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現れたのは鎧武者。まるで、古の武士がそこにはいた。
ただ、具足だけが武士のようには見えない。特注のように見える。
追加装甲を装備した姿のマリオネット達だ。5機の特殊装甲を具足にした鎧を装備した姿。
絶対なる防御力を手に入れた代わりに、壊滅的までに機動力を失うという両極端な機体が。
すぐさま盾を構えていたものと入れ替わり、余った1機が美汐の援護に入る。
まだ装甲を付けていない4機は装甲を正確な手順でつけ始めた。
「な!」
美汐は、何度目かになる驚きの声を上げていた。
3対1、素戔嗚にマリオネット、そして美汐を相手に翻弄され続けている。
相手は一機で特攻してきた機体。そぎ落とす所をそぎ落とし、無駄をなくした純白の装甲。
両腕が全体のバランスからして僅かに大きいが、小型に分類されるその機体。
器用さが売りだと言い出しそうな軽装の騎士のようなフォルム。
そして、器用に丁寧に動くそいつは、美汐の思惑を必ず裏切るように動いてくれていた。
素戔嗚が完璧なバックアップに徹してくれているおかげで、攻撃をされる事は無い。
ただ、美汐の攻撃も当たる事もなかった。
援護に入ってきているマリオネットは機動力の無さから戦闘についていけていない。
そのマリオネットはタイミングの外れた攻撃しか出来ていない。
相手を引き付けつつ、腕を変則的に振った美汐の攻撃。
その振った腕にあわせるように変則的な動きをする敵。
順手に持っていたロッドを逆手に持ち替えて振るうが、それすらも見事に避けられてしまう。
見た目紙一重。美汐が感じる紙の厚さは広辞苑。
「くっ!」
お返しと言う感じの際どい、打撃が美汐機の頭部を掠る。連携と連携のつなぎの空白を狙われた感じの打撃。
空白と言う空白ではない。本来なら反撃する空間は無いが、ねじ込まれていた。
美汐が辛うじて反応できた感じである。美汐が相手にしている敵は決定的な隙を伺っていた。
素戔嗚とマリオネット、そして美汐の行っている連携の。
今の所、連携が破綻する傾向が見えないが、根競べといった状況である事には間違いない。
「しつこい……本当にしつこいですね!」
纏わりつく様に動く白の装甲。先程から距離を開くという事をしない。
自身のみの保身の為か、それとも決定的な何かを待っている為か。
美汐はその両方だろうと見当をつける。見当をつけたところで現状を打破できないのだが。
さて、敵である高橋の攻撃方法は祐一を模倣しているが、感じ方は全く違う。
同じような攻撃方法でも、祐一ならば首筋にナイフを突きつけられているような感じる。
今の高橋は、ネチャネチャとして物が体に張り付きながら隙を伺っているような感じだ。
蛭が血を吸う為に様子をうかがっている。そう言えば理解できるかもしれない。
どちらが嫌か? と聞かれればどちらも嫌と答えるだろう。
どちらがましとも言えない、両方とも生理的嫌悪感を催すものだ。
動きの変化は些細な事だった。ちょっと高橋が離れたと思った次の瞬間。
高橋についてきた援護役の2人が盾の壁を越えるように手榴弾のようなものを素戔嗚に向けて投げ込んだ。
「っ!」
高橋の動きに気を取られ、反応が遅れた。
その閃光が走ったと同時に、美汐の視界がゼロになる。
美汐の動きが手榴弾のようなものに気を取られて瞬間的に止ったせいでもある。
高橋がその隙を見逃す筈も無い。ただ、時間が無いのか浅い攻撃。
閃光の爆発音の中に紛れてしまったが、ゴきゃリ、ブチリと言う音共に首を攻撃された。
攻撃された直後にコンと言う軽い音。どうやら肩を足場に何処かへと飛んだらしい。
レーダーには敵が写っている。外の映像は見えないが、レーダーや通信をする分には問題が無い。
そのレーダーに映る3機の敵が見事にひいて行くのには美汐には訳が判らないことだった。
そう、次の瞬間、文字が出るまでは。
【美汐さん、伏せてぇ!】
黒い画面に目の前に出てきた文字に、体が咄嗟に反応する。
美汐機は地面に這い蹲るが、爆発の影響で地面を二転三転した。
ようやく止った時に、このために退いて行ったのかと解る。
一時的な避難かと思えば結局は違ったようで、そのまま引き上げていった。
「やってくれましたね……」
【大丈夫ですか?】
「カメラをやられましたが、他は生きてます。そちらは?」
【こちらはほぼ無傷です】
「状況は?」
【荷台が一つ、誘爆させられました】
「一つだけですか?」
【どうやら、手持ちで破壊できるものを使い切ったみたいです】
話をしながら機体の損傷チェックを素早く終らせた美汐。
機体の首周辺に警告が出ている以外は問題が無いと出てきた。
秋子は他の機体に何か障害が出ていないかチェックを開始している。
「機体の応急処置をします」
【状態は?】
「どうやらコクピットとカメラをつなぐケーブルをやられたみたいです」
【ギリギリ処置が可能という感じですね】
「不幸中の幸いと言う奴ですね」
そう言いながら、美汐は機体を屈ませて、コクピットから出る。
当然、一度周りに敵が居ないかどうか確認してから、出ている。
今の所外側に敵は居ないと判断しての事だった。
他の機体には今の所障害は見られなかった。追加装甲を装備していたおかげでもある。
「……これならば、5分もあれば何とかなりますね」
損傷を見た美汐は一回コクピットに戻り、秋子に伝える。
美汐の修理を待って、進軍するように秋子は予定立て、素戔嗚に指示を出し始めた。
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神の居ないこの世界で−A5編− |
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