- その情報は2つのルートから確認された。 GEの生き残りが居る。と言う情報が。 片方は石橋が、もう片方は詩子が別々のソースで確認していた。 「……こんなの嘘だったら良いのに」 詩子はそれを見て、溜息を吐く。それを祐一に伝えるのが怖い。 だが、伝えないでおく事の方がもっと怖い。 自身でも確認して、慎重に慎重を重ねた情報である。 間違いと言う可能性を全て排除しきった物がここにある。 GEナンバーの指令機であるナンバーが生き残っていた。 GE-09、それが生き残りのナンバー。 詩子はその経歴を全て洗ってみて、更に溜息を吐く。 「絶対に……祐一君は許さないよね」 指令機として、意識に余裕を持たせた。その調整の為に祐一が研究所を滅ぼした日にその場にいなかったのだ。 連れ出したのは久瀬圭吾。研究所に戻る事無く、その子をとあるエリアの議員に渡した。 もっとも、渡した当初は戦闘目的だったはずだった。 しかし、扱いきれるはずもなく精神を壊した。騙し騙し使おうにも既に研究所のメンバーは誰も居ない。 残された役目は簡単に想像がつくだろう。扱いは悲惨の一言。 「まぁ、その議員は捕まってるから問題無いんだけどね……その先よね」 その子を保護したのは世界政府だ。 たらい回しにされた挙句に、幽閉と言う形をとった。それが現状。 幽閉された場所は岬であるが、難攻不落として名高い場所。 その警備に聖ジョージ部隊が就任した。 情報にはそこまでが書かれている。 詩子は溜息を吐いて、祐一に渡す前に冷静な秋子に渡そうと心に決めた。
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神の居ないこの世界で-A5編- |
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- それが秋子に手渡された時。秋子は頭を抱えた。 詩子がまず、自分に資料を持ってきたことに感謝しつつも、こめかみに手を当てて必死に考える。 どうするかを、だ。詩子はそんな様子の秋子を心配そうに見ていた。 「とにかく、まずは私に持ってきてくださって、ありがとうございます」 「いえ……祐一君を冷静にさせるには秋子さんが一番ですから」 「しかし……どうしたものでしょうね」 正規の手続きを踏んでの交渉はやる前から失敗する事がわかっている。 だから、秋子にしてみれば、やり難い事この上ない。娘だった存在と争わなくてはいけないのだから。 くわえて、1から部隊を育ててきた名雪と、手札がある状態で部隊を操る秋子。その差は大きい。 秋子の持つ手札は時に暴発する。痛い問題を抱え込んだと秋子は呻き声を上げた。 「最悪ですよね……」 「えぇ……最悪です。でも祐一さんにこの事を伝えない事が一番最悪ですから」 秋子は両目をきつく瞑り、こめかみを何度か指ではじく。 そして、歩き出す。詩子もその後に続いた。 祐一にこの事実を伝えるのが辛いのか、2人の足取りは重かった。 伝える事が怖いのはどう反応するか判らないからだ。 とにかく、祐一を抑えるために船に居る主要メンバー全てを会議室に集める。 「はぁ……」 「祐一君が冷静に対応してくれると良いですね」 「そう願います」 秋子も、詩子も半分さじを投げている。全て投げきっていないのは惚れた弱みと言う物だろう。 ゾクゾクとメンバーが集まる。集まると言っても、船に乗っているメンバーだけだ。 佐祐理と舞は、執務室に居るならテレビ電話で繋げるが。 一番初めに来たのは真琴に美汐。次に聖、最後に茜と祐一だった。 ヴィンと鈍い音がして、テレビ電話が繋がって会議室にはメンバー全員が揃った事になる。 『あはは~、緊急招集とは穏やかでは有りませんねー』 『……どうしたの?』 「皆さん、落ち着いて聞いて下さい。GE-09、つまり、GEナンバーの指令役の人が見つかりました」 皆の視線が、秋子に集中する。祐一が席を立ちそうになるが、隣に座っていた聖が落ち着けといってそれを留めた。 痛いくらいの静寂。多少浮ついていた雰囲気一気に静かになっている。 秋子は十分な間を取ってから、口を開く。まずはそのソースが2系統で確認されたと言う事。 その信用度が高いという事を説明する。 最後に地図を開いて指差していった。 「場所は難攻不落と名高いこの場所。