瓦礫の街。壊れた家屋。砕けた道路。 でも、ここは壱次が指定した場所だから。 壱次は身を挺して、私達を守ってくれたから。 この場所で、帰って来るまで待ち続けよう。 まだ、悲しみは癒えないけれど。 泣き言だって言いたいけれど。 それを言うのは次に逢ったときにしよう。 その時はまだまだ先になるだろう。 その時には一杯の思い出話を持って逢おうと決めている。 あいつが悔しがるくらい。 一杯の思い出を持って。 あいつが驚くぐらい。 一杯の幸せを持って。 いつかきっと出会えるその時のために。 準備しよう。 もう私は人形じゃない。 一人の人間だ。 それを気が付かせてくれた人たちに。 それを守ってくれた一人のために。 沢山の思い出と幸せをもてるように努力しよう。 そうすればきっと。 再び出会った時に、笑って会えるような気がするから。 多分あいつはそう願っているだろうから。
 
神の居ないこの世界で−A5編−


→After 5 years の始まる4.7年前のお話・久瀬圭一の新たな日々

     病院の廊下を久瀬圭一は歩いていた。  父親が入院しているっと偽装をしている、いや偽装をしていた病院の廊下を。  先ほど、もう必要が無いとその偽装を解くように言い含めてきたところだった。 「久瀬さん」  2人の男が久瀬を呼び止める。  斉藤の部下、いや、圭一の部下だった男2人だ。 「どうしました?」 「もう私達は用無しなのですか?」  圭一は困ったように笑う。  その笑みを見て2人はうろたえた。 「もう部下としては用無しです。ですが、私を手伝ってもらえますか?」 「どういうことですか?」 「良き仲間として、壱次を待つ場所を綺麗にして賑やかにして待っていたいんです」  待つ場所? と2人は考え込む。  確かに、集合場所は指定されたが既に2人は斉藤が死んでいる事を知っていた。  だから、既にそれが無駄だという事も。 「貴方達の故郷を復興します。それの手伝いを……」 「しかし、斉藤さんは……もう……帰ってこないですよ?」  圭一の言葉を遮って片方の男が発言する。  久瀬は解っていると頷いた。  柳にはその事実は伝えないように言ってから圭一は続ける。 「でも、私はまだどこかで生きているんじゃないかって思うんです」 「……」 「それに、貴方達も街がそのままなのは我慢ならないでしょう?」  困ったような笑みのまま、圭一は言い切る。  男2人も考えるような仕草を見せた。 「無理にとは言いません。それに、もう部下でも何でもないのですから」 「いえ、恩人を放って置けるほど人間が出来てないですから」 「そうです! それに街の復興なら私達も手伝わせてもらいます!」 「ありがとう。ではまず、街の状況の確認をお願いします」  圭一は2人に連絡先を知らせ、無理をしないように言い含めてから2人を送り出した。  まだ2人に命令する癖が抜けないと苦笑し反省しながら。  足は入院病棟のとある部屋に向かっていた。  部屋の前でノックをする圭一。  向こうから入ってくださいという声が聞こえる。 「柳……元気ですか?」 「あ……久瀬大尉」  頭に包帯を巻いた柳がそこに居る。  ベットの上に上半身を起こして圭一を見ている。  圭一は苦笑しながら柳に体調を聞く。  返事は良好なものだった。退院も近いとの話。 「それにしても、その癖は抜けないのですか?」 「あっ……その……あの……すいません」  顔を真っ赤にしながらしどろもどろになりつつ返事をする柳。  圭一の言う癖は柳が圭一の事を久瀬大尉と呼ぶ事だった。 「そうですね……こうしましょう。もし、柳が私の事をそう呼んだら一日私は柳と話をしません」 「えっ?」  捨てられた子犬のような表情をする柳。  圭一はりんごをむきながらその言葉の先を待っていた。 「あ、あ、あ、あ、あ、あの、そそんなことされたら、私……わたし」 「落ち着いて」 「は、はいぃ! えっと、あの、ななななんてお呼びすれば?」 「好きなように呼んでください。もう軍人でもありませんし、貴女の上司でもないと説明したでしょう?」  