ドール警護隊のドールを全て出して、被害の復旧に当たっていが 状況は混乱していた。
テロリストが、予告した通りに爆発物が爆発し、かなりの被害が出たからだ。
しかし事前に住民は避難していたので人的な被害は無い。
避難命令は絶対であり、シェルターに非難する事も年に何回かある。
そのため、避難はすぐに完了したのが唯一の救いだった。
しかし、シェルターに非難していない人がいたおかげで、侵入者のドールが博物館前の広場で格闘していると言う情報が入ってきた。
名雪が情報収集をしていたからと、住民が通報してきたからである。
秋子は名雪に他に情報を伝えるのを少し遅らせるように指示を出した。
しかし、そのことが本当であるかすぐに確認する術は無い。
もしかしたらガセかも知れないし、侵入者の情報操作かもしれない。
よって、数少ないHドールの一機をそこへ派遣した、戦力を裂くのは痛いがどうしようもない。
Hドールならば不測の事態が起きても、生き残る事が出来るという秋子の判断によった。
警護隊のNドールの多くは被害の復旧に当たっており、残ったNドールは3体1組となって巡回していた。
秋子に要請が来たのも何者かドールに乗ってが侵入したからである。
通常のテロだけならば特殊部隊である、秋子の部隊は動く事は無い。
秋子の部隊の戦力は少ない、なぜならHドールを操る事の出来る人材が少ないからだ。
今回の要請でも出せたHドールはのは2機のみである。
仲のあまり良くない警護隊に援護要請はあまり出来ない。
それに、警護隊の戦闘能力は低すぎた。
秋子から見れば、操縦者の練度、経験、士気、どれをとってもいい物は何も無かった。
そんな隊に情報を送るよりも、 例え戦力が少なくても、戦闘能力の高い自分の隊員をそこへ送った方が良かった。
白一色で辺りの雪の白に溶け込むような、ドール。
その肩には青で雪の結晶のマークと英文字でM.D.S.Fと入っている。
その下に数字で大きく4とペイントされていた。
さっきまで青年を追いまわしていた、あのドールである。
そのパイロットである北川潤は驚いていた。
さっきまで追っていた同年代であろう青年が逃げた先に不法侵入してきたドールが出現したと言うのである。
加えて、そこで見た物は、バラバラになった不法侵入してきたドールと漆黒の色から鈍い銀色に色の変わっていくドールだった。
そこへ、同僚である美坂香里から通信が入る。
『北川君。何か、あった?』
不法侵入したドールの目的が解らない上に、その数すら把握できていない。
同僚の通信からはそんな焦りが聞き取れた。
「あぁ、少なくとも敵さんの目的は解ったぜ」
『本当に?』
「奴さん達、どうやら相沢祐治お手製の機体が目当てだったみたいだ。ともかく、博物館前まで来てくれないか?」
『博物館ね? 解ったわ。すぐに行くわ』
通信はそこで途切れる。
北川は自分の機体であるアルテミスを、注意深く、残骸の近くに移動させる。
「これはやっぱり、これがやったんだよな?」
目の前の光景を信じられないものでも見るように、北川が呟いた。
「こんな事、ドールに可能なのか?」
多分、格闘戦をしたにもかかわらず、一部のビルは、崩れかかっている。
北川は投げられてそうなったのかと思った。
ドールを投げ飛ばす事の出来る圧倒的な出力。
それに振り回されない正確な制御系。
北川には本当にこのドールがやったのか疑問だった。
鈍い銀色のドールはどう見てもそんな力は持っていないと思わざる終えないほど華奢に見えた。
しかし、もう一機のドールは、ドールの弱点である装甲の無い関節部分から全て引きちぎられている。
右手、千切れた肘から先は地面に突き刺さり、胴体部分から切り離された肩から肘であったであろう部分は踏み潰されている。
左手の千切れた手首から先は踏み潰されたためか、原形をとどめていない。
残りは何処の部品か解らない位、破壊されている。
ぱち、ぱっちん。