相手は、聖ジョージ部隊です」 秋子が苦々しいと、いう感じで言う。 皆が沈黙する。聖ジョージ部隊では交渉は、はっきり言って通用しない。 何度か警告しても、退くという事はしないだろう。何故なら、任務達成率が100%であるからだ。 「そんなに深刻なの?」 真琴が能天気に言う。美汐は頭が痛いという感じで真琴を見た。 秋子は悲痛な面持ちでそれに対して言い返す。 「経験は嘘をつきません、だから最悪なんです」 「水場から上陸は出来ないな……正面からの正攻法しかないのか」 「それでも、危険すぎます……正面に辿り着くのも大変です」 『敷地に入る所にドールを配置されると辿り着くのに全てを無力化しないといけないですね』 活発な論議が交わされる。これを攻略するにはどうすれば良いのか。 その一点に集約されるが、良い案が出てこない。 「周囲にはカタパルトは無いし、いつかみたいに空からという訳にもいかないな……」 「正直、正面突破が一番なのですが……それも厳しそうなんですよね」 『はえ~、これは難しいですよ?』 秋子が予想する配置ポイントを見て、皆(非戦闘員と真琴を除く)が頷く。 消耗戦になれば不利になるのは攻めているほうだ。 水場からは上陸できない、岬が崖の様になっているからだ。 加えて、もし崖をドールでよじ上るとしても、その周りに砲台がついていて崖を上っている所を狙撃されるだろう。 正面は一本道しか無いが、ドールを要所に配置されたら攻めるのに時間がかかる。 その間に増援を呼ばれれば見事に挟み撃ちにされてしまう。 加えて、狙撃に適する箇所が何箇所かある。その処理にも頭を悩ませてしまう。 まさに、守り易く攻め難い戦場であった。 「おい、どうした? 急に誰も居なくなりやがって」 有夏が場違いな感じで会議室に入ってきた。 地図を見て、お? と声を上げる。 その表情に懐かしい色が浮かぶ。 「懐かしいなぁ、ここで訓練した事もあるぞ? そういえば私の部隊は攻めるほうだったなぁ」 懐かしそうに話す有夏のその言葉に誰もが振り向いた。 一番早く行動したのは、秋子だ。凄まじい速度で入り口に立つ有夏の元に駆け寄る。 がっしりと肩を掴んで、正面からにこやかな笑顔(目は笑っていない)を向ける。 流石に驚く有夏。その表情はなんだなんだ? と言う感じ。 「姉さん、詳しく、その話を、洩れなく、話してくれませんか?」 「何だ、ここを攻めるのか? 止めておけ」 有夏の表情は真剣。秋子の表情も真剣。 じりじりと見詰めあう。 「そういう訳にもいかないんです」 「……判ったから肩から手を離せ」 秋子はゆっくりと手を離す。 軽く肩を回してから有夏は顎に手を当てたまま、地図を見た。 そして、何か違和感に気がつく。顔を近づけてそれを確かめる。 「ん? これは……どういうことだ?」 次に、資料に目を通して当時と手を加えられた事が無いか確かめた。 多少手を加えられているが、問題が無いと有夏は判断する。 人ならば無理だが、ドールならば問題が無いという判断だ。 それを下すと、何か書くものはないか? と言って辺りを見回した。 ペンならこれをどうぞと言われて、有夏は借りると一言言って茜からペンをひったくる。 地図に細かく書き込んで行く。有夏の時が人サイズだったが細かく注意点も書き込まれていく。 あっという間に、地図には有夏の文字が溢れていった。 要所要所に書かれた、有夏のアドバイスに書き足された攻略ポイント。 それが、秋子に戦略を決めさせる決め手になったのは言うまでも無い。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ 病院の廊下を歩く2つの影。 白い紙に黒い絵の具をぶちまけた様な黒がずりずりと2人の後ろをついて行く。 「美樹さんはね、精神を病んでたの。体の変調さえ精神がカバーするくらいにね」 「それで?」 「張り詰めて、憎んで、壊れた、その先に一体何があったんだろうね?」 名雪は困ったように微笑んでいる。 香里は溜息を吐きながら、お見舞いの花を見詰めた。 「だから、美樹さんは先が短いと言っていたの?」 「体の変調に気が付けない時点で引退させたかったんだけどね……」 「美樹さんが言う事を聞くわけ無いか」 香里は名雪の言いたい事が何となくわかった。 生きがいを全て奪われて、その先に残ったのは憎しみだけ。 