正しい事、正しくない事。そんな事関係ない。 ただ、悲しいと思うのはいけないことなのか。 ただ、悔しいと思うのはいけないことなのか。 それが間違いだとは思わない。 間違いだと思いたくない。 例えそれが、正しくない事だとしても。 他人の決めた枠から外れていようと、私は構わない。 正しくないと解っていても、私を曲げたくはない。 曲げてしまったら、多分、私ではなくなるから。 それが多分、今の私に必要な事だから。
 
神の居ないこの世界で−A5編−


→探りあい

     重苦しい雲が空を覆っている。少しでも刺激を加えたら雨でも降ってきそうな天気。  月明かりもなく、灯りらしい灯りも無い。ただ、ドールのカメラの色だけが鈍く輝いていた。  無言で進む10機のマリオネット。それを率いるのは2機のドール。  2機のドールを取り囲むように10機が展開していた。  闇に溶け込むような黒い装甲。人目につかないように静かに進軍している。  マリオネット10機のうち半数の6機は大きな荷台を引いていた。  巨人がホバーの力で浮いている箱を運んでいる光景はシュールだったりする。  残りの4機には大きな盾が持たされている。  キャリアーでドールごと運べば良いじゃないかと思うかもしれない。  今回も、極力証拠となるものは残したくないのだ。  マリオネット自身は量産機の売れ筋の組み合わせの為に誰にと繋がる事は難しい。  丁寧にトップメーカー3社の部品を組み込んでいる為、どこのメーカーの物か判定するのも難しい。  対してキャリアーは生産量がドールほど多くない。流通の流れも追われれば証拠として残ってしまう可能性がある。  大型の車両よりも、ドールの方が多く流通しているからだ。  ちなみに、美汐が指示を出しているのが盾を持っている4機、残りの6機が秋子が指示だ。  秋子は思考を張り巡らしながら、ゆっくりと進軍していた。 「さて、どこから地雷原でしょうか」  もし自分なら、対ドール用に地雷を確実にセットする。  名雪でも時間を稼ぐ為なら同じような事をするだろうと思っていた。  一晩で決着を付けなくていけないのだから、時間を稼ぐにはうってつけだろう。   「考えられるのは3箇所……」  自分が名雪ならと言う思考で考えた防衛の為の策。  それは全て、事前に素戔嗚のデータベースに放り込んであるが、実際に決断するのは自分だ。  一つの間違いが、戦力の大幅な低下に繋がる。  戦力を低下させてしまえば、陽動として戦力を縫い付ける事が出来ない。  相手の戦力に余裕が出来れば、祐一に多大な負担をかけてしまう。  一つの間違いで、時間が大きく稼がれる。稼がれてしまっては、増援が来る可能性が高まる。  名雪の指示じゃないにしても、敵が増える事は得策では無い。  間違いを犯すなら、そのどちらが良いか今回は判らない。  一番ベストなのは間違いを犯さない事。だから、地図に引かれた3つのラインを見て、悩む。  答えを出すのは相手の布陣を見てからだと、秋子は意識を切り替えた。 【秋子さん、そろそろですね】 「えぇ」  秋子のアイモニターに美汐からのメッセージが浮ぶ。  今は近距離なので、光通信によるやり取りを美汐と行っている。  下手に通信を使うと相手に傍受される可能性があるからだ。  もとより相手は名雪である、用心して行っても、用心が足りないくらいだと秋子は考えている。  弱い明かりが見える。その明かりの向こうに広がっているだろう海。  まるで、山の側面を削って作ったような道の手前に高めのゲートが見える。  目的地はその道の先にある施設。資料では道の全てが舗装されていない。  そのゲートの大分手前を2機のドールが見張りをするようにウロウロとしていた。  遠くから見る分には判らないが、どうやら銃を持っているようだ。 「……地雷原を見張りが歩くわけ無いですものね」 【私もそう思います】  返事が来ると思っていなかった秋子は多少の驚きを顔に浮かべる。  さて、どうするか? 秋子は頬に手を当てて考える。 「素戔嗚、他の敵は?」 『現在の反応はぁ、あの2機のみ。ただしぃ、火を落としていた場合は反応検知されませんのでぇ』  合成された音声、素戔嗚が答えつつ展開されていたデータを秋子の見ているデータに重ね合わせる。  