北川は表紙を見て、そして裏表紙を見てため息を吐いた。。
「日記に名前はついてないか……」
台詞こそ落胆しているものの、表情は嬉しそうだった。
ここから先の〜〜の間は気絶している青年の付けた日記である。
〜家を出てから1週間、エリアTに到着。
TORINOUTAと呼ばれるだけあって、とてものどかな所だ。
母さんの手がかりを探すために、母さんの友人の神尾晴子さんの所に寄るが、手がかりは無かった。
街で宿を探していた所、 診療所の人が困っていた。
どうやらソーラーパネルが壊れているらしく、しきりに屋根を見てた。
声をかけて屋根に上り、 故障箇所を見た。
壊れていた箇所は簡単な所で、ケーブルを交換するだけで直った。
手持ちの工具の中にケーブルが有って良かった。
降りてくると、その妹さんに修理屋さん一号に任命される。
第一印象は、何かとても変わった人だった。
姉の方も変わったファッションをしている、 通天閣と、でかでかと入ったシャツを着ていた。
変わった人たち、でも、それがきっかけで、宿を探す必要が無くなった。
診療所で寝泊りして良いと言ってくれる、変わっているけれども、とても優しい人たちだ。
ピコピコ鳴く、妹さん曰く犬、姉さんの方はノーコメントだったが、犬と分類して良いか解らないが一言で毛玉。
その毛玉らしき犬も俺の事を気に入ってくれたみたいだし、お世話になることにした。
暇なときに何か手伝える事をしよう、その後に名雪に手紙を出そうと思う。
このエリアにはとりあえず、1週間位滞在して母さんの手がかりを探さないといけない。〜
「名雪!?」
香里が大きな声をあげる、北川も驚いた顔だ。
「名雪ってあの水瀬さんかな? 同じ名前の人かもしれないぜ?」
「でも、名雪って名前はあまりある名前ではないわよ?」
「ともかく、続きを読みましょうよ」
〜滞在してから3日目。手がかりは少しだがあった。
いかに母さんと言えども、痕跡は消しきれないらしい。
偶然、廃棄されていた駅の前で遊んでいた姉妹が母さんの事を知っていた。
何でも廃棄された駅に用があったらしく、 ここに来たそうだ。
御礼として妹の相手をする事に、過激な妹さんで、膝蹴りで世界は狙えそうだ。
姉の方に 仲良くなったで賞を進呈されるが、謹んで辞退させてもらった。
また、機会があったら来ると言って姉妹と別れた。
姉の方は、大体ここに居るのでまた遊びに来てくださいと言っていた。
どこかで見た顔だったかもしれない。後で思い出そう。
今日はもう遅いので、神尾晴子さんのところへ、母さんの事を聞きに行くのは明日にすることにした。
4日目、痕跡を持って再び神尾晴子さんのところに尋ねる。
前回、居なかった男の人が居た。とても面白い人だ。国崎往人と言う名前だ。
晴子さんの娘さんの観鈴さんの話だと、行き倒れだったのを助けて居ついたらしい。
晴子さんも面白がって仕事の手伝いをさせている。
多分、神尾家に永久就職しそうだ。
話は逸れてしまったが、晴子さんは白状してくれた。
その情報から、次に行くのは エリアOに決まった。
出発の日取りを決めて、伝えるとまた来いと言われた。
それに、また寄らせて貰いますと言って、神尾家を後にする。
国崎さんとは良い友達になれたと思う。今度は、純粋に遊びに行こうと思った。〜
「神尾晴子ってもしかして、Airの会長の事かしら? しかも、国崎ってAirの最近現れた開発者よね?」
またも、香里が声を上げた。顔には酷い困惑な表情を浮かべている。
「エリアTで最も大きな企業の会長と開発者と同じ名前ですね……」
「……偶然だろ。多分……」
