闇の中のコタエ

第12話 答えとその先と

 

 

 

 

 

 朝 フェイト拠点

 

 戦いから一夜明けた朝、恭也は再びフェイト達が使っているマンションに来ていた。

 昨晩、セレネを運びこんだ後、恭也は各協力者へ、監視対象が残り1人になった事の連絡や連携の再編成などを行っていた。

 尚、昨晩のフェイトのジュエルシードの前に浄化封印した]\の持ち手であった少女はリスティに回収してもらっている。

 フェイトとの戦いの前にアリサ達が回収していたのを、フェイトとの戦いの後、なのはが眠っている間に1度外に出て運んでいたのだ。

 その少女の処遇を含む外部とのやり取りの為に1度出ていた恭也だが、明け方にその作業を一通り終えて戻ってきた。

 その間にリンディはマンションでセレネの治療にあたっていた。

 そんな夜を過ごした恭也達。

 そして朝日が昇り、朝の8時になった頃。

 

「あ……恭也、そんなところで寝てたの?」

 

「てか、何時戻ってきたの?」

 

「ん? ああ。

 おはよう、フェイト、アルフ」

 

 リビングのソファーで仮眠をとっていた恭也はフェイトとアルフが起きて来た事で目を覚ます。

 

「あ……お、おはよう、恭也」

 

「おはよう」

 

 アルフ以外の者とそんな挨拶を交わすのが久しいのだろう、少し恥ずかしそうに、同時に嬉しそうに微笑むフェイト。

 アルフはそんなフェイトを見ながら、微笑む。

 

「帰ってきたのは先程だ」

 

「え? じゃあ寝てないの?」

 

「いや、1時間くらいは眠れたから問題ない」

 

「問題無いのかよ……

 まあ、アンタなら魔力が無くとも戦えるんだろうが」

 

 恭也の答えに呆れ半分の2人。

 それもそうだろう。

 昨日はリンディやセレネも含めて魔力枯渇状態になったのだ。

 魔力の回復には睡眠が欠かせない為、休息無しの連戦は不可能に近い。

 因みに、魔力量の多いなのはやフェイト、リンディ達が8時間程の睡眠で枯渇状態からほぼ全快できるのは、回復力が極めて高いからである。

 恭也は魔力量が極めて少ないが、回復力も低く、最低でも4時間は寝なければ全快できない。

 現状の恭也の魔力量だと、フェイトから見ればまだ枯渇状態にしか見えないかもしれない。

 

「じゃあ、セレネの所に行ってくるね」

 

「ああ」

 

 それからセレネの部屋に移動するフェイトとアルフ。

 昨晩からその部屋でセレネはリンディの治療を受けて眠っている筈だ。

 リンディは治療を終えて、傍で眠っているだろう。

 それに……

 

「む……」

 

 と、そこで思い出す。

 今セレネの部屋に向かったフェイトには言うべき事があったのだ。

 それは―――

 

 バタンッ!

 

「恭也! セレネが、セレネがいない!」

 

 思い出した直後、セレネの部屋から慌てた様子のフェイトが飛び出してくる。

 その様子は昨晩の戦いの直後、セレネがいたあの『時の庭園』と言う名の研究施設がある移動庭園へ行く方法がなかった時のものと同じだ。

 大切なものが何処か手の届かない場所へ行ってしまう、そんな心配をしているのだ。

 

「ああ。

 セレネならば俺がここへ来た時に研究施設に用があると言って出て行ったぞ」

 

 戻ってきたフェイトにさらっと告げる。

 単純に言い忘れていた事として。

 

「恭也さん、どうして止めなかったんですか?

 あの子は今絶対安静なんですけど」

 

 続いて出てきたのはリンディ。

 笑顔だが、やはり怒っている。

 それは抜け出した上に自分に毛布をかけて行ったセレネにか。

 それとも起きられなかった自分にか。

 もしくは知った上で見送った恭也に対するものか。

 

 まあ、全部だろう。

 

「必要だと言っていたからな。

 俺もアイツも基本的に必要以外で無理や無茶はしない」

 

 恭也とセレネの付き合いなど無いに等しいが、しかし考え方は解っている。

 根本的に恭也と同じと言って差し支えなく、大抵の事は解ってしまう。

 自分でも不思議な感覚だと恭也は思っている。

 

「そうですね……そもそも根が同じですものね。

 恭也さんにセレネを止めてもらうのは無理な話でしたか」

 

「似た者同士だもんな」

 

 呆れるリンディとアルフ。

 

「私、迎えに行ってきます」

 

 その中フェイトはまだ慌てた様子で転送装置に向かう。

 リンディとアルフがやや余裕があるのは、少なくともセレネは自分の限界を理解し、途中で倒れる様な事はないと理解しているからだ。

 フェイトもそれは解っているだろうが、それでもやはり心配なのだろう。

 

「まあ待て、1時間程で戻ると言っていたからな。

 そろそろ戻って来るだろう」

 

「でも……」

 

 そんな会話をしている、丁度その時だ。

 

 ガチャッ

 

 転移装置が設置してある部屋の扉が開く。

 

「ん? あら、皆もう起きていたの」

 

 その扉から現れたのは当然ながらセレネ・フレアロード。

 昨日治療を受けていた為か、病院で着る様な簡素でありながら清潔感のあるシャツとパンツだけの姿で、露出する部分は包帯を巻いている。

 その上に白衣を羽織り、手には紅い溶液が入ったビンを持ち、何でもない風に戻って来る。

 

「セレネ、絶対安静だと言った筈よね?

 しかも、それ……貴方、昨日皆を不安にさせるのが嫌だったからああは言ったけど、瀕死だったって自覚あるの?」

 

「えっ!!」

 

 最早常時と言えるくらい浮かべている微笑みすら消し、本気で怒っているリンディ。

 なのは達の前故に言わなかった真実すら晒し、拘束魔法まで展開し始めている。

 一方、知らなかったフェイトとアルフは驚愕するばかり。

 重傷だとは解っていたが、平気そうに見えていたのも、今驚いている理由の1つだろう。

 

「死ぬ気はないし、ちゃんと計算してるわ。

 それに、これは早い方がいいから」

 

 当然の事の様に告げるセレネ。

 リンディの怒りも軽く流してしまっているかの様だ。

 

「それ、フェイトさんの身体を調整する為の薬よね?

 不完全だった半自立型魔法生命体である『フェイト』を維持、改良する為のもの。

 そして、その材料は―――」

 

「―――セレネの血肉そのもの」

 

 リンディの言葉の途中、真実を告げたのはフェイト。

 恭也とリンディはセレネに何度か会っており、その際普通なら考えられない程衰弱しているセレネを見て気付いていた。

 その原因は、昨晩フェイトと戦った際、フェイトが告げた悩みの中に答えがあった。

 だが、フェイトは知らなかった筈なのだ。

 血肉が材料であると言う事は知っていたのだろうが、その元が全てセレネのものであるなどとは。

 

「知っていたの?」

 

「毎日の様に飲んでいたものだから―――解りますよ」

 

 フェイトは真っ直ぐにセレネを見て問に答える。

 確かに嫌悪したものだ。

 血の味がする薬は、自分が人間でも魔法生命体でもない、中途半端な存在である証。

 だから嫌だと思っていた。

 

 ただそれは、薬そのものへの嫌悪ではないのだ。

 

 それがセレネのものだと気付いたのは、殆どカンでしかない。

 しかし、フェイトにだって解っていたのだ。

 セレネが衰弱している事は。

 そう言う素振りも見せなかったし、外見上の変化は無かったが、様子がおかしい事くらいは解っていた。

 

「そう……そんなところでも私の計画は破綻していたのね」

 

 セレネは自分がフェイトの事を甘く見ていたのだと理解する。

 大凡触れ合う時間は無かったからと言い訳は言えるが、自分が救おうとしていた存在の事を理解していなかったのだ。

 

「で、それは一体何の為の薬?

 昨日の精密検査で、問題は殆ど無かった筈よ。

 最早その子は放っておいても勝手に人間として完成するわ」

 

 昨晩ここへ戻った後、セレネの治療と同時にフェイトとアルフの検査も行われた。

 それによって、殆ど無視できるレベルの問題しか見つからず、フェイトは現状でも人間として問題なく生きていける。

 そんなフェイトに対して一体何の薬が必要だと言うのか。

 

「1つだけあったでしょう?

 まあ、まだ年齢的に早いというだけかもしれないけど―――

 女としての機能が正常かは解らないのよ」

 

「それは、そうだけど……」

 

 無視できるレベルの問題の中に、まだ女性としての機能―――子を宿せるか否かが判断できない、というものがあった。

 命をつなぐ事のない魔法生命体から、命を継承できる人へと成った最大の証とも言える事だ。

 フェイトは人間としては10歳前後。

 なのはと同じ年頃だ。

 その為、まだその機能、要は生理であり、初潮がまだきていないだけなのかもしれない。

 精密検査によって、9割方問題ないとされているが、それでも問題点である事には変わりない。

 

 男には解らぬ問題であるが、昨晩の戦いで、まだ子供を産みたいと望む訳でなくとも、やはり悩みの1つであった事は恭也もよく知っている。

 

「だからその薬。

 気持ち悪くても飲んでおきなさい。

 血の味なのは相変わらずなんだけど、他の問題点の修正も含めてあるから、無駄にはならないわ」

 

 フェイトに手渡す紅い溶液。

 セレネの血肉を使い、正常である人の情報を治療魔法の応用で加工した修正プログラムにも似た薬。

 元々血肉から作られているが故に血の色にして血の味。

 そして、セレネの命そのものといえる水だ。

 

「まさか、これの材料は……」

 

 基本的に修正する情報はその元の情報が必要となる。

 これは女性としての機能の修正情報であり、情報元はセレネの血肉であるならば……

 そう考え、薬を持ちながら血の気が引いていくフェイト。

 だが、

 

「大丈夫よ、別に其の物が直接材料になる訳じゃないから。

 私も流石にそれ自体を材料にする勇気はないわ。

 ……例え、使い物にならない場所でも」

 

「……え?」

 

 そう話すセレネはいつも通りの様でいて、どこか悲しげな瞳をしていた。

 

「セレネ! 貴方は別に生殖能力に問題がある訳じゃないでしょう!

 ただ安静にしていれば何の問題も無く子供は産めるわ」

 

「そう、それに問題はないから、その薬は大丈夫よ。

 私の場合は他の病状があって使えないってだけだから。

 で、リンディ、私が300日も安静にしていられる暇なんてあるの?

 私が武装局員になってから、私が抜けられる様な日は最長でも50日間だった。

 ……ああ、そうか新しいパートナーを見つけたものね、私はお払い箱かしら?」

 

「セレネ……

 ごめんなさいね、ちょっとセレネと話があるから」

 

 最後には目だけ笑っていない笑顔を浮かべ、セレネを強制的に部屋に連れて入るリンディ。

 どうやら完全に堪忍袋が破裂したらしい。

 後に家族の証言を元にすると、過去を見てもトップ3に入るくらいの怒り方であったらしい。

 

「それ、飲んでおきなさいよ」

 

 最後にセレネはそう言って部屋に消えていく。

 

 バタンッ!

 

 扉が閉じた後は、もう何も聞こえない。

 どうやら防音の結界を展開したらしい。

 リンディである事と、相手が重病人である事を考えれば、中で行われているのは説教か、それか無言の威圧だろう。

 どちらにしろ、暫くは出てこないと思われる。

 

「朝から忙しいな」

 

 それを見送った恭也はポツリと呟く。

 平和な時間でしかできない事だと考えながら。

 怒りという感情ではあっても、やはり家族を相手にリンディは活き活きしているのだ。

 これもまた平和な証であろう。

 そして―――

 

「それは飲んでおけよ。

 飲まなければ無駄になるだけだからな」

 

「うん、解ってる」

 

 大凡全ての問題が解決したフェイト。

 身体の問題がこれで解決するならば、残っている問題は恭也達大人の手で解決すべき事だけだ。

 

 フェイトは薬を飲む事自体は良しとしている。

 だが、その前に、

 

「ねえ、恭也は私が子供を産める様になったら嬉しい?」

 

 あの戦いの後、フェイトは全てを受け入れるつもりだった。

 成長せず、女性としても機能しない身体を。

 それを母から始まりセレネやなのは、皆のおかげで人間になる事ができた。

 悩みを受け入れた途端に悩みの種は全て取り除かれたのだ。

 それは嬉しい事には違いないし、皆もそれを望んだからこそ、こう言う結果を得られたのだ。

 

 ただ、少しだけ聞いてみたいと思う。

 全てを受け入れてくれると言った人が、全てを得られた自分をどう思うのかを。

 

「お前が幸いなら俺は嬉しい」

 

 恭也は簡単に。

 しかし、全ての思いを込めた言葉で応える。

 

「フェイト、選べる事は幸いな事だ。

 もし将来お前が子供を望まなくとも、産めぬのと、産まないと選択をするのでは違う。

 選べるというのはそれだけで幸いな事だ。

 だから、俺はお前が選べることを望む」

 

「ありがとう、恭也」

 

 その答えを受けたフェイトは、微笑み、今度こそ迷わず薬を飲む。

 血という生命の証たる色と味のするセレネの気持ちを。

 

「うん、セレネの味だ」

 

「そうか」

 

 全て飲み干し、決して旨いとは言えぬものなのに微笑むフェイト。

 恭也は自然とそんなフェイトの頭を撫でていた。

 

 と、その後、ふいにセレネの部屋の扉が開き、セレネとリンディが出てくる。

 

「ん? 早かったな」

 

 まだ数分しか経っていない筈だと、思わずそんな問をする恭也。

 

「まだ途中ですよ。

 先に朝食にしましょう。

 終わるまで続けたら明日になってしまいますから」

 

 溜息を吐きながら答えるリンディ。

 セレネは平然としているが、どうやら説教をする側の方が疲れるらしい。

 

(フィリスも同じ思いなんだろうな)

 

 セレネのそれは自分にも言える事だと自覚している。

 だが、こうして第三者として見てもやはりセレネの行動は恭也には否定できない。

 しかし、それも当然だろう。

 何せ、恭也は自分の行動が間違っていると思いながら実行したりはしないのだから。

 

「じゃあ、支度するわね」

 

「セレネ、貴方は寝てなさい。

 アルフ、セレネを見張っておいてくれる? 拘束していいから」

 

「あ、じゃあ朝食の準備は私がやります」

 

「俺も手伝おうか」

 

 まあ、ともあれ、今は平和な時間だ。

 恭也もそれを堪能する事にする。

 

 

 

 

 

 朝食後 セレネの部屋

 

 朝食後、恭也、フェイト、アルフ、リンディ、セレネの5名は情報交換の為にセレネの部屋に集まっていた。

 セレネの部屋である理由は、セレネをベッドに縛り付けておく為である。

 

「大体のところは予想がついているのでしょうけど。

 10年前に事故で死に瀕したアリシアを―――そう、実はね、死亡はしてないのよ、その状態からプレシア女史はアリシアをフェイトにした。

 死に瀕した身体から魔法生命体に作り替えたの。

 プレシア女史と、その使い魔リニスがその命全てを掛けてね」

 

「はい。

 私は母さんとリニス、2人の命をもって生きながらえました。

 私は母さんとリニスを―――」

 

 セレネに続き、記憶している限りの真実を告げるフェイト。

 口にしようとしている言葉は、昨晩の戦いでも恭也が直面したフェイトの悩みの1つ。

 過去から引きずる悲哀の感情。

 しかし、そこで恭也はその言葉を止めた。

 

「フェイト、お前はその2人に望まれて生きている。

 『殺した』という言葉にしてしまっては、その2人の気持ちをお前は無視している事になるぞ」

 

「―――はい。

 はい、そうですね。

 私は―――私は2人が繋げてくれた命。

 だから、私はこれからこの命で生きていきます」

 

「ああ」

 

 昨晩の戦いで、確かに恭也はフェイトの心を救ったが、やはりこの問題だけは完全に拭えていなかった。

 それもそうだろう、他の問題はフェイト自身のものだが、これは他者を巻き込んでいる。

 一応昨晩はちゃんと『生きたい』と強く思えたからよかったが、後々ちゃんと対応するつもりであった。

 場合によってはなのはにも協力してもらうことも考えていたが、どうやら恭也の一言で十分効果はあった様だ。

 

