神の居ないこの世界で−A5編−


→他人にあった自爆スイッチ

     前回の作戦から一ヶ月。小さな小競り合い。小さな扇動。  それが、大きな破壊活動に結びつく事がある。  民衆の総意ではなくても、起こることもある。  それが、今回の作戦だった。民衆の武装蜂起であった。 「貴方達の大義はなんですか?」  民間3機のNドールが純白の2機を囲んでいる。  ただ、回りの民衆は冷ややかな目でそれを見ていた。  まるで、町に迷惑を出さないようにと言いたげである。 『我々は、腐った官僚どもと軍上層部に抗議し、行動を起こす』 『これは、虐げられた同胞たちのためだ。我々は正義だ!』 「武力に頼らずに、何故それをしようとしなかったのですか?」 『出来ないから、武力に頼っている!』 「まだ、方法があったはずです。法に訴えるなど、出来たはずです」 『この地にいない、貴様に何がわかる!!』 『我々は、不公平を許さない! これは、正義の鉄槌なのだ!』 『これを起こすことによって不平はなくなり、皆が豊かになる!』 「そうですか……貴方達は10をして15と評価されたい人達みたいですね」  現に、この町では民衆を引張っていた集団の支持率は落ちている。  加えて、武装蜂起したと言っても先が見えてないのであれば、誰もついてこない。  蜂起したとしても、すぐに制圧されると誰が見ても明らかだった。  何も考えない人間ならばホイホイ着いて行くかもしれないが。  集団に狂信的な人物しか参加していない事に気がついていないようだった。  民衆が集団に組しなかった理由に聖ジョージ部隊の存在もある。  そのトップが、一度集団に説得をした上での武装蜂起だった。  聖ジョージ部隊の純白の装甲の前ではどんな装甲の色も、イメージ的に悪者に捉えられてしまう。  穢れなき、純白の部隊だから。  民衆の支持が離れた理由は実力だけでは無い。その集団のイメージもある。  信じていた集団がただ戦争をしたいだけだったのではないか?  そう思われた時点で、集団は武装蜂起を廃案にするべきだった。  だが、実際にはそうなっていない。 『何を馬鹿な!』 「証拠に、貴方達には誰もついてきていません。独り善がりなんですよ」 『やれやれね。説得はもう無駄。やるわよ』 「はい、小隊長」  溜息を吐く高橋に香里。自分勝手とまでは言わない。  だが、民衆の為と言えば武器を持って暴れても良いのか。  不公平だと言って、義務を果たす前に権利を求めて良いのか。  自分達が唯一の正義だと言い張る、その危険性に気がついていなくて良いのか。 「ごめんなさい、私は貴方達の居場所を奪います。私の居場所を守るために……さようなら」  説得をするのは、まだ話しが解るのではないかと、期待したから。  しかし、解らずに殲滅される。2対3では香里たちは止められない。  加えて言うならば、性能の段違いのNドールなのだ。香里達が負ける理由が無い。  軽い、慣らしと言っても過言では無いくらいだ。  周りに被害を出さないように気を払っても大量のおつりが帰ってくる。 『遅れたわね、α3(サンティアラ)は……心配しなくても良いわね』 「むしろ、しなくてはいけないのはΩたちですね」 『そうね……Ω1が(美樹)がきれないと良いのだけど……』  そう言って、香里たちは走り出した。  次の殲滅すべき敵達のいるであろう場所に向かって。
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     名雪はその少し前、集団の本拠地である都市を訪れていた。  その集団のビルに2度目の説得に来ている。  回りの町や村と違い、この都市だけは何故か集団を支持していた。  集団のビルの中で、黒服一人を連れて名雪は代表の男と相対している。 「腐った官僚どものせいで、我々の生活は苦しいのだ!」 「腐った官僚ねぇ……」  名雪は怒鳴り声を張り上げる集団の代表の男を冷ややかな目で見ていた。  男はその視線に気がつかずに、続ける。  名雪は隣に居る黒服の男に、何か合図を出していた。  