私が生きる、いや、生き残れる道が有るとしたら。 私の居場所は…… それは前にしかない。そう思わないと私が生きていけない。 そこにしかない。 だから――― 強くなる勇気をください。 砕けない強さをください。 壊れない意志をください。 恐怖を凍らせてください。 痛みを無くしてください。 強く硬い自分をください。 例え自分がどうなろうとも。 私は前にしか出てはいけない。 退くなんて、もう絶対に出来ない。 今度こそ。絶対に護らないといけない。 私の誓いを。私を生かしてくれた思いを。 だから――― いつまでも弱い自分ではいられない。 いつまでも回りに甘えてはいけない。 いつまでも目を塞いではいられない。 いつまでも周りに甘えてはいけない。 いつまでも泣いていてはいられない。 いつまでも過去に甘えていられない。 自分が有利になるならば、髪の毛一本ほどの隙間でも避けてみせる。 自分にもっと厳しくあれば、こんなに泣かなくても良かったもの。 こんなに、悔しくなくてよかったもの。 これほどくるしくなくてよかったもの。 だから―――私は、高橋幸尋は生まれ変わる
 
神の居ないこの世界で−A5編−


→いくつもの可能性と切欠を。貴女に。後半

     エリアLの港近く。雲ひとつ無い晴れやかな天気。  髪を三つ編にして、メガネをかけた人物が、とある学校を訪ねていた。 「返ってきて欲しい、これは本当の両親からの依頼なの」 「そんな……」  時刻は放課後。  話しかけられている人物はその学校でも有望な人間だった。  生徒会長と呼ばれる地位に居て、先生、生徒に信頼されている人物。 「嫌だと言うなら、そうしたらもう会いに来ない」 「本当に私の――」  それを遮る人間。教師だった。  何故この場所にこの先生が? と言う顔で教師の顔を注視する生徒。 「そんな論を打上げられてもですね」 「話の腰を折らないで」 「いえいえ、聞き捨てなら無いですよ」 「そう、話の腰を折ったのはそっちだからね?」  後悔するのはそっちと言う感じで女性は微笑んだ。  大胆不敵な笑みである。その笑みを理解できないと言った感じで教師は変な声を上げた。 「は?」 「じゃあ、聞くけど、ここまで来る途中の23の監視カメラは何ナノかな?」  教師の顔色が変ったと同時に懐に手を伸ばす。  女性は生徒を突き飛ばして、自分もその場から移動する。 「外に向けられるわけじゃないみたいだよね? 何でその全てが内側を向いているのかな?」  教師が懐から手を出した時にはその手には銃が握られていた。  そして、その銃口から弾丸が吐き出される。 「銃を抜いたのはそっち。さらに、銃を撃ったのもそっち。私は丸腰なのにね」 「そんな詭弁を!」 「詭弁? さて、この子達にどんな言い訳をするのかな?」  女性は少し離れた位置にあった自分の乗ってきた車の陰に隠れた。  生徒と教師の目が合う。その目に映っているのは驚愕の他に猜疑が浮かんでいる。 「私がただの民間人だと思ってるの? その位の殺気を向けられれば誰でも体が動くよ」 「貴様……なにものだ!」 「さてね、事がばれない事なんて何にも無いんだよ」  誰もが言葉を失って女性を見ていた。  そう何も出来ずに呆然と。 「高橋さん、ドールを起動させて。今回は貴女の実力見せてもらうよ」  小さく、通信機に呟いた。  次の瞬間に車に飛び乗る。 「いい? 生徒会長さん、全校生徒を体育館に集めて、そこは安全だから」 「は、はい!」  名雪のその一言に、弾かれたように走り出す生徒会長。  車を急発進させる女性。  入れ替わるように、都市迷彩を施されたドールが1機、敷地内に入り込んできた。
    ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
