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場所はkanon所有の船の中の食堂。
他には人は居なかった、というよりも人を寄せ付けないようにしていた。
貸切になった食堂に2人。
頭が痛い事態に遭遇する事は数多くあった、と天野美汐は考える。
それでも、今回ほど頭の痛い事態は無いと溜息を吐きたかった。
目の前にいる少女は見かけからしてもう高校生くらいだし、事実そうであろう。
それが不自然と言うわけではないが、穏やかな顔をして何とか会話にしようと努力していた。
だが、生徒証でkanonのカードリーダーが通ると言うのはどう考えても無理だろうと思う。
なおさら、厄介事をおしつけた一弥に恨み言の一つも言いたくなっていた。
「あの……何か?」
「いえ、それで、詳しく話してくれますか?」
少女はおどおどした感じで、他人の顔をうかがっているように見える。
演技なのかも知れないし、それが少女のスタンスなのかもしれない。
うかがうように見られる視線に美汐は辟易した感じがある。
「あの、本当にそれだけなんです……見つからなければ良いと思ってあの中に入って……」
「そうですか……」
悪い事をしていると思っているのは解るが、じゃあ何故コンテナの中に入ったのか?
そんな疑問が美汐の中にある。
隠れるだけならば、沢山隠れる場所があるだろう。
安全ならば、仮眠室などに閉じこもってしまえば良い。
内側から鍵をかければ、それこそ長い時間見つかる事は無いだろう。
だが、彼女が選んだのは動かされる可能性のあるコンテナの中。
しかも、多少ながら空気が循環しているからといって密封されている物の中に入りたいだろうか?
「……ちょっと待ってください。私だけでは貴女に対処できそうに無いので」
美汐は電話をかけることにする。
その感情の中には一弥に対して恨み言を言いたい感情も混じっていた。
それに声を聞きたくなったこともある。
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神の居ないこの世界で−A5編− |
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