代表の男も、その側近達も気がつかないほどの小さな合図。 「軍との癒着も明らかである!」 「それなんだけど、本当にそうなの? 証拠を見せてもらえない?」 「証拠だと? 何故そんなものを貴様に見せなくてはいけない!」 「貴方が嘘もしくは妄想、虚言を言っていると思うからだよ?」  熟れ過ぎたトマトのように顔を真っ赤にさせる集団の男。  側近達も同じような顔になり、名雪を睨んだ。 「立件する証拠も無く、そんな事を言うの?」 「そんなもの! 事実の前には不要である!」 「じゃあ、私が調べた事を言うよ。軍と官僚の癒着は貴方達が言うほど、大きくなかったの」 「なんだと!」 「加えて、官僚の不正とか横領を調べてみたけど、貴方達の言ってる規模は無い。出鱈目も良いところだね」  これを見てと言って、名雪は資料を投げ渡した。  その資料はラインハルトが作った資料であり、世界政府の監査を入れて調べ上げた物だ。  変更した点も無ければ、伏せた点も無い。  これ以上公正に資料を作ると言う事が出来ない資料だ。 「そんなもの読む必要も無い! 捏造されたに決まっている!」 「その資料……どこが作っていると思うの? しかも、まだ読みきってないよね?」 「ふん! 癒着しているのは事実だ!」 「立証不能な気持ちで喚くのはやめて」 「捏造されているに決まっている!」 「不正とか横領は確かにあった。確かに、警察機構の落ち度。でも、貴方達の言う生活の苦しさには繋がらない。  本当に生活が苦しいの? 貴方達が民衆を煽らなければこんな事になって無いんじゃないの?  それとも、貴方達が集めているお金のせいで、生活が苦しいんじゃないの?  本当に、民衆の生活は苦しかったの? 10有った事に満足せずに15欲しかったんじゃないの?」  顔の赤さが黒くなってきていた。  よほど、頭にきているらしい。 「むしろ、武器の横流しが問題なのよね。貴方達に流れて行っている武器の横流しが」 「そんなもの無い!」 「へぇ? 貴方はこれを見てまだそんな事を言えるの? 利益は民衆に渡さずに自分達の懐にっか」  名雪は軍の逮捕者と、とある人間の逮捕記録をまたも投げ渡す。  それは、横流しを仲介していた人間達だった。 「この人たちの証言は取っていたの。貴方達に繋がるね」 「……だったらなんだと言うのだ!」 「貴方……身の破滅も解らないの?」 「我々は……貴様ら、理不尽に宣戦布告する!」 「そう、なら遠慮しない。この戦いは……断罪者、水瀬名雪の名前で始まり、その名前で終る」  名雪は隣の黒服の男に目を向けた。  黒服の男は頷くだけである。 「もっとも、もう殆ど終ってるんだけどね。多分、貴方達の戦力はこの街の分しか残って無いよ」  ゆっくりと微笑みながら、名雪は退出して行く。  その後ろでは、集団の代表達が動き出していた。 「放送は?」 「はい、巧く流れています」 「民衆の反応は?」 「静かです。おそらくは放送が効いています」 「そう。じゃあ後は、ここに残る戦力を潰せばおしまいだね」  先程の会話と資料はラジオやテレビを使って流されている。民衆の目に触れているだろう。  それを見た、頭の悪い人間なら、この集団を支持するだろう。でも、大抵の人間は白い目で見る。  見た上で目に触れない、触れて無いと振舞うのなら、集団を狂信的に信じる人間位だ。 「Ωに連絡を。仕上げるよ」 「はい」  名雪はそう言って、ビル手前にとめてあった車に飛び乗る。  車が発進し、それと入れ違うように3機の純白のドールがビルに迫っていた。  3機の純白のドールの一番前、先頭のものには赤いラインが入っている。  竜の顎である証拠だった。肝を潰したのはその集団である。  慌てて、戦力を集中させるべく通達を入れるが、本部ビルの地下戦力しか反応しない。 「どうなっているんだ!」 「わかりません!」  そうしている間にも、ビルの地下つまりはドールを収めている空間へと向けて3機が入って行く。  3機のドールが飲み込まれた瞬間、ビルが揺れた。 「何が起こっているんだ!?」  叫ぶしか出来ない。  今になって、名雪を逃がしたのは失敗だったと思ったそうな。
