正義を求めるなら、この部隊から出ていけ。 この部隊には正義は無いし、名乗るつもりもない。 我々の脅威となるのは、純粋な戦力のみ。 我々の敵となるのも、純粋な戦力のみ。 半端な気持ちでこの部隊を名乗ろうとするな。 死にたい奴もこの部隊から出ていけ。 この部隊には、死にたがりは必要ないし、必要とも思わない。 我々の敵は、自らの甘え。 我々の的は、全ての戦力。 半端な実力でこの部隊に入ろうとするな。 この部隊には正義も無ければ、名誉も無い。 ただ、ヘドロのように醜い汚れ役と修羅界を思わせる戦場が代わりに与えられる。 それに耐えれる覚悟が無ければ、部隊に入ろうと思うな。 イニシエの聖人が人の脅威であったドラゴンを狩っていったように。 我々は、我々の脅威となる全てを狩っていく。 イニシエに有った栄誉や栄光、名誉は無い。 我々に与えられるのは怨嗟の声と憎悪、そして、畏怖の感情のみ。 世界で最も嫌われ、世界で最も畏れられる部隊。 我らは、聖ジョージ部隊。
 
神の居ないこの世界で−A5編−


→五年後の物語の始まり。私の日常。あなたの日常。聖ジョージ部隊の日常

     世界中で発生するドールテロに対抗するために作られたカウンターテロ部隊。  それを聖ジョージ部隊という。  有事の際、いや危険な思想を持つ団体がドールなどの兵器を持ったときに先制的に攻撃する権限を持つ部隊だ。  その部隊に攻撃されたという事、イコールそれが危険だと判断されたということである。  テロリストとして、活動しうるものだと判断されたのだ。  それは世界政府の直属とされ、絶対の権限と畏怖を持たれている。  表の社会ではそんなに有名ではないが、裏の社会で知らないといったらもぐりも良いところである。  不気味な存在である平定者と並んで、恐れられていた。  今は、とある片田舎。片田舎と言っても都市部から1時間とはなれていない場所であるが。  その一角に有るとあるビルの前でその聖ジョージ部隊の隊長がにこやかに挨拶をしていた。 「はじめまして。聖ジョージ部隊、隊長」  おっと間違えたという表情で、その隊長は微笑む。  その後ろにはボディガードらしき黒服の3人組がいた。 「いえ、こう言ったほうが解りやすいでしょうね。断罪者、水瀬名雪です」  突然現れた人物に声もでないそのビルの持ち主の男。  しかし、慌てたように笑顔を浮かべた。  断罪者、この名前は何処から来たか。いつごろから呼ばれだしたのか解らない。  稀有な戦術家で未だに無敗を誇る水瀬名雪に与えられた通り名のようなものだ。  断罪者といわれれば、名雪の顔が思い浮かべられるほど裏の社会では有名になっている。  エリアMを集中的に狙って起こされた戦争。  通称、協議戦争で名雪は手持ちの少ない戦力を用いて敵をすべて敗退させていた。  その腕を買われて、この聖ジョージ部隊に配属されたのだ。  それが正解だったことは誰もが知っている。  正解過ぎたと言う事も。 「あ……言い忘れましたが、私に危害を加えないほうが良いですよ?」  へ? と言う顔が男の顔に張り付く。  そして、どんな意味で発言されているのか解らない。そんな戸惑いのように見える表情をして苦笑した。 「私に危害が加わった時点で、私の部隊はあなた達を殲滅します」 「せ、殲滅ですか?」 「はい、生死関わらずです。でも、そんなに怯えなくて良いですよ。今回は査察がメインですから」  そんな表情の男を無視しつつ、名雪はにこやかに男の手を握った。  それが男の戸惑いを大きくさせる。  なんて、イメージと違い馴れ馴れしいのだと。 「そんな、我々は……」 「テロリストの疑いを受けています。ですから今回の査察を受け入れてください」 「拒否は?」 「しても良いですが、そのときはどうなるか知りません」  『そのときは』の後に来るのは貴方たちがという言葉なのだと男は理解してしまった。  加えて、拒否権は無いのだということも。  しょうがなく男は案内をする。