さて。
 私は、彼を、厳しく、叱る事が  僕は、君を、愛しく、支える事が  俺は、きみを、優しく、救う事が  自分は、彼方を、強く、求める事が  あたしは、貴方を、心強く、癒す事が  わたくしは、彼女を、激しく、包み込む事が
出来るのでしょうか? それとも、 出来ないのでしょうか? 一体。

私は、何を、話したいのか  僕は、それを、触れたいのか  俺は、これを、感じたいのか  自分は、あれを、聴きたいのか  あたしは、どれを、視たいのか  わたくしは、何処を、どうしたいのか 

解っているのでしょうか? それとも 解っていないのでしょうか?
 私の声は、彼に、届くのでしょうか?

 それとも、届かないのでしょうか? 

 僕の思いは、君に、伝わるのでしょうか?

 それとも、伝わらないのでしょうか? 

 俺の気持ちは、きみに、解ってもらえるのでしょうか?

 それとも、解ってもらえないのでしょうか? 

 自分の姿は、彼方に、見てもらえるのでしょうか?

 それもと、見てもらえないのでしょうか? 

 あたしの事は、貴方に、包み込んでもらえるのでしょうか?

 それとも、包み込んでもらえないのでしょうか? 

 わたくしの存在は、彼女に、認めてもらえるのでしょうか?

 それとも、認めてもらえないのでしょうか? 

でも、お父さんとお母さん達は何も言わずに、私達を包み込んでくれるんです。 私達にこんな日が来るとは思っていなかった。 みんなが優しくて、みんなが嬉しくて。 こんなに世界が輝いて見えて穏やかな場所が有るなんて。 私達は知らなかった……
 