「ありがとう、恭也。

 じゃあ、話を続けるわ。 

 使い魔の命がどう計算されるかは知らないけど、大魔導師とその使い魔という2人分の意思と魔力と技術、命を持って尚未完成だった。

 私はその状態だったフェイトを哨戒任務中にあの研究施設『時の庭園』内で見つけ、完成させる為に今日まで裏で動いてきたわ」

 

「フェイトさんを見つけたのは2年前ね?」

 

「ええ。

 やっぱり当時から怪しまれていたのね。

 プレシア女史の残した情報を解読するのに2年かかったのよ」

 

「そう。

 でも、2年前っていうのが解ったのは、今だからこそよ。

 貴方の嘘は本当に厄介なんだから」

 

 同じ艦にいながら、2年間も何をしているかは解らなかった。

 リンディはそれに少なからずショックを受けている様だ。

 1人では背負わせまいとしてきたのに、危うくまた1人でやらせてしまうところだった。

 

「さて、後は―――

 そうそう、これは貴方が持っておきなさい」

 

 簡単であるが過去の話を終えた後、セレネはあるものを取り出す。

 右手につけた指輪、スタンバイモードのセレネのデバイス、AST3から。

 それは黒宝石で、Vという文字が浮かぶ―――そう、正常化されたVのジュエルシードだ。

 

「え? これセレネが封印したの?」

 

 ジュエルシードが発動したらフェイト達は気付く事ができる。

 だからこそ、その全てはなのはかフェイトが封印してきた筈だった。

 だが、例外が存在したのだ。

 フェイトの中にあったものもそうだが、これもまた例外の1つ。

 

「ええ。

 私はジュエルシードの傍にいたし、研究記録もあったからジュエルシードについて貴方達よりよく知っているわ。

 だから解るの。

 ジュエルシードが発動するよりも先に泣き声をあげているのが。

 これは子供を失った母親が持っていたもので、最悪貴方に影響が出そうだから私が封印したものよ」

 

 そう、恭也達の目の前で結界を展開し、封印した1つ。

 恭也達も場合によっては自分達で解決しようと考えていたものだ。

 

 セレネは封印魔法を使う事はできない。

 つまり、これも恭也が持つ]Vや、異例の手段を使って封印した]Xと同じもの。

 フェイトとその内にある]Zの傍に居るからできた浄化封印の結果。

 

「これで残るジュエルシードは]]T唯一つ。

 その後はマスタープログラムよ」

 

「はい。

 あ……」

 

 ジュエルシードVを格納しようとフェイトはバルディッシュを取り出した。

 しかし、そこで思い出す。

 バルディッシュは昨晩の戦いで傷ついたまま復元できていなかった。

 

「バルディッシュ、無茶したわね。

 少し部品交換が必要になるわね」

 

「はい……」

 

 昨晩の戦い、最後になのはに魔力を届け、更にその後幻影破壊の魔法を使っている。

 どうやら外郭を形成する為の部品は交換が必要なまでに破損したらしい。

 

「時の庭園に行けば部品もあるけど……

 そうね、あれを使いましょう」

 

「はいはい、これね」

 

 セレネの言葉に続きリンディが取り出すのはバルディッシュに良く似たプレート。

 しかし、今は中枢たる青の宝玉を失い、死んだデバイスだ。

 

「これは……」

 

 それはフェイトの母プレシアのデバイスであり、昨日までセレネが使っていたもの。

 フェイトとアルフへの魔力供給の補助とジュエルシードの制御の為のものであり、既に役目を果たしたもの。

 

「これも遺品、という事になるかしら。

 使いなさい」

 

「はい」

 

 その後、時の庭園の設備を使い、バルディッシュを修復する。

 母の残したデバイスの部品を組み込んで。

 共に戦い続けるデバイスを。

 

 

 

 

 

 昼

 

 バルディッシュの修復も終わり、昼食も済ませた後。

 リンディはセレネの服を用意すると言って出かけており、セレネも眠っている。

 そんな中、時計を見て恭也は外出の準備をする。

 

「少し出てくる」

 

「どこに行くの?」

 

「少しやることがあってな」

 

 恭也は残るジュエルシード]]Tの持ち手の監視と、その連携の為に月村邸に行かなければならない。

 まだジュエルシードに関わる事件は終わっておらず、その最後の戦いの下準備を進める必要があるのだ。

 しかし、

 

「でも、もうすぐなのは達がきて、情報交換をするんだよ?」

 

 昼にリンディがアリサへ連絡し、なのは達3人は放課後にここへ来る予定になっている。

 互いの情報を交換する為―――というよりもなのは達に裏で起きていた事情を話す為だ。

 それに同席して欲しいとフェイトは思っているのだろう。

 

 しかし、フェイトはそう言いながらも解っている筈だ。

 まだ恭也はなのは達の前には出られない。

 もう殆ど出ても良い状況になっているが、一応まだ最後の1つが残っている。

 

「情報交換についてはリンディが居れば問題ない

 だが―――」

 

 そうだ、情報交換と言う目的ならば恭也は居る必要がない。

 しかし、それでも、

 

「フェイト、もしお前が俺を必要だと思うならば呼ぶといい。

 あの時に告げた通り、俺はお前が必要とするならばそれに応えよう」

 

「え? あ……うん」

 

 少し頬を赤くして小さく頷くフェイト。

 尚、あの時はリンディとのシンクロも無い状態で、その後シンクロしていない。

 その為、あの時の言葉はフェイトと恭也だけしか知らない。

 それを意識した訳ではないが、フェイトは2人しか知らぬ誓いの言葉を思い出して、少し恥ずかしいと思うのだ。

 あまりに嬉しくて、自分がどれだけ幸せかを想って。

 

「では、夜にはまた来る」

 

「うん。

 行ってらっしゃい」

 

「ああ」

 

 フェイト達に見送られて部屋を出る恭也。

 行く先は屋上で、屋上からヘルズライダーを使って移動する。

 普通に玄関から出ると久遠やアリサと出くわす可能性がある為だ。

 尚、非戦闘用の飛翔ならば現状の魔力だけで、且つデバイスが無かったとしても可能になった。

 ステルスだけは予めリンディに掛けて貰っているが、魔力が回復すれば既にそれも恭也単独で可能になっている。

 尤も、やはり恭也に出来るのは飛翔とステルスだけで、それ以上の魔法は努力しても使い物になりそうにはない。

 けれど恭也もこの戦いを経て、もう魔法を使う1人の魔導師となっている。

 デバイスという異世界の技術を頼らなければ戦闘には使えなくとも、十二分に実用できる力を得てしまっている。

 それによるこの世界で内部での事で、恭也の今後に影響する範囲というのは―――

 

 と、それは兎も角、高層のマンションの屋上から空を行く恭也。

 目的地は月村邸。

 飛翔訓練も兼ねて、このまま空を駆けて行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼過ぎ 月村邸

 

 予定通りに月村邸に到着し、今回の協力者の片方から直接報告を受け、今後の動きについて細かい指示を出す。

 何分残り1つとなり、見張るには人員として2人居る為十分だが、最後の1つ故に慎重に行わなければならない。

 更にその後にはマスタープログラムとの決戦もあるので、その話もしておく。

 休憩も入れて2時間程掛かってやっとそれも終わる。

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ様」

 

「お茶、お注ぎします」

 

「ああ」

 

 2人だけの会議が終わり、協力者が出た後部屋に入ってくる忍とノエル。

 場所を提供して貰い、そもそも協力者の彼女も月村の所属と言ってよい者であるし、その他にも月村には何かと協力して貰っている。

 それはこのジュエルシード事件だけでなく、この世界での事件でも同じ事だ。

 しかし、それでも忍もノエルも恭也が求めない限りは基本的に首を突っ込む事はしない。

 

「悪いな」

 

 恭也はそれを望み、それが正しいと考え、それは決して揺らがない。

 だが、それでもやはり2人には迷惑を掛けているという気持ちはある。

 

「いいわよ」

 

「はい。

 それに、彼女も口でも文句を言いますが、アレは楽しんでいると判断します」

 

「そうか……」

 

 ノエルの姉妹とも言える彼女は元々戦う能がある。

 今は自由を手にしたのだから、他にもできる事を見つけて欲しいと願いながら、恭也は今回も戦いに巻き込んでしまっている。  

 それについてもいろいろ思うところがあるが、本人が良いと思っているならば今は良いだろう。

 

「それにしても、こき使う代償としてまた旅行のプランを提示された。

 いっそ観光地の付近に新たな拠点を設けた方がいいかもしれないな」

 

 暇な時は日本だけでなく海外の各地も飛び回る彼女だ。

 セーフハウスを設けてその管理も兼ねて貰う計画も立てておく。

 まあ、彼女にしたら人の娯楽に仕事を織り交ぜるなと文句を言うのは間違いないが。

 

「またセーフハウスを増やすの?

 観光地なら私の家の別荘も各地にあるけど?」

 

「それは可能な限りは使いたくないな。

 まあ、そちらにとっては今更過ぎる気遣いだろうが」

 

「そんな事ないわよ。

 恭也が私に何を望んでいるか理解しているから」

 

 最近いろいろと裏で動く時に使ってはいるが、ここは恭也にとって高町家と同様に平和の象徴たる場所。

 それでも拠点にもなるここは、戦いの場の近くでありながら恭也が安らぐ事のできる唯一の場所と言える。

 

「で、そんな事を言いながらちょっと悪いんだけど。

 時間があったらちょっとファリンの戦闘訓練をしてもらえないかしら?」

 

 が、その家の主にして常に恭也の帰りを待つ女性である忍は話を変える。

 このタイミングで悪いと思いつつも、恭也しか適任がいないと苦笑しながら。

 

「ああ、構わないぞ。

 一応夕方までは時間がある」

 

「そう? まあ、なのはちゃんが来ると流石にできないから、少しでいいんだけど」

 

「ん? ああ、今日はなのはは来ないぞ」

 

「あら? そうなの」

 

 最近は毎日の様に来ている為、忍は今日もなのはが来ると思っていた様だ。

 だが、今日はフェイトの拠点での話し合いがある為、なのはは必ずそちらを優先する。

 

「じゃあ、せっかくだから―――」

 

 なのはが来ないと知った忍は楽しげに計画を変える。

 その後、庭の方でノエルとなにやら準備をしてすずかの帰りを待つのだった。

 

 

 

 

 

 1時間後 

 

「ただいまー」

 

 聖祥付属も放課後となり、すずかが帰宅する。

 

「おっかえりー。

 早速だけど、ファリンの戦闘訓練をするわよ。

 適当に破れたりしても惜しくない服に着替えて頂戴。

 あ、運動着じゃなくて、普段着でね。

 もうこっちの準備は出来てるから、すずかも着替えて準備ができ次第庭に来て」

 

「え?」

 

 帰ってきて早々、玄関でそう告げられるすずかは流石に面食らった様子。

 一応近々ファリンの戦闘訓練をする事は伝えてあるが、少なくとも今日という事前連絡は無かったのだ。

 まあ、実際すずかも参加する事になったのはつい1時間前に決まった事だが。

 

「それは解ったけど、準備が終わってるって、今日もなのはちゃん連れてこようとしてたのに。

 よかったんですか?」

 

「ああ、なのはが来ないのは解ってたからな」

 

「恭也さんがそう言うって事は、そっち絡みだったんですね?」

 

「さてな」

 

「まあいいですけど。

 ところで、スカートでもいいんですか?」

 

「お前は普段着としてスカートの方が圧倒的に多いな?

 ならばスカートの方がいい。

 服は新しく買ってやるから、適当に着てくるといい」

 

「え? あ、はい」

 

 とりあえず状況を把握しきった訳ではないが、対応しようと動くすずか。

 疑問の前に言われた通りに部屋に着替えに戻った。

 

 

 

 

 

 数分後 月村邸庭

 

 着替えを済ませたすずかが庭に出ると、そこにはモニターらしい機械が設置されたいた。

 それもモニターは1つではなく、いくつも並べて展開され、それぞれ違う映像が映っている。

 その映し出されている映像はこの家の庭にある雑木林の様だ。

 

「着替えてきましたけど、なんですか? それ」

 

 すずかが着替えたのはちょっと古くなってそろそろ着れなくなると思っていたスカートとブラウス。

 普段外出する時に着ている服で、何の変哲も無い洋服。

 スカートの丈は長い為、運動をするには不向きな衣服だ。

 

 言われた通りに着替えたが、一体これから何をしようというのか。

 

「これ? これは森の中のカメラが捉えた映像を映し出すモニターよ。

 設置しているカメラは超高感度カメラ。

 勿論音もちゃんとライブで聴けるわよ」

 

「はぁ……」

 

 何をするかと言うのは、先程ファリンの戦闘訓練という言葉で理解できている。

 しかし、それとこれ等が一体どう繋がるのかが解らない。

 

「これから行うのはファリンの戦闘訓練だ。

 そして、ファリンが戦闘すると言う場合、それは第一にお前を護る時だろう」

 

 忍の足りていない説明にヒントを出すような形で応える恭也。

 そのてに武器を持って。

 その武器とうのも、両手に一本ずつの太刀だ。

 

「つまり、庭の雑木林を舞台として、ファリンが私を恭也さんから護り通す、という訓練なんですね?」

 

「そ。

 ルールは簡単。

 家の雑木林を含めた裏庭、奥と両端は壁まで、手前側はその紅いレーザー光線をラインとする範囲内で10分間恭也から逃げられればOK。

 恭也も決まったエリア内しか移動しないわ。

 時間内に恭也に殺されるか、エリア外に出てしまったらアウト。

 尚、恭也は私が作った訓練用の武器を持ち、斬った場所に血糊が飛び出すものを使用。

 すずかは脚とかにそのダメージの証を受けたら脚を使っちゃダメよ?

 ファリンの場合は、恭也の手加減で小破まで許可を出してるから、実際に関節とかを壊しにくるからそのつもりで」

 

「基礎はプログラムされているらしいからな、実戦に近い形の訓練だ。

 服もその為に選んでもらった。

 確実に破損するから、そのつもりでいろ」

 

 黒の上下と黒皮のジャケット、そして二刀の太刀をもってそこに立つ恭也。

 対するは、

 

「がんばります!」

 

 修復を重ねているが、まだバランス感覚が危うい、しかし事実として護衛用自動人形であるエーディリヒ型と同型のファリン。

 小型であるが忍によって改良を加えられている為、そんじょそこらのシークレットサービスでは歯が立たない位の戦闘力は持っている。

 

「えっと、よろしくお願いします」

 

 そして護られる対象であるすずか。

 しかし、幼くとも夜の一族の血を引く娘だ。

 身体能力は一般的な人間の成人男性くらいなら軽く越えるだろう。

 先程まで何をするのか解らないでいたが、既に気持ちは切り替えている。

 

「で、こっちで戦況を記録しておくからね〜」

 

「皆さんがんばってください」

 

 戦場の外で、忍とノエルが皆を激励する。

 のん気という風にも見えるが、しかし2人とも真剣だ。

 忍もノエルも今後の為にファリンのデータを取るのが目的だし、これは同時にすずかの護身訓練も兼ねている。

 

「では、準備を」

 

 すずかとファリンが雑木林に近い場所に立ち、恭也が屋敷側の終点である紅いラインのギリギリ内側に立つ。

 檻の様に設置されている数本の紅いレーザーは、触れても痛くないが、触れてしまうとブザーが鳴って敗北を告げる仕組みになっている。

 戦闘エリアは大体雑木林のエリアが半分と何も無い芝生のエリアが半分。

 広さは学校の体育館2つ以上ある筈だ。

 今すずかとファリンは並んで立ち、恭也との距離は10m程。 

 

「がんばろう、ファリン」

 

「あ、はい!」

 

 ファリンにそう言って、ウインクするすずか。

 受け取ったファリンは一瞬ビックリした様だが、頷き、応える。

 

「そこでいいのか?

 俺は今回すずかの暗殺を依頼されたプロの殺し屋だ。

 まあ、少し変わった癖で、殺す相手の前に出るという性癖を持っている、としておく」

 

 恭也は既に抜刀している。

 だが構えずに、ただ持っているだけ。

 切っ先は地面付近にあり、恭也の手で宙に浮いているだけの状態だ。

 

「はい、解りました」

 

「準備OKですよ」

 

「そうか……では始めよう」

 

 構えるすずかとファリンに対し、やはり刀は構えず、地面に下げたままでいる恭也。   

 

「じゃあ行くわよー!

