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電話の向こう側。
そちらの声が多少華やいだものを感じる事が出来る。
ついつい、相手をからかいたくなってしまった。
「それで、初めてを散らした感想は? いや、男を初めて受け入れてどうだった?」
『ね、姉さん!?』
「何だ、久しぶりに電話したのに……」
『もっと、慎みを持ってください!』
電話をかけている人間は向こうの人間が顔を真っ赤にしているのを想像して顔がにやけてしまう。
対応に余裕がなく、それが更に面白さを加速させる。
苛めて光線を出しているといっても良いじゃないか、と感じてしまう。
「まぁ、私の最愛の妹が始めて女になったんだ。祝いこそするさ、ん? そうだ、赤飯でも送るか」
『冗談はそこまでにしてください!』
「そんな恥ずかしがる事が無いじゃないか。それでも身ごもったのか?」
『えぇ、あと2週間で出産ですって、何言わせるんですか!』
「やはり赤飯じゃないか。初めての子供だろう?」
『せっかく、子供を生んでから驚かせようと思ったのに……』
「ふふん、詰が甘いな」
向こうが悔しがる雰囲気と恥ずかしがる雰囲気を一掃し、真剣な声になった。
私もそれを察して今までの口調を改める。
『……姉さんはあの娘に自分が母親だと言わなくて良いんですか?』
「全く、いらない心配だ。いまさらどんな面をして告白すれば良い?」
『それは……』
「お前を母親と慕っていたんだぞ? 私が入り込む隙間が無いくらいに」
『でも』
「でも、か……無理やりこじ開ければあの娘の幸せにならない。そのくらい知っている」
『……姉さん』
「私も、いや私が悪かったんだ。だから、この事は誰にも言わないし、誰にも言えない」
『今の……』
「今の? 全く、面白いことを言う。既にあの娘は母親は必要じゃない。強い娘だ」
『……そう……ですか?』
「お前の責任じゃない。だからそんなに落ち込まないでくれ」
『……判ってますが』
「お前がお前の幸せを求めるのは悪い事じゃない。私が怒るはず無いよ」
今のままで十分幸せなのだ。
もっとも、今の娘は昔の私を思い出させるが。
やはり血筋なのだろうか、と思ってしまう。
「あそこまで育ててくれたお前を本当に感謝しているんだ」
『姉さん……』
まったく、それで良いのかといいたいのだろう。
私はそれで良いのに。
あの子が選んであの子が進む道なのだ。
私が邪魔をして良いものではない。
例え邪魔したら全身全霊を持って反抗するだろう。
私の娘なんだから。
「本当に、ありがとう。何だか私らしくないけどな」
軍の特殊部隊。そこがかつて私の勤めていた職場だった。
志願したものが呼び集められた精鋭部隊。
そこで出会ったのは、男。初めの印象こそ最悪だった。
それは向こうも同じだったみたいで、お互いに罵り合いをしていた時期がある。
初めは確か、自分のスタイルと相手のスタイルの違いからの口論だったと思う。
そんな仲が続いていったのは覚えている。
そして、あるとき、気がついた。あいつは男で、私は女なのだと。
気がついたときには、自覚した時には既に私は恋に落ちていたのかもしれない。
決定的になった言い合いが有る。
『お前は女なんだ。だから、そこまで強くある必要はない』
『お前も、知っているだろう? 女だからっと区別されるのは好きじゃない』
嘘だ、お前になら区別されたがっている自分が居る。
お前には女を感じで貰いたい自分が居る。
その感情を感じ取られるのが途轍もなく嫌な自分も居る。
『だからこそ、だ。俺はお前に無理はして欲しくない』
『無理とは? 女だからと言う理由で足手まといだと言うのか?』
『いや、戦力にならないとは言ってない。お前は間違いなく強いよ』
『だったら何なんだ』
知りたいと思うのは罪なのかもしれない。
このまま、自分という枠組みが砕かれるかもしれないというかもしれないのに。
口にしてしまったのは失敗だったと思う。
何せ、自分という枠組みを完膚なきまで砕かれてしまったから。
『お前は私の事を愛しているとでも言うのか?』