     今回は一機だ。しかも、自らが頼み込んでの一機での出撃。  体が震える。誓いを破った自分がここに居て良いのかと問いかけ続ける。 「私に足りないもの……勇気」  静かに息を吸う。吸い込まれた空気は、何だか冷たかった。  まるで、今の私を拒絶するみたいに。 「言い訳をして、逃げたら駄目」  いつか、私を褒めてくれた人が居た。  七瀬お姉様。私の初恋の人、尊敬する人、目標とする人。  その人の言ってくれた事を嘘にしないように。 「私に足りないもの……度胸」  心を落ち着けるように息を留める。  冷たい空気を自らの熱で暖める。自分を燃やす、起爆剤にするように。 「逃げ道を探しちゃ、駄目」  いつか、私を助けてくれた人が居た。  折原さん。私の……なんだろう? とりあえず、お姉様の次に目標となる人。反面教師。  その人が助けてくれた事を無駄にしないように。 「私に足りないもの……技術」  自分を落ち着けながら息を吐く。  少しだけ、ほんの少しだけ、周りの空気が暖かくなった気がした。 「私はもっと自分を追い込まないといけない」  いつか、私のために死んでくれた人が居た。  高木さん。私の、命の恩人、私の切欠になった人。  その人が行った事が意味が有ると証明する為に。 「私に足りないもの……意志」  ゆっくりと目を開く。目の前に浮かぶのはまだ暗闇だけ。  明るい世界は私には似合わない。暗い世界は私に安らぎを与えてくれる。  少しずつ、光に犯される私の世界。 「もっと強く、もっと誇り高くある為に、みんなと、何より私の為に」  こんな私を支えてくれる人達が居る。  その人達の行いが嘘じゃないと証明する為に。  その人達の笑顔を守る為に。そして、私の居場所を守るために。 『高橋さん、ドールを起動させて。今回は貴女の実力見せてもらうよ』 「……行きます!」  体を動かせ。思考しろ。  相手を観察し、隙間を見つけろ。  私は……私の為だけに生きているわけじゃない!  それを証明する!  必要なのは前に出るその過程。相手を倒すと言う、事実。  必要なのは下がると言う事が無い証明。私の覚悟を証明し続ける、事実。
    ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
     敷地に入ったドールが1機。  それを排除する為に機器という機器が動員されようとしている。  通常ならドールという兵器に対抗できる物など設備としておいて置かない。むしろ、その必要が無い。  しかしながら、ドールが3機、立ち上がっている。ありえない設備だった。 「さて、国際警察のお手並み拝見だね」 「えぇ、私達はちゃんとするべき事はしましたから」  窮屈な三つ編を解き、眼鏡を外す人物がいる。名雪だ。  三つ編は多少の癖を残して、解け風に揺れる。  その横には、情報部を統括しているラインハルトがいる。  名雪とラインハルトは高みの見物という感じだった。 「私の興味はどちらかというと、高橋さんの成長具合なんだけどね」 「そうですか? 私は国際警察の手並みが気になりますね」 「それにしても議員さん達もあの手この手でいろんな設備を作るね」 「不可解極まりますよね。意味が余り無いのに。何故なら、私達がいるから」  肩をすくめ、溜息を吐くラインハルト。  名雪は特に関係がないとばかりに、ドールに視線を集中させる。 「全く、議員の方々が腐敗しないように努力するのは大変ですね」 「建前、テロリストを狩ると言ってるけどね。むしろ議員の私兵の方が多いんじゃないかな?」 「解りますか?」 「私達はそこまで馬鹿じゃないよ」 「世界政府も設立初期はここまで腐敗はしていなかった。そう言いたいのですか?」  突然入り込む、声。ラインハルトよりも更に年上の男が名雪の隣に立っていた。  名雪は当然のことのように、振舞っているが内心驚いていたりする。 「えぇ、ヒュントさん。その通りですよ」  ラインハルトは目を細めながら、そう答えた。  ヒュントは名雪の隣に立ち、普段は専属の黒服達がするボディーガード役をかって出ている。 「私は……今の腐敗が気に入らない。だから、聖ジョージ部隊を設立させたというわけですよ  武力は正しい事に使われるべきだ、少なくとも自らの利益の為に使われるべきではない」 「……そうでしたか」  聞きたいことが聞けたと頷くヒュント。  