神の居ないこの世界で−A5編−


→交差するタイミング。すれ違う時にお姫様達が奮う蛮勇。

     緊急で集められたブリーフィングルーム。  名雪は静かに、目の前の資料を読んでいた。  皆が集まるのを待っているのだ。 「遅れて申し訳ありません」  その表情に苦いものを浮かべて最後のメンバーである美樹が入ってきた。  そこでようやく、名雪は顔を上げて立ち上がった。  メンバー全員が席に着いたのを確認して口を開く。 「さて、全員揃ったね。じゃあ1時間後、急に入った作戦の概要と手順を説明するよ。  今回の作戦は、エリアMから報告された情報を元に捜査して見つかった施設の制圧。  既に情報部には動いてもらっているから、後は私達が出れば良いの」  名雪が始めたのはある施設の制圧作戦。  制圧といっても、情報部が制圧した地点の確保というものだった。  対応はいたって簡単。α小隊とβ小隊で地点を保持し、γ小隊がそれのバックアップをするというもの。 「今回は、小隊をばらして行動してもらうよ」 「……どうしてかしら?」  名雪の言葉に香里が疑問をはさんだ。  それを予想していたと言う感じで名雪は答える。 「2方向から拠点の保持を行うのは、いつもみたいに地形を考慮できないから、なんだよ」  急な作戦で地形も参考できない敵戦力もわかっていない。  そう説明した上で、安全策の為に今回はしょうがなくこれをとるという事だった。 「みんな、良いかな? じゃあ小隊分けを説明するよ。香里、藤川君、小池君、この3機でこの方向から制圧。  残りは逆方向から制圧ね。γ小隊はそのまま、遠距離からの援護。判断は任せるよ。  私は情報部の人間と一緒に建物に乗り込むから。今回の判断は各自に任せるね」  そう名雪は言い切ってから、全員にいう。  美樹一人だけが指示を受けていなかった。 「対象はテロリスト。気を抜かないで」 「……私は何ででれば良いですか?」 「美樹さんは今回は待機。ネメシスタイプが不安定なままで戦場に出てもお荷物だから」  美樹が立ち上がり何かを言おうとする。  名雪は先制して、言葉を形にした。 「それとも、情報員と一緒に出て行く? ドールがないとただの女性なのに」 「っく」  不機嫌なまま、椅子に座る美樹。  言っている事は本当の事。ドールパイロット特有の事象だ。  ドールに乗れば一騎当千だとしても、降りれば少し射撃のできる人、少し格闘のできる人。  その程度に成り下がる。プロで固められた集団では役に立てない。むしろお荷物になる。  ドールに乗る事で実際に生身で出来る動き以上の事が出来るからだ。  美樹を残して、出撃準備に取り掛かかる。美樹は悔しそうに机を睨んでいた。
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     制圧しきった孤児院。  手間暇をかけて、全てにおいて完璧を求めた。  味方に死人は無し、そして名雪に指示された人物2人は確保している。  そして、最後の仕上げをしようと指示を出していた。 『隊長、所属不明のドールが一機! こちらへ来ています!』 「……装甲の色は?」 『黒です!』 「手を出さないで、僕がでるから、後始末を始めて」 『りょ、りょうかい』  何かの予感。やっぱりと言うのが、今のあゆの感情だろう。  名雪に指名された時点で何か予感のようなものがあったのだ。  外に一人出て行き、漆黒のドールの前に立つ。  そして、声を張り上げる。相手は止ってくれた。 「ここは、聖ジョージ部隊の名の下に制圧したよ」 『あゆか……』 「あ……久しぶりだね。祐一君」  やっぱりという言葉を飲み込んで、あゆは見上げる。  ドールのカメラはあゆを捕らえていた。 『確かに久しぶりだな』 「ここから先はちょっと行けないと思ってくれないかな?」 『解った。では俺は引き下がるとしよう。だけど』 「解ってるよ。あの子達は責任もって保護したよ」 『ありがとう。この後のことも頼む』 「うん。でも、名雪さんが決めることだから」 『それでもだ……我侭を聞いてくれ』 「解ったよ。出来る限りの事はするね」 『恩に着る』  踵を返して走り始めるドール。  戦わずにすんだ事を内心喜びつつ、あゆは振り返る。  まだ、全ての仕事が終っていないからだ。