『あぁ、そうだ。だから無理はして欲しくない』
言葉が出てこないとはこういうことを言うのだと思う。
なにせ、その言葉を言って欲しかった人に、まさに言ってもらえて。
そして、それが本当なのだと知ったら、どう行動して良いか何を言って良いか判らない。
自分がもっとも自分らしくない時間だっただろう。
『……巫山戯るなよ?』
『巫山戯てなんかいない』
声が震えてしまう。何故こうも嬉しい。
まるで、世界は自分を中心に回っているような感覚だ。
『俺は……お前を愛している』
『待て……私のどこをどうすれば愛せるというんだ!?』
怯え、絶対に怯える。
真っ直ぐに、そしてきっぱりと向けられる相手の視線。
私は不安だった。
私のどこを見てくれてて、そして何処で如何して、愛してくれたのか。
わからない。だから不安だった。
『世界に私ほど女らしくない女は居ないだろう!?』
『お前が女らしくないなんて誰が決めた?』
『私の手は柔らかくないし、この体は傷だらけだ!』
『知っている。だが、その傷は仲間のために負ったものだし、お前の手は十分柔らかい』
『物騒すぎて、まともな生活なんて出来ないぞ!?』
『安心しろ、俺も多分まともな生活はできない。それにお前が物騒なのは知り尽くしてる』
『私に好かれる要素なんて皆無じゃないか!?』
『そんな事はない。お前は誰よりも仲間を大切にする。その為に努力している』
『そんな事は当たり前だろう!? 私の何処が良いというのだ!?』
『お前だから』
決定打。完璧に、完膚なきまでに私という枠組みを壊された瞬間だ。
私というものは、あいつも一緒にならないと構成されない瞬間になってしまった。
『私は我侭だぞ?』
『俺も我侭だ』
『嫉妬深いぞ?』
『妬いてもらえるのか? 嬉しい限りだな』
『もしかすると、浮気とか喧嘩で殺してしまうかもしれない』
『それは物騒だな。でもお前になら殺されても良い』
『そんなこと出来る訳無いじゃないか……』
『知っている。でも、俺はお前じゃないと駄目なんだ』
『死ぬ事は許さない、例えどんな事があろうとも……お前が私を愛しているのなら』
『判っている。お前を残して死ぬような事はしないさ』
『もし、お前の理想を自ら折ることがあるなら、その前に私が全身全霊を持ってへし折ってやる』
『あぁ、頼む。お前にならそれを頼めるよ』
これがなれ初め。
まさかこれが3ヶ月で終るとは思ってもいなかった。
甘い、そして幸せな時間はなんて残酷なのだと思った。
終ってしまってからよく思う、幸せが消えた後の痛みは身を切り裂くと。
もし神と言う者が居るのなら、絶対に性悪であると断言できるほどだ。
『先にいけ!』
『なら、私も残る!』
『お前のお腹の中には子供が居るだろう!?』
『だが!』
『絶対に追いつく。だからお前は自分のことと、その子の事を考えろ!』
これが彼を見た最後。彼の声を聞けた最後だった。
特殊部隊で行った任務の報復。それで私達は永遠に引き裂かれた。
あいつは自分の子供を見る事無く、私との約束を破って死んでしまった。
あっけないものだ。私も死にたかったが、そうもいかない。
その後、子供を生んだのは良いが、私は追われる身であり、とても子育てなぞ出来る状態ではなかった。
だから、妹のところに子供を預けて私単独での逃避行が始まったのだ。
追っ手を振り切り、憂いを絶つのに4年かかった。
その頃に新しく私は傭兵団ををつくり、ようやく生活にも余裕が出来た。
片時も忘れなかった……
いや、忘れる事の出来なかった問題にようやく向き合えるようになり、向き合おうとした。
妹に預けた娘を見に行ったのだ。
『おかあさん!』
『フフフ、何かしら?』
幸せそうな娘の顔。
私には引き裂かれるような痛みとそして、嬉しさがこみ上げてきた。
成長した娘には確かに、私とあいつの面影がある。
生きてくれているだけ、そして、幸せに暮らしているだけ嬉しい。
しかし、私が出て行って何になる。という思いが渦巻く。
私の娘は既に妹を母として慕っている。
いまさらどんな顔をして、どんな表情で会えば良いのだ。