この距離では動力反応のある物しかレーダーには引っかからない。  まだ距離があるので静かに、距離を詰めつつ思考する。 「マリオネット2機、銃を持たせて先行させて」 『アイ、了解』 【秋子さん?】 「2機を投資して、敵を炙り出します」  リタリエイターが引張って来た荷物を引き受け、2機のマリオネットが銃を持って飛び出した。  偵察と陽動を兼ねている。もし、あの見張りの他にドールを伏せていたら。  それを炙り出せたら良いと。そう思っていた。  加えて侮っていた。地雷原はまだあのゲートの近くまでないと。  見張りのドールが地雷原のど真ん中を悠々と歩いている筈ないと。  地面から、小さな炎の柱が立ち上る。鈍い爆発音と共に。  小さくでも、それは確実に絡み付いて離さない。 【え?】 「なんですって?」  爆発で1機のマリオネットの片足が吹き飛んだ。  正確には見張りは地雷原の中を普通に歩いていた。彼らの目には地雷の位置さえわかっている。  倒れ込んだ際に右手も地雷の上に落ちたのか炎が上がり、右手が宙を舞う。  握っていた銃も一緒に宙を舞っていた。 「戻して!」  しかし、その言葉を放つ前に、片足を失った1機のマリオネットは蜂の巣にされた。  見張り以外のドールが起動し、見張りと一緒になって銃弾を放っている。  待ち構えていたかのように起動したドールはゲートの上から顔と手を出していた。  怖ろしいくらいの練度。怖ろしいほどの神経。秋子は嫌な汗をかいた。  今のマリオネット自体にはあまり防御力はない。  辛うじて、無事だったもう1機が何とか逃げ帰ってくる。  蜂の巣にされた、1機を犠牲にした形だった。 【敵増援確認。見張りと合わせて8機】 「荷を展開。展開後、空の荷をゲートにぶつけて」 【盾を持っているものを壁にします】 「頼みます。素戔嗚は守備的射撃を、ただし射程外だったら良いです」 『あい、わかりましたぁ』  盾を持った2機が正面に立ち、ゲート側にいるドール達の射線を塞ぐ。  彼らの銃撃は盾を正確にぶつけて来ている。  もう少しでも遅れたら、隙間から更に被害を出していただろう。  派手に火花が散り、激しく弾丸が、打ち付けられていた。 「……化かされましたね」 【でも、これからです。真琴が到着します】 「そうですね、これからです。まずはこちらの手札を切りましょう」  こちらは若干だが、有効射撃の範囲外だ。打ち返しても無駄になる。  見張りの兵まで距離にして500mほど。後50mも進めば地雷原。見張りから更にゲートまで100mといった所。  秋子は気持ちを引き締める。これで終わる筈がないと。  そして、これで終らせないと。
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     γ小隊、現在2名なので小隊と言うのはおこがましいかもしれない。ただ、連絡が入るのを待っていた。  複数あるライフルの点検は済ませ、命令があれば後は狙いを付けて銃弾を放つだけである。  場所は山の尾根。尾根の端まで行くとブツリと千切られたように崖になり、その下は当然の事ながら海となっている。  その反対側は徐々に下っており、平地へと繋がっている。  ただ、無事に下ろうと思うならかなり曲がりくねった道を降りなくてはならない。  人ならば半日、ドールであればかなりのショートカットをして1時間の道のりで現在の位置に居る。  視線のその先にはゲートが見えている。ただし、ドールのカメラによる補正をかなり受けていた。  向こうはこちらが撃つまで気がつかないだろう。見張りのドールが地雷原の中を歩いている姿が見える。  遠くから鈍い爆発音と鈍い輝き。続いて鋭い射撃音が続く。 『γ小隊、お客様のお出ましです』 「了解、御持て成しの用意をする」  ヒュントは藤川の声を聴いて静かに返す。  がっちりと、ライフルを掴み取り、射撃の体制に入る。  横にいた小池がその横に張り付く。観測主としての役割の為だ。  一応、相手からの狙撃も考えて盾を持っているが、あくまでそれは用心の為である。  