触れてください、私の心を。触れさせてください、貴方の心を。 貴方に触れられるのを想像しただけで、失神してしまいそう。 その手で、その熱を持って私に触てくれたらどれだけ気持ち良いだろうか? その声で、その口で私に紡いでくれる声はどれだけ心地よいだろう? 感じてください、私の体を。感じさせてください、貴方の体を。 その皮膚で、神経で私の体を感じてくれると想像しただけで気絶しそう。 その目で、その耳で私を捉えてくれたらどれだけ感激だろう? その皮膚で、神経で私を知覚してくれたらどれだけの衝撃だろう? 触れてください、私の魂に。触れさせてください、貴方の魂を。 もし、あの人の魂が私に触れたのならばっと夢想するだけで喜びで狂ってしまいそう。 その魂で、その精神で私に触れられたら、どれだけの驚きだろう? 全てで、そう、貴方が全て私のものになったら、どれだけ感激するだろう? 全てが、そう、私が全て貴方のものになったら、どれだけ狂ってしまうだろう? 感じてください、私を。感じさせてください、貴方を。 こんなにも、私は貴方を求めています。壊れてしまうほど、狂えてしまうほどに。 だから、私を感じてください。貴方を感じさせてください。 私は貴方のもの、貴方は私のもの。貴方は私だけを感じて、私は貴方だけを感じる。 貴方が感じる恐怖も、私が感じた恐怖も、その感情全てが、貴方のもので私のもの。 その恐怖に歪んだ顔も、喜びを示す顔も。全ての表情が私のもの。私の表情も全て、貴方のもの。 だから私を、私の全てを、私だけを感じてください。 この感情はもう止められない。
 
神の居ないこの世界で−A5編−


→因縁の対決

     辿り着いた先は、祐一には何となく、好きになれない所だった。  コロッセオにドーム状の天井を張ったような空間。  球形の天井はロンギヌスなら利用できる場所もある。できない場所もある。  レーダーにノイズが奔り、役に立たなくなる。月読がそのような事を報告してきた。  どうやらこの空間の素材が電波を阻む物、もしくは妨害電波が出ているかのどちらか。  祐一の視界、目の前に広がる空間の中に白い点が一つだけ存在していた。 『久しぶりね、相沢君』 「香里か……」  その白い点が柔らかい、嬉しそうな音を発している。通信を開いているわけでもない。  白い点は2本のトンファーを持ち、軽く構えているように見える。  ただ、外部マイクを使っているだけだ。その声は多少弄られているのか生の声ではない。  機会を通した、女性のような声になっている。  祐一は外に声を出す事無く、小さく呟くに留まった。正確には、何を言って良いか判らない。  再会を祝えば良いのか? 否。明らかに敵対している。  再会を呪えば良いのか? 否。香里の声は明るい。    だから、何を言って良いのか判断がつかない。 『どう? ここは似ていないかしら?』  似てないかといわれて周りを見渡す祐一。確かに、何処かと似ている雰囲気がある。  香里の独白は続く。香里には相手が聞いているか、聞いていないかなんて関係ないのだろう。  今は、香里自身の気持ちを整理している状態でもある。 (なんて”イタイ”女、なのかしら)  言っている香里自身がそう認めている。  どうにもならない感情を落ち着かせるために、何とか口にしている状態に過ぎない。  喜びでもない、恐怖でもない、色々な感情が複合的に絡み合ってどういって良いか判らない。そんな状態。   『覚えてるかしら? エリアMであなたが初めて、Hドールに乗ったときの事を』  あぁ、と祐一が息を吐いた。何処かが明確な場所として思い出される。  あの時、香里が感じた感情は間違いなく、恐怖だった。  ベルセルク、あの機体は間違いなく香里の既知の外にある強さ。  今見れば、また違った感情が浮んでくるかも知れない。  当時はどうしようもない程の戦力差に恐怖を感じていた。  