 よーい―――スタート!」

 

 バンッ!

 

 まるで徒競走の合図の様に、火薬の爆ぜる音で開始を知らせる忍。

 動きがあったのはそれと同時だった。

 

 ヒュンッ!

 

 風を切る音が混じる。

 爆音に消えて聞こえぬが、しかし確かに存在する音として。

 それはファリンが放った投げナイフだ。

 袖に仕込まれていたナイフ2本を地面スレスレ低い位置から恭也の脚に向けて放つ。

 勿論、訓練用の刃が無いナイフだが、当たればそれに従い恭也は脚に負傷を持った事になる。

 更に、

 

 タッ!

 

 すずかが前に出ていた。

 助走を付けて跳び、恭也に当て身をする気だ。

 

 この訓練のルール、エリア外へ出た場合はアウトとなるのを護られる側が攻撃として利用する。

 そんな機転を利かせた行動だ。

 この作戦は先程開始する前に、話し合わずにファリンと僅かな意思疎通だけで成り立ったもの。

 確かにファリンの装備と、すずかの瞬発力を持ってすれば、こう言う奇襲も在り得る。

 

 しかし―――

 

「あっちゃー」

 

「そう言えば、ファリンもすずかお嬢様も恭也様の実力は知りませんでしたね」

 

 後ろで見ていた忍とノエルは揃って自分達の失敗に気付く。

 自分達にとっては最早当たり前の事実、それを伝えていなかった。

 暗殺者に襲われるという想定からすれば、相手の手の内が解らないのは当然なのだが、今回はすずかが知っているつもりの相手というのが問題となる。

 

「ふむ」

 

 フッ

 

 構えていなかった恭也は右手の太刀を手放す。

 それを、

 

 ガッ!

 

 蹴り飛ばした。

 目標は低空飛行で跳んでくるナイフ。

 

 ガキンッ!

 

 回転しながら跳んでいた太刀は絡めとる様にナイフを弾く。

 更に、

 

「えっ?」

 

 予想外の動きに恭也に向かっていたすずかの動きが一瞬止まる。

 そこに、

 

 ブンッ

 

 伸びたのは太刀を手放した右手。

 

「がっ!」

 

 その手は動きがとまっていたすずかの首を掴み、そのまま宙釣りにしてしまう。

 腕の長さの違いで、すずかの手は恭也に届く事はない。

 更にその直後、

 

 ヒュッ!

 

 左手の太刀がすずかの右胸に添えられる。

 

「……あ、お嬢様!」

 

「遅いぞ、ファリン。

 すずかは死んだ」

 

 ドサッ!

 

 静かな声と共にすずかを離す恭也。

 すずかはそのまま地に落ち、尻餅をついた形で動かない。

 今の一瞬の出来事の理解が追いつかないのだ。

 

「まあ、確かに正体不明の相手だ、奇襲を掛けるのも手ではある。

 ルールを利用したのもいい発想だし、あの一瞬で意思疎通が取れたのも見事だ。

 しかし―――」

 

 一言置く。

 すずかとファリンが正しかった事を述べた後で。

 

「しかしだ、すずかもファリンも自覚が足りないな。

 すずか、如何に身体能力が優れていても、お前は所詮小娘だ。

 ファリン、お前はまだ9歳の子供を護らなければならない。

 そして、俺はプロの殺し屋であると設定を述べた筈だぞ? プロ、と言う言葉の認識が甘いな」

 

 静かに、ただ静かに告げる。

 感情の無い声で。

 しかし、その言葉には確かに伝わるものがある。

 

 そう―――次は無い、と。

 

 だが、その後にも言葉は続く。

 

「いや―――すまんすまん、俺も訓練だからと少し手を抜いていた部分があるな。

 ああ、初心者相手ならこれは確かに俺のミスだ。

 では―――」

 

 静かにそう告げる恭也。

 そして―――

 

 ブワッ!

 

 冷たい風が……いや、そんな生易しいものではない『何か』が吹いた気がした。

 恭也を中心に、この月村家の屋敷全体を覆うほどに。

 そう、周囲が一瞬にして『何か』に覆われた。

 

「あ……」

 

 その『何か』に、すずかは言葉らしい言葉を出す事ができず、ただ震えた。

 

「なに……これ……」

 

 それは機械の身であるファリンすら本来無い筈の寒さを感じる。

 その『何か』とは―――

 

「覚えておけ、これが『殺意』であり。

 人に向けられる『殺気』だ」

 

 訓練だからと、恭也が全く出していなかったものがあった。 

 最近は実戦も多く、逆に恭也にとっては平和の象徴でもある月村邸で、すずかとファリンが相手だからこそ忘れていたもの。

 この2人に対しては本来ある筈のないものを、恭也は敢えて作り出し、放つ。

 この2人の訓練の為に。

 この2人が、本当に誰かに狙われた時にそれを感じ、生き延びられる様に。

 

「さあ、やり直しだ。

 立てすずか」

 

「は、はいっ!」

 

 視線を向けられ、すずかは慌てて立ち上がり、夜の一族の身体能力をフルにつかって一気にファリンの傍まで下がった。

 だが、ファリンの後ろに立っても尚も気持ちが後方へと向いている。

 この殺気が恐ろしくて、逃げ出したい気持ちがあるのだ。

 それを、これは訓練だと自分に言い聞かせながら堪えている。

 そこへ、恭也の言葉が続いた。

 

「さて、設定を追加しよう。

 解り易い設定だ。

 俺はかなり特殊な性癖を持った殺し屋だ。

 無力な者を好み、特にすずかの様な愛らしい少女を切り刻みながら犯し、苦痛に歪む顔を眺め、悲鳴を聞く事を至上の悦びとする外道だ」

 

 ドッ

 

 言葉と共に場の雰囲気に追加される気配がある。

 それは人間としての心が告げる危機感と、女性として知識のあるすずかならば解る危機感。

 自分を見ている絡みつく寒気と視線と嫌悪感。

 今まで実戦を経験し、更にジュエルシードに触れた恭也だからこそ出せる本物の敵意と劣情だ。

 

「事実としてそういう輩は存在するし、もっと悪質な奴も居る。

 いいな、両者とも訓練だと思うな。

 ―――死ぬぞ」

 

 ザッ

 

 今度は開始前に恭也は構える。

 太刀は一刀手放したままだが、すずかを狙い、低い姿勢をとる。

 開始から即座にすずかに向かって飛び掛らんとするケダモノの姿勢。

 

「―――」

 

「―――」

 

 ザッ!

 

 それを見て慌てた様子で構えるすずかとファリン。

 そこへ、

 

 バンッ!

 

 開始の合図が鳴った。

 

 ダンッ!

 

 同時に今度は恭也が動く。

 地を蹴り、一気にすずかとの距離を詰める。

 

「あ……」

 

 神速は使っていない。

 だが、夜の一族の高い動体視力を持って尚速過ぎる恭也の動きにすずかの行動が遅れる。

 そこに伸びるのは恭也の太刀。

 今回は一撃で殺さず、しかし逃がさぬ様に脚を狙った切り下しの斬撃が疾る。

 

 ガキンッ!

 

 だが、そこへファリンが割り込む。

 スカートの下に隠されていた小太刀二刀を持って恭也の斬撃を止める。

 

「お嬢様、お逃げください!」

 

「あ、うん……」

 

 ファリンの声に正気の戻り、雑木林の中へと逃げ込むすずか。

 だが、その間にも、

 

 ガキンッ!

 

 恭也は地面に落ちていた太刀を蹴り上げる。

 そして、両手で振り下ろしていた太刀を左手だけに持ち替え、空いた手で蹴り上げた太刀を掴んだ。

 そこから、即座に放つのは横薙ぎの斬撃だ。

 

 ブオンッ!

 

「くっ!」

 

 ガキンッ!

 

 ファリンも振り下ろされた太刀を押さえるのを左の小太刀だけにし、右の小太刀で横薙ぎを止める。

 だが、そこへ更に恭也の脚が動いている。

 この動作の間に既にそれができるだけの重心移動が済まされている。

 

 ガッ!

 

「グッ!」

 

 がら空きだった腹部に恭也の蹴り直撃し、体勢を崩すファリン。

 しかし、ファリンは小柄であっても自動人形であり、見た目よりも体重が重く、力も強い。

 その為恭也の蹴りを何とか耐え、倒れる事なく直ぐに体勢を立て直す。

 が、

 

「え?」

 

 既に目の前に恭也の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 その頃、モニター前の2人は雑木林に入ったすずかを見ていた。

 

「いやー、凄いわねぇ。

 恭也、こんな事もできたんだ、嬉しい誤算だわ」

 

「はい。

 私もここまで濃密な殺気と危機感を感じるのは初めてです」

 

 今この時、直接現場にはいない2人にも恭也の放つ殺気や嫌悪すべき思念は届いている。

 それは直接向けられていなくとも逃げ出したいという気持ちが沸き起こり、意識して抑えなければならぬ程だ。

 そんなものを直接向けられているすずかとファリンは一体どれ程の恐怖と嫌悪を感じているだろうか。

 

 これほどの威圧感、夜の一族の力を全開にした忍でも出せないだろう。

 それは、忍が所詮本物を殆ど知らないからだ。

 1度狙われ、命の危機も感じたことはあるが、それでもまだ薄い。

 

 しかし恭也は違う。

 ジュエルシードに触れた事もあるが、それ以前に、恭也は多くの実戦を経験し、本物の殺気を浴び、本当に嫌悪する相手と相対した事がある。

 どうしようもない現実と向かい合い、吐き気のする人間の裏側というのを知っているのだ。

 だからこそ、これ程の濃密な闇を再現できる。

 

「でも純粋よね、その思念が。

 矛盾してるけど全部純粋だわ。

 それに、本来なら混じるものが欠けてる」

 

「そうですね。

 まあ、恭也様ですから。

 だかこそこれを体験すれば、本物を確実に見分けられます」

 

「ええ。

 そうよね、これは嬉しい誤算なのよ。

 すずかとファリンにとっては良い経験になるわ。

 それに、殺気の元を辿れば相手を見つけやすいし、狙いも読みやすい」

 

「そうですね。

 後は、お2人がそれを理解し、上手く逃げ切れるかです」

 

「さあ、恭也は本気で訓練してくれているわよ。

 がんばりなさい、2人とも」

 

 怖いし、辛いだろうが良い経験になる、そう考えて忍とノエルは2人に声援を送る。

 

 

 

 

 

 雑木林に入ったすずかは奥へと走り、壁に着く前に進路を変える。

 真っ直ぐ走っているだけではすぐに壁にぶつかるし、それ以前に追いつかれてしまうかもしれない。

 ファリンの戦闘力の高さは知っているが、真正面からの勝負ではなく、自分が目的なのだ。

 それを改めて理解し、できるだけ距離を取ろうと考える。

 しかし、多少広い敷地とはいえ、限りある空間だ。

 何処へ逃げても安全な場所はない。

 それどころか―――

 

「護衛と離れすぎだぞ」

 

「え?」

 

 声がした、それも真上からだ。

 声の方向に振り向いたその時、

 

 バッ!

 

 黒い影が降ってくるのが見えた。

 夜の一族の高い動体視力だからこそ、訓練もなしに捉えることができ、

 

「きゃぁっ!」

 

 動く事もできた。

 

 ヒュンッ!

 

 だからこそ、舞い降りた影、恭也の一撃の直撃を避ける事もできた。

 だが、

 

 ビチャッ!

 

 斬撃が頬を掠める。

 太刀に仕込まれた血糊は放たれ、本当に斬られたかのようにすずかの頬に血が滴れる。

 

「あ……」

 

 痛みが走った。

 それは幻痛だ。

 実際斬られた訳ではないし、流れているのはただの血糊。

 

 しかし、それでも斬られたとしか思えないのだ。

 この空気の中、相手の鋭い殺意があり、視覚でも血を確認できる。

 だから本当に斬られたのだと、勝手に脳が解釈して、そんな錯覚が生まれる。

 

「ああ……」

 

 すずかは反転して逃げ出す。

 夜の一族である高い身体能力を最大限に活かして駆ける。

 その速度は恐怖の後押しもあって一般人では絶対に追いつけない速さと言える。 

 だが、

 

「かなり深い傷だ。

 夜の一族の再生能力が高くとも、暫くは友達に―――なのはに顔を見せられないな」

 

 直ぐ後ろから声が聞こえる。

 全く逃げられている気がしない。

 

 それにこのままでは―――

 

(なのはちゃんに2度と会えなくなる)

 

 これは訓練だ、などという感覚はもう何処かへ消えている。

 この濃厚な殺気と敵意と劣情の念を浴びて、一体何処に訓練などという思考が残るだろうか。

 今自分は人を切り刻みながら犯す殺人鬼に狙われていると、そう気持ちが完全に切り替わっている。

 ルールとしてあっただけの範囲制限は残りながら、しかし殺されるという危機感も共存する。

 恭也が放つこの空気が、訓練である筈のこの場に高いリアリティーを作り上げているのだ。

 

「ファリンッ!」

 

 すずかは名を呼んだ。

 自分から雑木林に入り、敵を撒いた。

 しかしそれは同時に味方からも位置が解らなくなるのだ。

 そして今や敵に発見されている状態だ。

 ならば、味方に自分の位置を知らせなければならない。

 

「お嬢様!」

 

 答えは直ぐに、近くから聞こえた。

 ファリンも探して追いかけていたのだ。

 ちょうどすずかを追っている恭也の後ろにファリンが現れる。

 

「はっ!」

 

 ヒュンッ!

 

 ファリンが放ったのはナイフ。

 最初に投げたものと同様、袖に隠している暗器。

 現在の速度を計算し、例え恭也が回避してもすずかには当たらない様に放つ。

 

「ふっ!」

 

 タッ!

 

 それを恭也は移動して回避する。

 更にその移動、木の陰に隠れる事で姿を眩ます。

 

「お嬢様」

 

「ファリン」

 

 姿が見えなくなった恭也を警戒しつつ合流する2人。

 2人は木を背にしながら周囲を見渡す。

 下手に動くと危険だと判断して。

 

(どこに……)

 

 2人は共に並の人間とは違う。

 何度も述べる様にすずかは夜の一族として人間よりも高い知覚を持っている。

 ファリンは機械の身であるからこそできる捜索をする。

 といっても、ファリンは完全戦闘仕様として作られている訳ではないし、今も通常装備しかしていない。

 その為高度な捜索はできないが、それでも並の人間よりは格段に上だ。

 

 カサッ

 

 感覚を研ぎ澄ます中、物音が聞こえる。

 真上からだ。

 

「お嬢様!」

 

「きゃっ!」

 

 すずかを突き飛ばすファリン。

 同時に真上から降ってくる光を反射させた金属に小太刀を向ける。

 

 ガキンッ!

 

 迎撃は成功し、振ってきた太刀を弾く事ができた。

 だが、

 

「しまっ!」

 

 振ってきたのは太刀が一刀のみ。

 恭也の姿はない。

 

「―――っ!

 お嬢様! 伏せて!」

 

 罠だと理解し、突き飛ばしたすずかの方に視線を向ければその後ろに恭也が迫っている。

 振り上げた太刀はすずかの腕を切り落とす為か、少なくとも本気の斬撃だ。

 

「―――っ!」

 

 フッ!

 

 言われたとおりすずかは身を屈める。

 そうする事で、ほんの僅かだが斬撃が到達するまで時間ができ、更にファリンから恭也への道ができる。

 

「はっ!」

 

 ヒュン!

 

 そこに割り込ませるのは投げナイフ。

 恭也の急所を狙ったもので、恭也は無視する事ができない。

 

「ふっ!」

 

 ガキンッ!

 

 それはアッサリ防がれてしまうが、そのナイフの後ろに続くものがある。

 それは小さな金属の球体。

 

「―――っ!」

 

 ガッ!

 

 反射的に恭也はそれを斬り返す太刀で切り落とそうとする。

 だが、刃がその小さな球体に当たったその瞬間、

 

 カッ!