ちなみに、聖・ジョージ部隊が平気で通信を使っているのには理由がある。  通信に暗号変換をかけて電波を飛ばしているからだ。  聖・ジョージ部隊に取り付けられた通信機でなければ、通信を拾ってもノイズにしかなら無い。 「……さて」  スコープはアルテミスタイプには必要が無い。  ヒュントの手元にあるパネルを弄ってカメラの倍率を挙げて行く。  十分に距離があり、しかも傍らに観測主もしくはバックアップの人間がいない事には出来ない作業。  カメラの先には盾を持ったドールが見える。  若干だが、盾に隠れている機体の頭が見えいているが、木によって隠されていた。  木ごと打ち抜けば良いと、ヒュントが引き金に手をかけた瞬間。 がこぉん!  咄嗟に何かに反応していた小池の盾に弾丸が当たり、火花を散らした。  弾丸を盾に受けた反動で小池の機体の体勢が横に滑るように崩れるが、何とか持ちこたえた。  もし、そのまま小池が動かなければ、アルテミスの頭は打ち抜かれていただろう。 「どこからだ!?」 『咄嗟に動いたから、判らない!』  落ち着けとばかりに、ヒュントは慌てだした思考を静める。  小池も自分が慌てていて、地の言葉遣いになっている。  お互いに冷静になるべきという、仕種をしてお互いに頷きあう。  ヒュントは更に現在の射撃の姿勢を解いて警戒を周囲に向けた。  しかし、どこから狙撃されたか判らない。 「射撃音がなかったな……」 『方向の割り出しはしておきましたが……』  小池が解析した相手のいる筈の方向をヒュントへと送る。  ヒュントの視界にその方向が矢印となって現れる。  その先には平地が広がっていた。平地の更に先には同じような高さの山はあるが、この暗闇の中では見えない。  その山の頂上までの距離だって約50kmは離れている筈だった。  これは小池の機体が横に滑るように体勢が崩れたからだ。  少なくとも、敵は同じ高さ位から狙撃してきたと思われる。 「この距離で狙撃できると思うか?」 『無理です』 「そうだろう」  ヒュントも小池も同じように無理だと思う。しかし、現に狙撃されているのだ。  もし出来たとしても狙撃と言う事は出来ないレベルだろう。  ピンポイントで狙える筈も無いし、距離が離れれば離れるほど弾丸の威力は落ちる。  それならば、ミサイル等で狙われたと思ったほうが気が楽だが、ミサイル一基で軽くドール10台分のコストがかかる。  コストがかかる上に貴重品である化石燃料を使う。  更に言えば、着弾した瞬間に爆発するだろうから、目立つ。    ただ、爆発する事も無く、火花を散らしただけであるから弾丸と言うしかない。  相手はミサイルではなく弾丸で、そして、ピンポイントで狙撃してきていた。  一体どのような銃で、どのような弾丸を使っているのか。判らない。 「警戒を頼む」 『了解』  ヒュントは試しにカメラをその方向に向けて倍率を高めて行く。  しかし、向かいにある山が多少拡大された所で、カメラの倍率は上げられなくなる。  距離にして5km先の物を拡大しているのだが、その山の細部は判らない。  小池は体勢をすぐに動けるようにして、周囲を警戒している。  もう一度狙撃してくるか、それとも多少の位置をずらして狙撃してくるか考えていた。  それとも次の弾丸を入れ替えている所なのかもしれない。  色々な考えが浮んでは消え、2人は落ち着かない。   「β1、本部、現在、狙撃を受けている。β1には申し訳無いが脅威を排除するまでそちらのバックアップは出来ない」 『γ1、どういう事?』 「狙撃される筈もないのに、されたのです。データをそちらへ送ります」 『……不可解だね』 『こちらβ1……膠着状態に入りました。敵が盾を張り何かしようとしているみたいです』  名雪はヒュントから送られてきたデータを見て、眉を顰める。  本来ならば、膠着状態に入る筈がなかった。  攻撃力の高いライフルで攻撃すれば盾を持っていようと態勢が崩れるからだ。  β小隊にはそれだけの隙があれば漬け込む事は出来る。 『そう……γは再度の狙撃に気をつけて。βには火付け役を送るよ』 「γ、了解しました」 『火付け役とは?』 『α2だよ、あの機体が一番、機動力があるからね』  α2とは高橋の事である。