そこら中に、ドールだった部品が散乱し、装甲は踏み砕かれていた。
まだ火花を散らしているものも、かなりある。
唯一、相手がドールだとわかるのは、胴体部分と、右足が残っているからだ。
しかしその胴体部分も、コックピットであろう部分が 無理やりこじ開けられている。
侵入者はもういない、犯人はどう見ても鈍い銀色を放つドールとしか思えなかった。
なぜなら、その機体しか現場に残っていない。
ここに来たのは自分が一番早く、誰も逃げる暇も無かった。
銀色のドールは両膝をつき、神に懺悔している様な格好で動きを止めていて、動く気配も無い。
現場を眺めていた北川だが、アルテミスのレーダーに何かが引っかかる。
その赤い点は一つで、まだ遠い位置にいる。
それを確認した瞬間に、機体とその反応した点の間に遮蔽物を置くように移動した。
ちょうど良い遮蔽物を探す途中に、崩れかかったビルを利用して簡単な仕掛けを仕掛けておく。
その仕掛けとは少ししたら崩れるようにしただけだ。
そして、予測できる敵が居つく場所、破壊されたドールのコクピット辺りに狙いを定めるのに絶好の場所を確保した。
相手は北川の存在には気がつかなかったみたいだ。
北川は相手のドールにレーダーがついていないことに感謝した。
北川はもしかしたら、指令を受けているかもしれないと思い通信を傍受するために遮蔽物の裏で機材のチューニングを始めた。
雑音が混じるも、少しだが人の言葉らしきものが聞こえてくる。
確かに何かを話しているのは解った。
『……あれ…………斉…さん………機の……は無理で………映像……でも…回…しまし……』
「これに乗っけてる機材ではこれが限界か……」
それを記録して、右肩に固定してあったライフルを外して、遮蔽物を盾にしながら照準を合わそうとする。
その照準を合わせる為に除いたスコープで信じられないものを見る。
しかもそれは、レーダーに映っていないのだ。
(まだもう一機居る! 何でレーダーに反応しないんだ!?)
どちらの機体も都市迷彩を施されている。
片方は両手にマシンガンを持ち、近・中距離専門のようだ。
もう一機は武器らしき物は持っていないが、レーダーに映らなかった。
レーダーに映らない特殊なドールだと北川は認識した。
その2機は残骸となったドールの頭部の方へ近づいていく。
それを阻止しようにも、2機に一気に反撃に移られると危ないのはこっちだ。
(美坂はまだか? こっちまでまわる事が出来ないとかそういうオチか?)
北川の想像通りの通信が入ってきた。
アルテミスは、遠距離支援を目的として作られた機体だ、当然、接近戦に持ち込まれれば苦戦する。
むしろ苦戦で済めばまさに御の字で、分は間違いなく相手にあると見て間違いなかった。
しかもアルテミスは出来たばかりで、北川は殆ど調整無しで出てきている。
調整しようとした所で、出撃命令が出たからだ。
『北川君! メイン通りで侵入者と遭遇! 3機も相手できないわ! 援護に来て!』
「こっちにも、2機来てる。しかも何かを回収するつもりらしい。どうする?」
『本当に!? ならこっちは陽動ね? 強行突破するわ! それまで持ちこたえて!』
返事も待たずに、通信が途切れる。
北川はため息をついた。
(しょうがない。この機体で、近距離戦をしなくちゃならないなんてな。覚悟を決めますか!)
覚悟を決めると、遮蔽物のビルを盾としてライフルを残骸に手を出しているドールに狙いを定める。
幸い、まだ向こうはこちらの存在に気がついていないみたいだ。
北川は精神を集中して、ゆっくりと深呼吸をする。
そして引き金をゆっくり慎重に引き絞る。
ガォン!
音共に残骸に手を出していたレーダーに映らなかったドールの左手首から先が空中を舞った。
「くそ! 火器管制がまだ甘いって!」
文句を言わずには居れなかった。
脚部を狙ったのに狙いがずれて、腕に当たった。
アルテミスを遮蔽物の陰に移す。
(まだ、当たっただけ良しとしないと、いけないか?)