北川は自信なさそうだった。栞も姉と同じような表情を浮かべている。
「ま、ともかく続きだ」
〜出発の日。お別れのお礼として、世話になった霧島診療所の大掃除をする。
そして、料理を作ったら2人と1匹は驚いていた。
暇なときに手伝えたのは書類の整理と掃除くらいだ。後は家電製品の修理くらいか。
それだけで1週間も診療所のロビーを無料で借りれてのだから、そのくらいしないと申し訳が無かった。
家電の修理と言ってもあまり無かったしな。
そんな事しかしていなかったので、俺が料理が出来るのが意外だったのかもしれない。
もっと早く料理を披露しておけば良かった。
別れの挨拶をしたら、君ならいつ来ても大歓迎だ。
何ならうちに就職しないかと言われたが、曖昧に答えておいた。
俺としてもこの人たちは好きだから、またこのエリアに遊びに来ようと心に決めた。
名雪にもう一度、手紙を出して 次に行くエリアと、また手紙を書く旨を伝えた。
今からエリアTからエリアOに向かって出発する。〜
「ちょっと待て、エリアOって言ったら、ここから2つ隣のエリアだろ? で、エリアTとは、かなり離れていないか?」
「そうね……距離的にかなり離れているわね」
「結局解った事は、あまりないですね」
栞がそう意見する。しかし、日記を読む事を止める事は無かった。
「まだ先に何かあるかもしれない」
北川は粘り強かった。
〜二週間かけて、エリアOに到着。妹に連絡を入れておく。
何度も連絡しているが、母さんの情報はまだ掴めないらしい。
家の事でかなり愚痴を言われた。かなり苦労しているらしい。
話は変わるが、さすが、エリアO、one of the worldだ。
色々な面白いものが置いてある。
今回は、知り合いの折原兄妹の所にお世話になる。
しかし浩平も変わってはいない。 妹のみさおちゃんも変わっていなかった。
変な兄を持ってしまって大変そうだ。幸せそうだから良いけれども。
でも、あの歓迎の仕方はちょっと遠慮して貰いたいものがあった。
恥ずかしいで済むものではない。あれは恥だろうに……
保護者の小坂由紀子さんにも挨拶をして、母さんの事を聞くが本当に知らないそうだ。
ついた所で、名雪にまた手紙を出しておいた。さて、明日からまた手がかりを探そう〜
「小坂由紀子って、ONEの社長でしょ?」
「名前だけならな。確証は無いから何ともいえないな。でも、一流企業だな」
「折原兄妹ってエリアOのエースでしたよね? 確か兄の方が」
「そっちもそのはずよ。一体どんなことすればこんな濃い友達関係が出来るのよ……」
香里はあまりに濃い交友関係に、頭を抱えていた。北川は偶然と言い続ける。
「偶然だろ? 折原浩平って名前は一人しかいない名前じゃないしな」
〜2日目。母さんの手がかりは無し。
難しい顔をしていたらしく、気分転換もかねて浩平の仲間たちを紹介してくれた。
浩平の恋人の長森さんから始まり、先輩、同期の仲間、後輩。個性的だがとても良い人たちだ。
その後に、浩平と格闘で勝負する。
3戦1勝1敗1分だった。みんなはこんなに強いと思っていなかったらしく、かなり驚いていた。
俺ってそんなに弱そうなか? その後に、七瀬さんが「乙女の修行の為にお手合わせ願いわ」と言われ手を合わせた。
七瀬さんとは、剣術で勝負をする。
内容は3戦3分。手加減した事がばれて大変だった。
浩平の奴、普段から七瀬さんには 本気で手を合わせているらしい。
浩平って結構、大人気無い事に気がついた。しかし、女心はわからん。
七瀬さんは、かなり悔しそうなのに、かなり嬉しそうだった。一体あの態度は何なのだろうか?