更に付け加えるとγ1はヒュント、γ2は小池、β1は藤川である。  ちなみに、香里はα1、α3はサンティアラ、名雪は本部である。  藤川の息を呑む声が聞こえる。こんな予定は無いという感じであろうか。  だが、その事に関しては誰も何も言わない。 『γの方は私も見当をつける』 「お願いします」 『β小隊はα2の援護。次いで、敵の進行を防いで。ただの膠着状態じゃないんでしょ?』 『はい。任務に関しては了解しました』 『γ小隊は、次の指示があったらすぐに動けるようにしておいて』 「了解」  とりあえずは現状維持と言う感じで初期位置で戦闘は続行された。  ヒュント達は再度、狙撃される事になる。
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     本部近くの急遽設営されているテント。  ここで、聖ジョージ部隊のドールが全て整備されている。  昼間のうちに全てそれらのチェックを行い、夕方に所定の位置へと移動するという生活を繰り返していた。  敵の標的は平定者一本に絞っているから、このようなシフトになっている。 「みなさん! シヴァが出ます! 準備は!」 「こちら、問題なし!」 「システム、オールグリーン!」 「チェックリストに洩れは無し!」 「こっちも、問題なし!」 「機体の調子万全!」 「ありがとうございます! 高橋さん、頑張って」  栞が大声をかけてシヴァの専属メカニック5人に確認をする。  メカニック達が、栞に負けないくらいの大声で返事をしていた。  何故、シヴァにこれほど気をかけるかと言えば、一番、パイロットに優しくない機体だから。  それと一番精神的に不安定になっていたパイロットとの組み合わせである事。その2つからだ。  現在のシヴァは猿飛を基本モデルとしてそれを発展させて構成されている。  猿飛はバランスが激悪の機体だ。繊細な設定と祐一の驚異的な技量でなんとか動いていた機体であった。  それを高橋に見合うように設定しなおし、どうにかしたのが現在のシヴァである。  装甲を強化カーボンに特殊フィルムを被せ、徹底的な軽量化を施し、曲芸師のような身のこなしも可能になっていた。  一番機体が軽く、力強く繊細でしなやかな動きが可能な機体。それが今のシヴァだ。  メカニック達が細心の注意と熱意を注ぎ込んだ機体でもある。  栞が、隣にいた高橋の肩を叩いて、乗るように促した。  高橋はそれに無言で頷いてコクピットへと滑り込む。  起動をチェックしている時に栞から通信が入ってきた。 『高橋さん、貴女がなんと思おうと、誰がなんと言おうと、居場所はここに有ります』 「え?」 『高橋さんが、聖・ジョージ部隊にいる限り、私達は仲間であり、家族です。忘れないで下さい』 「……はい」 『今回は機体を壊しても怒らないですから、ちゃんと帰ってくるんですよ!』 「はい!」  栞は高橋の変調に気がついていた。ただ、言い出す機会が少なかっただけである。  それに、言葉が届かなければ意味が無い。だから栞が話しかけるタイミングがこんな間際になってしまった。  平定者には因縁がある事はメカニック達も全員解っている。  メカニック達は思う、栞がお母さんに見えると。  ちなみに、メカニック達の平均年齢は30代である。栞は20前半。  10も年下の人間にお母さんを感じてどうするという突っ込みはしない。  本当にお母さんみたいに感じるのだから仕方が無いと返事が帰ってくるのがわかっているから。 「行ってきます、お母さん!」 『……誰の事を言ってるんですか? お母さんって?』  栞のかなり冷たい声が高橋の耳に届いた。  周りに居るメカニック達にも当然届いているだろう。  高橋は言った瞬間にしまったと思い、メカニック達は必死になって笑いを堪えている。  ただ、栞の頭から湯気が出てきそうだった。  カメラの端の栞を見て高橋は誤魔化すように声を出す。 「シヴァ出ます!」 『高橋さん! 後で追求しますから、絶対に帰ってきなさい!』 「はい!」  高橋はちょっと潤んだ目を擦ってから、機体を慎重にテントから出した。  そして、走り始める。