神の居ないこの世界で−A5編−


→After 5 years の始まる5年前のお話・これからの日々

     エリアM及び、エリアOで何にも反応を起こさない行政府に対して、徐々に民衆が行動を起こし始めた頃。  その事件は終った。 「こちらエリアK、kanonの工場だったところです」  レポーターらしき女性が、安全第一とかかれたヘルメットをかぶってカメラに写されている。  その表情は興奮しているように見られた。 「いたる所に、ドールの残骸でしょうか? それらの部品が焼け焦げ放置されています」  初めてカメラがその事件を写した瞬間でもある。  これはエリアKの行政府が情報をオープンにしたために起こった報道であった。  意図するものは、疚しい事が無いのだから隠す事はしないということ。 「エリアKの軍勢に出た死者は36人。重軽傷などの被害者を入れると100人以上です」  女性リポーターはそのまま興奮した表情で喋り続けている。  大変だということは解るが、それ以上の情報はよく判らない。  壊れたラジカセのように同じ事を何度も繰り返すのみであった。 「今世紀最大のドールテロの続報です! たった今、軍関係者と警察の合同発表が始まるようです!」  その発していた言葉にようやく違う言葉が混じった。  現場を見ていれば同じような感想しか言えないだろうが、TVというフィルターを通してみている人はどう思うだろう。  さて、多大なる犠牲を払い、神々の尖兵は撲滅された。  首謀者たる斉藤なる人物は射殺されたと報道される。  そして、その志も大々的に報道され、賛否両論を巻き起こした。  しかし、エリアKの軍勢に出た死者は36人。重軽傷などの被害者を入れると100人以上になる。  近代ドール戦において、これほどの被害者が出るのは極めて珍しいことだ。  これらのことが、世界政府を震え上がらせ、テロリスト達を勇気付ける結果となった。  この事件の後にエリアOとエリアMがどうなったかをまず説明しよう。  相沢祐治のこと、その当時の議員がまだ利権の汁を吸っていることを暴露されたエリアO。  エリアOは、民衆の手によって行政府が完全に解体された。  関わった人間を逮捕し、亡命しようとした人間は回りのエリアに拒否されてしまい結局逮捕された。  そして、軍部が政治を担当することを嫌がり、自治権を放棄。  世界政府に人材の派遣を要求し、それが審議され人材が派遣された。  解体されてから4年後に、ようやく新しい形の行政府が出来、新しい船出を行っている。  世界政府からの介入があったために回りのエリアはエリアOに干渉することが出来ずに歯軋りをする。  もしそのままの行政府ならば無茶な要求をすることが出来るのだから。  しかし、介入されてしまってはエリアOに喧嘩を売ることイコール世界政府に喧嘩を売ると同じになってしまう。  それは避けないといけない。世界政府に喧嘩を売っても良い事は何もないからだ。  対して、相沢祐治の遺体が発見され、過去の相沢祐治に加担していることがばれたエリアM。  今まで罰らしい罰を受けなかった事が回りのエリアからいっそうの反発心を買ったのは言うまでもない。  そのエリアMは軍部が一種のクーデターを起こしたようなものだと思っていただきたい。  その行動は民衆に支持されていた。何故ならテロにあっていた原因は行政府にあるとされたからである。  特にテロの被害者やテロで犠牲になった軍人の家族が中心となって活動が展開された。  軍部が行政府に介入して、過去にわたって調査をし、関わった全ての人物を逮捕した。  その数が議員・官僚の多数になる。一時、行政府の機能は完全に停止してしまった。  流石に、軍部が政治を司る訳にもいかず、すぐに有識者達で臨時行政府を樹立。軍部は政治から手を引いた。  軍部は情報監査部を臨時行政府に据え付ける事で公正な行政府の設立を目指した。  ちなみに、情報監査部の調べられた情報の大半は市民には公表されている。  臨時の政府が出来た途端に、回りのエリアとの外交が忙しくなった。  テロが頻発した責任はエリアMにあると。  こじれた時のお決まりである、作戦が頻発されたのは言うまでも無い。  これを後に協議戦争といわれ、語り継がれるものになってしまった。  何故なら協議戦争のルールの中で、エリアMは圧倒的に不利な戦力で相手を全て退けてしまったからだ。  エリアMとエリアOはそれぞれこのようになった。  関わった人間は過去をさかのぼって全て裁判を待つ状態にまで行った。  相沢祐治に関する犯罪とそれらを援助した人々の犯罪はほぼ精算されつつある。  もちろん、実際に罪を告白した南研究員も例外ではない。  