有夏が格闘戦を仕掛けるなといってくれた事に多大なる感謝を捧げたいほどだ。 『ここも、研究施設だったというわけよ。さて……』  くだらない話はここでおしまい。そんな区切り方だった。  祐一もようやく、動けると気持ちを落ち着けている。   「『そこを退いてくれないか?』」  外に出た声が重なる。祐一はそれが何だかよく理解できなかった。  一字一句違わない同じ音に香里の笑いを堪えられない。   『変ってないわね、嬉しいわ。相沢君』  ひとしきり笑った。口先だけの笑い。乾いているわけでも、潤っているわけでもない笑いだった。  相手を嘲るようでいて、自分を嘲るような声の色。複雑な音色をしている。  それが終ると同時に次の音が発せられる。 「『無駄な戦闘は避けたい』」  ふふふと、香里から笑い声が洩れる。香里は泣きたくなるほど嬉しかった。  相沢祐一という存在が、以前のまま、何一つ変わっていないことが嬉しかった。  上機嫌な声のまま、香里は続ける。 『えぇ、確かに避けたいわね。でも、『無駄』な戦闘は彼方の方にしかないのよ?』  香里には引くという選択肢はない。何故なら、これが任務だから。もちろん、引くつもりもない。  祐一も引くという選択肢はない。そして、回り道をするだけの余裕もない。  この道が、最短距離。更に言うなら、外を回るとドール以外のものに注意を払わなくてはならなくなる。  それは地雷だったり、固定砲台だったりする。それを一つ一つ注意しながら進むのは時間が、かかりすぎる。 「『最後だ。そこを退け』」  最後通牒を叩きつける声も同じ。そして、声の抑揚まで同じだった。  相沢祐一という存在は何一つ変らずに、美坂香里の心の中に描けている。  そう確信する香里。これで美坂香里は相沢祐一を見誤らない。  変っていない事が嬉しいわけではない。香里が祐一を見誤らないという事実が嬉しいのだ。  これから、相沢祐一と戦うという事に関して、これほど嬉しい事はない。   『相沢君は……本当に変わって無いわね。私の頭にくる位に』  うれしそうな声を上げる香里。ただ、嬉しそうなのではない。  何かやりきれないものを含んだ声だった。  声の質がガラリと変る。次に出された声には怒りの成分が、大いに含まれていた。 『――――そのひねた性根ごと、叩き潰してあげるわ』  その声を音を戦いの合図として祐一と白い点は動く。  祐一は無駄な戦いを避けるために最小限の動作で白い点を出し抜こうとする。  白い点は最大限の実力を持ってそれを阻もうとする。だが、初めの動きは鈍かった。 【警告 1機が機体の後ろに隠れています】  月読の警告が、祐一の動きに変化を促す。  このままの動作でいけば、確実に致命的な何かを犯すと。祐一は感じている。  それは強迫に似た思い。それに従って、祐一は行動した。  機体を白い機体の肩を蹴って前に進むのではなく、後ろへと跳んだ。  かちゃん、と軽い音を立てて着地する。目の前の機体は2機に増えている。 『あら、気がついたのね。初めまして、サンティアラよ』 『残念だけど、無理に突破したら、こちらで保護してる人は他の場所へ移送する手筈になっているわ』 『うふふふ、私達の向こうに扉があるでしょ?』 『その扉の鍵は2人の内のどちらかが持っているというわけよ。先に進みたかったら、私達を倒して進みなさい』  声は今まで聞いていた声と同じ。2人とも同じような機会を通したような女性の声をしている。  白い機体が2つに増える。アレスタイプとアテナタイプ。  ただし、外面的な違いは少ししか見受けられない。西洋の鎧を模したような機体の形。  鎧の差異が、外面的な違いとなっている。どちらも軽装の鎧。装甲の隙間は殆ど見えないが薄い事は判った。  両方とも基本的な装甲の配置は同じ、西洋の鎧のように胸部を包み込むプレート。  動きを阻害しないように添えられる肩当に肘当て。  機体が重くならないように全身を包み込む装甲。