私という存在が入り込めないほどの絆が育っている。
家族とは、血の繋がりじゃない。
長い間、時間をかけて絆を育てていくものだ。
既に強靭にそしてしなやかに育てられたそれに罅を入れる必要はないだろう。
あの子が笑顔で居られるなら、波風を立てないべきなのだ。
だからこそ、ここは私が身を引くべき。妹には多大なる迷惑をかけてしまう。
返そうにも返せない大きな借りを作ってしまうだろう。
だが、それが最善であり、ベストであり、それ以外の方法はないのだと自分に言い聞かせる。
でなければ、自分が維持できないから。
『フフフ、私はなんて愚かなんだろうな?』
失ったものは数多く。
残ったものは私の手には残らなかった。
しかし、あの子が生きてくれている。
ただそれだけの事実が、私にはとても嬉しい。
手には残らなかったが、決してゼロではないのだから。
『姉さん?』
「あぁ、お前がすっかり惚気るから、ボケーっとしてしまったじゃないか」
『はぁ、すいませんでしたね』
「ふふふ、今は幸せか?」
『もちろんです』
即答するとは良い度胸じゃないか。
何か考えておかなくてはいけないな。
まぁ、まずは幸せな妹を祝おうじゃないか。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
割り振られた真新しい格納庫に並ぶ、ドールの列を見て名雪は溜息を吐いた。
「足りないね……」
機材が足りていないわけではない。
ただ、まだ隊として編成されたばかりで人材がそろいきっていないのが問題だ。
名雪の目標には程遠い。
育てるにしても、引き抜くにしてもそのどちらの人材も足りていない。
「そこに、その部品を、あー! その部品はもっと丁寧に! そこの貴方! その部品はあっちです!」
栞は新たに加入したメカニックと新たに運び込まれる部品にてんてこ舞いになっている。
しかし、指示の速度は落ちる事無く。続いていく。
「あー! そんな扱いする人なんて嫌いです! 今の部品はデリケートなんですよ!」
「うん、栞ちゃんもがんばってるし。私も頑張らなきゃね」
そう言って、名雪は格納庫を後にする。彼女達は徹夜かもしれない。
作戦会議室、そう銘打たれている部屋に入った。
集まっているのは、エリアOの特務第1小隊であったメンバーとエリアMから来たあゆを除くメンバー。
名雪の登場を遅いっと言う目で見る香里。
待ちに待っていたと言う感じの美樹。
あまり友好的な関係を築けていないのか雰囲気がぎすぎすしている。
エリアOの特務第1小隊は名雪を見て驚いた眼をしていた。
あまりに若すぎると。自分達も十分若い事を棚に上げて驚いていた。
「はじめまして、この隊、聖ジョージ部隊の隊長を務める事になった水瀬名雪です」
とりあえず、初対面である特務第1小隊の人に向けて挨拶をする。
そのメンバーはまだ幼い容姿が残っている名雪に対して疑惑の目を向けるしかなかった。
「あれ? 貴方達の隊長さんと取り巻きの2人は?」
「エリアでの仕事が終っていないので後日合流となっています」
「そう……まぁ、いいや。今回は顔合わせと初任務の説明が主だしね」
名雪はそういって興味なさそうに、彼らから視線を外す。
特務第1小隊の視線に何か納得のいかないものが混じる。
気にせずに名雪はこの部隊について軍とは違う事を言い始めた。
「軍に居た時のように、死にくいって思わないこと。相手はテロリストだからね。
法律も条約も何もかもが、貴方達を護ってくれていたものがあるとは思わないで。
テロリストは常識も何もかもが通用しないと思って欲しい」
いつもよりも、きつい様子で名雪は続ける。
みなの表情が引き締まっていくのがわかった。
「それと、引き金を引く事、相手を殺してしまうかもしれない事に躊躇いを持たないで。
無茶な要求ではあるけど、自分が死ぬ事に比べればまだましだからね。
もっとも、この中にこの部隊の特殊性を理解していない人なんていないと思うけど」
そう言ってから、今回の任務について説明を始める為の準備を始める。
地図を見えるように配置してみなに地図を見るように指示をした。
