私は愚かだ。 そう、この言葉ほど私にピッタリな言葉は無いだろう。 この状況を見て、自分でも呆れるほどそう思ってしまう。 私は愚かだ。 目の前に見える、自由という名の安寧の牢獄。 それを見てわざとそれに入る機会を潰してしまった。 私は愚かだ。 私が選んだのは、戦いと言う名の怨嗟の牢獄。 しかし、それ以外に私に何が出来るのと言うのだ。 私は愚かだ。 私から戦いをとったら何が残る? 何も残りはしない。それが私の殆どを構成しているのだから。 私は愚かだ。 戦いが好きなわけではない。 むしろ嫌いである。でも、それ以外に何も無い。 私は愚かだ。 ただ、戦いは楽しい。 既に私は戦場無しでは生きられない。 私は愚かだ。 弟まで、私の我侭に付き合わせてしまってる。 ああ言えば、絶対に弟は付いてくるのが判っているのに。 私は愚かだ。 これから先、怨嗟の道を、茨の道を歩く事に落胆している自分が居る。 弟さえも巻き込んでいる。 私は愚かだ。 苦しいのが解っているのに、叫べない自分が居る。 悲しいのが解っていて、泣けない自分いるのに気が付いている。 私はなんて愚かなんだろう。
 
神の居ないこの世界で−A5編−


→大きな傷跡とそれを覆うバンドエイド

     彼女達が案内されたのは、何故か名雪の部屋だった。  2人は保護はされずに何故かここに案内されている。 「はじめまして、だよね? 私は水瀬名雪。ここの隊の纏め役をやらせてもらってるの」 「ご高名、かねがね聞いています。マルス・S・フォールです」  こちらに来たのは姫(牧田美樹の娘)のクローン。  まさに生き写しといっても差し障りが無い位だ。  ただし、順調に年齢を重ねているのは確か。  もし姫が生きていたら今見ている子供が美樹には居るのだろう。  姿は姫の生き写し、その後ろに隠れるようにして祐一と香里の子供のような感じの子供が居る。  祐一と香里の中間のような子。髪はウェーブが少し入っていて短い。  その子はマルスの後ろに隠れて、前には出てこなかった。 「ユピテル、貴方も挨拶なさい」 「う、うん……ユピテル……ユピテル・S・フォール」  マルスの影から祐一と香里の遺伝情報の組み合わさったクローンがそう言った。  姉弟のように見えるが、実際には血縁関係にはない2人。 「さて、2人がここに居る理由はわかってるよね?」 「さぁ? 馬鹿な私には見当もつきません」 「保護された、その事実はわかっているよね? 貴女達は被害者だと言う事もわかってる?」 「その程度でしたら。やはり、あの人たちは逮捕されたわけですか」  マルスはそう言い放った。自分達の状態が異常であるとは知っていたのだ。  それでどうこう出来る程の自由があったとは思えないが。  手元にあるデータを見る限り、この2人はまだ、戦闘に向いている。  それでも抵抗しなかったのは何か理由があるのかと名雪は不思議になった。 「貴女達の事はある程度こちらでもわかっているの。どうして、反逆しなかったのかな?」 「……戦いが楽しかったから。では駄目ですか? 戦いは好きではありませんが、楽しいんです」 「楽しい?」  怪訝な顔をする名雪。  マルスは表情を変化させずに答えた。 「自分が自分でなくなる感覚、圧倒的な高揚感、それは戦場でしか味わえないんです」 「その話はこれで良いよ……本題を切り出すけど。貴女達には選択が出来る。普通の生活を望むか、戦場を望むか」  聞くに堪えないという表情で名雪は話を切り替える。  マルスは面白そうに、ころころと笑いながら答えた。 「ふふ、名雪さんって面白いことを言うんですね」 「そうかな?」 「私が、戦うことしか知らない人間がどうすれば普通の生活に溶け込めると言うのですか?」  あらゆる笑みを含んだ表情でマルスは言う。  自嘲、嘲笑、心の底から面白いと言うように。 「羊の群れに、狼は紛れ込めないんですよ?」  名雪にはその表情は泣き笑いのように見える。  