思い出したかのように、祐一は秋子にお願いをする。
「秋子さん。とりあえず、家に電話させてもらえないですか?」
「解りました。では、これを使ってください」
秋子はポケットから携帯の衛星電話を祐一に手渡した。祐一は家の電話番号をプッシュする。
何回かのコールの後に、向こう側が電話に出た。出たのは祐一の妹の相沢祐夏だった。
「もしもし、祐夏か?」
『お兄ちゃん!? 一体何処をほっつき歩いてるのよ!!』
大音量が祐一の耳を襲う。祐一は電話をいったん耳から遠ざけ、様子を伺った。
祐夏の怒鳴り声は秋子達にも聞こえていた。
『お兄ちゃん! 聞いてるの!?』
大声に辟易しながらも、祐一は返事をする。
「そんなに大声を出さなくても、聞こえてるぞ」
『今一体どこに居るの?』
「あぁ、今エリアMで、秋子さんの目の前にいるぞ」
『……おにいちゃんのばかぁ! 何でいつもそうなの!?』
またも、耳を貫く大音量。
秋子と名雪ははっきりと聞こえるその声を聞いて、二人とも同じような苦笑いを浮かべていた。
それを見た祐一は、小さくなり、妹である祐夏に小声で注文をつけた。
「帰ったときに言う事聞くから、頼むから大声で怒鳴るのはやめてくれ……秋子さん達が笑っていて恥ずかしいんだよ」
『一体何してたのさ! 母さんなら、とっくに帰ってきてるわよ!』
それでもなお、電話には大声が鳴り響いている。祐一は辟易していた。
「冗談じゃないのか?」
ちょっと電話機を離して、会話をする。顔はこれでもかってくらい真剣だ。
『こんな事、冗談言うわけ無いじゃない!』
「まじか?」
『まじも、まじ! おおまじよ! お兄ちゃんの役立たず!』
電話の後ろで、ちょっとうるさいぞ、という声が聞こえてくる。
それは祐一の母親である有夏の声だった。
『母さん……』
『その電話は誰からだ? もしかして祐一からか?』
電話の向こうで、祐夏と有夏が会話をしている。
祐一は、詩子のあの情報はなんだったんだと頭を抱えていた。
『あ! 母さんちょっと待ってよ!』
『また代わってやるから貸せ』
どうやら、自分の娘から電話機を奪ったようだ。祐一は、まだ頭を抱えていた。
『祐一か? 惜しかったな。エリアOまで来たのは褒めてやるが、情報屋に依頼したのは減点だ』
「母さん……一体何がしたかったんだ……」
祐一の疲れ切った声に、たぶん眉を寄せているであろう母親の顔を祐一にはありありと思い浮かべる事が出来た。
『祐一、何を疲れている。私は仕事をしていたのだ。しかしあそこまで追跡されたのは初めてだ。ちょいと辛いが及第点をやろう』
「……そりゃどうも……」
『祐一。ちょっと、電話機から耳を離してくれ』
祐一は言われたとおりに、電話機を耳から離す。
嫌な予感がしたので、秋子さん達のほうへ向けた。
『秋子! 趣味が悪いな。最愛の息子との電話を盗み聞きするなんてな』
電話機からさっき祐夏の声と同じ位の音量が電話機のスピーカーから吐き出される。
名雪はかなり驚いていた。秋子はいつもの笑顔だ。
『あぁ、名雪。驚かせて悪かったな。祐一、秋子に代わってくれ』
「分かったよ……」
疲れ切った声を祐一は出した。本当に疲れていた。檻の隙間から秋子に電話機を渡す。
「ね、ねぇ、祐一、有夏さんなんで私がここに居ることが分かったのかな?」
「俺が知るわけ無いだろう。母さんに聞いてくれ」
どうやら、姉妹間で何か打ち合わせをしているみたいだ。一瞬、悪寒が背筋を走った。
「なぁ、秋子さん達の会話って何で聞こえないんだ?」
「私に言われても困るよ」
どうやら話がついたみたいだ。
祐一に電話機が渡される。祐一はそれに耳を当てた。
『お兄ちゃん! そっちに行くから覚悟しておくんだよ!』
