石油などの燃料が殆ど枯渇してしまった、世界。
エネルギーはソーラーなどの自然エネルギーに取って代わられた。
そのため、戦争は空からではなく、海と陸だけのものになってしまった。
7年前に世界は一つの政府によって治められているようになった。
しかし、近くの統治エリア同士で小競り合いが発生している事も少なくない。
7年よりも以前は、戦乱の日々だった。
その戦乱を一気に消滅させたのはドールという鉄の巨人の存在である。
流星の如く、登場したドールは戦場での戦い方を一変させた。
特に、一番犠牲を払う制圧戦の犠牲を少なくした。
そして、戦争を終結させて世界政府が作られたのである。
幾つもの国々が統一され世界政府が出来た時、言語は一つに統一された。
ドールを作り上げた製作者が日本人だったために、公用語は日本語である。
これはドールという兵器が戦争に与えた影響が大きかった事と、それが製作された場所が旧日本国だったことに由来する。
裏の話を言えば、旧日本国が一番、ドールという兵器を保持所有しており、会議での発言権が一番大きかったのだ。
手っ取り早く言えば、文句を言うなら技術提供もしないし、何なら攻め込もうか? と脅したわけだ。
現在、政府には統治されている23のエリアが有り、それぞれにアルファベットで名前が付けられている。
ここは、通称エリアM、Messageの入国検査会場から少し離れた広場である。
季節が冬の事もあり周りは雪に覆われている事もあって、人が居ない。
天気は晴れ、南東の風、微風、気温は優に氷点下を超えている。
「確かにここで良いんだよな?」
一人の青年が辺りを見回しながら独り言をこぼす。
彼はかれこれ2時間近い待ちぼうけを受けている。
従妹に、ここに1時という手紙を貰い、その指示に従って待っている。
今の時間は3時を少し過ぎていた。
青年の服装は、黒のロングコートに腰の後ろにウエストバック、そして右腕にはスノーボードみたいな物をつけている。
スノーボードみたいな物は二つ折りにされていて長さが60cmほどで広げれば1,2mくらいになるだろう、幅は20cmほどだ 。
辺りを確認し終えて、麗しの従妹から貰った手紙をもう一度確認する。
「間違いない……名雪、遅すぎる!」
誰も居ない事を良いことに青年は叫んだ。
ドサドサっと、どこかで屋根から雪の落ちる音がする。
このまま、待つかそれとも、人を探して聞くか、熊のようにうろうろして悩んでいたら、ふっと日陰になった。
冬の昼は短く、日は結構傾いて来ていた。
青年は顔を上げると、その視線の先には鉄の巨人がいた。
巨人は右手に長い銃身の銃を持っているて、青年にはそれがかなり不吉なものに見えた。
周りに溶け込むような白で統一された機体。
その肩には雪の結晶のマーク、何かの文字とその下に数字で大きく4とペイントされていた。
その鉄の巨人の頭の所にある、二つのカメラと目があったような気がする。
向こうもこっちに気がついたようで、こっちに向かってくる。
「……うん! 悪くないけど逃げよう!」
何が悲しくて、ドールに追いかけられないいけないんだ! と青年は胸の中で毒づいた。
右腕につけたスノボードらしきものを開いて、それに片足を固定してスイッチを入れる。
フィィィィィという甲高い音を立てながら、それは起動した。
ボードは15cmくらい浮き上がり、かなりの速度を出して、人の居ない通りを疾走する。
後ろを追いかけてくる、鉄の巨人・ドールは普通に走ることから、足についているローラーに切り換えて滑る様に追ってきている。
ズシャァァァァ!
