-
全ての敵を蹴散らし、捕らえる者を全て捕え終えた後、つまり任務を終えた聖ジョージ部隊。
ラインハルトは、その事後処理をほぼ終えて世界政府の定例の議会に出席する途中の事である。
エレベーターの中で、彼が出会いたくない人間上位にいつもランクインする人間に出会った。
相沢有夏、その人である。ラインハルトは極力距離を空けて同じエレベータに乗り込む。
他には乗客はいない。もし誰かいたら真っ先に近くの階のボタンを押して降りただろう。
その位、居心地が悪い。呉越同舟とは良く言ったものだ。
「さて……何のようですか?」
「一つ取引に、な」
先に声を出したのは、ラインハルトである。ぽつりと言葉を発する。
2人とも表情を変えずに視線も交えずに話を開始した。
そこに温度はない。更に言うならば、潤いも無い。
「橘麻耶は渡さない。私の身内だからな。だが、そのまま何も渡さないわけじゃない」
それは、有夏の一方的な宣言だった。ラインハルトはそれを面白く無さそうに聞いている。
互いに表情を見ていないが、お互いが不機嫌なのは判りきっていた。2人ともそういった人間なのだ。
有夏は3つのディスクをラインハルトに渡す。
ラインハルトはある程度理解できていたので、それを素直に受け取った。
それに現在の敵は同じ敵である。だから、共闘の形が望ましい。
嫌いだが、敵ではないのだから問題ない。敵対しない限り、無視もしくは共闘の形をとる。
足の引っ張り合いだけは勘弁である。ラインハルトはそれは理解していた。
「内容は見れば判る」
「足りない場合は?」
「はたしてそれで足りないと言えるか判らんが……後一つだけなら、こちらの情報を渡せる」
「……なるほど。これを見た後に判断しましょう」
ラインハルトの言質を確認すると、有夏はエレベーターからさっさと降りてしまった。
彼らはお互いに仲が悪い。だから、あまり同じ空間に居たくないのだろう。
|
神の居ないこの世界で−A5編− |
|