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私は、あの光景が忘れられないだろう。
殿を務めてくれた、高木さん。あの人は私を庇ってくれたのだと。
本来なら、あの場所で死んでいたのは私だったのだと。忘れられないだろう。
高木さんは、お姉様が抜けた後の唯一の前衛の人だった。
いや、一番格闘に関して適性が有った人だった。
機体を乗り換える時間も無く、すぐに作戦の発令があった。
その時のことだ、お姉様と折原さんが軍を抜けてすぐのこと。
抜けた穴さえどんなもの確認できなかった。
そのまま、戦場に出て。そこで酷い目にあった。
以来、私は前衛になることを志願した。
お姉様にあこがれた事は確かにある。
でも、本当はそうじゃないことは知っている。
高木さんの為に、私は前衛に志願したんだ。
こんな私を高木さんは笑うだろうか?
でも、私は後悔をした事はない。
人は言う、私に前に出ることは怖くないのかと聞く。
私は答える。
怖い、でも退いて、失うほうがもっと怖い、と。
人は私に問う。
何故、そこまで前に出ようとするのかと。
私は答える。
退くと、私の大切にしていたものが砕けるのを知っているから、と。
人は私に疑問を投げかける。
何が一体そうさせるのかと。
私は答える。
自分が自分である為に。退く事が出来ないの。私に命を掛けてくれた人のためにも、と。
人は私に疑問を投げる。
砕けるものは一体なんだと。
私は答える。
大切な仲間の笑顔、そして私の感謝の気持ち、と。
だから私は前に出ることしか出来ない。
退るなんてもってのほか。退くのなら死んだほうがましだ。
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神の居ないこの世界で−A5編− |
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