次の視線が、名雪へと移る。  名雪はその視線に気がつかない振りをしていた。  しかし、ヒュントはあえて口にする。 「水瀬隊長は何故、聖ジョージ部隊にいるのですか? 貴女を支える理念は?」  視線を今、敵機と交差しようとする高橋機に向けたまま、名雪はゆっくりと口を開いた。  いつも話している、声色と違い、歳相応、いやそれよりもかなり幼く聞こえる。  名雪が普段見せない、しかも、初めて他人に見せる感情だったかもしれない。 「……私はドールが大っ嫌い。あれが無かったら私の愛した人は苦しまなくて済んだもの。  その人はね、天才だったのね。ドールの為に生まれてきたといっても過言じゃない人だったの。  その頃の私はね。ただ、その人と一緒に歩ければ幸せだったんだ……呆れるくらい自分がお目出度かったのね。  その人が苦しんでるとも知らずに、痛いって感じてるのに、気が付かなかったの。自分の事で精一杯だったから。  ただ、隣にいられれば、幸せだったのにね。でも終わりがきちゃったんだよね」  視線をヒュントに向けて、儚い笑みを向ける名雪。  ヒュントは、聞いてはいけない事を聞いたような罪悪感に囚われる。  もっとも、その罪悪感は少し見当が外れたものであるが。 「その人は……いえ、失言ですね」 「だから、私はドールを争いに使う事の無い世界を作るの。それが私に出来ることだから」 「……」 「それを実現するには私じゃあ、億の単位で足りない物がたくさん有ると思うよ。でも、それしか私には思い付かないから」  名雪の声色は元の調子を取り戻しつつ、言葉を紡ぎ続ける。  ラインハルトも興味深そうに名雪の言葉を聴いていた。 「好きな人が苦しまなくてすむ、苦しめなくてすむ世界をね、作って維持するの」 「それが?」 「そう、私の行動原理であり、私の信念。だから、私は辛くもなんともないの」 「やはり、貴女は私が忠誠を誓う人にふさわしい」 「そう?」  もし、次に続くはずの言葉を聞いたらどうなっただろうか? 『その人に安心して死んでもらえるためにね。私が殺してあげる為に』  それは誰も知らない。  何故なら、この言葉は形にされずに、そのまま名雪の心の中にしまわれたからだ。
    ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
     さて、ドール戦に戻る。高橋は一直線に3機のドールに向かって走り始めた。  高橋のドールはシヴァでは無い。Air製のドールに多少手を加えた物だ。  もし破壊された時に、聖ジョージ部隊が矢面に立っていたという事を避ける為の偽装。  高速機動用のドールの装甲を極限まで削って、右肩にだけ盾をくくりつけたような機体。  都市迷彩を施されたそれは3機のドールに向かって距離を詰める。  武器は近接武器しか持っていなかった。  相手の射的範囲に入ったのか、銃弾が集中する。  装甲が削れ、外の音を拾うマイクが銃弾の音しか拾わない。  普通の神経の人間だったのならば、耐え切れない音だろう。  全てが自分の命を奪う音なのだから。  高橋は右肩に括り付けられた盾を正面に、そして、滑る様に機体を半身にしたまま相手に体当たりをかける。  ごきゃん、と嫌な音と感触が高橋を襲うが、これはお互いに致命傷ではないと判断する。  もし、人間なら腕があらぬ方向に曲がるか、肩の関節が外れているくらいの衝撃だろう。  相手が沈黙するはずも無いが、3機の内の1機が派手に吹き飛んだ。 「はぁ!」  腰の後ろに差されていた剣を引き抜いて、相手の胸部装甲の隙間にねじ込む。  気合と共に繰り出された剣は無理やりに胸部の装甲を剥ぎ取った。  手首を返して剣を突き立てようとした時、相手は身を翻して距離をとる。  距離をとっての戦いを選択したのか、なかなか、高橋の間合いで戦わせてもらえない。  初撃の奇襲はうまくいったが、それ以降は相手のペースだった。  一方的に攻撃をされる展開となる。  