それさえも奪われたら、どうなっただろうか。 憎しみの対象にだけはなってはいけない。ならば、騙し騙し使うのが一番効率が良い。 牙をむかれて一番困るのは仲間達だ。 「美樹さんの状況は?」 「マルスを姫ちゃんとして認識しているよ」 「もう一人の子は?」 「その子も、自分の子供として認識してる。玲二君だって」 牧田さん(美樹の夫をさしている)みたいだね、と付け加えて名雪は苦笑する。 香里は何を言っているんだという表情になった。 「はぁ?」 「不思議なことにね、美樹さんの中では巧く説明が出来るみたい」 そう、不思議な事は美樹が全ての事に関してうまく説明できると言う事だ。 マルスを姫として接し、ユピテルを玲二として接する。 2人に我が子のような愛情を注ぎ、生活している。 目の前で、2人が銃の組み立てで苦戦していれば、子供に料理を教えるようにそれを教える。 それが当然だと頭が認識しているのだ。 香里には理解できないが、それが症状なのかと落ち着かせる。 「美樹さん、居る?」 コンコンと、病院の扉をノックする。 美樹の笑い声が聞こえてきた。名雪と香里はそのまま中に入って行く。 こんな声で笑う美樹は初めてだと香里は思う。 もし、憎しみが無かったらこんな風に笑うのかもしれないという印象を名雪も香里も受けている。 「ほら、私は玲二のお母さんなんだから、美樹さんなんて、他人行儀な名前で呼ばないで」 「ぇ? あ……ぅ」 「お姉ちゃんからも、言ってあげて。はぁ……どこで、育て方間違えたかしら?」 言われて、マルスがユピテルに耳打ちする。美樹はそれを見て幸せそうに微笑んでいた。 困っているような笑顔、でも、その笑顔には幸せの成分が多分に含まれている。 以前の美樹の笑いには何処か歪んだ物しかなかった。しかし、今の笑いにはその歪みが無い。 そして、名雪と香里に気がついた。 「いらっしゃい、名雪さん。香里さんもようこそ」 「美樹さん、体調どうですか?」 「えぇ、悪くないわ。何で私は入院してるのか判らないくらい」 香里は花瓶を持って、花を活けてくると言って出て行った。 あまり、見ていて楽しいものでは無いと判断する。 現実逃避をしているのか、それとも楽しい夢の中なのか。 香里には余り気分の良いものではなかったのだ。 ユピテルもマルスも名雪が入ってきて助かったという表情をしている。 「うん、病状を聞く限り問題無さそうだね。後で任務を伝えるから」 「えぇ、次の任務がどんな物になるか楽しみだわ」 「あ、2人を借りてくけど良いかな?」 「ちゃんとかえして下さいな」 「20分位でかえすよ」 名雪は、2人をつれて病室の外に出た。 どうやら、美樹に面会して、この状態に理解が追いついていないようである。 困惑が2人の顔にはありありと浮んでいた。 「美樹さんがあの状態になった引き金は2人に有るって判ってるよね?」 名雪のその声は底冷えするような冷たさを保持している。 美樹に話しかけた柔らかな音色は無くなっている。 2人が病室を訪れたのは改めて美樹に謝る為だった。 しかし、謝る事が出来ずに先制攻撃を受けて困惑し続けている。 何故自分が知らない人間の名前で呼ばれなくてはいけないのかわかっていないのだ。 名雪は、医師の診断と現状を解り易いように細かく噛み砕いて教える。 どうやら、2人は医師に話しを聞くと言う事をしなかったようだ。 「別に責める訳じゃないけど、その責任は持ってね」 「……判りました」 「…………うん」 「良く出来ました。じゃあ、後で美樹さんに任務を伝えるから美樹さんの指示に従ってね」 名雪は2人をつれて美樹の病室に戻り、2人を美樹に返す。 そして、花瓶を抱えて戻ってきた香里を連れて病院をあとにした。 3日後に美樹達は退院した。▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ 聖ジョージ部隊が配置された、守るべき場所。 その一角にある真っ白の部屋。壁の四方が全て白の壁紙で張られた部屋。 その中心。清潔感溢れる白のベットに上半身だけを起こして壁を見て微笑んでいる青年が居る。 目には意思の欠片すらなく、ただただ、光だけを反射させていた。 「はじめまして……相沢祐治の最高傑作、GE-09」 「……」 「今日から、貴方の周りを……いえ、この施設をドール侵攻に対して護る事になった水瀬名雪です」 「……」 「よろしくね? まぁ、今日はこれで帰るよ」 返事が無いのは判りきった事であった。