 

 強力な閃光が周囲を支配する。

 小型の閃光弾だ。

 その光が収まった後には、ファリンもすずかもそこには居ない。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「お嬢様、大丈夫ですか?」

 

「うん、なんとか……」

 

 閃光弾を使い恭也から逃れた2人は雑木林の別の場所に居た。

 走ってそれなりの距離は稼いだが、それも気休めだろう。

 息を整えながらも2人は周囲を警戒する。

 そうしながらこれからのことを考えるのだ。

 

(強い強いと聞いていましたが、よもやこれ程とは……

 やはり『強さ』というのはデータだけでは解りかねます)

 

 これでも恭也が本気ではないのだろうと、なんとなく解る。

 だが、兎も角今この状況をなんとか打開する手は無いものか。

 

 そもそもファリンはエーディリヒ型を元にして小型化されたモデルである。

 パワーの代わりにスピードを多少得ているが、内蔵する武装はノエルより少ない。

 しかも突然の来襲というセッティングの為、ファリンの装備は通常装備だ。

 つまり、普段から身に着けているものしか持っていない。

 袖に仕込んでいたナイフは撃ち尽くし、残る武装は閃光弾3発と炸裂弾4発、それと小太刀だ。

 

 ファリンはノエルよりも小柄な事もあり現在ロケットパンチはオミットされている。

 その代わりとして、メイド服にナイフや閃光弾、炸裂弾が仕込まれている。

 これは恭也が暗器を装備しているのを参考にしたものだ。

 更にファリンはパワーがない為、ノエルの様なブレードではなく、手に直接持つ軽い武装が選択された。

 それについても忍はその対象として、信頼している護衛でもある恭也の主武装たる小太刀をファリンに持たせたのだ。

 忍が知りうる限りの恭也の剣術をプログラムとしてインストールし、今こうして振るっている。

 

 だがやはりそれも不完全だし、そもそも体格の違いや情報のズレなどから恭也の動きを再現できる訳ではない。

 炸裂弾も低威力なのは訓練用装備である所為もあるが、それ以前に元々殺傷能力は無いに等しい。

 攻撃方法は破片式でも炎熱式でもなく、爆風だけで、小型だから威力も低くその衝撃波は0距離でも成人男性の全力パンチ程度の威力しかない。

 足元にばら撒き牽制とするか、攻撃として使う場合には数発重ねて投げつけなければ効果は薄い。

 こんな装備ではとても恭也には敵わないだろう。

 単純なパワーだけなら恭也より上だろうが、逆に言えば勝っている部分はそれしかないかもしれない。

 

(それは良いでしょう。

 勝つ事が目的ではありません。

 私は―――)

 

 そう、そもそもこれは勝つ為の訓練ではない。

 

「お嬢様、私が護りますから」

 

 誓う。

 すずか専用としてロールアウトされた身でありなが、自ら望んですずかを護るのだと。

 

「ファリン……

 ありがとう」

 

 ファリンの言葉に微笑むすずか。

 だが、

 

「美しい誓いの言葉だな」

 

 直後声が聞こえる。

 すずかの真後ろから。

 

「お嬢様!」

 

「あっ!」

 

 即座にすずかの手を取り、自分の後ろへと投げる様に庇うファリン。

 その次の瞬間には、直前まですずかが居た場所には恭也が現れる。

 既に右手の太刀を横薙ぎに払う動作に入っている。

 しかし、

 

(これは―――お嬢様を狙ったものじゃない!)

 

 すずかを斬るには間合いが近すぎる。

 そう、先程まですずかが居た場所に今恭也が踏み込んでいるのだから、明らかに距離がおかしい。

 

(これは、最初から私を!)

 

 そう気付くと同時に小太刀を構える。

 だが、遅かった。

 

 キィンッ!

 

 太刀が疾る。

 刃など無い、訓練用の太刀が。

 ファリンの目の前を通り過ぎてゆく。

 

 ゴト

 

 直後、重い音がした。

 地面から、何かが落ちた音だ。

 それは―――

 

「ファリンッ!」

 

「くっ! お逃げください、お嬢様!」

 

 手を無くした右腕で恭也の進路を阻みながら左の小太刀を構えるファリン。

 だが、そうしている間にも恭也は動いている。

 

「はっ!」

 

 ヒュォンッ!

 

 左の太刀で刺突が放たれる。

 殆ど0距離からの刺突だ。

 しかし、それでも尚恭也という人間の全身の筋力を余すところなく駆使し、身体を捻った動きで放たれる鋭い刺突。

 

「ぐっ!」

 

 キィィンッ

 

 小太刀で受け流しながら避けるファリンだが、頬を掠める。

 だが、恭也の攻撃はまだ続く。

 

 ガッ!

 

 太刀を手放した左手を伸ばし、ファリンの顔を鷲掴みにするのだ。

 そして、そのまま投げ飛ばそうとする。

 しかし、

 

「これでっ!」

 

 左手から炸裂弾を取り出し、投げつけようとする。

 だが、

 

「甘い!」

 

 ガッ!

 

 感づいた恭也は炸裂弾を持った右手を太刀の柄で叩く。

 

「あっ!」

 

 その衝撃で手から零れ落ちる炸裂弾。

 

「1度見せた手だ、工夫もなしに2度も使えると思うな」

 

 その言葉を置き去りに、ファリンを離し、後退する恭也。

 そして、ファリンの手から零れ落ちた炸裂弾が地面に接触する。

   

 カッ!

  ドォォォンッ!

 

「―――っ」

 

「きゃぁぁぁ」

 

 小規模ながら立派な爆弾の爆発。

 足元で爆発したファリンは大きく体勢を崩し、離れていたすずかも音と衝撃で転倒する。

 

「貰ったっ!」

 

 その隙に恭也がすずかに迫る。

 転倒しているすずかに太刀を振りかぶり、斬りかかる。

 だが、その時、

 

「まだ……まだですよ!」

 

 ダンッ!

 

 ファリンは体勢を崩しながらも、傍の木の幹を左手で掴み、その手に力だけで跳ぶ。

 すずかの下へ。

 爆風で服はボロボロになり、右足は損傷してしまっているが、それでも―――

 

 だがしかし、

 

「だろうな」

 

 恭也はそれに驚く事はなく、寧ろそれを待っていたかのように切っ先を変える。

 跳んでくるファリンに。

 

「このっ!」

 

 予測されていた、そう考えながらもファリンは蹴りを放った。

 正常な左足による回し蹴りだ。

 今の体勢からできる精一杯の攻撃。

 すずかを護る為、恭也を止める為の渾身の一撃だ。

 だが、

 

「誓いは本気で、気迫も素晴らしい。

 だが、それだけで全て通せる程この世の中は甘くない!」

 

 キィンッ!

 

 恭也の太刀は振り下ろされる。

 そして、その太刀筋は止まる事なく振りきられ、

 

 ゴトッ

 

 地面に落ちる冷たい音。

 ファリンの左足が転がった。

 更に、

 

「はっ!」

 

 ドゴッ!

 

 通り過ぎざま、恭也の肘がファリンの後頭部に入る。

 

「すずか……お嬢……さま……」

 

 ガダァンッ!

 

 最早受身を取る事もできる地面に落下するファリン。

 そして、もう動かない。

 

「今の打撃、人間で言うなら脳震盪と同じ効果があるだろう。 

 暫くはまともに動けまい。

 まあ、右手と左足を失い、右足も損傷してはどの道立つ事もままならないがな」

 

 恭也は1度自動人形達と戦った事があり、自動人形を修理する事のできる忍が傍に居る。

 だからこそ知っているのだ。

 自動人形の構造を、破壊の仕方というものを。

 

「あ……ぐ……」

 

 事実としてファリンの意識は朦朧として、身体は言う事を聞かない。

 神経とも言える情報伝達系回路の密集箇所を強打された事で、情報伝達が混乱しているのだ。

 まともな回復には数十分は掛かる筈だ。

 

「さて……」

 

 ファリンから視線を外し、今度こそすずかを狙おうとするが、しかし既にその場にすずかは居なかった。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 すずかは雑木林の中を走って逃げていた。

 ファリンを置いて。

 

 それは正しい選択だ。

 もし残っていたらファリンが作った隙を無駄にした事になる。

 ファリンが護ろうとしてくれた気持ちを無駄にする事になるのだ。

 だから―――

 

「でも……私……」

 

 正しい。

 そう理論的には解っている。

 しかし気持ちの上ではそうはいかない。

 事実としてすずかはファリンを見捨てて逃げたのだ。

 自分の命が惜しくて。

 

 訓練だという感覚が無い以上、ファリンを完全に失ったのだという感覚すら覚える。

 親しい人を失ったのだという悲しみと恐怖を感じているのだ。

 そこへ、

 

「冷たい主人だな。

 がんばった従者を見捨てるとは」

 

 恭也の声が雑木林に響く。

 何処からとも無く聞こえてくる低い声が。

 

「あ……」

 

 すずかは立ち止まった。

 今の声、一体何処から聞こえたのかが解らない。

 人よりも高い感覚を有している筈なのに、そんな事が判別できない。

 

 だが、その次の瞬間、

 

「だが、それで正しい」

 

 ヒュオンッ!

 

 言葉と共に風を斬る音がする。

 それも背後からだ。

 

「きゃぁぁっ!」

 

 すずかは叫び声を上げながら逃げようする。

 だが、回避は間に合わない。

 

 ザシュッ!

 

 恭也の太刀が右肩を通過する。

 

 バシュッ!

 

 そして、まるで斬られた肩から噴出したかの様に付着する血糊。

 右腕が、肩から切り落とされたのだ。

 ファリンの手足が切り落とされた様に。

 

「あ……ああ……」

 

 痛い、そう思いながら右肩を押さえて逃げるすずか。

 しかし、痛みから目の前がはっきり見えず、すぐに転倒してしまう。

 前向きにのめり込むように倒れるすずか。

 

 そこに、

 

「もう終わりか」

 

 ヒュオンッ!

 

 太刀が振り下ろされる。

 

「いやぁぁぁっ!」

 

 バシュッ!

 

 左足のふくらはぎを貫かれる。

 最早立ち上がることもできない。

 そんなすずかを、

 

 ガッ!

 

 恭也は自分の方を見るように蹴り起こす。

 丁度、恭也に向かって膝を折って座った形になるすずか。

 

「が……」

 

 蹴られた脇腹が痛み、吐きそうになる。

 だが、吐き捨てる事すら許されない現実が今目の前にあるのだ。

 虚ろな瞳で恭也を見上げる。

 最早どうしようもない絶望を。

 

「さて、どうしようか」

 

 ヒュオンッ!

 

 また太刀が振り下ろされた。

 丁度すずかに向かって垂直に。

 

 パサ

 

 刃など無い筈の太刀が振り下ろされると、すずかのブラウスとスカートの前が切れる。

 肌は一切傷つける事なく、肌に密着している下着まで綺麗に前面を切られている。

 まだ肩や膝に掛かっている状態の為、僅かに肌が露出しただけで、しかしもう全て衣服としては役に立たない。

 

「お前はなかなかの上玉だ。

 それなりに楽しませてもらおうか。

 それに―――そうだな、犯し、手足をゆっくり切り落として、最後は膣と尻から槍を突き入れて口まで貫こうか。

 その串刺は月村家に郵送するとしよう。

 忍へのプレゼントとして。

 さぞ忍は喜んでくれるだろうな。

 一生分の声を使い果たすくらいの盛大な喜び方をしてくれるだろう。

 いや、いっそなのはの下に送るのもいいな、どの道忍は家族として遺体を確認しなければならないのだ。

 これで高町家も月村家も2度と笑う事はあるまい。

 ああ、一体の人形が自分の誓いを護れないばかりにな」

 

 恭也はそう愉快そうに言いながら太刀を振り上げる。

 狙うのはすずかの左腕だ。

 まずは四肢を切断しようと言うのだろう。

 

「さあ、まだ悲鳴が足りないか?」

 

 ヒュンッ!

 

 そう誰に無く問い、太刀を振り下した。

 その時、

 

「ファリンッ!」

 

 虚ろなすずかの瞳に光が灯り、名を呼んだ。 

 最早動けずに地面に転がっている筈の従者の名を。

 だが、

 

 ダンッ ダダダダダンッ!

 

 音が聞こえる。

 この雑木林の中を、何かが木々を叩いている。

 そして、

 

「お嬢様っ!!」

 

 現れたのはファリン。 

 立てぬはずの身で、この雑木林の中を飛び跳ねて駆けつける。

 

「来たか!」

 

 恭也は振り向き、その姿を見る。

 木々を飛び跳ね―――半壊している脚も腕も使い、木々の幹や枝を蹴り跳ねてきたのだ。

 そう、立って歩けぬのなら、跳んでくれば良いと、機械故のパワーと計算力を持って木々伝ってここまで来た。

 

 更に、脳震盪に似た状態に在るにも拘らず、まっすぐに恭也を捉えている。

 それは他の一切の機能を捨て、恭也を止めることだけに思考を絞っているからできる事だろう。

 

「はっ!」

 

 ヒュンッ!

 

 ファリンは無事な左手で小太刀を放つ。

 更に、自分自身も恭也に向かって突っ込んでいく。

 その先に足場に出来る木々はない為、最後の突進だ。

 

「せっ」

 

 ガキンッ!

 

 放たれた小太刀を左の太刀で叩き落す恭也。

 そこへ、

 

「ふっ!」

 

 ヒュンッ!

 

 ファリンは口から金属の弾を放つ。

 ここに来る間に口の中に入れておいた弾だ。

 

「自爆する気か!」

 

 その弾を炸裂弾と判断し、恭也は右の太刀の面で打ち払いながら回避する行動にでた。

 しかし、

 

「私だって!」

 

 ガシッ!

 

 突如脚が掴まれた。

 足元にいたすずかだ。

 無事な左腕で精一杯の力をもって恭也の脚を掴んで離さない。

 元々夜の一族であるすずかの腕力だ、そう簡単には振りほどけそうに無い。

 

「巻き込まれるぞ!」

 

「死ぬ気はありません!」

 

 恭也の言葉に真っ直ぐ答えるすずか。

 それは、生を望む者としての全力の行動だった。

 そして、

 

 カッ!

 

 ファリンが放った弾が炸裂する。

 しかし、展開するのは強い閃光だけ。

 弾はただの閃光弾だったのだ。

 

「なるほど……それでこそ」

 

 視界を奪われる恭也。

 だがその中でもファリンは動いている。

 機械の身故にたとえこの強力な閃光の中でも恭也を捉えているのだ。

 その動きは―――

 

 ガッ!

 

 恭也に抱きつく様にして飛びついたファリン。

 そして自動人形としてのパワーを全開にして恭也を離さない。

 

「ふむ。

 しかし、これでは僅かな時間稼ぎにしかならないぞ」

 

 小柄なファリンでも、パワーを全開にすれば人1人くらい抱いて潰す事ができる。

 だが、それは万全の状態での話だ。

 今片腕、両足を損傷し、情報伝達にも異常がある状態では離さないのがせいぜい。

 ならば、この程度の拘束などいくらでも抜け出せる恭也には僅かな時間稼ぎにしかならない。

 

 しかし、

 

「いいのです。

 後5秒もてば。

 4、3,2,1―――」

 

 時間をカウントし始めるファリン。

 そして、0が告げられたその瞬間。

 

 ビィィィィイ!!