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     高橋、サンティアラ組みが出会ったのは異常な光景だった。  切り口の同じドールの残骸の山に出会っている。  既に終った場所である。その先に保持しなくてはいけない建物があった。 「これは……」 『あら……これは期待出来るわ』  呟くサンティアラ。全員がこの異常性に気がついている。  単独または同じ装備をしたものが複数で襲撃したのだと。  ここに居る戦力が相手だったと思っていたが、敵は別にいるらしいと全員が思った。  その目の前を走り去るは漆黒の機体。 「え?」 『……今のは!?』 「追撃します!」  ほぼ反射といっても良い速度で高橋は駆け出した。  同じタイミングで走り出したのはサンティアラ。 『高橋!』 「先ほどの速度でしたら、追撃できるのは私たちだけです! みんなは作戦通りに動いて!」 『そういう事。高橋さんと私は同じ意見よ』  高橋の一言にサンティアラが続く。  サンティアラの言葉は多少だが楽しみの色が混じっていた。  残される3機のβ小隊の人間は困惑しつつも作戦通りに動く。 『わかった、無理するな。俺達はしっかりと拠点を確保する』 「はい! 頑張ってきます!」  高橋とサンティアラは意識を追撃する事に集中させた。  シヴァは装甲が右手の盾に集約されているので動きが軽快かつトップスピードが速い。  対して、サンティアラのアークはシヴァに比べると機動力が多少劣っている。  見る見るうちに漆黒の機体とシヴァから距離を開けられるアーク。  シヴァは徐々に漆黒の機体との距離を詰めつつあった。    それも少しずつではあるが。 「警告します! 直ちに停止し、武装を解除しないさい!」  高橋が警告の意味合いを込めて通信を入れる。  距離はあと少しで追いつくような距離だった。  そのことを知っているのか、漆黒の機体が高橋に向けて通信回線を開く。  それと同時に漆黒の機体が反転して、シヴァと相対した。   『退いてもらえないかな? 俺としては無用な戦闘は避けたい』 「それは、出来ません。武装を解除して投降してください。それが戦闘回避の唯一の道です」 『そうか……拒否する』  その一言で戦闘が始まった。  高橋は一呼吸で、相手の懐にまで潜り込みいつもの戦い方を展開する。  絶対のとまではいかないものの、自身の戦い方に自信を持つ高橋。  このとき初めて、相手の反応に違和感を持った。 (何で私の戦い方にすぐに対応できるの?) 『何故そんな戦い方を?』 「私には覚悟があるから。退くくらいなら死んだほうがましです!」  純粋に驚いているといった言葉が相手から聞こえる。  だから、高橋は落ち着いて言葉を言う事が出来た。  もし無かったら、動揺が前面に出ていたかもしれない。  しかし、高橋が放った答えによって、相手のスイッチが入った。 『覚悟か……なら、俺の覚悟を見てもらおう』 「えっ?」  空気が変った。いや、変えられた。原因は目の前に居る漆黒の機体。  重く、まるで水に片栗粉を混ぜてどろどろになった中に居るような不快感。  接近し切ったこの距離を、いつもなら自分のペースに持っていける場所が危険に感じられる。 (なに? この不快感に威圧感……この感じ知っている?) 『偽善で構わない。だが、俺の覚悟はそんなに甘いものじゃない』  聞こえる声が、痛くなるくらいに冷たい。  殺意とか、殺気とかそんな言葉では説明の付かない冷たさ。  高橋の奥歯がかみ合わない。カチカチと、何かが歯を震わせる。  意識はそれほど恐れていないはず。しかし、体が反応していた。 (この嫌な感じ……あの黒い獣と同じ!?)  高橋と似た戦い方。いや、同じではない。  差異が有るとしたら、その動きは更に苛烈かつシビアだ。  