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     エリアK、kanon本社の一室。神々の尖兵が殲滅された後の出来事。  事態がようやく落ち着いてきた頃の話。  久瀬圭一は倉田佐祐理を呼び出していた。  それに単独で向かう倉田佐祐理はかなりの胆力を持っているといえるだろう。 「何か用ですか?」 「えぇ、私の持つ全権を貴女にお返しします」  佐祐理は一瞬、意味がわからないといった顔をする。  しかし、すぐに反論をした。 「久瀬さんとあの男は違うでしょう? 何故ですか?」 「私に新しい約束が出来たからです。その為には必要が無いのですよ」 「あって困るようなのもでも無いと思いますが?」 「私のやろうとしている事と、この仕事はたぶん両立できるようなものではないんです」  まだ納得が出来ない佐祐理。  圭一は畳み掛けるように話を続けた。 「それに、私にはここに居る理由が無い。父親の命令とはいえ叛く事が出来なかったんですから……」 「それだけを言うなら、久瀬さんだってある意味被害者じゃないですか?」 「この調査票を見て、まだそんな事をいえますか?」  圭一は一つのファイルを佐祐理に渡す。  佐祐理は渡されたファイルを走り読みにしていく。  目がどんどんと厳しくなっていくのがわかる。 「父親のやったことでも、私にはそれに耐えられるだけの気力が無いんですよ……」 「だから、佐祐理に全てを返すというのですか?」 「全てじゃないです。返しきれないものが沢山有る……」 「わかりました。全権返していただきます」  佐祐理はきっぱりとそういう。  まだ返されたものは少ない。でも、もう返ってこないものだと知っている。  (一弥……姉さんこんなに薄情でごめんね)  ファイルを見て、遺体すらも確認できない状態であることに佐祐理は涙する。  ファイルの中身は正視することが難しいぐらいに酷い内容だった。  そして、一弥が決定的に死んでいると知る、いや知らされる証拠でも有る。  佐祐理は最後まで見ていく。区切りをつけるために。  気持ちの整理なんてつくはずが無い。  でも、つけなくてはいけないのだ。 「これが、移譲の正式な契約書です」 「サイン……すれば良いのですね?」 「はい」  佐祐理は慣れた手つきでサインをする。  それは区切りをつけるために、多少滲んでしまったのはしょうがない。  震える手に、滲んだ文字。それは佐祐理の心を表していたかもしれない。  一弥だけがそんな目にあったわけじゃない。でも、生きてて欲しかった。  ただ、心のどこかで認められなかった問題が認めるだけの覚悟が出来上がっている。  それと、やっぱりそうなのかといった諦めも心の中に存在していた。 「ちょっとした確認なのですが……このファイルはこの場以外の人には」 「知られていませんし、もらすつもりもありません」 「そうですか……好都合です。このまま伏せておいて貰えますか?」 「……何故ですか?」 「相沢祐一、貴方の呼び方で言うとGE−13が私のそばに居るためですよ」 「そうですか……」  圭一はそれ以上何も言わずに頷くにとどめた。  どこか吹っ切れらように笑う佐祐理。 「久瀬さんはこれからどうするのですか?」 「待たされているんですよ。だから、その場を綺麗にして待っていたいと思います」 「そうですか……何か必要なことがあれば言って下さい。出来る限り手を貸しますよ」 「ありがとう、とりあえず出来るところまで頑張ってみます」  そう言って出て行こうとする圭一。  佐祐理はそれを引き止めた。 「せめて、連絡先と居る場所ぐらいは教えてください」 「……わかりました」  困惑の表情を見せる圭一。しかし、しっかりとそれを書いて部屋を出て行った。  佐祐理はすぐに舞達(祐一に秋子を含む)を呼び出す。  来るまでの間にプランを立てては困ったように微笑むのだった。 「これから忙しくなりますよー」  そう呟いて、山積みにされた問題を洗い出して考える。  洗い出しの作業の途中で、呼ばれていた全員が集合した。  