「今回は私の指示に極力従ってもらいます。まぁ、私の実力を知ってもらうための作戦です」
地図には湿地帯が中心に描かれ、その端のほうに赤く印がつけてあった。
特務第1小隊のメンバーがそれを見て怪訝な顔をしたが名雪は疑問には答えようとせずに説明を続ける。
「今回のターゲットはここを確実に襲うから」
「どういうことなの?」
「複雑な事情があるみたいなの」
香里の質問にそう答えながら、名雪は説明を続ける。
極力要約してしまうと、軍のお偉い様になったものと現場に拘った者の摩擦。
お偉い様からしてみれば、現場に残ったものは目障りなのだ。
それをテロリストに偽の情報を流す事で同士討ちにさせようと言う魂胆らしい。
説明の終えた時のみなの表情はなんとも微妙なものだった。
「さて、役割の分担をするよ」
美樹を除く全メンバーにそれぞれの役割に大体の流れの位置を説明する。
それは決め細やか過ぎて、ずれた時に大変だと思われるくらいだった。
「質問は? 無いよね? それと今回は情報部の援護はないよ」
「全く……名雪。私と美樹さんは大丈夫だけど、他の人たちには説明したほうが良いわよ」
「そうだね、すっかり忘れてたよ」
名雪は失敗失敗と頭を叩く仕種を見せて苦笑した。
特務第1小隊のメンバーに向かう。
既に呆然としていたメンバーは、名雪の一言に目をむいた。
「私が指示するのはいつも7割だと思って。残りの3割は自分でその場で判断してね」
「ごめんなさい、いい加減な隊長で。でも、現場に出れば言っている意味は解るわ」
「今回で慣れてくれれば良いよ」
十分に精巧すぎる予定なのだ。
これを七割と捉えるのには無理があるっと慣れていないものなら思う。
しかし、香里にしてみればこれが七割なのだ。
「では、準備に取り掛かって。あ、美樹さんは残ってね」
「はい」
今まで何も言われなかった美樹がここでようやく声を出した。
美樹と名雪を除くメンバーが全て出て行った。
残された場所に2人は残っている。
美樹が嬉しそうな嗤い顔を浮かべて。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
視界に映っているのはとある建物。
その更に先には見渡す限りの湿地帯があった。
既に何度か襲撃されていのか壁には穴が開いている。
そして、道となっていたアスファルトはめくれ返っていた。
名雪の宵を含めて5機が夕暮れの森の中にドールを潜ませている。
「各員準備」
名雪は静かにそう告げる。
宵の広い範囲を捉える事の出来るレーダーに標的が引っかかったのだ。
その数16機。その全てが動きからHドールだという事がわかる。
建物からは既にぼろぼろになり満身創痍なドールが4機出て行く。
名雪の示した予定に寸分違わずに全く同じだけの数だ。
『……嘘だろ』
特務第1小隊の誰かが呟いた一言。
それが電波に乗って名雪の耳に入る。
十分で正確な情報さえあればそのくらい楽にこなす事ができるのにっと名雪は思った。
ドン! っとにぶい銃弾の音がする。開戦の合図だ。
「β、仕掛けて」
4機のドールが一斉に動き森から飛び出て、テロリスト達のドールの群れの側面を叩いた。
注意がこちらに向く。それを確認して名雪はほくそ笑む。
「α準備……」
各自の判断で、連携しつつ徐々に後退を始める4機のドール。
テロリスト達は数が多い事を理由に徐々に攻勢を深めていく。
数で劣る名雪の部隊ともといた部隊は徐々に押されて後退を始める。
「仕掛けて」
テロリスト達の注目は全て湿地帯から離れて山側に注がれた。
湿地帯から襲われるという事はありえないからだ。
名雪はその盲点を突く。
湿地帯を横切るようにホバーの板に乗った3機がテロリスト達の背後を突く。
『名雪、そのままぶつけるわよ!』
「うん、試作品だから良いよっというか、そうしてもらわないと困るよ」
『困るってなに?』
「それに爆薬も搭載されているしね」
『ちょっと! そういう事は早めに言ってよね!』
「あれ? 言ったはずだよ?」
湿地帯を抜けたところで、すぐにホバー空飛び降りる3機。