装甲の種類は金属ではないようだと祐一は思う。  装甲には細かな装飾のような物が刻み込まれている。  近くでよく見てみないと判らないが、それは種類の違う白で何かの模様が描かれている様に見える。  兜だけは鎧のような物ではない。大きな差異はそれに集約されるだろう。  前に居たのは、目の部分から縦に、首まで切れ込みのようなものが走っている。  それはまるで涙を流しているようにも見えた。  後ろのに居たのは、西洋の仮面舞踏会でつけるような、額から鼻先までを覆うような仮面がひっついている。  当然の事ながら、目の部分はちゃんと露出している。他はのっぺりとしていて無表情。  前に居た機体がトンファーを2本。後ろで隠れていたのが、ロッドを2本。どちらも近接格闘型。   「っち」  小さく舌打ち。脅しではないだろうと、祐一は分析する。  もし本当ならば、祐一にとっては最悪である。  ここから脱出する戦力は十二分に持っている。だから、脅しだけではない。  どちらにしても無視をするという選択肢はなくなってしまった。  咄嗟に持ってきたライフルを構えるが、その行動は動作の手順を一つだけ飛ばしていた。それが裏目へと出る。  銃撃の基本は距離をとる事が前提条件になる。その距離をとる動作をおろそかにしていた。 『銃撃っていうのは、距離をとるのが基本でしょ? らしくないわよ!』  構えたライフルの銃口をロッドを持っているドールの右足に抑えられる。  自重の殆どが乗った右足は銃口を地面にがっちりと固定させていた。  真横からトンファーを持った機体が殴りかかってきている。  目に入った祐一の行動は迅速だった。銃口が押さえつけらた為に傾いたライフル。  銃底を跳ね上げるように、ライフルを地面に対して垂直に持って行く。  突然傾斜の増えたライフルの銃口に白い機体の自重をかけていた右足は滑るように地面を踏みしめた。  ロッドを繰り出して、この場に何とか縫いつけようとする白い機体。  当然の事ながら、ライフルは地面に対して垂直になる。  それが盾になるように祐一は機体を移動させる。そして、棒高跳びの要領で機体を宙に躍らせた祐一。   『逃すかぁ!』  トンファーが空を切り、二撃目を繰り出そうにしても相手は空中。  ロンギヌスはロッドを持つ機体の背後に着地する。  追撃しようにも、仲間が進路を邪魔してすぐにという訳にもいかない。  ロッドを持った機体も振り向かなければ、流石に背後を攻撃する手段はない。  だが、2機とも動かないという選択はない。視線と視線を合わせて左右に展開した。  元居た地点に銃弾が打ち込まれる。左右に展開したのは銃弾にさらされる危険を少しでも減らそうという事。  一方、祐一は距離らしい距離もとれないことに苛立ちを感じていた。  今の所のアドバンテージは一方的に遠くから攻撃できるという事。ただし、距離が取れればという条件がつく。 「見事……だな」 【行動を見る限り、祐一に戦い方を絞っている感があります】 「どうしたものか」 【現在の方針を続けていても、撃破できる可能性は低いままと予想します】  距離をとるが、射撃の為に一方を意識した途端、片方に意識が回らなくなる。  それを逆手に取られて、意識が回らなくなった方が攻撃を仕掛けてくる。    銃撃ではなく、格闘戦ならばまた違った結果になるかもしれない。  既にライフルは何度目かになる、トンファーとロッドの打撃を受けていた。 【ライフルの耐久が限界に近いです】  弾丸は残っているし、予備の弾層があるので、使えないこともない。ただ、ライフルにガタが来ている。  それもそのはず。格闘武器として作られていないのに、そのように使っていたらそうなってしまうだろう。  祐一はここで意識を切り替える。射撃中心から格闘中心へと。  ライフルは射撃に使用せずに棒として使うと。 「格闘戦を仕掛ける」 【YES、祐一】  月読が必要のなかった機体中の回路を開き始める。  