そんなっと絶句する柳。  圭一はそんな顔を見て面白そうに皮を剥いたりんごを差出した。  柳は視線をりんごと圭一の顔に行ったり着たりさせながら困り果てた顔をする。  どうしたら良いのといった感じだ。 「ふむ……竹井と須藤の2人は久瀬さんと呼ぶようです」 「え?」 「では、私が指定してしまいましょう。圭一さん、そう呼ばなければ返事もしません」 「そそそそそ、んな」 「出来ますね?」  圭一は面白そうに表情を崩す。  柳はそれに目を奪われた。  圭一の見た事の無い表情に驚いたと共に、そんな表情を見せてくれたのが嬉しかったのだ。    知らない一面を見せてくれた。それが柳をしびれさせる。 「どうかしましたか?」 「い、いいえ、なななんでもありません」  何か疑問があるという顔で圭一は柳の顔を見つめる。  柳は顔を真っ赤にして視線を逸らした。 「柳、聞いてください」 「な、何ですか?」 「私は貴方達の故郷を復興しようと考えています」 「えっ?」 「それを手伝ってもらえませんか?」  逸らしていた視線を元に戻して、真剣に圭一を見つめる柳。  真剣な表情で、それが嘘ではないとわかる。 「それはどういう事ですか?」 「壱次が、事が終ったらのんびりしようと……」 「その斉藤さんはどうしたんですか?」 「……その為に今走り回ってます」  圭一は表情を変えないまま続ける。  しかし、胸の中は不安で一杯だった。どこか変なところは無いか。  相手に表情から真実を読み取られていないか。  今まで感じる事の無かった不安が渦巻いている。 「解りました! 圭一さんにいつまでも付いていきます!」 「そうですか……ありがとう」 「こうなったら、すぐに退院したいですね!」  柳は圭一と呼べる事に喜びを感じている自分に戸惑いつつガッツポーズをとる。  ガッツポーズをとる柳に苦笑するしかない圭一だった。  この2日後に柳は病院を退院する事になる。
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     エリアKの行政府の一角の会議室。  圭一は一人でその道を歩いていた。  目的はある。それについて相手をねじ伏せる気力も十分にあった。その部屋に入る。  そこにはお偉方がずらりと並び、まるで圭一は裁判の被告のような扱いだった。 「お集まりいただいて光栄です」  圭一は声を落ち着かせて話し始めた。  ざわめきもあまり無く、どう切り出しても必ず反論されるであろう雰囲気。  単刀直入に切り出したほうが得策かっと圭一は思いそれを実行した。 「私の要求は3つです」 「なんだと?」  いきなり、答えを求められるとは思っていなかったのか。  それとも、要求を突きつけられるとは思っていなかったのかもしれない。  声に多少の狼狽の色が入っていた。 「あの街の自治権を認める事。私のすることに干渉しない事。2つ目の事を口外しない事の3つです」 「あの街は……」 「既に土地は全て私のものですが……何か問題でも?」  あの街とは柳たちの故郷である。  それだけで話が通じると言うことは皮肉なのかもしれない。 「約束できないのでしたら……私の持つデータを世界政府の中央裁判所に」 「そんなものの存在が?」  圭一は懐から一枚のディスクを取り出す。  そして、それをテーブルの端に置いた。  慌ててとりに来る集団の中の一人。 「それはコピーです。マスターデータは私が持っていますから」 「……見る限り、久瀬殿にも有利なデータではないと思われるが?」 「程度の問題です。私は半年もすれば、罰を終えることが出来ますが……」  ここで言葉を区切る圭一。  既にこの先は言わなくても解るだろうがそれをあえて形にした。 「エリアの制裁は酷い事になりそうですよ? お隣のエリアMを見る限り信用と財政の損失は避けられないでしょう」 「……」 「小さなことに目をつぶるか、それともここで」 「それ以上は言わなくて良い」 「では?」 「良いだろう。