私は銃だ。水瀬名雪隊長が引けと言えばためらい無く引き金を引くことが出来る。 忠実で裏切ることの無い銃。 しかし、それだけでは駄目だ。考え、行動する銃。 私にはそれがふさわしい。 それは確実に相手を吹き飛ばすライフルだ。 隊長に拾われたこの老いぼれの命。この短き命が尽きるまで名雪隊長に従う。 あの時、死んだはずだった私を黄泉返らせてくれた。 精神的に死んでいたのだ。自分という意味を見出せなかった。 そのほかの意味は要らない。だから、隊長には絶対の忠誠を誓う。 絶対に裏切ることの無い銃として。 私は存在し、この世界に居ることが出来る。 この身が、命が、尽き果てるその日まで。
 
神の居ないこの世界で−A5編−


→After 5 years の始まる1年前のお話・テストの日

     ここは聖ジョージ部隊の本拠地。その本拠地の2軍、つまりは予備軍の育成基地である。  隣には本隊の格納庫、休息地と訓練施設が用意されていた。  もちろん、本隊の訓練は自主訓練だけである。  予備軍は訓練をして、教官の目に適えば本隊入りする事が出来る。  育成基地、通称ファームでのテストが行われた時の事。  テストとは入隊テスト。聖ジョージ部隊は外部からも人材を求めていた。  2ヶ月に1回のペースで行われるそれ。  情報部の人間がこれはと言った人間を一度テストしてからの2次試験のようなものだ。  1次目の試験を通る事も難しい上に、公募をしているわけでもない。  しかし、集まってくる人間は大体決まった質と量だった。  今回は通った人間は誰もいない。  前回、通った人間は1人。その前は居なく、更にもうひとつ前は1人。  落第を言い渡された男達に名雪は言う。 「あなた達は帰って」 「なぜです!?」  そこそこの成績を収めている。  他の軍でそれを行えば間違いなく採用だろう。  操縦者としてはそれなりに優秀。しかし、エースになれるかと言えば否だ。 「向いていないから、いやキツイ言葉で言えばあなた達には全く才能が無いよ」 「でも、絶対に! 強くなってみせます!」 「想いだけで強くなれたらどれだけ幸せだろうね?」  歪んだ笑みを浮かべる名雪。  その表情に男達は沈黙した。いや、困惑といったほうが良いのかもしれない。 「……どういう意味ですか?」 「想いだけで強くなれるなんて思わないで、それは傲慢な事だよ」  そういい捨てられて、男達はまたも黙った。  聖・ジョージ部隊の入隊するには2種類ある。  各エリアの軍から優秀な人が引き抜かれる。  ただし、引抜が必ず成功することはない。  初期メンバーであるエリアOとエリアMのメンバーしかこれには該当しなかった。  どのエリアだって優秀な人材を派遣するのは嫌なものだ。  そして、もう一つが、志願して入隊してくる人間だ。  テストを受けていた男達はもちろん後者。その中の一人が口にする。 「牧田さんはどうなのですか!?」 「私に貴方が理解できないように、貴方に美樹さんは理解できないよ」  苛立ちと怒りの色を見せながら名雪は続ける。  知らないくせに口を出すのじゃないっと言いたそうな表情だった。 「美樹さんがどれほどの訓練をして、どれほどの才能を揃え持っていたかも知らないのに軽々しく口にしないで」 「だが……」 「それは美樹さんに対してすごく失礼だよ。美樹さんが命を懸けている理由にも」  そして、怪しげな笑みを浮かべて、続けた。  貴方達には覚悟があるのか確かめようかっという表情に切り替わる。 「それに、あなた達すぐに死ぬよ。そんなに簡単に考えてたら」 「……なんだと!?」 「死ぬのは怖くないって言うの?」 「そうだ!」  男達の声は殆どが同じだ。  死など畏れていない。怖いものではないのだと。  その反応に名雪の笑みはいっそう深まる。  駄目だねっといった蔑みの表情に。 「だったら、自殺でも何でもしなよ」 「はぁ!?」 「私の部隊に死にたがりは必要ないの。恐怖って言うのはね生き残るのに一番必要なんだよね」  じろりと全ての人間に対して威圧の視線を送る。  