視界に地雷のデータを重ね合わせて徐々にスピードを上げていく。  本部と呼ばれる建物から、β小隊つまり藤川達がいるゲートまで2つのゲートがある。  一番本部に近いゲートはまだ扉が開いている。それを通り抜け、次のゲートへと走った。  次のゲートも半分だけ扉は開いている。そこにはβ小隊の2機が待機している。  それに手で、行ってくると合図を送り、返答の仕種を貰った。 「β1、そろそろそっちに着きます」 『了解。助かります、α2』 「足場、用意しておいてね」 『データを送ります。それに従ってください』 「了解」  走り抜けたときに通信を入れて、藤川に頼み事をし、指示を貰う。  地雷のデータ以外に足場のデータが重ねあわされる。  トップスピードで走り抜けるシヴァはまるで弾丸のようだった。  早くも一番外側のゲートで、β小隊の持ち場が見えてくる。 「いっきます!」 『よし!』  高橋の声が外へとマイクで響き、それに答えたのが藤川。  バレーのレシーブのような体勢でシヴァの片足が、藤川機の両手にかかった。  かかった瞬間、それを振り上げる。シヴァもタイミングを合わせて、片足に力を入れた。  息の合ったそれは、昔の部隊で浩平と留美が行っていた物である。  飛ぶ方と飛ばす方の男と女が入れ替わっているが。 「β1、ありがとう」 『どういたしまして、こちらも頼みます』 「うん」  シヴァは軽がる自身の身長の3倍はありそうなゲートを飛び越える。  飛び越える間際に、ゲートの縁の部分に手を付くことで、着地点の調整を行う。  そして、無事にゲートの向こう側へと舞い降りた。 「さて」  まさに舞い降りたという表現があう。  着地の際に無粋な音を出さずまるで羽を落としたかのように着地したのだから。  着地した時に何か問題は出てないか、それを確かめる高橋。  きっちり整備されたシヴァには問題は出ていなかった。 「行ってくるけど、無理な援護しないでね」 『了解』 『α2こそ、無理するな』  チェックを終えた瞬間に走り出す高橋。  相手を安心させる為に囮として、見張りとして外に出ていた2機を引き連れてである。  2機は高橋を先行させて、ゆっくりとした足取りで進む。  高橋は速度を上げて4枚の盾で出来た壁へと走る。  壁の横から顔を出した機体は後ろからの2機の援護ですぐに顔を引っ込めた。  反撃する間も与えない、援護。高橋はそれを嬉しく思う。 「壁を越えます」 『了解、無理するな』 「無茶してきます」 『傷物になるなよ、隊長にどやされる』 「傷物にならないですって」  高橋は少しだけ微笑んだ。こんなやり取りが好きだった事もある。  そして、こんなやり取りが、みんなが仲間だと心が通じていると感じられるから、微笑んだ。  軽口の会話を続ける。元同じ部隊。呼吸もやり方も判りきっている。  盾の壁は後ろの2人を警戒しているのか、動かない。  ひらりと、壁を乗り越えて高橋は多少の驚きを目にする。 「奇抜……ドールが鎧を着込んでる」  その呟きは付いて来た2機に伝えられ、そして、名雪へと伝わるだろう。  高橋は一番近くにいる機体を潰そうとして、違和感に気がつく。  脅威が近づいているのにそれが存在しないように行動しているのだから。  もしかすると信頼の裏返しなのかもしれない。そう結論付けて潰そうと右腕を振り上げようとして身を捻った。 「動かないのは信頼からか……」  身を捻りながら、繰り出されたロッドを避ける。腰の回転もつけてカウンター気味に蹴りを放った。  その蹴りは残った片手でガードされる。高橋は膝を曲げてその手に足を引っ掛けてその機体の背後に回った。  具体的に表せば、膝を曲げてその手の内側に足の先を入れる。  そして、そこに力を入れつつ体を膝に近づける。そして、手を肩に置いて、飛び越えた。  その動作にあう効果音が有ったとしたら、ひらりと言う音が似合うだろう。  重さを感じさせずに、違和感を感じさせずに、高橋はそれをやりきった。それも瞬きをする合間位の時間に。  高橋が一番拘った、そして、一番得意な距離となった戦い方なのだから。  相手の、な? と言うもしくは、何が起こったか疑問に思う声が聞こえそうな動きだった。 