全てが、相手の急所を狙うための動き。合理的で、無駄が一切ない。  前に出るタイミング、そして、危険を回避するタイミング。全てが紙一重。  しかしその紙が、高橋には広辞苑ほどの厚みを感じてしまう。 「こぉ、の!」  差異が有る。絶対的な差異が。  絶望的な攻撃力の違いになってでてくる。  全く同じではない。似たような動き。その似たような動きは全く違った性質が見える。  独特のリズムを取り、そして、相手の機体に密着する動き。  互いが密着しようとしているのはわかる。そこから先の速度と軌跡が違った。  速度は負けていない。ただ、軌跡の差でダメージを一方的にもらい続けている。 ヒュゥン!  剣が風を切る音が耳元で聞こえたような気がする。  ありえないその音は、確かに耳元で聞こえたような気がしたのだ。  高橋は格闘型に乗って以来、初めて機体を退いた。その恐怖から。命の危機から。  それも一歩も。彼女にはそれは致命的な敗北である。  大切にしていた何かが砕けてしまったことには違いない。    相手の繰り出す、剣は鋭い。  狙いこそコクピットは狙われていなかったが、右足と腰の付け根から切断されて機体は斜め後に倒れこんだ。  彼女にはコクピットを狙ったものではないと思ったが、それでも体が反応してしまったのだ。  殺されると。あの、黒い獣と戦ったときも感じた悪寒を更に強くした悪寒が身を支配した。  大切なものを砕いてしまってでも。 (あ、あ、あぁ……)  犯してはいけない禁忌。それを自らの動きで犯してしまった。  絶対にして神聖な誓い。それを自らの行動で折ってしまった。  それが高橋に襲い掛かる。体が、精神が凝り固まっていく。  恐れが、後悔が、痛みが、苦しみが、高橋の心と体を縛り付ける。  もし、機体が前のめりになっていたらまた違った結果になっただろが。 『失礼する』  高橋に遅れること、少し。  機体の性能の差で、若干の遅れを取ったサンティアラ。  そのレーダーにも明らかな異分子を写している。 『高橋さん! どうしました!?』  高橋からは返事は無い。  先ほどまでは普通にあったものが、今は全く無い。  代わりに、歯がカチカチ鳴るようなノイズだけが返ってくる。 『どういう……!』  視界の中に漆黒の機体が捉えられた。  そして、それから放たれる威圧感も同時に感じ取る。 『ようやく出会えた……! 愛しい人!』  サンティアラの中に喜びと新しい感情が駆け巡った。  再会による喜びと、暗い情熱が。 『逃さない!』  機体を操ってロッドを引き抜き、漆黒の機体に殴りかかる。  相手の死角に居たのか、一瞬だが漆黒の機体の動きが遅かった。  しかし、悪寒が、いや彼女の言う所の死の予感がサンティアラを襲う。  このまま殴りかければ、間違いなく殺されると。  瞬間的に身を捻り、差出される剣を間一髪で避ける。  装甲が削られ、火花を散らしたが機能には問題が無い。 『この感覚……やっぱり貴方からしか感じられない!』  身を縛るほどの悪寒、絶対的な死の予感。  ちりちりとした違和感が背中を駆け巡る。  それを感じてサンティアラは喜びで体を振るわせた。  その動きが機体に反映されるほど。 『ウフフフフ! 再会できて嬉しいわ!』 『再会? 心当たりがないのだか?』 『あははは! つれないわねぇ! でも付き合ってもらうわよ!』  サンティアラは自分の顔が愉悦に歪んでいるのを知っている。  それもそうだ、並大抵のテロリストや訓練ではこの上等な感覚を味わう事が出来ないのだから。  その場に一瞬でも留まれば、一瞬でも判断を間違えば死んでしまうであろう感覚。  それが楽しくて、嬉しくてしょうがないとサンティアラは口を歪めた。 『約束の時間に間に合わなくなる。手短に相手をさせてもらう』 『だ・め。私が他の人にそんな愉快な事を、譲ると思って?』  奔る漆黒の機体。振るわれる、剣。  逃がさないようにそして、決定的なダメージを貰わないように動く純白の機体。  装甲と剣が触れ合って飛び散る火花。 『私という女が居ながら他人のことを考えるなんて失礼よ!』 『関係ない』 『心行くまで楽しませてもらうわ!』  神経戦とも思える精密な格闘戦。  紙一重、一進一退の戦いが始まったのだった。