がシャンガガガガガガキャン。
そこへ、マシンガンの応酬で、ビルの窓ガラスが粉々に砕ける。
人は非難しているのでこの場には居ないのが唯一の救いだった。
マシンガンが途切れたのを見計らって、さっき仕掛けを仕掛けたビルの反対側に遮蔽物の陰を移動していく。
がたん! ガラガラがら!
次の弾丸を入れるために排莢し、そして次弾を装填した。
さっき仕掛けた仕掛けが発動して何かが崩れる音がする。
(グッドタイミング!)
相手が見当違いの所を撃ったのを確認した後にまた狙いを定める。
今回もあまり動かない、残骸に手を出しているほうを標的にしておく。
それは北川の正面に、対面するように位置していた。
普通の状態ならばコックピットも撃ち抜ける距離だった。
しかし、ガォンっという音と、今回はガキャンという、弾丸が装甲を跳ねる音がした。
結果はどうあれ、北川はすぐに移動を開始する。
(あ〜! さっきのは装甲にはじかれたな……)
そこへ、、元居た場所のビルに向けてマシンガンの掃射が始まる。
遠距離支援の機体には、分が悪る過ぎる戦いだった。
先ほど北川の放った弾丸は、相手の右肩の装甲に当たった。
しかし、装甲をへこました位にしか見えない。
(くそ〜! 調整もしてない機体がこんなに使いづらいなんて!)
一旦銃声が止み、辺りが静寂を包み込む。
しかしそれは、マシンガンの銃声に切り裂かれた。
敵のドールはレーダーに映らない機体を中心に周りの建物、全てに満遍なく銃弾を打ち込み始めた。
カチン!
というやけに乾いた音を拾った北川はレーダーとモニターで敵の動きを観察した。
その時、敵の動きに変化が現れていて、撤退を始めている。
メイン通りの方へ向かって、残骸をいじっていた方を先頭として移動を始めた。
北川は急いで排莢し、次弾を装填する。
脚部に狙いを定めて撃とうとした瞬間、マシンガンの掃射にあった。
「っくそ! 弾切れじゃないのかよ!」
狙いをつけきれないまま、引き金を引く。
がり、ばりばりばり!
ライフルが発射される音がかき消されるほどの装甲を削る音。
回避に移ろうと機体を左に平行移動させる。
弾丸は敵の足元の地面を跳ねてあらぬ方向へ飛んでいった上に、命中もしていない。
ばりばりばり、ガ、キャンキャンクワン!
ライフルを持った右腕に弾丸が集中し、北川の着けているアイモニターに、赤い文字が現れた。
それらは全てエラーメッセージだった。
そのまま回避運動を続けるて、遮蔽物に機体を隠したところでマシンガンによる掃射が終わった。
エラーメッセージは右腕の大破に加えて、ライフルの破損を表示し、ライフルの交換をすすめている。
本来ならば音声が流れるはずだが、北川はその音声が嫌いなためにその音声を全て切っていた。
(こりゃ、逃げられたな)
武器を無くした北川は、冷静にそう考えていた。
そこに、本日3回目の同僚からの通信が入る。
『北川君! 侵入者は何処!?』
「来るのが遅いよ……美坂」
レーダーに、侵入者が映っていないのを確認して、博物館前の広場に機体を出す。
レーダーには、味方である証拠の青い点しか映っていないく、赤い点は無かった。
『っちょっと! 北川君これはどういうこと!?』
北川の機体を見て、香里は驚きの声を上げた。
右腕が穴だらけになり、その手に有るライフルは、変なオブジェになっている。
「見ての通り、マシンガンの掃射にあって、これが精一杯だった」
『はぁ、その機体でよく持ったっと言った方が良いのかしら?』
「あぁ、そう言う事にしといてくれ」
北川は機体から降りる旨を伝えて、機体から降りた。
そして、騒ぎの中心にあったくせに無傷の銀色の機体を見上げる。
そこへ、香里がやってきくる、同じように機体を見上げた後、辺りを見回した。
「秋子隊長に連絡しておいたわ。北川少尉殿。後10分のもすれば、回収班が来るわ」
「それはどうも。美坂少尉殿。それにしても、これはドールの出来る事なのか?」
