輝きの名前は
第9話 その力は何の為に
深夜 住宅街
平和な街の静かな夜空に3つの影があった。
碧の妖精と金色の妖狐、それと白の少女の姿だ。
「今夜は何も起きそうにないわね」
「うん」
時間は深夜。
過去の統計上、この時間以降での発動は無い。
それが絶対ではないが、妖精アリサと妖狐久遠はそう述べた。
それは、今日はもう帰る事を提案する為に。
「……そうだね」
最後に白の少女、なのはも何も無いと判断し帰還の準備をする。
前回風邪をひいてから、なのはは夜こうして空に上って街を見渡していた。
何かを探す様に。
それは勿論ジュエルシードの発動に備える為でもあるが、しかしそれ以上に逢いたい人がいる。
だが、今の自分では足りない事は自覚している。
ならば―――
翌日の昼下がり 月村邸
ここの所毎日の様にこの場所に遊びに来ているなのは。
親友すずかの誘いによるものだが、なのはとしてもこの場に来る事を望んでいる。
大切な事を忘れない為にも。
「そういえばなのはちゃん、今度の休みはどうするの?」
「え? ああ、連休だよね」
今は4月の末日。
明後日からはゴールデンウィークで今年は5連休だ。
普通の家庭ならば、大抵なにかしら予定があるだろう。
「うん、まだ許可を貰ってないけどやってみたい事があるんだ」
「あ、そうなんだ。
何処かへ出かけるの?」
「うん、山へちょっと」
「キャンプ?」
「う〜ん、まあそんなところかな」
ちょっと曖昧に答えるなのは。
そもそもまだ許可を得ていないのでそう答えるしかないのだが、すずかは特に突っ込まなかった。
しかし、予定があるという事に少しだけ残念そうだ。
「今までの予定だと3泊で最終日は居ると思うけど……」
なのはが知る限り、毎年3泊4日の予定だ。
連休初日から行く為、最終日は空いている事になる。
だが、なのはは言いよどむ。
何故ならその最終日は動けるかどうか解らないのだ。
そもそも1日残している理由は、その1日をフルに使って身体を癒す為のものなのだから。
「そうなんだ。
じゃあ、もしできたら一緒にプール行こう。
新しくできた所に」
「うん、じゃあ前日の夜に電話するね」
「うん」
そんな約束を交わして別かれた2人。
今日は4月の末日。
世はGWの話題にする頃。
なのはは1人、ある決意をしていた。
その日の夜 高町家リビング
この日の夕食後、恭也が戻って来る予定になっていた。
先日なのはが風邪をひいた時もそうだったが、珍しくなのはが居る時にだ。
今はリビングで母と話をしている。
「そう言えば恭也、今年は行くの?」
GW直前と言う事で、母も気になったのか恭也に確認している。
例年通りなら姉美由希と2人だけで出かける筈なのだ。
だが、今兄は何かあると判断して1日中街を見回っている。
となると行かないと予想できるのだが……
「ああ、今のところ何も見つけられていないし、少し精神を落ち着かせる為にも行こうと思っている。
その間に見回りを代わってくる人も既に呼んである」
「あらそう」
兄の答えは少し意外で、母と残る家族は姉美由希を除いて少し驚いていた。
気になるという理由で見回りを始めたのに、この街を離れると言う事、それに精神的な面で兄恭也が自身を問題としている事にだ。
だが、今の会話の結果はなのはにとって好都合と言える事だ。
「じゃあ、美由希と2人で出かけるのね?」
「いや、今年は美由希は行けない」
「あ、うん、ちょっとね」
しかし、そこで更に意外な話が出た。
例年なら姉と2人で行く筈なのに、姉は行かないという。
しかも、兄はそれを知った上で行くと言っているのだ。
「じゃあ1人で?」
1人で行く事に意味が無い訳ではないが、しかし姉と行く事が一番の目的の筈なのだ。
だから母は尋ねた。
あくまで確認として。
だが、
「そうだな……
どうする? なのは」
兄は突然なのはに話を振った。
それは誘いの話だ。
「うん、行く」
それに対し、願っても無いと応えるなのは。
それこそ、なのはがやろうとしていた事なのだから。
「うむ、ではなのはと2人だ。
いや、久遠も一緒かな?」
「うん、そうだね、くーちゃんも」
「では今度の休みは3人で行ってくるよ」
兄の誘い自体は普段からちょくちょく在る事だ。
しかし、なのはの返答は意外だった筈。
今までは断っていたのだから。
それなのに兄はなんら迷う事も驚く事もなく話が進んだ。
これ以上ないくらいにアッサリと。
そうした上で兄は告げる。
何処に行き、何をするのか、確認としてここで言葉にした。
「―――鍛錬の為、山篭りに」
そう、GWに兄と姉が行く場所、それは山の中。
その目的は鍛錬の為、御神流の伝承の為だ。
本来なら姉美由希と行き、2人で御神流を会得する為に行っていたもの。
それになのはは参加する。
「えええええ!!」
かなり遅れてリビングに驚きの声が響き渡った。
しれっとした様子で詳細を説明する兄と、それを聞くなのはの周りで。
そう、それが普通の反応の筈なのだ。
『高町 なのは』とういう存在にとって、本来は―――
その後 なのはの部屋
「で、アッサリ行ける事になったのね?」
「うん、で、場所がここだって」
アリサと久遠と一緒に地図を見るなのは。
今回行く場所とこの家との距離の確認だ。
「そう、これくらいならまあなんとかなるわ」
「ごめんね、無茶言って」
「いいわよ」
なのはが毎年兄達の行っている鍛錬に一緒に行きたいと言い出したのは風邪が治ってすぐの事だった。
まともな戦闘の為の訓練を積んでいないなのはにとって、今以上に強くなるには戦い方を教えてくれる人が必要だ。
戦闘理論魔法では限界がある事が最近露呈し始めているのもある。
その為、もしもこの街を離れている間にジュエルシードが発動した場合、即座に戻って来る手段が必要になる。
つまりは次元転送魔法の使用だ。
ある程度の準備があれば、転送装置や中継装置が無くとも、ほぼ万全と言えるくらい回復したアリサ単独の力で転送は可能なのだ。
しかし、やはりアリサ単独による次元転送距離には限界があるので、今の距離確認は必須事項だった。
「もしもの時、お兄さんを誤魔化す手段だけど……
まあ、私が何とかできると思うけど、フォローはお願いね」
「くぅん」
兄恭也はとても鋭い。
アリサの存在すら気付きかねない上、ジュエルシード絡みで居なくなっている間の事もある。
この修行にはそう言ったさまざまなリスクが付き纏う。
だが、
「ごめんね、ありがとう」
なのははどうしても行かなければならない。
この先、戦って行く為に。
連休1日目 朝
早朝に高町家を出たなのは達は、電車とバスを乗り継いでとある山に来ていた。
観光客も登山者も来ない適度に高い山だ。
因みに、移動中久遠は狐モードでバッグの中に隠れていた。
電車などでは本来籠に入れた上で追加料金などを払わねばならないのだが、迷惑をかけないので問題にはならないだろう。
それに猫や犬とは違い狐となると手続きも面倒になるらしい。
アリサは妖精形態でその久遠と一緒にバッグの中で、結界は持ち運びできたらしく一緒にバッグの中に入れており、恭也もアリサの存在に気付いていない様だ。
そうして到着した山の入り口。
が、登山する山ではないので登山道が無い。
「獣道を行く事になるからな」
「うん」
「荷物は俺が持つが……久遠、もういいぞ」
なのはの分の荷物を持つ恭也。
そこで、中に入っている久遠を出す。
「くぅ〜ん」
人の居る場所では仕方ないとは言え、長時間の移動になったので少し疲れている様だ。
だが、それでも、
バシュンッ!
「山、高いね」
直ぐに子供形態へと変身する久遠。
身体を伸ばし、一緒にこの姿で登る気である。
「では行くか」
「はーい」
「くぅん」
それから人用に整備されていない道を登る3人。
恭也と久遠は当然の様に、なのはも久遠と付き合って獣道を登る事があるので特に問題なく登る事ができる。
(運動はダメなんだけど、くーちゃんとはよく山でも遊ぶから)
自分にそんな分析をしながら兄と久遠の後を歩くなのは。
尚、途中にある邪魔な草木は先を行く恭也と久遠が何気なく払ってくれているのには気付いている。
そうして、途中休憩を入れながら1時間程登り、山の中腹の川に辿り着く。
「さて、ここら辺にテントを張るぞ。
なのは、久遠、手伝ってくれ」
「はーい」
「うん」
恭也が持ってきたのは旧式のテント。
ワンタッチで出来るようなものではなく、1人で張るのは難しい。
恭也なら問題ないだろうが、しかし敢えて恭也はなのはと久遠にも手伝わせている。
これも経験であり、修行の一環だからだ。
「これをこっちに引っ張ってだな。
そのロープはあの木に」
「くーちゃん、こっちお願い」
「結んだよー」
数分でテントを設営する3人。
更に近くに火を焚く為のかまども作る。
ここまでは普通のキャンプでもある場景であろう。
「少し周囲を見てくる。
ここで待っていろ」
「「はーい」」
それから恭也は1人この場を離れた。
少し遠くまで見回る様なので、気配もなくなってしまう。
と、そこで丁度良いとなのははバッグを開いた。
「ふー、やっと出れた」
「お疲れ様」
「アリサ、大丈夫?」
「ええ、まあ半分は寝てたし」
バッグの中にずっといたアリサを出したのだ。
いくら姿を消す事ができるとはいえ、相手が恭也なので今までずっと潜んでいたのだ。
「っと、帰ってくる前に結界を移動させないと」
「あ、アリサ、向こうにいい木あるよ」
「どこ?」
結界の用意を持って飛ぶアリサ。
久遠が指すのはテントを張る為のロープが結ばれている木の上の方。
丁度そこにリスでも住んで居そうな穴があった。
「今は誰もいないよ」
「いいわね〜」
アリサのサイズにも丁度良く、直ぐに結界を移植する。
僅か数分でその作業は完了し、穴から半分身体を出しながら周りを見渡すアリサ。
「う〜ん、まさにリスになった気分だわ。
最近はこの姿にも慣れちゃったけど、なかなか新鮮」
仕方なしにその姿をしているアリサであるが、それを楽しむ余裕もできている様だ。
ジュエルシードを巡る戦いの状況としてはあまり良くなくとも、回復も進み、信頼できる仲間が居て、成長もしていると言う事だろう。
「いいな〜」
こうして笑える今を楽しむなのは。
勿論ここへ来た目的は忘れていないが、笑える事が大切だと最近本当に理解できてきた。
「さて、じゃあ悪いけど私は多分寝てるわ」
「うん」
「ゆっくり休んでね」
もしもの時は転移魔法と言う大きな魔法を使う必要がある。
だから、アリサは結界の中に入って休む。
それから、大体30分程で恭也が戻って来る。
「では始めるか。
まずは走るぞ」
「「はーい」」
運動着に着替えた3人は山を走る事になった。
因みに久遠も運動着である。
式服ではやはり山道を走るには邪魔だろうと言う事で用意されていたのだ。
「なのは、周囲全体を見ておけ。
足元だけにとらわれるな」
「うん」
一緒に走りながらなのはは恭也のアドバイスを受けていた。
山道は整備されている道とは違い足場が悪い。
歩くだけでも大変なので、走るのはとても難しい。
その走り方を恭也から教わりながらなのはは走った。
「悪い足場が解っている時は歩幅を変えながら、タイミングを合わせれば止まる必要はなくなる。
あまり障害を飛び越えようとは考えるな、飛んだ目に見えているだけの状態とは限らない」
「うん」
「久遠はその姿でも速いな」
「うん、大分慣れたから」
そんな調子で2時間程山道を走り、元の場所に戻って来る。
その頃にはもう昼になっていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
立ったまま息を整えるなのは。
恭也は昼を取りに行くと離れ、久遠と2人で休憩である。
「なのは、脚早いじゃない」
と、そこに恭也が遠く離れているのを見計らってアリサが出てくる。
まだ寝付いていなかった様だ。
「え? そんな事ないよ。
わたし体育は赤点だよ?」
アリサの言葉をすぐに否定するなのは。
事実なのはは体育の成績が悪いし、山道を走れたのは普段久遠と遊んでいるからだと判断している。
それに、一緒に走っていた恭也や久遠は全く呼吸を乱していないのに、自分は立っているのでやっとなのだから。
「そう?