電話機からは、ガチャ、ツーツーという音がしている。要するに電話が切られたという事だ。
「あいつは何が言いたかったんだ? ……そっちに行くから!?」
祐一が秋子の方に向いて急いで質問をした。
「母さんと祐夏がこのエリアに来るんですか?」
「あら、よく分かりましたね。あぁ、部屋に案内しますから、ここから出れますよ」
秋子さんは本当に嬉しそうな笑顔を見せた。つられて名雪も嬉しそうな笑顔をしている。
「解りました……ともかく、ここから出してください」
祐一は観念したように、呟いてから牢屋から出た。
そして自分の荷物をまとめて、秋子の後を追って名雪と並んで歩いていく。
雪道を30分ほど歩いてついたのは、2階建ての寮のような建物だった。
「Get the messageへ、ようこそ!」
名雪が嬉しそうに、寮らしき建物の名前を言う。秋子もなんだか嬉しそうだ。
「まぁ、何とでもなれって感じだよ」
「祐一! そんなんじゃ駄目だよ。もっと楽しまなきゃ」
「そうだな。秋子さん、俺はどの部屋になるんですか? 後、ここは寄宿舎なんですかね?」
「えぇ、案内しますよ。ここは、我が家だとでも思ってください」
建物は1階と2階に分かれている。部屋数は1階が10部屋。2階が5部屋だ。
「変則的な作りですね。この建物」
「1階が単身の人の部屋になってまして。2階が家族部屋になっていますから」
「へぇ〜、そうなんですか」
「と言っても、1階は殆ど使ってないんですけどね」
祐一は素直に疑問を挙げた。その間に階段を上って2階へと進む。
「どうしてですか?」
「一時期、メカニックの人が使っていたんですけどね。皆さん結婚して家庭をもたれて」
「それでこの寄宿舎は、残った人しか使っていないと」
「そうです」
その説明に祐一は納得した。
要するに、部屋は余っているが、入居者が居ないほど、住宅の状況は良いということだ。
階段を2階に上り、一番奥、突き当たりの部屋に入る。
間取りは3LDKだった。もちろんバス、トイレもついている。
部屋の中に家具は一通り揃っているが、殺風景だった。私物が無いからである。
キッチンには皿等の日用品と、冷蔵庫などは揃っている。無いとしたら食料品くらいだ。
「秋子さん。この間取りということは、母さん達がここに滞在すると思っていいんですね?」
「構いませんよ」
「この部屋の鍵をもらえますか? あとは、隣は誰が住んでるんでしょうか?」
秋子と名雪は顔を見合わせてから意地悪そうな笑みを一緒に浮かべた。
「あ〜、言わなくていいです。何となく分かりました。名雪、今からちょっと街を案内してくれないか?」
時間は5時くらいだが、辺りはもう暗い。名雪は驚いた顔をした。そして身をよじる。
「え、え!? 祐一ったら大胆なんだから!」
「あのなぁ……、自炊するんだから食料品買ってこないといけないだろ……」
自炊という言葉に、秋子が反応した。
名雪は少し落胆したものの、なんで? っという顔を祐一に向けている。
「祐一さん。食事の事なら、私に任せてくださっても構いませんよ?」
「いえ、そんな事したら、母さんに殺されます。秋子さんは相沢家の家訓を知っているでしょう?」
「そう言えば、そんなものもありましたね」
祐一は、そのまま秋子から部屋の鍵を受け取り、名雪を連れて商店街まで歩いていった。
「ね、ね、祐一。相沢家家訓て何?」
「そのままだよ。家訓さ。母さんの作った。その第1条が、相沢家の男は立派な主夫たれ。って言うのがあるんだ」
「じゃあ、料理の腕は良いの?」
名雪の何気ない、質問に祐一は眉を顰めて困った。