辺りの惨状を見て、北川が香里に向かって疑問を出した。
「そうね……可能ではあるけど、素手でやる事は不可能に近いわね。って北川君じゃないの? これをやったの」
「まさか。そんな装備も無かったし、ほとんど調整して無いんだぜ、アルテミスは」
香里は眉を寄せて、辺りを見回す。
そしてさっきから機体を見上げている北川と同じように機体を見上げた。
「そう言えば、この機体は何なの?」
「さぁ?」
「さぁって、どういう事?」
「そのままさ。俺もここに到着したときに、この状態だった。たぶん侵入者は破壊された機体の頭部のカメラ映像を回収して行った」
香里が、ため息をつく。
北川はただただ、そのドールを見上げていた。
香里はあたりの惨状をもう一度、見回した。
辺りのビルの窓ガラスは殆ど割れて、ビルの中には崩壊してしまったビルもあった。
少ししてから、回収班が到着した。
それと一緒に、隊長である秋子も到着する。
「お疲れ様です。香里さんに北川さん」
二人は敬礼をして秋子を迎える。
秋子は辺りを見回して、そして銀色の機体を見て動きを止めた。
「どうかしました?」
その不可解な動きに、香里は思わず、秋子に声をかけた。
「この機体は、どうしてここにあるのですか? 北川さん」
「ここに来たときには、既にこの状態でした」
「なら、中に人が乗っているかもしれませんね。二人は、自分の機体と一緒にこの機体を回収してください」
「「わかりました。」」
「私は、この場の復旧の指示をします。戻って、ゆっくり休んでください。残骸は調査班にお願いしましょうか」
「では、失礼します」
北川と香里は、秋子のその指示を受けて、まず回収班のキャリアに銀色の機体を載せる。
キャリアはコンテナ車の様な形をした大型の水素を燃料として走る、特殊トラックと思っていただいていい。
コンテナの中央部から半分に分かれて、ドールをコンテナ内部に固定するように出来ている。
そして、自分の機体をそれぞれのキャリアに搭載して、回収班に格納庫まで運んでもらう。
北川は、銀色の機体を載せたキャリアに乗り込み、その機体のコクピットの辺りを調べ始めた。
香里も興味があったらしく、北川と同じく自分の機体そっちのけで同じキャリアに乗り込む。
「そういえば、この機体、あの相沢祐治が作った機体の内の一つだよな?」
「博物館に展示されていたやつね。確か……YA−04−ベルセルク……だったかしら? 博物館の説明ではね」
「さすが美坂、博識だな。俺は機体名まで知らなかった。噂は知ってたけどな」
その声を無視して香里は眉を顰めた。
「狂剣士か……物騒な名前ね」
「それには、同意するよ」
「でも、既に登録された機体で、誰も動かせる人はいなかったはずよ? 登録を消そうにもガードが固すぎて消せないって話だし」
「そうなんだよな。ってことはやっぱりこの中には、登録したやつがいるという事になるんだな」
鈍い銀色の胸部コクピットを見上げながら北川は呟いた。
「他にも相沢祐治の旧研究所には何機かドールが残っているって話だが、あそこは封印されているはずだよな?」
「なのになんでこれが外にあったのかしら?」
香里の疑問に北川は俺が知るわけないじゃないかと言う顔を返しただけだった。
「そうだ、美坂、この機体の色が黒だった言ったら信じるか?」
香里があなた何言ってんのって顔を作る。しかし北川の顔は真剣だ。
「銀色のこの機体が? まだ塗装もされていないみたいだけど?」
「それが、目の前で色が変わったんだよ。あとで、証拠を見せてやるさ」
「ふぅん。それは楽しみね」
興味無さそうな香里の声に北川が反応する。
「その声は信じてないんだろ?」
「言葉通りよ」
北川は香里の決め台詞に返す言葉が見つからなかった。
「お? ここかな?」
話は進まないが、とにかくコックピットを開ける事を優先させる。
北川は装甲の隙間にある、開閉レバーを見つけた。