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     美樹たちが入り込んだ地下施設は想像よりも広かった。  奥から湧き出てくるHドールとNドールの集団。交戦が始まった。 「2人はいつものように、私の援護を」 『了解』 『……はぁい』  即座に返事をマルスがし、ユピテルは遅く不満げだった。  美樹はとりあえず気に止めずに、敵陣の中に突っ込む。  おとなしく援護をしている2人。しかし、堪えきれなくなった人間が居る。  不用意にユピテルが前に出る。いや、出てしまった。  死ぬ物狂いで戦っている人間はそれを容赦しない。 『ユピテル、ダメェ!』 『え?』  素直に美樹のバックアップをしていれば問題なかった。  だが、不用意に前に出た結果は最悪の結果しか残っていない。 ばかぁん!  ユピテルの視界の死角から振り上げられたロッドによってユピテル機が浮き上がる。  それに狙いを定めて集中砲火の嵐が起こった。  嵐が起こってから数瞬後、マルス機がその身で庇うように銃弾とユピテル機の間に入る。 『きゃぁぁぁ!』  ぶつぅん、と嫌な音を立てて通信が途切れた。  美樹は何も出来ずにそれを聞くしかない。  動く暇も無く、動ける時間も無く、動こうとする意志すら持てなかった。  それほど短い間だったのだ。  美樹のあの時に重なる。何も出来る事無く、飛び出した娘がトラックに轢かれたことに。 「……姫? 返事をしなさい!?」  2機の動力反応は既に無く、機体は既にボロボロである。  信じられないものを見るように美樹は呟く。  目の前には、ひしゃげたトラックが重なっていて。 「どうして?」  美樹の耳には姫の悲鳴がこびり付いていた。  実際にはマルスの悲鳴だったのだが、美樹には姫の悲鳴に聞こえる。それが途絶えた。  血まみれになっている自分の娘が目に映る。 「貴方達も……姫を殺したのね?」  光すら差し込まない黒い塊に塗りつぶされる美樹。  あの時もまた、自分は何も出来なかったと、娘の遺体を抱きしめる事も出来なかったと。  集団の標的が美樹に定められる。その美樹の目に映るのは全ての憎しみの元。 「ヒメをカエセ、アノコはヤサシいのヨ」  まるで、壊れた蓄音機のような声。それが電波に乗り鳴り響く。  相手にそれが伝わった瞬間、ネメシスは動いた。  一番近くに居る機体のコクピットの装甲部分に両手の指先を捻じ込み無理やり開ける。  ボクン、と間抜けな音がしたと同時に装甲部分がはじけ飛ぶ。  コクピットは丸見えで、搭乗者が見えた。  指を入れて、搭乗者を優しく取り出す。そう、本当に優しく。傷を付けないように。掌の中に納まった搭乗者。 「ゆるサナイ、あなたガ、ヒメをコロしたのネ?」 「ひぃ!」  声を響かせて、肉食昆虫のような感情の無い視線でそれを見る。  くちゃり、と言う生々しい音が全ての音に優先されて鳴り響いた。  握られた拳には既に人は無く、ただの肉の塊があるだけである。  まるで汚物を払うように、腕が振られた。  べしゃり、と肉の塊は壁に叩きつけられて、綺麗な花を咲かせる。  真っ赤な、赤い、紅い、綺麗な花を。 「オマエタチモ……そうなんだな!?」  美樹はそれを見て何も思わない。空になった目の前の機体を弾き飛ばし、次の行動に移る。  飛ばされたそれの下敷きになる者も居れば、コクピットごと美樹に圧殺される者も居る。  下敷きになったものは幸運だろう。そのまま、死んだ振りをすれば助かったのだから。  しかし、追い詰められた人間にはそんなことは思いつかない。  結果、人数分の紅い花が咲き乱れる。そこには異様な光景が広げられていた。  コクピットだけが打ち抜かれたり破壊されたりしているのだ。  動く物がなくなっても、まるで無くなったを探すように動き回るネメシス。  満身創痍である。装甲のそこらじゅうに人の血がこびり付き、装甲は抉れ、所々火花を散らしている。  装甲の色は既に純白ではない。斑の様に赤黒い色に侵食されていた。  ネメシス(復讐を冠する女神)に恥じない働きであった。 