心が、何も感じなければ。辛くはない。 私が何も気が付かなければ。苦しくはない。 心を鈍くしろ。そうすれば、辛いなどという感情から解き放たれる。 何も感じるな。そうすれば、苦しまなくてすむ。 生きる為に、何も感じるな、生きる為に。 そう思っていた。それでも、そう考えても全てが私を蝕んでいたあの頃。 いや、まだそれらに蝕まれている。 お父さんが私をそこから出してくれた。 私の知らない世界を見せてくれた。 光に溢れ、こんなにも眩しい世界を。 今まで知っていた所など比べ物にならないくらい綺麗な世界を。 色に溢れて、感動的な世界を。 私は戸惑った顔を時々見せるかもしれない。 でもそれは、お父さんに向けての顔じゃない事は覚えていて欲しいよ。 私は感謝しているの。 あの場所から私を連れ出してくれた事を。 私に、何も無かった私に涙を流してくれたことを。 私に、温かい感情をくれたことを。 だから、困った顔をしてもお父さんのせいじゃないんだよ。
 
神の居ないこの世界で−A5編−


→交差が終った時。反省を要求します(秋子談)

     港と、孤児院を曲りくねりながらも繋ぐ道。  そこで、秋子と真琴は待っている。祐一が向かってくるのをだ。  美汐は既に港に到着しており、後は祐一を待つのみだった。 「来る……狐は定位置についてください」 『了解!』  秋子はそう静かに呟いた。  真琴は指示通りの位置に静かに移動を開始する。  それに対して、補助AIの素戔嗚が理解ができないと言う感じで合成された音声を発する。 『姉御……まだレーダーには写ってませんぜ?』 「私には解るの。後少しで来るわ」 『これが愛の絆ってやつっすか……AI風情に解らんちゅー事ですねぇ』  秋子はクスリと笑う。確かにそうなのかもしれないと心の隅で思う。  しかし、今は目の前の出来事に集中する為にその言葉を隅へと追いやった。 『レーダーに感、識別は剣』 「槍、応答してください」 『すまない、手数をかける』 「言い訳は後です。撤退します」  秋子の目の前でクラウ・ソラスがゴキャンと音を立てて、体勢を崩した。  一瞬だが声が出ない秋子。だが、それで思考が止る事はない。  まだ想定の範囲内だと、プランを選び出す。 『あーほら。限界だって』 『すまないな、天照。香里の一撃か……』  香里の放った打撃のダメージが足首及び膝の関節を駄目にしていた。  ここまでもったのだって奇跡に近いかもしれない。 「相手は聖ジョージ部隊ですか?」 『同じタイミングで動いたらしい』 「全く……余り相手にしたく無いですね」  秋子は秋子で、その事実に驚いていた。  一番相手にしたくない部隊である。  もっとも、逃げ切れば仕掛けては来ないだろうが、それも危うい。  本来なら、最大戦速で逃げる所が出来なくなっている。  1度もしくは2度位、交戦を覚悟しなくてはいけなかった。  秋子はとりあえず、元からこれで行くというプランに修正を加える。 「……では囮役は私がします。槍はこれを持ってこの位置に。素戔嗚、ライフルを手渡して」 『回避しながら、敵を誘導ってところっすね? 姉御』 「えぇ。そうよ、素戔嗚。貴方のテストも兼ねているから、解体されたくなかったらへまをしないことね」 『ひえー、それは怖い怖い』  ライフルを祐一に手渡しつつ、盾を構えるリタリエイター。  祐一はそれに対して、素直に従うしかない。  何故なら、右足が完全に駄目になっているためだ。  機動力の無いドールなど、的にしかなら無い。 『……私、そんなに優れた火器管制もって無いわよ?』 『大丈夫だ』 『なら良いんだけどね……』  片足を駄目にしたクラウ・ソラスは、ライフルを杖の様にしてゆっくりとした動き(それでも最大の速度)で移動する。  秋子は素戔嗚に経路を指示しながら、次来るのがどういった方向性のドールが来ても良いように対応策を考えていた。 (出来れば、γ隊の観測主辺りだと楽で良いのですけど) 『解体されん為に……頑張りますかぁー』  やる気の無い素戔嗚の声に眉をしかめる秋子。  出来の悪い生徒を持った先生の気分だった。