だから、名雪は嫌な顔せず話しかけた。 これが、水瀬名雪とGE-09と呼称される青年との出会い。 一つしかない扉から出て行く名雪。その部屋は完璧な白に包まれる。 次の日、同じ時刻に名雪は青年の元に現れた。 「気分はどう? GE-09」 「……」 「今日は良い事を教えてあげる。貴方の他にGEシリーズが生きているのよ。それも2人も」 「……」 表情はいつもの貼り付けた微笑。 その微笑で、名雪は青年の目を覗き込んでいる。 「エリアMにあった相沢祐治の研究施設から、YAシリーズの2機が奪還されたって聞いたことある?」 「……!」 「うふふ、良い顔。GE-13はね、私の知り合いだよ。じゃあね? 今日はこれで失礼するよ」 一瞬だが、感情の無いはずの青年の目が細かく動いた。 それを確認して悠々と出て行く名雪。でた所には香里が居る。 「どうだったの?」 「動揺してたよ。それも物凄く」 「特に変化した感じは見えなかったけど?」 「目をね、覗いていると解るの。物凄く揺れてた」 香里は疑問があるのか、しきりに髪をいじっていた。 名雪はそれを見て、質問があるの? という。 「精神患者よね?」 「それを演じてるだけだと思うよ」 「どうして、そう思うの?」 「全てに反応しないなら、何で目が揺れたのかな?」 「咄嗟に反応した?」 「多分ね。それにしても……」 「それにしても?」 「なんでもないよ」 名雪の口にした赦せないよねと言う言葉。 それは咄嗟に音量を絞ったおかげで、香里には聞こえなかった。 香里も深く追求はしない。 次の日も名雪は青年に会いに来ていた。この日は香里の代わりにあゆを連れていている。 そこそこに挨拶をして、名雪は切り出す。 「貴方は償わなくちゃいけない。もし、貴方があの時、家族を率いて反乱を起こせば、全ては丸く収まってたでしょ?」 「……」 「いい加減、精神患者の役を演じるの止めて貰えないかな? 動揺してるのが手に取るように解ってるんだよ!!」 名雪が青年に覗きこんでいる目はとても冷たい。 真剣、そして憎悪、妬み、ありとあらえる色が混じり、冷たさを持って青年を射抜いていた。 青年の目が細かく動いている。少しだが、手が震えているようにも見えた。 名雪の表情は無表情、ただ目の冷たさだけが特出している。 「貴方には自己と仲間を護る思考のほかにも、戦略を練る思考があった。そして、反乱できる思考も有った」 青年の肌は白を通り越して、青白くなっている。 唇が乾いてかさかさになっていた。 「何故、それをしなかったのか。私は知らない。貴方じゃないもの。でも、それが最悪の選択だったって言いきる。 どんな気持ちで、彼は仲間を殺しつくしたと思っているの? どんな気持ちで、仲間に手をかけたのか解る? 自分が出来た事を何もしないで、逃げて、閉じ込められて、生き延びる為にそんな役まで演じて、満足!?」 断罪者と呼ばれる事はある。名雪は断罪し続ける。 それには、名雪の嫉妬の感情も含まれていた。 「そんなに彼が怖い? 部隊を率いても彼を倒せないとでも思ったの?」 「…………ぅぅ」 「良い事教えてあげる。今の会話と、ここに映ってる監視カメラの映像はね、昨日の映像と入れ替えられてる」 表情を変えないまま、青年は呻く。 錆付いた声帯から声を絞り出す準備をしているような感じであった。 「だから、演技を続ける意味は無いよ? 見てるのは私と、あの研究所の生き残りだけ……あゆちゃん入ってきて」 あゆが部屋に入ってきたとたん、青年はベットから転げ降りて、壁へと退いた。 何故ここにあゆが居るかと言うと、メカニックたちの護衛である。 1人の機体に5人つくので、それなりに護衛が必要だったのだ。 情報部に人間の半数がその護衛に当たっている。あゆもその1人。 「ぁ、ぁ、ぁ……」 「お久しぶりです……僕に見覚えは有りますか?」 その目には感情の色がありありと見て取れた。 あゆが一歩一歩近づくたびに、青年は近づけないように這うように逃げる。 こつんと、青年の指に何かが当たった。それは名雪の靴。 「どう満足?」 青年が見上げたその先には冷たい名雪の笑顔がそこには待っていた。 名雪とあゆに挟まれた青年は、どうする事も出来ずに項垂れる。 