銃弾が脆い装甲を削り、機体に否応が無くダメージを蓄積させていく。 (このリズム……難しい!)  とある一定のリズムを刻みながら、意識を1機ではなく3機に振り分ける高橋。  慣れない作業に慣れないスタンス。全てが、彼女に無かったもの。  必死になって、イメージを頭の中に再生し、それを自分の動きと重ね合わせる。 (ここで、ステップをぉ!)  当然の事ながら、それだけ意識を裂き、その上で頭の中でイメージと比べているのだ。  ダメージを貰う結果になってしまう。  それが無ければ、また違う結果になるのかもしれないが、それでは成長しない。  だから、彼女の脳内で繰り広げられる映像の中心にいる漆黒のドールはこんな物ではないと絶えず比べる。  漆黒の機体の動きのイメージ、それが自分の動きと巧く重ならない。  相手3機も高橋機も傷だらけであるが、状況はまだ3機の方に分があった。  3機の傷は浅く、まだまだ大丈夫だが、高橋機の傷は致命傷になりえそうなものが多い。  一方的に攻撃されているのだからしょうがないだろう。  高橋が寄ってきた時のみ、近接戦闘をして、すぐさま離脱する。連携は完璧だった。  距離が開けば、少なくとも銃で安心して攻撃できるからだ。  高橋機のダメージは酷い物。盾としてくくり付けられていた装甲はすでに穴が空き使い物にならない。 (もう駄目? 私はこの程度だったの?)  冷静な思考で、考える高橋。  この前に戦った漆黒の機体と目の前の3機を比べてみる。 「あは、あはははは!」  聞こえる声は高橋自身のもの。  比べるだけ無駄だった。それは戦う前から解っていた事実なのだから。  あれは目の前にいる3機では倒す事は出来ない。それは、高橋幸尋が素直に認められる真実。  あれは規格外。それは間違いない。それが、彼女の持った相沢祐一に対する評価。 「装甲は……限界……でも、まだ、駄目。折れるにはまだ、まだまだぁ!」  ぶつっんと何かが高橋の中で弾ける。ここで留まっていたらいけないと。  ここに留まっていたら、変る努力も、自分の居場所も、みんなの笑顔も消えると解って。  高橋が精神的に追い詰められた。 「私はぁ! まだ、やれる!」  追い詰められ、突如動きが変わった。都市迷彩の機体。  身を低くし、縮めた四肢を一気に開き、低く身を保ったまま3機の中心に突っ込む。  腕を鞭のようにしなやかに伸ばして、相手の頭部を掴んだ。 「私のぉ! 覚悟は! ニセモのなんかじゃないんだからぁ!」  勢いだけで相手を引きずり倒し、頭部を地面に叩きつける。  瞬間的な出来事に対応できなかった3機。  1機は地面に叩きつけられて、動きが鈍い。 「このリズム、つかめた! この感触! この動き! 私の居場所は今ここに! みんな、見てて!」  突如として、リズムが変化し続ける。  今まで、一定だった高橋のリズムが突如として複雑な物に変えられて行く。  リズムが、リズムを生む。  単純だった物が複雑な物に進化するように、高橋の動きは変って行く。  黒い獣に、相沢祐一に繋がるリズムのとり方。  高橋は興奮で、声を張り上げながら、戦い続ける。  動きが豹変し続ける都市迷彩に3機のドールは戸惑いを浮かべているようであった。 「私のリズム! 私の居場所! 私がみんなの為に出来る事!」  笑っている。少しだけ、液体を目から流しながら。  正面に無造作に突き進むように見える動きだった。  銃弾に、斬撃に、独特のリズムを取って避ける。  あるときは、四肢を地面につき獣のように。  あるときは、華麗に舞う剣舞のように。  その動きは有機的なようで、無機的にも見えて、見ているものを、戦っている者を不安にさせる。  見方が周りにはいない、この場では、見るものを不安にさせる効果しかない。  相手の手には直撃させる手ごたえがあるにも拘らず、高橋機には当たっていない。  理解できない何かが有るには間違いが無かった。 「おぉぉぉ!」  ゼロ距離。高橋の独壇場。  手の先を手刀に見立てて形を作り、足から腰にかけての捻りを加えて最速の突き上げを放つ。  