 

 大きな機械音が庭に響き渡る。

 10分経過の報せ、訓練終了の合図だ。

 ファリンは機械の身故に、時間を正確に測っていたのだ。

 その上でルールに乗っ取り、これでファリンはすずかを護れた事になる。

 

「なるほど。

 それでこそ、意思ある命だ」

 

 全ての殺意と敵意を消し、ファリンの勝利を祝福するようにそう告げる恭也。

 それを聞きながら、ファリンは笑みを浮かべて、力が抜け、倒れた。

 

 

 

 

 

 訓練終了後、忍とノエルに迎えられて、モニターの近くにすずかとファリンが運ばれる。

 そして服を破られたすずかには取り敢えずとして毛布が掛けられ、オーバーヒートしていたらしいファリンの頭には氷水入りのビニール袋が乗せられた。

 

「訓練終了。

 お疲れ様、2人とも」

 

「よくがんばりました」

 

 褒める姉2人。

 2人の姉は実に嬉しそうだ。

 妹達がこの訓練を乗り切り、勝利した事に。

 

「恭也もお疲れ様」

 

「ああ」

 

「ところで、この制限時間10分って恭也が言い出したことだけど、何か意味あるの?」

 

 訓練が終わったこの場で、忍はそんな事を問う。

 それを今ここで応えて欲しいと告げていた。

 今この場だからこそ意味があると解った上で。

 

「……10分あれば、俺達の誰かが駆けつけるからだ。

 この街に居る限り、俺達はファリンの救難信号を受け、その場に急行できる」

 

 あまりファリンの為にも言わない方が良いと思っていたが、答える。

 もし本当にすずかが狙われたなら、自分も含め、誰かは駆けつける。

 すずかを護りたいと思っているのはファリンだけではないのだから。

 いつも傍にいるファリンが、ある程度の時間を稼いでくれれば、後はどんなに相手が強大でも、皆で力を合わせて打ち砕けば良い。

 

「うんうん。

 ファリン1人で退けられればそれがいいんだけど、やっぱりまずは逃げる訓練よね」

 

 夜の一族であり、月村家を狙う者が現れる可能性は高い。 

 1度財産、特に自動人形の技術としてノエルや忍自身が狙われた過去があるのだから。

 

 だからこそ、恭也も今日の訓練は全力で、残虐とすら言えるくらいに本気で行った。

 本当にそう言う事態が起きた時、対応できる様に。

 たとえ、今辛い思いをさせることになり、自分が恐れられても。

 

「……ところで忍、この太刀だが、なかなか有効だ。

 譲ってくれないか? 後できれば改良も頼みたい」

 

 今は恐れているだろう自分が助けに来る、なんて事を話しても仕方が無いと判断し、恭也は少し話を変える。

 

「あら、美由希ちゃん相手に使うの?」

 

「いや、美由希相手なら普通に真剣でやってるからな、必要ない。

 それに、最低限自分より2段階は下の者にしかアレは効かないからな」

 

 場の空気を制御する事で起こすバーチャルリアリティ。

 ある意味げ幻覚魔法と言えるその現象は、自分より弱い相手であるなければまず有効にはならない。

 恭也の言う2段階の差というのは恭也の感覚でしかないが、恭也と戦って勝率が1割にも届かないというくらいの基準になるだろう。

 それくらいの圧倒的な実力の差がなければ有効にならない、高度でありながら原始的な魔法なのだ。

 

「なるほどね。

 ところで、私は恭也より2段階以上は下よね?」

 

 そう言いながら笑みを浮かべる忍。

 それは何かに挑戦するときのワクワクしている時の笑みだ。

 

「まだもう一戦いけない?」

 

「私も、ご教授願いたいと思います」

 

 忍もノエルも、先の訓練風景を見ながら、それでも望む。

 妹2人が耐え抜き、勝ち抜いたこの訓練、自分も受け、そして越えたいと。

 

「ああ、行けるぞ。

 だが、最近俺はとても良い生徒を見てきている。

 その為か、ファリンでも手加減を誤りそうになった。

 忍とノエルも同じか、それ以上のものを見せてくれなくては、間違ってしまうかもしれないぞ?」

 

 さらりと、とんでもない事を言う恭也。

 刃など無くとも内部は金属でできているファリンの腕や脚を切り落とすのだ。

 何でそんな事ができるのか、忍は後で調べたいと思っているが、今はそれを受けない事に専念しなくてはならない。

 しかし、それでも、

 

「あら、私、結構いい女って知ってるでしょう?

 貴方の期待になら応えてあげるわよ」

 

「まさか妹の前で無様な姿は見せられません」

 

 笑う2人。

 しかし、それは余裕なのではなく、自信過剰な訳でもない、

 これは、自分への確かな自信と恭也への信頼から出る笑みだ。

 だから、

 

「いいだろう」

 

 恭也も少しだけ笑って返す。

 最近なのはやフェイトという良い素材を相手にしてきたが、戦う才能ではなくとも、良い素材なら自分の傍にまだこうして居るのだと思い出しながら。

 

「さって、すずかは血糊を洗って、着替えてきなさい。

 ファリンはオーバーヒートが収まったから修理ね。

 だから、ちょっと待ってて」

 

「あ、うん。

 でも私、ファリンと一緒に見てる」

 

「そう」

 

 血糊がついたまま、服も破られたままで見たいと告げるすずか。

 さんざん怖い目にあったというのに、それでもだ。 

 それを微笑み、認める忍。

 

 

 

 それから、恭也対忍、ノエルの訓練が始まる。

 すずかはモニターでそれを見ていた。

 意識は朦朧としているが、しかしそれでもしっかり目を開いているファリンと一緒に。

 

 すずかは斬られたりして痛みがあった筈だが、今はもう何処も痛くない。

 実際に蹴られた脇腹ですら痛みはなく、あの時はただ足で持ち上げられただけなのだと解る。

 あの殺意と敵意や嫌悪感は、そんなところまで幻痛として誤認させていたのだ。

 

「あ、ロケットパンチってあんな風にも使えるんだ」

 

 そして2人はモニターに映る姉達の姿を見逃さない。

 自分達とは違う、恭也に押されるだけではない2人の動きを。

 

「逃げる、って奥が深いんだね」

 

 喋っているのはすずかだけ。

 ファリンはまだ喋れる状態にはない。 

 だが、

 

「一緒にがんばろうね、これからも」

 

「……」

 

 2人は寄り添いながら誓いを交わした。

 

 

 

 結果として忍とノエルの訓練は、ノエルの小破と忍のかすり傷で終了した。

 その後のノエルを修理し、ファリンの修理に入る時、すずかは修理の手伝いを申し出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕刻 さざなみ寮

 

 月村家で予想外ではあったが有意義な時間を過ごした後、恭也はさざなみ寮に来ていた。

 少々予定より遅れたが、先立っての協力者との会議の予定時間に余裕を持たせていたので問題無く時間に間に合った。

 

 今日は約束を果たす日なのだ。

 あの約束を。

 先日、いずれ、と言った話をする約束を、今果たす。

 

「今日から5日後、そこから更に5日後までの間に起こる事について協力を依頼したいのです」

 

 仁村 知佳の部屋で、知佳、那美、薫、リスティ、セルフィの5名と会談する恭也。

 いずれもHGS能力者か、退魔の力を持つ者が集まっている。

 

「ずいぶん曖昧なんだね」

 

「期日については後3日後までにはハッキリします。

 最低でも48時間前にはお知らせできますが、準備がありますので、先にできる事をしていていただきたい」

 

「なるほど。

 で、コレか」

 

 薫が手に取るのは恭也が渡した複雑な図形が描かれた図面。

 ミッドチルダの魔法陣とこちらの退魔の技術を合わせた術式だ。

 

「はい。

 力点が4つなので、楓さんと葉弓さんも呼んでいただきたい」

 

「で、私達はその護衛って事?」

 

「そうです。

 後2人居る協力者と共に術式を展開する4名を護衛していただくことになります。

 一応可能な限り外に出さない様にしますが、場合によっては数匹溢れ出る可能性は考慮しなければなりません」

 

「数匹、ね、つまりあの時のアレか?」

 

 あの時―――知佳以外は知っている恭也がジュエルシードに飲み込まれた時の姿。

 ジュエルシード防衛機構、闇の獣人。

 いや、それは本来―――

 

「あの時の様な巨大かつ強大なものではないと予想します。

 物理攻撃で生物を殺す要領で攻撃すれば消滅しますから、遠慮なく攻撃してください」

 

「ん、解った」

 

「あ、ところで、私達10日後だと休暇終わってるんだけど?」

 

 と、そこで知佳と、そしてセルフィも同様に申し出る。

 現在知佳とセルフィは休みを利用してここ海鳴に戻ってきている。

 これは恭也の個人的な依頼であり、気持ち的には受けたいが、2人とも組織の一員である以上我侭は言えない。

 

 だから、せめて休みを取れる理由として、情報を自分の上官である人に話さなくてはならないので、その許可が欲しいと言いたいのだ。

 しかし、そう2人が最後まで言葉にする前に、恭也は告げる。

 

「ああ、大丈夫です。

 お2人の10日後までの時間は既に買い取ってあります。

 双方の上の方から」

 

「……は?」

 

 少し端折ってしまったので、意味が解らない2人。

 更に、

 

「……恭也、今凄い事言った?」

 

 リスティは恭也の言い方に邪な笑みを浮かべる。 

 妙に楽しそうに。

 

「この事は公に依頼する事はできないので、国際救助隊とニューヨークレスキューにはあるツテで今日から10日後まではお2人とも有給休暇にしてもらいました。

 まあ、寄付という形で少々現金を使いましたが。

 なので、今からまだ残っていた休日は、10日後から継ぎ足して休んでいい事になってます。

 万が一負傷した場合はその手当てとして追加の休暇と保障は俺の方でさせていただきますのでご安心ください」

 

「ツテって、一体……」

 

「また君は、無茶苦茶な事を」

 

 最早呆れるしかない知佳とセルフィ。

 そして、それを聞いて何故か妙に嬉しそうなのはリスティ。

 

「まさに買い取ったってことだな。

 2人とも、名義上きっちり恭也の所属なんだから奉仕しろよー」

 

 邪な笑みを浮かべるリスティ。

 実にイキイキしている。

 

「で、その他必要経費はこれから」

 

 と、カードを渡す恭也。

 因みに今回は知佳名義のカードだ。

 8桁程のお金が引き下ろせるものだ。

 

「うわ、流石恭也、さらっと流された」

 

 カードを受け取り、また呆れる知佳達の横で、恭也の反応に残念そうにうなだれるリスティ。

 

「では、お願いいたします」

 

「OK、任せとけ」

 

「解りました。

 直ぐに準備に取り掛かります」

 

 ふざけて見えるリスティだが、返事は誰よりも早く、笑って見えながら真っ直ぐな目で答える。

 相変わらず全容を見せない恭也を相手の依頼を迷う事なく受けてくれる者達。

 これで、最後の準備の1つが動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜 フェイト拠点

 

 さざなみ寮での会議の後、隠れ家に1度戻ってもう1人の協力者と会議をした恭也。

 フェイトの拠点であるマンションに戻ってきたのは夜になってからだった。

 入る時も屋上からだったが、部屋に入ろうとした時、ある事に気付く。

 

「……?」

 

 少し考えてから、しかし解らず仮面を着けて部屋に入る恭也。

 

「あ、おかえり」

 

 出迎えてくれたのはフェイト。

 既になのは達は帰っている様だが……

 

「ああ。

 ところで、何故久遠がいるのだ?」

 

 リンディももう休んでしまっている様なので、フェイトに問う。

 そう、何故か久遠が居るのだ。

 場所はセレネが眠っている部屋の様だし、もう久遠も寝ているみたいだが、何故かここに残っている。

 

「あ、うん。

 リンディがね、久遠用のデバイスを作るって言って、久遠の力を調べてたの。

 その後で、セレネと一緒に寝て、って頼んでたのはよく解らないけど」

 

「まあ、でもセレネもそれなりに嬉しそうだったよ。

 アレで結構可愛いものが好きなんじゃないか?」

 

 付け加えたのはアルフ。

 そこでアルフの方を見ると、何故かソファーに座りながら山と積まれた本を読んでいた。

 それも既に結構な数を読破し、疲れている様子。

 

「ふむ。

 ところでアルフは何を?」

 

 一体その大量の本は何処から出てきたのか、それに何で疲れが見える程読み続けているのか。

 ただのカンだが、そもそもアルフはそう言う読書の類は好まない様な気がしていたのだ。

 それが何故本に向かっているのかも不思議だった。

 

「ああ、アレは何かね、セレネに渡されたの。

 あ、お茶淹れてくるね」

 

「ああ、悪いな」

 

 アルフの代わりに応えたフェイトは、恭也が帰ってきたばかりなのだと思い出してキッチンに向かう。

 その間に恭也はアルフが座っているソファーに並んで座る。

 

「フェイトには言ってなかったけど、これセレネが、フェイトと共に在り、フェイトを支えたいなら読めって渡されたんだ」

 

「なるほどな」

 

 恭也と話しながらも本を読み進めるアルフ。

 よく見ればアルフが読んでいるのは女性の生理学などの資料やファッション雑誌に始まり作法などの本だ。

 一応現状としては、アルフの方が年上の女性としての役割を果たさなければならない事もある。

 アルフが外見年齢と実年齢が違うと説明できない世界でならば尚更の事。

 そんな中で、アルフがフェイトの傍にいる女性として恥ずかしくない様に、年上の女性として振舞える様に、とのセレネの配慮だ。

 

 尚、後に聞いたところによると、山と積まれているこの量もホンの一部でしかないらしい。

 

「おまたせ。

 砂糖とミルクは?」

 

「ミルクだけ貰おう」

 

「はい」

 

 フェイトに入れてもらったお茶を飲み、とりあえず本日の活動による疲れを癒す恭也。

 

「ところで、久遠はセレネと一緒に寝ているのだったな?」

 

「うん。

 何でかは知らないけど」

 

「まあ、心当たりはあるが……

 リンディも何かやっている様だしな」

 

「そうだね、何か操作とか、指向性を持たせる感じの魔法を掛けてたね。

 その後直ぐに寝ちまったけど」

 

 デバイスの話も目的だろうが、心情的に主たる目的はこっちだろうと恭也は思う。

 久遠の能力で、寝ている時に発動する力。

 久遠自身もしくは久遠の傍で寝ている者の夢を、傍で寝ている者に見せる『夢写し』の能力。

 見せる夢は基本的に記憶の夢が殆どで、過去の情報を伝えるのに役に立つ能力だ。

 しかし、久遠自身も制御できない能力でもある。

 

 だが、それをリンディが補助し、狙った夢を遠くで眠る者に見せようとしているのだろう。

 恭也の記憶から久遠の能力を知り、リンディはそれを利用し、何かをしようとしている。

 

(まあ、どちらにせよ家族間の問題だな)

 

 そう考えて恭也はそれ以上考える事を止める。

 それよりも帰りが遅くなって少し心配していた事があったのだ。

 それはフェイトとアルフが寝てしまっている事。

 まあ、明日の朝でも間に合うが、今伝えておくべき事がある。

 

「2人とも、明日の午後から出かけるぞ」

 

「え? 出かけるってどこへ?」

 

「私等は外に出ない方が良いんじゃなかったのか?」

 

 外出についてはリンディとも話し合って決めていた事。

 本来はこの世界の者ではないフェイトやアルフがあまりこの世界に影響を与えない様に、必要以上に外に出ることは避けた方が良い。

 だが、家に篭っているばかりではいろいろと息苦しいだろうし、明日はフェイトとアルフはここを一時離れていた方が良いと恭也は判断している。

 リンディとセレネはそちらは目的として考えていなかったが、どうせだからと明日の午後にしたのだ。

 

「まあ、準備だけしておいてくれ。

 明日の朝も少し出かけるからな。

 昼までには戻るが、何時になるかは正確には解らん。

 どちらにしろ昼はここで食べてから出ると思うからそのつもりで」

 

「うん、解った」

 

「はいよ了解」

 

 2人はそれ以上の疑問を挟む事なく返事をする。

 何処へ行くとも伝えていないが、何も心配はしていないのだろう。

 出会ってからずっと敵対していた間柄だが、それでも既に信頼は成り立っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝 海鳴大学病院

 

 定期検査として、フィリスの下を訪れた恭也。

 今日もまた、本来定期検査の項目には無い箇所まで診て貰う。

 

「左目は……やはり悪化してるのですね?」

 

「はい」

 

 神速による影響を除き、今恭也が問題としているのは左目。

 この戦いの中、恐らくZのジュエルシードとの戦いを契機に悪化してきている左目。

 どういう理由か、視角が狭まっていき、その中で色を失う。

 そして今では物の形だけを、影だけしか見えぬ状況まで落ち、視角も半分くらい失っている。

 

「こんな症状、過去に例がないんです。

 今貴方が関わっている何かが影響している様な気がしてなりません。

 残念ですが、現状治す術がありません」

 

「そうですか」

 

 フィリスの言葉を淡々と聞く恭也。

 淡々と、何も感じていない様に。

 戦う者として視力を失う事は多大な影響を出すと言うのにだ。

 

 それは既に覚悟していた事だから。

 命を削っているという自覚をしていた恭也だからこそ、冷静に聞く事ができる。

 

 対し、フィリスは絶望しているのだろう。

 自分に治せない傷を恭也は持ってしまった。

 そう、自分では治せないのだと、自分の無力を感じずにはいられない。

 

「フィリス、後この戦いは2度の戦闘で終了します。

 事実上、俺は最後の戦いにのみ参加するだけです」

 

 気休めにもならないかもしれないが、恭也は告げる。

 ジュエルシードは後1つ残っているが、それにはセレネと恭也は参加しない予定なのだ。

 勿論傍までは行き、もしもの事があれば割り込むことになるが、それも本当に余程の事態だ。

 それさえ起きなければ、恭也が後戦うのは最後の決戦のみ。

 

「そうですか。

 そう言えば、昨日はリスティや那美さん達と何か話していたそうですね?