勢いがついたそれらはテロリストの背中に直撃して、3つの大きな花を咲かせた。
酷い轟音と閃光があたりを包み込む。
『洒落になってないわ……』
「だって、絶対に迎撃されるわけ無いもん」
『今度からはしっかり言いなさい』
「だから言ったてば……」
テロリスト達はもう混乱してしまってそれ所ではない。
元々の数はテロリスト達のほうが多かった。
しかし、三方向から攻撃されて確実に数を減らされていく。
3回の爆発によって絶対数も減らされたせいもある。
「全機! 仕上げに入って!」
名雪は通常電波と拡声器を使って相手にそうプレッシャーをかける。
それは相手の耳に確実に届いているだろう。
これでまだ戦えるという人は少ないだろう明らかに士気が砕かれた。
逆に味方にしてみれば嫌でも士気が上がる。
目に見えてテロリスト達の動きが悪くなり、逃げ始めた。
「美樹さん……そっちに行ったから後は任せたよ」
『えぇ、全て狩り殺してあげるわ』
逃げていく退路は限られている。
その一番狭くなっているところにネメシスを配置してあった。
その結果がどうなるかは、名雪が一番知っている。
もう誰も、ネメシスを止める事は出来ないと。
「みんな、生きてる?」
『は、はははは……』
『さて、名雪の指揮デビューの点数はいくつかしら?』
「うーん、今回はギリギリ50じゃないかな?」
『あら、良い点数ね』
「まぁ、初めてだしね」
特務第1小隊のメンバー達が信じられないといった表情で笑っているのに対して香里達は普通に話していた。
彼女達にはこれが普通なのだっと特務第1小隊のメンバーは理解する。
理解はするがついていける訳ではない。
今回は100%名雪の指示通りに動いた。まるで予定表のように巧くいっている。
7割だというのは信じられなかった。
『どこの誰だかわからないが……援護感謝する』
「いえいえ、どういたしまして。ところで質問するけど、私達についてこない?」
『は?』
「私がそっちに行くから、待っててね」
『名雪、私達はどうすれば良いのかしら?』
「撤収開始していいよ」
『了解したわ』
名雪は宵を建物近くで降りて、建物に歩いていく。丸腰の状態でだ。
もちろん、部隊は撤収を開始していて名雪以外に人はいない。
その建物の主達はそれを確認してから、名雪を迎え入れる。
「老いぼれ達に何か用かね?」
皮肉とも取れる言葉。
確かに、その場にいた人間は殆どが50代以上に見える。
名雪くらいの子供がいてもおかしくないだろうし、それに引退していてもおかしくはない。
初老の男が手を差出して、握手を求める。
名雪はそれを快く受け取った。
「あなた達の経験とノウハウが私は欲しいの」
「何故、そんな事を言うのか?」
「じゃあ、聞くけど。貴方はここで無駄死にしても良いの?」
「質問を質問で返されるのは嫌いだが、それで良いと思っている。我々にはもう意味が無い」
「意味さえあれば、生きていけるのかな?」
「軍人とはそういうものだ。だが、上層部は私利私欲の為に戦おうとする。そんなものに忠誠など誓えない」
「意味、ね。じゃあ、自分の生きた意味も解らずに死ぬと良いよ」
冷たく言った言葉にさえ反応は示さない。
名雪は溜息を吐いて、相手を無感情に見た。
「ここまで生き残った部隊として、誇りがあると思ってたけど誇りすらない人達は私に必要ない」
「聞くが、貴女は何をしようとしている?」
「聞いたら付いて来てくれるのかな?」
どうなのっと言う表情で集まってきた全員を見渡す名雪。
その目には真剣な色が浮かんでいる。
心の中には満足そうだかそれを表情に出さないようにして名雪は話し始めた。
「私は世界にあるドールテロを全て無くすの。そのために貴方達のノウハウが欲しい」
「何故だ?」
「何故が漠然としてるから答えにくいけど、活動の理由は、私の個人的な理由の為」
「私達が必要とは?」
「私は経験が乏しいって言う事。私のしている事は全て理論。だから経験に裏打ちされているわけじゃない」
名雪はそこで、だから自分には足りないものがあるんだよっと言った。