開閉レバーは人の手でしか開かないように、装甲で巧妙に隠されている。
それをようやく見つけたのだ。
どのドールも人が乗っていない場合にはそれは隠されないのだが、人が乗っている場合には巧妙に隠されるように設計されている。
「よし、開けるか?」
北川は香里の方を見て、確認を取る。それを見て香里は大きく頷いた。
バクンという乾いた音がした。
それは、外側の装甲の固定が解除された音だった。
続いて内側の装甲の固定が解除される。
そして三重目・最後の装甲の固定が解除されると、ようやく、コクピットの中が見えるようになった。
そこで、キャリアの振動が止まった、どうやら、格納庫に着いたようだ。
確か、このキャリアが一番最後に出発したはずなので、
全てのキャリアが格納庫についたと言う事になる。
北川と香里は梯子をかけて、コクピットを見ようとする。
しかし、そこに邪魔が入った。
邪魔とはコンテナの中にかなりの勢いで入ってくる栞だった。
「私のアルテミスをあんな使い方をした北川さ〜ん何処ですか!? 素直に出てきなさい!!」
北川は梯子にかけてあった手と足を下ろして、栞の声のする方に向いた。
信じられないかもしれないが、嘘ではないのでしっかりと聞いて欲しい。
北川の使っていたSM−402−アルテミス。
そして、香里の使っているSM−105−アテナは彼女が設計、製作したものである。
もっとも、製作と言っても全てではなく、スタッフと一緒になって作った。
致命的な病気は無いにしても体の弱い栞は、 指示を出している方が多かった。
スタッフも彼女の体の事を心配しているので、指示通りに動く。
栞の設計するHドールはどれも高性能であった。
彼女は、今は設計と整備を担当している。
しかも、彼女もHドールのパイロットである。
格納庫が襲われる事になれば、彼女も機体にのって反抗するだろう。
ただ戦力になるかというと、甚だ疑問であるが。
今回、栞は戻ってきたアルテミスとアテナの大雑把に壊れた箇所と異常個所をチェックして北川を探していたというわけである。
本来ならば、自分の遣った機体と同じキャリアに乗る。
しかし、今回はいなかった。
それも、栞の怒りに油を注いだ。
「ご愁傷様。北川君。覚悟を決めて絞られてらっしゃい」
「右腕にライフルの大破に加えて、右目のあの靴の跡は何ですか!?」
北川はため息をついている。
栞は北川を探して声を出しながら、機嫌の悪そうにコンテナの中を歩き回っていた。
(あぁ、本当についていないな、今日は。この後こってり絞られるのか……)
北川の考えをよそに、栞は梯子を見つけて香里と北川を見つけて駆け寄ってくる。
「北川さん! 何か言い訳はありますか?」
「ちょっと待ってくれ。確かに機体は壊したけど、調整の済んでいない機体で頑張ったんだぜ?」
「私は完璧な機体を用意しました! 北川さんが、変な使い方をしなければ……ってこれは何ですか?」
ようやく、横たわった銀色のドールに気がついたのか、栞は梯子の架かった機体を見上げる。
「博物館にあった、あのドールよ。相沢祐治作の操縦者のいないドール」
香里の言葉に、栞が大きく頷いた。
「あぁ! 道理で見た事があると思ったんです! で、何でここにあるんですか?」
「どうやら操縦者が現れたらしい。見事に侵入者を一機、破壊したみたいなんだ」
「詳しくは調査班の解析待ちね。多分残骸をあさっているでしょうから」
「さて、一足先に操縦者の顔を拝むとしますか」
北川は、梯子に再び手と足をかける。
そして、梯子をあがって開かれたコックピットを覗き込む。
続いて香里と栞が梯子を登り、一緒になって覗き込んだ。
そこには、トレーサーとアイモニターを装着した青年がいる。
「こいつって、もしかして……」
北川が服装で何か思い出したかのように、呟いた。
香里はそれを聞き逃さずに、追及する。
「知り合いなの?」
