走る。
あの人には追いつけない。
どんなに息を切らせて、走っても私はあの人には追いつけない。
手を伸ばす。
あの人に手は届かない。
必死になって手を伸ばす。それでも私の手はあの人に届かない。
叫ぶ。
あの人に声は届かない。
叫ぶ、心の底から全身全霊をかけて。それでも私の声はあの人に届かない。
泣く。
あの人に私の気持ちが届かない。
泣き叫ぶ。それでも私の声も気持ちも、あの人には届かない。
届かない……
届かない。
届かない!
一体どれほど頑張れば、あの人は振り向いてくれるのだろう?
どれほど手を伸ばせば、あの人に届くのだろう?
どれほど速く走れば、あの人に追いつける?
これが夢だと知りつつ、悪夢だと知りつつ、幸せな疑問を抱く。
一体どれくらいの悪夢を見ただろう。
いつも見る夢は同じ。
追いつけないあの人に、届かないあの人に、振り向かないあの人に。
あの人に見捨てられ、ただただ泣く私。
泣きながら、諦めきれずにただ見ているだけ。
ただ、泣くだけ。
ただ、走るだけ。
ただ、手を伸ばすだけ。
それで届かないと泣いているだけ。
なんて無様。
なんて惨め。
なんて情けない。
こんな夢ばかり見ても決して強くはなれはしない。
夢で届かないなら、現実で届けば良い。
私は夢見る少女じゃない。だったら、この夢は弱い自分が見せる何かだ。
絶望なんて大嫌い。その一言で諦めるなんて私には出来ない。
諦めなんて大嫌い。その一言で運命だなんて私には言えない。
運命なんて大嫌い。その一言で自分を偽る事なんて出来ない。
偽りなんて大嫌い。ならば現実を見据えよう。夢なんて捨ててしまえ。
私はまだ諦めても、絶望したりもはいないのだから。
絶対に私は相沢祐一に思い知らせてあげるんだ。
あなたが、邪魔だと足手纏いだと言った存在が思わぬ強さを発揮すると。
その時、あの人がどんな顔をするのか。楽しみでしょうがない。
私はあなたが認めるまで、あなたを追い続けてやるんだから。
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神の居ないこの世界で−A5編− |
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