「やっぱり」  目の前の敵に向こうに銃を構えた機体が居た。  背後に回ったのには意味がある。それは、敵の仲間の銃撃を避けるためである。  先ほどの高橋の位置は絶好の位置だっただろう。射撃するには。  敵しか射線上に居なく、味方にも被害が出ない。  加えて、近くで味方が格闘戦をしているのだが、自分が盾になっていてその機体には弾丸が届かない。  もし途中で攻撃をしよう等と欲を出せば確実にダメージを貰っていただろう。致命傷だったかもしれない。  高橋の一番の強みは広すぎる視界である。次いで早い判断力とクソ度胸。  まだ、戦い方は他人の2番煎じといえるレベルかもしれない。  以前の留美を模した動きの方が、洗練された動きだと言える。  だが、高橋はそれを一級の物に変える自身の特性を持っていた。  全てはあの剣の様な印象の機体の再戦の為に変えたスタイル。  それが効率的に、ガッチリと噛みあっている。  絡みつくような、独特なリズムに相手を引き込むよな密着戦を開始する高橋。  相手はレーダーに映らない不思議な機体だが、視界に入るのならば問題ない。 ひゅおん、ひゅおん、ひゅおん。  相手の機体が思いのほか高橋の動きについてくるので驚いている。高橋の相手をしているのは美汐。  もし、祐一に訓練を申し込んでいなかったら、あっさりとやられていたかも知れなかった。  攻撃をし、無駄とも思える挙動をする事で、張り付いたシヴァを引き剥がそうというのだ。  そんな攻撃を紙一重で避ける高橋。繰り出されるロッドと無手の打撃と打突の乱舞。  外部のマイクの音を聞いても高橋は表情ひとつ動かさない。  静かに、相手が犯す致命的なミスを待っている。  高橋の後ろで、射撃のチャンスをうかがっている機体を意識する余裕もある。  攻撃をするには隙間が無いが、避ける分には問題なかった。 To the next stage

     あとがき  はい、正面戦始まりです。こんな感じで始めました。ゆーろです。  かなり中途半端な地点できったと思いますが……  ここで切らなかったまたずるずると続きそうだったので、ここで切りました。  はい、注目! 重大発表!  ちなみに、栞さんの出番はこれだけの可能性が有ります(爆  まだ始まったばかりなので、続きを楽しみにしてもらえると幸いです。  では、拍手のお返事をしたいと思います。 >由紀子と晴子の仲の良さ?と祐一の不幸さが面白かったです! 10/2  SSSですね。どうもです。あの2人は自分達的には犬猿の仲なんですよね。  でも本当は仲良いんじゃないかと思う時も多いですから。  祐一君が受動的なキャラになる事が多くなってるのが不満ですけどね(苦笑 >潤がかっこよかったです!美樹達がこれからどうなるのかも気になります。10/3  彼の活躍は結構前から決まってました。ただ、もっと違う形だったんですけどね。  色々と形を整えていって今の形へと。彼、良い人ですから。  美樹さん達の事は、一連の事が終り次第、それぞれにスポットを当てて書きたいと思います。 >(SSSの感想)相沢祐治は自作の人工知能にまで嫌われるのですか… 10/3  もし、自我と言うものが持ったら多分嫌うと思います。  それに、月読は主人である祐一君が天照は祐一君と舞さんの両方が嫌ってますから……  人を弄っている時点で大抵の人には嫌われると思います。ただし、これは自分の意見ですけどね。 >真の天才を見た時人は「距離を置く者」と「並び立とうとする者」とに分かれるといいますが茜は後者ですか >と思ったら……茜〜〜〜!!!なんじゃそりゃ〜〜〜結局祐一目当てか〜い。コーヒー吹いてしもうた 10/3  茜さん、うっかり。書いてみたかったんですよ。うっかりみたいな感じの場面をですね。  茜さん理由はしっかりしてたんですよ? あれは建前じゃないんですよ? 本音ですよ?  でも、もう一つ本音があったんですね。言うつもりなかったんですけど、うっかり。  書いてて楽しかったですね(笑 >美樹さんに幸あれ ってね♪ 10/3  初めて、美樹さんに好意的なコメントが!(爆  嫌われてるキャラのツートップにこんなコメントがいただけるなんて!  ありがとうございます。