それは、格闘戦へと移行する為に必要な儀式な様なものだった。  機体を包み込む包帯のような装甲が軋みの声を上げる。見た目には変化こそ無いが、機能的には変化があった。  射撃では動作の完璧な精密さに重点が置かれるが、格闘では力と精密さが同居しなくてはならない。  そのための変化。その為に必要な手順だ。  ロンギヌスは全身を包帯に包まれたような機体。顔には顔全体を覆う仮面が被せられている。  もし、これが人間サイズで場所が場所なら、本当の仮面舞踏祭が開けるかもしれなかった。  奇妙な舞踏祭。1人は包帯まみれで,2人は鎧を着ている。もしかすると仮装大会かも知れない。  もっとも、無粋で危険な舞踏祭、もしくは仮装大会になるだろうが。 『ふふふ、私はこの瞬間を楽しみにしてたのよ!』  サンティアラの声が響いた。喜びに塗れきった声。攻撃は左右からの挟撃。  右の攻撃をライフルで受け流し、左のトンファーをしゃがみ込む事で、回避する。  受け流したライフルを跳ねる様にして、ロッドの横に叩きつける。  それで身を崩す筈もないが、それは祐一も承知している。だから、壁として、得意な距離をとる為に使用する。  帰ってくる反動をそのままにトンファーを構える機体に張り付いた。 「まずは、香里からだ!」  トンファーを持つ機体。それを先に仕留めようとしている。  だが、これは祐一の大いなる勘違い。香里は、ロッドを持っているほうの機体。  香里ベースの動きを考えていた祐一の誤算。更に言うならば、2人はゼロ距離戦闘に耐性がついている事。  その2つの要素が祐一の大きな誤算だった。その事に祐一は気がついていない。 『お相手、ありがとう! 貴方の顔色を恐怖に染め上げてあげるわ!』  その言葉に祐一は戸惑いを覚える。トンファーを持っている機体が香里の筈だ。  祐一が分かれるまでトンファーは香里の得物だという意識が強すぎただけの話。  当然の事ながら、香里のトンファーを繰り出す軌跡は覚えていた。  それをなぞる様に繰り出されると思っている。当然、機体の性能差などの条件は既に補正済みである。  それは、大きな間違い。人が違えば、軌跡も癖も何もかもが違ってくる。  多少の違和感が有るが、トンファーを持つ機体が香里だと祐一は思っていた。  サンティアラの擬態が見抜けていなかっただけでもある。 「はっ!」 『でぇぃや!』  格闘戦は膠着状態へと陥る。トンファーを持つサンティアラにロッドを持つ香里。  2機の波状攻撃を片方の相手を盾にするように、動く。多少の撹乱は効いている。  ただ、お互いに決定打にはならない。祐一の一撃はどちらか一方に阻まれる。  香里やサンティアラの一撃は絶妙なタイミングで間に味方が入るか持っているライフルで受け流されていた。  トンファーがライフルにぶつかり火花を散らし、ロッドは地面に叩きつけられ、地面に皹を入れる。  既にライフルには傷が無数に入り込み、ひしゃげ始めていた。  今の祐一の動きを柳に例えるなら、サンティアラはしなやかな鞭、香里は暴風である。  暴風が柳の葉を荒々しく削り、しなやかな鞭は狙った箇所を外さない。  柳は緩やかに狙いを外しつつ、手痛い反撃を狙っている。  祐一にはトンファーを持つ動きに多少の違和感が有ったが気のせいだと割り切れるようになっていた。  一方、香里は相手の動きに歯噛みしている。対応は出来ている。だが、それでもまだ足りない。  そう判断して、貪欲に相手の動きを自分の思考のなかに組み込んで行く。  以前の相沢祐一と現在の相沢祐一の差を埋めるように。  組み込まれた動きは徐々に血や肉となり、香里の動きに反映されていく。  サンティアラは相手の動きに些細な疑問を持っていた。  以前戦った時にはあっけなくやられた訳だが、その時とは戦いのスタイルが違うと。  最後に見せた凶悪な、自分の身を削ってでも相手を殺すような、鋭い物が今相手にしている物から感じられない。  