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     香里達の組は障害らしき障害に出会わずに予定通りに確保すべき拠点までたどり着いた。  それを不思議に思う香里達。   「さて、ここまで何も無く来たわね」 『そうですね、何か有るとしたらこれからでしょうか?』  香里の呟きに答えたのは藤川だった。  返って来ると思って無かった香里は内心驚いていたりする。 『……反対から来る組の到着が遅くない?』 「そうね、何かあったのかしら?」  障害らしき障害が無かった為に予定よりも若干早く着いたせいもあって相手のちょっとした遅れが気になり始めた。  確かに若干の遅れはあるが、レーダーに味方機が映り始める。  しかし、それには異変が有った。 『前衛2人がいない?』 『応答しろ! 何があった?』  香里はそれを聞いているにとどめる。  自分の小隊の2人が居ないのだから、何か有ったと考えるのが自然だろう。 『藤川隊長……前衛2人は途中であった漆黒の機体を追っています』 「漆黒の?」 『それで?』  藤川は効率よく、何があったのか聞きだす。  流石に、長い付き合いがあるだけ意思の疎通は確実に早い。 『結局、私たちは2人の指示で作戦通りに動いて……』 『解った……美坂さん、2人を迎えに行ってもらえないでしょうか?』 「あら、良いのかしら?」  香里は藤川の提案を意外と言う感じで受け止めた。  そんな香里の戸惑いを想像できるのか藤川は続ける。 『えぇ、私達の機体の足では多分追いつく前に終ってしまいます。どちらに転んだとしてもね』 「了解したわ。後をよろしくね」 『任せて下さい。あの2人のことです。問題はないと思いますが、もし必要なら連絡を入れてください』 「えぇ、解ったわ」  香里はアテナを走らせる。  アテナはトップスピードはシヴァに追いつかないものの、アークよりも速い。  特筆すべき点はその加速力にある。  栞の特殊な設計のおかげで4歩目からほぼトップスピードで走れるようになっていた。  代わりに犠牲になったのは装甲である。  加えて、かなり極端な前傾姿勢で走ることになる。  香里自身の努力が無ければ完成しない走り方でもあった。 「全く、拙いわね……」  漆黒の機体には手を出すな、これは聖ジョージ部隊以外の常識である。  聖ジョージ部隊には適応されないが、相手が悪い事には変りはない。  何故ここに、平定者がしゃしゃり出ているか不明だが香里は見当がついていた。  来ているのが相沢祐一だと。 「全く……名雪はこの事態を想定してたのかしらね?」  それもありえると香里は判断した。  あの、名雪である。平気でこういった事をしそうだった。  2人が通ったであろう痕跡を見つけて香里は走り続ける。  甲高く、なにか切断される音が聞こえた。 「拙いわね……急がないと」  香里が追いついたとき、アークが漆黒の機体に切り伏せられている所だった。  シヴァが機能を止めているその横にアークが倒れ込んだ。  香里がいつか感じた、あの嫌な感じ。  決定的に敵だと解る、いや判ってしまったときに感じたあの威圧感がそこにはある。  恨み言を聞かせるように、通信を開いてささやく。  その声には、ようやく目標の人に出会えたような感情が乗っていた。 「相沢君は言ってたわよね……私が貴方に勝てないのは経験の差だって」  唇が乾いて、体の中から水分が抜け出て行くような違和感。  指の先から熱が逃げて行く錯覚を香里は覚える。 「私は貴方に負けないくらいの密度と期間、経験をつんだわ」  気持ちを噛み殺さないと前に出れないこの感覚。  間違いない。あの機体に相沢祐一が乗っていると香里は確信した。 「だから勝てるって言うわけじゃない。でも、後は才能と努力の差だけよ」  目の前で追っている影は香里が追い続ける影。  