久瀬殿の要求のもうではないか」 「しかし……」 「それでは……」 「私はこれで失礼します。結果が聞ければ私はそれで良いので」  部屋を出る直前に圭一は振り向いた。  そして、最後の一言を付け加える。 「私を消すと、エリアKに致命的な損失が出ますよ」 「……」 「どうやら私は相沢祐治の亡霊に命を狙われているそうですから」  はったり。命は狙われてはいないだろう。  知り合いと言うか、間接的な知り合いだからこのくらいは良いだろうと圭一は思っていた。  その脅しとも取れる言動に部屋がいっそう騒がしくなる。 「私を殺したら、次の標的はこのエリア全体かも知れませんね」  うっすらと失笑を浮かべながら、慌しくなった会議室を後にする圭一。その足取りは軽い。  エリアKとて、相沢祐治の亡霊に狙われるだけの理由がある。  あの研究所の副所長をこのエリアで匿っていたのだから。  だから、その声は驚異的に響くだろう。もっとも、祐一にはもう何も無いだろう。  だが、エリアKには強烈な脅しになる。相沢祐治はそれほど脅威なのだから。 (壱次……死んだお前にまだ甘えてしまってる……)  悲しんでいる暇は無いっと意識を切り替えて前を見つめる。  加えて、もしこの事が佐祐理の耳に入ったときの言い訳を考えていた。  その圭一の視線の先で柳が手を振って圭一を待っていた。 「ほら、あまり時間が掛からなかったでしょう?」 「そうですね、久瀬たぁーあーあー!」  笑うのをこらえて圭一は柳を見る。  柳は顔を真っ赤にさせながら、涙目で圭一を見つめ返した。 「……独創的な呼び方ですね」 「け、圭一さん……意地悪です……」  柳の表情は怒ったものだったが、圭一の表情を見逃すなんて事はしていない。  むしろ、怒ったように装いながら圭一の表情を観察していた。  また違う表情を見せてくれていると。 「話は付きましたから。行きましょうか?」 「はい!」  行政府前のキャリアーに乗り込む2人。  キャリアーには3機のドールが積み込んである。  黒曜に、2機のサイクロプス。  佐祐理が圭一に対して武装を外して格安で売り出したものだ。別名、無料とも言う。  無料ほど高いものは無いと言うのは、圭一の話だ。  だから、後でそれ相応な事を要求されるのではないかと覚悟はしている。  それを持って目的の土地に向かった。
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     瓦礫の山。そういったほうが良いだろう。  ひび割れたアスファルトに、崩れかけたコンクリートや材木の山が4人を迎える。  街の残骸。それを前にして4人は途方にとまでにはいかないものの困っていた。 「まずは、整地ですね。ドールを起動させて瓦礫の撤去からはじめましょう」  起動するのは2機のサイクロプスに黒曜。  柳は片手に拡声器を持って、指示を出している。  ちなみに、寝床はキャリアーの一角を改造してある。  贅沢なものとは言えないが、野宿と比べれば全然良いものであった。 「瓦礫は区分けしたほうがよさそうですね……柳、指示を」 「は、はい!」  作業用のドールと比べれば、出力も高い。  しかもこの3機は細かい動きが出来るように調整されていた。  圭一はその心遣いに感謝するしかない。  柳が指示を飛ばして、3機のドールがそれに従い瓦礫を撤去していく。  日が暮れるころにはその一角の瓦礫が撤去され、3つばかりの山ができた。 「今日の作業はここまでにしましょう」  日も暮れてしまって明かりもない。  まぁ、明かりは無くとも作業は出来るだろうが能率は下がるだろう。  それに朝からずっと働いているのだから、ここら辺で仕事をやめたほうが能率は良いだろう。  みなが久瀬のその一言に頷いて、寝床であるキャリアーの一角へと移動していく。  柳は足を止めて、夜空を見上げた。 「はぁ……」  須藤が足を止めて、柳に声をかける。  その溜息が、今までの柳には無いものだと感じて。 「どうした? 何か悩みか?」  絶対の異質。