「ヒメは……」  この世とは思えない光景。打ち捨てられた機体の山。  オイルと硝煙と血の匂いが交じり合って、人を拒絶する。  名雪と黒服の男がそこに入ってきたとき、2人ともその光景と匂いに眉を顰めた。 「……情報規制、ここの処理を最優先。その後、機体。機体は全て廃棄して」 「ネメシスタイプもですか?」 「栞ちゃんには悪いけど、あれは今回、回収しない方が良い」 「判りました」 「貴方は、バックアップの2人組みを探してきて。怪我をしているようだったら速攻で病院に送り出して頂戴」 「了解」  黒服がすぐに連絡を取り、後続の連中に、この場の洗浄と遺体の回収を指示した。  黒服自体は、ユピテルとマルスの2人を探しに行く。  名雪はまだ動いているネメシスに近づく。 「美樹さん!」  カメラが名雪の姿を捉えて、まるで力尽きたかのように跪いた。  ボロボロであった胸部の装甲がはじけ飛んで名雪の1メートル横に落ちる。  流石に、これには肝を冷やす名雪。  コクピットからは美樹は降りてこない。名雪の目から見ても、美樹は見えている。  しかし、美樹は降りてこない。名雪は溜息を吐きながらコクピットへとよじ登り始めた。  コクピットの中の美樹を見て溜息を吐く名雪。  その表情はやっぱりか、というものが一番しっくりと来るだろう。
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     武装蜂起を鎮圧した後。  ファームより全員を引き上げさせて、会議室に集めた。  そこにはΩ小隊を除いた全員が居る。居ないΩ小隊は全員が入院していた。  マルスとユピテルは普通に入院で、1週間もすれば退院できる。  美樹は精神科に入院している。酷く塞ぎ込み、マルスと姫が区別できないようになっていた。 「さて、みんなに集まってもらったのは……新しい任務が来たからだよ」  名雪が見回す。正面には香里が座りその横に栞が居る。  右手にはβ小隊が座り、名雪の一番近くに藤川が、その横に高橋が居た。  左手にはγ小隊が座り、名雪の一番近くにヒュント、その隣に小池。  更にその隣には教官達、そして、サンティアラが居る。 「拠点防衛の任務。想定される敵は平定者」  その全員が一斉に息を呑む。  ただ、香里だけが来るものが来たと言う顔をしていた。 「拠点防衛の相手が平定者ですかな?」 「はい。平定者です」  教官の初老の男が、名雪に質問する。  名雪は即座にかえした。 「根拠は?」 「相沢祐一は身内に甘い。だから、相手をおびき寄せるだけなら簡単にできるんだよ」 「誘き寄せる?」 「GEナンバーが居る施設なんだよ」 「あぁ、なるほど……最悪ですな」 「相手としては最悪だよね」  名雪がさらりと言ってのけたが、どこまでが本当でどこまでが本当で無いか判らない。  真にしても嘘にしても、確認しに平定者は出てくる可能性がある。  真ならば、必ず争いになることが予想できた。 「聞いてもらえるかな? これは警察機構内部の音声だけどね。どうやら平定者の位置を掴んでるみたいなの」  名雪がスイッチを入れた。  くぐもった声の音が流れる。 『これは契約です。別に貴女はその人達を裏切っているわけではない』 『なんて詭弁……情報を流しているだけで既に裏切っていると言うのに……』 『では貴女は契約を破棄すると言うのですか? すでに報酬を受け取っていると言うのに』 『くっ……』 『別に貴女の流す平定者の位置情報だけが欲しいのです。あの人たちに敵対しろとは言いません』 『……解っています』 『拾って欲しいのでしたら、作戦の途中に拾えますから』  ぶつ、とテープが途切れた。  皆が奇妙な顔をするこんな事ものがどうして? と。 「これの出所は?」 「世界政府の議員連と警察機構内部の内通から出てきてる」 「また、背広組みですか……」 「平定者を飼いならせるとでも思ってるんじゃない? 人質でも取るんじゃないかな?  どこまでが本当かどうか判らない。本当の平定者じゃないかもしれない。  どこの部隊かは判らない。