そして、全員を見渡す。
「だから私はその年齢にまで生き残れた経験と知識が欲しいの」
「なるほど……」
「ここで無駄死にしたいのなら止めないよ。でもね、どっちが有意義に死ねるか考えたほうが良いね」
ぴたりと男達の視線が名雪に集中する。
名雪は悠然と微笑んだ。
「別に戦場で死にたいならそうしてあげる。ただ、別の生き方があっても良いんじゃないの?」
「例えば、どんな?」
「貴方達の経験を伝えたりとか」
「我々はもうこのエリアには居れないだろう」
「誰が、このエリアの人を教育してって言った? 私の部隊の人を教育して欲しいの。私と同年代だから」
その一言で、男達に沈黙が舞い降りた。
それぞれに子供が居るとするならば、全く同じ年代なのだから。
名雪は少ししてから、口を開く。彼らにしてみれば意外な言葉を。
「貴方達はもう家族とお別れをしてしまっただろうけど、私についてくれば家族とまた暮らせるよ」
「……お前は何者だ? 何があって老いぼれ達を欲しがる」
「私は水瀬名雪、世界政府直属の聖ジョージ部隊の隊長を務めているの」
違う意味で男達に沈黙が舞い降りた。
迷いが生まれ始めているのかもしれない。
「俺は……貴女についていく。忠誠に足る人物だと信じた」
「ヒュント? お前、良いのか?」
「あぁ、このまま無駄死にするよりも、もっと激しい戦場で意味のある死を迎えたい」
「ありがとう。そして、ようこそ我が聖ジョージ部隊へ。ヒュント・ルジュナさん」
「いつか、貴女のその個人的な理由を聞かせてもらう」
「そこまで、意地でも生きてね。ヒュントさん」
一人が動けば後は徐々に回りも動いてくる。
ポツリポツリと名雪に確認をしていく。
流石にただ、歳をとるだけでなくその質問はしなやか、かつ狡猾だった。
色々な事を聞かれる。本拠地派とか本物なのか、から始まり果ては設立の理由など。
そして、一番聞きたいことを男達の中の一人が呟いた。
「本当に家族に会えるのか?」
「会えなかったら、私の首を撥ねてくれて良いよ」
その質問の答えが決定打だった。
最後の質問が終って、名雪は全員を引き連れて部隊の本拠地に戻る。
ちなみに、彼らの殆どは教育に回った事はいうまでも無い。
加えて、家族と再会できたことも言うまでも無い。
さて、彼らがどうなったかはまた別のお話。
To the next stage
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あとがき
以前、管理人である傭兵様のところに自分のアドレスのウィルスメールが来たと仰られていました。
私のところにも自分のアドレスの迷惑メールが来てしまいました。
私はウィルスとか、迷惑メールを出した覚えなどありません。
もし、私のアドレスで来ていたのでしたら、無視してください。
そう言った物は絶対に出しませんから。
今回は……ノーコメントで。
意味深かもしれませんが、受け取り方は人それぞれだと思います。
ではここまで読んでいただいてありがとうございます。ゆーろでした。
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管理人の感想
ゆーろさんからのSSです。
今回は場面が半々。
前半は祐夏さんの語り。
彼女の長女の話でしたね。
あの娘さんがそうとは……。
知ることはあるんでしょうかねぇ、姉妹お互い。
まぁ一番重要なのは、秋子さんが処(自主規制)だったという事なのですが。(逝け
後半は名雪君の話。
聖ジョージですか……キリスト教の7英雄?
ゲオルギウスで合っているのかな?
この部隊が唯一判明している祐一の敵対勢力ですね。(名雪の理由もあるし
どうなって行くのか楽しみです。
ウイルスメールですが、私は対策しました。
ゆーろさんも対策ご希望ならご一報ください。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSかメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)