しかもあの剣術と乙女の修行は一体何を意味するのであろうか? 疑問は尽きない。
浩平に聞いても笑って肩を叩くだけだし。
その後の食事会はすごかった。照り焼きバーガーの山をみんなで食べる。何でも後輩の好物らしい。
ある先輩の食いっぷりに、驚いた事をここに書いておく。
一人で、約5人分は軽く平らげていた。それでも腹7分目らしい。
浩平の友人の情報屋の柚木詩子に、母さんの情報を探してもらうように依頼する。
ここまで来て何も無いのは癪だから。
エリアOに来て3日目。名雪から返事が来た。
エリアOまで来たのなら、エリアMに寄れとの事だ。
母さんの手がかりが有ったら寄るかもしれないとの旨を書いて、返事を出しておく。今日も情報は無しだ。
4日目。情報は無し。
前に紹介をしてもらった浩平の仲間のドール開発部の人たち(長森さんを含む殆どが女性だった) と会話が弾んだ。
設計図を作りながら、新しいドールの構想について語り合った。ブロックシステムという構想。
コックピットに組み込まれている、OSのCROSSをコクピットから切り離して、本体とOSとに分ける。
機体につき一つのOSではなく、操縦者に一つのOSとなり、効率が良くなる。
これでYAS並みのメンテ率になるだろう。 ただし、まだ構想中。
技術的な問題はまだまだあるが、面白い構想だ。良い気分転換になった。
5日目。情報がついに手に入る。
詩子のお手柄だった。何でも、秋子さんに会いに行ったらしい。
その日の夕方に速達で、名雪から手紙が届いた。
何でも待っているから、早く来いとの事だ。まったく、名雪には困った。まぁ、 都合が良いから、行く事にしよう。
手紙に書いてある、名雪の友達にも興味があるし〜
「ねぇ、やっぱり名雪ってあの名雪よね?」
「やっぱり、そうだと思います。秋子さんの名前が出てきた時点で、決定ですね」
「じゃあ、こいつは、秋子さんの関係者なのか?」
三人が、営倉に入れられ、そのベットに横になっている青年を注目する。
「ま、まぁ、続きだ」
〜まず、男の友達かららしい。祐一となら友達になれること間違いなしと書かれていた。特徴は金髪にアンテナ〜
「これって、俺なのか?」
「そうなんでしょうか……」
笑いを堪えながら栞は北川を見ずに、否定する。香里も笑いを堪えているが否定はしなかった。
「名雪からはそんな感じで見られているのね」
北川は、かなり凹んでいた。
〜次に名雪の親友。男らしい女性らしい。名雪曰く、かっこいいが似合う人。そのほかの事は、その人の名誉の為に
ここには書かないけど、面白そうな人だ。でも、その人の前では言わないようにしないと。特徴は長いウェーブの髪〜
「私って男らしい女なのね? 名雪からはそう見られているのね」
北川と、栞は笑いを堪えている。香里は右手を強く握っている。顔はいかにも怒っていますという表情だ。
「かっこいいが似合うのは確かだな」
「でも、かよわいヒロインって感じではありませんね」
香里は名雪に対する報復を考えていた。
〜親友の妹、ドラマチック症候群、極度のアイス好き(名雪談)俺は名雪のネコ好きとイチゴ好きよりはたぶんましだと思う。
特徴、ショートの髪。口癖、そんなこと言う人嫌いです。外見が想像出来ない。前の二人は結構簡単にできたのに〜
「「なるほど」」
香里と北川は声を合わせて、名雪の観察眼を自分のをそっちのけで評価していた。
「えぅ〜、名雪さん、私をそんな風に見ていたんですね……」
そこへ、張本人である名雪が入ってきた。三人が一斉に名雪を見る。
「あれ? みんなお揃いだね。北川君に栞ちゃん、アルテミスの修理と映像の解析、どうしようか?」
名雪の表情を見て、見て3人は同じ事を思っていた。
天然娘に手紙の事を言っても多分無駄であろうと。
「修理は明日ですね。壊れた部分の検証とかが有りますから」