神の居ないこの世界で−A5編−


→After 5 years の始まる半年前のお話・街に人が来た日

     久瀬圭一が復興している街。アイビー。  その街の元の住人と、保護された子供達の相性は始めこそあまり良好ではなかった。  ただ、お互い失ったもの同士。何か惹かれあうものがあったのだと思う。  もと居た住民達が失ったものは大切な絆や親兄弟、子供達。  保護された子供達が失ったのは与えられるはずの愛情と家族。  子供達が外に目を向けて自分のしてきた事を理解し始めれば後は早かった。  彼ら、彼女らはその罪に怯え、その大きさにうろたえた。  初めは同情だったかもしれない。だが、そこから彼らは急速に近づいていく。  話は変るが、たかが個人たかが一自治体に、ここまでスポンサーがつくことは珍しい。  祐一だからと言う無条件で、これほど設備を投資してもらえたわけでもなかった。  祐一はそれぞれのスポンサー会社にそれ相応の対価を払っている。  kanonには相沢海運とのパイプ、YAタイプに使われている水素エンジン制御の概要を。  ONEにはYAタイプに使われている特殊機構の関節構造を。  AirにはYAタイプに使われている特殊装甲の仕組みを。  相沢海運にはドール戦略、戦術のノウハウを。  それぞれ対価として支払っている。  加えて、圭一の独自の自治権と手腕がなければ、ここまでの援助ももらえなかっただろう。  では、アイビーが現在どうなっているかを簡単に説明しよう。  ドールメーカー3社の共同試験場としての側面を持ち、現在は高き城壁のようなものに取り囲まれている。  データの流出を防ぐ為と元居た住人にいらぬ恐怖を抱かせぬ為に。  確かに息苦しく感じてしまう側面も有るが、それよりも安心感のほうが大きい。  長である圭一が独自の自治権を持つ事から、独立まではしていないものの一種の国を形成しているようなものだった。  だが、エリアと敵対しているわけでもなく話し合いにはちゃんと応じている。  食料は完全な自給自足の体勢が整っていた。  電力に水などのインフラも急速に整えられ今では電力は他に売り出すほどの余剰がある。  加えて、外貨もドールの研究を協力する事で入ってきていた。  もっとも、武器を持っていない戦闘用ではない機体の研究。  もしくはCROSSの仕組みの研究解明しか街の住人は手伝いはしないが。  それでは街に住む、訪れるそれぞれの人の生活を見ていこう。
    通称、聖センセ
     聖先生の朝はそれなりに早い。  薬や包帯等の残量チェックと医療雑誌を読む事から一日が始まる。  しかし、仕事として多い時と少ない時がある。  今の時期は少ない時期だ。  多くなるのは、やはり、祐一が子供を保護してきたときだろう。  酷い時は1ヶ月近く付きっ切りになるが、それが済めば定期的な診察でよくなる。  時折船医として、街を不在にするものの住人は健康そのものの人が多い。  相談には乗るが、軽く背中を押してあげれば大体が解決してしまう。  加えて多少の怪我ならば、住民自身で解決が出来る事ばかりだった。  基本的に対処できる事は決まっているし、よほど手に負えない事は遠くの大病院にいくことになっている。   「さて、このまま右手は当分の間使わないことだ」 「えぇ〜?」 「あのな。右腕を骨折しているのだから、骨がくっ付くまでの我慢だ。さ、友達が待っているのだろう?」 「うん……ありがとうセンセ」  聖の目の前に居たのは、10、11才位の子供。  子供はギプスのはめられた右腕を庇いながら診療所から出て行った。  外から、大丈夫か? とかそういった感じの子供達の騒ぎ声が聞こえる。  そして、聖はその子の里親に向かい合った。 「さて、何かまだ有りますか?」 「いいえ。でも、あの子もよくやんちゃをするようになりました」 「行き過ぎは良くないですが、あの子達にはあの位が良いのかもしれません」 「えぇ、そうかもしれませんね」  儚そうな笑みが一瞬だが浮かび、その上から嬉しそうな笑みに取って代わった。  絶望だけをしているわけではない。  そんな強さを感じさせる微笑だった。   「私の夫も、ようやくあの子達と向かい合えるようになれたんです」 「しっかりと何かあったら叱ってあげて下さい。元々は真っ直ぐな子達です」 「えぇ、失ったもの同士。仲良くしていきます」  とりあえずの注意と、無茶をするようだったら釘を刺すように里親に言った。  