく、左目だけは白黒どころか影だけの世界になってしまう。

 しかし、それはもう気にも留めない。

 

 ダンッ!

 

 その空を全速をもって恭也は跳ぶ。

 デバイスの改良は進んでいるが、リンディなしの状態の為、ヘルズライダーによる足場の確保は少し少ない。

 その為、駆けるというより連続跳躍に近いが、しかしそれでも十分な速度は出ている筈だ。

 

「ギャオオオオンッ!!」

 

 が、恭也が跳び出した次の瞬間には防衛機構軍が出現していた。

 いつもよりも早く、しかも100体を軽く越える数を持ってだ。

 更に、

 

「げバぁぁアあっ!」

 

 ズチャッ ドゴォォォォォンッ!

 

 ジュエルシードが持ち手の想いをカタチにする。

 それは所謂触手というもので、男の身体から大量に生えそれが高速をもってリンディに向かう。

 どうやってリンディを見つけたのかは解らないが、正確な狙いだ。

 

「ギャオオオオオンッ!」

 

 防衛機構軍―――いや、今回は見たところ数だけの群れに過ぎない様だ。

 統制がとられている様子はなく、数が多いだけだ。

 だが、それでも異常な数である事は脅威であり、それ等が続々とリンディに向かう。

 

 そう、下劣な欲望をもって、この場にいる唯一の女性にだ。

 リンディが魅力あふれる大人の女性である事が災いしているかもしれない。

 

「……」

 

 キィィィンッ

 

 だが、リンディは静かに魔法に集中していた。

 浄化封印魔法の準備に。

 己に下劣な欲望をもって襲い掛かる大量の闇の獣人や、気色悪い汁を撒き散らす赤黒い触手が迫っているというのに。

 

 1人の女として、この状況が恐ろしくないわけが無い。

 だが、その恐怖以上に信じているものがある。

 やらなければいけない事がある。

 だから―――

 

(させんっ!)

 

 キンッ!

   ザシュンッ!!

 

 リンディに向かう触手、それは恭也が向かおうとしている場所から伸びるものであり、恭也とすれ違う軌道になる。

 故に、恭也はすれ違いざまに八景をもって触手を斬り裂く。

 触手は後からどんどん伸びてくる為、多少斬ったくらいでは意味が無い。

 しかし、これでリンディへの到達時間は稼げる。

 僅かでも、その差が重要なのだ。

 

 ヒュンッ!

   ザンッ! バシュンッ!!

 

 更に、手持ち全ての鋼糸を放ち、防衛機構群の先頭集団を切裂いた。

 全体から見れば無意味に思えるが、しかし恭也の計算ではこれで間に合う筈なのだ。

 

 ダンッ!

 

 駆ける。

 振り向く事なく、敵だけを、ジュエルシードだけを見据えて。

 

 しかしその途中、意外な邪魔が入った。

 防衛機構群は全てリンディに向かったと思ったが、少量だが恭也に向かおうとしているモノが居た。

 しかもそれは持ち手を護る為ではなく、リンディに向けているのと同じ用な下劣な目をしている。

 

(なるほど、この手の想いは何も男だけのもじゃないか。

 それに、場合によっては異性にのみ向けるものでもない)

 

 そう冷静に考えながら恭也は再び八景を抜く。

 神速の中にいる恭也ならば、近づく僅かな数の防衛機構など避けて行ける。

 だが、ジュエルシードに辿りつく事だけが目的ではない為、

 

 ザシュッ!

 

 その場で斬り捨てる。

 しかし、それで本当に僅かだが遅れる事になる。

 

 ダダンッ!

 

 そうやって数体の防衛機構の邪魔を受けながらも恭也は辿り着く、ジュエルシードの持ち手の前に。

 そこで、

 

「はぁっ!」

 

 ドゴンッ!

 

御神流 貫

 

 ここまでの移動速度全てを乗せた右の拳。

 更に今恭也が出せる全ての魔力を乗せた拳だ。

 なのは達と比べれば僅かでも、この場合には意味がある。

 

「ゲ……ハ……」

 

 ボコッ

 

 腹部への一撃。

 触手を出す腹へだ。

 そう、ジュエルシードがあるその場所であり、拳とは丁度逆側、背からジュエルシードが排出される。

 恭也は魔力を乗せた拳による『徹』により、ジュエルシードに対して魔力攻撃を行い、強制排除したのだ。

 

 パシッ!

   ドクンッ

 

御神流 奥義之歩法

神速

 

 それを右手で掴み即座にまた神速。

 間髪入れない発動、世界は白黒で空気も重いまま―――いや、視界に白という色がなくなり掛けている。

 だがしかし、恭也は駆ける。

 たとえ完全に色を失ったとしても、行くべき道は見失う事は無い。

 

 ダンッ!

 

 切り替えし、全速を持ってリンディの下へ。

 既に止まらぬ勢いで放出されている触手と防衛機構郡に囲まれるリンディ。

 

 だが、

 

「光は全てを洗い流し、貴方を許すでしょう

 今この一時、汝に静かなる眠りを与えん」

 

 リンディは続けている。

 浄化の力の収束を。

 全ての穢れを洗い流し、鎮め、清める魔法の光がそこにある。

 

 そう、色を失って尚恭也にも輝いて見えるその光は、リンディそのものと言える力。

 恭也はそれに向かって駆ければよいのだ。

 

「おおおおおっ!!」

 

 ドクンッ!