「あれ? みんなで何見てたの?」
名雪が3人が見ていたであろう、本に気がついた。
3人は慌てて、話を逸らすべく、行動を開始した。
「そう言えば、名雪、この人に見覚えある?」
営倉の中にいる、青年を指差しながら香里は名雪に質問をする。名雪はそちらを向いた。
「うーん。ここからじゃ解らないよ……中に入っても良い?」
「あぁ。寝てるから起こさない様にな」
そのまま、名雪は営倉の中に入っていく。そして、青年の顔を見て叫んだ。
「何で祐一がここにいるの!? 到着は明日じゃなかったの!?」
名雪の叫びを見て、3人は名雪の知り合いだという事を確信した。慌てて、名雪が出てくる。
「ねぇ、香里、今日って何曜日?」
「金曜よ。」
「うそ!? 本当に!?」
驚いて、もう一回同じ事を聞いてくる。
「本当よ」
香里以外に顔をあわせていくが……
「金曜だ」
「金曜日ですね」
同じ返事しか返ってこない。名雪は慌てた。
「どうしよう! 曜日間違えてた! お母さんにも知らせてないよ!! お母さんは何処!?」
ここまで名雪が慌てているのも珍しい。何か貴重なのもを見たかのように香里が答える。
「秋子さんなら多分、博物館前の広場に居るかな。壊れた建物の復旧作業をしていると思うわ」
その言葉を聴いて慌てて名雪は出て行った。残された3人は何故慌てているかわからなかった。
「アルテミスの映像の解析しましょうか……」
とりあえず、秋子の関係者だと解ったので、日記をウェストバックの中に戻し、営倉に鍵を閉めて3人は外に出た。
「私も交戦と言って良いか判らないけど、侵入者とは対峙はしたの」
香里は対峙した侵入者を思い出しながら、説明する。
「武装は?」
「F型が2体に、たぶんM型が1体。でもこっちが攻撃しようとすると、のらりくらりと避けるだけで反撃はなかったわ」
「と言う事は、本命はこっちだったって訳だ」
「そうね。強行突破しようとしたら、慌てて攻撃してきたもの。よほどそっちには行って欲しくなかったみたいね」
「本命って何ですか?」
栞が二人の会話で解らない事が出てきたので、北川に説明を求める。
「侵入するからには何か目的があるはず。目的が相沢祐治のドールだったんだろう」
「証拠に、侵入者の1機が破壊されてて、そのカメラを回収に来ていたみたいだしね。私のほうは足止めだったと見るべきね」
「相手は特殊なF型が一体とありゃたぶんM型だな。まぁ、映像解析をしてもらえれば解るが」
そのまま、格納庫横の電算室に入る。そして、栞は席に着き、北川と香里はその後ろからモニターを覗き込む。
「さっき、アルテミスの映像データを引き上げておいたんです。私もはじめて見るんですけどね」
目の前のキーボードを叩きながら栞は簡単に映像の初めを出したはずだった。
しかし、流れてきたのは雑音交じりの音声だった。
『……あれ…………斉…さん………機の……は無理で………映像……でも…回…しまし……』
次にモニターに出たのは、アルテミスがライフルの狙いをつけているところだった。
その後、北川が機体を降りるまでの映像しかない。
「あれ? これ以前の映像は?」
「北川さん……説明聞いてませんでしたね……」
栞は北川に向けて事前に仕様が変わった事を伝えていた。
にもかかわらず、前の仕様と同じ動作を行っていた。
そのために、それ以前の映像はこの音声によって潰され、また新しく上書きされたのだ。
「これで全部です。北川さんには修理が終わった後で、アルテミスをぴっかぴっかに磨いてもらいましょう。いいですね?」
「拒否権……は?」
「ありません!」
北川は香里に助けを求める視線を送った。
しかし帰ってきたのは、たぶん……
(ああなったら、素直に従った方が身の為よ。頑張ってね)
こんな感じの意味の視線だった。北川は諦めて、素直に従うことにする。