すぐに説明に移る佐祐理。説明はすぐに終った。 「それで、私達に何をして欲しいのですか?」 「あぅ……何だか凄い事になってる」 「……それで、どうするの?」  佐祐理のことを知っている3人はそれほどひどい反応は返ってこない。  むしろそれが当然と言った感じだ。  ただ、残りの2人。祐一と秋子には何をして良いのか判らない。 「俺と秋子さんにはあんまり関係なさそうな気がする……」 「そうですよね?」  祐一の一言で、ようやく息を吹き返した秋子。  殆ど知らない相手に説明されても、いや聞かされても困る内容には間違いない。  2人は完全に部外者だからだ。  それに秋子は祐一と二人きっりだったのにいきなり呼び出された事を思い出して微妙に不機嫌になった。 「秋子さんにも関係有りますからね〜」 「えっ?」 「祐一さんと平定者なるものを作ろうとしてますが、隠れ蓑は必要でしょう?」 「それはそうですが……でも簡単に用意出来る様なものではないでしょう?」  祐一は佐祐理の考えにそう答えた。  秋子も同じように頷く。そして、付け加えた。 「戸籍を作るのは大変でしょう? 私はまだ戦死扱いになったとしてもまだ残っていますから……」 「それがですね……一弥の戸籍がまだ残っているんです」 「……佐祐理さん。それは駄目だ」 「話の続きがまだあるんです」  佐祐理はそのまま、ファイルを祐一に渡す。  祐一はそれを見て顔をしかめた。それを順々に渡していく。  誰もが、嫌な顔をして、真琴は胃の中のものを吐きに外に出て行ってしまう。  よほど刺激が強かったみたいだ。 「……それで、どうするのですか? これをそのまま利用するのですか?」  その疑問を聞いたのは美汐だ。  みなの視線が佐祐理に集まる。 「”私”はそのつもりです。一弥もそのくらい許してくれると信じてます」 「佐祐理はそれで良いの?」  げっそりとした顔の真琴が部屋に帰ってきた。  話のことがわからずに、とりあえずそのまま聞くことにしたみたいだ。 「佐祐理に迷いはありません。だから、祐一さんが使うというなら、使ってください」 「祐一さん……ここは言葉に甘えましょう?」 「しかし……」 「祐一さん、佐祐理には後悔は有りますが、迷いは無いんです」 「祐一さんがやる事に一弥さんみたいな人も出さない。それを付け加えれば良いじゃないですか」 「……わかりました。佐祐理さん。ありがたく、使わせてもらいます」  祐一はそう佐祐理に真っ直ぐに言った。  佐祐理は困ったようなそして嬉しそうな感情が混ぜこぜになった顔で頷く。 「ちょっと待ってください。素顔をさらすのは拙いのではないですか?」 「そう、顔から同一人物って判る」 「あぅ、じゃあどうするの? 仮面でもかぶせるの?」  ようやく、会話に入れたと安心する真琴。  その事は考えていなかったと、感心する佐祐理。 「考えていませんでした。そうですね……」 「見つかった時には失明していたなんでどうです?」 「それは良い考えですね、秋子さん。それなら堂々と視覚補正ゴーグルがかけられますから」  先ほどの緊迫していた雰囲気はどこへやら。  もはや、祐一そっちのけで話が進んでいく。  自分の服を買うような華やいだ雰囲気を構成していた。  祐一はその会話には参加できないなぁっと何処と無く諦めた感じで見ている。  視覚補正ゴーグルとは失明した目、その奥の視神経に直接電極を取り付けて擬似信号を送る装置だ。  手術が必要でかつ、結構危険な方法だがこれをやる人はそれなりに多い。  ただし、そのゴーグルが取り外すことが出来なくなるのでそれが顔の一部になってしまうのだ。  それを嫌ってしない人も居るのは確か。  だが、今回は逆にそれが必要となる。ゴーグルをはずす事は出来ないその事実が欲しいのだ。 「やっぱり、あまり人気が出ないように不気味なデザイン……」 「それは賛成です……」 「覆う範囲はどのくらいにするの?」 「こんな……」 「これは確かに……」 「色は……」 「黄色?」 「紫」 「やはりレンズは中央で……」 「2つよりも1つ? それとも4つか6つ……」 「大きいものを中央に一つで……」  女性が3人集まれば姦しいというが、ここには5人居る。  祐一はそんな事を思いながらそれを眺めている。  たぶん拒否権は無いだろうなぁっと思いながら。 「こんな感じで良いですか?」 