そこにいた人間が全て黙った。 「恐怖の無い人間ははっきり言って弱いよ。才能無いね」 「でも、命を懸ければ!」 「あなた馬鹿? 自滅覚悟と命を懸ける意味を混同しちゃ駄目だよ。そんなのじゃあ、自滅するだけ」  いい加減うんざりだという表情で名雪は続ける。  しかし、一度付いてしまった火は消える事無く名雪に怒りの視線を送っていた。 「あなた達が考えているほど、この部隊は甘くないの。それこそ、全てを呪い殺すくらいの執念が必要なんだよ?  美樹さんにはそれがあった。そして、彼女は死を恐れている。これがどういうことか解る?  一人でも多くのテロリストを狩り殺す為だよ? 簡単に生きることを放棄するあなた達には絶対にまねが出来ない。  中途半端な意志に、中途半端な死に対する覚悟。強くなる為の才能も努力も無い。  貴方達はただ気を紛らわしたいだけみたいに見えるのは私の気のせい?  それとも死にたいだけなら、自殺でもすれば? 軽く口で復讐とか言うけどそんなに奇麗事じゃないよ。  そのこと理解してる? 理解できてるのかも怪しいよね?  私の部隊には捨て駒なんていらないの。そんな場所を作るほうが非効率だもん。  それほど強い覚悟じゃないんだったら、無駄だよ。帰ってその人達の為に出来る何かを探したほうが有意義だよ」  一気に言い切って、どう? 反論できるっといった表情で全員を見渡す。  それは火に油を注いだだけだったみたいだ。 「この……隊長だか、何か知らないが! Hドールに乗れないくせに!」 「貴方は……オリフィス・Mさん。エリアPにてテロリストに兄を殺された人だよね」  断定口調で名雪は続ける。  言われた人間は何故その事を知っているといいたそうな顔をした。 「家族は元々4人。ただし現在は1人。両親は交通事故で亡くなり、兄はテロリストのテロに巻き込まれた」 「そ、それがどうした」 「貴方の欠点は単独で行動しようとすること、協調性もかけらも無く前に出たがる」  うろたえるその人を放ってそのまま続ける名雪。  他に居た人も同じように静かになっていた。 「銃撃でも、格闘のセンスもそこそこ。ただし、成長の余地は無い。なぜか? 才能が無いから。  視界もあまり広くないし、全方位に気を配れてるわけも無い。センスがそこそこ有るくせに向上心が無いんじゃない?  自分は完璧だと思ってるの? 使い辛いことこの上ないよ。ちなみに弱点は左側面からの攻撃。  基本的に意識が、左側を向いていないんだよね。だから簡単にダメ−ジを貰っちゃうし」  それにっと、指を差して名雪は威圧の視線を送る。  怒りに、侮蔑の入り混じった視線でもあった。 「演習中にそれで一度死亡判定を受けてるけど、命令を無視して行動しているね。  死人が動けると思ってるの? その時点で貴方は私の部隊には要らないの。  私はね、Hドールは操れないけど、貴方達よりも数百倍は物事を考えてるよ」 「だが!」 「ふぅ、良いよ。追加で試験してあげる。私の部隊はNドール1機とHドール2機。貴方達は全員。  ただし、死んでも知らないからね。これで勝てなければ、諦めて帰るんだよ。時間は2時間後」  初めから説得は無理だと思っていた名雪はあっさりと相手の要求を叶える事にした。  これで圧倒的な負けを刻まれれば反論すら出来ないだろう。 「事務官、宵の装備3、サンティアラとヒュント隊員のHドールはCタイプで用意をお願い」  事務官と呼ばれた人間は、すぐに走っていく。  名雪も踵を返して奥へと歩いていった。  残された男達は喜びの声を上げている。  実質2機を相手に、14機が掛かるのだ負けるはずが無いっと。  それにあまり名も知られていないのが操縦者なのだ。負けるはずが無いっと。 「今回はやさしいですな、隊長」 「今回だけだよ。見せしめが伝われば誰もああは、ならなくなるよ」 「しかし、また豪胆なことを」 「私が負けるとでも?」 「いえ。そんな事は微塵も思っていませんとも」  初老の教官の男(以前名雪に拾われた男)は、はっきりとした笑顔を見せながら名雪に頷く。  