それを柳から感じ取ってしまう。  以前の柳ならば、溜息もせずに圭一に従うだけだろう。  それも、嬉しそうに幸せそうに。  それ以外の感情など見た事がない。  圭一の表情の変化にも驚かされていた。  だが、柳のそれにも驚かされている。 「すごい、胸騒ぎがするんです」 「はぁ?」  柳が絶対に言うとは思えない言葉がまた出されて困惑するしかない。  圭一と竹井は既にキャリアーの中に入ってしまい視界の中には居ない。  困ったぞっとばかりに、須藤は頭を抱えたかった。 「それで、その胸騒ぎとはどんな時にするんだ?」 「え?」 「もしや久瀬さんの顔を見ててするとか言わないよな?」  軽口。そのつもりで言った言葉が、柳を硬直させる。  それを見た須藤は、改めて溜息を吐いた。 「何で解ったんですか!?」 「お前さん……」  付き合いは長い。それは確かにいえる。  同じ、この故郷の出身で圭一と斉藤に助けられた仲間だ。  だが、絶対的な違いがある。  須藤と竹井は圭一に感謝し、忠誠を誓っている。  柳は絶対的な信頼を圭一にし、信仰している。  2人は意見も言うし、無理だと判断すればそういう。  柳は圭一が言う事なら絶対にYESと答える。 「どうして解ったんですか!?」 「お前、久瀬さんのことをどう思ってる?」 「一生付いていく人です」  即答で返してくる。ここが2人と柳の違うところ。  2人ならば、何か言葉を探し即答する事はありえない。 「そういう意味じゃなくてだな……良い人とか性格が良いとか、笑顔が素敵とか好きだとか嫌いとかでだ」 「……どうなんでしょう」  何故ここで悩むのかわからない須藤。  一生付いていく人と断言しておきながら、そのほかの評価が何一つ無い。 「じゃあ、聞くがどうして久瀬さんの顔を見てて、そうなるんだ?」 「え? それは……」 「それは?」 「今まで見せてくれない表情を見せてくれるから……」  それは須藤も思うところだった。  以前の圭一は無表情とまではいかないものの感情の波が極端に顔に出ない。  最近は素直に顔に出るようになっていた。 「また聞くが今まで見たことの無い表情を見てどうして胸騒ぎがするんだ?」 「それは、どうしてでしょう……」 「あー、聞き方が悪かったな。じゃあ、その胸騒ぎはどんな感じだ?」  何となく付き合うのが馬鹿馬鹿しくなってきた須藤。  のろけと言うか、自分の感情を正確に理解できていないだけじゃないかっと見当が付き始めた。 「頬が熱くなって、それで、心臓がバクバク言って。圭一さんの事しか考えられなくて……」 「言ってて恥ずかしくないか?」 「そうですか? 胸騒ぎですよ? 悪い事があったら困るじゃないですか」 「お前なぁ……はぁ」  須藤は溜息を吐くしかない。  何故こんな事を言わなきゃならないんだっと頭をガシガシとかいた。 「お前さん、それは久瀬さんを慕ってるんじゃないのか?」 「慕う?」 「久瀬さんのことが好きなんじゃないのか?」  その一言で柳は凍りついた。  好きってなあに? 何それおいしいの? っと言った顔である。  須藤が目の前で手を振り生きてるかーと声をかけた。  ボンっという音が似合いそうなほど顔を真っ赤にさせた柳は狼狽する。 「なななななな!?」 「それ以上は自分で考えろ……全く、色恋ネタは苦手なんだって」  そういう須藤を見送るしかない。  柳はそのまま須藤を見送った。 「……好き? 私が、久瀬大尉を?」  信じられないといった表情。  でも、それが本当だったらどれだけ幸せだろうと夢想する自分が居るのに柳は気が付いていた。  圭一が柳が戻ってこない事が気になってか柳を探しに向かってくる。 「柳、どうしましたか?」 「いえ、ちょっと考え事を……」 「何か悩み事でも?」 「あ、あの」  柳は自分で何を言おうとしているんだろうっと思う。  しかし、自分の口は勝手に動いてしまった。 「圭一さんは私の事をどう思ってますか?」 「柳の事ですか? 好きですよ?」  圭一の言っている意味と柳の受け取った意味が違う。  