ビルの中に外を漏れることの無い様に。  最後、ビルの地下駐車場でその案内が終わった。  男はほっとした表情を最後に見せて名雪に話し掛ける。  すんなり終ったことに、何にも疑問を抱かずに。 「我々の身の潔白は……」 「残る一箇所を確認したら、証明されます」 「え?」 「あ、そこの壁をそこからこう破壊してくれるかな?」  後ろに居た男に1人にえらくアバウトな指示を送る名雪。  壁を爆破する事で男はそれに答えるようにあっさりとそれをかなえてしまった。  爆破した火薬が特殊なのか、それとも男の腕が素晴らしいのか、それほど振動も音も酷くは無い。  爆破された壁の向こう側には広い空間が広がっていた。  そこには新型のドールに武器などが大量に有る。  もとより査察する場所はその一箇所だけだったのだと、男は気が付いた。  だから、こんなにもあっさりと査察を済ましたのだと。 「武器を持って戦いますか? それとも、ここで武器を捨ててくれますか?」 「私達は………………武器を捨てる」  嬉しそうな表情の名雪。心底悔しそうに男は呟いた。  名雪は通信機材を取り出して、どこかに通信をかける。 「ラインハルト情報部局長を呼んでください」 『所属隊名と名前をおねがいします』 「聖ジョージ部隊隊長の水瀬名雪です」  その後に確認の為のコードなどをやり取りする。  それらの確認を終えたのか相手は声を改めながら発した。 『はい、しばらくお待ちください』 『お待たせしたな、水瀬君』 「監査団を送ってくれますか?」 『うん? 今回のものは良性だったのかい?』 「はい、主張は正当。止むを得ず武器に手を出し始めたといったところです」  後ろに居た3人組のうちの一人に名雪は目で指示を出した。  男はすぐさま外に出て行く。  ビルの持ち主である男は項垂れた格好のまま、その話しを聞いていた。  もし拒否した時、どういった運命をたどるかを知っているのだ。  聖ジョージ部隊は決して評判の良い部隊でもない。だが、悪い部隊でもない。  それは刃向って来たのならば容赦なく殲滅され、降伏するなら何もしないという噂だった。  もちろん刃向かえば、人の生死は関係ない。  圧倒的な技術の差で叩き潰される。生きて残れる人間の方が稀なのだ。  その生きて残れるというのもネックである。意識が残って生き残れるのは本当に運の良いほうだった。 『事件は?』 「まだ起こしていません」 『では、局員に代わってもらえるか?』  名雪は素早く後ろに居た一人に機材を渡す。  男はそれを受け取ってなにやら話しはじめた。  しばらく、と言っても1分はかかっていないが名雪の手元に機材は帰ってくる。 『では即刻、凄腕の監査団を送ろう』 「はい、ありがとうございます」  通話を終えたところで、持ち主の男と向き合う。  名雪はにこやかな笑顔を浮かべたままだ。  もう観念した男は、今までの敬語を使おうとせずに地の口調で話し始める。 「このドールなどの戦争資材はこれより来る監査団の運営資金になります」 「私達に逮捕者は出ないのか?」 「今のところ、出ません。もし武器を取っていたら死者が多数出たでしょうけどね」 「……そうか。では監査団とは何だ?」 「法律のスペシャリストと査察権限を持つ国際警察で出来た一団です」 「何故。ここに?」 「私達は武器を取り上げはしますが、悪政と戦う術を奪うわけではないんです」  苦笑しながら名雪は続ける。  男はそのまま静かに話しを聞く。 「もっとも、武器に手を出したのは褒められませんけどね」 「水瀬隊長」  名雪の後に居た男が会話に割り込もうとしたので名雪はそれを手で制した。  そして、すぐ終るといった感じのジェスチャーを見せる。  男はそれに素直に従った。 「監査団の力を借りて、悪政をどうにかしてあげてください」 「ありがとうございます」 「いえ、では監査団が来て業務の引継ぎをするまで、聖ジョージ部隊の監視下に置かれます」 「わかった」 「関係者を集めて、説得に入ってください。