「うーん。俺は自信ないけど、少なくとも、不味い物は作らないぞ。さて、今夜は何を作るかな……」
「ね、じゃあ、リクエストしたら作ってくれる?」
「あぁ、良いぞ。俺の料理で良いならな」
その言葉に名雪は嬉しそうだった。そして、なにやら考えている。
「名雪、焦らないで良いぞ。買い物の途中にでもリクエストしてくれれば良いからな」
「う〜、そう言われちゃうと困っちゃうよ……」
そんな会話をしながら、買い物をしていく。結局、名雪からのリクエストはなかった。
商店街で、買い物を済ます。名雪に色々な店を教えてもらいながらなので、結構な時間がかかった。
部屋に戻る途中の2階の通路で、とある姉妹とであった。
姉妹は、奥から3番目の部屋に入ろうとしている。
名雪がその2人に声をかけた。その声に2人が揃ってこちらを向く。
祐一は手紙の人かなと思っていた。
「香里に栞ちゃん。今、帰ってきたの?」
「えぇ、そうよ。アルテミスの映像解析を研究室に頼んで今日はお終い」
栞は名雪の隣に居る、祐一に興味深深のようだ。何か言いたそうな顔をしている。
「あ〜、名雪が手紙書いてた美坂姉妹でいいのか?」
名雪に向かって祐一がそう質問する。
名雪は嬉しそうだ。姉妹は特に驚いた顔を見せない。
「あれ? 何で二人は驚かないんだ?」
驚くと思っていた祐一は何となく肩透かしを食らったような顔をする。
「えぇ、驚いたわ」
なんだかとってつけたような会話に、祐一は何か感じた。特に香里の方が挙動が不審だった。
「……日記か……」
香里を見つめながら、ぼそっと、祐一が言った。
名雪は聞き取れなかったみたいだが、香里の挙動不審は酷くなる。
祐一は少なくとも美坂姉が日記を見た事を確信する。心なしか、香里の頬が赤くなっていた。
(まぁ、見られて困るものでもないけど……なんか、嫌)
「あのぅ、あなたは誰ですか? あなたは私達の事知っているみたいですけど、私は知りません。教えてください」
(日記に鍵つけようかなぁ……)
栞は演技派だった。日記を読んだと言うことすら感じさせないで、祐一の名前を聞こうとする。
「そうか、自己紹介がまだっだたな」
不意に名雪を指差して、祐一は言った。
「従兄妹の名雪だ。これからよろしく」
そしてそのまま何事も無かったように隣を通り過ぎようとする。
すると、美坂姉妹に両袖をがっしと捕まれた。
「名雪さんは知ってます! あなたの名前を知りたいんです!」
その言葉に、祐一は既に沈んでしまった夕日の沈んだ方向を見ながら、遠い眼をする。
「ふぅ、名雪の事だったんじゃないのか?」
「祐一、それはないよ……だって二人は同じ職場で一緒に働いてるもん」
「まぁ、いいや」
「「よくはありません(ないわ)」」
声を合わせて反論する美坂姉妹。祐一は困りきった顔をする。
「あなた、よく変った人って言われるでしょ?」
「いや? そんな事を言われるのは初めてだな。なぁ、名雪?」
「私に振られても困るよ……」
祐一は何故そんな事を言われるのか判らない。という顔をしていた。
「じゃあ、夕飯作るからそのときでいいな? 自己紹介は」
「ご馳走になっていいのかしら?」
「あぁ。かまわないぞ。なにせ、秋子さんも一緒だし。3人分作るのも5人分もあまり変わらないからな」
「祐一、結構違うと思うよ。それは……」
名雪のつっこみを無視しつつ、祐一は一番奥の部屋に向かって歩き始める。
名雪と美坂姉妹はそれに続いた。
祐一が部屋に入るとそこには紅茶を優雅に飲んでいる秋子がいた。
祐一は少し呆れつつも、秋子に声をかける。
「今から夕飯作りますんで、名雪達の相手をしててください」
「あらあら、手伝いましょうか?」
「気持ちだけいただいておきます。なにせ、腕が落ちたとか母さんに言われたくないですから」