しかし、それを正すまもなく、柳は走り出した。圭一を置いて。  柳は嬉しくて爆発しそうだった。  自分にも好きな相手が居て、自分を好いていてくれるっと解って。  そんな人間らしい感情をずっと知らぬままに生活していたが一度気が付けば後はどうなるかは解るだろう。  翌日からの作業は柳のみ圭一の前でが失敗を繰り返すような感じになる。  須藤と竹井はその原因がわかっているが圭一はよく判らない。  2人は放置の方向で面白おかしく、その様子を見ることにした。  そんな日々が続き、圭一が柳にどうしたのか聞きに行く。 「柳……最近どうしたんですか? 何か悩み事でも?」 「圭一さん……聞いてもらえますか?」 「えぇ、それで解決するなら」  圭一はそう頷いて、柳の話に聞きに入った。  柳は深呼吸をしてから、話し始める。  夜空の下。満天の星空の下で。 「嬉しかったんです。圭一さんに褒められるのが  ただ役に立てれば幸せだったんです。私はそれだけで幸せになれたんです  隣にいれれば、幸せになれたんです。単純ですよね? 私って  でも、最近は違うんです。もっと圭一さんのいろんな表情を見たくて……  ただ、隣に居るだけじゃ以前のように幸せになれないんです。もっと近くで……もっとずっと……  どんどん、貪欲になって行く私がいて……もっと近くで、もっと知りたいんです。圭一さんのことが  私……自分で自分がどうなったか解らないんです」  柳はゆっくりと歩きながら、自分と圭一に聞かせるように言う。  圭一が後についてきていると信じて柳は振り向いた。  そこに圭一が居て柳はホッとする。  そして、顔を真剣に見つめて口を開いた。 「だから……私の気持ち聞いてください、いえ、聞かせます!」  ここで大きく息を吸う。  その目は真剣そのもの。  圭一はそれに魅入られたように動かない。 「私……柳皇子は……久瀬圭一さんの事が好きです!」 「私も柳の事は好きですよ」 「世界中の誰よりも、あなたの事を想ってる自信が有ります!」 「え?」  圭一は言われて混乱を始めた。  こんな事になるとは思わなかったと。  そして、嬉しいと確かに思っていた。 「こんな事を言う女性は嫌いかもしれないですが! 私は言います!」  声が大になる。  恥ずかしいのか、それとも緊張しているのかはたまた両方か。  これ以上ないくらいの大きさの声になった。 「圭一さん! 私はあなたの子供が欲しいです!」  ここが廃墟でなく街の中であれば、誰もが振り向く声だろう。  物陰で様子を見ていた2人にもその声は十分届いている。  必死に笑いをこらえながら、2人は聞き耳を立てていた。 「あー、そこは結婚してくださいとか愛してますとかだろ?」 「ちょっとずれてるからな、柳のやつは」 「もしかすると、台詞が飛び飛びなのかもな」 「確かに……」  竹井と須藤である。  2人はそんな会話をしながら、続きを聞こうと意識を集中する。  気まずいような沈黙が圭一と柳の中にある。  それを破ったのは圭一だった。 「ありがとう。柳」 「あ、あの……」  柳がしまったと言う顔をしている。  どうやら頭の中で組み立てていた台詞を言い間違えたようである。  しかし、もう遅い。  言葉は形になり、既に相手に渡ってしまっている。 「も、もういっ」 「そんな風に想われているとは知らなかった。だから、返事を聞いて欲しい」 「あ、あの!」 「私だって、慌てているのです。だから……」  柳の言葉を遮り圭一は続ける。  圭一もかなり慌てているのか普段の落ち着いた雰囲気はもう、まとっていない。  体を強張らせて柳は返事を待った。  手が震え、それでも視線だけは圭一の目から離さない。 「まだ自分の気持ちが解ってるわけじゃない。でも柳となら一生、共に歩いていきたい」 「そ、それって……」 「子供とかそんな話はまだ早いですが……こういう時は、あぁそうだ。結婚しよう」  その言葉を聴いてから柳はぽろぽろと涙を流した。  嬉しくて涙が止らない。  柳の表情がそう物語っていた。  