この世界、皆運度能力が高いのかしら?」
なのはの言葉になにやら呟きながら考え込むアリサ。
「にゃ?」
「ううん、なんでもない。
あ、戻ってきた」
何の事を聞こうとするなのはだったが、その前に恭也が戻ってきて、アリサは結界の中に入ってしまった。
「昼にしようか、なのは、久遠」
「「はーい」」
川魚を持って帰ってきた恭也。
昼はそのまま魚を焼いて食べる事になった。
因みに、食料は持ってきている分もあるが、大半は現地調達する様だ。
川魚に始まり山の幸も兄は何時の間にか見つけてくる。
そんな姿を見て、兄は山の中でも暮らしていけるのではないかと思ったなのはであった。
昼食後
「なのははまずこれを」
お昼を食べて少し休憩した後、鍛錬が再開される。
恭也がなのはに手渡したのは一本の棒。
丁度レイジングハートと同じくらいの長さの棒であり、杖と言えるもの。
尚、レイジングハートはなのはの体格にあわせた長さになる。
だから恭也がなのはの為に用意したのも同じくらいなのは、両者ともなのはのことを考えているからだと言える。
しかし、その前に、
「小太刀じゃないの?」
兄や姉が使う御神の剣術は小太刀の二刀流だ。
普段見る鍛錬でも小太刀を使っている。
他に暗器といわれる飛針という針、鋼糸という糸を使う事があるが、杖術を使っているところは見た事が無い。
「お前が持つにはまだ早い。
とりあえずコレくらいの得物が扱えてからだな。
それに、まだ御神流を修める気はないのだろう?」
「……うん、ごめんね」
「いや、こうしてこの場に来る事を決めただけでも十分だ」
兄は見抜いていた。
なのはの目的があくまで『戦い方』であって、『御神流』ではない事を。
勿論御神流が悪い訳ではなく、むしろ兄の行く道は尊敬している。
だが、なのはの行こうとしている道はきっと兄の道とは異なる。
だから、この道に御神流を使う事になのははまだ遠慮にも似た気持ちを抱いていた。
兄がなのはの求めているものに気付いているのはおそらく、家にはいなくとも最近のなのはの様子から必要な事だと思ってくれたのだろう。
だから、先日ああして誘ってくれて、なのはが行くと言う事に対しても驚きもせず連れて来てくれた。
今更ながら何ともありがたい事だと想いながら、なのはは兄を見上げる。
「とりあえず素振りからだな。
打ち方はこう」
ブンッ
杖の振り方の見本を見せる恭也。
その動きは剣術の動きにも通じるものである。
更に言うならば、後々に聞いた事になるが、実は恭也は杖術もそれなりに使えるらしい。
というよりも、御神流は小太刀がなければ戦えない流派ではなく、暗器の類も使うようにさまざまな道具を駆使できる様修練を積んでいるらしい。
それらの知識と経験から杖の持ち方から腕の動き、足の置き方まで細かく教えてくれる。
戦闘理論魔法を使っている間は魔法の方で半分以上勝手にやってくれるが、こうして教えてもらうのは始めてだ。
今まで魔法任せになっていた動きがようやく理解できる。
「こう?」
ブンッ
「もう少し腕を……
そうだ」
暫く動きを修正してもらいながら杖を振るなのは。
十数回程で大体の型ができる。
「よし、それをとりあえず100回ずつ、休憩を入れていいから5セットやっておけ」
「はーい」
素振りのノルマを言い渡し離れる恭也。
次ぎに恭也は久遠の前に立つ。
「久遠は、ちょっと組み手をやるか」
「組み手?」
「ああ。
その状態で、電撃無しで俺を倒せるか?」
「やってみる」
少し距離を置き、構える2人。
2人は互いの様子を窺う。
久遠と恭也は、仮に久遠が全力状態なら、恭也に勝ち目は無いと言って良い。
久遠はタタリ憑き状態であった頃は、退魔を生業とする神咲の当代総出でやっと倒せた狐の化生。
如何に戦闘技術に秀でているとはいえ、1人の人間である恭也では倒す事はできないだろう。
しかし今の状態、力の大半を抑えた子供の状態ならどうか。
この状態の久遠はやや人よりも力が強く、やや人よりも霊力が強く、やや人よりも頑丈で、電撃の力を使えるくらいの子供でしかない。
子供状態の久遠と恭也の体格差は1.5倍近く、体重差は2倍以上だ。
その状態で電撃を封じられたなら、普通に考えて久遠に勝ち目は無いだろう。
そう、普通なら、
タッ!
ブンッ!
久遠が動く。
正面から一気に距離を詰めて爪を振るう。
が、
バッ!
その爪は恭也に腕を取られて止められ、更にリーチの差からそこから動けなくなってしまう。
「くぅぅん」
そうだ、普通はこうなるだろう。
久遠には鋭い爪があり人を殺すには十分な腕力があるとはいえ、体格差があり過ぎるのもあり、恭也にそれは届かない。
「やはりこうなるか。
お前は自分より強い存在と戦った経験があまりに少ないのだろうな」
久遠は生まれつきという訳ではないが、強大な力をもってしまっていた。
それは最終的に神咲の当代総出でなければ倒せぬ程のものだ。
その為、こと戦闘という状況において、久遠は自分より強大なものを相手にした事が無いに等しい。
故に、久遠はそうした場合の対処法を身につけていないのだ。
だが知恵は十分にあるので状況に対応しようとする事が出来る。
しかし、先程互いに様子を窺ってはいたが、その攻撃はちゃんと恭也の隙を突けていた訳でもない。
力任せに攻撃するのが半ば癖になっているし、正しい知識がないのだ。
「余計なお世話かもしれないが、お前は大人の状態だと燃費が悪い。
だから、その状態でも少し戦う訓練をしておいて損は無いと思う」
「うん、お願い」
そうだ、久遠もその為に来ている。
制御されない力に意味は無いのだ。
だから上手く戦う術を身につけ、もっと強くなりたいと望む。
それから自分より大きい者との戦い方について久遠は教わった。
「大きい事は必ずしも有利とは限らない。
リーチの長さも逆に内に入られたら欠点となるだけだ。
だから、懐に入ってしまえば良い」
相手の攻撃と掻い潜って攻撃する手段や、
「相手が人間であるなら体術というのは有効だ。
そもそも人間が武術を持っているのは、技を持って力を制す為にあると言って良い。
柔術などは相手が大きくとも投げ飛ばす手段がある」
重心の移動、その崩し方や動きの流れについて学習する。
それらはそれぞれ短く簡単に、実戦形式で伝授される。
久遠は実戦経験者であり、いろいろな戦い方を見てきている。
その理論を教えてもらえたなら、それだけで在る程度その先まで理解できる。
「よし、とりあえずはこんなところだな」
「ありがとう」
2時間程組み手をしながら教えてもらった久遠。
場所が山の中であるだけに、2人は投げたり投げ飛ばしたりして体中汚れている。
「さて、悪いが久遠、夕食になるものを獲って来てくれないか?
その姿のままで」
「うん」
久遠は元々狐であり、獲物を狩る能力がある。
だがこの人間の姿で、素手で狩りを行うには、色々工夫しなければならない。
つまりは、今やった事を活かせということだ。
久遠は新しく学んだ知識と技術を試そうと、張り切って山に入っていった。
その後、恭也はなのはの下へと移動する。
「あ、おにーちゃん、終わったよ」
久遠の組み手の間にも、何度か動きの修正と違う振り方で素振りをしていたなのは。
最後に課せられていたノルマが今丁度終わったところだった。
「ではその杖を使って攻撃の受け方を教えよう」
「受け方から?」
「ああ、お前の場合、先手必勝よりもそちらの方がいいだろう?」
「あ、うん」
本当に兄はなのはを良く理解している。
元よりなのはは戦闘力を否定こそしないものの、争いを避けたいと思っている。
だから、なのはにとってこちらから攻撃を仕掛けるなど論外なのだ。
それでも戦わなければいけない状況、つまりは相手が戦いを仕掛けてきた場合、相手から攻撃を受けた場合に必要なものは、その攻撃から自身を護れる技術だ。
それがなければその先話し合う事すらできない。
「教えて、おにーちゃん」
「ああ。
では、まず正面からの攻撃に対して」
ブンッ!
「あっ」
突然木刀を振り下ろす恭也。
それに対してなのはは持っていた杖を両手で構えた。
ガンッ!
「わっ!」
だが受けきれず、杖を落としてしまう。
これが実戦と考えたなら確実に次の攻撃を待つまでも無く、今の攻撃だけで押し潰されてしまっていた。
「基本的に真正面から受けてはいけない。
相手が大きく、強大であるなら尚更だ。
こういう時は上手く受け流す、力を逸らす事が大切だ。
柔は剛を制すという言葉がある様にな」
「なるほどー」
ある程度の事は戦闘理論魔法を使っている間にその魔法が示してくれた為知っている。
だが、半ばオートで行われる動きである為、本来どう動くものなのかをなのはは知らない。
それをその戦闘理論のデータ元である本人、恭也に教わる。
「側面からの攻撃はこう。
下段からはこうだ」
「こう?」
「そうだ。
杖を持っているなら、斜めに滑らせるように受けて、そうだ。
そうする事で力の強い相手の攻撃も受ける事が出来るし、その後の行動に繋げられる」
それから休憩を入れながら4時間程なのはは恭也の攻撃を受け続ける。
時には素手で、時には杖を使って。
更に恭也も素手での攻撃や木刀、更に簡単な投擲攻撃も行った。
やがて日が沈みかけ、山に夜が訪れる。
「さて、今日はここまでだな。
久遠も戻ってきた様だし」
「あ、くーちゃん」
鍛錬を中断し、山の奥を見る恭也。
その方向を見れば、久遠が戻って来るのが見えた。
「ただいま」
帰ってきた久遠は手に何か持っている。
それは茶色の毛で覆われた動物。
「うさぎさん?」
「そうだよ」
笑顔で答える久遠。
だが、そのうさぎはぴくりとも動かない。
久遠の持ち方自体耳を持つという乱暴なものだ。
「晩飯だ」
「……食べるの?」
アッサリという恭也に対して確認するように問うなのは。
今まで経験がなかった事もあるが、それよりも―――
「かわいそうか?」
そう、普通の子供ならそう考えてしまうだろう。
小学校などならうさぎを飼うところもある。
それに日本に於いてはうさぎを食べるという人も多くは無い。
だが、
「ううん。
わたし牛肉も豚肉も鶏肉だって食べてるし、お昼はお魚を食べたよ。
なら、うさぎさんを食べるのはかわいそう、なんて言えない」
動物を『愛でる』事と『食べる』事は別問題だ。
生きる為には肉も食べるのが人間である以上、食べない理由が『かわいそう』などという事は在り得ない。
久遠という特殊な友人がいるからか、そもそも生来のものか、なのははそうちゃんと考えていた。
「よし。
では夕食にしよう、食べるものに感謝してな」
「うん。
ありがとう、うさぎさん」
周囲の人間の教育から、元々食べ物を粗末にする様な事はしない。
だが、今日改めてその大切さを想うなのはだった。
夕食後
「さて、なのはちょっと見せたいものがある」
そう言って恭也はなのはと久遠を山の奥に連れて行く。
夜戦の訓練をするのかと思っていたなのは達であったが、やがて目の前に白いものが見え始めた。
「これ……湯気?」
「この匂い……」
周囲に立ち込める白いものの正体は湯気。
それに硫黄の匂いがする。
となると……
「ああ、元々は父さんが掘り当てたものなのだがな。
温泉だ」
少し開けた場所に広がっていたのは天然の露天風呂。
少し人の手によって整備されているが、自然の中にある温泉だ。
見れば野生の動物達も入っている。
「うわー」
「入れるの?」
「ああ、今日はずいぶん汚れたし、疲れただろう。
ゆっくりと入るといい」
感嘆の声を上げるなのはと久遠。
それから一旦テントに戻って着替えを準備する。
『何、温泉があるの?』
と、その時状況を見ていたのだろうアリサから念話が届く。
『うん。
あ、ごめんね、わたし達だけ』
『仕方ないわ。
まあ、明日の昼間にでも隙を見て入るわ』
『うん』
そんな話をしながらも準備を終える。
そこでふと見ると、兄は準備をしてない事に気がついた。
「あれ、おにーちゃんは?」
「俺は後でいい」
「一緒に入ろうよ」
「うん、そうだよ、はいろ」
そこで、なのはは久遠と共に一緒に入ることを誘う。
考えてみれば、今まで兄とそう言うコミュニケーションを取った覚えが無い。
姉とはたまに入るが、兄とは無いのだ。
だから、こういう時くらいなら良いだろうと、そう考えた。
『えっ!? ちょっと!!』
が、突如念話で声を大にするアリサ。
何故かとても驚き、慌てている。
『どうしたの?』
『お兄さんと一緒にお風呂に入る気?』
『うん、そうだよ?』
『本気? え? こっちだとそれが普通……なの?』
『え?』
良く解らない事を言われてなのはも戸惑い、アリサも戸惑っているようだ。
だが、それを表に出すわけにも行かない。
何せ今は目の前に恭也がいるのだから。
「まあ、そうだな。
行くか」
『えええええ!?』
兄の反応にまた声を上げるアリサ。
その反応になのはも久遠も首をかしげるだけだった。
と、言う訳で兄と一緒に露天風呂に入ることになったなのはと久遠。
山の動物達も入っている風呂に3人で入る。
「丁度いいお湯だね〜」
「くぅん」
「温度調整は面倒だったとか言っていたがな、父さんは。
しかし、何年もたっているのにそのままとは、どう細工したのやら」
兄の言葉の中の『父』の存在。
先程からそれも気になっていたが、それよりも兄の姿をみて想う事があった。
その傷だらけの身体を。
「ん? 気になるか?」
「……うん」
あまりこうしてまじまじと見る機会が無かった兄の身体。
気にならないなどという嘘は言えない。
兄が今の兄になるまでに受けた消せない程の数々の傷。
一応にも女性であるなのはは自身の事として想像できない凄まじい道のり。
こんな身体になって尚行く道であり、兄の在り方の象徴とも言えるだろう。
「おにーちゃんは凄いね」
なのはその想いをその一言に込める。
尊敬と、感謝の気持ちも一緒に。
今までずっと戦ってきた兄に。
これからも戦う兄に。
「まあ、ほとんどは実戦で受けたものではないのだがな」
少しだけ笑みを浮かべる兄。
傷はあまり凄い事をして受けたものではないと言いたいのかもしれないが、しかしその過程を持って兄は去年どれ程のものを護ったか。
そう考えてなのはも笑みを浮かべる。
感謝と、今の幸いを伝える笑みを。
「そう言えばくーちゃんはおにーちゃんの裸見た事あるの?」
それから、ほとんど初めてといってよかったなのはに対し、あまり驚いたりしていなかった久遠に尋ねる。
「恭也神社で着替えとかすることあるから」
「ああ、たまにな。
そう言えば覗かれていた事もあったな」
「物音がしたから見に行っただけだよ」
「そうなんだ」
兄の傷については話を聞いている限り、母と姉達は知っていた筈だ。
と言う事は、なのはだけ今までちゃんと知らなかったのだろう。
その事を少し悲しく思いながらも、しかし今ちゃんと知る事ができる事を喜ぶ。
例えそれが辛いものだとしても、今在る兄の誇れるだろう道の欠片を見れたのだから。
「さて、ここの温泉は疲労回復や傷に良いらしいから、ゆっくり浸かっておけ。
また明日もあるのだからな」
「「はーい」」
そうして暫く3人で温泉を堪能して疲れを癒すのだった。
空には星々がまたたき、半分雲に隠れた月も見える。
なのはは今日1日で学んだ事を思い出しながらそんな空を見上げていた。
そのまま平和な夜が更けようとしていた。
しかし夜中、異変が起きた。
ヴォウンッ!