「問題ないですね」  白熱した議論は30分はたっぷりかけられていた。  佐祐理の手にした紙にはしっかりとデザインが書き込まれている。  祐一はそのデザインを見て、まぁ、これなら良いかなって思っている。  ちょっとではなく、多分に不気味ではあるが。  反論しても多分簡単に論破されてしまうだろう。  まず人数が5対1それが不利なのが一つ。  それ以前に、5人が祐一の為に考えてくれたのだ。  それを無下に出来るほど、祐一は冷たくは無い。 「製作はすぐに移るとして、この内側に映るのは自分で作って良いか?」 「えぇ、それで問題ないですよ」  問題なのは外側だけだと言わんばかりの勢いで佐祐理は頷いた。  他の参加したメンバーも納得と言うか、どこか一仕事したような清々しい顔をしている。  ただ、なんとも微妙といった美汐がで祐一に質問する。  この中で、常識に五月蝿い人はどうやら美汐のようだ。 「祐一さんが作るのですか?」 「この位ならまだ出来ると……流石に本物の視覚補正ゴーグルは無理だけど」 「祐一、器用よぅ……」  真琴の呟きに祐一は苦笑を返した。  秋子と舞はその位なら部品さえあればやってのけるだろうと踏んでいる。  舞は研究所での知識の量が自分とは違い、祐一には詰込まれている事を知っている。  秋子は、エリアMでの出来事を知っているからだ。  佐祐理は祐一が出来るというのなら出来るのだろうと思っていた。 「ドールのアイモニターの応用だよ。それほど難しい問題じゃない」 「それを簡単に言い退けてしまう祐一さんが凄いですよ……」 「あぅ〜、真琴には無理」  美汐は尊敬の眼差しで祐一を、真琴は疲れた顔で祐一を見る。  話が途切れたと判って佐祐理は口を開く。 「材料はこちらで集めます。えっと、どの位で出来ますか?」 「材料がそろえば2日……ですね」 「じゃあ、今晩には必ず揃えて部屋に届けますね」 「届き次第作りますよ」 「私と祐一さんはこれでお終いですか?」 「はい、部屋でのんびりしててください。でも、抜け駆けは許しませんよ?」  秋子に佐祐理はそう釘を刺した。  残ったメンバーで今後の打ち合わせに行動を綿密に練りこんでいった。  祐一のゴーグルが出来てから佐祐理はすぐに役員を招集。  全権移譲されたことを宣言したのは言うまでも無い。  宣言自体はどうということも無く終る。  本社を移転するのもあまり反応が無かった。  それも、神々の尖兵としてエリアKの最大の工場を破壊されてしまったからだ。  エリアKに対してあまり良い感情はもう誰も持ち合わせていないのだから。  それに、一番エリアKとの結びつきが強かった前理事が居ないのだからすんなり案は通ってしまう。  それよりも、生きていたとされた倉田一弥の存在を発表したほうが驚きだったみたいだ。    To the next stage

     あとがき  うわぁって、思うくらい突っ込みどころが……実際にメディアがどんな反響を起こすか判っていないのがよく判ります。  放送てどんな感じなの? って位訳が判らないですね。前半は……  本当に切り捨ててしまいたい感じですが、書くといってしまいましたから……これで我慢してください。  ともかく、まずは佐祐理さん達のちょっとした話からです。次は久瀬君達かなぁ……  それとも、先に北川君たちになるかも……一話一話完結っぽくなると良いなぁって思います。  ではこれからもよろしくお願いしますね。


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。  いよいよ最終ステージの幕開けです。
     ちょっと駆け足な感がしましたね。  各キャラ同士でしか分からない話がちらほら。  それはこの後に補足されるのかな?
     なにやら祐一が変装するみたいですね。(笑  公的な身分ってやつですか。  佐祐理さんとの関係は姉弟に……インモラルな。(逝け  どんなゴーグルになるか楽しみですよねぇ。  見た感じドクターキタ○チタイプみたいですけど。(爆

     タイトルにあるように、5年の歳月を各人どう過ごしていくかも注目です。


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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