その表情が一転して不安げなものになる。 「これは夢じゃないですよね?」 「夢だと思いますか?」  圭一は柳を抱きしめて口付けを交わした。  柳は抱きついたまま、泣き続ける。 「さって、これ以上は悪趣味だな」 「あぁ、悪趣味だ」 「2人とも、待ちなさい」  2人が他の場所へ行こうとしたとき。  圭一は2人のことを呼び止めた。  気が付いていたのかっと、バツの悪い顔をしつつ2人は出て行く。 「盗み聞きは良い趣味とはいえませんね」  圭一はそのまま言い続ける。  柳は圭一の抱きついたまま、まだ泣いていた。   「罰です。2人には恥ずかしい思いをしてもらいます」 「そ、それは……」 「これからの私達のために証人になってもらいます」  何か酷い事をされるのではないかと焦った2人の表情はホッと緩んだものになった。  流石に、圭一とて悪魔ではない。  それにぴんと来る須藤。 「味気無い結婚式ですね」 「そうかもしれません。でもこの場所、このメンバーだから意味があるんです」 「では証人になりますよ! どんな誓いの言葉を聞かせてもらえるのですか?」  周りはまだ瓦礫の山。  人もまだ、この場に居る4人しか居ない。  まだ街とも言えない場所で圭一は柳を抱きしめ誓う。 「私、久瀬圭一は柳皇子を妻として迎え、死が二人を別つとしても永遠に共に歩く事を誓う」 「私……柳皇子は久瀬圭一を愛し続け、永遠に離れない事を誓います!」  その言葉を2人は聴き、拍手をする。  それが果たされるように。  これからを楽しみにしながら。 「聞いてるこっちが恥ずかしくなるな」 「だな」  意地の悪い笑みを浮かべる2人。  でも心から祝福している事はわかる。 「う〜、でも酷いですよ! 盗み聞きなんて!」 「久瀬夫人、お隣に夫が居ますよ」 「そうそう、邪魔者はすぐに退散しますってば、久瀬夫人」 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」  顔を真っ赤にしながら、それでも嬉しそうに何かを言おうとする柳。  2人はそんな柳を祝福し、からかいながら退散した。  圭一は面白そうに3人のやり取りを見ている。  私にも大切にしたいものがあったんだと、それを知らなかったと言う表情で。  人形だった2人がそれぞれ人間らしくなっていく瞬間。  こんな感じのことを繰り返しながら街の復興が始まったのだった。  町が発展していくのはまた別のお話。 To the next stage

     あとがき  当分の間は一話完結を目指しているのですが……難しいです。  やはりだらだら続けて書くのが好きみたいな感じがします。  今回は久瀬君達のお話でした。書いていて恥ずかしかったです。でも面白かったかも。  次は北川君たちを書こうって決めています。  では次も頑張りますのでよろしくお願いしますね。  追伸、前話は反省してます。解り辛いですよね……。


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。  話が甘いなぁ。(ラブという事です  特に後半。
     祐一より先に一歩踏み出した久瀬君。  勿論恋愛関係で、ですが。(笑  祐一はまた人数が多い分大変そうで、終わりは遠そうですけどね。  今回の結婚が佐祐理さん達の耳に入ったらどうなるか楽しみです。  彼らなら結婚式挙げてくれそうですし。
     不幸なのは竹井と須藤の両名でしょうか。  同じ場所でずっと生活するって事は、新婚の2人ともずっと一緒ですしね。  正直中てられるよ?(爆  居た堪れないんじゃないかなぁ。  久瀬君達も夫婦の営みは後回しでしょうけど。

     4.7年前って微妙に何時頃か分からない気が。(笑


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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