「なにっ!」
「これ結界!」
テントで眠っていたなのはと久遠は突然の世界の異変に目を覚ました。
自分の周囲は既に結界の中となり、傍で寝ている筈の兄の姿は無い。
自分達だけ結界に取り込まれた様だ。
「なのは、久遠!」
テントから出ればアリサも居る。
3人は合流して即座に戦闘体勢に入った。
レイジングハートの起動及びバリアジャケットへの換装、戦闘形態への変身、本来である少女へと戻る。
そう、アリサも戦闘する気である。
何故なら、この結界は知っているのだ。
3人は空を見上げる。
結界に閉ざされた空を。
虚ろな月の光が照らす結界の上面。
そこに1つの影がある。
「どこに行ったかと思えばこんなところに。
まあ、丁度いい。
最近はジュエルシードの起動も無いしな、遊んでやりに来たぞ」
笑いながら空に立つのは、自身の身長程もある棍を持った仮面の男。
闇色のバリアジャケットを纏い、闇のマントを靡かせる強力な魔導師にしてジュエルシードの使い手。
更には山1つというレベルの結界を構築する結界魔導師でもある。
そんな相手が、直接なのは達に対して戦いを挑んできた。
「貴方の目的は何なんですか」
話が通じる相手ではないだろう。
それは解っているが、なのはは問う。
そうして話す事を止めてしまえば、本当に言葉の在る意味がなくなってしまうと想うから。
「今はお前と遊ぶ事だな。
さて、ゲームを始めようか」
「ゲームですって?」
「……」
笑いながら言う男の言葉に怒りを見せるアリサと久遠。
だが、それに対しても男は愉快そうに続ける。
「ああゲームだとも。
実戦という名のゲームだよ。
賞品は、そう―――ジュエルシードだ」
男は黒い宝石を取り出した。
Zと]Tの文字が浮かぶ黒き魔法の種、ジュエルシード。
「まずは余興と行こうか」
男はそう言ってジュエルシードを掲げる。
まずその力を示したのは]Tのジュエルシードだった。
ヴォゥンッ!
突如、男の背後にもう1つの影が出現した。
人型の影、しかし鎧を着ているのか、金属の塊であるもの。
それは最初成人男性くらいの大きさであった。
しかし、その人型にジュエルシード]T番が同化する……
カッ ズバァァァンッ!!
雷が落ちたかのような閃光と爆音。
バキバキッ!!
続いて響く木々が倒れる音。
この結界内の偽物の木が大量に折れる音だ。
「なっ……」
その光が収まり、視界が戻ったその場所にいたのは―――
「おもしろいだろう?
これもジュエルシードの力の1つだ。
そう、元々込められていた想いのカタチでもある」
「ゴォォ……」
そこに現れたのは、全長20mはあろうかという巨大な機械兵士。
闇色の塗装と凶悪な棘が並ぶシルエットが破滅を連想させる、そんな巨大ロボット。
確か]T番のジュエルシードは日曜日の朝にやっている様な戦隊モノをカタチにしていた筈。
ならば、このロボットはその戦隊が使う正義のロボットが元である筈なのだ。
しかし、この様な姿と禍々しい気配ではとても正義は名乗れないだろう。
「それともう1つ。
これは前回も見せているがね」
なのは達の驚いている中、男は更にZのジュエルシードを掲げる。
すると、
ヴォウンッ!
「ギャオオオオンッ!」
世界が歪み、現れたのはジュエルシードの防衛機構たる闇の獣人に酷似した人形。
ジュエルシードの防衛機構よりも濃密な闇の塊たる戦闘魔導兵器。
それが3体。
「さあ、始めようか」
ズドォォォンッ!!
男の言葉と共に、巨大ロボの拳が大地に突き刺さる。
それが、戦いの合図だった。
ズドォォォンッ!!
「くっ!」
迫る巨大な拳。
久遠はそれを大きく跳んで回避する。
相手はこの山の木々をまるで無いかの様にかまわず拳を振り下ろし、木々ごと久遠を潰さんとする。
前回の様に久遠はこの巨大なロボットの攻撃によってなのはやアリサとは引き離されてしまった。
あの男はどうやらなのはとしか直接戦う気がないらしい。
それが何故かは解らないが、しかしこの状況ではなのはの心配をするより先に自分の方が問題であった。
「はっ!」
ズバァァンッ!
拳が地面を押し潰す、そのタイミングで久遠は雷を浴びせる。
「ゴゴ……」
が、巨大ロボはまるで何も無かったかの様にまた動き出す。
「大きすぎる!」
久遠の雷は強力だが、相手の巨大さと纏っている闇もあり、雷の攻撃がまるで効いていない。
それに、
ズダァァァンッ!
「このっ!」
次の一撃が来た時、久遠はギリギリの範囲で避け、巨大ロボとの間合いを詰める。
昼間恭也との組手があったからこそできた動きだ。
そうしてリーチの内側に入ると、腕の関節部を爪で斬らんとする。
が、
ガキンッ!
爪が弾かれてしまう。
一番弱そうな腕の関節部ですら爪による攻撃を受け付けない。
「ゴォォ……」
ドゴォォォンッ!
次の瞬間、巨大ロボの攻撃が来る。
「く、あっ!」
相手は鈍足で、攻撃も見切れる。
だが、一撃受けたら確実にやられてしまう。
一体どうすれば―――
その頃、アリサは森の中を走っていた。
「ちっ!
我が手に力を!」
キィィンッ!
簡易詠唱によってアリサの両手に魔法陣が出現し、そこから魔力でできた一振りの刃が生成される。
アリサの魔力色たる碧色の魔法刃。
スティンガーブレイドを応用して作った即席の武器だ。
「ギギギ」
ガキンッ!
キンッ!
受けるのは闇の爪。
2体の人形からの攻撃だ。
更に残りの1体もその後ろから飛び出してきてアリサを狙う。
「このっ!」
「ギ……」
バッ!
ガキンッ!
後ろに下がり、攻撃を回避しながらまた受けて後退する。
アリサはそれを続けていた。
「デバイスさえあれば……」
できれば離れて射撃魔法を使いたいところなのだが、引き離せない。
接近戦で戦うにしても3体が連携して攻撃してくる為捌くだけでも手一杯だ。
デバイスがあればもっと高速で魔法が使えるのだが、無いものを言っても仕方ない。
「ギギギ……」
「くっ!」
ガキンッ!
結局逃げる様に山を走るだけだった。
打開策がまだ思いつかない。
どうすれば―――
2人の友達が戦っている。
強大で凶悪な相手と。
だが、なのはが戦う相手はそれを更に上回る相手だった。
ヒュッ!
ガキンッ! キンッ!
棍による連続打撃。
それをなのははマジックコートを掛けたレイジングハートで受け流す。
「はっ!」
「せっ!」
ガキンッ!
仮面の男の猛攻をなのはが受けられるのは、戦闘理論魔法と今日兄に直接教えてもらった攻撃の受け方のおかげである。
知識としてちゃんと身についている今日の鍛錬があるからこそ、戦闘理論魔法をより効果的に使い、全ての攻撃を受け流す事に成功している。
まだ反撃の糸口はつかめていないが、押されている訳でもない。
「ふむ、山篭りをしているだけあって動きがよくなっているな。
では、もう少し楽しめそうかな?」
フッ!
そう言って笑った男の姿が消えた。
「っ!」
先日使っていたデスカウントではない。
カウントもされていないし、これは単純に―――
ガキンッ!
咄嗟になのはは横に杖を構え、攻撃を受ける。
「ふむ、よく受けた」
「くぅ……」
今男は少し速く動いてなのはの死角に入っただけだ。
不安定な空中で急制動を用いてなのはの視界からずれたのだ。
あの少女が使う高速移動魔法ブリッツアクションと同様でいて、しかし魔法無しの技術だけで行うものだ。
(やっぱりこの人は接近戦主体だ。
それに、この人の飛行魔法は『飛行』じゃない)
通常の飛行魔法とは別の魔法を使う訳でもないのにこの急制動。
それができるのは仮面の男が使っている魔法『ヘルズライダー』によるものだ。
『地獄を駆ける者』、などと言う意味のこの魔法は、飛行の為の魔法ではなく、足場を構築するという魔法である。
そう、仮面の男は空を本当に『駆けている』のだ。
この男が駆けた後に黒い羽の様な物が舞い散るのが見えるのは使った足場の残滓だ。
そういう魔法によって、空に居ながら地上戦の利点を使えるこの男は、普通に飛行しているだけのなのはよりも遥かに速く、鋭く動く事ができる。
尤も、それも地上戦の技術があって初めてなし得る事であるし、魔力と同時に体力を大きく消費する事になる。
つまり、この男がかなりハイレベルの術者である事の証明でもあるのだ。
「さて、まだまだ行くぞ」
フッ!
またなのはの視界から男の姿が消える。
その次の瞬間には、のはは背後へと振り返り杖を構える。
ガキンッ!
「うっ!」
ギリギリ受ける事に成功するが、受け流す事には失敗し、腕に痛みが走る。
男の攻撃をなんとか感知できるのは、この男の魔力の大きさ故に、気配が解り易いからだ。
デスカウントを使われた時は、その気配すらその瞬間は消失する為に見切る事ができないが、単純な移動である今の行動ならばギリギリ反応できる。
(皮肉な事に、この人が強い魔導師だからこそ接近攻撃に対応できるんだ。
でも、反撃は出来ない)
なのはは考える、この状況を打開し、勝てる手段を。
しかし、なのはの攻撃は基本的に射撃。
接近戦はおまけ程度であり、接近主体の相手に使えばカウンターを貰うだけだろう。
その為、なのははなんとかこの男から離れなければいけないのだが、そもそもこの男の方がなのはよりも圧倒的に素早いのだ。
そんな相手をどうやって引き離せばいいのか。
更には、
「さあ、まだまだ行くぞ」
フッ! ガキンッ!
キンッ! ダンッ!
ヒュンッ!
「くっ、あ、うっ!」
薙ぎ、打ち下ろし、逆薙ぎ、袈裟、刺突―――嵐の様な連続攻撃。
なのはは受ける事だけに集中しなければそのまま叩きのめされてしまう。
そう、引き離すとか言う以前に、この攻撃の雨から逃れる手段すらないのだ。
戦闘理論魔法でも対応策が出てこない。
なのは自身が対応できなければ、理論は意味を成さないからだ。
一体どうすれば―――
そう考え、しかし何とかしようと隙をうかがうなのは達。
諦めず、今在る力だけで切り抜ける手段を思考する。
そんな戦闘が暫く続いた。
だが、変化は突然訪れた。
「さて、今日はこれくらいでいいか」
突然攻撃が止む。
仮面の男も、巨大ロボも、闇の人形もだ。
「え?」
何が起きたのかと、男を見るなのは達。
その時、
カッ!
閃光がこの閉鎖された世界を満たした。
サァッ
物音が聞こえた、同時になのはは顔に光を感じる。
太陽の光だ。
「なのは、久遠、朝だぞ」
そして声が聞こえた。
よく知る人の声が。
「……え?」
「くぅん?」
寝袋から起き上がるなのはと久遠。
2人は周囲を見渡す。
ここはテントの中。
昨日から来ている山の中で、今は朝だ。
「どうした?」
テントの入り口からは兄の声が聞こえる。
見上げればそこには兄がいて、なのはの様子を見ている。
「あ、うん、なんでもない。
おはよー、おにーちゃん」
「おはよう、恭也」
「ああ、おはよう。
早速走るから準備しろ」
「「はーい」」
とりあえず今解っている限りの状況で対応するなのはと久遠。
それから軽く朝食を食べて、また山を走る為に着替える2人。
その中、
『夢、じゃないわよね』
『うん、3人一緒だし』
『感覚も残ってるよ』
傍の木の結界内にいるアリサと3人で話し合っていた。
昨日の深夜、突如結界内に取り込まれ、3人はあの仮面の男と戦った筈なのだ。
そしてその最後は男が閃光を発した。
そこで3人の記憶は途切れている。
『でも、疲れとかはないよね。
アリサちゃんに回復して貰ってないのに』
『ええ、私も治療魔法を使ってないわね。
魔力の回復具合から考えると』
『なんなんだろう?』
3人は考えるが、結局答えが出ない。
仕方なく、一旦考えるのをアリサだけに任せる。
これからなのはと久遠は走らなければならないのだ。
それに、昨晩の戦いでは3人はどうする事もできなかった。
その打開策を各自練らなければならない。
午前は山を走り、午後から戦闘訓練を行う。
「さて、とりあえずなのはは昨日と同じ素振りをしておいてくれ」
「はーい」
「で、久遠は、組み手だな」
「うん」
なのはは地味だけど大切な基礎練習。
基礎は飛ばせない。
なのはは魔法についても戦い方についても基礎をかなり飛ばしてきてしまっている。
だが本来基礎は一生涯続けてこそのもの。
恭也や美由希も素振りといった基礎練習は毎日欠かさないのだ。
久遠は昨日と同じ組み手を行った。
恭也を相手に、素手だけで。
その中、久遠は今の子供モードと恭也との体格差を戦闘形態と巨大ロボの体格差に見立て、何かできる事がないかと模索する。
「恭也、恭也は刀で戦うよね?」
「ああ、そうだな」
「刀では斬れない相手、鎧を着ている人を相手にしたりする場合はどうするの?」
組み手の合間の休憩時間。
久遠は戦闘の技術を持っている恭也に教授を願う。
今自分がぶつかっている壁を越える為のヒントを。
「そうだな……俺には『徹し』という技術があるが、それでもやはり関節などの合間を縫って攻撃するだろうな」
「下に鎖帷子とかを着てたら?」
「更にその中でも弱いところを探す。
それと、『斬る』ではなく『突く』に変えるだろう。
線でダメならば点で一点突破とし、更に小さな隙間を探す。
どんな守りも完璧ではないからな。
後、そんな重装備なら鈍足だろうし、自分の重量は武器でもあり弱点にもなるだろう。
状況を利用して間接的に倒す様な策を考えるのも良い。
逃げてしまうのも手だ。
どうしても勝たなければならないのなら、自分が優位になる場所まで逃げる、移動するだけでも大きく違う」
「なるほどー」
今まで久遠は霊などを相手にする事が多く、貫く様な攻撃は重要性がなかった。
それに雷という攻撃なら、こと生物に撃つ時は当てるだけで絶大な効力があったのだ。
一応雷の力を収束して狙い撃てる様にはしているが、それは相手を正確に撃つ為のものでしかない。
その今の雷の力の在り方も考え直した方が良いかもしれない。
これからも戦い続けるのならば。
それから、恭也はなのはの下へと移動し、なのはの戦闘訓練に入る。
「さて、今日は攻撃を受けた後の動き方だ。
基本的に相手が攻撃を仕掛けてきた時程の隙はない。
だからこそカウンターは難しいが強力な攻撃になる」
まずは講義と実演。
それからなのはが実際にやってみる。
「はっ!」
「えいっ!」
バッ!