もし、危険分子がいると解ったら逮捕者が出ます。そのつもりで」 「死ぬ気で、説得するよ」 「はい、ではこの建物より出ないように気をつけてください」 「なぜ?」 「死にたいのなら別に止めはしません。仕掛けるなら死ぬ覚悟をしてください」  男がつばを飲み込むのがわかる。  名雪はそんなに警戒する必要は無いですよ、といった感じの顔で続けた。 「外との連絡も私を一回通してください。でなければ、戦闘意志が有るとみなします」 「……」 「勝手にかければ、すぐに仕掛けますので」 「…………」 「主要全メンバーは集まっているはずですよね? 何か不満でも?」 「……いえ」 「私たちの情報解析能力を甘く見ないでください。その位の準備をしてくるんですよ」  名雪は、後に居た男に振り向いた。  あ……と呟いた後に名雪は言葉を付け足す。 「あぁ、会話は全て盗聴されていると思ってください。それくらい内容には注意してくださいね」  そういって興味をなくしたようにビルのオーナーから視線を外し黒服の男に向かう。  男は、今の状態を事細かに説明し始める。その黒服の一人に耳打ちをした。  男は走り出し、外に出て行く。  地上部分に出つつ、名雪は通信機材を手にし指示を送り出す。  名雪警護役の男が名雪に張り付いた。 「α小隊、及びβ小隊は建物内外の警備に配置。手はず通りに外と内側からの人の流れを完全にせき止めろ」 『了解。α小隊、建物付近に配置するわ』 『はい、β小隊、建物を遠巻きにして配置します』 「不審な動きを見せるものがあれば即刻、排除しろ。割り当てられた局員はサポートをよろしく」  名雪はそのまま、指示を送り続ける。  警護役の男はそれを見てようやく安心したように溜息を吐く。 「γ小隊は現行の位置で待機。Ωは拠点に帰還後、待機」 『γ小隊、待機に入ります』 『……………………了解』 「待機中の小隊はいつでも行動できるように緊張感を保っておけ。全隊、何かあったときの事後処理の報告は忘れるな」  そういって名雪は通信機を手放す。男はそれをしっかりと受け止めた。  指示を出してすぐに建物の近くにドールが3機配置され、そして、その足元には武装した局員が配置された。 「さてと、相手はどう出ると思う?」 「そこまでは私の判断することでは有りません」  新たに張り付いた2人の黒服の男に名雪はにこやかに話しかけながらビルの正面ロビーの一角を陣取る。  黒服は2人は名雪から離れずに回りの様子を見ていた。 「あんまり、威圧しなくて大丈夫だよ?」 「いえ、これが仕事ですから」  名雪は苦笑しつつ、手を顎に当てて何か考え始める。  そして、何か考え至ったのか通信機を再び手に取った。  名雪が通信機を手に取ったのほぼ同じタイミングで先ほど外に出た男が戻って来るのが見える。 「γ小隊、行動できるように準備しておけ。同じくΩもだ」 『了解。機体にに火を入れます』 『……了解』  帰ってきた男はすぐに名雪に耳打ちをした。  名雪は表情を変えずに、声を出す。 「γ小隊、拠点にルート7でもどれ、Ωには恋人が来る。思う存分相手にしてやれ」 『直ちに行動を開始します。敵を見つけたときはどうすれば?』 「敵を全滅させろ」 『了解』 『うふふ、思う存分暴れて良いのですね? 恋人を相手に』  恋人とは殲滅すべき戦力、つまりはテロリストをさす。  もっとも、名雪はその言葉を好んで使い、美樹もそれに習う。  いつからか、それが決まりごとのようになっていた。 「Ωはいつもの通りに相手にしていれば良い」 『フフフ……了解』  名雪は指示を出し終わったとばかりに、ゆっくりと席に着いた。  黒服の男は何か言いたそうにしている。  名雪はそれに気が付いて、にこやかに口を開いた。 「何か心配事でもあるのかな?」 「いえ、そうではないのですが……」 「そうだね、まだ結論が出るまで時間が掛かるだろうからどんな指示を出したか説明してあげるよ」  名雪が引っかかっていたのはあまりにあっさりとし過ぎていたと言う事だ。  