それが最大にして、些細な疑問だった。それを気にしすぎて失敗を犯すような事はしないが。 『あぁぁぁ!』  膠着状態を抜け出そうと思っていたのはお互いにである。その切欠を作ったのは祐一だった。  祐一は攻撃に攻撃を当てて、相手を怯ませて機関部に一撃を叩き込むつもりだった。  だが、その思惑は見事に外される。予想の範囲をギリギリ超える動きをサンティアラが見せた。  右手を繰り出すのは香里が以前見せていた物と殆ど同じ。しかし、それはフェイント。  祐一もそれに合わせる様にライフルで殴りつけようとする。  ぶつかると思われた瞬間、右手を引いて機体を回転させるように祐一の打撃を避ける。  ぶつけるという意志が強かった祐一は当然の事ながら、瞬間だが動きに隙ができる。  サンティアラも香里もそれを見逃すほど甘くは出来ていない。  香里ではない動きをサンティアラが見せる。それは、美坂香里では出来ない違う才能を持って作り出された動き。  過剰に捻った腰に、力を溜める呼吸。一撃に命すら賭けるのではないかと思われる動き。  ここで初めて、祐一はロッドを持ったほうが香里だと確信するがもう遅い。   「く」  対応が後手になりすぎていた。苦し紛れに、ライフルを発射する。  構えも何もない、方向も目の前に居る機体には向いていない。  当たる筈もないし、威嚇射撃になってくれれば本当に良いという感じの銃撃。  無論、真っ直ぐ飛ぶとは思っていない。最悪、暴発すると思っている。  弾丸が飛び出しただけでも、祐一にとっては幸運だったのだ。  ライフルの弾丸はロンギヌスの脇の下辺りから、ほぼ真後ろ掠めるように斜め後ろに飛ぶ。  それに肝を冷やしたのは、香里である。まるで背中に目がついているように弾丸を放ったのだ。  香里は瞬間的に機体を止め、バックステップを刻む。  目の前を弾丸が通過して、空間を切り裂く音が香里の耳に届く。避けられたのは、本当に幸運からだった。  そして、祐一にとっても幸運だったのは背後の脅威が一瞬でも揺らいだ事だ。  目の前の脅威に全ての神経を集中させる事が出来る。  しかし、その幸運も長くは続かない。幸運の後には不運が大きく口を開いて待っている。   『もらったぁっ!』  機体の回転と腰の捻りによる強力な遠心力。自重の全てを一点に集中し威力を高めた一撃。  捨て身の一撃といわれても仕方の無いような攻撃だが、計算されつくされた動きから祐一は受けにしか回れない。  捨て身では有るが、捨て身の一撃ではない攻撃。  威力、勢いその全てをトンファーの先一点に集めて、最凶の一撃が炸裂する。  両腕でライフルをその一撃の間に滑り込ませる。  ライフルという緩衝材を間に挟んでもその凶悪な威力は衰えない。  材質がゴムで出来ているのではないかと思うくらい簡単にくの字に曲がり始めるライフル。   【警告 支えると、一時的に両腕が使用不能。もしくはコクピットに損害】  祐一もそれは感じ取っていた。この一撃を支えきる事は不可能だと。  このままの腕の間隔で支えきれば、その一撃は確実にコクピットに届く。  それを狭めても、腕がこの衝撃に耐え切る事が出来ない。  だが、片腕を犠牲にすれば残りは満足に活動できるとも。  ならば迷う必要などないと祐一は判断を下す。動きと判断はほぼ同時。   【右腕の操作を頂きます】  祐一が行動するが早いか、月読が動くのが早いか。  両腕で支えていたライフルの左手を離し、右腕をトンファーの打撃、直線上まで持ってくる。  そして、腰の捻りを加えて押し出すように右腕を突き出す。  祐一が行おうとしたのか、月読が行ったのか判らない。  ぎょしゃぁ、と言う音を立てて、ロンギヌスの腕が折れ曲がり押し込まれていく。   「ぐっ……」  瞬間的な痛みが祐一を襲う。しかし、それは表に出る事は無かった。  幸か不幸か、これで終った。フィードバックが祐一に返り、血が流れるような状況にはならない。  