そう行ってさっき買い物してきたものを、冷蔵庫に放り込んでいく。
そして必要な器具を出してエプロンもつけずに調理を始めた。
場所はリビング。椅子の6つある円のテーブルに4人はついていた。
目の前にはそれぞれ紅茶がでている。
そこにはリズミカルな包丁の音とフライパンで何かを炒めている音が断続的に聞こえてくる。
「秋子さん、調査班の方はどうでしたか?」
香里が、秋子に質問する。
他の人の眼が有る所では、名雪達は秋子隊長と呼んでいる。
プライベートな空間では 香里達は秋子さんと、名雪はお母さん、と呼んでいる。
秋子もそれに賛成していた。
「詳しくは明日の調査班待ちですね。あれだけ破壊されていると、製作者の特定も時間がかかると思います」
「北川さんの映像を見た限り、隣のエリアが怪しいですけど……」
「でも、証拠があっても、糾弾、反撃は無理ね」
栞の言葉に香里は反論し、ため息をつきながら、紅茶を口にした。
名雪が同じように同意する。
「そうだよね。それにあっちの戦力に太刀打ちできるほど、警護隊に戦闘能力があるわけでもないし」
「私達の部隊だけでも、無理ですしね」
「秋子さん犯行声明は出ているのですか?」
「『神々の尖兵』からは出てますが、信用できた物ではありません」
秋子は、頬に手を当てながら困りましたという顔をした。
無言のまま時間だけが過ぎていく。思い出したように名雪が言う。
「そういえば、祐一はどうなるの?」
「祐一さんは表向きは旅行者ですけど、姉さんが手続きをしてくれてますから、明日から同じ職場です」
そこへ、祐一がお皿を持って現れた。
「おまちどうさま」
祐一が、皿を持ってテーブルにそれを置き始める。
中華の大皿を3枚テーブルの中央に置く。
それぞれの前には、ご飯とスープを配る。
そして、それぞれに小皿を何枚か渡した。
「今回は、中華にしてみました。生きの良いえびも手に入ったしね」
中央のお皿のうち一つはエビチリだった。
祐一は紅茶のポットとそれぞれのカップをもってキッチンに戻り、 新しいポットと新しいカップを持ってくる。
ジャスミンティーを注ぎ、それぞれに渡す。夕食会の始まりだった。
食事会は滞りなく終わっていく。
食器を祐一が片付け始め、冷凍庫から何かを取り出してくる。
まず、名雪の目の前にそのお皿を置きながら祐一はデザートをそれぞれに置いていった。
「イチゴのシャーベット中華風だ」
名雪と栞は嬉しそうに、眼を輝かせた。秋子も香里も嬉しそうである。
「あれ? 祐一は食べないの?」
「あぁ、甘い物は苦手でな。感想を聞かせてくれ」
名雪と、栞は目の前のシャーベットに夢中になっている。それを祐一は嬉しそうに眺めていた。
「「「「ご馳走様でした。」」」」
「お粗末様」
名雪達の感想を聞いてから、祐一は食器を片付け始める。
その間は、祐一の手料理の品評会だった。その内容はかなり良いものだった。
「えーっと? 何でまだ、二人は居るんだ?」
食器の後片付けを終えた祐一は美坂姉妹を見て、そういった。
それに対して、美坂姉妹は不満顔だった。
「まだ自己紹介してないわよ。お互いにね」
香里に近づいて耳元で呟く。その光景に残りの三人は不満そうな顔をした。
「日記、読んだんだろ? だったら必要ないんじゃないか?」
祐一はまだ根に持っていた。香里は祐一に耳打ちした。
「その事なら、謝るわ。勝手に読んでごめんなさいね」
「良いけど。え〜、俺は相沢祐一。秋子さんの姉が俺の母さんで、そこの名雪の従兄妹。年齢は名雪と一緒。これでいいか?」
祐一が自己紹介をする。それに続いて、美坂姉妹が自己紹介を返した。