母親はありがとうございますと言って出て行く。  この際、お金は取っていなかった。  もっとも、給料などは歩合ではなくて定給という契約。  それに、設備は全て街が持ってくれているのだから、文句など無いであろう。 「ふむ、今日も良い天気だ」  聖は軽く伸びをしてから、立ち上がる。  そして、扉に喫茶店に居ますという札をかけて扉を閉める。  鍵を閉めないのは中のものを自由に使って良いからだ。  ただし、使ったのなら聖に報告する義務がある。  医療品の棚には使用ノートが置いてあるのでそれに記入する必要があった。  加えて薬品は使えないように部屋を別の場所にしてそこはしっかりと施錠してある。  こんな感じで、仕事の少ない日はのんびりとした日を暮らしていた。
    通称、代表夫妻
     久瀬本宅の地下。  そこでは、一人の男の子がコンピュータを相手に何かしていた。  久瀬夫妻もそれぞれ、同じ場所で仕事をしている。  今の時期はデータベースの構築に忙しくなっている為に夫婦は一日の殆どを地下ですごす。  もっとも、これが終れば地下での生活は少なくなるのだろうが。   「あ、ファイここに居たんだ。探したんだよ?」 「メルファ……今、仕事中」  明るく強い声。その後に恐ろしくか細い声で返事が聞こえる。  彼が首筋に刺している大き目のピンジャックは異質。  それ以外に何かおかしなことが有るとしたら、キーボードを叩く速度が異様に速いことだろうか。  しかし、彼には仕事以外にも意識を避ける余裕はあるみたいだ。  メルファとファイ、2人は以前祐一が保護した子供である。  メルファは、ドールを操るデバイスとしてドールに文字通り埋め込まれていた女の子。  ファイはメルファを遠距離から情報戦で援護する為に機械につながれていた男の子だ。  ファイは筋肉の衰えが酷く、声帯も錆付いたかのように声が出しにくい。  今ようやく、声が出せるようになり、体も生活に問題が無いくらいに戻ってきていた。  ただし、激しい運動はまだ出来ない。出来るとしたら、10分ジョギング程度だ。  メルファは、運動には問題ないが精神的に大きな傷を負っている。  そのために、2人は平定者の船に居る事が多いのだが、祐一達が街に来る時に一緒に来るのが約束になっていた。  今回は圭一がファイに頼みたい事があって呼んだと言うのが正確だが。  メルファに気がついた圭一が笑いながら手を振った。 「ファイ君。行って来て下さい。相沢君に私が怒られてしまう」 「………………後、少」 「皇子、昼食の用意を。もうそろそろお昼ですから」 「はい、圭一さん」 「ねぇねぇ。何を作ってるの?」 「侵入、撃退罠」  今、ファイが作っているのは既存のファイアーウォールの内側に新たなものを作っていた。  通常ならばアクセス出来なくする、ウィルスの侵入を防ぐものだが、これは違う。  不正にアクセスした者のPCをそれごと、ソフト的に破壊するものだった。  ただ、メルファにはただの文字の羅列にしか見えない。  この場で辛うじて解るのは圭一くらいだろう。  そのファイがパンとキーボードから手を離してピンを首から引き抜く。  そして、そのケーブルをまとめ始めた。 「出来……良」 「じゃあ、いこ。お父さん達がもうそろそろ来るんだって」 「行」 「あぁ、行ってくると良いです。相沢君も用が無いようなら来る様に言ってください」 「解ったよ。代表!」  2人はそのまま出て行く。  久瀬夫妻の甘い空気を感じて避難したというのが正確なところかもしれない。  一度巻き込まれた人間は大抵を回避しようと、努力をする。  メルファとファイの2人もその一部だ。  独特の甘甘な空間はすでに街の名物となりつつある。  街の人に言わせれば、目指せ代表の甘甘ぶりらしい。  それはそれでどうかと思うが。
    通称、北川さん、マスター