その動きに見覚えがある。  香里はロッドを引き抜いて、それをドールに持たせる。 『失礼する』 「待ちなさい!」  その一言だけで、漆黒の機体が身を翻した。  機体を走らせ離脱しようとしている。  全力で加速して一気に距離を詰め、切り上げ気味に繰り出したロッド。  その一撃が来るとわかっているように漆黒の機体は振り向きながら。  祐一はその振り上げられたロッドに片足をかけて宙返りをする。  勢いに乗じて、かなり離れた場所に漆黒の機体が着地した。  タイミングを逃せば、足の接し方を間違えば確実に脚を失う一撃を難なく用いて距離をとられる。  神業とも言えるその動作は、一瞬だが、香里の目を奪われた。 『すまないが、それは出来ない』 「待てといってるの! 相沢祐一!」  漆黒の機体はそのまま香里を無視するように走り去る。  距離は開かない。だが、縮まりもしない。  最高速は同じようだった。 「実力の差がどうとか、私は知っている! それがどんなに無謀だったってことも!  運命だったとかそんな話は聞いてない! 聞きたくもない! 私はまだ絶望なんてしてないんだから!  私は何度でも、立ち上がってやるわ! 追い詰めてあげるわ! 私がそうあろうと決めたんだから!  運命とか、しょうがなかったとか、不可能だなんて自分に言わせない! 絶対に追いついてやるんだから!  だから、覚悟しなさい! 覚えてなさい! 貴方だけは絶対に逃がさないから!」  香里は吼える。祐一に絶対に届いていると信じて。  既に追いきれないと知った時に、踵を返していた。  悔しさに手をにぎり締めて。 「今回は届いた……前は触れることすら出来なかったのにね。それだけは素直に喜びましょう……」  嬉しくは無いが、収穫は有ったと言う顔の香里。  そして、救援の連絡を入れる。敵を取り逃し、しかも2機は大破している。  α小隊はぼろぼろだった。
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     その頃の名雪は、制圧された建物の中を歩いていた。  既に保護した子供2人は本拠地に移送している。 「あゆちゃん、全員を拘束して集めてくれた?」 「抜かりは無いよ」 「うん、ありがとう」  一番広い部屋、孤児院の職員室だろうか。  そこに全ての職員と言っても10人くらいの人数が居る。  名雪は全ての視線を受けて、なお、表情が崩れない。 「……貴様は何をしたか、わかっているのか?」 「あぁ、強がって不安を紛らわせようとしているんだね?」 「なにを?」 「可哀想にね、貴方達は切り捨てられたんだよ? ご愁傷様」  涼しげな微笑。それを浮かべたまま、名雪は説明を続ける。  相手が聴いていようと聴いていまいと関係ない。  内容は簡単である。ここを経営していた議員が事がばれるのを恐れて資料を焼き払ったのだ。  身の保身が出来るように。それは、ここにいる職員達を切り捨てる事を意味する。  名雪達の調査がタッチの差でそれに届かなかった。  その事を懇切丁寧にその事を説明して行く。 「さて、理解できたかな? これでもかって位、わかりやすく説明してあげたけどね?」  職員たちは既に声が無い。相手が悪い事に加えて、反論の道さえも全て塞がれて黙り込んでいた。  いや、黙り込むしか術が思いつかない。 「貴方達に残された道はテロリストとしてここで処刑されるか、それとも、私たちに協力するか」 「まて! テロリストとして、とはどういうことだ!」 「あなた達、馬鹿? 自分達が何をしていたか理解しているの?」  ここで行なわれたていたのはCROSSの適正の高い人間のクローンの製作と教育。  法に触れている上に、危険な存在でもあった。  戦力として育てられたそれは確実に危険である。 「何故、私達が出てきたか理解できないほど、御目出度い頭をしているのには驚愕だね」 「我々は……テロリストなんかじゃない!!」 「やっている事がテロと変わらないんだよ。だから私達が出てきて制圧してるの」  理解できないと言った表情で続ける名雪。  