恭也の上段からの攻撃に対し、なのはは杖をもって受け流し、そこから間合いを詰めて短くもった杖を打ち込む。
「俺とお前くらいの体格差があると、今の様な打撃は殆どダメージにならない。
そもそも打撃系は重量が攻撃力に比例するから、なのはの体重では打撃攻撃は有効打になりにくい。
だから、今のはあくまで体勢を崩させる為のものであり、更に次の攻撃に繋げなければならない。
急所を狙うという手もあるが、まあ、相手を殺さない事が前提だと難しいな」
「はい」
「じゃあ続けていくぞ」
「お願いします」
それから、なのはは戦闘の中で攻撃を受けた際の動き方全般を広く学ぶ。
カウンターに始まり、受け流して離れる動き方などもだ。
日が沈むまで2人の訓練は続いた。
その頃、山の中
「……」
久遠は1人山の中を走っていた。
獲物を探しているのもあるが、しかしそれ以外のものも探している様だった。
カサッ
「……」
その途中、獲物を見つける。
昨晩と同じうさぎさ。
「……」
久遠はそのうさぎに狙いをつけ、ゆっくりと近づく。
バチッ
その途中、右手の人差し指の爪の先に電撃を用意する。
だが、それは放つ為ではなく、更にそこに収束する。
久遠がここに初めて用いる攻撃手段それを―――
一方 キャンプ近くの天然温泉
「ふぅ〜、いいわね〜この世界の温泉も」
修行している筈の3人以外に人が居ない筈のこの山で、温泉に入る者の姿があった。
尤も、その姿は人であってもサイズは小さく、妖精と呼べる姿だ。
「しっかし丁度良い感じの場所があってよかったわ」
妖精、アリサが入っている温泉は、人が入る為に深さが調整された場所ではなく、少し脇に流れて溜まっている場所である。
そこがアリサのサイズには丁度良い深さで、アリサは普通のお風呂と同じようにゆったり浸かっていた。
一切仕切りの無い露天風呂なので、水着などの用意がないのがやや心許ないが、今は妖精の姿だし、他に人も居ない。
近くに居る唯一の男性は今はこちらに来る事はないだろう。
勿論ただ温泉を堪能している訳ではない。
回復に専念するのと、更に今夜の対策も練らなければならない。
「やっぱり射撃魔法は必要よね。
幾つか用意しておかないと」
昨晩使ったのは魔法刃のみ。
咄嗟と言う事もあってそれしか用意できなかったのだ。
デバイス無しでは射撃系の魔法を使うのに時間が掛かってしまい、あんなに接近戦に詰められるとその準備すらできない。
「本調子なら、魔法刃だけも倒せるのに……」
アリサはここ1ヶ月近くずっと妖精の姿であり、戦いも大半が見ているだけだった。
そのせいか少し鈍っていると感じる。
そう考えると、今のアリサの相手は丁度良いリハビリになるかもしれない。
油断すれば死に繋がるスパルタなリハビリだが。
「一体なにが目的なのかしらね……」
そんな事を呟きながら、アリサは周囲を見渡す。
今は見えないが、少し離れた場所で戦闘訓練に勤しむ友達の姿を思い出しながら。
「私もがんばらないと……
あら?」
と、そこでアリサは近くに黒い影を見つけた。
小動物の影だ。
見れば草むらの影から黒い山猫がこちらを見ている。
「あら……」
が、アリサが見つけた直後にその山猫は直ぐに姿を消してしまった。
「ま、いっか……」
見られたのが野生動物なら問題ないだろうと、アリサはそのまま温泉を堪能し続けた。
その日の夜
鍛錬を終えて、夕食を摂り、今日もなのはと久遠は恭也と共に温泉に来ていた。
因みにアリサはその前に結界に戻って眠っている。
「ふぅ……身体を動かした後の温泉っていいなぁ」
「そうだね」
「ああ」
ゆっくりと今日の疲れを癒す3人。
静かな時間が流れる。
「ねぇ、おにーちゃん。
おにーちゃんが戦い始めたのって何時頃?」
そんな中、普段あまり聞けない事を兄に尋ねる。
普段こうしてゆっくりと話せる機会があまり無いからだ。
そう言う意味でもこの山篭りは良い機会だった。
「そうだな……物心ついた頃には木刀を持ってたな。
父さんに教わって、お前くらいの時にはもう戦おうとしていたよ」
「わたしと同じくらい、というと、その頃は……」
今のなのはの年齢くらいの時間を遡ると出てくる重大な出来事。
それは、父士郎の死。
やはりそれが兄が戦うきっかけとなったのだろうか―――
だが、兄は続けた。
「いや、父さんが死んだのは確かに大きいが、戦う道を選んだ理由は別に復讐ではない」
「……うん」
それは解っている。
兄の力がどういうものか。
決して復讐などというものが目的であるものではないと。
「お前も理由の1つだぞ」
「え?」
恭也が何かを告げる。
が、一瞬その言葉の意味が解らなかった。
「いや、なんでもない。
さて、そろそろ上がるか」
「あ、うん」
湯から上がる兄の背中。
その背になのはもついて行く。
いつか本当にその背に追いつけたらと、そんな事を想いながら。
その日の深夜
ヴォゥンッ!
世界が切り替わる。
バッ!
「またなの!」
飛び起き、外に出る3人。
そして見上げる空には仮面の男と巨大ロボ、闇の人形の姿がある。
「では、今日も楽しもう」
男の言葉で今夜も戦いが始まった。
「スラッシュダガー!」
シュババババンッ!
先手必勝と、近づかれる前に準備していた射撃魔法を放つアリサ。
数を持って攻めるスティンガーブレイドよりも更に威力を下げ、且つ数も4つと速射及び牽制を目的とした射撃だ。
バシュンッ!
対し、闇の人形の一体だけ止まって全てのダガーを爪で叩き落した。
その隙に残りの2体が迫ってくる。
やはりというべきか、この人形達は結構強い。
牽制目的とは言え、それでもそれなりの威力は持っているのに、牽制も僅かにしか効果が無い。
「スラッシュブレイド、ツイン」
キィィンッ!
アリサの両手に出現、固定される魔法刃。
そして迫り来る敵に向かってアリサも跳ぶ。
「はっ!」
ガキンッ!
牽制で入れ替わりはしたが、1列に並んで迫ってきていた3体の人形の先頭の一体に右の魔法刃で横薙ぎの一閃。
が、正面からのただの斬撃であるため、爪で止められてしまう。
しかし、それはわかっていた事。
アリサは、その接触点を支点とするように、回転しながら先頭の頭上を越える。
更に、その回転を使って左を振り下ろす。
ガッ キィンッ!
だが、それも真ん中の人形によって止められる。
更に、その攻撃の間に最後尾の1体がアリサを狙う。
「てぇっ!」
ゴッ!
その1体に対し、アリサは蹴りを放つ。
魔力を込めた蹴りだ。
やはり防御されてしまうが、そこへ、
「スラッシュダガー!」
シュバンッ!
バシュンッ!
今までの攻撃の中で詠唱を済ませていたダガーを放つ。
至近距離からの射撃魔法は人形の頭に直撃、敵がよろけた。
このまま追い討ちをかければ倒せる―――だが、
ヒュンッ!
「おっと!」
先頭だった1体の爪がアリサの背を掠める。
流石にそんなに簡単に倒させてはくれない様だ。
一旦距離を置くアリサ。
そうして改めて構え、今度は横一列にならぶ人形と対峙する。
「……よし」
アリサは少しだけ笑みを浮かべる。
昨日は防戦一方だったが、今日は戦える、戦えている。
アリサの中に実戦の感覚が戻り、魔力の制御も繊細に行える。
まだ勝てぬが、しかし、
「行くわよ」
アリサは前に出る。
今日までなのはの背に隠れていなければいけなかった自分を思い出しながら。
自分は戦えるのだと思い出しながら。
ズドォォォンッ!
大地が揺れ、森が砕ける。
偽物の世界とはいえ、大自然がこの暴れる人工物によって蹂躙される。
「こっち」
偽物であると改めて自分に言い聞かせる様にして思い、久遠は森を跳んでいた。
基本的に木々の上を、森の中であるのにわざと上から見下ろすロボットに視認させている。
ブンッ!
ズドォォォンッ!
また一撃、その一撃の瞬間だけ、久遠は最大加速で回避する。
そんな回避行動を繰り返していた。
それは逃げ回っていると言えるかもしれないが、しかし久遠はあることを狙っていた。
それは―――
ブンッ!
何度目かの攻撃。
単純な様でいて、ある程度久遠が回避する事を踏まえた上での一撃が放たれる。
だが、
ガシャッ!
バキバキバキッ!!
突然巨大ロボが体勢を崩した。
山の急な傾斜に足をとられたのだ。
久遠は、その瞬間を待っていた。
「はぁぁぁっ!!」
一気に接近し、体勢を崩した巨大ロボの足元に辿り着く。
そして、その手に雷の力を収束させる。
ガスッ!
その手、いやその手の先の爪を右膝の露出している機械部に突き立てる。
爪自体は本当に爪の部分が刺さる程度のもの、
だが、
ズダァァァァンッ!
その爪先から雷が放たれる。
嘗て無いほどに収束した最大出力の雷だ。
「ゴゴゴ……」
ズバァァンッ!
ドゴォォォンッ!
雷は反対方向まで貫き、ロボの右足は爆発した。
アリサに魔法を教わったことで確立できた雷撃の収束放出。
まだ集中するのに時間は掛かるが、その貫通力は通常雷撃の比ではない。
「よしっ!」
これでもう動けない。
後は隙を見て両手と残る左足を砕けば勝ち。
そう思ったその時だ。
グォンッ
突如闇がロボの右足を覆う。
ゴゴゴゴッ!
そしてその数秒後にはなんと巨大ロボは再び立ち上がった。
爆発した筈の足で大地を踏んで。
更に、
「ゴゴ」
ガキンッ!
ズドォォォンッ!!
左の拳を構えたロボの肘に何かを切り替える音が響き、直後、爆発する。
いや―――それは爆発ではなく発射の為の爆風だった。
「なっ!」
驚愕しながらも回避行動をとる久遠。
ドゴォォォンッ!!
回避した久遠の後方を破壊するロボの拳。
所謂ロケットパンチという奴だ。
ただ、直ぐ脇を通り過ぎたロボの拳は本体と太いワイヤーで繋がっており、アニメなどで見るものとは少し違う。
が、それすら利点だった。
ギィィィンッ!
モーターの駆動音と共に巻き取られるロケットパンチ。
そして、
ガキンッ!
発射から数秒で腕は元に戻った。
攻撃を回避しながらでは、腕の結合部を狙うのは危険だろう。
おそらくは繋げているワイヤーすら武器になるものだ。
これだけ巨大な物体を巻き取れるワイヤーだ、太さは久遠の胴体並に太く、重量もある。
「くっ!」
敵は単純なパンチでの攻撃だけではなく、中距離攻撃に相当する武装を持っている
しかもサイズの差を考えれば久遠にとってそれは長距離撃であり、収束した雷撃を放つ事が難しくなった事を示している。
それも、それだけでは終わらなかった。
ガキンッ!
ロボは距離を置いた久遠に今度は右手を向けた。
拳ではなく指をだ。
そして、
「ゴォォォ……」
キィィィィンッ!
何かを収束する音が響き、ロボの指先が黒く光る。
「―――っ!!」
タンッ!
久遠は更に大きく飛びのいた。
本能が危機を告げている。
ガチャッ!
音が響きだしてから2秒後、構えているロボの指先が口をあけ、それらは全て発射口となる。
ズバァァァァンッ!!
放たれるのは5連の魔導砲。
破壊の力に変換された魔力が久遠に向けて放たれる。
「くぅっ!」
ドゴォォォォォンッ!!
直前まで久遠の居た場所が爆破され、灰となって消える。
1本でも受けたら久遠といえどもかなり危険な威力だ。
「……」
考えが甘かったと、もう1度戦い方を考え直す久遠。
そんな中、1つの事を考え付いて行動に出る。
「ああああっ!」
ズバァァァンッ!
ズドォォォンッ!
ズダダダァァァンッ!!
久遠が行ったのは電撃の連発。
収束せず、ロボの全身に対して電撃を通す。
収束していないので遠距離から放てるが、効果は無い。
全く無効化されている訳ではないが、壊す端から即座に直ってしまうような軽度の損傷を広範囲に行っても無駄と言える。
そう、それは一見無意味な行動だ。
「はぁっ!」
ズドォォォンッ!!
それを久遠はロボの攻撃を避けながら、山の中を飛びまわりながら行った。
いろんな方向に移動しながら、時にはやや危険な回避の仕方をしてまで。
久遠は自棄的に攻撃を行っているわけではない。
それは久遠の目を見ればわかる事だろう。
何かを探している、そんな目だ。
そう、久遠は探している。
勝利への道を。
その頃、なのはは男と対峙していた。
周囲2箇所で爆音が響くこの偽りの世界の中で、ただ静かに互いを見る。
「貴方は、戦うのが好きですか?」
静かな問いかけ。
そこに高ぶる怒りや憎しみは無く、悲しみすらない。
ただ純粋な問いかけの言葉。
「お前はどうなんだ?」
しかし、答えはなく、ただ質問がそのまま返ってくる。
「わたしは、嫌いです」
「が、否定もしないと?」
静かに答えるなのはに対し、更にその内側の意味を付け加える仮面の男。
そうして更に男は続けた。
「言葉だけで全てが解決するほどこの世界は甘くなく、力だけで満たせるほどこの世界は小さくない。
そう、半端な気持ちだけでも、半端な力だけでも何も得られない。
お前はそう気付いている。
ならば、どうする?」
男の問い。
それはなのはが自身へ問いかけ続けている命題。
「わたしは―――」
答えは出ない。
まだ―――まだ足りていない。
何かが―――解っている筈の何かが、持っている筈のコタエが。
「まだ答えられぬか。
ならば、今しばらく苦しむがいい」
仮面の男はジュエルシードを掲げる。
アリサと戦っている人形を出しているZのジュエルシードだ。
そのジュエルシードを持った手で男は棍を持つ。
すると……
ゴゴゴゴゴ……
棍が変化する。
もとより黒かった外観は淀み、闇色の血管の様なものが浮き出る。
更に、その先端に巨大な刃が形成される。
そのカタチは実在の武器で言うならば戦斧。
2m近い柄をもち、刃渡だけでも1m近い両刃の戦斧。
道具としてではなく、生命を打ち砕く武器として存在するモノ。
「行くぞ!」
ゴッ!