しかし、その表情は次の一言で静まった。 「だから、私は戦い続けます。どこであろうとも」 「そっちのきみは?」 「僕は……僕は……」  いきなり名雪に言葉を振られて、慌てるユピテル。  姉であるマルスの袖をしっかりと握って姉を見上げた。 「私に聞かないでね。でも、私と来るなら私はユピテルを受け入れてあげるわ」 「僕は……普通の生活なんて要らない。お姉ちゃんが受け入れてくれるならそれで良いや」 「後悔は無いの?」 「うん。だって、お姉ちゃんが一緒なんでしょ? それに……」  照れるようなそして、誇らしげな笑みを浮かべるユピテル。  それを疑問に思ったのは名雪だけだろう。 「それに?」 「僕から戦いを取ったら何も残らないから」  それを聞いてから、後悔は無いのか聞く。  後悔があるのなら進めないと言う名雪。しかし、それでも、2人は後悔は無いといった。  名雪は内線を取って、事務員に2人を呼ぶように手配をする。 「美樹さんを……うん。あとは、あゆちゃんも呼んで」 『解りました』  手配が終ってから2人に向き合う。  これからの事を説明を始めるのだった。 「じゃあ、説明するね。2人は私の部隊に配属されて牧田美樹中尉の指揮下に入ります」  名雪は写真を見せながら、2人に説明をする。  当然のことながら、それ以外にも自分達の身分証明など細かなことを説明した。  色々な疑問を出す二人。疑問に丁寧に答える名雪。  やり取りは結構長くかかった。 「ドールに関してはこっちで用意するからあんまり気にしなくて良いよ」 「名雪さん、私達を子ども扱いするのは辞めてください」 「解ったよ。じゃあ、マルスとユピテルでいいかな?」 「失礼します」 「あゆちゃん良く来てくれたね」  扉がすっと開き、あゆと美樹が入ってきた。  あゆは、姫に対して面識が無いので驚きはしなかった。  それ以前に任務で保護すべき対象として知っているのだから驚きは無い。  後ろに立っていた美樹はへなへなと床にへたり込んでいた。  その表情に浮かんでいるのは驚愕。  名雪は自分の横においてあったカメラからディスクを取り出した。 「あゆちゃん、2人を基地に案内してあげて。あとはこれを石橋さんに渡してくれるかな?」 「え? あ、うん」 「あ、大丈夫。見れば渡して欲しい相手がわかるから。それと、見返りは求めて無いって言ってね」  名雪はあゆにディスクを渡して、行って良いと合図を出す。  間抜けな返事をするあゆ。 「えっと、マルスちゃんとユピテル君だっけ?」 「子ども扱いしないで下さい」 「うぐぅ……と、とりあえず、案内するよ」  冷たい反応を返すマルスに対して、困惑するあゆ。  あゆはディスクを収めてからマルスとユピテルの2人を連れて部屋を後にした。  床にへたり込んでいる美樹を残して。 「……何で? 何でここに姫が?」 「美樹さん、とりあえずこれを見てね」  そうして渡したのは先の作戦で制圧した施設の概要。  行われていた計画の内容に元となった遺伝子の情報だった。 「見ながら聞いててね、あの2人を貴女の小隊に編入します」  美樹は一心不乱に文字を追っている。  何かの間違いであって欲しいと。  彼女の死んだ子供がもし生きていたら、ちょうどあのような歳になっているだろう。  だが、生きている事は絶対に無いと知っている。  目の前で死んだのだから。  名雪はそんな美樹を見ながら説明を続けていた。 「……何故、私の小隊なのですか?」 「小隊の空きが無かったじゃあ納得できない?」  その言葉に納得が出来ないと言う表情をする美樹。  名雪は両手を上げて溜息を吐いた。 「じゃあ、言うよ。美樹さん、貴女はそろそろ通用しなくなる。一人の限界がね」 「そんなはずは!」 「ある。確かに貴女は優秀。それは認めるよ。でもね、Ωは戦闘力でαに劣るし、使える場面も限られる」 「でも!」  両手を下ろして、正直困ったと言う顔をする名雪。  