こんな反応失礼かもしれませんが(笑 >茜にもっと出番を 10/3  本編ではあまり無いかもしれません。ただ、出る機会あるんです。  でも、茜さん戦闘要員じゃ有りませんから栞さんと同じ可能性なんですよね……  SSSも結構ネタを書きつくした感じが有りますしねぇ、困りました。 >由紀子と晴子の二人に関わって不幸になる祐一がとても面白いです! >由紀子と晴子がとても面白いです!今度は由紀子と祐一といった一対一のSSSを期待します!10/3  1対1ですか? それはそれで旨みがなくなるような?  努力はしてみますが、どうなるでしょう? なんだかしょぼい反応しか、し無さそうな気もします。  ちなみに、祐一君は不幸じゃなくて、不運なんですよ。 >神の居ないこの世界で毎回楽しみにしています。(1) >そこで他の長編作品も作ってほしいです。それも祐一主人公のでお願いします(2) 10/3  えっと、これは反応し辛いコメントですね。まずは、楽しんでもらってありがとうございます。  他の長編といわれても、ポンと書ける訳ではありませんから……  この件に関してはこのSSが終るもしくは電波を受信するのどちらかで無い限り、ご期待に添えないと思えます。  とりあえず、完結しない事にはって事ですね。こればかりは仕方が有りません。きっちり終らないと気持ち悪いですから。 >28話で北川を見直しました。ちゃんと町を守っているんですね。 10/4  彼、結構読んでもらっている人に喫茶店の経営者というイメージが定着してたみたいで……  自分としては結構意外な反応だなぁと思ってるんですが(苦笑  でも、活躍できたから良いかな? と思う自分がいるわけで。 >(SSSのリクエスト)リンカとエアナが一弥の情報を求めて、祐一を問い詰める話を希望します。 10/4  あい、了解しました。次回のSSS(いつになるか解りませんが)には実現したいかと。   >留美を平定者に入れてあげて下さい〜 10/4  今からは遅いですね……既に今から乱入すると話がおかしくなりますしね。  祐一君との接点も結構薄いですから……今回と言いますか、この作品ではごめんなさいです。 >茜にも祐一の子供を〜 10/4  えっと、後日談で出る予定です。茜さんの子供(これもいつになるか判らない)  首を長くして待ってもらえるとありがたいです。 >人物設定で祐一の説明が少しおかしかったですよ 10/8  これだけを言われてもどこがおかしいのか自分では判らないのですが……  それと、人物設定はあまり細かく突っ込まれても困る感じなんですよね。  あくまで大雑把に水増しして書いてますから、どのキャラも容姿を除いたら1行で終りますし……  有夏さんを例に取ると  口調乱暴、性格外交的やや強引、祐一・祐夏母、秋子姉、交友、由紀子、晴子  こんな感じになってしまいますから、結構苦労してるんです。  では、続きを頑張りますね。ゆーろでした。  


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。
     ついに始まりました最終決戦。  主演男優の登場はまだですが、まずは序幕というところでしょうか。  狙撃に関しては平定者が一歩リードの様子ですけど。  美汐嬢の言葉通りなら真琴が何かをやっているのでしょう。
     まずドール戦闘を開始したのは高橋&美汐のお嬢さん2人。(笑  単独の戦闘力なら高橋嬢でしょうが、美汐がどうするか見物。  シヴァは一応包囲網の中にいる感じですし。  秋子さんがこのままで済ますはずがないでしょう。

     割と戦力を振り分けている感じの聖ジョージ部隊。  対する少ない平定者は今のところ秋子さん、美汐嬢に真琴の3人。  祐一と舞は残っていますが、やはり平定者側は人数が少ないなぁと再確認。  ここらへん振り分けた戦力が後々影響してくるのかな?


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

     感想はBBSかメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)