(しっかし、本当についていないよな今日は)
「証拠がないなら、北川君の言っていたあのドールが黒かったて言うのも解らないわね」
その一言と、栞の説教、装甲磨きが確定した事でかなり凹んだ北川だった。
映像を解析していく。と言っても、北川が見た風景をモニターでまた写すだけだ。
北川は映像が流れていく途中途中で、 自分が感じたこと、不審に思った事を口に出していく。
香里はそれに感想を言い、栞は気がついた事をメモにとっていく。
纏めたものを、あとで研究室の解析に回すためだ。その作業は滞りなく進んでいった。
祐一が目を覚ましたのは、誰もいない牢屋だった。
何か夢を見ていた。その夢は朧げではっきりとは思い出せない。
ともかく、辺りを見回して今の状況を確認する。
持っていたウエストバックは牢屋の外の机の上だった。
加えてその横に、ホバーボードも立てかけてある。
窓は嵌め殺しで、牢屋の鍵も工具がないと何も出来そうになかった。
「あーあ。工具がありゃここもおさらば出来るのにな……」
しょうがないので、もう一度寝る事にした。
何も出来ないし、人もいないからである。
そうして、祐一が眠りについてから少しして人の気配がしたので、祐一は体を起こした。
目の前の牢屋の檻の向こうに、見知った顔が見える。
一人は全く変わらずに、もう一人はなんだか困った顔をしている。
「おはようございます。祐一さん」
「おはようございます。秋子さん。出来ればこんな所ではなくて、暖かいリビングで紅茶でも飲みながら会いたかったです」
手を頬に当てて困ったように秋子さんは話を続ける。
「そうですね。でもこんな経験もなかなか出来ないでしょう?」
「経験なんてしたくもありません。訳もわからずにドールに追いかけられて、訳も解らずに逃げるなんて」
「あら? 逃げただけなんですか?」
「えぇ、逃げただけですよ。博物館らしき所で、追っ手に見つかって、ドールの中に隠れて、気がついたらここです」
「ところで、何でこのエリアに来たんですか?」
祐一は何行っているんだ? と言う困惑の色を顔に浮かべて、名雪の方に顔を向ける。名雪は顔を背けた。
「……名雪に手紙で、寄って欲しいって書いてたので寄りましたけど……秋子さんは知らないんですか?」
「あらあら、名雪。最近やけに嬉しそうだと思ったら、祐一さんと手紙のやり取りをしてたのね」
羨ましそうに、そして少し妬みの視線をこめて秋子は名雪を見る。
そして、申し訳無さそうに、名雪が言い訳をする。
「うー、お母さんを驚かそうと思って、本当は当日の朝に言うつもりだったの。そうしたら曜日を間違えてて……」
「……つまりは、明日か明後日に到着すると思ってた。って訳か……」
祐一は思いっきりため息を吐いた。
名雪が頭を思いっきり下げた。
「本当にごめんなさい!」
「まぁ、良いけど。ところでここから出られないんですか?」
名雪から秋子へと、視線を移しながら話を切り出す。
「それなんですけど、祐一さんじゃないんですか? あのドールを動かしたのは」
「は? 何の冗談ですか?まったく身に覚えがないんですが……」
「そうですか?」
秋子は祐一に何かしらの視線を送る。
祐一にはその意味がさっぱりわからなかった。
「ところで、母さんがこっちに来たって聞いたんですが……本当ですか?」
「姉さんが? 何のために?」
「あれ? 秋子さんに会いに来ませんでした?」
「来ていませんが?」
祐一は、はっきり言って困惑していた。
考えを切り換えて今はともかく、ここから出る事を先決にしようと決める。
「もう一度聞きますけど、何で俺はここに拘束されているんですか?」
「事情聴取がまだだからですよ」
「はぁ……有事協定、第2条、第5項、正式に入国した他のエリアの人間を戦闘行為に巻き込んではならない。協定違反です」