美樹はそれに対して睨みつける。もし、視線で人を殺せるなら大量虐殺間違いなしだ。  だが、名雪は怯まない。 「これからの戦いでは、美樹さんを使える場面が無くなっていくだけだよ」 「……でも」 「貴女は他人と組むと言う事を覚えないと、近いうちに使えなくなる」 「だったら! 他の人にしてください!」 「それでは、美樹さんは変らない。何度私が苦心していると思っているの?」 「それは……」  首を振って溜息を吐く名雪。  美樹は何としてでも、回避しようと必死になる。 「α、β、γ、全ての小隊と一度は組ませてる。でも、美樹さん……貴女は他の人を意識しなかった」 「次回は……」 「意識できなかったのに急にしろと言うのは無理だよね? それは今までの態度が物語っているよね?」  駄目を押すように、名雪は言う。  美樹は口を噤むしかなかった。身から出た錆とはいえ、納得は出来ないが。 「でも、あの子の場合は別。そうじゃないかな?」 「何で……何で……あの子なんですか……」 「だからだよ。ともかく、これは決定事項。異議があっても認めない」 「………………しかし」 「もし、嫌なら、隊をやめてくれて良いよ」 「…………………………了解」 「納得してくれてありがとう。安心して、貴女は小隊長。部下への指示は好きにして良いから」 「…………はい」  名雪は細かい事を美樹に伝えながら、美樹をなだめる。  美樹はしぶしぶだが、認めたのだった。  指示は自分が出すと言う約束を取り付けて。
    ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
     その頃、高橋は部屋に閉じこもっていた。  ショックというよりも何も考えたくない、何も行動したくない。というのが正確なところだろう。  食事にも手を付けずに、既に3日目。  香里はいい加減、頭にきていた。サンティアラと藤川を連れて高橋の部屋の前に居る。 「小池君、そこをどきなさい」 「……嫌です」 「これは私の隊の問題、貴方は部外者なのよ」 「幸尋は僕の、僕達の仲間です」  高橋の部屋の前にいる小池。  閉じこもった高橋の世話を無駄と知りながら毎日している。  もっとも、部屋の中に入って何かをするわけでなく、外から呼掛けて食事を運んでくる程度だが。  その厚意さえ、高橋は無駄にしていた。  香里も1日目は大目に見た。2日目も、まだ許した。  3日目になると、流石に怒りがわいてきた。何故引篭もるのかと。 「……藤川君、お願い」 「解りました。小池、命令だ。その場をどけ」 「だけど!」 「お前は高橋の何を知る? その全てか? 甘えるな!」 「一番辛いのは! 幸尋なんだよ!?」 「だったら、このままで良いというのか?」  言い争いを始める小池に藤川。  香里は部外者のような立場に追い詰められる。  2人は高橋のことを想っている。だが、その論議に高橋の意見は入っていない。  それが、余りに滑稽だった。 「ふふふ、あはははは! 小池君、貴方は面白いわね」 「何が可笑しいのですか!?」 「えぇ、ただ引篭もっているのはあの子の弱さよ。それを肯定して良いはずがない」  香里は睨みつけうように、小池を見る。  小池はその視線に耐えられずに目を逸らした。 「それで良いと考える貴方。あの子の為と言ってるけど、本当は自分の為なんじゃないの?」 「それは……」 「言い返せない時点で、半分以上正解なのよ。そこを退いて経過を見てなさい」 「はいは〜い、じゃあ2人は頭を冷やしましょう?」  その場に立ち尽くす小池。憮然とした顔をする藤川。  香里は小池を押しのけて、高橋の部屋の扉を無理やり開ける。  サンティアラはギスギスしている2人を連れてどこかへと歩いていった。  そんな事を気にせずに香里は部屋の中に踏み込んだ。  中は暗く、空気がよどんでいる。その部屋の端に小さくなっている高橋が香里の目に映る。 「……気分はどう?」 