ごしゃ、と機関部を貫き相手の機体が多少宙に浮く。  ばぁキャン、と無理をさせた右腕が相手の機関部に突き刺さり、肩から抜け落ちた。  それでも高橋は止らない。 「次ぃ!」  残った左腕で、剣を投擲。慌てたように、防御する相手。  剣は相手の腕の装甲に当たり、そこを凹ませただけで空中へと飛んだ。  右肩から抜け落ちた肩へと伸びるケーブルなどを勢いで引きちぎり、相手の真正面へと突進する高橋機。  当然のことながら、相手は銃撃を浴びせてくる。  身を捻り、体の正面を空へと向けながらそれを避けた。  高橋の目に投擲して相手に弾かれた剣がうつる。 「おぁぁぁぁぁぁ!」  剣を無理やり足に引っ掛け、体を腰から捻り、体勢を反転させながら威力を高めて、足を、剣を相手にぶつける。  もつれ込むように、2機の機体が地面に熱烈なキスを交わす。  高橋機がまさに熱烈なキスで、相手の機体が後頭部に熱烈なキスを貰っている。  ぶつけた剣。その威力は相手の腕2本の防御すら貫通して、地面に突き刺さった。  酷い音と、砂煙を巻き上げながら2本の腕ごと地面に縫い付ける結果になる。  2本の腕と、喉を貫くように地面に突き刺さるそれは、もう抜けないだろう。  他の機体に助けてもらうまでは。  腕はグシャグシャになっており、既に交換するしかない。  パイロットが、気絶しているのか相手の機体はピクリとも動かなかった。 「最後ぉ!」  転がるように立ち上がる、高橋機。  最後の一気に向けて突進を開始した。  既に腕は片腕、機体の損傷を現す画面には限界を表示する赤しか写っていない。  機体の限界が来ている。それでも、高橋は止らない。  銃撃を既にぼろぼろの左腕で受け、頭部とコクピットに受ける致命傷を避ける。  かなりの前傾姿勢の為に、頭部とコクピットさえ守れば、致命傷にならないと高橋は思っていた。  事実、一番の急所である機関部はコクピットがすっぽりと覆っている形になっている。  運が悪くなければ、状態が万全ならば銃弾の嵐にも一度は耐えられたかもしれない。  が、その判断が甘かった。 「っ!」  酷い耳鳴り音を最後に光と一緒に音が消えた。  どうやら頭部に銃弾がクリティカルヒットしたようだった。  状態を示す画面には、頭部のセンサユニットが死んでいると表示が出ている。 「こんな所でぇ! 折れてたまるかぁ!」  通常ならば、勢いが止る所であるはず。  頭部のセンサー類は見えているし、貫いた感触が相手にある。  弾丸はコクピットには到達していないだろうが、それでも情報が既に入らないのだ。止るしかない。  相手も、最後に残った1機もそう思っていた。  しかし、高橋機は止らず、むしろ勢いを強めて相手に掴みかかる。  油断していた相手は、残った左腕に掴まれた。 「掴まえたぁ!」  膝蹴りにもって行く高橋、相手を掴んだ左腕は離さないようにしっかりとロック。  残りの攻撃方法で、一番確実だったのが膝蹴りだったと言うわけだ。  ごいん、と互いの機体に嫌な振動が響く。  高橋機の足は限界ギリギリまで壊れ、次動かせばもう壊れるといった感じ。  相手の腹部の装甲には蜘蛛の巣状の罅が奔った。  続いて倒れ込む振動。高橋は気にしない。 「あぁぁぁぁ!!」  追撃で膝蹴りをしようとした時、ゼロ距離で銃弾が放たれた。  画面上の片足表示が消える。足を失ったことがわかった。 「まだ、まだまだまだぁ!」  高橋の絶叫がコクピットの中を満たしきる。  上半身を出来るだけ引き、思いっきり頭を叩きつける体勢に入った。  最後の手段である頭突き。  相手もそれを感じ取って、空になった銃を廃棄して近接武器に切り替える。  それを高橋のコクピットに向けて振り下ろした。  それよりも早く、高橋の頭突きが相手の機関部を叩き潰す。  しかし、勢いのついた相手の近接武器は止らない。  ごキャン、がりがり! とコクピットの装甲を大幅に削りながら、コクピットを変形させて止まった。 「……終った?」  コクピットがひしゃげていると感じながら、片足で何とか立とうとする高橋。  立つ事は叶わず、左腕で、何とか上半身を起こすのが精一杯だった。  コクピットの前をこじ開けて、外を見る高橋。  外には、高橋の手によって破壊されたドールが3機横たわっている。  それを知ってようやく安堵の溜息を吐く高橋だった。
    ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
     全てを見ていた名雪は満足そうに頷いた。  ラインハルトとヒュントは何故名雪が頷いたか解らない。 「うん、高橋さんはもう大丈夫。それに化けるね」 「確かに、後半の動きは……」  ふわりと髪をなびかせて振り向く名雪。  その視線はラインハルトの通信機に注がれていた。 「おっと、国際警察の結果を聞き忘れていましたな」 「うん、ヒュント隊員。撤収の準備を」 「了解しました」  ラインハルトが通信しつつ、名雪は撤退の準備をテキパキと進める。  通話が終わり、全ての作業が終ったとラインハルトが告げた。 「うん、撤収」  名雪の一言で、高橋の操ったその機体に取り付く人間が増えた。  高橋も、基地に帰還を始めただろう。 「しかし、何故今回は単機だったのですか?」 「それは、相手に余計なカードを渡さないためです」  ヒュントの疑問に答えたのはラインハルトだった。    ラインハルトの言う事を纏めると、法廷での争いになるから、相手に不要な手札を与えたくない。  1対3なら、どうみても、1機のほうが心象が良いということだった。  ヒュントには納得は出来ないが、法廷でそれで有利になるために必要な事だと言われれば頷くしかない。   「高橋さんには2つ目の切欠が必要だったの」 「2つ目?」 「この世には自分で強くなり続ける人と切欠が無いと強くなれない人、何をしても強くなれない人の3タイプがいる」 「高橋は、2番目だと?」  そうだよ、と頷く名雪。  名雪の言葉に疑問しか浮かばないヒュント。  歩きながら、名雪は続けた。 「うん、一つ目は相沢祐一に負けること。高橋さんは集団戦には向いてないからね。  負けることによって、集団戦にも対応できる新しいスタイルを探す必要がでてくる。  負けた相手が、天才である相沢祐一であれば、なおさらにね。  2つ目は自分のスタイルを確立する事。これで高橋さんは単体でも戦えるようになった。  後は、スタイルが定着するのを待てば良い。更にこれはα小隊全体のレベルアップに繋がるよ」  そこまで考えているのかと、ヒュントは苦笑する。  危険すぎる賭けでは有るが、それは自分にも言えること。  確かに、何か切欠が無ければ変れない事があると自覚している。  ヒュントにしてみれば、その切欠は名雪に拾われた事だろうか。 「でも……まだ、足りない」  その名雪の言葉は空に溶けて消えていった。  消えた言葉は、ヒュントにもラインハルトにも聞こえていない。  名雪の心の中にだけに残っている。 To the next stage

     あとがき  とりあえず、今回はこれで。中途半端な感じは否めませんけどね。  区切りがちょうど良かったのはここだったんです。  今回は名雪さんと高橋さんが主役半分半分といった感じを目指しました。  うまく出来てると良いなぁと思います。  では、拍手コメントのお返事を >「買い物編」→はい、満足しました。希望を叶えて頂き、ありがとうございました。7/24  催促したわけではないのですけど、満足してもらえて良かったです。  もっとも、ちゃんと形に添ったわけではないんですけどね(苦笑  これからも楽しんでもらえるように努力します。 >茜かわいいですね 7/24  茜さんは人気ですね……えぇ、良いことですよ。嬉しいです。可愛いといわれて。  たぶん、SSSかな? 前回は本編に出てないですしね。  彼女達は多分活躍の場をSSSに移すと思われます。うん、多分、約束できませんけど(苦笑  >あとがきの紹介のところのユピテルの身長おかしいと思います(笑 7/25  はい、ご指摘されたとおりでした(笑  どこの小人さんだよと、自分でも突っ込みいれました。  