得ていた情報と照らし合わせてもこんなに簡単に強硬派というものは引き下がらない。  その事を名雪は目の前に地図を開いて黒服に説明を始めた。  今回拠点に関しては何も情報の操作をしていない。  その為にあっけなく見つけられることが出来るだろう。  その拠点にはΩつまりはネメシスに乗った美樹がいる。  しかし、拠点の守備はそれだけだ。  今回の強硬派、つまりはここ以外の拠点に武器を蓄えていた部隊は我々の拠点を狙う。  これは、この場が既に占拠されていて救出が既に難しいことから容易に考えられた。  加えて、守備しているのがドール1機なのだから簡単に落とせるだろうとも考える。  敵とて馬鹿ではない。こちらの後方を撹乱してから救出にもしくは強硬派の幹部を迎えに来るはずだ。  もし、後方が撹乱されたと知れば多少は部隊が浮き足立つ。  武器もうまくいけば強力な物が手に入るかもしれない。  そんな勘定だろう。ずさんな勘定だなぁ、と名雪は思っている。  戦力を見誤りすぎているのだ。  先ほど黒服を走らせたのはあらかじめ複数配置していた情報員が異変を察知したか確認しに行っていたのだ。  異変を確認したからこそ、γ小隊を援護に向かわせ、Ωに暴れるように指示を出した。  機体が動けない状態で奇襲をされたのならいざ知らず、来る事がわかっている相手に引けを取るはずがない。  確認した場所をなぞる様に背後から追撃が出来るようにγ小隊を動かし、最も力を発揮できる場所に美樹を配置した。  名雪にはただそれだけ。  だが、それでもう先の手を打つ必要が無いと知っているからこれだけ余裕なのだ。 『名雪、ちょっといいかしら?』 「なに? 香里」 『はぁ、あのねぇ……9機、どうやらその建物に向かってるみたい』  美坂香里の声。  水瀬名雪と牧田美樹達とエリアMの戦争を全て勝ちに導いた要因の一因を担う女性だ。  今は聖ジョージ部隊でα小隊、近接格闘を中心とする前衛の3機小隊の小隊長をしている。  香里は部隊に入って、しばらくしてからその部隊の紋章に因んでドラゴンスレイヤーと言う通り名で呼ばれていた。  正確には香里だけではなく、α部隊に所属するサンティアラと高橋も同じように呼ばれていた。  前衛屈指の実力者達であることがその通り名の由来になっている。  ちなみに、部隊の紋章は竜の首を切る剣だ。 「ふーん……香里の部隊で楽に対応できるでしょ? 私の意見が必要?」 『いいえ、ただの報告よ。それに、もうすでに4機沈黙してるし』 「香里の笑えない冗談かと思ったよ?」 『……今回は敵のレベルが低いわね。報告だけよ。前回のように迷ったわけじゃないわ』  そう言って香里からの通信が切れた。  香里からの通信直後にスピーカーを震わせる音が混じる。 『こちら、β小隊の藤川。隊長、敵戦力から捕虜を捕らえました』 「近くの情報員を呼んで、渡しちゃって。α、β小隊は引き続き殲滅を」 『了解。小池、情報員に引き渡しておけ』  またも、通信が切れる。  現在、β小隊は中遠距離を主体に後衛の5機小隊を組んでいる。  その小隊長をしているのは、エリアOの藤川だ。  名雪はニヤニヤしながら立ち上がった。 「さて、γ小隊からそろそろ連絡が来る頃だね」  名雪が言った直後に、予言したように連絡が入る。  それも、名雪の言っていたγ小隊から。 『こちら、γ小隊。竜の顎、いやΩが敵を全て喰い殺した。敵に生存者は無し。味方戦力に損害なし』 「了解。Ωと共に拠点にて待機に入って」 『了解』 『こちら、藤川。向かってきた敵戦力の無力化に成功。α小隊とβ小隊に損害無し』 「αと共に引き続いて警戒を」 『了解』  Ωとは牧田美樹の事をさしている。  竜の顎(りゅうのあぎと)と呼ばれる所以にあるのはその凄まじい戦い方だ。  パイロットの天敵と言っても良いほどに執拗かつ徹底的な破壊をもたらすその戦い方。  