通称ダッシュと呼ばれる機関だ。
足回りを動かして走るのではなくて足についているローラーで滑ったほうが小回りが利かないが速い。
その機体は右手に持つ黒く長い銃身の銃を、右肩にある銃身を固定する機具と右手でしっかり固定して青年を追いかけている。
青年とドールの追いかけっこの始まりである。
しかし、この追いかけっこはすぐに決着がつきそうだった。
なぜなら、青年のホーバーボードもかなりのスピードだが、それを追うドールのスピードのほうが圧倒的に速かった。
「くそ! このままじゃあ、追いつかれる!」
ずしゃぁぁっ。
口でそう毒づいてから、体をギリギリまで傾けて、無理やり方向転換しながら一番近い路地の中に滑り込んだ。
そこで、青年はまさに追い詰められた。袋小路である。
青年は自分の運の無さに呆れ果てていた。
壁に気がついて向きを反転したときには路地の入り口にはドールの手が突っ込まれている。
大きさこそ違うが、外から見れば、人が隙間に物を落としてそれを取ろうとしているような感じだ。
「詩子の情報は絶対にもう信じない! 何が『エリアMは平和ですよ〜』っだ!」
訳も分からぬ、理不尽な展開に青年はどうこの場を切り抜けるか考えをめぐらした。
しかし、良い考えは思い浮かばない。
「えぇい! くそ! 後は野と成れ山と成れだ!」
やけくそ気味に叫んだ後に、その突っ込まれている左手に向かってボードを走らせる。
器用に左手の指先から、腕へそして肩、顔面、と登っていき、目つまりカメラに向かって靴底で蹴りを入れて方向転換をする。
どむん!
そのまま、勢い良く商店の屋根に乗り移る。
追いかけていたドールは突然の出来事に呆然としていた。
ドールが動き始めたときには、青年は商店の屋根の傾斜に合わせて飛んだり跳ねたりしていた。
途中でドールは踵を返して青年を追いかける事をやめていた。
それを確認した青年は一息をつく、しかし、それが間違いだった。
「うぉ!」
余所見をしていた青年は情けない悲鳴と共に、空中に投げ出される。
商店が途切れて広く開けた所に出たからである。
目の前には博物館らしき建物も見えるが、青年にはそれを確認する余裕も時間も無かった。
がっしゃ〜ん!
そのまま、その博物館の窓を派手に打ち破ってその内部に不法侵入する事になってしまった。
「痛い……」
青年はしたたかに背中を打ちつけていた。
起き上がって荷物と体に異常が無いかチェックを始める。
「あぁ、衝撃で壊れたかぁ……無茶させたからなぁ。後でしっかり直してやるから勘弁してくれ」
壊れたホバーボードを見ながら、それをたたみ、今度は背中に担ぐ。
青年にそれ以外の異常は無いみたいで、その周辺を見回していた。
人はまったく居ない。さっきの通りから人が居ない事を思い出し、青年は不思議に思った。
周りにはもう使えないガソリン車、航空機等の燃料を必要とする物が改装されて中が見えるようにして、物が並べられている。
それら一つ一つに説明のための板が設置されていて、まさに博物館であった。
そして、目の前には塗装をされていないであろう、銀色のドールが立っていた。
数ある展示品の中でそれだけが『異色』の物だった。
ひときわ目立つドールに興味を刺激されて、その前にある説明の板を読もうとしたとき、ギシっと音がした。
音の元は、それを搬入したであろう大きな搬入口。
その入り口が何者かに破壊されようとしている。
音の感じからしてドールだろうと、青年は冷静に結論付けた。
青年が結論付けている間に搬入口の一部が破壊されてしまった。
その隙間から、さっきとは違う特徴を持った一つ目のドールのカメラが、中を覗き込んでいる。
何かを見つけたような仕草をしてから、搬入口の破壊を再開した。
青年は焦った。
「追手か?」
何故追われているか分からないが、とにかく逃げるための、もしくは隠れる場所は無いか辺りを見回す。
無情にも、博物館の出入り口はその搬入口の横にある。
隠れる場所は、さっき見上げていたドールのコクピットぐらいしかなかった。
他に展示されている物は、殆ど中が見えるようになっていて隠れる場所はまったく無い。
バクン。
追い詰められた青年は躊躇わずにそのドールのコクピットを開いて、その中に乗り込む。そして、その扉を閉じた。
閉じた瞬間に、目の前の計器が起動する。
淡い青の光がどんどん計器に灯っていく。