 私、昨日は休みだったんですよ?」

 

 フィリスにとって、もう戦闘回数は問題ではなかった。

 悪い意味でだ。

 だからそれは参考程度に留め、それよりもフィリスは何故自分は呼ばれていないのかと問う。

 昨日話し合いが行われたメンバーの中に知佳、リスティ、セルフィと、自分とフィアッセ以外のHGS能力者が揃っているのだから尚更だ。

 戦闘が出来ないフィアッセを除けば、自分だけが呼ばれなかったと言ってもいいだろう。

 

「フィリスにはここに居てもらわねばなりませんから」

 

「ここに?」

 

「ええ。

 最悪の場合、怪我人を診て貰う為、貴方は後方に待機していただきたい。

 できれば最後の時は貴方が夜勤の時になればいいんですが」

 

「……なるほど。

 解りました。

 私は私のこの力を最大限に活かす事に集中します」

 

 フィリスは、治せぬ傷が出来てしまった以上、戦闘自体の助けになればと考えた。

 フィリスもそれなりの戦闘力を持ち、実際恭也を助けることは可能だろう。

 しかし、そこでもしフィリスが怪我をすれば、治療行為に支障をきたせば、恭也達の治せる傷すら悪化させる結果となる事も考えられる。

 それよりも、他に戦う事ができ、恭也を助けれる者が居るならば、フィリスは治療の質を向上させる方を考えた方がいいだろう。

 そう思い出してフィリスは改めて決意する。

 

 今治療法が無いのなら、見つければいいだけだと。

 

「お願いします」

 

「ええ。

 私はここにいます。

 ですから―――」

 

 そう、フィリスは治す側に立つ。

 だからこそ、

 

「ここへちゃんと来てくださいね」

 

「はい」

 

 ここに来てくれればどんな傷でも治そう。

 そう、ちゃんと生きて帰ってきてさえすれば――― 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼前 月村邸

 

 病院の帰り、恭也は1度翠屋に寄ってから月村邸に来る。

 

「今日はなのはが来る筈だからな」

 

 と、玄関先で忍に翠屋のケーキが入った箱を渡す。

 

「あら、そうなの? それで、わざわざこれを?」

 

「ああ。

 ……ところですずかの様子はどうだった?

 それとファリンは?」

 

 忍の問いに肯定した後、恭也はついでの様に尋ねる。

 昨日、訓練とはいえ、戦う覚悟の無い子に対して行った過酷な仕打ち。

 普通ならばトラウマになりそうな事だ。

 昨日は訓練の後、ファリンの修理を手伝うと申し出たところまでは見たが、その後さざなみ寮に行く予定があったので、すずかと会話はしていない。

 

「大丈夫よ。

 ファリンの方の修理はもう終わってるわ。

 直ぐに起きれるか、明日までかかるかはあの子次第だけど。

 すずかも、多少昨日の恐怖は残っているかもしれないけど大丈夫。

 その恐怖の対象は恭也じゃないから」

 

「……そうか」

 

 恭也は別に自分が恐れられる事は問題としてない。

 寧ろ自分は恐れ、疎まれなければならないとすら考える事があるのだから。

 ただそれが生活に支障をきたす程のトラウマになっていなければ良いと思って聞いたのだが、忍の答えは更に続く。

 

「大丈夫よ、貴方はこの家の住人を信じなさい。

 ここは貴方が帰ってくる場所なんだから」

 

「……そうだな。

 ここの住人は皆良い女だからな」

 

「惚れ直した?」

 

「ああ」

 

 ここは戦う恭也が帰ってきて安らげる場所だ。

 高町家もそうで、フィリスの所もそうだ。

 どれも意味が違い、全て恭也にとって大切な場所。

 

「俺は幸せ者だな」

 

 自覚していた事だが、改めて思い、ふと呟く。

 

「ん? 何か言った?」  

 

「いや。

 ところで、少し頼みがあるんだが」

 

「何?」

 

 そう、自分は幸せを手にし、十分それを得られている。

 だから、今からまだ幸せを手にしたばかりの子の為にできる事をしよう。

 

 

 

 

 

 昼 フェイト拠点

 

「あ、お帰り」

 

「お帰り。

 ん? 何か甘い匂いがする」

 

「おかえりなさい、恭也さん」

 

 既に久遠は戻ったらしく、仮面は外して戻る。

 すると昼の準備をしていたフェイト、アルフ、リンディが出迎えてくれる。

 

「ただいま。

 これは後でな。

 ……ところで、それは?」

 

 2つある翠屋のケーキの箱は冷蔵庫に保管しておく。

 だが、その前に気になることがあった。

 テーブルの上に載っているぬいぐるみと人形である。

 今朝出るときまではそんな物はこの家に無かった筈で、しかもよく見てみるとその人形はデフォルメされたなのはやフェイトの姿だ。

 

「ああコレ?

 セレネが作ってくれたの。

 暇だって言うからリンディが布と綿と糸を渡したら凄い速度で」

 

「……そう言えばそんな特技を持っていたな」

 

 リンディの記憶にあるセレネの情報にも該当するものが出てきた。

 結界魔導師として空間認識と変化させる能力としてある技術を応用したものだ。

 手元にある材料から瞬時に完成形を構築し、必要な変化を与える。

 言うのは簡単だが、それを実際現実にするのは難しい。

 その訓練でもあった技術を、今使っているらしい。

 

「しかし、これは……むぅ……」

 

 並べて在る人形の中、1つ仮面をつけた黒髪の人形がある。

 恐らく恭也の人形だろうが、なかなか良く出来ているので、それが妙な気分だ。

 因みに、後に更に2つ作られる事になり、全員分を3セットが用意される事になったりする。

 

「……まあいいか」

 

 リンディとしては安静にしていてくれるならと布やら綿やらを渡した様だが、どちらかというとリハビリになってしまっている様だ。

 今日の昼過ぎからはアリサが来てハラオウン家の魔導師だけで会議が行われる予定だ。

 だからか、リンディも止めていない。

 自分の人形まで作られている事に今までにない気分だが、これはこれできっと良い道となるだろう。

 

 ともあれ、それは家族の問題で、恭也が口も手も出す事ではない。

 その時には恭也には他にやる事もある。

 今は次ぎに動く時まで休んでおくつもりだ。

 昼食の支度はリンディとフェイトとアルフがいれば、恭也が手伝える事もないだろう。

 

「ところで恭也」

 

 と、昼食を待ってリビングのソファに座っていたところ、フェイトがやってくる。

 

「ん? どうした」

 

「……左目は大丈夫なの?」

 

 少し迷いながらも尋ねてきたのは恭也の身体の事。

 忘れていた訳ではない。

 リンディとフィリスを除けば、フェイトとアルフはあの戦いの中でその事を気付き、戦いの中だから利用もした。

 あの時は恭也も気付くのが遅れ、隠す事もできなかった事であり、リンディが居てそんな事態に陥ったともなれば、かなりの異常を抱えていると判断できるだろう。

 ずっと気にしていたのだろうが、しかし今まで聞ける機会がなかったのでこのタイミングだ。

 

「問題無い」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

 恭也の答えに対し、フェイトは疑った。

 そして、暫くフェイトと恭也は見詰め合う事になる。

 恭也は目を逸らしたりはしない。

 『問題無い』という答えは嘘という訳でもない。

 ―――ただ真実ではないだろう。

 

 この会話はキッチンのリンディ達にも聞こえている筈。

 だが、リンディはフォローを入れる事はなかった。

 

「そう」

 

 暫くして、フェイトは微笑んだ。

 きっと恭也の答えが真実ではないと気付きながら。

 何かを決意した、そんな微笑だ。

 

 それからすぐにフェイトは昼食の準備に戻り、程なく昼食となった。

 もう目の話題に触れることはない。

 

 

 

 

 

 昼食後

 

 今日はこれからフェイトと出かける予定だ。

 この家ではハラオウン家の魔導師3名により会議が開かれる事になっている。

 その時間まで1時間を切ったところで、出発予定まで30分といったところだ。

 

「あ、恭也さん、フォーリングソウルは置いていってください。

 最終調整を掛けますから」

 

「了解です」

 

 リンディは先ほどまでエプロンをつけていて、家庭の女性としての姿だったが既にその姿はない。

 今日は恭也のデバイスに加え久遠のデバイスの準備もする予定になっているので、リンディは魔導師として忙しい事になるだろう。

 

「大丈夫ですよ、むしろ楽しみなくらいですから」

 

「そうですか」

 

 恭也の思考を予測して、そんな事を告げるリンディ。

 フェイト達を連れ出すのはフェイト達の為でもあるが、リンディ達の為でもある。

 

「ところで、フェイト達はどうしたのでしょう? 遅いですが」

 

「ああ、お風呂に入ってましたね……

 まあ、フェイトさんも乙女ですから」

 

「まあ、女の子である事は解っています」

 

 そろそろ出発の準備を整える時間なのだが、フェイト達が戻ってくる気配がない。

 風呂に入ることも別にいいし、女性は準備に時間が掛かる事も恭也は重々承知しているが、出発予定時間は伝えてある筈なのだ。

 

「ふふふ、まあ今更恭也さんにとやかくいう事はないですが。

 もう少し待ってあげてください。

 じゃあ、私は1度時の庭園に行っていますね、アリサが来る時間には戻ってきます」

 

「はい、こちらはその前に出ているかと思いますが」

 

「ええ、そちらも今日は楽しんできてくださいね」

 

「はい」

 

 一部、恭也では意図が不明な言葉が混ぜつつも、リンディは転送装置のある部屋へと移動し、程なく気配もこの場から消える。

 

「さて……」

 

 残された恭也は一応仮面の用意をしながら、フェイト達を待つことにした。

 それから程なく、やや慌てた様子でフェイト達は風呂場から出てきた。

 

「ご、ごめん恭也、直ぐ準備するね」

 

「念入りに身体を磨いていると思ったら、考え事をして時間を忘れてたんだってさ」

 

 遅れた事を謝罪するフェイトと、理由を告げるアルフ。

 アルフが時間ギリギリになった為、呼びかけてやっとフェイトは我に返ったらしい。

 何かを深く考えていた様子だったが、暗い事でもないし思いつめすぎているとも思えなかったので、アルフは特にただ見守るだけだったのだ。

 

「まあ、まだ時間はある。

 それに出かける時間は厳守と言う訳でもない。

 そんなに慌てるな」

 

「う、うん、ちょっと待っててね」

 

 慌てた様子で自室へと戻るフェイト。

 風呂上りともなれば、髪の長い2人の女性だ、準備に時間が掛かる事は容易に解る。

 しかし、こんな事で困るというのもまた平和な時間の中でこそであろうと、恭也は楽しんでいた。

 恭也は自分の準備を終わらせ、荷物を転送装置のある部屋へと移動させておく。

 恐らくアリサが来る方が先になるだろうから、恭也はこの部屋で待つことになるだろうと考えていた。

 

「お、お待たせ」

 

「ん? 早かったな」

 

 そう考えていると、フェイトは準備を終えて恭也の居る部屋にやってくる。

 見れば、フェイトの方の準備は完璧で、その代わりアルフは獣の形態になっていた。

 変身する事で風呂上りで残った水分の分離と、女性としての準備を飛ばし、全てフェイトの準備の手伝いにまわしたらしい。

 

(やはり便利だな)

 

 水分の分離ができる事は、他にもいろいろ応用できるだろうし、それは久遠にもできるだろう。

 その中には日常ではなく、戦闘にも使える事がある筈。

 そう考えたが、今はその思考を進めることは止めておく。

 

「では行くか」

 

「はい」

 

 アリサの気配も大分近づいてきているので、まずは移動をする事にする。

 3人は部屋の転送装置を使い、外へと転移した。

 

 

 

 

 

 拠点においてあるのはなかなかに高度な転送装置だ。

 ある程度の条件さえ揃えれば、行き先に転送装置がなくともかなりの長距離を転移できる。

 それを利用し、今回の外出が計画された。

 

「ここは?」

 

 出た先、そこに広がるのは一面の緑と青空。

 

「拠点とは少し離れた場所にある山だ」

 

 そこは綺麗な山と森が見える丘の上。

 因みに振り向くと木で出来た雰囲気のあるロッジがある。

 尚、見た目の雰囲気とは裏腹に、内装はなかなか作り込まれている高級別荘だ。

 

 ここは月村が所有する別荘の1つで、今朝使用許可を貰ってきた。

 

「あまり外に出ないのも息苦しいからな。

 この世界との接触は出来るだけ避けたいが、こういう場所ならば問題ない。

 まあ、何も無い所だが、今日はのんびり過ごそう」

 

「うん」

 

「あ、私ちょっと走ってきていい?」

 

「ああ、迷わない様にな」

 

「大丈夫だよー」

 

 元が狼に似た生物で、今はその姿をしている事もあってか、アルフは森へと向かって駆け出す。

 走るには気持ちのいい場所だろう。

 

「ここ、なんだかアリシアだった頃に住んでいた場所に似てる」

 

「そうか」

 

 フェイトも静かにこの場所を気に入っている様だ。

 昔を懐かしむようでもあるが、だからといって悲しんでいる訳ではない。

 

「向こうに川とその奥には綺麗な滝もある。

 お前も遊んできて良いぞ」

 

「恭也は?」

 

「俺はここに居る」

 

「じゃあ、私も」

 

 遊びに行けば良いのに、フェイトも恭也に付き合って別荘の庭でゆったりとした時間を一緒に過ごす。

 尚、その時恭也は『若さが足りないな』などと思い、修正案としてなのはや久遠と遊ばせるべきだ、などと考えていたりした。

 しかし口に出さず、ツッコミも不在であった為、何事も無く終わってしまった。

 

 まあ、それはとりあえず置いといて、それからここで暫しの静かな時間を過ごした。

 

 尚、3時にケーキを食べる時は、アルフはまだ呼んでもいないのに戻ってきた。

 

 

 

 

 

 夕刻

 

 アルフは森を走り、フェイトと恭也は外に椅子とテーブルを出してお茶を飲みながら静かな時間を過ごした。

 そろそろ日は傾きかけた頃、恭也は携帯電話を取り出す。

 

「恭也、それは?」

 

「ああ、こっちの通信機だよ。

 そろそろ移動するから準備をしておいてくれ」

 

「はい」

 

 恭也は『戻る』ではなく『移動』と言った意味は伝わっているだろう。

 アルフを呼び、片づけを始めるフェイト。

 その間に恭也は携帯を忍に繋げていた。

 

『はーい、忍ちゃんです』

 

「今いいか?」

 

『いいわよ』

 

「女物の服を買いに行くんだが、昨日ダメにしたものの替わりをな。

 で、お前とすずかのものとができれば揃えられる良い店はないか?

 ああ、ついでに下着も揃えられれば尚いいんだが」

 

 昨日の戦いで、ダメにしていい服と指定はしたが、すずかのものも忍のものも切り刻んでしまっている。

 その替わりとしての服を買う予定がある。

 それは本当だが、実はこう聞いているのは別の目的もある。

 

『あら、買ってくれるの?

 じゃあね―――あそこならいいかも』

 

 忍に店の場所を教えてもらう恭也。

 

「ああ、解った」

 

『じゃあ、恭也がちゃんと選んでねー』

 

「俺にファッションセンスは期待しないでくれ。

 まあ、全力は尽くす」

 

『楽しみにしてるわー

 今度来た時はサービスするからね〜』

 

 そこで切れる忍との通話。

 それから更に恭也はフィアッセに掛ける。

 今日はレコーディングでアイリーンとスタジオに居る筈だ。

 今頃は休憩の筈なので、掛けてみる。

 

『はーい、もしもし恭也、どうしたの?』

 

 少し時間を置いて出る女性の声。

 

「……人の携帯を勝手に覗いて、勝手に出るのはどうかと思いますよ?」

 

『ちぇ、バレたか。

 電話越しくらいなら騙せると思ったのに』

 

 聞こえてきたのはフィアッセのふりをしようとしていたアイリーンだった。

 まあ、あまり似てもいなかったので恭也でなくとも直ぐに解ってしまうだろう。

 

「フィアッセは?」

 

『あら、私じゃダメ?