     街唯一の喫茶店、『Polar bear』。  愛くるしい感じの白熊がなぜかジョッキを片手に酔っ払ったような看板の店。  第一印象だけで言えば、喫茶店じゃないだろう。居酒屋のような看板だった。  カランとなるドアベル。 「おーい、帰ってきたぞー」 「あ、お帰りなさい。じゃあ今日の授業はここまでにしよっか」  ちょうど正午を過ぎた頃。亭主である北川が帰ってきた。  それに答えるのは微笑む瑠奈。なぜか学校のような事をしている。  午前中は街の住人の殆どが仕事をしているのだから喫茶店の仕事が無い。  そこに子供達が集まってきて、何故かこういった感じになってしまった。  親達もそれに関しては歓迎しているような雰囲気。  正式な先生が居ないが、それを補って余るほど優秀な先生が瑠奈のほかに2人居るので問題ないのかもしれない。  それは聖と茜だ。聖は人が居ない時はこの喫茶店によく来ていた。  診療所とも近所であるし、午前中は子供達の溜まり場になっているのだからよく来る。  茜は仕事の無いときによく来ていた。  瑠奈と顔見知りである事から、話が合うこともある。  2人も瑠奈と一緒になって、よく子供達の先生役をしている。  北川は午前中は食料関係の畑や牧場の世話を。  そして、午後は喫茶店のマスター兼ウェイターをしている。  シェフはもちろん瑠奈である。ちなみに評判はかなり良い。  ただ、夜は居酒屋になってしまうのだが。  ちなみに、マスターと呼ばれるのは瑠奈である。  潤の方は人によっては下の名前を呼ばれたり苗字だったりと安定していない。   「先生、さようなら!」 「また明日ね!」 「えぇ、また明日」  元気な声を残して子供達が走って家に帰る。  今の時間帯は大抵の家に親が帰って昼食を作っているだろう。  本来なら、喫茶店の経営だけだったのだが、これはこれで良いんだと北川夫妻は口をそろえる。  潤はよほどの有事が無い限り、ドールには乗らないし、仕事ものんびりしている。  給料は潤が畑や牧場などの仕事と、有事の際のパイロットとしての給料を貰っている。  それだけで十分生活できるだけの給料を貰っていた。  瑠奈は、喫茶店の売り上げを給料としているがそれもかなりの売り上げである。  街にここしか、甘味所も兼ねた食事をする場所が無いのだから、それもしょうがない。  夕方から忙しいとは違うが常にお客は入ってくる。誰も来ない日が珍しいくらいだ。  また、からん、とドアベルが鳴る。 「マスター、食べに来たよ」 「いらっしゃい」  食べに来たのは1組の家族だった。  時折、お昼に食べに来る街の人たち。  街の人との交流も北川夫妻を満足させる一因だ。
    通称、里村さん
     街を取り囲む、城壁の内側。それは研究施設になっていた。  大げさな研究施設ではなく、実際にやっているのはCROSSの解析だ。  研究も本職の人が少ないのが現状。  茜が音頭を取って、解析を行っていた。  簡単で地味な作業だからこそ出来る事もある。  こつこつと結果を調べて行く事は、地味だが尊重される事だった。 「さて、もうお昼です。今の作業は午後にしましょう」  ぱんぱん、と手を叩いて午前の作業をおしまいと言う茜。  働いている人はそれぞれ、終わったと言う顔で家へと帰って行く。  顔にはそれぞれ、ようやく終わったと言う安堵の表情。  帰ってからどうするかと言う困ったような笑みが占めている割合が高い。  彼らは帰ってからは子供達とお昼を食べるのであろう。  こういう所は、圭一の指示により徹底されている。  仕事よりも家族。傷はまだ癒えていないのだから、が圭一の口癖だ。  ちなみに今、動いている企画はCROSSを動かしているデータを抽出してデータをカードにする。  そのカードでCROSSを仮想的に動かせないかと言う事。  ほかには、Hドールをもっと平和的に使えないか。  それを今は研究している。 「ん……今日も後半分ですね」  軽く伸びをしながら茜は自分の鞄に手をかけた。  彼女はいつもなら、Polar bearで食事を取る。  もっとも、昼食だけではあるが。しかし、今日は違う。  嬉しそうに鞄の中から、お弁当を取り出した。  鼻歌を歌うのはちょっと彼女のイメージにはあわないかもしれない。  今の時期、祐一が街に滞在している時にお弁当を作ってもらうのが彼女の日課だった。  祐一がうっかり、仕事を忘れてしまったときに約束をしてもらったものである。  お弁当を包む袋は地味なものだが、茜には関係ない。  紐を解いて、嬉しそうにお弁当箱を取り出した。 「……それでは頂きます」  開いたお弁当。愛妻(愛夫)弁当を嬉しそうに頬張る茜。  ちょっとした楽しみであった。  ただ、一人でニヤニヤしながら食べるお弁当は不気味なものがあるのだが。
    通称、みし姉、まこ姉