「これは展示されているんじゃないのか? 何で動くんだ?」
青年の疑問、混乱をよそに、どんどん計器は起動していく。
そして目の前の画面には文字が表示され始めた。
【CROSS起動】
その文字が消えると次の文字が現れた。
【搭乗者確認。アイモニターとトレーサーを装着してください】
何故だか知らないが、青年はその指示に従った。
眼鏡もしくはゴーグルのようなアイモニターと ガンドレットのように金属で作られているトレーサーを両腕に装着した。
そして、コクピットの中の席に着く。
トレーサーもアイモニターも布で出来ているように軽かった。
【……搭乗者確認中……】
その文字がアイモニターに浮かんでは消える。
そして、それを何度も何度も繰り返す。
【お待ちしていました。マイマスター、GE−13】
「なっ!」
青年は驚いた。
初めて触れる、殆ど異国の地のドールにいつの間にかに搭乗者になっている。
青年には覚えも記憶も無かった。
しかもそれが、自分の名前ではなく、訳の分からない何かの番号である。
青年の頭にズキっと痛みが走った。
驚いている間に、凄まじい勢いで文字が画面に溢れていく。
最後に【Mクラスで起動します。】と表示されて、文字の氾濫は収まった。
青年はこのとき酷い頭痛に襲われた。
それこそ、頭が握り潰される様な激しい頭痛だ。
彼はその痛みに耐え切れずに、そのまま意識を手放してしまう。
しかし、意識が無くとも体は動いていた。
機械的な音声が流れる。それと同じタイミングでモニターに文字が現れた。
【Mクラス起動完了。これより、マスターと同調を開始します】
意識の無い搭乗者を無視するように、勝手に機械が動いていく。
【マスターのデータを元に、マシン特性を設定します。……設定開始します】
博物館の搬入口の扉は思いのほか頑丈らしく、まだ外のドールは中には入ってきていない。
【……設定完了】
ちょうどその時、博物館の搬入口が破られた。
もう誰にも見ていないモニターに最後の文字が表示される。
【全能力、全システム、開放】
ウォォォォォォン!
まるで、生き物のような雄叫びを上げてドールが起動した。
各パーツのアクチュエーターにマニピュレーターが唸り声を上げて青年の操るドールが 動き出した。
壊された搬入口の前に立つ、都市迷彩を施された一つ目のHドール。
その左手にはマシンガンが握られている。
「天野隊長には悪いが、こいつは俺の手柄だ」
博物館の搬入口を破壊して中に入ってきたドールのパイロット斉藤壱次はそう呟いた。
しかし、彼の目的である相沢祐治の製作したドールは影も形も無く、代わりに漆黒の死神を思わせる機体がその中で立っている。
「なに!?」
そう言ったが早いか、投げ飛ばされるのが早いか、斉藤の機体は外の広場まで投げ飛ばされてしまった。
「くそ! 一体あれは何なんだ!」
仰向けに倒れた一つ目のドールが起き上がり、左手に持つマシンガンの狙いを漆黒の機体に定めようとする。
「は、速い!」
狙いを定めようと辺りを見回したとき、既にその機体は目の前に居る。
斉藤は底知れぬ恐怖を感じていた。
ゴキン。バチばち、ドシャ。
そこから先は一方的な展開になった。
装甲の薄い関節部分からじわじわとドールの手足が無くなっていく。
漆黒の機体はその腕を装甲の付いていない柔らかい部分に正確に突き入れ、そしてフレームにダメージを入る。
そして、それを外から引き千切る。まさに機械的な手順だがこれほど難しいことは無かった。
連続で動き回る機体の関節部分をそう簡単に捉えることなど、不可能に近い。
それをいとも簡単に達成していく。
「この化物が!」
初めは左腕、そして右腕、左足と続いていった。そして立ち上がることも、移動する事も出来なくなる。
腕は肩から引き千切られて、捻り切られたフレームがむき出しになった。
肩から出た千切れたコードが触れ合うたびに火花を飛ばしている。
メシャァ。バキン、バキイィン。
左足はあらぬ方向へ折れ曲がり、太股から腰とをつなぐ関節部分は上から踏み潰されて装甲が罅割れ、潰されている。
その罅割れの部分から千切れたコードが出て火花を散らしている。すでにその先の動力反応は消えていた。
決して斉藤が避けの動作や反撃をしていないわけではない。
しかし、それはその抵抗が無意味であるように避けられ、次々と引き千切られ、潰された。