「……」 「私の声が聞こえているの?」 「……」 「いい加減にしないと怒るわよ?」  声にどんどんと怒りが混じっていっている。  それでも高橋は反応を返さない。 「ふぅ……予想はしてたけど、ここまでとはね」 「ミサか……さん?」 「ようやく気がついてもらえたかしら?」  香里が呆れた目で高橋を見ていた。  高橋は今まで何があったのか理解できないのか、視線がさまよっている。 「高橋さん、貴女は何がしたいの?」 「わかりません……」 「判らないくらいなら、ここを辞めたら? 強制はしないし、少なくとも今の貴女は邪魔よ」  高橋は黙り込む。口の中で言葉が繰り返されているが、その言葉は聞こえない。  香里は、それを苛立たしく思っていた。 「言いたい事が有るなら言ってしまいなさい。内側に閉じこもるのは迷惑だわ」 「何も知らないくせに……私が、私達の部隊がどんな仕打ちを受けたかも、あの黒い獣のせいで……」 「あら、貴女もエリアに裏切られたクチなのかしら?」 「ここが無ければ、私たちは存在できなかった! そんな事も知らないくせに!」 「私だって同じよ。エリアに裏切られてここが無ければ存在できなかったわ」  実際、高橋達は『狂気』を葬った事による風評被害のおかげでここに居る。  エリアOにおいて、『狂気』とはそれほど脅威の対象だったのだ。  当然のことながら、強すぎる部隊は疎まれる。  それが政権の安定していない時期で後ろ盾がなければ、尚更だろう。  実際、迫害を受けてそれを避けるためにこの部隊に所属した。  エリアに戻る事も出来ずに、そして他のエリアに移り住む事すら出来ない仕打ちを受けている。  だから、この部隊が彼らの最後の安息の地なのであった。 「私は必死に頑張った! でも、足りなくて、届かなくて!」 「貴女ねぇ……うじうじしてるのが、貴女の為になるわけ?」 「美坂隊長に何がわかるというんですか! 私の何も知らないくせに!」 「だから何?」 「裏切られた痛みも、捨てられる痛みも知らないくせに!!」  香里に掴みかかる高橋。香里は溜息を飲み込んでその手を振り払う。  そして、高橋の頬を張った。ぱん、と乾いた音がする。  高橋は香里の目を見て怯む。目で人を殺せそうだった。 「貴女が何を、そして、どうしてそんな戦い方をするのか、知らないわ」 「……」 「私は、貴女の覚悟だけは知っていた。その覚悟は一度の敗北だけで、捨てれるほど安い物だったの?」 「私は……私は……」 「そんな覚悟だったのなら、出て行って。それは貴女の覚悟じゃなくて借り物の覚悟よ」 「そんな……私の覚悟が借り物?」  力なく、床に座り込む高橋。  香里は襟首を掴んで無理やり立たせ、壁に叩きつける。  その掴んだ手は離さない。明らかに怒りが混じっている。 「貴女は言ったわよね? 私の何も知らないくせにって……貴女は私の何を知るの?」 「え?」 「答えなさい、貴女は私を怒らせたわ。私は裏切られる痛みも、捨てられた痛みも知っている」 「ぇ?」 「貴女は私の何を知るの? 答えなさい? 事の次第によっては、ここでその借り物の覚悟ごと殺してあげる」 「一体……なにが?」 「私だってね、裏切られて捨てられたのよ。命を助けてくれて人にね」  高橋は思う、ここで殺されてもしょうがないって。  加えて、何故こうも強い意志を持って生きていられるのかと。  私には無く、そして、羨ましい物だと。  どうして、私にはそんな意志が無いのだろうかと。  香里に掴まれた襟にこもる力が強くなるのが解る。  ギリギリと音を立てていた。しかし、高橋の痛覚はそれを感知しない。 「……貴女のような、借り物の覚悟で戦場に出て戦うなんて我慢できない! ふざけないで!」 「私の覚悟は……借り物なんかじゃありません!」 「一度敗れた程度で、引きこもるあなたは信用できないわ。どうやって証明するの?」 「それは……」 「だから借り物だというの。