 

 更に恭也は神速の二段掛けを実行した。

 世界は最早完全に色を失った。

 更に鉛の中を進むが如く空は重く圧し掛かる。

 だが―――

 

 ダダダダダダダンッ!

 

 空を蹴り、昇る。

 リンディの居るその場所まで。

 信じて待ってくれている光がそこに在る限り。

 恭也の全てをもってその信頼に応えよう。

 

「ギャオオンッ!」

 

 ヌチャッ!

 

 防衛機構群の先頭集団がリンディの腕に手をかけた。

 更に、触手の先から飛び出す液体をリンディの服に掛かる。

 

 絶体絶命、絶望のその時。

 その瞬間。

 

「封印っ!」

 

 ズバァンッ!

 

 リンディの浄化封印魔法の発動の声と、その場に疾風が吹くのは同時だった。

 

 カッ!

 

 僅か1秒前までリンディが居た、防衛機構群と触手が目指したその場所にはもう何も無い。

 ただ、光の粒が零れるのみ。

 

 ァァァッ!

 

 そして、その上空には光が上っていた。

 色の無い、影だけの世界に在る恭也でも解る暖かな光。

 その光に包まれ、恭也とリンディは空を昇っていた。

 

 キィィィン……

 

 やがてその光は弱まり、消える。

 だが、同時に、

 

 バシャンッ 

 

 この空間に犇めいていた防衛機構群も触手も闇に還って消える。

 

「ふぅ……なんとか成功ですか」

 

「はい」

 

 恭也の右手にあるジュエルシードは『]X』の白い文字でナンバーを表示していた。

 正常化の証だ。

 

 しかし、

 

 フッ

 

 そのナンバーの表示は薄い。

 今にも消えてしまいそうなものだった。

 

「少し力が足りなかったのでしょうか?

 一応活動は止められた筈ですが」

 

「そうですね……とりあえず行きましょう。

 封印できている事は確かですから、危なければ魔力が回復次第もう1度封印すれば良いかと」

 

 防衛機構群も想いのカタチも消滅し、動く気配は無い。

 それならば大丈夫だと考え、恭也は移動を提案する。

 この後1度行かなければならない場所があるのだ。

 前々回の時は行く事ができなかった場所へだ。

 

「そうですね。

 あ、その前に1度戻ってシャワーを浴びていいですか?」

 

「ああ、はい。

 では隠れ家へ」

 

 何時もの笑みを見せるリンディ。

 しかし、今抱いて飛んでいるのもあり恭也は直ぐに気付いた。

 リンディが震えている事に。

 それに、防衛機構に触れられた場所の服は破け、触手の液体が掛かった場所は衣服が溶けていた。

 

 後1秒恭也の到着が遅ければどうなっていただろうか。

 リンディは想像してしまう。

 もう終わった事であるし信じていた。

 だがそれは紙一重で存在した結末だったのだ。

 

 キィィィィンッ!

 

 今回の被害者を安全そうな路地の裏に移動させ、結界を解除する。

 恭也はリンディの補助の下、恭也だけの魔力でなんとかステルスを掛け隠れ家へ向かって空を駆ける。

 

 この静かな空を2人だけで行く。

 真実何事も無く、この夜はただ静かに月と星を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所

 

 とある高層マンションの屋上。

 立つ人影があった。

 数は1つ。

 黒いマントを纏った影だ。

 

「……来ないですね」

 

『そうですね。

 何かあったのかしら?』

 

 その影と、その影が首から下げる宝玉の中の女性は人を待っていた。

 多少ここへ来るのが遅れたが、しかしそれくらいは問題ない筈なのだ。

 

 しかし、その夜2人の待つ者は姿を現さなかった。

 ただ静かに夜、時間だけが過ぎてゆく。

 

 

 

 

 

第9話へ

 

 

 

 

 

 後書き

 

 8話裏をお届けしました〜

 本格的になのはと戦う事になったりするんで、なのは編と被る場面が増えてまいりました。

 台詞は完璧に同じの筈。

 地の文だけがなのは編と恭也編で違うものになっています。

 なのはにしか解らない状況だったり恭也にしか解らない状況だったりするものの説明があるのですよ。

 

 さて、今回は恭也達も恭也達だけで戦う事がありましたが、まあこれがまた今後のストーリーに影響します。

 どうなるかは、まあ続きを書くしかないのですがね。

 

 では次回もよろしくどうぞ〜。








管理人の感想


 T-SAKA氏に恭也編の第8話を投稿していただきました。

 前話よりも短いとはいえ、またも100キロバイト超えで読み応えは充分ですね。



 なのは編では分からない裏側の話。

 結構向こうに書かれていなかったりズレていたりする部分もあって、やはり読み比べると面白いですね。

 恭也がなのはの身体を拭いて着替えさせたり、覆い被さって額同士で熱測ったりとか、そりゃアリサも睨んだり赤面しますよ。

 客観的に見るともの凄く誤解されそうな事を平気でやるところが恭也の凄いところです。


 あと、場面はそう長くはありませんでしたが、やはり印象に残るのは最後のジュエルシードでしょうかね。

 確かにあっち方面を切望する人間はいるでしょう。

 原作ではどうだったかは知りませんが、作中でもあるように出てくるのが自然でしょうねぇ。

 形状、および効果(服溶かすとか)も正しく有害指定だったし。(苦笑

 今後似たような望みが出るかはわかりませんが、取り敢えず少女達が目に機会が減ったのはいいことでしょう。


 また恭也君は無茶してましたが、目の方は更に悪化した感じで気になりますね。

 そして未だ現れない隠れ家の管理人は果たして出るのか……。



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