そして、漆黒の機体の攻撃は胸部、つまりはコクピット部分に向かってきていた。
今、斉藤の機体は仰向けになっていて、脱出ポッドを使おうにも背中が地面に接しているために、使う事が出来ない。
「くそ!」
恐怖と苛立ちを隠せずに乱暴に計器を叩いた。
斉藤の座るコクピットに断続的な衝撃が加わる。
アイモニターに映るメッセージはどれもこの状況を好転させる物は何一つ無い。
モニターに映るメッセージの殆どがエラーメッセージだ。
唯一、その状況と外を見ることが出来るのはまだ無事な頭部のカメラのおかげである。
トレーサーをつけている手が汗でべとべとになっている。
ゴクリと唾を飲み込んで斉藤は覚悟を決めた。
斉藤は、まだ幾分無事な右足を用いて最後の抵抗をしようとする。
まだ、右足のエラーメッセージは出ていない。
しかし、それよりも先にモニターが真っ暗になった。
機関部が沈黙してしまい、真っ暗になったモニターに薄暗い光が灯る。
【機関部、主電源及び補助電源の損傷が規定値を超えました。機関を冬眠モードに移行します】
それより先は、その映像も見えずに、薄暗い空間の中でずっと息を潜めていた。
それこそ、息をしたらそのまま、握り潰されてしまうのではないかと言うほどの恐怖である。
もう外も見えない、暗闇の中で唯一感じ取る事が出来るのは音だけだった。
それも自分の機体が破壊される音と自分の呼吸音だけだった。
やけに自分の呼吸音がうるさく、時間がどのくらい経ったか把握できなくなっていた。
斉藤が感じる時間は長い時間ではないが、斉藤にはかなり長い時間であると感じた。
(怖い……怖い……)
斉藤がもう外に出たいと、恐怖に耐え切れなくなっていた。
人が乗っている状態で外側から殆ど開く事の無いコックピットの扉が開いた。
無理やりこじ開けられて、貧弱な外の光がコクピットの中を侵す。
目の前には恐怖の対象になってしまった漆黒の機体がいる。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
漆黒の機体の、真っ赤なカメラが斉藤を捕らえていた。
扉が開いた事、そして自分がカメラに捕らえられた事が斉藤をパニックに陥れた。
斉藤は気がつけば作戦を指揮している隊長の元へ、恥も外見もかなぐり捨てて、走って逃げていた。
後ろを振り向く気にすらならない、いやそんな事は出来ない。
振り向けばあの機体が真後ろに居るだろうと感じているから。
途中、何度か転んでから目の前にようやく見覚えのある機体が眼に入った。
そして、見覚えのある機体はこちらを向いた。
2機だ。SK−201−ファントム、F型に、特殊な加工を施し、レーダーに映らなくした試作機。
自分の今回の上司が乗っている機体。
その横には、KK−310−サイクロプス、さっきまで、斉藤が乗っていた機体と同じ型の機体。
ただ違うのは、その両手にはマシンガンが装備してある。
その二つの機体が斉藤を出迎えた。
『真琴。斉藤さんを回収してください。事情を聞きます』
『解ったよ、美汐』
サイクロプスのコクピットが開き、斉藤をコックピットの中に入るように促した。
「狭いんだから、暴れないでね!」
「……すまない」
そこに美汐から通信が入る。
『斉藤さん。勝手に行動した挙句、機体を失うとはどういうことですか?』
「すまない……目標を見つけたんだ」
『帰ってから詳しい事は聞きます。今は目標の確認と、回収です。場所は何処ですか?』
美汐が話している間は真琴は静かにその事に耳を傾けるだけだった。
「この先の博物館だ……」
『困りましたね。作戦の行動範囲外ですか……想定されている敵のド−ルの確認をしてますが、行かなくてはいけませんね』
エリアMに侵入したのは6機、1機、破壊されてしまったので、残りは5機だ。
『エイム1よりエイム4、5、6に指示を出します。私とエイム3は目標を確認に行きます。3機は敵機の足止めに向かってください』
『エイム5、了解』
『エイム4、解った』
『エイム6、了解しました』
『良いですか。足止めです。味方に被害は出さないように。攻撃も相手が攻撃してくるまで控えなさい』
一呼吸置いてから、追加で指示を出す。
『撤退の指示が出るまで任務は続行。指示までに被害は出さないように、貴方達はNドールですので無理は禁物です。以上』
モニターの端に文字が浮かび上がる。
aim3:美汐、行くんでしょ?