私は何度負けようが生きている限り諦めない」 「次は絶対に! 負けはしない! だって、私がそう決めたんだもの!」 「そう、じゃあ出てきなさい。良い物を見せてあげる」  香里は手をあっさりと離して部屋を出て行く。  高橋は弾かれたように出ようとして、ふらついて香里の腰にしがみついた。  体が消耗しきっていたせいもある。  そして、高橋のお腹から盛大な音、グーと言う音がした。 「……先に食事が必要ね」 「はひ……」  香里の腰の辺りに顔を埋めながら、高橋は返事をしていた。  ちなみに、高橋の顔は真っ赤だった。  先に食堂に移動する2人。  ちなみに、高橋の食欲は凄まじかった事は彼女以外の人間が目を丸くしていた事からもわかる。  3日間、何も食べていなければそうなってもしょうがない。  目の前には食器の山ができるくらいだ。よほど、飢えていたのだろう。 「よく食べるわね……」 「ふぁい?」 「良いから、ゆっくり食べなさい」  こんな会話のやり取りをしていた。  さて、食べ終わってから2人は格納庫横の資料室に足を向ける。  もちろん、香里の先導であった。高橋はとりあえず、ついて行くという感じでしかない。 「栞、資料室借りるわよ」 「勝手に使ってください! こっちは忙しいんです!」 「許可は取ったわ、行きましょ」  帰ってきた栞の怒鳴り声に、満足そうに頷く香里。  曖昧な笑みを浮かべる高橋に香里はそう言って、先を促す。  高橋には、なじみの無い場所である。入る事を躊躇っていた。  誇りっぽい匂いに、本棚に多く詰め込まれた書類。  本棚の端に申し訳無さそうに、映像関係の物が詰め込まれている。  香里は高橋を引きずりこんで、その中の資料をいじる。 「あ、あの……良いんですか?」 「良いのよ、責任者である栞の許可は貰ってるし」 「でも……」 「元は私の映像だから」  そういって香里は4枚のディスクを取り出した。  それを持って更に奥に進む。  進んだ先にはそれを再生する機材があった。 「さて、見せる資料はこれだけど、質問は後で受け付けるわ」  香里はそう言いながら、とある映像を再生させる。  それは猿飛の記録した映像と、試運転時に他の機体が取った映像、あとは対峙した時の香里機の映像だった。 「凄い……」 「このドールはね。約6年前つまり、3世代前の機体よ」  ドール自体の性能は2年に1度格段に上がる。  それはドールメーカーが努力している結果であり、2年に1度モデルチェンジを発表するからだ。  モデルチェンジされる以前の機体を何世代といって区別する風潮が出来上がっている。  6年の間に技術もかなり進み、ドールの性能は段違いに向上している。  そのドール自体の安全性も、性能も、武器の攻撃力も。 「そんな!?」 「こんな事に嘘を言ってもしょうがないでしょ?」 「嘘ですよ」 「嘘じゃないわ。装甲はない、バランスは最悪。普通に動くのは奇跡よ。とても戦場では使えないわ」 「でも、普通に……」 「あのね、これを操っている人が普通とは思わないで。天才よ、間違いなく」  動きだけを見れば、今の機体にも通用しそうな動き。  機動力に器用に動き回る丁寧な行動。そして、高橋は気がつく。 「天性の物よね。訓練をしただけじゃなくて元から才能というものがあったんでしょうね」 「私の動きは……」 「そう、貴女はこの機体のパイロット。相沢祐一に多少似た戦い方をしているのね」  それでも差異が数多くある。いや、似ているのは戦っている距離しかない。  あれほど高橋には精密で計算された動きは出来ない。  今の高橋から見れば溜息が出るくらい美しい動きだ。  その非人間的な動き、その体の運びが高橋には魅力的に写っている。  動きも、以前の高橋ならば魅力的に写らないのは想像に難しくない。  これを動きの大本にしてしまったら、留美の動きは完全に消えうせてしまうから。  今の高橋に魅力的に写っているのは矢張り、実力が欲しいからだろう。  