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     さて、場面は援護を任されたγ隊に移る。  ライフルを持つ1機を囲むようにマシンガンを持つ2機が並んでいた。 「さて、制圧の方は滞りなく終ったようだ」 『そうですね、では遭遇した黒い機体の追撃に移りますか?』 「気が進まん」  ライフルを構えていたヒュントはライフルを降ろしながらそう答える。  それに対して、観測主2人の反応は悪い。 『何故ですか?』 「追う理由が無い。加えて、あれほどの連中が考えなく仕掛けるとは思えない」 『ですが、逃がすべきではありません!』  若い2人を押しとどめるのは無理かと、ヒュントは判断するしかなかった。  しかし、行かせて良いか判断がつかない。 『γ、聞こえる?』 「はい、聞こえています。隊長」  いきなりの通信でヒュントは驚いたがいつもの調子で答えていた。  名雪の声だ。何処からと言うのは判らないが、多分、施設からなのだろうと見当をつける。 『多分、観測主の2人がごねていると思うけど、追わせても良いよ。ただし、逃したらファーム行きって伝えて』 「だそうだ……聞いていたな?」 『『はい!』』  機体を翻し走り出す観測主達の機体。  2機が一斉に祐一を追うために走り出した。 「良いのですか?」 『うん、ファームで鍛えなおして欲しかったからね』 「しかし……」 『相手は平定者だから、死ぬ思いはしても死にはしないよ。そこら辺のテロリストじゃないからね』 「了解しましたが……」 『今回の経験はね、うちの部隊にとっては良い切欠になるの』  名雪の一言にヒュントはとりあえず納得する。  とりあえず、自機を操って帰還を開始した。  もちろん、レーダーで周囲を確認しながらである。  あれが若さかと、苦笑しながらヒュントは思っていたりした。  それが羨ましいと思うか思わないかについては不明だが。
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     祐一が定位置につくのを待ってから多少の速度を出して撤退をしていた秋子。  そのレーダーに新たな輝点が2つ。追撃してくるにしては微妙な人数。  これだけで済めば良いと、秋子は願わずには居られない。 「素戔嗚、本番です」 『あいさー、いっちょやりますかぁ』  やる気の無い返事。実戦なのに緊張と言う物をしないのかと秋子は溜息を吐く。  もっとも、相手は戦闘補助AI、緊張するような物ではなかった。  決められたアルゴリズムと数値計算。  画像と音声のなどの様々で複雑な情報解析の元で行動するのだから秋子の感じたものは見当違いな物なのだろう。  なまじ人間臭さを持っているとそういったものを感じてしまう。 『舌を噛みますから、口は閉じててください、姉御』  瞬間的に2機に振り向き、合成された音声が流れた後に、機体が猛然とバックステップを刻み始めた。  盾を前面に構えて、銃弾を盾に受ける。  ジグザグに下がっていると思えば時折ランダムに変えるその動き。  祐一の動きに舞そして、浩平、留美の動きを足し合わせて割ったような動きだった。  秋子はなれない動きに必死になって、体をコクピットに固定しながら戦略画面を注視していた。  激しい上下運動、急激な体捌きによる内臓にもろにかかるG。  あっという間に、胃がむかむかして来る秋子。  Nドールとは違う振動に戸惑っていると言った方が良いのかもしれない。 『狙いが正確やねぇ』  追われる立場の素戔嗚がそう呟いた。投げやりと思われるかもしれないが、しっかりと仕事はこなしている。  盾を撥ねる弾丸の音。ぎゃりぃ、と装甲を削られる音。  断続的にそんな音と、激しく動く関節などのアクチュエータの音がしている。  秋子も表示される情報を見て同じうような思いになっている。  相手は的確に動きを止めようと狙いを絞ってきていた。  しかも、マシンガンなのに無駄弾を撃つ事が少ない。  フルオートで撃つ様な事をしていないのだ。  これで、秋子の予想では観測主なのだから、隊全体のレベルの高さが解ると言うもの。  盾で弾丸の直撃を避けてはいるが、それでも、装甲はどんどん削られている。  加えて、相手との距離を詰められているのがわかる。  距離が近づくにつれて、相手の銃撃の精度がどんどん上がっているっている事も解った。 『遺憾ながら、これ以上は致命的なダメージを貰わず行動するのは無理やねぇ』 「……はぁ、そんな所でしょうね」  秋子は、吐きたくなる衝動に耐えながら、呻く様に呟く。  事実、初めての実戦にしてこの状態は成功と称しても良いだろう。  追撃してくるのは世界最強の部隊。  しかも、こちらは背後を見せずにバックステップのみで対応している。  向こうに距離をこれ以上詰められれば、どうしようもない事くらい秋子にも解った。  もし、単独で逃げていたら、まさしくやられると言う事も。 