美汐は、傍受される危険のある無線通信から、通信の距離こそ短いが殆ど傍受される事の無い、光通信に切り換えた。
aim1:行きます。後で斉藤さんに聞きたいことがあるので、通信の準備はしておいて下さい。
aim3:わかったよ。
ファントムとサイクロプスの2体は、サイクロプスを先頭に斉藤が来た道を戻り始めた。
aim3:ところで美汐、なんで上の人たちはあんなものにこだわるのかな?
aim1:性格は破綻していたと聞きましたけど、世界最高の科学者でしたからね。その技術が欲しいのでしょう。
aim3:そうなの? 美汐は欲しい?
aim1:私は一介の軍人ですから。上の言う事を聞くだけです。
aim3:斉藤が言いたい事があるから無線に切り換えるよ。
aim1:お願いします。
光通信から、無線通信に切り替わる。
そして、斉藤の少し焦った声が聞こえてきた。
「この先の博物館に目標の機体の内の一つがあったんだ」
『それだけの為に、通信したんですか?』
「違う! あの広場で、真っ黒の機体が俺の機体を破壊したんだ! 信じてくれ!」
『分かりました……』
2機の機体は、さっき斉藤が逃げ出した博物館前の広場に近づいて行く。
嫌な広場だと美汐は思った。
周りはあまり高くは無いがビルで囲まれている。
それが曲者であった、銃撃しやすく、守り易い。
それがこの広場の美汐の持った感想だ。
あまり高く無いビルは銃口を簡単に出せるだろうし、隠れるのも簡単だろう。
銃撃だけならばここは、絶好のポイントだ。
こんな所で複数のドールで待ち伏せでもされていたら、ひとたまりも無い。
美汐は注意を周辺に払った。
今になって、試作機ゆえにレーダーを積んでいないこの機体と、レーダーを積めない真琴の機体で来たのは間違いだと感じた。
斉藤が逃げてきたと言う、広場に足を踏み入れて美汐と真琴は足を止めてその凄惨な現場を見てしまう。
あれだけ、斉藤が慌てるのが分かったような気がする。
間違いなく、川澄舞と同等もしくはそれ以上の化物がいる、二人はそう思った。
美汐は務めて冷静な声を出した。
冷静な声を出さないと、その場から逃げたくなるほど、凄惨な場所だからだ。
バラバラになった機体と、その中に鎮座する、鈍い銀色を放つの目標機。
『……あれですか? 斉藤さん。目標機の回収は無理ですね。映像だけでも、回収しましょう』
「な!? 目標機を回収しないのか!?」
一回、機体を破壊されているが、斉藤の立ち直りは早かった。
『私達の目的は確かに、機体の回収です。しかし、被害を出しては意味はありません』
「しかし!」
『回収したいのは山々なのですが、斉藤さんの言う黒い機体が周辺に隠れているはずなんです。それでも回収しますか?』
「……」
美汐のその一言に、斉藤は言葉を出す事が出来なかった。
化物を相手に全滅をしては意味も無い。
それを、頷かせるだけの光景が目の前に広がっている。
真琴も美汐と同じ意見だった。
『真琴、周囲の警戒を。私は一時、降りて機体から映像データだけでも回収します』
「え!? 美汐、危ないよ!」
『大丈夫です。真琴、頼みましたよ』
美汐は機体から降りて、斉藤の機体のコクピットの中に入った。
その瞬間、一発の銃声と共に、ファントムの左手首が空中に舞った。
「え?」
がしゃん!