あゆが、名雪に何か耳打ちして名雪がそれに頷いた。  部屋を出て行くあゆ。 「法に触れている触れていない、とか目的は別に有るとか。テロじゃないとか。私は悪くないとか。  貴方達は勘違いしているけど、ここではYESかNOかで生死が分かれるからね。注意してよ」  急に廊下側の扉が開いて女性が投げ込まれた。  それも職員らしく、職員たちの表情に緊張が走る。 「嫌! 何でこんな所で死ななきゃならないの!?」  銃を突きつけられて、真っ青になる職員。  銃を突きつけているのはあゆだ。 「私はただ、命令されて従ってただけなのに! 死にたくない! 死にたくないの!」 「じゃあ、私たちに協力してくれる?」  名雪があゆの銃に手を乗せて打つ動作を妨げさせる。  あゆは不服そうな表情をした。一瞬だが、安堵する職員。 「……どんな事をさせるの?」 「中央裁判所で議員の犯罪を暴くだけ。多少貴女にも罰が下されるけど、司法取引でかなり軽減される筈だよ」 「それで、私は殺されないの? 暴いた後に、報復はされない?」 「裁判が終わった段階で整形手術を受けて別人の生活を用意するね。多少監視の目が付くけど、どうかな?」 「私は貴方達に従うわ……だって、そっちのほうがスッキリするもの!」 「そう、ありがとう」  名雪はそういって、一人の職員の拘束を解いた。  職員はあゆに連れられて外に出て行く。  内部の雰囲気が変わっていた。忠誠を誓うのも馬鹿らしい、だったら従ったほうが得策だと。  名雪は一人一人を回って説得をして回る。  その部屋の外で、あゆはあの職員にお礼をいっていた。 「うぐぅ……ごめんね、手荒な真似をして」 「いいえ、いい取引だわ。だって、罪が軽くなる上に、あいつらの鼻をあかせるんだもの」  彼女とあらかじめ演技するようにあゆが言っていたのだった。  中の雰囲気を変えるために。  それは的中してその後全員が名雪の指示に従う事を取り付けるのだった。
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     さて、話は本拠地の格納庫に戻る。  一箇所だけ、α小隊の部分だけがお通夜のように暗かった。  既に部品の交換だけでは追いつかないと栞はてんてこ舞いになっている。  解体をするだけして、機体を新調する調整を付けて今晩はお終いだとメカニックたちを引き揚げさせた。 「良いですか? 明日から確実に忙しくなります! 今晩は英気を養っておいて下さい! では解散!」    栞のその一言で解散となったメカニックたちは自宅へと帰って行く。  無人となった格納庫。解体されたシヴァを見上げる人物がいる。高橋だった。  その横に小池が来ていたが、高橋は何も反応を示さない。  何分、いや何十分そうしていたかと小池が思い、ため息を吐こうとした時。  高橋が口を開いた。 「典史……私……負けちゃった……」  その声は弱弱しく震えていた。  いつもの声ではなく、別人のような声だ。 「大切にしてたもの全部砕かれちゃった……」 「幸尋……」 「……私……どうすれば良いかな?」  小池が横から見ていた高橋にようやく浮かんだ表情は困ったような泣き笑いだった。  ただ、目だけが笑っていない。涙が次から次へとあふれて行っている。 「こんなんじゃぁ、高木さんにみんなに顔合わせできないよ……  ねぇ、私どうすれば良いかな? 死にたくなるぐらい悔しいよ……苦しいよ……情けないよ!  頑張ってきたんだよ!? 負けないように、砕かれないように……でも……  グス、泣いちゃ駄目だよね? そんなことしたらみんなを否定しちゃうから……」  堪らず、小池が高橋を抱きしめる。  何も言わずに、ただ泣けるように。 「のりふみぃ……うぇ、うぇぇえぇ……ごめん……もっと強くなるから……絶対にもう負けないから  ごめんなさい、ごめんなさい……もう負けないから、もう砕けさせないから……   ごめんなさい、高木さん、みんな、ごめんなさい、よわくてごめんなさい……  わたし、わたしぃ……うぇ、うぇぇえぇぇぇぇぇえぇ」  そこには、いつもの高橋は存在していない。  