「知り合いも何も、避難させようと追いかけたら逃げたやつだよ」
「逃げた? 北川君、声をかけたのかしら?」
「いや、声はかけなかった」
北川は、ほぼ無意識に返事をしてしまった。
よほど目の前の事に意識を奪われたらしい。
「はぁ。何、考えてるのあなた」
「は?」
「声もかけられずに、ドールが問答無用で向かって来たら誰だって逃げるわよ。普通はね」
かなり呆れた顔で、香里が北川を見る。
栞は、その二人を無視してコックピットの中の人を確かめる。
「そりゃ、そうだな……」
まだ二人の押し問答は続いているが、栞はトレーサーとアイモニターを外して青年の姿を見る。
(かっこいいです……)
「……お姉ちゃん。この人どうするんですか?」
そんな事を思いながら、幾分期待の混じった声で香里に声をかける。
「とりあえず、営倉に放り込んでおきましょうか。後で秋子隊長に指示を仰げば良いわ」
「……そうですか。それにしても、この人、誰でしょうか?」
青年を担ごうとして、栞は頑張っているが、栞の力では無理だった。
香里は見かねて手を貸した。
コックピットの中から出し、北川が交代する。
そのまま青年を営倉まで運ぶ手はずとなった。
「それにても、何でコクピットの中で眠っていたんだ? こいつ」
「私が知るわけ無いじゃないの。ともかく身元を確認するようなものを捜しましょう」
営倉のベットに青年を寝かし、持ち物から身元を探ろうとする。
背中の板と、大型のウエストバックを外して中身を物色した。
栞は背中の板に興味を示し、板を手にとって分解しようとした所で、香里に止められる。
「栞、とりあえず分解するのはやめなさい。面白いものを見つけたから」
北川の手に持っている日記帳を指しながら香里は栞を止めた。
「えぅ。北川さん悪趣味です」
「えぇ、悪趣味ね。他に何かないの? IDとか」
「なにおー、俺は身元を確認するために必要だと思って、読むだけだ! 下心なぞ無い! これ以外に身元の手がかりは無いな」
確かに、IDカードなどの、青年自身の身分を証明する物はウェストバックには入っていなかった。
代わりに入っていたものといえば、工具に、銃とその弾丸に、食べ物だった。
工具はドライバーから始まり何に使うか解らないものが びっしり入っている。
銃は回転式の拳銃が一丁と弾丸が幾つかに食べ物である、携帯食だった。
香里も栞も止める事はしなかった。
北川は日記帳をめくり始める。
それに便乗し、後ろから栞と香里はそれを覗き見た。
To the next stage
あとがき
神の居ないこの世界で。の第2話をお届けしました。
何か設定を書いたほうが良いでしょうか?補足説明とか、機体の説明とかですが……
登場人物とかそういった説明も必要でしょうか?必要であれば次から書こうかなと思います。
NドールとかHドールとか、F型とかそういった物はあとで佐祐理さんが説明をしてくれると思います。多分ですが……
多分と言ってもほぼ75%の確立くらいです……なんだか絶対という数字じゃあ、ありませんね。
ともかく、頑張って、この物語を描いていきます。ゆーろでした。
管理人の感想
同時アップの1話です。
主人公らしき青年は気絶したまま。
さっさと起きてもらわないと物語が動かないですねぇ。
という事で、次回は起きている事を期待。
起きなくても、知らぬ間に日記を読まれると言う羞恥ぷれいが展開されるのでしょうか?(爆
現実でこんな事やったらプライバシーの侵害でやばいですが、まぁこの状況ならOKでしょう。
なんせ危険人物扱いに近いですし。
作中で機体の色が変化してましたが、PS装甲か!? とかツッコんだのは秘密。
知らない人は全く知らないですが。
ちなみにプレステではありません。(当たり前
北川は、やはりギャグキャラから脱却できない運命なのか。(笑
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)