彼は知っているのだ。名雪がどれほど努力し、どれほどの実力を持っているか。  経験でしか知る事の出来ないものを理解しどれだけ自分のものにしているかを知っている。  間違っている事は間違っていると素直に認めるし、時折相談を持ちかけられる事もある。  その少しずつの交流を経て、絶大の信頼を彼女に持っているのだ。  それらの事は彼女の実績として出ている。 「それで用意とは?」 「うん。サンティアラとヒュント隊員を呼んで」 「これはまた。極端な組み合わせで」 「あれだけ言われて、私もかなりカチンと来ているからね。はっきり言って戦いということを知らな過ぎ」  追試は通過者ゼロだったことは言うまでも無い。  名雪は彼らに確実にトラウマを植え付けていた。  もしかすると、ドールに乗ることすら出来ないかもしれない。  ある者はパイルバンカーの杭が目の前に迫り、ある者は腕がコクピットに入り込んできた。  一撃で頭部を飛ばされたものも居れば、両腕両足を切断されたものも居る。  補足出来た機体はサンティアラの機体のみ。  視界に納められたか? 問われると疑問なのだが。  名雪の宵とヒュントの機体は補足さえも出来なかった。  たかが、Nドール、たかが2機のHドールっと侮った結果でもあった。  ちなみに、名雪の宵とヒュントの機体は無傷であった。 「あなた達、駄目ね。全然ゾクゾクしないもの。テロリスト相手にしてたら簡単に死ぬわよ」 「もっと自分を見詰めなおすべきだ」  サンティアラにそう言われ、ヒュントにも酷評を貰っている。  サンティアラの表情には呆れが、ヒュントの表情には苛立ちが表れていた。  ちなみに、サンティアラは3回前のテストで通った人間だ。 「さ、満足したね? 貴方達は私の部隊には必要ないの。出て行って」  病院に担ぎ込まれた人間以外がまるで何かに取り憑かれたように外に出て行く。  それぞれが実力の差、考えの違い、そして、自らの甘さを痛感していた。  そして、ドールに乗る事に対して確実な恐怖を感じている。  彼らの乗っていた機体は全てスクラップになっていると言っても過言ではなかった。 「お疲れ様。サンティアラ、ヒュント」 「さて、私は美坂隊長に稽古をつけてもらわないと。失礼します」 「いえ、私は訓練に戻ります」 「そう、2人とも無理はしないでね。作戦が近いから」  了解、と2人は返してその場を後にした。  名雪は伸びをしながら、自分の部屋に戻る為に歩き始める。  いつの間にかに、初老の教官が名雪の隣を歩いていた。 「お見事でした」 「全然。まだ駄目だよ。私はまだ成長しないといけないね」 「そうでしょうか?」 「そうなの。それで見所のありそうなのは居た?」 「今回は残念ながら。次のテストに来たとしても無理でしょう」 「そう、残念。今回の結果は情報部に回しておいて」 「わかっています。後、試作装甲のデータと起動データは栞さんに回しておきました」 「ありがとう。あとは、指導に戻ってもらえるかな? β小隊補欠の2人は次に参加してもらうから」 「はい。きっちりと仕上げておきます」 「うん、頼んだよ」  初老の教官と別れて、名雪は自室に戻った。  ちなみに、テストで合格した人間に、裏切り者はいた。 『私がその事を知らないとでも思ったの? 知った上で今回参加させたんだよ?』  しかし、名雪はあえてその人間を作戦に用いて、裏切った瞬間に撃墜した。  それも、名雪が問答して決定的に裏切り者であると隊員に解らせた上で。 『貴方はこの瞬間にテロリストとして、認定されました。自分の選択に後悔すると良いよ』  ものすごく判りやすい形だったのは言うまでも無い。  裏切った瞬間にその人は美樹の手によって一撃でコクピットごと屠られている。  見事にコクピットだけが抉られていた。 『貴方の間違いは、言わなくても解ってるよね? Ωお疲れ様。所定の位置に戻って。まだ作戦は終ってないから』  全員がその事実を知っている。  