一撃でその身は潰されるといっても過言ではない。  テロリストは可哀想に、生き残れるほうが稀だろう。  美樹と戦ったパイロットは殆どが人の形をしていない状態で地に埋葬される。  ドールはコクピットを除くと綺麗な形をしているのに、だ。  そんな戦い方を美樹はしていた。  名雪は黒服2人を見ながら、立ち上がり行くよと声をかける。  その声はまるで買い物に行く女子大生の声だ。 「拠点周辺に手の空いてる情報員を派遣して。死者は手厚く葬ってあげないとね」 「判りました。すぐに派遣します」 「今回の逮捕者はこの人と、この人……後、この人も。すぐに移送できる準備」 「完了しています」 「うん、今回は手際がいいね」 「流石に毎回文句を言われるわけには……」  そうだねと答えながら、名雪は先ほどのビルのオーナーが消えていった会議室らしき部屋にいきなり入って行く。  驚いた視線が全て名雪の顔に集中した。 「たった今、私の部隊が襲撃されました。これをこの組織全体の意志と見て良いのですか?」  無邪気な、本当に無邪気な笑顔で参加している全ての人間を見て回す。  彼らには何故笑っているのか理解できた者などいないだろう。 「可哀想な彼らの半数以上は竜の顎の餌食になりました。さて、この判断は正しかったのですか?」  しんと静まり返る会議室内。  誰もが発言をしようとはしなかった。  黒服が複数、名雪の後ろに現れる。 「とりあえず、直接指示をしたと思われる3人を拘束して移送」  その一声で複数表れた黒服たちが男3人を拘束して部屋を出て行く。  一人は観念したようにあっさりと連れて行かれる。  男2人は反抗しようとしたが、すぐにぐったりとしてそのまま連れ出された。  黒服の手の中にはスタンガンが見える。それで、電撃を貰ったのだろう。 「では、言い訳を聞きましょうか?」  誰もが無言。空気がその場だけ無くなった様に音がない。  名雪は困ったように付け加える。 「あっと、言い忘れました。私の部隊には損害はありません。無謀な事をしたものですね  残る全戦力を投入したのに、本当に考えなしですね。本当に感心します。  恨むのは筋違いですからね? 私はちゃんと警告しました。死ぬ覚悟をしろと」  にっこりという音が似合うほどの笑顔で名雪は言う。  その顔と、威圧感に後ろに居る黒服でさえ、手に汗をかいた。 「すぐに申し開きをしてもらいましょう。まだ、逮捕者は増えるみたいですけどね」  それを直接受ける人たちは顔の色を既になくしている。  緊張感の無いその声にその顔が逆に怖い。  まるで、違う生き物を扱うような印象を直接受けている人たちは感じるだろう。  名雪に言わせればそんなつもりなどさらさら無いのだが。  では、後の展開はそれぞれの想像にお任せしよう。
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     任務からの帰還後、本部のような場所で、名雪と香里は歩いていた。  話題は、今回の任務についてだ。   「今回は手際よく終ったわね」 「うん、ラインハルト局長も良性だって思ってたみたいだから動きが早かったね」 「それにしても、あの錬度は酷いわね」 「それはしょうがないんじゃないかな? だって、本部を押さえられてたら士気も落ちるでしょ?」  名雪はそれに、と続ける。  香里もわかっているのか何も言わない。 「ベテランとか経験者の殆どが美樹さんの方に行ったからね」 「あら、だったらしょうがないわね」  驚いたという表情で香里は名雪の言った事に答えた。  歩きながら、2人は和やかに談笑をする。  それが当たり前の光景になっていた。  ちなみに聖ジョージ部隊は2つの部署からなる。  実働部、これは名雪が指揮の範囲が及ぶ部分だ。  他に知っている人間が居るとしたら、エリアOの藤川、小池、高橋の3人とその仲間が所属している。  上下関係は有るものの、お互いに作戦の時にしか隊長とは呼ばない。  