「私が、美坂香里。Hドールのアテナのパイロットをしているわ。そこの栞の姉よ。ランクはB+」
「お姉ちゃんの妹の美坂栞です。私はCROSSの適性はありますが、アルテミスとアテナの整備を担当してます。ランクはAです」
「そういえば、祐一さんはランクを持っていないのですか?」
自己紹介をした美坂姉妹のランクの紹介で気がついたように、秋子が祐一に言った。
「母さんがCROSSに触れるなって言ってまして……こればっかりは触ったら何を言われるか……」
祐一は身震いさせながら、秋子に答える。名雪がすごい不思議そうな顔をしている。
「え? ランク計測もしたことないの?」
「あぁ。何せ、母さんにペナルティーを課せられるのが嫌だからな」
「「「ペナルティー?」」」
香里、名雪、栞の声が重なる。秋子さんは、微妙に引きつった笑みをしていた。
「あぁ。内容はサバイバル訓練とか、母さんの仕事の手伝いとかだけどな。それがハードなんだって」
「聞き様によってはあまりハードじゃ無さそうだわ」
「えぇっと、美坂姉?」
「香里で良いわ」
「私も栞で良いです」
美坂姉と呼ばれたのが嫌だったのかすぐに呼び方を訂正させた。
便乗しながら栞も呼び方を指定する。美坂妹と呼ばれるのは嫌らしい。
「なら、俺も祐一で良いぞ」
「遠慮しておくわ。相沢君」
「わかりました。祐一さん」
香里の反応に少し落胆しながら、本当の内容を説明を始める。
「サバイバル訓練って言っても、1ヶ月、砂漠でやるんだぞ。ナイフ一本で」
「へ?」
祐一のその説明で、皆が固まった。
砂漠でサバイバルなど聞いたことがない。
食料もなければ、水もない。
そんな場所で? 1ヶ月も? 皆、考える事は一緒だった。
有夏さん(姉さん)には怒りを買わないようにしないと。
「あの、申し訳ないのですが、もうそろそろ寝たいんです。この会はお開きにして良いですか?」
祐一は秋子に向けてそう言った。
祐一はいろいろな事がありすぎて疲れ果てていた。
時間も既に9時を大きく過ぎている。
「そうですね。今日はお開きにしましょう」
「祐一。明日は職場を案内してあげるね」
「あぁ。よろしく頼むよ」
名雪と美坂姉妹はおやすみなさいと言いながら部屋を出て行った。残ったのは秋子だけだ。
「祐一さん。お願いがあるんですが……」
「何ですか? 秋子さん」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、体をもじもじさせながら秋子は言った。
「あの、あれを作ってくれませんか?」
「……あれ? あぁ! 判りました。作っておきます。材料はありますか?」
「ありがとうございます。ちょっと待っていてください。今もってきますから」
そういって秋子は部屋を出て行き、しばらくして紙袋を持って現れた。
「これです。それではお願いしますね」
「えぇ。判りました。それではおやすみなさい」
「おやすみなさい。祐一さん」
秋子は本当に嬉しそうな笑顔を祐一に見せてから部屋を後にする。
祐一は戸締りをしっかりしてから秋子に頼まれたものを作り始めた。
「しかし、今日はいろんな事がありすぎだ……」
疲れた声が一つ木霊していた。
作っている途中に祐一の目にホバーボードが目に留まった。
「あっと、これが終わったら、ボードを修理してやらないと」
料理を再開した。そして出来たものを瓶に詰めていく。
大瓶の5瓶目の途中で全てを詰め終わった。
「ちょっと作りすぎちゃったかな? まぁ良いか。自分で食べれば良いだけだし」
時間は12時を過ぎていた。祐一はウェストバックを手に引っ掛けて、ボードの方に向かう。
床にシートを敷いて、その上で修理を始めた。ボードの裏蓋をあけて、異常をチェックしていく。