でも、奇襲は受けなくてすみそうなんだよね」  名雪は興味無さそうに言い切った。  そして、見渡して続ける。 「私達の任務は拠点の保持。敵を全滅させる事が任務じゃないの。理解してね?  ただ、平定者の頭は潰したい。その策は私が練る」 「ワシ達は、そうじゃのぅ……拠点防衛の仕上げをしようかの?」 「えぇ。お願いします」  教官の男に、名雪は頭を下げた。特にβ小隊の人間が顔を引きつらせる。  地獄の一ヶ月を生活して、その先があるのだから仕様が無いだろう。 「隊長。骨組みは決まっているのですか?」 「うん、藤川君。大雑把に言うとね、αが引き込んだ頭を潰して、残りの小隊が防衛」 「わかりました……Ω小隊はどうなるのですか?」 「あの部隊は拠点防衛にはとても使えないから、様子を見て他の任務を与えるよ」  藤川は心配そうな高橋に大丈夫と合図してから、考え込む。  名雪は楽しそうに、その光景を見ていた。 「さて、詳しい連絡は追って入れるよ。出発は2週間後。万端の準備をして」  全員の了解と言う声が重なる。  こうして会議が終り、解散となった。
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     藤川と高橋は並んで廊下を歩いている。  それは、中の良い恋人と言うには少し距離のある感じだった。 「小池に対するあてつけか?」 「っ……そ、そんなのじゃないよ?」  藤川がそっと言い、高橋がそれに図星ですと返すような反応をした。  高橋はオロオロと、顔を真っ赤にさせて否定する。 「高橋、小池に怒るは解る。だが、それで俺の所に流れてくるのはどうかとは思う」 「迷惑……ですか?」 「迷惑じゃない。嬉しいくらいだが……」  翳った笑顔を浮かべる藤川。それは多分、自分自身に向けられたものだろう。  高橋は静かにその先を待つ。 「感情の流れで俺の横に来たと言う事実は嬉しくない」 「え?」 「高橋は自分で選んで俺の横に?」 「え、ぁ、ぅ……」 「高橋を責めている訳じゃない。不甲斐ない自分が嫌なだけなんだ」 「そんなこと無い! 友宏は不甲斐なく無い! 私が……あやふやだから駄目なんだよね?」 「そう言ってるわけじゃない」 「友宏……時間頂戴? まだ、私は自分に区切りが着けれて無いの」  藤川はうっすらと微笑む。  それは、自分にむけられたものでは無い。純粋に高橋に向けられたものだった。 「高橋、俺はいつでもお前の答えを待ってる。例え、どんな答えでもだ」 「ごめん、辛い思いさせて……ごめん。でも、私しっかりと答えを見つけるから、自分に区切りをつけるから」 「あぁ。わかった」 「見つけたら、絶対一番に知らせるから!」 「待ってる」 「うん。私、これから出撃の準備するから、またね?」 「またな」  高橋は翳った顔から、無理やり笑顔を捻り出して走って出撃準備の為に格納庫に向かう。  藤川はそれを見送った後に、小さく溜息を吐いた。 「あら? どうしたのかしら?」 「サンティアラさん。そちらこそ、どうしたんですか?」 「私は……そうねぇ、落ち込んでる藤川君を見に来たのよ」  粘着質な笑顔を浮かべるサンティアラ。  それに対して、頭を振りながら藤川は言う。 「正確に言ったらどうですか? 盗み聞きしてたと」 「あっら、ばれてましたか」 「高橋は気がつかなかったみたいですけどね」 「それで、貴方はあの態度で良いの?」  何の態度とは言わない。それは、藤川にもわかっていることだから。  高橋に決断を任せる藤川の態度で良いのかと言っているのだ。 「甘いのはわかってます。でも、小池も高橋も、どちらも大切な仲間なんです」  小池は多少、見損なったがと付け加えて苦笑する藤川。  サンティアラはふーんと、藤川を見詰める。 「貴方、判ってるの?」 「やりかたによっては、高橋の心を独占できたと?」 「判ってるじゃない。何で、それを選ばなかったの?」 「高橋は強い。頼ってくれるのは嬉しい。その事には間違いはありません」 「へぇ……どう思ってるの?」 「高橋の事を想っている事に関して、他人に負けている事は無いと自負出来ます」  藤川は頬を多少紅くして、そっと、サンティアラから視線を外した。  