爆音が響く。
超重量の武器を持ちながら、先日と変わらぬ高速を持って移動する男の足元で起こるのは最早爆発と言ってよい。
蹴られた空が悲鳴をあげ、こじ開けられた風が散ってゆく。
「っ!」
キィィィンッ!!
なのははシールドを形成した。
正面から打ち下ろしてくる大斬撃に対し、ほぼ垂直に。
それを、
ガッ! キィンッ!
刃が触れた瞬間に斜めに下げ、自身もそちらへと身体を移動させ、受け流す。
ズドォォォンッ!
反れて攻撃は地面に激突し、大地を割る。
もし受けたなら、シールドもバリアも突き破ってなのはを真っ二つにしていただろう。
それくらいの威力だ。
「ディバインッ!」
相手の攻撃は凌いだ。
大振りの攻撃を外し相手はすぐに動く事はできない。
ならばその隙にとなのははディバインシューターを放とうとする。
だが―――
「良いのか? 答えの無いまま力を振るって」
「―――っ!!」
男の言葉にその魔法は霧散した。
昨日はそもそも攻撃などできる状態ではなかったからその問題は発生しなかった。
しかし今この時、殆ど問答無用に近いレベルで襲ってきた相手に、なのはは攻撃する事ができなかった。
前回のジュエルシードが発動した後、この男に言われるままに戦った。
しかし、改めて考えればそれすら本来なのはにとっては良いことではなかった筈だ。
そして昨日からこの山に来て戦う技術を教わり、戦う事についてもう1度考えている最中だ。
このジュエルシードを巡る戦いの中、なのはは何をすべきなのか―――
その答えはまだ無い。
「そう、前回は俺が誘い。
今回も俺が持ちかけている戦いだ。
だが、それをお前はどうする!」
ブオンッ!
風を砕く音を響かせ、再び大戦斧がなのはに迫る。
キィィンッ!
再びシールドを構築するなのは。
魔力を使うシールドであるが、杖でこの攻撃を受け流す事はできない。
少しでも間違えればレイジングハートが砕けかねないのだ。
ガッ! キィンッ!
空中で反転しながら攻撃を受け流す事に成功するなのは。
だが、
ブンッ!
大戦斧がその軌道を変え、再びなのはを襲う。
それはジュエルシードの力なのか、この大質量武装で連撃を撃とうというのだ。
「っ!!」
ガガガッ! ギィィンッ!
辛うじて再びシールドで受け流すなのは。
その瞬間、なのはは男の間合いの内側に入る事できた。
そう、それは隙であり攻撃の絶好のチャンスだ。
だが―――
「どうした? 自分を襲う敵であり、ジュエルシードが掛かっている。
攻撃するのは自然な事だろう?」
「くっ!」
ガキンッ!
なのはは男の言葉に苦い顔をしながらも、その杖を向ける。
男の右手、ジュエルシードナンバーZが握られた手に。
人を攻撃できる覚悟はまだない。
ならばジュエルシードだけでもという考えだ。
そもそも1度浄化封印しているジュエルシードであり、男が使っている力を封じるだけならば、そこまで大きな力は必要ないと判断できる。
キィィィンッ!
魔力が収束される。
この瞬間、互いに動きが停止する。
攻撃を放った直後の仮面の男も、魔力を収束させているなのはもだ。
間に合うと思っていた。
男が再び攻撃出来る様になるまでの短いチャージで十分だと。
この程度の隙を突いたタイミングで間に合うと。
しかし、
「そこまで世の中甘くない。
知っているだろう?」
「え?」
ブンッ!
そう、それは前回あの少女もしたミス。
拳が飛んでくる。
武器から手を離したただの拳。
魔力も篭っていない、ジュエルシードも握られていない左の拳だ。
「あっ!」
『Protection』
キィィィンッ!
その拳は知っている。
あの少女のバリアを無視するかの様にダメージを与えたものだ。
しかし、反射的にバリアが展開される。
「残念だ」
ドゴンッ!
男の拳がバリアに触れる。
本来であればバリアで十分に防げるほどの威力だ。
だが、その衝撃はバリアを突き抜けてなのはを襲う。
ゴゥンッ!
「くぅ……はぁ……はぁ……」
しかし、なのはは吹き飛ばされながらもまだ意識を保っていた。
直前で杖を盾としながら回避行動に出た為、直撃はしなかったのだ。
「ふむ」
それを何故か楽しげに見る仮面の男。
だが、すぐにその笑みは消える。
「まあまあの動きだが、やはり遅いな。
そもそも、お前程の魔力なら拳が届く前に封印魔法が撃てた筈だ。
他に余計な魔法を使っていなかったらの話だがな」
男が言わんとしている事、それはなのはにも解っている。
前回の戦いでも身に染みているのだ。
それが如何に足枷になっているかを。
「そう、その戦闘理論魔法だ。
いつまでそんなモノに縋っているつもりだ?」
「―――っ!」
それは、なのはにとって必要なものだった。
戦い方を知らぬなのはが戦い続ける為に。
だが、だがしかし―――
「さて、今日はここまでにしておこうか。
明日を楽しみにしているぞ」
カッ!
最後に、男はそう言って戦いは終わった。
この世界は光で満たされ、全てが解らなくなった―――
翌日 昼
昨日同様、何事も無かったかのように朝が来る。
戦っていた感覚は残っていても一切痕跡が残っていないのだ。
不思議な事にあの後どうなったのかなのは達は何も解らないのに、何もされていないのだ。
ジュエルシードも無事で、ダメージや疲れなどは癒えてすらいる。
これは一体どういうことなのだろうか……
アリサは目的がハッキリしないと苛立っているが、ともあれなのは達は今日も鍛錬がある。
「では、今日は飛針の使い方を教えよう」
「はい」
朝の走りこみが終わったあと、昼食を摂って今日の戦闘訓練に入る。
恭也がなのはに渡すのは飛針といわれる投擲用の針だ。
「この武器は殺傷能力が低く、牽制などに使うのが主な使い方だ。
場合によっては相手の武器を封じたりもする」
「手を狙うって事?」
「それもあるな。
だが武器に直接けて弾き飛ばしたり、武器を使わざるを得ない状況にしたり、と封じる方法は様々だ。
後は牽制によって自分の有利な状況を作る事もできる」
「状況を作る?」
「そうだ」
なのはは自身が射撃タイプの魔導師である事から、いろいろと思うところがある。
弱い攻撃の使い方なども改めて考えてみる。
「持ち方はこう。
そう、投げ方はそのまま指を……」
「こう?」
ヒュンッ!
兄に教えてもらった通りに、なのはは飛針を的へと放つ。
兄が枯れ木を使って即席で作った木の板の的だ。
トスッ
放たれた飛針は、的の真ん中よりもずれて刺さる。
やはり初めてでは上手くいかない様だ。
「ふむ、良い感じだ。
手首の使い方も良かった。
後は正面から投げられるなら肘を……こうだ」
「うん」
それからなのはは暫く動かない的を相手に飛針の練習をする。
暫く兄がついて指導してくれたおかげで、最後の方はかなり精度が上昇した。
(これで射撃魔法にも活かせるかな)
そう考えながら、なのはは飛針の練習に没頭した。
「さて、久遠はどうする?」
なのはの方が一段落すると、今度は久遠の番となる。
「久遠も的が欲しい」
「では俺がなろう。
電撃だな?」
「うん」
久遠の方は恭也を的にして射撃練習をする事になった。
弱い電撃なので、当たっても問題なく、木刀でも叩き落せるレベルに抑えてのものだ。
「いくよ?」
「ああ」
それから3時間ほど射撃練習をするなのはと久遠。
一方 アリサ
アリサは温泉に向かっていた。
どうせ休むなら温泉に浸かりながらの方が気分的に良いからだ。
なのは達が修行している中なので悪い気もするが、しかし今のアリサには修行よりも回復が優先される。
久遠に頼まれていた事を確認する為に、少し上空から山を見ていたから昨日より少し遅くなったが、温泉に到着する。
すると、
「さて、昨日の浅瀬はっと……あら?」
昨日使っていた場所を見てみると先客がいた。
それは前足だけを湯に浸けている蒼い瞳の黒い山猫だった。
「……」
山猫はアリサに気付くと、その場から離れようとする。
が、見れば歩き方がぎこちない。
「待ちなさい」
アリサは念を込めて呼びける。
動物にも解る様に言葉を重視するものではなくイメージを重視する送信。
一応にも医学の知識が在る身としてすぐに解ったのだ。
その山猫が右前足を負傷している事に。
「……」
アリサの呼びかけは通じ、山猫は立ち止まる。
「昨日は私が居たから入れなかったんでしょう?」
昨日温泉に入っていたときに感じた視線はこの山猫のものだと解る。
傷を癒す為に来たのに、アリサがいた為それが出来なかったのだ。
単に気分で入っていたとしか言いようが無いアリサのせいで。
キィィィンッ
アリサは山猫に治療魔法を掛ける。
魔力を消費してしまうが、夜までには回復できるし、そもそも放っておくのはアリサの心が許さない。
自然の中で生きる獣が怪我をして死に行くのは自然の摂理としても、自分が居たから傷を癒せず死んだとしたら自分のせいだ。
「……」
治療が完了すると、山猫は不思議そうに足の調子を確かめる。
「じゃあ、ここは借りるわよ」
アリサは義理は果たしたと、山猫に背を向けて、山猫が使っていた場所に入る。
「ふぅ……」
暫くして、後ろに山猫の気配が無くなるのを感じる。
最後まで鳴く事もなく、静かに。
「……このサイズじゃなかったら撫でたかったな〜」
どちらかと言うと犬の方が好きだが、それでも猫も好きなアリサ。
そんな事を呟きながら、次には真面目な顔になり、今夜の事を考える。
夕刻
射撃練習が終わったなのはは川の中央付近に突き出た石の上に立ち、精神を集中させていた。
周囲の川には川魚が泳いでいる。
(数は……8匹)
目を開いてはいるが、集中するなのはの周囲20m内の魚の数を正確に把握する。
半径10mの範囲の中をである。
そう、つまり目の届かない筈の背後も含んでいる。
(わたしの有効射程は……4m)
なのはが手に持つのは飛針1本。
それをゆっくりと構える。
そして―――
ピチャンッ!
ヒュンッ
トスッ!
バシャンッ!
4つの音が響いた。
最初の音は魚が跳ねる音。
次の音はなのはが飛針を放った音で更に次は飛針が刺さる音。
最後のものは、飛針が刺さった魚が水に落ちる音だ。
「やった、なのは凄い」
感嘆の声を上げながらなのはに射抜かれた魚を回収する久遠。
そう、なのはは動く生き物に対して飛針を命中させたのだ。
射撃魔法の応用であるが、戦闘理論魔法も無しの生身で行ったのである。
実戦経験があり、今日までの修行があったからこそ成しえた事であろう。
「えへへ。
あ、ありがとう魚さん」
成功に喜びながらも、なのはは犠牲にした魚に謝罪と感謝の言葉を送る。
捕った魚は今夜の夕食にする予定である。
その後、なのはは空を見上げる。
夕日に染まる静かな空を。
「……わたしは、もう戦闘理論魔法無しでも、野生の生き物を殺せる力がある」
1ヶ月前、アリサと出会う前なら想像すらしなかった事だろう。
肉や魚は食べていても、それを自ら捕る事が出来るようになるなど。
釣りなどならば兎も角、1本の針でそれを行ったのだ。
魔法でもなく、ただの技術として。
そうだ、それだけの力を既になのはは持っている。
それに魔法が加わったなら、もうなのはという存在は―――
「なのは……」
名前を呼ぶ久遠。
しかし、心配しての呼びかけではない。
空を見上げるなのはは、もう何かを決めている。
それは諦めたから決定した事ではなく、全てを覚悟し、決意した真っ直ぐな瞳。
久遠もよく知るなのはの強い瞳であるが、それがよりいっそう深くなったものだ。
だから、最早心配など必要ない。
そんななのはを見ていれば、自分に在る問題もなんとかできると思える。
やり遂げると覚悟していた事に対して存在していた不安が消えていく。
それこそ、なのはが持っていた本当の―――
夕食前 温泉
温泉に浸かっていたアリサは温泉から上がって移動しようとしていた。
夕食前の時間、恭也が居なくなる時間になのは達と話し合う事があるのだ。
今夜の事について。
ここでの修行は今夜が最終日であり、確証は無いが、今夜で決着をつけなければいけないと考えている。
だから最後の作戦会議。
それにアリサは合流しなければならない。
スタッ!