泣き止むのをいつまでも待つ小池。小池は何も声をかけることができなかった。  遠くから2人を見守る人物がいる。藤川だ。  小池と高橋を確認してから気付かれないよう、静かに踵を返して格納庫を後にする藤川。  少し前から2人の様子を窺っていたが、声をかけるようなことはしなかった。 「あら? 何で貴方がここに?」 「サンティアラさんか。貴方は堪えてなさそうですね」 「失礼ね。一応反省はしているわ。まだ実力が足りないってね。高橋さんは……その様子だと割り切れないみたいね」 「元仲間として一言とはおもいましたが今出て行っても、逆効果でしょうね」  藤川は明らかな自嘲の笑みを浮かべている。  何も出来ない自分にいらだっている証拠だった。 「じゃあ、後の予定は空いているわけね?」 「えぇ、そうですが?」 「自棄酒に付き合ってくださるかしら? 藤川さん、あの子の事をちょっと知りたいわ」 「そんな気分じゃありませんが、いいでしょう。高橋をサポートしてあげてください。私にはもう出来ないでしょうから」  そういって歩き始める藤川にサンティアラ。ちなみに、サンティアラのお酒は絡み酒だった。  藤川はざると呼ばれるほど、お酒に強い。自棄酒に付き合ったことに多少後悔しているようだった。  意識がしっかりしているのに、しっかりしていない相手に絡まれるのは大変なのは言うまでも無いだろう。 To the next stage

     あとがき  接触でした。実際には香里さんに叫ばせる為です。いえ、冗談ですよ? ゆーろです。  ともかく、戦場で鉢合わせと言う事でした。鉢合わせと言うよりも計画された接触でしょうか?  次は祐一君達のサイドを書こうと思っています。  それと、以前、拍手コメントで茜さんの子供をSSSで見たいと仰られていた方がいられましたが……  申し訳ありませんが、お話が落ち着くまでちょっと待ってください。  オリキャラが殆どになってしまうので、現段階でSSSに掲載してしまうのは違和感の塊になる可能性があるからです。  加えて、現在をすっ飛ばして未来のお話を書くのはどうかと思うからでもあります。  いつになるか解りませんが、待ってください。お願いします。  では、拍手のお返しをします。 >茜嬢の展開が一番ラブっぽかったですな。茜への祐一の呼び方が他人行儀だと思ったり。 by傭兵 5/29  や……あれが限界なのです(爆  私もどう呼ばせて良いか悩んだのですが、結局、他人行儀的にしてしまいました。  理由は、親しき仲にも礼儀ありと思ったからです。影では仲良く呼び合ってみたりさせようかと。  ちなみに、茜さんが祐一さんと呼ぶのは秋弦さんがいるからですよ。  一番ラブっぽかったと言う事には感謝です。ありがとうございます。 >ブリーティングではなくブリーフィングでは?  突っ込みありがとうございます……正直、知りませんでした。  辞書引いてみると、ブリーティングじゃなくて、ブリーフィングなんですね……  これで一つ賢くなりました……本当に知らなかったんです。どこでどう間違って覚えたんだろう……  こういう突っ込みは大歓迎です。本当にありがとうございます。 >詩子さんかわいかった。詩子も祐一のハーレムに 5/30  まじですか? 本当なら詩子さん登場する予定じゃなかったのに……  人気あるの? 可愛く書けていると言われるのは嬉しいです。本当に。  どうしよう、相沢家のメンバーがどんどん増えて行く……まぁ、良いか(爆 >面白かった、次も楽しみ。 >詩子も祐一の妻に 5/30  楽しんでいただけて幸いです。えぇ、次も頑張ります。  加えて詩子さん、相沢家入りの応援が2人目ですね。  人気有りますね、詩子さん。驚きです。 >読者が楽しみにしてるのは、ゆーろさんの書いた物語なので、ゆーろさんの書きたいことを書くのが >一番だと思いますよ。続きも楽しみにしていますね。 5/30  お気遣い、感謝です。流石に筋は曲げません。  