     2人が街に居る事は珍しくはないが、毎日いると言うわけでもない。  顔は覚えられており、色々と小さい子に人気が有った。真琴は。  美汐は感謝されているものの、敬遠される傾向にある。  雰囲気が固いせいもある、子供達はそういうものに敏感なのだからしょうがない。  嫌われているわけではないが、積極的に囲まれるわけでもない。  話しかければちゃんと相手をする美汐。ちょっと傷ついていたりもする。  だが、当然のことながら顔には出さない。  今日はkanonからの機材の搬入で来ていた2人。  毎回、平定者関係の仕事でこの街に来ているわけでもない。 「まこ姉!」 「みし姉!」  2人が仕事を後一息で終わると言う時にアリアとサラサの2人が現れる。  美汐と真琴が2人を引き取っていた。  現在2人は平定者の船の中に住居を定めている。  正確には美汐と真琴のマンションなのだが、それよりも船の中での生活の方が長い。  彼女らのマンションは既に物置と化している。  初めこそ、険悪な関係だったがとある切欠から今の状況に至った。  だから、行動する時は一緒と言う感じで仕事が終るのを見計らってきていた2人。 「あと少しで終りますから。待っていてください」 「あぅ……待ってて」  早く仕事が終って欲しい真琴は微妙にしょんぼりしながら仕事を続ける。  搬入自体は終っているのだが、こまごまとした部品のチェックが終っていない。 「「終ったら、Polar bearに行こう!」」  アリアとサラサが寸分違わない言葉を言って顔を見合わせた。  最近2人には違いが現れ始めている。  活発で意地っ張りで寂しがり屋のアリア。  同じく活発であるが、あらゆる意味で涙腺の緩いサラサ。  本能的な直感はアリアの方が鋭いが、いまいち計算高くない。  サラサは無意識かもしれないが行動一つ一つが計算されている節がある。  そんな2人の仲は良いが、譲れない線と言うものがあるらしい。  見合わせたまま、じりじりと睨み合いに移行する2人。 「先に言ったのはアリアだからね」  ふふん、と鼻を鳴らし勝ち誇ったような笑みを浮かべるアリア。  その姿が何となく悪戯を成功させた時の真琴に重なる。  一方、サラサは泣きそうな感じでアリアを睨みつける。 「ち、違うもん! 殆ど同時だったもん!」 「じゃあ、何で泣きそうなわけ?」 「う」 「う?」 「うぅぅ……」  ついにサラサの涙がこぼれた。  なんと言うか、涙腺が緩いだけで本気で泣いているわけではない。  ただ、体質的にそうなのだろう。しかし、それがサラサの武器になる。 「さて、終りました」 「あぅ〜……ようやく終った……」 「お互い、お疲れ様ですね、真琴。ではPolar bearに……」  そんな2人の言い争いに終止符を打ったのは仕事を終らせた美汐だった。  アリアは異変を察知してそちらを向く。  空気が冷たい。本気で怒っているわけではないが現場が不味かった。  目の前で涙を流しているサラサに勝ち誇っていたのだから。 「あ、あのね、これはね」 「グス……行こう?」 「やれやれです。喧嘩は駄目ですよ」 「よかった、美汐が怒らなくて……」  サラサが、美汐の手をとって歩き始めた為にその場は何とか収まった。  美汐の説教は長い事で有名。説教してくれているうちはまだ良いのだが。  段階があり、説教しても無駄だと思うとその先の段階に進む。  まだ、誰もその段階を見たことはない。いや正確には見たくない。 「まこ姉……助かった……」 「アリア、サラサを泣かせちゃ駄目」  彼女達は良い姉妹をしている。  絶妙なバランスを保っていた。  アリアと真琴が手を繋いで、走り出す。  先に歩いている美汐と手を繋いで歩いているサラサに追いつくために。
    通称、佐祐理さん、舞さん
     さて、この街で知らない人はいないと言うほどの有名人。  この街の一番のスポンサーであり、一番の協力者である佐祐理。  その佐祐理に常に従って歩く舞。  時折話しかける人はいるが、なかなか話しかけようとはしない。  なんて話しかけて良いのか判らないのが現状なのだろう。  身分が違うわけではないが、話しにくい雰囲気があるのはしょうがないだろう。  会社のトップの人間だと知っているのだから、気後れするなと言う方が無理である。  しかし、街の人はみな感謝はしていた。  その2人は目的地についてその家のインターフォンを押す。  その場所とは久瀬邸だった。 「久瀬代表は居ますか?」 『……倉田さん』  中から暗い声をした女性の声がしてきた。  正確には暗いのではなくて、警戒したような声。  判断のしどころが難しい。  街の代表である、圭一の妻である皇子の声。  