サンティアラはそれを楽しそうに聞いている。 「弱い高橋が嫌いと言うわけではないんです。でも、いつか高橋は答えを自分で見つける。  その時、もし、自分に依存していると知ったら高橋は恥じるでしょう。そして、自分から離れるでしょう」 「なるほどねぇ……あの子は答えが出せないと依存しちゃうものねぇ」 「自分はその時、きっと耐えられない。だから、高橋に答えを見つけてもらうまで突き放すんです。  高橋の答えを待つんです。答えを見つけた高橋はその答えを裏切りませんから」 「もし、その答えが他人の横に居ると言う答えだったら……どうするの?」 「その時は彼女を祝福します。自分の気持ちを殺してでも。それが彼女に対する私の付き合い方ですから。  今は、答えを待つだけです。私にはそれを待つしか出来ない。自分が甘いと判っていても」  藤川はそう言って、淡く微笑んだ。  判りましたと、サンティアラは伸びをする。  話はここでお終いだと言う感じだ。 「あれ? どちらに行くんですか?」 「ちょっと、小池君を慰めに……ね? ほら、私も一人身じゃない?」  そんなサンティアラの悪戯する気、全開の笑みに藤川はどうしようもなく不安になるのだった。 To the next stage

     あとがき  重い、暗いぞ……何だか予告通り(してないかもしれませんが)な感じの暗さです。どうも、ゆーろです。  次は祐一君サイドと名雪さんサイドが入り混じり始めます。  話をようやく動かせる感じですね。藤川君達3人の修羅場は……まだです。  壊れた感じの人を書くのは楽しいですねぇ……ちょっと嫌な事があったので、ストレス発散してしまいました。  もっとも、毎回こんな感じに書けるわけではないのですけどね。  気分で書くのも個人的にどうかと思いますしね。反省します。  では、拍手コメントのお返しをしたいと思います。   >由紀子と晴子と祐一(一弥?)の3企業のトップ?の会話も見てみたいです! 8/27  今週は拍手の入れ替えが出来ませんでしたが……鋭意製作中です。  企業のトップになると、由紀子さんと晴子さんと佐祐理さんになるんですけどね。  以前に似たような、リクエスト貰っているので、もう少し待っていてください。お願いします。 >武装ロンギヌスのような特殊な装備が出てほしいです。8/31  極端な装備は出てくる予定です。  ただ、それが、武装ロンギヌスに匹敵する位に異色を放つかは……正直微妙です。  そのうち出てくると思いますので、それまで待ってください。お願いします。  何だか、今週は待ってくれってお願いしてばかりですね(苦笑  では、続き頑張りますね。ゆーろでした。  


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。
     どこにでも始末に終えない人間はいるみたいですね。  個人が集まって集団になると人間はバカになるって事でしょうか?  「赤信号、皆で渡れば〜」という言葉もあるくらいですし。  後は、利を得ると狂うんでしょうね。  政治家然り大企業のトップ然り警察上層部然りで、上に昇るほど誘惑は絶えないのでしょうな。
     美樹さんはもう精神崖っ淵でしょうか。  トラウマを直で抉る出来事なのでしょうけど、当然名雪は分かっていてチーム組んだようで。  まぁ乗り越えられればまた段階上がれるのでしょうけど、鬼の所業ですよね。  話は変わって、やはり藤川君はいい男だと思うわけですよ。  小池君が情けなかっただけに、彼の男っぷりが際立ちます。  サンティアラが色々かき回しそうで、やはり彼らの三角関係は面白い。(笑

     次回からが話の根幹ですね。  聖ジョージの相手は果たして真なる平定者なのか楽しみです。


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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