1対多数でも負けない、そんな実力が。 「彼ね、私の命の恩人で、相沢祐治の研究所の生き残りなのよ」 「え?」 「とりあえず、貴女はどんな相手だったのか、それと、どうして貴女が負けたのかを考えなさい」  さらっと重要な事を言われた高橋。しかし、目が画面から離せない。  高橋は動きを見て、頭の中で自分の動きと重ねていた。  自分には無い強さ、集団でも、1対1でも負けない強さがそこにある。  手を伸ばせば届くと思われる所に。今はイメージに違いしか写らない。  でも、少しずつでも埋めていこうという意志がその瞳から見受けられた。  以前、留美の動きを真似ようとした頃の情熱がそこにはある。 「美坂さん、ありがとうございます」 「感想はどう?」 「驚愕です……ね」  高橋はそう短く言って画面に戻った。香里も一緒になってそれを見ている。  香里も一時期、祐一の動きを真似て行動してみた事があった。  それで技術的に追いつけるかもしれないと思って。  しかし、それは香里には向いていなかったの一言。  あの動きが天性の物と実感するだけだった。  訓練でどうにかなる、そんなレベルでは無い。  あれは、相沢祐一という固有の動きなのだと。  では、何故高橋にその映像を見せるのか? そこにも深い意味がある。 「あなたは、あの動きを自分の物に出来そう?」 「物に出来る……じゃないんです。物にするんです」  うわ言の様に呟く高橋。高橋は元々、後衛の人間だった。  それが、前衛の人間に転向する。  実際にはありえない事だ。向き不向きを考えずに軍は配置するほど愚かではない。  適正を見た上で配置を決める。元々は高橋は射撃にしか才能は無かった。  ドールとて無料では無い。損失を少なくする為に適正に才能はしっかりと見る。  やらせてみたら、前衛も出来ましたという事ではない。本当に前衛の才能は無かった。  しかし、今は見事に前衛である。しかも、銃も使える。高橋は好まないが。  留美の動きを真似た上で自分の信念にあわせた一番の形に変化させた。  ものまね、いや技術の吸収能力。一種の天才だろう。それに香里はかけている。  だからこそ、その映像を見せるのだ。技術的に更に、前に進む為に。 「美坂さん……惚れてもいいですか?」 「私にはそんな趣味は無いわ……」 「せめて、お姉様と呼ばせてください」 「嫌よ」  こんな会話をして、香里が溜息を吐いたのはしょうがない事だろう。  それと同時に元気になってよかったと思う香里だった。 To the next stage

     あとがき  えー、何だか嫌な事が重なって、書くペースが崩れてしまいました。どうもゆーろです。  プライベートな事なので、ここには書きませんけどね。  さて、今回は名雪さん側でした。次はどうしよう……  とりあえず、何とかしようと思っていますが……なんだか最近スランプ気味です。  色々と自分の中でも原因はわかっているんですけどね(苦笑    では拍手のお返事をします。 >goodでした 6/12  たぶん、SSSかな? 本編なのか、判別つきにくいですが(苦笑  でも、感想ありがとうございます。  次もgoodと言って貰えるように努力しますね。 >詩子さんを応援したい 6/12  詩子さん人気ですね。うん、流れ的に登用できる流れがあるので登場させようと思います。  先に本編ではないのが、申し訳ないと思いますが……どうなんでしょうか?  本編とSSSのどっちに需要があるか、悩む今日この頃です。 >リンカさんのかわいさははいっそ卑怯に思えるです 6/12  可愛いですか、卑怯ですか。ありがとうございます。  あのキャラを可愛いと行って頂いたのは初めてです。  うん、精進していきますね。もっと卑怯になれるように(笑 >秋弦もいいですがメルファが好みです 6/12  メルファさんが好みですか。ありがとうございます!  