「君は……君は何処かで見た覚えがある……」 「うん、僕は貴方達のシリーズの前身だったAHナンバーだからね……」 「……そう」 青年が項垂れたまま、か細い声を出す。 声帯が錆付いているのか、何度か咳き込んだ。 背中を壁に任せて、座り込む。 「自分にはその当時、それだけの力は……」 「嘘だ!」 名雪が鋭い声を上げた。襟首を掴み、無理やり青年を立たせて、睨む。 そんな青年をあゆも冷めた目で見ていた。 あゆの中では祐一は怖い存在である。でも、命を助けてくれたし、仲間の、家族のために涙を流してくれた。 出来る事をし続けて、助ける事が出来なくて、泣いていた事実を知っている。 だから、何もしなかった青年に対して良い感情を持てないで居る。 「貴方は嘘をついている! その当時の事を何も知らないの思ってるの?」 あゆは名雪に続くように口を開いた。 その声は穏やかなものの、冷たい。 「僕は元研究員の南さんに会った事があるんだ。裁判所でね。 それに、命令の優先順位は久瀬圭吾と相沢祐治の次に君が来てた。その事を忘れたとは言わせない。 僕だって、あの研究室に居たんだ……忘れていないよ」 青年は何を言っているのか判らないという顔で、あゆを見る。 そして、あゆの言葉と南という名前に心当たりがあって急激に顔色を変えた。 「川澄主任付きの南研究員。私はやろうと思えば、GE-13と同じ存在を作り出せる。 彼らのやったことが残ってるからね。彼のDNAもある。違法だけど、やろうと思ってやれないことじゃない。 でも、私はそんな事はしない。意味が無いもの。それに、彼はそんな事を望みもしない。 解る? 再現できるって言う事は、貴方の居た状況とその時の実力を知っている事だって」 名雪は問い詰め続ける。 青年がどんな表情で、どう感じているかなんて二の次だった。 「貴方は戦略の他にも交渉術を知っている! 戦場で相手の戦意を奪う術を知っていただろう! 戦場以外で、それを利用できないとは言わせないよ!」 青年は思う、何故この人は怒っているのか判らないと。 あゆには名雪が何故怒っているかが判る。 「怖かったんだ……GE-13が……絶対にあいつは自分達を恨んでる……」 「……どうして?」 青年の搾り出す声にあゆは意味不明と言う声を上げた。 名雪は冷たい視線を送るにとどめて、あゆに全てを任せるような構えである。 「だって、そうだろう? 相沢祐治が付きっ切りでモルモットにされてたんだ…… 今まで見ていた自分達の扱いが、優しい事はそれを診て解った……それに、あいつは何も言わないんだ。 苦しいだって、助けてだって、ただ、感情の無い目で自分達を見るんだ……」 あゆはそれを聞いて何も言えなくなってしまう。 同じように、あゆだって祐一が怖いと言って出撃を拒否した事があるからだ。 「どうして、あいつを信用できるんだ? 自分には、怖くてそんなことが出来ない……」 「可哀想だね……彼が」 名雪だけは、理解不能という表情で青年を見ている。 青年の目は真剣だ。何故と言う疑問の視線が名雪を貫いている。 「私は彼じゃない。彼は私に何を想い、私は彼に何を想うのか。知りたかったし、知って欲しかった。 彼は何を私に託すのか、私は何を彼に託すのか。託したかったし、託して欲しかった。 彼は何を私に求め、私は何を彼に求めるのか。求めたかったし求めて欲しかった。 そう思ってた時期がある、いえ、あったのは、否定しないよ。でもね」 何を言っているのだ? そんな表情の青年とあゆ。 名雪は無感動な表情のまま続ける。 「彼の心の中にはいつも貴方達ナンバーズが居た。私の入る隙間が無いくらいに。 それだけ思われているのに、想われてくれてるのに……可哀想だね、哀れだね! 彼と私との決別の言葉は何だと思う? 貴方には勿体無いと思うよ。 あの人たちはもうこの世には居ないけど、託された思いは果さないといけない……だよ。 私の気持ちは彼に届かなかった。彼の心の中には貴方達が、ナンバーズがいたから!」 その時、初めて名雪の表情に変化が現れた。 明らかな嫉妬である。あゆはバツが悪そうに顔を逸らす。 青年は信じられない物を見ているような表情だ。 「哀れだね! 可哀想だね! こんな人のために命を張るなんて! 彼が可哀想だよ! 哀れだよ! 命を懸けて、ここに迎えに来る彼は滑稽だよね! 彼は貴方の存在を知ったら必ず来る! 断言してあげる、断罪者という存在全てを賭けても良い! 彼、GE-13は必ずここに来る! 恐れられて、気持ち的に殆ど裏切られて、それを知らないで、でも、彼は絶対に来るんだよ? 楽しみ。本当に、心の底から、彼が来るのが楽しみだよ。その時どんな顔をするかな?」 そう言い捨てて、出て行く名雪。あゆも慌ててついて行く。 残されたのは、項垂れた青年だけだった。 To the next stage