 フィアッセなら少し予定がずれちゃって今録ってるところなんだけど』

 

「そうですか。

 なら、アイリーンさんでも構わないのですが。

 女物の服、というよりもなのはの様な子供が着る服を買うのにいい店を知りませんか?」

 

『あら、なのはの服でも買うの?』

 

「いえ、なのはのではないのですが、なのはと同じ年齢です」

 

『ふーん。

 まあいっか、それなら―――』

 

 アイリーンが教えてくれた店は偶然か忍が教えてくれた店と同じだった。

 2箇所回る事も考えていたが、その店に絞る事にする恭也。

 

「ありがとうございます」

 

『いいわよー。

 今度連れて行ってくれれば。

 そこ、子供服以外にもいろいろ売ってるから。

 下着まで〜』

 

「はいはい」

 

『よし! 言質はとったわよ〜。

 休みとっておくからね〜、じゃあ』

 

 そこで一方的に電話は切れる。

 まあ、アイリーンにも迷惑を掛けているので、今度服を買ってお礼とするのもいいだろう、などと考える恭也。

 

「恭也、片付け終わったよ」

 

 と、丁度そこでフェイトとアルフが準備を終えてやってくる。

 使ったテーブルなどを戻し、別荘の鍵も閉めている。

 

「ああ、悪いな」

 

「いいよ、アルフも一緒だし」

 

「で、どこ行くの?」

 

「行き先は―――」

 

 

 

 

 

 数分後 都心 某所

 

 拠点にある転移装置とアルフの次元転送魔法で移動した恭也達。

 行き先は忍とアイリーンが勧めた店だ。

 下着まで全部揃うとの事で、やってきた。

 何せ―――

 

「お前、同じ服を数着持っているだけだからな。

 リンディもセレネもそれではダメだと言ってな、今日は服を買って帰る」

 

「え? でもいいの」

 

「問題ない」

 

 既に食料などは買っているし、この程度の影響ならば後々調整は可能だ。

 それよりも女の子が同じ服しか持っていない方が問題だと、リンディとセレネは半ば命令として買い物に出ることを提案したのだ。

 

「ああすまない、この子の服を見繕ってくれないか。

 20着程」

 

「え? 20着ですか?

 はい、かしこまりました」

 

 店員にカードを渡し、フェイトを指す恭也。

 因みにカードは不破 恭也名義の金色のカードだ。

 

「えっ!? 恭也、私そんなに要らないよ」

 

「心配するな、店を丸ごと買うくらいの金は用意している。

 アルフも、お前もそれだけだろ? 適当に好きなだけ買って来い」

 

「OK〜。

 フェイト、ちょっと待っててね、先に選んでフェイトのを見てあげるから」

 

 フェイトは恭也が指定した数に遠慮している様だ。

 尚、恭也は最低20着という意味で言っている。

 アルフは特に恭也に突っ込む事なく、さっさと自分の服を選びに行ってしまう。

 

「可愛いお子様ですね。

 えっと……」

 

 店員はフェイトと恭也を見比べる。

 一体2人はどういう関係なのかと。

 いきなり来て20着は用意しろとか、アルフに対しても好きなだけ選べ、などと言っている。

 そんな事をしてやる恭也とフェイトの関係はなんだろうか。

 フェイトが恭也を呼び捨てにしているところがまた混乱するポイントだろう。

 

「ああ、妹ですよ。

 ちょっと外国で離れて暮らしていて、急にこっちに来てしまったので服とかもないんですよ。

 そうそう、下着も買わなければならないので、後でよろしくお願いしますよ」

 

「えっと、はい。

 妹です」

 

「因みに向こうのアルフは従兄妹です」

 

「そうでございましたか。

 畏まりました。

 お任せください」

 

 恭也とフェイトの説明にそれ以上は追求せずに納得して服を選ぶ店員。

 まあ、上客であるという判断もあるだろうし、フェイトは可愛いから服を選ぶのも楽しいだろう。

 

 一応もっともらしい説明として恭也が用意した設定だが、フェイトは『妹』を名乗る時にすこし戸惑っていた。

 今もなかなか複雑な表情をしている。

 

 が、それはとりあえず置いておいて、

 

「ああフェイト、少し用事があるので、まあ店の中には居るが。

 とりあえず服を選んでおいてくれ」

 

「うん、解った」

 

「店員さん、よろしく」

 

「はい、お任せください。

 お客様、こちらです」

 

 店員に連れられて試着室に移動するフェイト。

 その試着室には更に店員数人がつき、服を用意している。

 

 因みにだが、恭也が渡したカードはセレネが持っていたこの世界の金を全て洗い直し、この世界の住人として実在する恭也の名義に変えたもの。

 一部は昨日知佳に渡したカードに移しているが、それでもまだかなりの金額が入っている。

 今回の事件が終わっても尚、かなりの金額が残っていることだろう。

 

「ああ、すいません、あの2人とは別に服を見たいのですが」

 

「はい、何なりと」

 

「ちょうどあの2人と同じくらいの女の子2人と、

 後15歳の子と20歳の子でして。

 姉妹2組です。

 サイズは昨日測ったものが、あっと、ちょっと書くものあります?」

 

「はい、こちらにどうぞ」

 

「どうも」

 

 適当に店員を捕まえて相談する恭也。

 恭也が紙に書くのは昨日訓練した時に解ったすずか、ファリン、忍、ノエルの正確なサイズ。

 しかも3サイズだけでなく肩幅から細かな寸法で、それも5mm単位で完璧なものだ。

 忍は多分なれているだろうが、すずかがこの場にいたらどんな反応をしただろうか。

 

「各自夏用の服を。

 ああ下着もか。

 3着ずつ。

 後、郵送ってできますか?」

 

「はい、承ります。

 ではこちらへ」

 

「ああ、俺はちょっとファッションセンスに自信がないので、お勧めなんかがあれば助かります」

 

「畏まりました」

 

 昨日ダメにしてしまった服の代わりとして4人の服を選ぶ恭也。

 3着というのは自分のセンスに自信がないから予備も含めてだ。

 店員のお勧めを見ながら悩みつつも選ぶ恭也。

 尚、下着も含めてちゃんと言われたとおりに選んだ。

 ついでなので、4人お揃いも1セットつけて、30分ほどで選ぶ恭也。

 

 余談だが、郵送し月村邸に届いた時にはちょうど4人と更にさくらがおり、中身を見て忍が『男が女に服を贈るって意味、解る? 下着もだし』とか。

 4人お揃いの服を見て『なるほど、ダブル姉妹丼をご要望ね』などと冗談を言って、すずかが慌てふためていたのは別の話。

 更に居合わせたさくらから、色々巡って話が広がり、恭也がとある男性2名に若干恨まれる事になるのは更に別の話だ。

 

 と、話が逸れたが、30分で選び終わった恭也はフェイトの下へと戻る。

 

「えっと……」

 

 やはりというべきか、フェイトは大分困っていた。

 

「これも良くお似合いでるよ」

 

 店員に多数の服を勧められ、試着を繰り返している訳だが、どうすれば良いのか解らないらしい。

 

「ふむ……」

 

 恭也もどうしようかと少し考えた後、声を掛ける事にした。

 

「助けは必要か?」

 

「え? あ、恭也。

 うん……沢山ありすぎて……」

 

「気に入ったのは全部買ってもいいぞ?」

 

「えっと、そんなには、その……」

 

 アリシアだった頃にも経験がないのだろうか、かなり困惑している。

 母プレシアは娘を溺愛していた筈で、衣服も多数与えていただろうが、こうして本人が選んで買う事は無かったのかもしれない。

 

「ん〜、これも似合うねぇ」

 

「こちらもどうでしょうか?」

 

 更に既に自分のものは選び終わったのか、アルフも混じって吟味し、別の店員が更に服を持ってくる。

 自分の前に並べられる衣服に、堂対処して良いのかがフェイトは解らない様だ。

 

 尚、アルフは昨晩ファッション雑誌も読んでいた効果か、10分程で10着程を選び終えたらしい。

 基本的に変身に伴い衣服すら調整できるアルフに普通の服は必要ないのだが、それではあんまりなので普通の服も持たせるべきだろう。

 久遠も人の形態で出かける事があるならば、恭也で服を買ってやるつもりでいる。

 

「お嬢様はお綺麗でいらっしゃいますから、どんな服でも着こなせますね」

 

 何時の間にかフェイトの呼び方がお嬢様に変わっている。

 数人の店員がフェイトを接客しているが、皆楽しそうだ。

 言い方は少し悪いだろうが、これほど可愛らしい着せ替え人形もそう居ないだろう。

 

「あの、恭也はどれがいいと思う?」

 

 自分では決めきれないと、恭也を頼るフェイト。

 いきなり多数の服を選んで好きに買えとは、フェイトの過去を考えれば無茶な事だったのかもしれない。

 

「俺はあまりファッションセンスには自信がないが。

 そうだな……」

 

 自分から助けが要るかと聞いたが、自信が無い分野だ。

 しかし頼られれば可能な限り応えようと店員が持ってきている服を見る恭也。

 その中でも1着の服が目に止まった。

 

「これなんか良いと思うぞ。

 お前が普段着ている黒系も良いが、お前は白も良く似合う筈だ」

 

 恭也が選んだのは白を基調とした服で、清楚な感じのするものだ。

 今もフェイトが着ている黒を基調としてワンピースとは丁度反対のものと言えるだろう。

 

「あ、うん。

 じゃあ、あの、それは決まりで」

 

「畏まりました」

 

 それから更に時間を掛け、結局30着程の服を買う事になる。

 そして次は、

 

「えっと、下着は普通のでいいんだけど……」

 

「ダメだよフェイト、女は見えない所でこそ勝負しないと。

 あ、恭也、悪いけど見せられないよー。

 安売りはよくないからね?」

 

「え? あの、安売りって?」

 

「ああ、気にしない気にしない。

 恭也はちょっと待っててね。

 あ、でもそこに居てね」

 

「ああ、解った」

 

 服は恭也も試着したものを見たが、今回は見せてもらえないらしい。

 アルフと2人で試着室に篭ってしまう。

 流石にこちらはアルフに頼る他ないだろう。

 下着売り場の中の試着室の前、そこで恭也は2人が選び終わるのを待つ。

 

 尚、女物の下着が並ぶ花園と言える場所だが、アイリーン等に何故かよくつれてこられるので恭也は最早慣れてしまっている。

 先程も、忍やすずかの物を選ぶ時も特に躊躇はしなかった。

 その様子がまた誤解を生むことになるのだが、それはまた別の話だ。

 

「とりあえず、機能別に一通りは揃えつつ、っと。

 あ、恭也ー、好きな色は?」

 

 フェイトの下着を選んでいる筈だが、何故かアルフが恭也にそんな事を尋ねてくる。

 

「黒、白、青だな」

 

「ふむふむ、じゃあこっちはコレかな。

 フェイトにピンクって似合うと思う?」

 

「フェイトは可愛いからな、似合うだろう」

 

「そうだよね。

 じゃあ普段着るのはこれとかで……

 ところで、フェイトの下着姿、見たい?」

 

「そりゃあ、フェイトは綺麗だからな、見たいぞ」

 

「うんうん、でも今はダメだよ」

 

「ああ」

 

「え、あの、ちょっと、アルフ?」

 

 恭也としては意図が良く解らない会話。

 フェイトも戸惑っている様子だ。

 そんな会話を中と外でしながらも、下着選びは順調に進んでいる、らしい。

 そして、下着選びも大凡完了した頃。

 

「ねえアルフ、これは下着としての機能を果たすの?」

 

「ああ、フェイトにはまだ少し早いと思うけど、でも意味はあるんだよ。

 セレネは変なところで過保護だから情報遮断してるだろうけど」

 

 中からそんな会話が聞こえてくる。

 フェイトはいろいろと偏った知識を持ち、更に知識しか持っていない部分も多々ある。

 アリシアだった頃も人里とは離れた場所に住んでいたのだから尚更だ。

 男と女の関係についてや、肌を露出する事の意味などはあのバリアジャケットをセレネが着せていたのだからある程度の知識はあるだろう。

 だが、本来隠すべき下着のデザインの意味まではどうやら解っていない様だ。

 どちらにせよ知識だけだから、いずれいろいろと教えなければならないだろう。

 

「そう言えば恭也、着る機会が無いかもしれないけど、必要なもの、なんだけど、買っていいよね?」

 

 中から問うのはアルフ。

 一体何を持ってそんな問いをしているのかは不明だが、

 

「女の事情に口を出す気は無い。

 お前が必要と判断するなら好きなだけ選べ」

 

「OK〜、許可が出た。

 よし、これもっと」

 

「アルフ、着る機会が無いってどういうこと?」

 

「勝負の時用ってことだよ。

 まあ、向こうから手を出す事はないだろうけど、備えておかないとねぇ」

 

「向こう? 手を出す?」

 

「まあ、いいから、いいから」

 

 そんな会話をしながら、買い物は結局夜まで掛かった。

 買った量もかなりのものとなり、殆どは郵送する事になる。

 

 尚、今回の購入で顔を覚えられ、後にもフェイト達と大量に服を買いに来たり、アイリーンを初めとする他の女性も―――

 そう、10人を軽く越える美女、美少女を代わる代わる連れてくると言う事で、いろいろな意味で店の従業員に語り継がれる事になる。

 

 

 

 

 

 余談だが、翌午前中は大量に購入した衣服の収納や、その時に気付いた不足していた家具の購入と設置に費やされた。

 更に余談だが、その時、髪留めなどを買い忘れたのだと気付き、後日改めて買いに行く約束もしている。

 

 

 

 

 

 翌日 昼過ぎ フェイト拠点

 

 昼食を食べた後、本日の活動についての話が行われた。

 

「私は時の庭園の研究施設に用事があるから、出かけるわね」

 

「俺とセレネは残りのジュエルシードの監視を行う」

 

「2人は留守をお願い。

 3時くらいにはなのは達が来る筈よ」

 

「解りました。

 あ、なのは達が来る前にお風呂に入っておこうかな」

 

「OK、あ、フェイト、昨日買った服を整理しないと」

 

 今日は一昨日できなかった普通の会話でも楽しんでもらえばとなのはも含めて呼んでいる。

 まだ戦いは残っているからこそ、今ある平和な時間を有意義に使って欲しい。

 その間に、恭也達は―――

 

 

 

 

 

 八束神社

 

 話し合いの後、恭也とセレネは八束神社に来ていた。 

 この街を一望できる藤見台に近く、2番目のジュエルシードが発動した場所でもある。

 

「やはり、あそこになるのだな」

 

「そうね。

 まあ、そう言う場所だし」

 

 街の方にある最後のジュエルシードにも警戒しながら、恭也とセレネは街ではない方向を見ていた。

 その方向の先には恭也が今も持っている]Vのジュエルシード、赤星と対決した場所もある。

 更にそこから少しずれた場所にはさざなみ寮もある。

 

「あの山の頂上にも何かあるのね」

 

「ああ。

 かなり強大な魔物を封じていた跡がある。

 今はそこには何も居ないが、今でも影響がある上、そこは封印の地であったから、強い霊脈がある」

 

「条件は理想的なのね」

 

「何の因果かは知らんがな」

 

 そんな情報交換をしながら周囲を観察する恭也とセレネ。

 そこから更に山の中に入り、調査が行われる。

 最終決戦に向けた調査が。

 

 

 

 

 

 その日の夜

 

 恭也とセレネ、そしてリンディが拠点に戻ったのは21時を回った頃だった。

 なのは達が帰る時間も見越して遅くしたのもあるが、それだけ調査に時間が掛かったのだ。

 リンディの方も同様に調査と作業がまだまだ残っている。

 

「おかえりなさい」

 

「おかえりー」

 

 そんな恭也達を出迎えてくれるフェイトとアルフ。

 それに良い匂いもする。

 

「あら、夕飯作ってくれたの?」

 

「うん、なのは達と一緒に」

 

「そう、ありがとう」

 

「悪いな」

 

 既に夕飯の準備を終え、帰ってくるのを待っていたのだ。

 それを見て、セレネはふと言葉を漏らした。

 

「なんだか、懐かしいわね」

 

 何かを思い出してか、1人呟く。

 いや、それはきっとリンディも思った筈だ。

 