互いに意見の交換をし、より部隊を強める為に一丸となっている。  上下関係は必要だが、意見が出なくなるのは部隊の為にならない。  軍に似た組織だが、軍ではないのが名雪の率いる部隊の特徴であった。  他には情報部がある。名雪の言うラインハルトという人物はこの部の統括であると思っていただきたい。  ちなみに、あゆはこっちの部隊に居る。 「さて、私はちょっと用があるから情報部に行ってくるね」 「はいはい。ゆっくり休ませてもらうわ」  大きなあくびをする香里、名雪と分かれて別の方向へと歩き出した。  名雪は名雪で目的の部屋に歩く。  部屋の前でノックをし、静かに部屋の中に入る。 「失礼します」 「ん? 何か用かい?」  困った顔をするラインハルト。金髪で頬には深い皺が刻まれている。  深い皺が刻まれているからといってかなりの高齢というわけではない。  老け顔では有るが、これでまだ40代後半だ。  それでも名雪とは親と子ほどの年齢の違いがあるのはしょうがないだろう。  ちなみに、名雪をこの部隊にスカウトしたのはこの男である。 「すいませんが、次の情報源の人間を洗ってもらえませんか?」 「うん? 水瀬君が珍しく私にお願いをするとは」  その切り出し方が珍しいといった感じでラインハルトは名雪を観察する。  視線を気にしつつも、名雪は続けた。 「今回の件は行く場所が一部の者たちには平定者の町って呼ばれてますから。絶対に問題があるはずです」 「なるほど、治外法権の町に手を出させようとしている訳か」 「それに、相沢祐一に煮え湯を飲まされて頭にきているのでしょう」  相沢祐一、裏の世界ではこの名前は平定者をさす。  平定者は代表の名前こそ「You」としか知られていない。  だが、名雪は相沢祐一だと確信しているし、聖ジョージ部隊の非公式な見解としてそうである。  しれっと名雪は言うが、本当の所は、煮え湯を飲ませているのは名雪の部隊だ。  つまりは、聖ジョージ部隊と言うことになる。  世界政府の官僚たちが秘密裏に持つ私兵もテロリストとして処分しているのだ。  実際にテロリストとしての側面も持っているために狩られてもしょうがない。  時には軍よりも良い装備と人員が配備されていることすらある。  だから、恨みを買われるわけである。  ただし、表向きには何も言わずに、こういった嫌がらせを起こしてくるのだが。 「判った、帰ってくるまでに不正が無いか調べてみよう」 「ありがとうございます。後ですね」 「まだ何かあるのかね?」 「はい、エリアAとエリアCの境界にある第330孤児院ですが」 「ふむ……」  名雪の目に、怪しげな光がともった。  そんなことも知らないのかとも取れるし、私達だって情報を集めないわけではないとも取れる視線だ。  ラインハルトはそれに気が付きつつも無視しながら話しを聞く。 「そこで行われている事に正式に抗議し、私達はそこが襲撃されたとしても出撃しません」 「何を行っているのか、わかっとるのかね?」 「はい、クローンによるドール操縦者の育成です」 「……しかし、出撃しないわけにはいかん」  表向き、苦渋に満ちた声でラインハルトは言う。  すでに襲撃されると言う前提で。  名雪もそれはわかっていたみたいなので、次の言葉を口にした。 「では、救援には向かいません。代わりに敵の追撃には行きましょう。それが妥協点です」 「なるほど、妥協点に関してはそれでよい。その件も含めて対処しよう」 「ありがとうございます」 「では、その襲撃とやらが行われるのはいつと読むかね?」  にやり、いや、ニタリという音が似合う感じの笑みをラインハルトは浮かべる。  名雪はそれを気にせずに、続ける。自分の予測を。   「私が帰ってきた直後あたりでしょうか?」 「ふむ、構わん。水瀬さんの思うとおりにしなさい」  彼ら独特の取引。  我々は手出しをしないから、君の思うとおりにやれということである。  人は用意するが、私は一切関与しないぞと言う意志の表れでも有った。 「では、月宮小隊をお借りしたいのですが」 「判った。許可証を出そう。以上かね?」 「はい。では失礼します」  名雪は情報部の統括であるラインハルトに敬礼をして出て行く。  立場的には名雪と彼は同じ地位を持っている。  名雪が実戦部隊を統括し、彼が情報部を統括する。  しかし、実質彼は名雪の上司に当たる。何故なら、名雪が攻撃する先を選ぶのは彼らからの情報だからだ。  今回のように、名雪が何かを唱えるほうが珍しい。 To the next stage