しかし、機体の右腕は酷い状況になっている。  包帯のような装甲がまるで華の様に広がり、腕らしき要素をなくしている。  大きな泥の玉を壁にぶつけて広がったような状態である。  押し込まれたのは二の腕の部分までで、通常の機体ならば取り替えなくては使用も出来ないだろうというダメージ。  弾かれるようにロンギヌスは距離を開ける。じゅぎょ、と突き刺さっていたトンファーが抜けた。  香里も、サンティアラも追撃しようとする。  サインティアラに対してはもう使い物にならないライフルを投つけ、香里のロッドに対しては右腕でガードする。  華のように広がった腕が盾の役割をして、香里の一撃を受ける。  香里の勢いと、ロンギヌスの瞬発力を十分に発揮して、祐一は十分な距離をとった。   「思った以上に……ダメージが酷いな」 【このまま戦闘を続ければ、負けは確定です】 「99%位で……だな?」 【いえ、100%です】 「なるほど」  右腕とライフルを失い、このまま活動するなら確実に負けると月読は言う。  常識的に考えて、それは正しい。ほぼ同じ性能で、差など殆どない。  武器もなく、格闘戦を仕掛けるしかない。格闘戦は彼女達のもっとも得意なスタイルである。  いや、武器と言うか武装という意味ではあることにはある。  右腕が代わりになった盾のような残骸。ただし、万全な腕の状態のほうが良いに決まっていた。  そして、何より大きいのは祐一の特色である0距離格闘に完全に対応している事。これが大きすぎた。  先程まで行っていた、格闘戦はすべて祐一の得意な距離で行われている。  2人は高橋を相手に特殊な戦い方に対する攻略法を見つけ出している。  だから、巧みに距離をとられ最終的には最悪の一撃を貰った。  祐一が出し惜しみしていると言われればそうだろう。 【戦力の逐次投入は避けるべきでしたね】 「そうだな……全力で行くべきだった」  祐一には引くという選択肢はない。そして、この場に留まるという選択肢も無い。  舞がこの場にまだ来ていないという事を考えると別働隊に襲われていると考えるべきだと祐一は考える。  多分、相手をしているのは残りのα小隊の人間。  もし自分がここであの2人を撃破出来なかったら向かうのは残った舞のほうだろう。  舞には悪い事をしたと考える祐一。だが、2人の目的は一つ。祐一は兄に、舞は弟に会うという事。  だとしたら、する事は決まっている。祐一は覚悟を決めた。 To the next stage
     

     あとがき  祐一君と香里さんペアの戦いでした! どうもゆーろです。  書いてて思いました。やっぱり祐一君自分勝手だなぁって。(特に最後の辺り)  でも、話的にバラバラであたらせた方が書いてて楽しいですからこれはこれで(苦笑  次回はこの戦いの続きを書くつもりです。もしかすると変るかもしれませんけどね。  では、拍手のお返事をしたいと思います。 >由起子のフラグが立ちましたね。これからどうなっていくのかとても楽しみです! >種を割るつもりで頑張って下さい 11/6  同じ時間だったので同一人物だと思います、違ってたらごめんなさい。  立ちましたが……どうしましょうというのが本音です。  ただでさえ人数多いのに、これ以上増やしてどうするのかなぁなんて思ってみたり……    種割は……正直微妙じゃないですか?  火事場の馬鹿力ならまだしも……意識して割れるのか既に不明ですし。  それに私はガンダムには詳しくないんです……特に種に関しては殆ど見てませんから……  頑張りますけどね! >祐一達平定者の勝利にとても期待します! >祐一が負けるのだけはいやです 11/7  勝ち負けがはっきりつく形に落ち着くとは思ってないです。  と言うか、思えないです。下手すると両方とも勝ちという不思議な事態もありえるので。  喧嘩両成敗という後味の悪い結果も有りますから、先を楽しみにしてください。