「ですが、よく頑張りました」 『これも計算のうちですぜ、姉御』  最後に大きくバックステップをする素戔嗚。  その距離を詰めようとしたとき、素戔嗚の斜め後ろの左右から小さく発砲音がする。  ほぼ、同時に放たれたその音は2つ。祐一と真琴の十字砲火だ。 「さすが、狐に槍」  左斜め後方から飛んできたライフルの弾で追撃してきた1機の腹部が貫かれ、大きく火をあげる。  右斜め後方からの弾丸は大腿部に当たって、装甲をへこました。  目の前の獲物を仕留められると思っていた矢先の出来事で反応が遅れた感じの2機。  ちなみに、左側が真琴で右側が祐一である。  倒れ込む、前側にいた1機。後方に居たもう1機は、瞬間的に機体を翻そうとしていた。  素戔嗚は盾を投擲して、瞬間だが隙を作る。  盾を避ける動作をしてしまう、もう1機。それが致命的だった。  その隙を逃がさないようにまたも2発の弾丸が飛ぶ。  排莢、次弾の装填の時間は十分にあったのだから。  弾丸は片方は先ほどと同じように腹部を貫き、もう一つは頭部を潰していた。 「ご苦労様です、素戔嗚」  秋子は動力反応が無いのを確認してから労った。  盾を回収するように指示をして撤退に移る。 『どうでしょーか? 姉御』 「もっと、中の人に配慮が必要ですね」 『それは保証できねぇ』 「吐きますよ?」 『それは、勘弁……』  そんなやり取りをしながら、真琴と祐一に撤退の指示を出す。  ただ、祐一のクラウ・ソラスは片足が駄目になっているので動きが鈍い。  追っ手が来るか来ないか、情報が少ないだけに不安になったその時、通信が入ってきた。 『はぁい、今どちらに居ますか三つ編さん』  詩子の声だ。それが秋子の元に直接はいってきている。  素戔嗚にクラウ・ソラスを支えて少しでも早く戻れるように指示しながら通信の回線を開いた。 「怪盗さん、今居る場所を暗号化して送ります」 『そうしてくれると助かります』  秋子はコンソールを忙しく打ちながら、暗号化したデータを送る。  しばらくして、詩子の方から同じようなデータが帰ってきた。  暗号を解読して、そのデータを開く。  そこには、現在居る地点から港までの道が記してあった。 「これは?」 『私が情報操作を出来る道です。ここを通れば、無かった物として扱えます』 「貴女の立場は大丈夫なのですか?」 『元々は私のミスですしねー。それに、自信が無ければこんなことしませんよ』  詩子はそういってからからと笑う。  それを聞いて、すぐに指示を出す秋子。  以降は追撃されるようなことも無く、無事撤退できたのだった。
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     祐一が格納庫に降り立った時、目の前にいたのは真琴に秋子、そして美汐だった。  特に秋子は、怒っている雰囲気を隠そうとしていない。  表面上はただ、困ったように頬に手を当てていた。 「すまない……」  パン、と祐一の頬に平手が飛ぶ。  秋子が頬に添えていた手が祐一の頬に飛んでいた。 「祐一さん、私たちはそんなに頼りないですか?」 「そんなつもりは……」 「今度から、そんな事しないで下さい……一人で背負い込める物ではありませんし……それに」  祐一も秋子の言いたい事が解っている。  それに反省もしていた。熱くなりすぎていたと。 「すまない」 「はぁ……次はしないで下さい」  これでお終いという感じで秋子は雰囲気を和らげる。  美汐も、溜息を吐きつつ頭を振り問い詰める事を諦めた。  いつもの事ではないが、秋子の行動を見る限り祐一は反省していると判断できるからだ。  真琴は雰囲気が柔らかくなった事に安堵の溜息を吐く。 「あの2人は?」 「今、聖先生が診ています」 「ありがとう……ちょっと行ってくる」 「付き添いは必要ですか?」 「気持ちだけ、頂いておきます。秋子さん」  祐一はそう言って、医務室へと足を向けた。  残された3人は機体の細かい片付けを開始する。  医務室で祐一が目にしたのは自分の小さな頃に重なる子供一人。  そして、美坂栞の面影のある子供だった。  2人はクローンと呼ばれる存在。祐一が真っ先に動いたのは祐一の遺伝子がそれに利用されているのを知ったからだ。  その子供2人は祐一を見て絶句している。 「初めまして、相沢祐一だ」 「……ジュピターのオリジナル」  聖は2人の体を診察しようとしていたが、拒否されて辟易している所である。  