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橘麻耶の朝は自分以外が自分の部屋に居ない事を確認することから始まる。
誰も居ない事を確認してから、安心したように着替え始めるのだ。
家でも、学校でも居場所が無ければこうなっても仕方が無いのかもしれない。
野生動物よりも警戒を激しくして、自分のテリトリーに入ってくるものを嫌う性質を持つようになっていた。
これは、自分以外のすべてが敵ならば問題ないだろう。味方というものを知らない彼女の常識である。
丸まったハリネズミのように心をとげとげしくして誰も入れないようにする。それだけの強さは彼女は持っていた。
ただ、それは疲れる。味方は誰も居ない。周囲は全て敵。疲れないと言う方が、無理という事だ。
だから、あの場所から誰もいない場所へと行きたかったのだ。
忌々しく成績表を見て、何か落ち度があれば容赦なく罵る仮の両親。
彼女は早々と両親に見切りをつけていた。あの人たちの元からいずれ逃げてやると。
自分の常識しか押し付けれない教員たち。彼女がどれだけ頑張っても集団で外れれば出た杭となって叩かれた。
集団で行動できなければ異端と切り捨てられた。
同じく見切りをつけていた。時期が来たら痛い目にあわせてやると。
そして、集団でしか行動できないように教育された同年代の子供。
他人から、常識や捻じ曲げられる規則の中でしか生きられない同年代の子供達。
1人で行動すことをなじられ、クラスでは味方は居ない。彼女はそんな連中を近づけないように努力していた。
個人でも集団に対抗できると、心を戒めながら。
麻耶は頭が悪いわけではない。聡い。だから、ここまで逃げられたのだと自負している。
成績だって、振る舞いだって全てが計算されつくされている事だった。
どうすれば、回りの環境が悪くならずに最後の時に最大のダメージを与えられるか。
それが全てに集約されていた。結果、彼女はここに居る。
多少、運が良すぎた事はあるかもしれないが。
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神の居ないこの世界で−A5編− |
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