お願いします。 >みさきにフラグがほしいとおもちゃったよ 11/7  みさきさんは由紀子さんよりもフラグが立てやすいかも……  でも立てると立てるで後が大変そうな気がします。ライバルが凄まじいですからね。  直接の上司に、ライバル企業のトップなど。落ち着いて考えると祐一君よく体持つなぁ(苦笑 >茜と詩子が大好きです 11/7  2人の掛け合いは書いてて楽しいですね。今回は体重の話しだったわけですが。  結構、書きやすいですし。ただしネタがあればですが。  ネタがあったらまた別のSSSを書こうと思います。  >麻耶。生き残ってほしいです。 >祐一やYA-13の能力は特に変わっていないようなので、月読が何かしてくれる事を期待しています。 >(質問)リタリエイターはマリオネットのように、パイロット無しでも動けるのでしょうか? 11/8  麻耶さんに関してはここに書いてしまうとつまらないので、控えますね。    月読は今回も結構干渉しているわけですが、大きなアクションはたぶん次になると思います。  えー、まぁそれほど大きなアクションになるとは思ってないんですけどね。  質問に関しては、YESです。ただし、中に人が居ると居ないでは結構動作が違います。  素戔嗚に判断能力があるわけではなく、中で判断している人に従っているに過ぎないからです。  時にはマリオネット以下の動きをする可能性だって有ります。  常に、具体的な指示がないと動きが鈍くなる設定です。  マリオネットは大まかな設定さえすれば、それなりの動きを見せてくれます。これが違いですね。 >相沢”性”ではなく”姓”では? それと秋子さんはいずこ?11/9  誤字の指摘ありがとうございます。修正しました。  秋子さんに関しては、苦手では有りません。ただ、ジュピターは彼女の趣味に関して悪趣味に感じてます。  心情的に書いたら、あんな良い人がなんで、あんなやつと? みたいな感じでしょうか。 >佐祐理とハードインパクトは、射撃能力なら、聖ジョージ隊を含めて比較してもトップになれるでしょうか?11/10  もし、一種類のライフルでなら、トップにはなれません。複数のライフルでなら話が変ってきます。  後は状況ですね。状況に臨機応変に対応しなくて良いのなら佐祐理さんはトップクラスです。  ただ、変化に対して臨機応変に対応しなくてはならない場合はトップになれません。  固定砲台になれるか、なれないか。なれない場合は前衛が居るか居ないかで佐祐理さんの実力は極端に変化します。 >(SSSのリクエスト)アリアとサラサが、有夏の事を故意に「お祖母さん」と呼ぶ話を希望します。11/11  そ、そんな怖ろしい事をさせるのですか?  でも、面白そうかもしれない……という事でリクエストは受け付けました。  どこまで期待に添えれるかわかりませんが、楽しみにしてください。


    管理人の感想


     ゆーろさんからのSSです。
     さすがにサシで挑んでくるほど無謀ではなかったんですねぇ、香里お嬢さんは。  色々思うところはありますが、取り敢えず同じ男として祐一君には同情。  あの2人と相対するのは絶対勘弁してほしいところです。(苦笑  執念がイタイし怖いですよ。  まぁそれも自業自得なのですが。
     戦闘は大方の予想に反して祐一君大苦戦の様相。  やはり意識の差が大きく作用したんでしょうね。  先だけを目指す男と、彼との決着だけを望む女性2人。  そりゃ能力高くても足下すくわれますよ。  祐一君の取る行動が1つしかない以上対処もやりやすいでしょうしね。  このまま行くとどうなるやら。


     感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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