「なに?」
身体を拭き、服を着ていたアリサの背後に一瞬気配がして、更に物音がする。
「あら?」
振り向けばそこには一匹の川魚が転がっていた。
まだピチピチ跳ねている新鮮なものだ。
だが、ここは川からは大分離れており、魚が跳ねてこられる様な場所ではない。
「別にいいのに……」
しかし、直ぐにその川魚の正体が解る。
良く見れば魚の腹には牙の跡があり、小さな口の形が解る。
そう、それは山猫のものだ。
治療のお礼に持ってきたのだろう。
猫がそんな恩返しをするのにはちょっと驚くアリサだったが、きちんと持ち帰り、焼いて食べる事にした。
数分後 キャンプ前
夕食前の一時。
恭也が夕食を捕りに行っている僅かな時間、アリサを含めた3人の少女が集まっていた。
今夜の戦いに向けての会議だ。
「今夜が最後だから、やっておきたい事があるの」
「ええ、いいわよ」
「なのはがそう望むなら」
が、会議とは言っても、なのはの決意表明に近いもの。
やるべき事は決まっていて、後は覚悟次第だったのだ。
だから、今夜行うべき事は―――
夜 温泉
3日目の鍛錬が全て終わり、1日の締めくくりとして温泉に入る3人。
流石に疲れている為か、3人とも殆ど動く事もなく、ただ静かに夜空を見上げていた。
そんな中、なのはは兄に寄り添い、静かに問う。
「おにーちゃんは、戦っていて辛いと思ったことある?」
兄はまだ20歳にも満たない、その道を行く者としては十分若いと言える年齢だ。
しかし、それでも既に幾つかの実戦を経験し、そうなるまでの道のりもさぞ険しかったであろう。
今日までの3日間だけでもかなり大変だった。
肉体的にも精神的にもだ。
そんな事を物心ついた頃からやっている兄は、どう思っているのだろうか。
「辛いさ。
戦う事が楽しくなったら、俺は俺でなくなっているだろう」
意外と言えてしまう程はっきりと本音を語ってくれる兄。
やはり、と思いながらも、なのはは兄を見上げた。
どんな思いをもっての言葉かを理解する為に。
だが、それよりも先に言葉が続く。
「だが、そうしなければもっと辛い思いをする事になる。
そうなる事を避ける為に、俺は、俺の都合で戦い、人を斬っている」
「それは、誰かが悲しむのを見たくないから?」
兄の応えに対し、なのはは確認の様に問いを重ねる。
なのはの知りうる限り、兄が戦う理由はそう言うものだ。
「結局はそれも俺の判断だ。
俺は短絡的な思考しかできないから、先まで考えず行動する。
善悪の概念はそこには無く、自分のやっている事の是非など棄て去っている」
「それでも、皆幸せだよ?」
一体何を基準に短絡なのか、などいろいろと言いたい事はある。
だが、どんな表現を用いようとも、兄が戦ったからこそ今の高町家とその周囲の幸せが護られた事は事実だ。
「それは、俺が俺の周囲という狭い範囲でしか戦っていないからだ」
なのはの言葉を否定するかの様に兄は自分の道について語る。
しかし、それは自暴自棄なのではなく、決意と覚悟を持った自分だけの答えが在るからこその言葉。
例え人に誇れなくとも、誰にも必要とされなくとも突き進むと決めた恭也の在り方。
「俺は俺単体で戦う限り、善悪のどちらでもないただの『力』だ。
俺はそう言う戦い方を選び、この道を生涯貫くだろう」
そう、兄は持っているのだ。
確かな答えを。
もう2度と迷いも揺らぎもしない確たる1つの道を。
「お前はどうするんだ?」
そして、兄は問う。
戦う事を避けていた筈のなのはに。
戦う事を学んだなのはに。
その矛盾をどうするのかと。
「わたしは―――」
「今は応えなくていい」
答えはもうあるのだ。
もう決めている。
だが、兄はなのはの言葉を止めた。
まだ言うべき時ではないと言う様に。
そしてもう1度ゆっくり考えろと言う様に。
その後は、なのはと恭也、久遠も一言も喋る事なく時間を過ごした。
この山で過ごす最後の夜を。
3人で夜空に輝く月を見上げながら。
深夜
ヴォゥンッ!
草木も眠る時間、今日もまた結界が展開された。
これで3度目となる事態に、もう3人は慌てる事無く、しかし隙無く立ち上がる。
「さて、そろそろゲームにも飽きたしな。
これで最後にしよう」
勝手に宣言する仮面の男は既に巨大ロボと人形を用意していた。
それを迎えるのは3人の少女。
「OK、今日できっちりそのジュエルシードを奪ってあげる」
本来の姿に戻り、既に両手に魔法刃を持っているアリサ。
「負けない」
戦闘形態へと姿を変え、雷を展開する久遠。
「……」
そして、紅き宝玉を持つなのは。
「レイジングハート」
キィィィンッ
ガキィンッ!
杖は呼びかけに応え、なのはに白のバリアジャケットを、その手に杖と姿を変えた己を与える。
それはいつもの戦闘準備。
だが、その先は―――
「レイジングハート、メモリーより戦闘理論魔法を破棄」
戦闘が開始するこのタイミングで、なのはは己の杖に命令を下した。
それは今まで頼ってきた魔法の消去。
使用の停止という半端なものではなく、完全な削除である。
戦闘理論魔法は記憶しているだけでレイジングハートのリソースを大きく消費しており、それを考えてというのも無いとは言わない。
しかし、それ以上になのはは決意したのだ。
これは自分の道であると。
無断で借りていた力を返し、正しく自分である為に。
キィィンッ
『Deletion was completed』
数秒後、デバイスから今まで頼っていた力は無くなったという報告が上がる。
これで、もうなのはは独力だけで戦わなければならない。
ジュエルシードとの戦闘も、あの少女との戦闘も、そして目の前の仮面の男との戦闘もだ。
「行こう、レイジングハート。
行こう、くーちゃん、アリサちゃん」
いや、独力ではない。
信用する杖がその手にあり、信頼する仲間が居る。
だから、恐れるものは何も無い。
故に―――
『Yes―――My master』
意思を持つ杖、インテリジェントデバイス・レイジングハートは応えた。
なのはの呼びかけに対し、『我が主』と。
「レイジングハート」
なのははその返答に一瞬驚き、その後微笑んだ。
「主と認められたのね。
まあ、私のなのはなら当然だわ」
「うん、なのはだもの」
本来の持ち主すら『主』とは呼ばなかった杖が、貸し出している相手を正式に主と認めた。
久遠は純粋に喜んでいるが、元持ち主としてアリサはやや複雑な心境だ。
尤も、それでも嬉しさの方が上であるのは確かである。
そんな3人の驚きを他所に、レイジングハートは更に続けた。
『Master.
I release the restrictions concerning me』
それは、なのはが初めてレイジングハートを持った時から感じていた何かの正体。
心配性の家族によって設けられていた安全装置。
しかし、それはもう必要ないと、レイジングハートは己の判断でそれを解除する。
「そんなのあったの……」
知らなかったアリサは驚くよりも顔が引き攣っていた。
今の今まで気付かなかった事に対してだろう。
それと家族への複雑な想いもある。
それが皮肉にも、アリサが認めている者とは言え、家族以外の者の手の中で解除されたのだから。
「ありがとうレイジングハート。
改めて行こう」
「そうね、リンディ達には後で一言言っとくとして、今は―――」
「うん、勝つよ」
『Yes,My master』
改めて上空の敵を見上げる3人。
最早完璧な状態で。
システムではなく、本当に互いに互いを信じる仲間と共に、1つの強大な敵に向かう。
「話は済んだか?
では始めよう」
待ちわびたように笑みを浮かべる男の言葉で、この仮面の男との最後の戦いが始まった。
「はっ!」
ズダァァァンッ!
巨大ロボに対し、全体に浴びせる様に雷撃を放つ久遠。
「ゴゴ……」
オオオオ……
しかし、やはり纏う闇とその巨体、更には自己修復機能によって攻撃の意味はなくなってしまう。
そして何事も無かった様に巨大ロボはその拳を向けてくる。
ズドォォォンッ!!
「はっ!」
その攻撃を紙一重で避ける久遠。
しかし巨体からの一撃は、直接触れなくとも、その風圧だけで久遠は吹き飛んでしまう。
が、久遠はそれを利用して巨大ロボとの距離をとった。
ブオンッ!
そのタイミング、空中にいる久遠に対し、ロボの拳が飛ぶ。
風圧を利用して跳んでも、まだロボの射程内だったのだ。
「とっ!」
タンッ!
しかし、久遠はそれすら理解した上で、迫り来る巨大ロボの拳を蹴る。
それは攻撃の為ではなく、その打撃すら跳ぶ力に変える為だ。
ダンッ!
巨大ロボの力をそのまま利用し、遠くに跳ぶ久遠。
「こっち」
そうして飛びながら、久遠はロボを誘う。
久遠の雷では倒せない相手であり、自己修復までする相手をだ。
言葉と手招きという、単純にして明解な誘い。
ロボはそれに従ったのか、それとも元々の目的故か、久遠を追いかけた。
一方、アリサ
「せぇぇっ!」
ブンッ!
両手の魔方刃をもって3体の敵を牽制するアリサ。
今回はまた3体にまとわりつかれ、射撃魔法を撃てていない。
接近戦もできるアリサであるが、このレベルの敵3体を相手にして、デバイス無しで勝つのは難しい。
敵は3体居る事を上手く利用して連携攻撃までしかけてくるので、牽制してダメージを受けない様にするだけでも手一杯だ。
「このっ!」
ヒュッ!
ブンッ!
実戦を経験している為動きは的確だが、剣術と言えるものを修めていないので、殆ど振り回しているだけに等しい魔法刃。
故に魔方刃だけでは本当に牽制にしかならず、アリサは後退し続けていた。
「はっ!」
ヒュンッ!
しかし、アリサは焦っていないし、追い込まれている様な様子は無い。
いや、むしろその後退の仕方は敵に追い込まれて仕方なくそうしているのではなく、何かを狙っての動きだ。
その頃、なのは
2人が山の中を走り回って戦っている中、なのはは仮面の男と対峙していた。
だが、なのははまだ杖を構えていなかった。
男もまだ仕掛けない。
「で、答えは見つかったのか?」
男から出される問。
昨晩は応えられなかった問だ。
「はい」
それに対し、なのはは迷い無く告げた。
そして、言葉としてカタチにするのは自分の応え。
「わたしに足りないのは覚悟でした。
『戦い』という手段でしか得られない結果を受け入れる覚悟が」
なのははほんの1ヶ月前まで、一切戦闘能力を持っていなかった。
それが魔法と言う力を手にし、強大な破壊力を得て、更に戦闘理論魔法により戦う事ができてしまった。
きっかけと努力と才能により、本来在るべき過程を殆ど飛ばして覚悟を持って戦う者と戦闘して勝利してしまう程に。
故に、途中悩むべき事をまとめて抱える事になり、今までそれを引き摺っていた。
だが、その答えももう出ている。
いや、それは最初からなのはの中に在ったのだ。
ただ、それを見つけるには唐突な出来事ばかりで、しかしそれでも恵まれた環境故、良き人達に囲まれていた事で気付く事ができた。
そうして、この3日間によってその答えを確かにする事ができたのだ。
その答えは―――
「わたしは、もし戦う事が避けられなくとも、わたしの心のまま、全てを望み、全てを求めていきます。
例え相手が正義を振りかざしたとしても、それでもわたしが信じる心のままに、全てを受け止め、進みます」
戦う事は相変わらず嫌いで、出来る限り避けたい。
しかし、この1ヶ月の戦いの中で知ってしまった。
戦う事を嫌いながらも、決意を持って戦う人が相手では、どうしても言葉の力だけでは心を繋げる事はできないのだと。
それに都合の良い仮想の世界とは違い、敵対するものが単純な所謂『悪』ではなく、むしろ『正義』を語れる人であるかもしれない。
そうした相手にはどうしても『力』は必要で、戦う力を持たなければ話す事もできないという事態は在り得る事だ。
だが、それでもなのはは例え戦うという手段を使ったとしても、だからと言って何かを切り捨てる事無く汲み取りたいと思う。
そう、相手の主義主張、全ての想いを理解した上で、戦いの過程も、その結果がどの様なものであれ受け止め、その先へと進む。
それはきっと兄が行く道とは対極で、なのはにとって都合の悪い事すら多く抱え込んでしまう選択。
しかも、望みを求め、その全てを得んとするなら、その為に本当に膨大な力が必要となる。
なのはが嫌う戦闘の為―――その中でも相手を倒す力、破壊の為の『力』すらも。
それは承知の上だ。
だがしかし、それでも―――
「その答えでは、結果が伴わない限りただの我侭に成り下がり、お前の想いは全て『欲望』と言われるだろう。
そして、そんなやり方では戦いはより困難になり、その様な道を行く事は人は無謀と言うだろう。
―――それでも行くか?」
「はい」
男の言葉に真っ直ぐに答えるなのは。
それすらも覚悟し、決意したのだと。
「そうか。
―――ならば『想い』も『力』もここに在ると示せ。
俺すら越えられぬのであれば、そんな答えは夢のまた夢。
お前の決意が『無謀』ではなく『勇気』であるならば、お前の全てでそれを証明してみせよ!」
男は構える。
昨晩と同じ暴力の塊となった巨大凶悪な両刃の戦斧を。
「はい。
わたしは戦い、貴方のジュエルシードを止めて、それから全てを解決します」
なのはは構える。
今までとは違う、本当になのはの力となった杖を。
武器にしてパートナーたる紅き宝玉の杖、インテリジェントデバイス・レイジングハートを。
「おおおおっ!!」
ブォンッ!!
巨大な戦斧を振りかぶり、仮面の男が空を駆ける。
超重量の武器を持ちながら、しかしその速度はあの少女の高速移動魔法と同等だ。
なのはと仮面の男は50m近く離れていたが、その程度の距離など瞬時に0にされてしまう。
『Protection』
キィィィンッ!
そんな状況でなのはがとったのはバリア魔法の展開だった。
しかし、いかに頑強ななのはのバリアとて、この攻撃を受けきる事はできないだろう。
キィンッ!
なのはがバリアを展開して直後、なのはの足元に一瞬魔法陣が展開した。
それはバリア魔法の為の魔法陣ではなく―――
ガキィンッ!
ギギギギッ!
なのはのバリアに仮面の男の戦斧が触れる。
バリアはそれを止める事ができず、戦斧はバリアを押し破ってくる。
元々バリアタイプの防御魔法は『受け止める』事を目的としている為、よほどの貫通力かバリア破壊能力を持たぬ限り瞬時に破られる事は少ない。
だが男の攻撃があまりに重い為、なのはのバリアを持ってしても、ほんの僅かな時間稼ぎにしかならない。
ヒュン!
だが、そのほんの僅かな時間があれば良い。
なのはは、その場から離脱する。
元々受け流す為のものであり、正面から受ける事はできないと解っている。
そして、
フッ
なのはが離れた事で、バリアがその場から消滅する。
同時に抑えが無くなった男の攻撃はなのはが元居た場所に一気に到達し―――
キィィィンッ!
ガキィンッ!!
男は、その場に光のリングで拘束された。
「ほぅ」
感嘆の声をあげ、笑みを浮かべる仮面の男。
それはなのはがバリアを展開すると同時にそこに設置したバインド魔法。
前にアリサがあの少女達を拘束するのに使った設置型拘束魔法『レストリクトロック』だ。
因みに、アリサが使っていた時は拘束が魔法陣であり、今回は光のリングである違いは、アリサはあの時この魔法にアレンジを掛けていたからである。
その場限りではなく、確実に拘束し続ける為、後から魔力を供給して解かれない様にする為のアレンジだ。
通常このバインド魔法はその場限りで、後付の強化はできない。
それでも、例え強化なしでも一応十分な効力を持つ拘束魔法だ。
「だが……」
バキンッ!
だが、男はその拘束魔法を1秒と掛からず解いてしまう。
しかも力任せの解除ではなく、鍵を開けるのと同じ様に『解かれた』のだ。
なのはも初めて使う魔法であり、この魔法自体上位に位置する拘束魔法なので、未完成な事もある。
更にはアリサの様に後から魔力を送り、強化する事もできない。
だが、それでもあまりに速すぎる解除だ。
『Divine Shooter』
キィィンッ
そこへディバインシューターが放たれる。
2発の発射音と共に、1発が仮面の男の仮面へと迫る。
即座に解除されたとはいえ発生する一瞬の隙、更に至近距離からの射撃故に躱す事ができない。
そもそもディバインシューターは操作が可能な為、下手な状況で紙一重の回避をしようとすると操作によって軌道を変えられ、直撃となる可能性がある。
「ふっ!」
バシュンッ!