     あとがき  今回も名雪さん達の日常をお送りしました。こんな話ばっかりなのには自分自身どうかと思うんですけどね。  需要は……多分最も少ないんでしょうけど。  もっとのんびりした風景を描けると良いのでしょうけど……思い浮かばないんです。  どうにも殺伐としてしまうのは、しょうがないような気もしてますしね。  次回はほのぼのを目指します。自分ルールの中でも祐一君達の出番ですし。    ここから下は拍手コメントのお返しです。 >祐一の家は大家族? 4/30  ある意味大家族です。ただ、血が繋がってはいませんけどね。  多分、佐祐理さんとか舞さんとかもそうだと言い出しそうですから(苦笑 >相沢秋弦・成長記 凄く面白かったです 5/2  ありがとうございます。……受付嬢よりも人気が有るのには驚きです。  推定、4もしくは5歳児ですよ? 受付嬢には動きが無かったせいも有りますが……  成長期は生暖かく見守ってください。えぇ、ネタが浮かんだらまた書きますから(笑 >秋弦ちゃんおもしろ過ぎです。 5/2  面白く書いているつもりは……多少有るんですけど。  ありがとうございます。それにしても、秋弦さん。人気あるなぁ……嬉しいですけどね! >この面白 5/2  ありがとございます。一言でも頑張ろうって思います!  次はいつになるかなぁなんて思ってます。気長に待ってください。 >正直、かなり面白いです 5/2  拍手の中のSSSか本編かどちらか判らないですが、ともかくありがとうございます。  面白いのが持続すると良いなぁって思ってます。要努力です。頑張りますね! >ゆーろさんの書くお話は大好きです。これからも頑張ってください(゜▽゜)ノ  5/5  好きと言って頂いて、幸いです。嫌われないよう努力しますね。  頑張りますよー! 本当に! > 面白いッス!もっとバンバン作ってください。 5/5  このペースが限界です。本当に切実にですね。  これでも速いペースなのかな? ちょっと自信ないですけど。  このペースを維持できるように努力はしていきます。ので、これからもよろしくお願いしますね。  今回は以上です。うん、このルールだと名雪さんの時に祐一君のときのコメントを乗せる事に(笑  こういうこともあるという事で。では、ここまで読んでいただいてありがとうござます。ゆーろでした。


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。
     何気に浩平達の元同僚達も参加してたんですね。  彼らが何を糧にしているのかは謎ですけど。  ただ単に流れた結果かもしれませんが。  将来的には、また浩平や七瀬なんかと対立するんでしょうかねぇ。
     どうやら名雪達は、アイビーかそれに類する街を査察するみたいですね。  彼女らにとって祐一の影は見えているみたいで、一悶着あるやも?  まぁまだ戦うべき時じゃないので流すのかもしれませんけど。  北川夫妻を見たら名雪や香里は何と言うでしょうか。

     秋弦嬢が人気があるのは私も嬉しいです。  名付け親として。(笑


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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