音を立てて、それは地面に落ちる。
一瞬の間を置いて真琴は、銃声のした方向にマシンガンの弾を放った。
ガガガガガガ
耳障りな音を立てながら、それは銃声の方向に吸い込まれていく。
しかし、その先には敵の姿は無かった。
(あぅ〜、隠れたの? 何処よ! 一体、何処なのよぅ!)
反対側のビルから何かが崩れる音がする。
そちらに向けて真琴はマシンガンを乱射する。
ガォン! ギャァン!
またファントムが狙撃される。
今度は左肩の前の装甲に弾が当たり、装甲がそれをはじいた。
銃声のした方向に向けて真琴はマシンガンを乱射する。
(何なのよぅ! 頭にくるんだから!)
一旦、マシンガンの乱射をやめて、辺りを見回す。
しかし何処に潜んでいるのか解らないので、右手のマシンガンが弾切れするまで 360度、周りのビルに弾丸を撃ち込む。
周りのビルの中には崩れるものが出てきた。
カチン、カチン!
弾切れを起こした右手のマシンガンを脇にある固定をする機具に固定をし、左手のマシンガンに開いた右手を添える。
そこへ美汐から通信が入ってくる。それは全体に当てられたものだった。
『エイム1から全機へ、撤退開始。至急、ポイント24へ急行せよ。以上』
真琴のモニターの端に文字が浮かび上がる。光通信にしたときの文字だ。
真琴は美汐が無事なのをいまさらながらに安心した。
aim1:撤退します。真琴に殿をお願いします。狙撃してくる敵は多分、私を狙ってくるでしょうからね。
aim3:解ったよ、美汐。そいつを返り討ちにしてやるんだから!
ファントムが今来た道に向きを直し、足についたローラーで滑る様に走り出した。
サイクロプスは広場に体を向けたままで、後ろ向きに滑りるように走り始める。
真琴は光を反射する何かを捕らえた。
そこへ向けて、マシンガンを発射する。
ガガガガガという耳障りな音、その間にガォンという音が混じる。
敵のドールが放った弾丸は真琴の足元の地面に跳ねて、あらぬ方向へ飛んでいった。
真っ白なドールが回避しているのが目に映る。
真琴は撃つのを止め、敵に弾丸を撃ち込んだ手ごたえを感じた。
そして、後ろを向いたまま撤退をする。警戒はもちろん解いていない。
aim1:斉藤さんに伝えてください。無事に映像データは回収できたと。
「サイトウ、美汐がデータ回収できたって」
「……すまない。天野隊長に感謝の言葉を伝えてくれ」
aim3:美汐、サイトウが感謝するだって。
aim1:今回は、基地に帰ります。真琴、気を抜かないでください。
To the next stage
あとがき
はじめまして、駄文書きのゆーろと申します。
ロボット関係の知識が薄いくせに、ロボット物が書きたいと思い立って書き始めました。
無謀かと思いますが、頑張りますので、どうぞ、ご贔屓によろしくお願いします。
はじめに言っておきますと、私の書くこのお話では、スパーロボット大戦みたいにロボットが空を飛んだりしません。
近いものといえば、フロントミッションシリーズだと思っています。と言いますか、それです。
公用語が日本語の設定が強引なのは、いい考えが浮かばなかったからです。
その辺は、ご容赦ください。よろしくお願いします。
拙い文でも頑張ります、よろしくお願いしますね。
ゆーろでした。
管理人の感想
新たな投稿作家、ゆーろさんからSSを頂きました。
私のSSとはまた違ったロボットモノですね。
搭乗者を無視したような機体が気になります。
こんな怪しい機体に乗った青年は大丈夫なのでしょうか?(笑
まだまだ謎だらけで、これからの展開が気になるところです。
斉藤は、既にやられキャラの予感?(爆
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)