ちゃんと読み返しているんですが、見落としたみたいです。次から無いように注意します。 >祐一達の今の年齢がどれくらいなのか気になるので教えてください。 7/25  お答えします。大体、二十代前半です。ギリギリ四捨五入すると20代。  その程度と認識してくれると嬉しいです。ただし、親キャラと子供キャラを除きます。  厳密な年齢は設定していないので、大体こんな感じとしか答えられないのが心苦しいです。 >祐一は今も成長していますか?できるならもっと強くなって欲しいです!7/25  成長は……どうなのでしょうね?  うん、していると言えばしているかも知れないし、していないと言えばしていないです。  これ以上強くなる可能性は……ノーコメントで。  こんないい加減な受け答えしか出来なくて申し訳ありません。 >ロンギヌスの前に使えなかった力が今の祐一では使えますか? 7/25  えっと、私の知らない使えなかった力ってあるんですか?  まだ使えて無い力が有るといえば有りますが、形状の変化だけですしね?  目新しい力は多分、無いと思われます。あくまで多分ですけど…… >高橋の向かってる方向は、余り見てて気持ちいいものじゃないですけど、先は楽しみです。 7/25  でも書きやすいんですよね……あぁ、書きやすいキャラが偏ってる(苦笑  余り見てて気持ちの良いキャラでないのは百も承知です。  とりあえず、先を楽しみにしていただけているので、頑張ります。 >やっぱり、一方的な戦いは面白くないので、聖ジョージ側の切り札的存在になってくれることを期待してます。7/25  対抗出来るだけの力は揃いつつあります。  本文中で名雪さんが言ってますが、α小隊のレベルアップにも繋がりますし。  実際に書いているほうには良いことのほうが多いです(笑 >やっぱりゆーろさんの話はいいなぁ。続きが気になって仕方がありません。 7/25  ありがとうございます。楽しんでいただいて、幸いです。  続きが気になってもらえるとコメントいただくのは嬉しいです。  期待を裏切らないように頑張りますね。 >そのまま頑張ってください! >次話を楽しみにしています! 7/27  もしかすると、2人からのコメントかもしれませんが……  同じ時間帯だったので1括りにされた不運な人たちかもしれません。  次の話も楽しんでもらえるように、頑張りますね。 >面白いですよ 7/27  面白いと言ってくださって、ありがとうございます。  自分だけが楽しんでいるわけでは無いと解って一安心です。  次も楽しんでくださいね。そのために頑張ります。  では、次も楽しんでもらえるように頑張りますね。


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。
     高橋嬢覚醒の話。  でも覚醒って言うよりは……壊れた?(爆  実際見ている分にはやばい方向への進化ですよね。  本人はそれで良いのでしょうけど。  意味もなく強くなる事だけ追い求める人間にならない事を願います。
     しかし名雪嬢は黒いなぁ。(笑  部下の人たちはどれくらい彼女の恐ろしさを知っているのだろうか。  曲がりなりにも彼女の部下ですし、それなりには分かっているのでしょうかね。  まぁ彼女の真の行動原理は、香里でさえ知らないかもしれませんけども。  ヒュントさんなんかが聞いたらどうなっていたやら、ちょっと見てみたかったかも。

     次回は祐一君サイドになるんでしょうかね?  ここ2話は名雪嬢の方の話だったんで、その可能性は高いかなぁ。  保護した子の事も気になりますし。


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

     感想はBBSかメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)