故に、男はその一発を素手で弾いた。
戦斧を片手で持ち、空いた片手でだ。
しかし―――
ィィンッ!!
「むっ!」
払ったその直ぐ後ろに、もう1発のディバインシューターが迫っていた。
最初から2発は男の死角に重なる様にして並んでいたのだ。
バシュンッ!
男は即座に首だけを動かし、直撃をさけた。
しかし、仮面の右端に亀裂が入る。
避けきる事ができなかったのだ。
「ほぉ……」
男は笑う。
楽しげに。
攻撃を受けたと言うのにだ。
―――そう、攻撃を受けた。
この男が。
今まで全て回避されるか、叩き落されるかしていたと言うのに、なのは単独の攻撃で命中したのだ。
いや、その前の1発目とて、バリアジャケットのグローブを着けているとはいえ手で弾かざるを得なかった。
最早誰もが認めるだろう。
この少女、なのはは、昨晩までとは別人であると。
その頃 久遠
「はぁぁぁっ!」
ズダァァァンッ!
時折雷撃を放ちながら山を駆け上る久遠。
ガキンッ!
ズドォォォォンッ!!
そんな久遠をロケットパンチで攻撃しつつ追いかける巨大ロボ。
先程から魔導砲は使ってこない。
アレは移動しながらは撃てないものと思われる。
が、そんな事は今は関係なく、久遠は兎も角山を登っていた。
元よりなのは達と引き離す為に居る様な相手なのに、自らなのは達から遠ざかっているのだ。
やがて、久遠は山頂付近にある崖に到着する。
そんな場所で久遠は崖を背にして立ち、反対側から来るロボを待つ。
そこで、
ズダァァァンッ!
久遠は上空に向けて雷撃を放った。
一方 アリサ
タンッ!
「……」
静かに森の中を駆けるアリサ。
アリサは例えデバイスが無い状態であれ戦闘速度で飛行できる。
だが、それでもアリサは森の中という動き辛い場所の低空を時折飛行も混ぜながら駆けていた。
飛行魔法の応用で動きを加速している為、かなりの高速移動で、既に大分闇の人形達を引っ掻き回している。
尤も、それでもなのはとは合流できず、攻撃も有効打は出ていない。
「……」
タタンッ!
ただ静かに森を駆ける。
背後から人形達が迫り、単純ではあるが連携して攻撃もしかけてきている。
だが、それでも静かに回避しながらアリサは走った。
が、静かではあるが、決して無言ではない。
そして、
ズダァァァンッ!
上空に雷が走った。
久遠の雷撃だ。
「……」
タッ!
それを確認したアリサは突然走る方向を変え、更に加速した。
3体の人形を引き連れて。
その頃、なのは
『Divine Shooter』
キィィンッ
4基のスフィアから発射される4発の魔弾。
ヒュンッ!
それらはそれぞれ1度四方に散り、その上で4方から男を狙う。
しかも、4発の魔弾は直線的に男に向かうだけでなく、弧を描いたり、フェイントをかけたりと、複雑な動きをする。
だが、狙うのは男の仮面ただ1つ。
「ちっ!」
ガキンッ!
バシュンッ!!
男は戦斧の面を盾にして2発を防ぎ、残り2発を素手で叩き落す。
武器を超重量の戦斧にしたせいで、数での攻撃を叩き落せない。
いや、それだけでなく、なのはの操作が精密さを増し回避が困難になってしまっているのだ。
「はぁぁっ!」
ブンッ!
全てのディバインシューターを叩き落すと戦斧を振りかぶりなのはへと迫る。
男の動きはほぼ常にあの少女のブリッツアクションと同じ速度。
超重量の戦斧を使って尚この速度であり、なのはでは振り切る事はできない。
だから―――
『Flash Move』
フッ!
魔法が発動する。
その瞬間、なのはは残像を残し、その場からいなくなっていた。
それは今までずっと構想してきた魔法で、今日完成し、今日初めて使う魔法だ。
その魔法はなのはの飛行魔法である足の翼による一瞬の加速魔法。
あの少女のブリッツアクションより簡易な加速魔法であるが、緊急回避魔法としては十分に機能する。
ブオンッ!
空を切るだけの男の戦斧。
そこへ、
『Divine Shooter』
キィィンッ
再びディバインシューターが放たれる。
数は2発、連結する様に並び、男の仮面を狙う。
「ふっ!」
バシュンッ!
だが、やはり男の手によって叩き落されてしまう。
既に合計5発のディバインシューターを素手で叩き落しているが、男のバリアジャケットの手袋はさほど傷ついていない。
戦闘開始からずっと、男の攻撃はなのはに当たらず、なのはの攻撃は在る程度有効なものとなっている。
しかし、未だ男に対しなんらダメージを与える事は出来ていない。
そもそも、この男の強靭なバリアジャケットを―――その仮面を含む男の護りを破るには、バスターを使わなければならないのだが、なのははまだバスターを使っていない。
いや、まだ使えていないと言った方が良いだろう。
何度かシューターを撃つ隙は確保しても、発射に時間の掛かるバスターを撃つまでには至らない。
ちゃんとした隙を作らない限り、消費が大きく、自身に隙を作るバスターは使えない。
(まだ。
まだ1つ足りない)
もう何度目かの対峙。
互いに武器を構え直し、隙をうかがう。
そもそも相手は接近主体で、なのはは遠距離主体だ。
この両者にとって、バスターを撃てる状況を作るかどうか、逆に撃たせない事が重要になる。
それはきっと今後起こるだろうあの少女との戦いにも言えること。
だから、なのははこれを越えられなければ、恐らく今後も何も出来ないだろう。
「楽しんでいるか?」
男は尋ねてくる。
笑みを浮かべながら、心から楽しそうに。
「いえ、全く」
「そうか、俺は楽しいぞ」
何がそんなに楽しいのか、仮面をつけている為目が見えず、その心を読み取る事はできない。
だが、少なくともなのはにとって、戦いを楽しいと言うのは賛同出来る訳も無く、理解する事は出来ないのかもしれない。
(それでも……)
しかし、その一点が決して交わる事が無かったとしても、それで全てが決まるわけではないだろう。
だから、なのはは考え、探す。
この相手を止める手段を。
(でも、その前に―――)
どちらにしろ、なのはには前提がある。
この戦いに於いて優先すべき事が。
「では再開しよう」
男は戦斧を振りかぶる。
ダンッ!
そしてまた空を蹴って駆けてくる。
ブオンッ!
正面から放たれるのはなのはを両断してしまうだろう横薙ぎ。
『Flash Move』
フッ!
その動作を見てから、なのははまたフラッシュムーブを発動する。
このタイミングでなければ軌道修正され、避けられない可能性があるからだ。
そう考えてこのタイミングで避けた。
だが、
「甘い!」
ブンッ!
男が手を伸ばしてくる。
同じ避け方は通用しないと、そう言って拳を放ってくるのだ。
『Protection』
キィンッ!
バシュンッ!
その瞬間、バリアが展開する。
なのはによるものではなくデバイス側の判断でだ。
インテリジェントデバイスだからできる自己判断の魔法発動。
勿論魔力はなのはのものである。
そのバリア展開は殆ど間に合っていない。
だが、フラッシュムーブで移動している中、触れるか触れないかと言う攻撃を止める事はできる。
(ありがとう、レイジングハート)
移動しなら心で杖に伝えるなのは。
だが、もうフラッシュムーブでの回避も簡単には行えなくなる。
時間が経てば経つほどなのはが不利になるだろう。
戦闘理論魔法による負荷が無くなったとは言え、シューターやフラッシュムーブの魔力が少ないわけではないのだ。
前より長くは戦えても、無制限な筈はなく、飛行魔法以外の魔法を使っていないこの男よりもなのはの方が先に魔力切れになるのは確定している。
(でも、そろそろだと思うんだけど……)
作戦があるのだ。
久遠と、アリサと3人で立てた作戦が。
その合図がそろそろ―――
ズダァァァンッ!
その時、空に雷が走った。
空から落ちてくるものではなく、空に上る雷だ。
それは間違いなく久遠のもので、それは待っていた合図でもある。
「む?」
男もその雷に気付く。
例え戦っている中でのものだとしても、今の撃ち方はおかしいと解ってしまうだろう。
だが、それではもう遅いのだ。
『Flash Move』
フッ!
このタイミングで、なのはは加速魔法を発動した。
加速する方向は、仮面の男の方向。
「ん?」
男は即座に構える。
このタイミングで初めてなのはの方から仕掛けるというのに、驚く事も無く、隙や油断はない。
ただ、少し笑いながら待っている。
(そう、待ってるんだね。
―――なら!)
なのはは杖を両手で強く握る。
そして、前々から構想だけはしていながら、今日初めて使う魔法を発動させる。
『Flash Impact』
キィンッ!
振り上げた杖に魔力が宿る。
それを相手に―――叩き込む。
ブンッ!
カッ!
ズバァァァンッ!!
巻き起こる魔力による大閃光と爆発。
これはなのはが編み出した接近戦用の魔法。
杖に魔力を込めて敵との接触と同時に炸裂させる攻撃魔法だ。
なのはは遠距離主体であるが、それだけで全ての戦いに勝つ事は不可能と言えよう。
近距離主体のあの子とて遠距離攻撃魔法を幾つか持っている。
だから、それに倣ってなのはも自ら接近し、攻撃する手段を持った。
尤も、この魔法は攻撃よりも別の目的のほうが大きいが―――
その頃
崖の淵に立つ久遠。
それと対峙し、魔導砲を構えるロボ。
「はぁぁぁっ!」
ズダァァァンッ!
そのタイミングで久遠は雷を放つ。
収束されていない雷で、ロボにダメージを与える事はできない。
しかし―――
ズバァァァァンッ!!
その攻撃はそもそもロボに向けられてはいなかった。
雷が落ちた場所はロボの後方。
この崖の地面。
ガラ……
今この崖には大質量の巨大ロボが立っている。
この結界の世界は、元の世界の偽物としてその場所にあったものが存在するが、質量も低く強度も弱い。
となれば、どうなるか―――
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
ドゴォォォォォンッ!
起きるのは崖崩れだ。
「はっ!」
崩れる前に飛びのく久遠。
だが、巨大ロボの方はそうはいかない。
何せ自分の質量こそ、この崖崩れの原因なのだから。
2日目に探し回り、今日の昼間にアリサに確認してもらったこの地形。
久遠はそれを利用した。
更に、それだけは終わらない。
「よし、グッドタイミング!」
崖の下から声が聞こえる。
アリサの声だ。
このタイミングで崖の下、それもちゃんと崖崩れに巻き込まれない位置に来ていたのだ。
「ギギギッ!」
「ゴ……」
その時点でやっとアリサを追っていた闇の人形と、巨大ロボが互いの存在に気付く。
が、現在アリサを追っている状態の人形にも、落下中のロボにもこの接触をどうする事もできない。
おそらく大した自己判断能力は持っていないのだろう。
そもそもロボも人形もほとんど久遠とアリサをなのはから引き離す為だけの存在と言って良い。
そこで、昨日久遠が調べたところ、大体互いに1km以内に近づかない様にしているだけの様であった。
そうして互いに近づかない事を最優先とし、互いの相手を倒す事はおまけ程度の目的と思われる。
だから自ら走り回り、それを追いかけさせた場合、その先でどうなるかはあまり深く考えられず、こんな単純なイレギュラーが発生しただけで容易く崩れる。
「はああああっ!」
ズバァァァァンッ!!
上空から降りてくる久遠が雷を落とす。
地上の人形達3体に。
回避されない様、広範囲に向けてだ。
「ギギギ……」
雷の力が拡散している為、大したダメージにはなっていない。
だが電撃を受け、その瞬間硬直する。
そこに、
「せぇぇぇっ!」
ヒュンッ!
ザシュンッ!
魔法刃を両手に持ったアリサが切り裂く。
切り裂かれた2体は見事に両断され、そのまま消え行く。
「はっ!」
ザシュッ!
残り1体は地上に降りたった久遠に背後から突き刺され、消える。
これで人形は全て片付けた事になる。
そうなると残りは、
「行くわよ!
チェーンバインド!」
ジャリィィィィィィンッ!!
人形を倒した直後、アリサは拘束魔法を発動させた。
相手は未だ体勢を直せないでいる巨大ロボ。
それを今まで森を走りながら詠唱していたバインドで拘束した。
「ゴゴ……」
ガシッ!
ガシッ!!
抵抗するロボだったが、体勢が直っていない上、アリサの全力の拘束魔法。
如何にパワーがある相手でもそう簡単には解けない。
そして、その動けないロボの脇に立つ影がある。
「ああああああああっ!」
バチッ バチバチバチッ!!
雷の力を最大まで収束している久遠だ。
相手が動かない事で、収束に全力を掛けられる。
そうして放たれるのは久遠の全力全開、最大収束の雷の一撃。
ズダァァァァァァァンッ!!!
脇の関節部分から打ち込まれたその一撃は、槍の如く一直線にロボの内部を突き進み、そして―――
ズバァァァァンッ!!!
首の部分までを貫いた。
しかも、それだけではない。
ロボを貫いた雷の中に黒い宝石がある。
このロボを巨大化させ力の源となっていたジュエルシードだ。
そう、久遠は昨日と今日の前半、ロボに雷を浴びせる事で、闇の力の流れを読んでいた。
そうする事で、力の源たるジュエルシードの位置を特定していたのだ。
一撃で壊せず、瞬時に自己修復してしまうのだから、その元となっている物を絶たねばならない。
しかし、位置は特定できても、そこを精密に狙うには動きを止めるしかない。
そこで、アリサの力が必要となった。
2人で力を合わせ、ここにジュエルシードを破る事に成功する。
これで、もうロボは自己修復も出来ない筈。
それに、このジュエルシードは―――
「「なのは!!」」
友の名を呼ぶ久遠とアリサ。
その応えは―――
カッ!
ズバァァァンッ!!