佐祐理は苦笑を浮かべて、舞に目を合わせる。  舞も似たような苦笑を浮かべていた。  何故だか知らないが、皇子は2人に対して苦手意識を持っているようだ。  2人にはそんな苦手意識はなく、向こうが勝手に持っていると理解している。 「大丈夫ですよ、私にはもう心に決めた人が居ますから」 『そ、そんな事は当然です!』  くすくすと笑いながら佐祐理が言う。舞も笑いを堪えていた。  そんなやり取りをしてから、扉から皇子が顔を出す。  舞が、素早く佐祐理に鞄から取り出した書類の束を手渡した。 「今回はこれとこれとこれを久瀬代表に渡してください」 「……佐祐理、忘れ物」 「ありがと、舞。では最後にこれもお願いします」 「はい、責任持って手渡します」  それらを全て受け取って確認を取り、皇子はちゃんと礼を言う。  この街がここまで復興したのも佐祐理がしっかりとした支援をしてくれているからである。  もっとも、それだけではないのだが。  もし佐祐理が支援していなかったらここまで急速に復興はしていないのも事実。  書類の束に佐祐理は目をやりつつ、皇子に注文をつけた。 「今回はすり合わせとかも必要ないですからね。ですから拗ねないでください」 「倉田さん! そ、そんな事!」 「……柳の惚けは体に猛毒」 「か、川澄さんまで! それに私は柳じゃもうありません! 久瀬皇子です!!」 「……え?」 「それに猛毒って何ですか!? それにえって!?」  そうなのと言う顔をしてから、ア、そういえばという顔になる舞。  確信犯と限定しづらい顔だった。しかし隣の佐祐理は確信犯だと確信している。  そして、微妙に笑った顔でポツリと言う。 「……ごめん、わざと」 「〜〜〜〜〜〜〜!!」  顔を真っ赤にして、声にならない声を上げる皇子。  苦手意識に圭一が取られる事を警戒する事に取って代わって最近ではからかわれる事が前面に出てきていた。  事あるごとに、何かしらでからかわれる。  悪意があるわけでもないし、圭一を奪うわけでもない。  やっかみみたいな感情もなければ、複雑な裏も無い。  だが、それはそれで厄介なのだ。100%善意と言うわけでもないのだから。  それにあの惚気空間で唯一、久瀬夫婦に対抗できるのが2人なのだ。  街の人はからかうだけの気力も無い。  こういった場面に出会った街の人は面白おかしそうに彼女達の姦しいお話を聞くのだ。  ある意味、イベントと化している。  玄関先でそんな事をしている柳を迎えに来た圭一も一緒になってからかわれるのはまぁ、お約束だろう。
    通称、お父さん、お母さん、秋弦ちゃん
     秋弦はいつもの位置で、秋子は祐一と手を繋ぎながら街を歩いていた。  久しぶりの休暇もかねて、街を散策している。  秋弦は先ほどまで騒いでいたが、疲れたのか祐一の頭をがっしりと掴んで寝ていた。 「皆さん元気ですね」 「うん……本当に嬉しいよ」  街に居る時の休暇の日課である保護した子供達の笑顔を見て回る事が終った後の会話だった。  優しい空気が流れている。  保護した子供達には高い確率で秋子がお母さん。  そして祐一がお父さんと呼ばれる。  その呼び方に慣れなかった頃の祐一は俺ってそんなにふけ顔なのかと悩んだのは祐一だけの秘密だ。  遠くから、子供達の生活を見るだけ。彼らから祐一たちに接触しない限りはすぐに他の場所に行ってしまう。  それだけだが、祐一には。そして、秋子には嬉しい事だった。  今もまた手を繋いだ親子がとおくで子供が手を振り、親が頭を下げている。  祐一は手を振り替えして、秋子は頭を下げた。  今、祐一が頭を下げたら秋弦が落下すると言う配慮の上での行動である。  街の人と積極的な交流はないが、子供達からはよく手紙が来る。  それも、祐一と秋子には嬉しい事だ。  ちゃんとそれらを保存して、返事もしっかり書いている。 「本当に、よかったですね」 「うん……本当に」  微妙に涙ぐんでいる祐一。  いつもそうだ、見回って子供達一人一人を見るまで不安そうな顔をする。  その笑顔を見て、胸をなでおろしそして、全員を確認を終えてよかったと涙を流そうとする。  秋子はその涙のわけを知っているから、何も言わない。  ただ、言葉は少なくとも祐一が祐一で居られる為に隣に居るだけだ。  ゆっくりと街を歩きながら、ゆっくりと自分がしてきた事を噛みしめる。  そして、次に繋げる為に気力を養うのだった。 To the next stage