本編では暗い感じのキャラですけど、SSSではまぁ普通のキャラに分類される彼女ですが……  今回入れ替えたSSS(頑張りました……)に入っています。ぜひ読んでください。 >かわいい聖さんというのは反則だと思います 6/12  反則ですか? それは、どこの聖さんを言っているんだろう……多分sweet!sweet!sweet!シリーズかな?  あれは確かに可愛いのかな? 私は恥ずかしくてそれどころではなかったのですけどね(苦笑  可愛く書く事が出来るようにもっと頑張りますね。 >パパはねーおんなたらしだからなのー 6/12  違います(笑  ただ、祐一君はフェロモンを撒いているだけです(爆  でも、秋子さんは否定も肯定もしないので、事実なんでしょうね。 >詩子さんをもっとだして 6/12  本編では流れ的に登場させます。近いうちに実現できればなぁと思うしだい。  ただ、最近ペースが乱れてきたのでなんともいえません。  あまり期待しないで待っていてください。お願いします。  ちなみに今回入れ替えた拍手の一番最後に登場しています。 >私は、この作品の名雪は好きじゃないですね 6/12  好き嫌いは多分出てくると思います。私も、全部のキャラを好きになってもらえるとは思っていません。  それに、名雪さんと祐一君の立ち位置的に対極にあるキャラですからね。  性格的にも、これは名雪さんじゃないと思う方が多いと思います。受けとめ方は読み手それぞれと言う事でお願いします。 >やっぱり秋弦はかわいいですねー 6/12  ありがとうございます。可愛いと言われて嬉しいです。  本編には余り、登場する機会が無いので、せめてSSSで、活躍させたいかと。  といっても、次はいつになるか解らないのですけどね(苦笑 >以前名雪が「祐一以外で1対1なら負けない」と言っていたのが疑問なんですよね >クラウ・ソラスに乗った舞には勝てないような気がする 6/12  はい、疑問にお答えします。  基本的に舞さんは平定者の活動には参加していません。加えて、面識も知識もないですからね。  名雪さんが、過大評価をしていないか? と言われれば、はい、と言えますが。  ちなみに、祐一君がロンギヌスで脱出する時の戦闘にも参加できてませんから。  うん、すごい、言い訳臭くて、ごめんなさい。そのときの台詞はそれが一番それらしいと思ったんです。 >SSS面白いです。更新よろしく!! 6/12  頑張りました……疲れました。今度こそ、次はいつになるか解りません。  何だか、変なペースで更新してますね、私。  でも、反応があるのは嬉しいです。頑張ります。 >茜の子供、待ってます  by5/15 6/13  話が落ち着くまで待ってください。5/15さん。アイディアは結構あるんです。  もしかすると、出てくるのは色々になってしまうかもしれませんけどね(苦笑  ともかく、長い目で待っていてください。お願いします。 >全話通して読みました……読んでて思ったんですが名雪達の目的がよく判りませんでした。特に栞とあゆの二人 6/13  えーっと……ここで答えても良いんでしょうか?  良いんでしょうね。名雪さんが聖ジョージ部隊を率いるのは対相沢祐一に対する戦力を整える為です。  香里さんは祐一君に認められるため。栞さんは姉を支える為、あゆさんは惰性です。  あゆさんに関しては働く場所がどこでも良くて、気持ちよく仕事できればそれで良いと言う感じですね。 >ゆーろさんのSS、いつも楽しく読ませてもらってます!!これからものんびりがんばってください〜^^ 6/13  はい、お言葉に甘えてのんびり、ペースを取り戻せるように頑張ります。  いつも楽しく読んでいただいて幸いです。  次も楽しんでもらえるように、頑張りますね。 >ゆーろさんの最初の投稿のころからみているのに、今日やっとWEB拍手に気づいたニブチンですwこれからも 6/13  最初の投稿と言うと……精霊と人の詩かな? 