純白の装甲を身に纏おうと、それが自分の血で染められることがあると。  もし、裏切ればわが身にもそれが起こると。  裏切り者はそれ以来出てこない。  名雪が把握しているだけで2人が元の組織を裏切った。  出るとしたら、よほどの狂信者なのだろう。  誰だってわが身が一番可愛いのだから。  普通なら動揺するはずの部隊が全く動揺できなかった。  感覚が麻痺していたのかもしれないし、恐怖を感じたのかもしれない。  ただ、名雪とて作戦が終った後にアフターケアをちゃんとした。  その人間がいつから部隊を裏切り、どんな目的を持っていたか。  それを嘘偽りなく表示し、やめたいのならやめても良いと言い。  そして、何故あんな事をしたのかをはっきりと言った。  加えて、もし裏切られたまま行動していたらどうなっていたかをはっきりと言った。  だから、部隊がバラバラにならずに済んでいる。  若干やめた人間はいる。しかし初期メンバーは全員残っていた。  では話を元に戻そう。自室に戻った名雪。そこには、美坂姉妹が居る。  ソファーに2人向かい合って座っており、目の前には紅茶のカップが3つ用意されていた。  もちろん一つはからである。 「栞ちゃん、何かあったの?」 「調査結果が出たんです。ヒュントさん達の機体の一つに初期型のCROSSが組み込まれてたのは報告しましたよね?」 「それはしてもらったよ?」  ここで、栞は一言区切る。  冷めかかった紅茶を飲み干してから、静かに言った。 「教官になってもらった人のですけど、解析したら興味深い結果が出てます」 「香里もその話を聞きに来たわけ? サンティアラの相手しなくて良いの?」 「えぇ、私も聞きに来たの。あの子の相手なら高橋さんに押し付けてきたわ」  名雪はそう、と返して栞に先を言うように進めた。  香里も聞く体勢にする為に顔を栞のほうに向けた。 「まず、初期のCROSSと今のCROSSの違いですが、一つにコピーガードの違いが上げられます。  現在のCROSSは操縦主の登録取り消しなども比較的簡単に出来ますが、初期型は出来ません。  加えて、それぞれのドール会社が持っているようなマスターデータがありませんから、初期型の複製は不可能です  現在使われているCROSSとは全く別物と考えてください」 「初期型は初めに登録した人間しか、使用できないし取り消しも出来ないというわけね?」 「はい。それで、一番の違いが感覚のフィードバックがあるみたいなんです」  それでも条件が有るんですけどね、と栞は紅茶を継ぎ足した。  名雪は興味深そうに目を細める。  香里も同じように興味深そうである。 「どういうアルゴリズムなのか、どうして機体を動かせるのかそういった事はまだ解りません。  どういった基準でランク分けされているのかも解っていませんが、ただわかったことが有ります。  ランクが一つだけ多いんです。Mランク、それが一つ多いんです。  それとランクのA以上からようやく働くプログラムがあり、それがどうやら……」 「そういえば以前、祐一がそう表示されていたよね?」  香里はその名雪の言った一つのキーワードに眉をひそめた。  そして、内心では過剰な反応だと苦笑している。  話の腰を折られた栞は紅茶に口を付ける。もっとも、気にした風には見えないが。 「ごめん、話を続けて」 「感覚が有る無しの違いは結構大きいですよね? そうですよね? お姉ちゃん?」 「えぇ、大きいわね。同時に危ういわ」  いきなり話を振られた香里は少し戸惑いながら返事をした。  通常、香里たちが感じる感覚。  例えば、香里がドールに乗った状態でドールの手を壁に押し付けてみる。  すると、トレーサーがある一点から先に動かなくなる。  手のひらに感覚が有るのではなく、トレーサーの違和感からそこに壁があると感じるのだ。  感覚があるのならば、手のひらの感覚でそこに壁があるのだとわかる。  この違いは小さいようで大きい。  コンマ数秒の違いだろうが、次の行動に移るまでの時間が短縮できる。  