あの時の言葉、あの時の祐一の気持ち。
当時は考えなかった。そのままの意味なのだとしか考えなかった。
でも、今は、裏の社会を垣間見てそれに関わっていく事で祐一の気持ちが解って来た。
あの時どうして、あんなことを言ったのか。
そして、何故ああも、怒りを押し殺してあんな声を出したのか。
今の私なら理解できる。あれだけ醜い世界を見てきて、潰してきて、荒らしまわって。
理解できた。物凄く遅いけど、物凄く悲しいけど、理解したくなかったけど。
理解させられてしまった。
あの時の私が、なんて酷い言葉を祐一に投げかけたのかも。
なんて惨い事を祐一にしてしまったのかも。
私は理解できるし、させられた。
祐一を傷つけてしまったことも。
祐一の大切なものを踏みにじったことも。
でも、私は……それでも私は……
あの時の言葉が忘れたくとも忘れられない。
あの時の声の響きが忘れたくとも忘れられらない。
あの時の祐一の言ってくれた内容が忘れたくとも忘れられない。
その全てが間違いだと知りつつも、私を縛り続けているあの言葉。
本当の感情すら乗せていないこの言葉。
でも、その言葉が私を痺れさせてくれるなら。
私だけを見てくれるって、私だけに向けられた言葉だから。
それに縋り付いて生きていきたい。だって祐一はもう私には振り向いてくれないってわかってるから。
だから、あの言葉を糧に私は生きていくしかないの。
あの時の祐一の感情も大切なものも、全てに気が付かない振りをしながら。
幸せな気持ちを抱いたまま、愚かな私は祐一を殺すの。
|
神の居ないこの世界で−A5編− |
|