フラッシュインパクトの閃光に包まれるなのはと仮面の男。
攻撃自体は杖での打撃を戦斧で止められた時点で殆ど意味を成していない。
それよりも重要なのはこの閃光。
「ふむ」
閃光が晴れた後、なのはの姿はそこには無い。
だがそこへ、
キィィンッ
ディバインシューターが来る。
数は4つ。
それが閃光によって視界を奪われていた男を狙う。
「甘い!」
バシュンッ!
向かってきた4発の間段の内2発を打ち払う。
武器を持たぬ左手で1つを。
武器を持ったままの右手でもう1つを。
残り2発は制御が甘く、避けられたので避けてしまう。
フラッシュインパクトを囮にした一撃は失敗に終わった―――かの様に見えた。
だがしかし、
「なのはは―――」
近くになのはの姿が無い。
シューターを撃ってきたのだから、視界内には居る筈なのに、見当たらない。
更に、
キィンッ!
ガキィンッ!!
「むっ!」
右手に出現する光のリング。
先ほども使った『レストリクトロック』だ。
元より男に対し拘束魔法は一瞬の隙を作る事しかできない。
それに、この光のリングは先程使った時よりも弱く、更に短時間で解除できるだろう。
なのにどうしてこのタイミングで使ったのか。
いや―――それよりも重要な事がある。
それはどうしてこんなところにレストリクトロックが設置されていたのかだ。
そんなものを設置している様子は無く、それにこの場所は先程ディバインシューターを打ち払って―――
「まさか……」
男は気付いた。
この拘束は先程のシューターによって成されたものだと。
シューターを設置点として撃ち出してきたのだ。
即興だろう追加効力の為力は弱いが、これでも僅かだが時間が稼げる。
そして、その僅かでもいいから作った時間、この隙をどう使うのか―――
男は同時に気付く、なのはの居場所を。
大きな魔力を感じたのだ。
大きく、そして収束された力を。
その魔力は確かになのはのもの。
だが、距離にして1200mは離れている。
「そうか!」
仮面の男は笑みを浮かべる。
至上の喜びを表現するかの様な笑みを。
見つけたその先になのは居る。
杖を射撃形態に変形させて。
そして、展開する魔法は―――
『Divine Buster―――』
高町 なのはが主砲。
『Quick Snipe & Sealing Mode』
ディバインバスター・クイックスナイプモードとシーリングモード。
速射と狙撃と同時に行い、且つ発射するのは浄化封印に特化したエネルギー。
ただし、1度浄化封印されているジュエルシードがあいてである為、エネルギー出力はさして必要ない。
狙撃として必要な分があればいいので可能な速射だ。
しかし、この長距離からの狙撃。
飛行の為にある足の両翼のブースト、足元に展開される魔法陣。
更に、柄の先から展開される3枚の翼と、杖の先端部、宝玉の先と杖の先、柄の後部と石突の更に後ろに展開される帯状の魔法陣によって成される姿勢制御。
その上、なのはが握っているその両手に1つずつの帯状魔法陣により微調整補助。
最後の杖先端、宝玉の前に射出口となる3重の帯状の魔法陣。
計12の補助をもって完成され狙撃の形態。
戦闘理論魔法を使っていたなのはでは決して成しえなかった、なのはの全力の魔法。
なのはの力の在るべき姿がここに具現する。
トクンッ
なのはは自分の鼓動が大きく聞こえた気がした。
自分の感覚が、世界が広がっていく。
最初の目標たる仮面の男、更にその先まで見える。
仮面の男は気付き、ロックを解除しながら、動ける範囲で回避行動と防御行動をとっている。
だが、それに対しなのはは全く照準を変えることは無い。
「シュート!」
ズバァァァァァァンッ!!
力を放った。
それはレーザーの如く収束された細い砲撃。
しかし、その細さの分力が収束した一撃だ。
その速度は1200mの距離を無にする一閃。
その威力は―――
ズダァァァァァンッ!!
「やはりかっ!」
バスターはまず仮面の男の右手を貫いた。
いや、正確にはその手にあるジュエルシードナンバーZをだ。
バスターに撃たれ、戦斧と仮面の男から分離、その力によって再び浄化封印される。
執拗なまでに仮面ばかりを狙いながら、真の狙いはジュエルシードだ。
そう、そもそもなのはがやるべき事、その目的はジュエルシードの封印なのだから。
だが、このバスターの力はそれだけではなかった。
ズダァァァァァァンッ!
仮面の男の後方、そこに久遠の雷によってロボから取り出したジュエルシード]Tが浮かんでいる。
バスターはそれをも貫き、浄化封印する。
このディバインバスター・クイックスナイプモードは途中で軌道を変えることは無い直射型の砲撃魔法だ。
しかもその口径はジュエルシードを包むのにはあまり余裕が無い程細い。
それなのに2つの目標を同時に射抜けるのは、単純に最初からそう狙ったからである。
が、久遠が確保していた]Tは兎も角、仮面の男はレストリクトロックが掛かる事が前提で、レストリクトロックを付与していたシューターを男が右手で払う事が条件だった。
更に、なのはと仮面の男、そして久遠が確保するジュエルシード]Tを直線で結ばなければならない。
なのはは狙撃の為に大きく移動はできない為、ロックが掛かる位置すら予定した場所からずれてはいけない。
中央に位置する男の位置がずれると、そこから距離をとっているなのはは大幅な移動が必要になるからだ。
なのはのシューターは1kmも離れてしまうと精密な操作はできず、操作して調整し、そう仕向ける事はできない。
離れながら放ったシューターに予め命じておいた軌道だけでそうしなければならないのだ。
それができたのは、なのはが男の動きを予測したからだ。
フラッシュインパクトでの接触後、男がどう動き、シューターに対してどんな対応をとるかを考えた。
そう、それは予知ではなく、計算による予測の集大成だ。
なのは本人ですら戸惑う部分があるが、集中するとそれが動きの流れとして視覚化されている様に感じている。
『Sealing』
キィィィンッ!
程無く、再び封印されるジュエルシード。
だが、Zは男の眼前にあり、また奪われてしまう位置にある。
しかし、それも抜かりはなかった。
キィンッ!!
「むっ!」
男の目の前を桃色の光の弾が通過した。
それは先程男が避けたディバインシューター。
なのはがわざと避けさせた2発の内の1つ。
それが、今男の目の前に浮かんでいた再封印したジュエルシードを回収して行く。
更に、久遠が確保していた]Tも同様にシューターが回収する。
元々その為に撃ったシューターであったのだから。
そう、バスターの前の4発のシューターの中で囮は僅か1発のみで、後は全て計算された用途があった。
どれ1つ狂っても成しえなかった結果、それが、
『Receipt number Z & ]T』
見事回収、杖に2つのジュエルシードが収まる。
奪われ、利用されたジュエルシードを確かに取り戻したのだ。
「なのは、凄い」
「まったく、とんでもない砲撃魔導師ね」
最初の作戦では、このタイミングでどちらかを封印できれば良しとしていたのだ。
仮面の男のジュエルシードを封印できればそれが一番だが、久遠が確保する方を封印すれば久遠とアリサが加勢できる。
そう考えていたのになのはその2つを同時にやってのけた。
久遠は純粋になのはを賞賛し、アリサは一応砲撃魔法を使う魔導師として脅威すら感じていた。
だが、それよりも今は。
「なかなか良かったぞ」
そう、まだ敵が残っている。
ジュエルシードを2つ奪ったとは言え、男を倒した訳ではない。
男は不敵に笑いながら上空へと上がる。
それは逃げる為ではなく、次の行動の為に。
「では、最後だ。
俺の闇を―――」
『Load Jewel Seed No.]V』
キィィンッ
男のデバイス、首から下げる漆黒の宝玉が示すその力。
それは、男が初めてジュエルシードを使ったときに見せた闇の力の具現。
「越えてみろ!」
グオンッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
空が歪み、男の前に闇の壁が形成される。
地上に程近い場所にいるなのは達を押しつぶす闇と言う名の憎悪と憤怒と絶望の力だ。
「また、とんでもないモノを出してきたわね」
「避けられないね」
なのはと合流するアリサと久遠。
堕ちてくる闇を見上げながら冷静に状況を分析する。
だが、危機的な状況でありながら、慌てる様子は一切無い。
「……くーちゃん、アリサちゃん、手伝って。
やってみたい魔法があるの」
何故ならなのはが居るから。
本物の『力』と言うものを手にした、2人が信じる心の持ち主が。
そして、自分達もまた、それに並ぼうと想っているから。
「OK」
「うん」
魔法の杖、レイジングハートを3人で持つ。
そして向ける相手は―――闇。
『Sealing Mode
Set up』
ガキンッ!
杖があまりに強大な力の放出に対し、シーリングモードに変形する。
3人で撃つまだ名も無き魔法の力。
それは、嘗て無いものになると解ったからだ。
キィィィィィィィンッ
なのは達の周囲に光の粒子が集まってくる。
それは魔力の光だ。
その光はまるで舞い落ちる星の様に輝き、なのはの杖に集結する。
そして―――
「なのは、朝だぞ」
「う……ん……」
兄の声が聞こえ、なのは目を覚ました。
「おはよーおにーちゃん」
今日は山篭りの4日目。
午前は山を走り、昼にここを片付けて帰宅する予定になっている。
「くぅん……」
久遠も起き出してきて、2人でテントの外に出る。
眩しい朝日が目に入る。
今日もいい天気の様である。
「顔を洗って来い」
「「はーい」」
それから、テントから少し離れるなのはと久遠。
近くの川で顔を洗う。
その時、首から下げたレイジングハートを取り出す。
「……夢じゃなかったんだよね」
「うん」
レイジングハートにはちゃんとシリアルZと]Tのジュエルシードが入っている。
最後の魔法を撃った後の記憶が無いが、あの戦いが事実であり、そして勝利したと言う何よりの証。
「行こう、くーちゃん」
「うん」
なのはは走った。
今日も1日が始まり、また明日へと続くだろう。
その明日の為に、今日できる事を精一杯やりたいと思うのだった。
その日の夕方 高町家
「ただいまー」
兄と久遠と共に帰宅するなのは。
あれから予定通り朝は走って、軽く稽古した後キャンプを片して帰ってきたのだ。
「おかえりー。
どうだった、初めての山篭りは」
「大変だったよー」
出迎えてくれたのは晶とレン。
リビングには姉美由希も待っていた。
「お疲れ様」
「うん」
それから少し家族と話をして、後片付けをして、お風呂に入るなのは。
3日ぶりにアリサも一緒だ。
「う〜ん、ベッドが気持ちいい」
「くぅん」
お風呂から上がると、ベッドに飛び込んで寝転がるなのは。
流石に疲労が溜まっている。
「本当にお疲れ様」
この3日間鍛錬だけでなく戦闘まであったのだ、さぞ疲労しているだろうと労うアリサ。
アリサは戦闘だけだったので比較的平気な方だ。
むしろ調子を取り戻しつつある状態でそれなりの規模の戦闘だったので良いリハビリだったとすら言える。
これなら本調子に戻った後直ぐに、最前線に復帰できるだろう。
「あ、そうだすずかちゃんに電話しないと」
明日はプールに行く予定になっている。
なのははこのくらいなら明日には大丈夫だろうと、OKの電話を入れる。
「元気ね〜」
「久遠は寝る〜」
そんななのはを見ながら感嘆の声と寝息が聞こえてくる。
一番大変だった筈なのに、2人よりも全然なのはは元気だった。
「3日間とは言え、夜の戦闘もあったから時空管理局の軍事教練よりキツイ日程だったのに……」
嘗て自分も受けた訓練を思い出しながら比較してみるアリサ。
昼の鍛錬は半分くらいしか見ていなかったが、かなりの内容だったと判断している。
「まあ、いっか」
が、電話しているなのはは実に楽しそうで、活き活きしている。
だから、そんな比較検証など無意味だろうと考えるのを止め、アリサも久遠と一緒に眠る事にした。
なのはの楽しげな話し声を聞きながら、安心して夢を見る。
某所 高級高層マンションの一室
そこには今1人の少女と1人の女性が居た。
「今日は何も起きそうにないね」
「そうだね」
赤橙色の髪の女性は金色のツインテールの髪の少女と並び窓から街を見下ろす。
この平和で静かな夜の街を。
「あの女も最近は出てこないし、平和でなによりだ」
「……何してるのかな」
最近、少女の主である女性は姿を見せない。
その理由は解らないが、少女には良い事ではないと思えるのだ。
「まあ、いいじゃないか、今日はゆっくり休もう」
「そうだね……でも少し訓練をしてからね」
「そうだったね、敵はまだいるしね」
平和な街並みを見ていた2人はこの世界とは別の世界に移動する。
この静かな平和の中から敢えて終わらぬ戦いの世界へと。
自らそれを望み、その道を選んだのだ。
後書き
さてさて9話をお送りいたしました。
なのは達は全員パワーアップして番組後半モード突入です。
話数的にはとっくに後半ですけどね。
ともあれバトルも本格化、砲撃が飛び交う様になるでしょう。
尚、修行シーンですが、敢えて簡略化しております。
その理由は……まあ、また後日。
ところで、この9話は私の過去に書いた話の中でトップの容量だったものを超えてしまいました……
無駄に重いですよね。
これでもシーンカットしまくったのに!
どうやら私は短くまとめるという能力が欠如している様です。
今後精進しますのでどうかご容赦の程を。
では、こんな感じですが、次回もよろしくどうぞ。
管理人の感想
T-SAKA氏に第8話を投稿していただきました。
容量が前話の倍ですねぇ……読み応えあって読者としては大変宜しいのではないかと。
推敲&感想書く私からすると正直えらい時間かかって大変ですけども。(苦笑
なのはは食に対してしっかりした考えを持っているようですね。
同世代の普通の子どころか大人でさえ考えない事なのですが、やはり周りの人間の影響でしょうかね。
アニメ原作であったらしいなのはとお風呂(こっちでは温泉)は、父の導きか某淫獣ではなく恭也になりましたねぇ。
温泉掘り当てた過去の士郎さんは相変わらず謎ですが。
そもそもどうして掘ろうと思ったのかが謎ですし、それで掘り当ててしまうのが脅威ですけど。
覚悟を決めてパワーアップしたなのは。
実年齢を忘れるほど戦闘が巧くなってましたねぇ、才能か血のなせる業か。
結局仮面の男との闘いはどう終わったのか気になるところ。
ジュエルシード]Vを手に入れていない事から決着はついていなさそうですけど。
結果的にはなのはを強くしましたが、相変わらず行動の基準が謎な男です。
感想はBBSかメール(ts.ver5@gmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角
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