一つ一つの動作でそれが重なっていくのだ。どれだけ違うかは実際に戦えば違ってくるだろう。  技術に差のある相手同士なら何も問題にはならない。  ただ、技術が拮抗している相手同士ならこれが違いとなって出てくる。 「以前、祐一さんがあれだけ青痣を作ったのはどうやらこのせいだったと思うんです」 「それで、祐一はそれを知りつつ、あの機体を使っているというの?」 「多分、使っていると思います。だって祐一さんですよ?」  祐一だから、その一言で納得するのもどうかと思うが。  しかし、納得の出来るものであると言わざるおえない。 「それで、その機能は移植できる?」 「無理です。それなら登録されてない初期型探したほうが早いですね」 「技術的に無理なの?」 「名雪さんにはどう感じられるかわかりませんけど、あれは作った本人ですら解ら無いでしょうね」 「栞、どういうこと?」  栞の訳のわからない言い方に香里が堪らずに口を開く。  名雪は思案顔で紅茶を飲んでいた。 「プログラミング言語は沢山有ります。ドールを動かしている部分はどの言語にも合致しないんです」 「未知の言語って事?」 「表示すら巧くされないものを解析も何も出来ないんですよ……  私達は音で意志の疎通をしますけど、全く違う意志の疎通方法を目の前に途方にくれているような感じです。  全く機材もなく解析も出来ない状態で、です。例を挙げると、こんな感じですか?」 「はぁ。じゃあ、情報部に回収の依頼をしておこうかな?」  名雪が紅茶を飲み干して、溜息と共に吐かれたそれは空気に溶けていく。  栞は立ち上がって、礼をした。 「私の本職はドールの設計整備ですから。今日のデータは大切にして改良を重ねていきます」 「うん、頼んだよ」 「じゃあ、私はそうね。隊員2人の様子を見てから訓練に戻るわ」 「香里もほどほどにね。作戦が近いから」 「解っているわ」  2人は同時に部屋を出てく。  名雪は何もせずに座っているわけではない。  書類を新たに出して、そのチェックをものすごい勢いでこなしていった。
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     深夜。そういっても良い時間帯。  香里は昼間に行った自主訓練のせいで眠れなかった。  心地よい興奮がまだ体を包んでいる。 「あら? 月宮さん。珍しいわね、こっちに居るなんて」 「あれ? 香里さんだってこの時間に居るの珍しいんじゃないの?」 「そうね、ちょっと訓練が充実して眠れないの。それはお仕事?」  あゆの持つ書類を指差して香里は言った。  それにちょっと恥ずかしそうな顔をするあゆ。 「そう、僕もようやく小隊を指揮、出来る様になったんだ」 「そうなの? 凄いじゃない。おめでとう」 「ありがとう香里さん」  あゆはドール部隊には所属こそしていないが、同じ聖ジョージ部隊の所属である。  香里はドール部隊の所属、あゆは情報部の所属。  特にあゆは、工作部隊で自分の才能を発揮していた。  見た目とは裏腹に、的確な指示とそれを裏打ちするだけの経験を持っている。  だから、異例の若さで小隊を持てるようになっていた。  実力が全ての世界だからこそ、の快挙なのは言うまでもなかい。 「そういう香里さんこそ、聞いたよ? 小隊長だって」 「名雪の贔屓よ。私よりも強い人達がごろごろしているところだし」 「うん……そう言うならそういう事にしておくよ。ア……ごめん、これから夜間訓練があるから!」 「そう、頑張ってね」 「じゃあ、またね!」  あゆはそう言って、走り去る。  香里は疲労で少し重たくなっている体を適度に動かそうと散歩をする事に決めた。  中途半端な疲労と心地よい興奮のせいで眠れない為だ。  作戦が始まる2日前から五月蝿くなる。  その作戦が近いとはいえ、まだ日数が1週間くらいあった。  だから、この時間はまだ静かなものだ。 「ふぁ……ようやく眠気が降りてきてくれたわね」  小さくあくびをして、香里は軽く頭を振った。  