     あとがき  今回は街にスポットを当てて色々な人に対する反応を書いてみました。  祐一君達が少ないのは……あれです。SSSで活躍しているせいです。  加えて、それぞれ全員を書くつもりは無かったのですが、  途中から全員書いたほうが良いかなぁと言う観念にとらわれまして……今はちょっと後悔してみたり。  さて、ここでweb拍手のお返事をしようかと。  どこですれば良いかと思ってここですれば良いじゃないと思いつきました。  以前コメントをくれた人には申し訳ないですが、残っていないので……今、残っているもののみをお返事します。  本当に申し訳ないです。では以下からお返事です。 >「相沢秋弦・成長記」秋弦は生まれた時からファザコンですか。それにしても祐一はモテモテです。 > ほかにも浩平達ONEの人達の反応や往人達AIRの人達の反応も見たいです!  4/13  祐一君がもてもてなのは仕様です(笑  下のメッセージに関してはSSSで鋭意瀬作中ですので。頑張ります。 >相沢秋弦を見たほかの人たちの反応も見てみたいです! 4/15  多分上のメッセージと同じ人なのかな?  でも違う日だったので、もし間違っていたらごめんなさい。  ちなみに、上と同じと捉えているので製作中です。 >うあーSSS目当てに拍手したけど、いいなぁ、すばらしい。本気ですばらしいです。頑張ってください。 4/17  えぇ、頑張ります。こういった感想系はめったに貰わないので嬉しいですよ。  本当に感想が欲しいなぁって思う時期がありましたから。がんばりますね!  最近は銀さんからしかもらわなくて。こういう一言でも本当に嬉しいです。  もちろん拍手だけでも嬉しいですよ。 >SSSもA5 7話もよかった。次も期待してます。By青空 >拍手内のSSもいい。 >この成長期、救った子供達などを周辺の人たちと共に見たい。By青空  4/18  青空さん。期待していただいて本当にありがとうございます。  できる限り裏切らないように頑張りますね!  今までのリクエストを聞く限り、受付嬢から、成長期にシフトした方がよさそうですね。  保護した子供(名前あり)を交えて今度から書いて行きます。 >面白いっス、面白いっスよ。……なんとなく二回言ってみました。 4/19  二回も言って頂いてありがとうございます。期待に沿えるように努力しますね。  はい、以上です。もっと早くやってたほうがよかったかなって思います。  では頑張りますね! ゆーろでした。


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。
     癒されるなぁ。  特に前話見た後だと余計にね。(笑  なにやら事が始まる半年前ですか。  街の皆さんは幸福を感じている様子。  元に戻す事は出来ないけど、新しく始める事は出来たみたいですね。
     アリアやサラサが美汐と和解してました。  切欠となった出来事とか書かれるのかな?(無いと拙いでしょうけど  茜はしっかりとポジションゲットしているようで微笑ましかった。  ちゃんと祐一の妻の座をモノにしていたみたいですね。  そこに至る過程も気になるところですが。

     この話と同じくSSSの3話目も掲載したので、まだ見ていない人はチェック。


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

     感想はBBSかメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)