- あとがき あれ? おかしいな、半々だったはずが……どうもゆーろです。 どうやら、名雪さんサイドの方が書かれている量が多いようです。 シリアス系、重たい話になると祐一君サイドは途端に書きにくくなると言う事実に直面しました(爆 痛いですね……反省します。 ちなみに、有夏さんが船に乗っている意味は有ります。 突然現れたように感じると思いますが、あの人気紛れなので、とここで自己弁護です。 では、拍手コメントのお返しに入りたいかと。 >この町では民衆を引張っていた集団「に」支持率は落ちている の、では?と誤字指摘してみます 9/4 ご指摘どうもです。修正依頼を出しました。 今後もよろしくお願いしますね。 >武装ロンギヌスのレールガンで結構相手を倒せますね 9/5 使う場面が限られると言う事もあるんですけどね(苦笑 どの場面で使うか、などは固まっているので今後に期待……してください。 当分先になると思いますが、のんびり待ってくださると幸いです。 >(質問)本編がシリアスになっているのに暢気なSSSをリクエストして構わないでしょうか? >(SSSのリクエスト)秋弦・成長記7のような、佳乃が往人に構おうとする話を希望します。 >聖ジョージと平定者のドール戦の話を楽しみにしています。 9/5 質問に関して言うと全然構わないです。むしろそっちの方が助かります。 本編の合間にSSSは書きなぐっていますからね。気分転換の意味合いが強いです。 ただ、リクエストに関しては出来れば登場人物だけではなく状況も書いて欲しいですね(苦笑 ×→祐一と秋子のお話 ○→祐一と秋子が秋弦の教育方針で喧嘩する話 あくまで上は一例と言いますか、こうしてもらえれば自分は楽になるので…… 登場人物だけポンと渡されて書け! と言われても難しいです。 できれば、登場人物+詳しいキーワードを指定してもらえると嬉しいですね。 ただ、それでも100%期待に添えれるかは未知数ですが。 リクエストに関しては今回入れ替えたSSSで実現していると思います。 他のリクエストだった、晴子&由紀子の話に祐一君が混じったら?というものと祐一君×茜さんというのも実現しました。 満足してもらえるか判らないですが、とりあえず報告しておきます。 お話に関しては、楽しみにしてもらえて幸いです。 期待を裏切らないように、頑張りますね。 では、続きを頑張ります。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんからのSSです。
祐一君が始末に終えないと思ったのは、きっと私だけではないはず。(苦笑 どうも彼の行動は集団のリーダーとして適切ではないですよね。 以前の単独出撃もそうですが、今回も止められなかったら出たでしょうし。 子供もいるんだから家庭に責任持ってーってのは、言ってはダメなのかな? まぁそれほど彼にとって過去が逃れえないものなのでしょうけども。 でもやっぱり大人になってくれ、と思うわけです。
そんな揺れっぱなしの祐一君と違い、名雪嬢は安定して突っ走ってますね。 痛い言葉をびしばし浴びせてます。 相手の痛いところを責めまくるから断罪者なのでしょうか? しかし彼女、普段の行動全てが狂気の上に存在しているのが分かって怖い。(爆 深く静かに狂い続けている様は迫力ありますよね。 ……後々本気で洒落にならない事態を引き起こしそうで戦々恐々ですが。(笑
まぁ私にとって一番理解しがたいのはあゆなのですけど。 祐一君に色々恩義を感じているでしょうに、何故か分からないけど敵対してますし。 流されてるだけって事なんでしょうかね。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
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