祐一の登場で少し風向きが変わると思って、多少だが安心していた。 「2人は! マルスとユピテルは!?」  少女が祐一に掴みかかる。  少年は祐一を見て、何も行動を起こせないでいた。  祐一は掴まれたままで、状況を説明する。  その説明を受けるが徐々に力を無くしてへたり込んでしまった。 「何で……」  自分達が居た環境が異常だったことは知っていたのか、祐一たちの存在はあっさりと受け入れている。  それに、片方のオリジナルが居るのだから、悪用も何も意味が無いと感じていた。  もし、クローンを作るだけならば大元が有るのだからわざわざ救いに来ないとも。 「すまない……既に残りの2人は聖ジョージ部隊に保護された後だった」  それに返事をしないが、祐一を睨む少女。  その時、船がごぅっと揺れた。攻撃とかではない、地震だ。  自然現象といえる。それに慌てる祐一に聖。 「拙い! 聖先生、ちょっとメルファの所に行ってきます!」 「頼んだ! 私は治療の用意をしておく!」  祐一は子供2人を置いてメルファの居る船室に走り出した。  子供2人も、祐一について走って医務室を出て行く。  メルファの船室は医務室の近くにある。  祐一がその船室の前に到着した時、ごんごん! という音が目の前のスチール製の扉を叩いていた。  内側から形が徐々にひしゃげ始めている。  明らかに、怪我を考慮しない叩き方。  祐一はその扉を無理やり引き開けた。  内側から獣のような勢いで祐一に体当たりをかますものが1人。  祐一はその体を掴み、両腕でしっかりと上から抱きしめる。 「いやあぁぁぁぁぁ! いや、いや! あぁ!」  抱きしめられて、動けなくなっていたのは年端も行かない少女だ。  髪を振乱し、獣ののような咆哮を上げて祐一からもがいて離れようとしている。  しかし、体格が違う。だから、離れようにも離れれない。  その少女が動けないと知り、口を大きく開いて祐一の首筋に噛み付いた。  祐一は一瞬顔を顰めたが、すぐにもとの顔にもどる。  そして、片腕で少女を固定して、残った手で背中を撫でながら優しく声をかけ始めた。  子供2人は何も出来ずに、ただ見ているしかなかった。  いや、何が起こっているのか理解出来ていない。 「大丈夫だから。もう、怖い思いをしなくて良いから……メルファ」  メルファはまだ噛み付いている。その勢いは首筋の肉を食いちぎらん勢いだ。  それでも祐一は顔色一つ変えずに、何度も何度も声をかける。 「大丈夫。もう、あんな思いをしなくて良いから。頑張らなくて良いから。安心して良いから」  何分ほどそうしていただろうか。  メルファがぽろぽろと泣きながら、口を祐一の首筋から離した。  首筋の歯形からは血が少しずつ流れ出ている。 「ごめんなさい……ごめんなさい……私、私……」 「怖い思いをしたんだろ?」 「お父さん……ごめんなさい……私……」 「手は、大丈夫かい?」 「痛いよね、痛いよね? ごめんなさい、ごめんなさい……」  祐一は少女を離しながらゆっくりと手を取り、怪我が無いか確かめていく。  左右の手を見てから、祐一はメルファに眼を合わせてゆっくりと話した。 「まずは、手の治療が先だ。一緒に行こうか」 「でも、お父さん。血が……」 「俺は大丈夫。それに、一緒に医務室に行くから」  医務室に連れて行かれるメルファ。  つられて、一緒に歩く保護された、少年と少女。  結局、メルファと一緒になって子供2人は聖の検査を受けたのだった。
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     さて、少女達が保護されて2日。  祐一には口も聞かない少女が甲板で風を受けている。  彼女が物思いにふける場所は、決まって甲板だった。  船はとっくに出港しており、今はエリアKに向かっている。 「この前は見っとも無い所を見せちゃったね」 「貴女は……」 「私はメルファ。よろしくね」  右手には包帯が巻かれている、メルファ。  ハイネックのシャツを着て、肌の露出を極力抑える服装。  下もスカートではなくて、白い綿パン。  少女と同年代と思われた。彼女の両手には白い手袋がはめられている。  そのとき、少女はなんとも思わなかった。その姿の意味に。 「私は……マーキュリー・S・フォール。マリーで良いよ」  メルファは力なく、いや、先日に負った怪我が痛いのか、表情が沈んでいた。  マリーは一体何の事だか判らない。先ほどのものは演技には見えなかったが、信用する決定打にもならなかった。  