「そうですか? 移動協定、第1条、第1項、入国者は入国したエリアの法律に従わねばならない。祐一さん、従ってください」
名雪は二人のやり取りを息を飲んで見守っている。
「では、俺は一体何の罪に問われているんでしょうか?」
「罪ではありません。疑惑です。エリアMのドールを一機、破壊しているのですから」
実際に祐一が破壊したのは、侵入者のドールだが祐一はその事は知らない。
「移動協定、第3条、第2項、身に危険が差し迫ったとき、個人の判断で身を護って良い」
「同じく、移動協定、第3条、第3項、過剰な防衛を避けること」
「移動協定、第12条、第1項、戦闘地域のあるエリアは、入国審査を見送らせる義務がある」
「同じく、移動協定、第23条、軍に属する全ての人間は出入国に特別な審査が必要」
祐一は、コートのうちポケットから1枚のIDカードを取り出して秋子さんに檻の隙間から手渡した。
「俺は軍人ではありません。一般人です。何ならエリアAの出入国管理局に問い合わせてもらっても良いですよ」
「では、拘束協定、第1条、第2項、エリア治安局の権限で他のエリアの人間を拘束する事が特殊な事情に限り可能」
祐一は呆れながら秋子を見つめる。そして、一言呟いた。
「秋子さんはエリア治安局の人間ではないでしょうに……それに、これはエリア治安局の人の怠慢ですよ」
「あらあら、本当にそうですね。祐一さんも大変ですね」
秋子は、いかにも関係なく他人事であると言う感じで祐一の呟きを受け流した。
「ふぅ。これはやりたくないけど、移動協定、第23条、第1項、拘束された人間は、出身エリアにて取調べを受ける事」
「わわ、祐一それって!?」
名雪は祐一の口にした事に反応した。かなり慌てている。
「あぁ、悪名、名高い第23条だよ。秋子さん。そんなに事情聴取がしたいのなら、俺を強制送還してください」
「しかし、驚きました。祐一さんかなりいろんな事を知っているんですね」
「えぇ、母さんと口論で勝つにはこの位でも足りないくらいですよ……足元にも及びません……」
遠い眼で黄昏る祐一を見て名雪は、絶対に有夏さんと口論をしないようにと心に誓った。
「ねぇ、お母さん。祐一をこのまま強制送還しちゃうの?」
祐一には聞こえないように、秋子は名雪の耳元で呟いた。
「するつもりはないけど、手伝ってもらえる事があるから手伝ってもらおうと思ってるのよ」
名雪は、あっと呟いて、秋子の方にむいて首を縦にがくがくと揺らした。
祐一はその光景をなんだか胡散臭そうに見ていた。
To the next stage
あとがき
もう解っていたと思われますが、気絶していた人=祐一君です。
今回の話になってようやく、祐一君の名前が出てきました。これで一安心です。
前回のあとがきに書いたと思いますが、ドールに関することは佐祐理さんに説明してもらおうと思っています。
佐祐理さんは、祐一君が落ち着いたら登場ですので、あと1話、2話、待ってください。
それでは、ここまで読んでくれた皆さんと、管理人様に感謝を。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんから続きを頂きました。
更新が早くていい事ですな。
主人公がやっと会話を始めました。
日記も読まれちゃいましたねぇ。
まぁやばい内容じゃなかったのが唯一の救いでしょうか?
ばれたら北川君は滅殺確定かな?(笑
ONEとAIRの登場人物の名前がちらほら。
エースである浩平と互角なら、祐一はかなり強いようで。
前話の機体を制御し切れたら、かなりの強さになるのではないでしょうか。
佐祐理さんの登場は期待。
できればヒロインに……まぁゆーろさん次第ですが。
しかし、晴子って会長職務まるのかな?(爆
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)