話の筋は決めてしまってますから、今からかえるの大変ですしね(苦笑  ただ、細かい所は影響されるかもしれません。細かい所なので軽微だと思いますが。  次も、がっかりさせない様に頑張りますね。 >名雪には敗北がお似合いです 5/30  えー……コメントし辛いですね。一方的に言われても困るんですけど、と言うのが正直な感じです。  確かに、私の書いている名雪さんは気に入らないと思います。  でも、私はどのキャラにも愛着を持って書いています。ですから一方的にそう言われても……その、困るんですね。 >あ、まーーい!(某お笑いコンビ風に)今回の拍手の話はとても甘い話でした!けどとても面白かったです! 5/30  恥ずかしい思いをした甲斐がありました!  かなり書いてて恥ずかしいんですよ……今回のSSSは、救われた感じがします。  えぇ、楽しんでいただいて本当に感謝です。 >ランダムと言われたものが1〜5と順番に表示されるのはなんだか嬉しいです >それと、北川夫妻の普段の働きぶりとかももっと見てみたいです 5/30  オー、凄い幸運ですね。番号の振りは適当と言いますか、私の気まぐれです。  でも、表示される順番は私のせいではありませんので(笑  北川夫妻はちょっと先に出る予定があるので、そのときにでも書きたいと思います。 >詩子かわいかったよー 5/30  可愛かったですか……ありがとうございます。  詩子さん、人気だなぁというのが私の受けた印象です。  彼女はひょっこり出てくる可能性高いですよ? なんて意味深なことを書いてみる。 >名雪と有夏の親子対決が見たいです! 5/31  難しい事を。どうしよう……間接的には対決はするかも。  あやふやな事を書いて申し訳ありません。直接対決は多分、無理……かな?  細かい部分に有夏さんが入っていますから、今はなんとも言えないです。  SSSでなら、可能かもしれませんけどね。その場合は対決というよりも訓練と言った感じですが。 >祐一側に死者が出ないことを希望しています…(次回もがんばってください) 5/31  私は基本的にハッピーエンド主義者ですから……人死には苦手といっておきます。  でも、必要なら……と言うことも有りますので。無責任な発言申し訳ないです。  次回も楽しんでもらえるように、頑張りますね。 >祐一と名雪、例えるなら祐一がサザビー、名雪が旧ザクです。 5/31  えー……格が違うといいたいのでしょうか? これもコメントし辛いなぁ(苦笑  才能のベクトルが違うのですから、格がどうこう言うのも違うような気がします……  私の書いている名雪さん人気無いのは解ってますが……それでもなぁ……  これでお返事終ります。次も頑張りますね、ゆーろでした。


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。
     今回はイレギュラーな戦闘でしたが、それでも祐一が接触。  以降明確な目標にされそうですよね。(高橋嬢からも  今回彼は悪役っぽかったなぁ。  まぁ聖ジョージ部隊からの視点ですので仕方なかったのですが。
     香里は何とか攻撃するところまできましたね。  祐一と同等以上の経験値ではないでしょうけど(境遇も違うし)、やはり修羅場を潜っただけはあったんですな。  これを機にまた訓練に熱が入るんでしょうね。  まだまだ祐一も本気じゃないですし(例のシステムもある)、どうなる事やら。  前話から続いているなら、今回彼が乗っていた機体は本来とは違うクラウ・ソラスでしょうし。

     SSSでのコメントにお困りなようですね。  作者にとってSS内の登場人物は我が子同然です。  あまりキャラを中傷するようなコメントは控えて頂きたく存じます。


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

     感想はBBSかメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)