今晩は良く眠れそうねと呟く。  そして、部屋に戻ろうとしてある部屋の明かりに気がついた。 「全く、遠くまで歩きに来たものね」  軽く苦笑しながら、香里はその部屋に向かった。  少し開いた扉からは中の明かりが漏れてきている。  扉を開けて中を見ながら、香里はノックをした。 「頑張ってるわね。名雪」 「うん、今日中に終らせないといけない仕事がね……有るから」  音に気がついたが、名雪はそのまま仕事を続けた。  香里もいつもの事だから、気にはしない。  よほど用があるときにしか名雪は顔を上げない。  それは香里も承知していること。 「今日中? もう日付が変ってるわよ?」 「だから、今日中にだよ」  香里は呆れ果てるのと同時に、少しばかりの心配をする。  以前ならば絶対に考えられない名雪の行動のしかただからだ。  その以前がずいぶん前なのだか、気になることは聞いておこうと言った感じで続ける。 「名雪、ちゃんと眠ってるの?」 「心配してくれるの? 大丈夫。睡眠時間だけならちゃんと取ってるから」 「睡眠時間は?」  その一言が引っかかり、香里は眉を寄せる。  次に言われた名雪の言葉でとりあえず納得する事にした。 「一日をちゃんと計算して7時間は取ってるよ。仕事の間とかに寝てるしね」 「名雪が良いのなら文句は言わないわ」 「それに、どうでも良い仕事は眠ってる間に小人さんが手伝ってくれてるみたいだし……」 「名雪……それはどうかと思うわよ?」  親友。名雪と香里はそういえる関係だ。  ほぼ同じ目的と行動理念を持っているといえばそうだろう。  しかし、以前と違い苛烈なものを表に持ってくる名雪に香里は少し溜息を吐いた。  秋子には無い物。そして、以前の祐一が居る頃の名雪には欠片すらなかったものだった。  頭の中に祐一と言う単語が出てきたのか、香里は寄せた眉の溝を更に深める。  そして、軽く頭を振って苦笑する。  やはり過剰な反応だと。 「名雪が何をしようと私は文句は言わないわ」 「ありがと。香里にそういわれると心強いよ」 「でも、体調の管理とかはしっかりしなさい。この隊は貴女が要なんだから」 「うん、心配してくれてありがとう」 「ほどほどにしておきなさいよ。と言っても聞かないでしょうけど」 「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」 「そう……私は寝るわ」 「お休み、良い夢を」 「繰り返すけど、ほどほどにしておきなさい」  香里は踵を返して、部屋に戻る。  香里と名雪の会話は一切、視線のやり取りが無かった。 To the next stage

     あとがき  えーあまり人気の無いですが、とりあえず名雪さん達の日常? です。  なんともコメントし辛いですが、話自体が殺伐としてます。でも書いてて楽しいのは何故だ……  メンバーがメンバーだけにほのぼのとか書きにくいんですよね。  うーん……難しいなぁ……ほのぼのを書くには人がねぇ?  頼みの綱はあっちにいってしまいましたし。  ともかく頑張りますので、ここまで読んでいただいてありがとうございます。ゆーろでした。


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。
     まぁ確かに私もコメントし辛いです。(苦笑  名雪は順調に成長してますね。  人間の根幹が確実に変質しているようですが。  好かれる上司ではないでしょうが、良い上司であるのは間違い無さそうです。
     香里は小隊長ですか?  地位と台詞がなんだか違和感が……。  大抵小隊って部隊内では最小規模では?(3人とか  彼女が他のパイロットを差し置いて、って感じみたいですがどうにも合わないような。


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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