だから、話しを聞こうとする。情報を集める為に。  しかし、マリーが口を開こうとした前にメルファが口を開いた。 「私はね、ある特定周期の音を聞くとフラッシュバックを起こすの」 「フラッシュバック?」 「その音をスイッチにして……嫌な、本当に嫌な事を無理やり思い出させられるの」 「え? それはどういう?」 「言っておくけど、お父さんは関係ない。お父さんは私を助けてくれたの……貴女と同じように」  ピキ、とマリーの顔が強張った。  そして、強い口調で言い返す。 「私は……助けられたわけじゃない! 助けてくれるのなら! 何故、全員じゃ無いんですか!?」 「全員?」 「まだ弟に妹が!」 「あなた、幸せね」  怒っていて、メルファの変化に気が付けないマリー。  嫉妬に近く、そして冷たい目でマリーを見るメルファ。  マリーは襟を掴み上げて、メルファに詰め寄っていた。 「私のどこが! 何故、どうして! 幸せに思えるのですか!?」 「ねぇ、心配する気持ちが何で解るの? ねぇ、貴女はそこまで自分を持っているの?」 「何を当たり前の事を!」 「私には、それは当たり前じゃなかったの。何? 貴女は自分が護れなかった事をお父さんのせいにしているわけ?」 「……それは」  襟を掴んでいた力が弱まる。  ようやく、意識が冷静になってきたのか手を離した。  それを見つめるメルファの目は冷たい。 「悲劇のヒロインにでもなった気? 貴女の不幸自慢はここでは可愛いものよ」 「じゃあ! 貴女はどうなんですか!?」  ヒステリックに叫ぶマリー。  メルファはポツリと呟いた。 「これを見て」  外した手袋の先。そこにはピンジャックを差し込む穴がある。  それは生々しく、どういった人間であるかを証明するかのように存在していた。  メルファはマリーの手を取って、胸に手を当てさせる。  マリーの手には何か線の様なものが当たった。  それはメルファの体を舐めるように配置されている。  1本ではない。かなりの数の本数が確認できた。 「これ……は?」 「体中に埋め込まれてるの。もう手術をしても取れない、私の体に刻まれたもの」  胸から下と上に伸びる線のような何か。  それは体中を走っている。終着点になっているところにはピンジャックを差し込む穴が必ずあった。  その線が何を意味しているか、それが解るマリー。 「何で……貴女はこんなものを?」 「蠱毒って知ってる?」  蠱(こ)という文字どおり。  皿の上や壷の中に大量の「蜘蛛」や「百足」その他の毒虫類を入れて、互いに共食いをさせる。  最後に生き残ったものを使役する。そういった類の呪いである。 「私はね、あるエリアのその最後に残った蠱なんだよ?」 「そんな……」  嘘です。と言いたいがその言葉が続かない。  メルファの体に処置されている理論があると一度だけ聞いた事がある。  ただ、それが本当に人に行われるなんて知らなかっただけであった。 「貴女は人を殺した事あるの?」 「私は……」 「私は殺さないと、生き残れなかった。だから殺した。でも、許されるとは思わない」  表情が無くメルファは続ける。マリーを睨むわけではない。  感情の欠片も無い表情でメルファはマリーを見ていた。 「地獄と言うものがあるなら、私はきっと。そして、お父さんも、きっと」  ごくりと、マリーは息を飲む。  次の言葉は容易に想像が出来た。だが、それは聞きたくない。
    「地獄に落ちる」    
     その声は酷く大きく聞こえる。  耳を塞ぎたい衝動がマリーの体を支配しているが、それは許されていない。  最後まで、その血を吐くような告白を聞かなくてはいけないと言うものに囚われていた。 「私もお父さんもたくさん人を殺しているから。この手は血にまみれてるから。  絶対に、もし、地獄というものが有るなら、そちらにしか行けない。  お父さんはね、私たちの研究のプロトタイプ、相沢祐治の研究の生き残りなの」 「ですが……私は……私は……」 「羨ましい……家族って言う物を盾にして逃げれる場所があるんだから……  私とファイにはそんな場所は一欠けらも無かったのに。逃げる場所が無くて、相手を殺すしかなかったのに!」  メルファは言ってから、急に顔を上げて申し訳無さそうにマリーを見る。  マリーの顔にも同じような表情が浮かんでいあるが、メルファはかなり申し訳無さそうな顔をした。 「ごめんなさい……八つ当たりだよね……」 「いえ、私も……もっと頭を冷やしてみます」  謝るメルファにマリーはそう返す。  メルファに細かい事を聞きながら、マリーは次にどうしようか決めるのだった。 To the next stage