読んでいただいてありがとうございますね。  申し訳ないですが、最後の部分が切れてしまっているので、予想するしかないのですけど。  たぶん、これからも頑張ってくださいだと思います。ですから、頑張りますね! >本編読んだ後にsss読むとホッとします。やっぱりなごやかっていいなあ。 6/13  本編シリアス、SSSはほのぼのを目指してます。  和んでいただいて、幸いです。もっと和み空間を!  と言う事で、頑張りますが過剰な期待をしないで下さい。お願いします。 >ジョージと平定さんには戦って欲しくないなぁ。生の感情だけのぶつかり合いとかにでもなったら耐えれません >SSを書くだけのモチベーションがキープできない。とはいえ書かないと始まらないし・・・ >聖ジョージ側のコネタとかSSSで使えませんかね? 6/13  えー、以前、私がSSを書いてみてはどうでしょうか? と勧めた方でしょうか?  もしかして、SS作家の方でしたのでしょうか? 違ったら申し訳ありません。  私は趣味で書いています。それも楽しんで。それはSSを書く人なら解ると思われます。(断言出来ないですが  他人に強制されて書けと言われるのでしたら、私は書けません。楽しめないですから。  管理人様の厚意にはべったりと甘えていますが、お金を払ってもらっているわけでも義務で書いているわけでもないのです  私が楽しいから、書いているのです。偉そうな事を言っていると思います。独り善がりな意見だとも思います。  ですが、強制されて書けと言われても書けません。もし、耐えられないのでしたら、どうぞ、読まないで下さい。  私は読者の方に読む事は強制していませんし、私の書くことを強制されていません。  私の作品は面白くないと思われるのでしたら、どうぞ、何だこいつ、と見限ってください。お願いします。  もしこの文を見て、気分を悪くされた方がいらっしゃられたら、申し訳なく思います。すいませんでした。 >技術と作戦、どっちが勝つか楽しみです。 6/14  名雪さんと祐一君の戦いの事ですよね?  さて、私の技術がどこまで頑張れるかです……頑張ります。  どちらが勝つかは、まぁ、見てからのお楽しみと言う事で、よろしくお願いします。  では、お返事終ります。続きを頑張りますね!


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。
     今回は細かいところで色々動いているようですね。  しかし14話で出た祐一君の我が侭は叶えられませんでしたか。  まぁ本人たちが望んだ事なんで仕方ないですけど。  平定者に保護されたらまた違ってたんでしょうね。  どっちが幸せだったかは、また本人たちにしか分からないでしょうけど。 
     香里嬢も立派になって、見事に高橋嬢を立ち直らせましたか。  祐一の動きを模倣できればかなり強くなれそうですね。  さすがに本人じゃないから100%は無理でしょうけども。  香里さんの話の中で疑問に思ったのですが、彼女祐一に捨てられた事になるんですかね?  別に恋人でも何でもなかったのに、捨てるとか裏切るとかはどうも……。  そこだけが違和感受けました。

     前にも書きましたが、web拍手へのコメントはよく考えて書いてください。  ゆーろさんも仰ってますが、強制されてSS書く事は普通耐えられません。  下から2番目のコメントの方は、SSSに書く話をゆーろさんに強制する権利でもお持ちなのでしょうか?  SSを書く気力さえ失いかけてらっしゃる様子なので、読者の方は暖かく励ましてさしあげてくだされば、と思います。


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

     感想はBBSかメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)