「そうね。

 さ、せっかく皆が作ってくれた料理が冷めてしまうわ。

 食べましょう」

 

 それから、5人で食卓を囲んで夕飯を摂る。 

 その風景なら一昨日も見たはずだが、今日は少し意味が違う気がした。

 

 夕飯を食べた後、なのは達にもお礼を伝えておく。

 特にセレネとリンディは大切なものを思い出させてくれた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝 フェイト拠点

 

 本日は久遠のデバイスと恭也のデバイスの最終調整をする予定でいた。

 だが、

 

 トクン

 

「むっ」

 

「動いたわね」

 

 恭也とセレネは感じる。

 ジュエルシードの声を。

 

「どうしたの? セレネも恭也も」

 

「どうかした?」

 

 既にジュエルシードを理解し、そもそも体内にジュエルシードを持っていたフェイトだが、フェイトもアルフもそれが聞こえていない。

 それもそうだろう。

 あの声を聞き分けるにはジュエルシードそのものと、ジュエルシードに掛けられているモノの正体を知る必要がある。

 フェイトの場合、その体内にあったのはそれすら浄化された後の物だから、それを知る事はできなかった。

 

「最後のジュエルシードが動く様だ」

 

「えっ!」

 

「解るとは聞いたけど……やっぱ私には解らないな」

 

 今まで発動を感知し、急行していたフェイト達だ、目の前で見る感覚の違いに驚く。

 そして同時に理解した筈だ。

 そうやって今まで恭也は先手を打っていたのだと。

 

「セレネ、悪いけど久遠さんのデバイスの調整を。

 私は恭也さんのデバイスの最終テストの準備をします」

 

「解ったわ」

 

「では俺は見てこよう。

 細かい発動の予測は後で伝える」

 

「はい。

 フェイトさんとアルフさんは待機。

 24時間以内には戦闘になるから、いつでも出陣できる様にしておいて。

 アリサ達には私が連絡します」

 

「了解」

 

「解った」

 

 それから各自己の役割を果たす為に動く。

 恭也は屋上から跳び、ジュエルシードの持ち手の様子を伺う。

 同時に協力者2人への連絡もしておく。

 様子の変化を聞くのと、今後の連携の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜

 

 深夜0時。

 最後のジュエルシード]]Tが動く。

 戦いの場は八束神社。  

 そこには既にリンディを指揮官とするなのは達が待ち構えている。

 大凡完璧と言える布陣で望む戦いだ。

 

 ヴォゥンッ!!

 

 日付が変わる時間。

 昨日と今日の狭間の時、八束神社は結界に包まれる。

 

「始まったか」

 

「そうね」

 

 恭也はそれを足元に見ていた。

 そう、恭也は八束神社の上空にいるのだ。

 セレネと共に。

 

 今回の戦い、リンディが指揮をとり、なのは、フェイト、アリサ、久遠、アルフというメンバーが連携するので大凡敗北は在り得ない。

 一応待機要因として外に居るのもあるが、それよりも恭也達には別の大切な役割がある。

 

「やはり、あそこね」

 

「そうだな」

 

 恭也とセレネ。

 それはジュエルシードの声を聞ける。

 ジュエルシードに直接触れた事のある2人。

 恭也は2度、2つのジュエルシードに直接深く触れている。

 セレネは1つを2年にも及ぶ長時間傍に置いて、1つ直接浄化封印している。

 その2人が今この時、ジュエルシードが発動しているタイミングで探すものは―――

 

「中心地点は」

 

「座標は確認したわ。

 はい図面」

 

「ああ」

 

 今感じものを地図上に記し、更にそこから術式の基点として最適な位置を計算する。

 その図面はセレネから恭也に手渡される。

 その頃、下では決着が付いたらしく、ジュエルシードの声が再び聞こえてきた。

 

「やはり問題なかったな。

 では俺は行くぞ」

 

「ええ、よろしく」

 

 戦いが終わった事を確認し、恭也はなのは達と合流する事なく移動する。

 向かう先はさざなみ寮だ。

 

 

 

 

 

 それから2日間、リンディ、セレネ、恭也は最後の戦いに向けた準備をする。

 久遠のデバイスの調整、恭也のデバイスの完成、作戦の練り込み。

 既に最後の戦いの日取りも決まり、それぞれ万全の状態を目指す。

 

 だが、その前に、

 

 

 

 

 

 翌日 昼 フェイト拠点

 

 朝から決戦への調整の為に動いた恭也は突然リンディに呼び戻された。

 しかも、買い物の指示付きで。

 

「というか、この材料は……」

 

 指示されたものを買い、マンションに戻りながら思い出す。

 買ってきたものは全て食材。

 リンディの知識によれば、こちらの世界の日本で言うなら赤飯に相等する食べ物の材料だ。

 

「戻ったぞ」

 

「おかえりなさい。

 あ、材料ありがとうございます。

 じゃあ、私は準備がありますから」

 

 マンションに戻るとリンディが迎えてくれたが、材料を渡すとすぐに台所に戻っていく。

 どうやらセレネと一緒に調理中らしい。

 セレネもリンディも決戦まで忙しいのだが、それでもこれは重要な事なのだろう。

 

「あ、恭也、お帰り。

 あの、あのね……」

 

 遅れて出てくるフェイト。

 だが、少しそわそわしている感じだ。

 

「まあ、大体予想はつくのだがな」

 

 昨晩の戦いの後、リンディがフェイトを診ていた時もリンディとセレネは何か話し合っていた。

 良いことだ、とだけ言っていたが、どうやら先日の薬もあってか、今のフェイトの年齢から考えると少し早めにきたのだ。

 

「うん」

 

 フェイトは1度恥ずかしそうに俯き、その後でしっかりと恭也を真っ直ぐに見る。

 そして、

 

「私、子供を産める様になりました」

 

 告白する。

 今日、初潮を迎えたのだ。

 昨日から腹部の具合が悪い様だったが、どうやらその関係だったらしい。

 

「そうか」

 

 恥ずかしそうに顔を赤くして、でも真っ直ぐに恭也を見るフェイトの頭を撫でる恭也。

 これで、最早フェイトは完璧に人間の女性として生まれ変わったと確定した。

 もう、何も心配する事なくフェイトは人間として生きる事ができる。

 

「私……」

 

「ああ。

 良かったな、フェイト」

 

「うん。

 私、もう大丈夫だから」

 

 フェイトはセレネもそうであるが、恭也にはちゃんと伝えたかった。

 あの時、全てを受け入れてくれた人に。

 自分は女として機能し、ちゃんと人間の女性として何の問題もなく生きていけるのだと。

 

 恭也の腕の中で涙を流すフェイト。

 あまりに嬉しくて、あまりに幸せで。

 恭也はそれを抱きとめ、言葉で表現するのは下手だが、精一杯祝福する。

 

 

 これでもう、フェイトの身体については一切の懸念が無い。

 最後の1つすらクリアした。

 だから、後は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦の前日の昼 海鳴大学病院

 

 昼過ぎ、恭也は病院を訪れていた。

 定期検査には早いが、流石に決戦の前日だ。

 最後に診て貰いにやってきた。

 

「明日、ですか」

 

「はい」

 

 既に決戦の日取りは伝えてたる。

 都合良くフィリスが夜勤で病院に居る日だ。

 もしもの時はフィリスの下に駆け込む事になっている。

 

「左目は恐らく次神速を使えば完全に何も見えなくなると予測されます。

 くれぐれも気をつけてください」

 

「解りました」

 

「後、戦いが終わったら試したい治療法がありますから、直ぐに来てくださいね」

 

 恭也の左目は治療法が無いとされている。

 しかし原因不明な為、的確な治療法が解らないのであって、治せないのとはまた意味が違う。

 ならばとフィリスはいろいろと考えている。

 

「ええ。

 ああ、でも直後は無理です。

 直ぐにやらなければならない後処理が2日は掛かりますから」

 

 直接戦うだけが今回の事件の解決とはならない。

 寧ろその後こそ大切な事がある。

 全てを幸いで終わらせる為に、勝つことが前提であるが、その先にもまだ壁はあるのだ。

 

「他の人は代われないのですか?」

 

「無理ですね。

 こればかりどうしようもない」

 

「そうですか。

 なら、もし戦いの中で怪我をしたなら、ちゃんと誰かに診て貰ってくださいよ。

 治癒能力者も居る様ですし」

 

「解ってますよ」

 

 全身の診察を終え、左目以外は問題無いと言う結果が出た。

 処置のしようがない左目は仕方ないとして、大凡万全の状態だ。

 

「では、また」

 

「はい、次は4日後ですよ。

 忘れないでください」

 

「はい」

 

 次に会う約束をし、病室を出る恭也。

 約束は護る為に存在する。

 ならば、恭也は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拠点に戻ろうとした時。

 丁度病院から出た玄関口である人と出会った。

 

「あ、こんにちは」

 

「ああ、こんにちは」  

 

 そこに居たのはショートのブラウンの髪で、関西弁を使い、車椅子に乗るなのはと同じ年頃の少女。

 今まで何度か病院の近くで遭遇した少女だ。

 そう言えば、まだ少女の名前は知らないと思い出す恭也。

 だが、と思いながら会話をする恭也、

 

「よくお会いしますね」

 

「まあ、同じ病院の患者だからな」

 

「それもそうですね」

 

「しかし、それでも、こうも俺に会うとは、己の不幸を呪うといい」

 

「うわ、またそれですか」

 

「何せ俺は悪魔だからな。

 あまり近寄ると本当に不幸になるぞ」

 

「普通自分で言いますか?

 しかも真顔で。

 あんまり笑えませんよ?」

 

「事実だからな」

 

「またまた」

 

 再会してしまったからには、とそう告げる。

 尚、フィリスが恭也を『悪魔』と言った事は、噂で聞いている。

 勿論、真意も理解している。

 だからこそ、この少女に自ら改めて告げておくのだ。

 自分は悪魔だと自覚している事を。

 

 しかし、少女はそれでも笑っている。

 

「ところで、わたしうっかりしててお名前聞くの忘れてたんですが、教えてもらえませんか?」

 

「俺のか? 物好きな」

 

「わたしははやて。

 八神 はやて、言います」

 

 恭也はあまり乗り気ではないが、しかし少女の側から先に名乗る。

 それは名を尋ねる時の礼儀でもある行為だが、そう先手をとることで、恭也の名を聞きたいと言っているのだ。

 

「不破 恭也だ」

 

 だから恭也は返礼として返す。

 しかし同時に、この少女はやてとは、恐らくこの先も会うことになるのだろうと思いながら。

 だが、そこで名乗った姓は―――

 

「まったくお前は変わった奴だな」

 

「そうでしょうか? 少なくとも恭也さん程ではないと思いますよ」

 

「そうか。

 まあ、変人は自分を変人とは思わんからな」

 

「それはそのまま返していいですか?」

 

「却下」

 

「即答?! 自分を悪魔とか言うくせに」

 

「それは事実だからな」

 

「悪魔は良いのに変人はダメなん?」

 

「変人の称号はお前にやろう。

 ハリセンと一緒に」

 

「なんでやねん。

 後、ハリセンは自前がありますんで、間に合ってます」

 

「ふむ、やはりそうだったか」

 

「あ、そこちゃんとツッコンでください」

 

 暫く、そんな会話をする2人。

 2人とも、笑いながら。

 

「ほんま変わった人やねぇ」

 

「お前ほどじゃない」

 

「それはもうええですよ」

 

「ところでお前病院に向かってきていたが、時間はいいのか?」

 

「あっ!」

 

 5分くらい話したところで、そう尋ねてみると、はやては慌てて時計を見る。

 

「もう約束の時間やわ。

 すみません、と言う訳でわたしはこれで」

 

「ああ」

 

「では、また今度」

 

「またな」

 

 笑顔で病院の中に入っていくはやてを見送る恭也。

 その後で、自分のこの場から立ち去ろうとする。

 

 と、そこでふと思い出す。

 

(ん? 俺は何故『不破』を名乗ったんだ?)

 

 恭也は2つの姓『高町』と『不破』を使い分けている。

 それぞれ平和と戦いを象徴する姓と言ってもいい使い分け方だ。

 それなのに少女には『不破』を名乗った。

 口にした時は自然と出て、決して言い間違えた訳ではない。

 ならば―――

 

(まあ今は考えまい。

 全ては明日の戦いの後だ)

 

 しかし恭也はそれ以上考える事を止める。

 まだ大きな戦いの最中だ。

 次の戦いの事を考えるには早すぎる。

 

 そうして恭也は一時そのことを忘れて戻る。

 恭也が戦うべき場所へ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日 深夜

 

 決戦の日。

 恭也は八束神社の境内に立っていた。

 他の者はフェイト達の拠点で最後の作戦会議を開いている筈だ。

 しかし、恭也はそれに参加せず、この場で皆の到着を待った。

 バリアジャケットは身に着けず、しかしマントと仮面だけは着けて。

 腰に愛刀八景を差して。

 

 やがて、日付が変わる時が近づき、それに合わせてなのは達が到着する。

 

「貴方は―――」

 

 なのはが恭也の背中に問う。

 フェイトとの戦いから先、姿を隠していた恭也に。

 今まで顔を隠してきた恭也に。

 

「……」

 

 その問いに応え、恭也は振り向く。

 そして、己の仮面に手を掛ける。

 今まで2度砕かれた仮面を。

 最早仮面としての意味をなくしたものを、この場で―――

 

 

 

 

 

最終話へ

 

 

 

 

 

 後書き

 

 12話裏をおとどけしました〜

 はてさて、これでやっと恭也編は解禁になりますね。

 いや〜今まで裏として恭也編を書き、連載としては隠しにしてきましたが、どうでしたでしょう?

 ちゃんとなのは編だけでも読めるものでしたでしょうか?

 新たな試みとして実行した手法ですが、それ以前にここの読者陣はレベルが高いから皆見破ってましたか?

 その辺も意見、感想などを送っていただければ助かります。

 また何処かで使うかもしれませんので。

 

 さて、それはとりあえず置いておきまして。

 今回は最後のインターミッションですね。

 微妙に無駄なんじゃないかと思われるかもしれませんファリンとすずかの訓練は、2章で使います。 

 後、今まで恭也編で出してきた生理の話は全てフェイト為のものだったのですよ。

 やはり作られた人間とかで、最大の問題は『子を残せるか』、になると考えておりまして。

 いやー、子供が産めないと絶対にダメって訳じゃないんですがね、やっぱり人としては望みたいところです。

 

 さてさて、裏にして尚隠蔽している情報もありますが、最終決戦前です。

 次で最後ですよ〜

 

 さて、このテンションのまま次を書いてきますので、次回もよろしくどうぞ〜








管理人の感想


 T-SAKA氏に恭也編の第12話を投稿していただきました。

 ついに恭也編も解禁……感慨深いものがあるなぁ。

 いよいよ次回からはなのは編、恭也編が統合されて話が進みますね。



 改めて思いましたが、なのはと違って恭也はやる事が多い。

 まぁ自分から苦労を買って出ている面もありますけど。(本人は苦労とは思っていないでしょうが

 その中の1つであるすずかとファリンの訓練ですが、何れ実を結ぶ事はあるのでしょうかねぇ。

 襲われないに越した事はないでしょうけど、もしそうなったら生きてくるのでしょうね。

 しかし月村家の住人は皆佳い女過ぎてて羨ましい。(笑


 国際救助隊にもツテを持つ恭也……本気で何者なのか?

 普通に考えればティオレさんくらいでしょうけど、彼女はそっち方面まで手が回るかといえば謎ですし。

 金はほとんどセレネから出ているにしても、マネーロンダリングなんかは恭也がしてたはずですしねぇ、ホントにどんなツテだ。

 下着売り場にいて照れもしないのもさすが恭也と言えますが。(笑

 周りの女性たちは彼の事をよく枯れてると言いますが、そういう風にしてしまった一端は確実に女性陣にもありますよね。

 女所帯の中に男1人ですし、普通は女性に対して慣れたり考えないようにしたりしますよ。


 恭也編を知り驚いた方は拍手に一言でも残してもらえるとT-SAKAさんはお喜びになると思いますよ。

 感想や、単純な驚きの声だけでも作者にとっては嬉しいものですので、気になった事があれば下記からガンガンお送りください。



感想はBBSかweb拍手、メール(ts.ver5@gmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)