     あとがき  うむぅ……後半オリキャラオンリーになってしまいました。どうもゆーろです。  しかも話が暗いし……何か明るい話題はないのか? などと自分を問い詰めてみます。  さて、祐一君が怒っていた理由はまぁ、解ると思いますが……自分のクローンのせいです。  無断で自分と同じような存在を作られるのは気持ちの良いものではありませんからね。  えー……詳しい論議は避けるとして、次は名雪さんサイドの話になるかと。  では、拍手のお返事をしたいと思います。 >名雪みたいな戦略タイプは崩れだしたらもろいものです 6/5 >やはり、名雪は勝てないと思いますよ。読み違い(自分を過大評価?)してるから >聖ジョージ部隊は敗北がよく似合う。 6/6  日付を跨いでいたんですが、たぶん……いえ、おそらく……同じ人だと思うので一緒にお返事します。(自信無いですが  何だか、言いたいことも繋がっていますしね。でもやっぱりコメントし難いなぁ(苦笑  変な事を書くかもしれませんが、SSを書いてみてはどうでしょう?  かなり、いい加減なことを書いているかもしれませんが、私はSSを楽しんで書いています。  読んで頂いて、反応があると更にうれしいのですけどね。  話がずれましたが、もし私の書き方に不満があるのでしたら、自分で物語を補完してみてはどうでしょうか?  私のSSの書き始めもそのような経験からでしたし。もっとも、私の場合は変な方向に捻じ曲がりましたが(笑  少なくとも、私は他人に強制されて書けるほど人間が出来ていませんので……  望んでいる答えを書けない事に関しては、申し訳ないです。 >ゆーろさんの名雪も好きですよ♪ 6/6  多分少数派の意見ありがとうございます。私の名雪さんは好きですよ。  基本的に嫌いなキャラは居ませんしね。全員に満遍なく登場機会を……と思っているのですが。  どうなっているでしょうね? うん、巧く書けていると良いなぁと思ってみたり。 >受付嬢がかわいいです!一弥の正体を知った時の反応とかいつか見たいと楽しみにしています。 6/6  なんて、タイムリーな拍手コメントなんでしょう……  SSSの入れ替えた内容ズバリですよ(笑  今週はもう入れ替えてあるので、どうぞ見てください。  ちなみに、残弾が無くなったので次回は未定です(苦笑 >極端な意見は同一人物の仕業では?気にしないのが吉。頑張ってください!! 6/6  気にするなといわれても、気になる。人間だもの、ゆーろ。お心遣い感謝します。  私は気の小さい人間でして、いつか胃に穴が開くんじゃないかなと思ってみたり。  戯言は放置してください。お願いします。  では、次回に向けて頑張りますね!  >他のSSS見てて思いましたが名雪と秋弦が出会ってたらどんな反応するのか気になりますね。 6/8  確かに見てみたい気もしますね。でも……その際に秋子さんの立場がどうなるか  そして、祐一君がどうなるかですね。難しいなぁ……面白そうだと思うんですけど。  うーん、どうしよう。うむ、何か閃いた拍子に書く可能性、大ですね。  期待しないで待っていてください。お願いします。  では、頑張りますので拍手と読んで頂いてありがとうございます。ゆーろでした。


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。
     子供たち精神年齢高いなぁ。  今回は彼女たちが主役でしたか。  平定者のやられキャラ2名は触れない方向で。  多分二度と出てこないでしょうから。 
     助けたのが祐一と栞のクローンですか……。  前者はともかく後者はどうなんでしょう?  パイロットとして栞って言うのはあまり技量高くなさそうですけど。  残りの2人は誰のクローンなのでしょうね。  祐一がいるなら舞と、案外名雪とか?(爆  聖ジョージに保護されたそちらですが、次の話で触れられるのでしょうか。 

     まぁ今回光っていたのは素戔嗚でしょうね。  AIのくせに軽すぎるね彼は。  ソフトウェアに関しては平定者の方が上ですか。 


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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