「やっぱりここか。確か部品があったよな」
ウェストバックの中から交換部品を取り出す。そして、それを交換した。
「うし。これで良いはず」
シートを折畳んでテーブルの上において飛ばないように瓶を重石として乗っける。
そして、スイッチを入れた。
「よし、これで元通り」
通常と同じ動きを見せるホバーボード。祐一は満足げに、頷いてスイッチを切った。
そして寝床を何処にするか、決めるためにそれぞれの部屋を見ていく。
悩んだ挙句、結局一番小さな部屋に、自分の持ち物を運んでいった。
「そういえば、明日、俺は何やらされるんだろ? まぁ、いいか。今は寝よ」
そう言って、シャワーを浴び、ベットに横になった。
その隣の部屋。シャワーを浴びた名雪は嬉しそうにケロピーを抱えていた。
いつも眠る時間ではある。
(久しぶりに会った祐一。あんなに格好良くなってた。ふふふ)
ケロピーに顔を押し付けながら、嬉しい顔を隠しきれなかった。
(うー、どうしよ。嬉しくて顔が笑っちゃうよ。それに嬉しくて眠れないよ)
そこに、秋子の嬉しい時に出す声が聞こえた。
「ただいま」
(なんで? お母さんがそんな嬉しそうな声出してるの?)
不思議に思った名雪は秋子の声のしたほうにいく。
秋子は誰が見ても嬉しそうだった。
「……お母さん。何か良いことがあったの?」
「えぇ。良い事はありましたよ」
「え? なになに? 教えて」
秋子が、ちょっと困ったような顔をしてから名雪を見た。
名雪はその行動を知っている。お仕置きをする前の予備行動だと。
「あら、名雪どうして後ずさりするのかしら?」
「え? そんな事ないよ?」
「あら? 私、怒ってないですよ? 私に内緒で祐一さんと文通してた事とか」
「あ、明日も早いからねるね! おやすみなさい!」
そう言って名雪は自分の部屋に飛び込んだ。
流石に名雪の部屋に入り込んでまでお仕置きをしたかったわけではなかったみたいだ。
水瀬一家の隣、祐一の部屋と反対側の部屋。そこは美坂姉妹の部屋だった。
「さて、私も寝る事にするわ。栞、あなたも程々にしておきなさいよ」
「はぁ〜い。判りましたよ。お姉ちゃん」
香里はそのまま、自分の寝室に入っていく。
栞はリビングに残って、日記をつけていた。
(それにしても、変った人。でも、格好良いですね……)
ちょっとした妄想をして栞は、顔を赤らめて手を振った。それを何度も繰り返している。
その姿をシャワーを浴びようとパジャマ類を持って部屋を出てきた香里に見られてしまう。
「私は何も言わないけど、人前でそんな事をするのは恥ずかしいからやめてね」
呆れた顔の香里、栞は顔を真っ赤にして姉に反論した。
「そんな変な事やってません! ただ、祐一さんの事を考えてただけで―――――」
そこで、はっとして口を閉じたが既に遅かった。
「へぇ〜。相沢君の事考えていたんだ。なるほどねぇ」
「エェ? チガイマスヨ? これは言葉のあやと言って……」
しどろもどろになって栞は弁解する。今晩も美坂姉妹の部屋は騒がしそうだ。
To the next stage
あとがき
ようやく、祐一君が落ち着きました。
これでやっと、佐祐理さんにドールの説明をしてもらうことが出来ます。
次です!次を待っていてください。
でも活躍の場はと言いますか、戦闘シーンはどんどんかけ離れていきます。
しかも佐祐理さんたちの本格的な活躍の場も……
頑張りますので、見捨てないでください。よろしくお願いします。ゆーろでした。
管理人の感想
さて3話です。
更新速度早(以下略
ちょっと説明が足りないかなぁ、とも思ったり。
CROSSの適性とかランクとか、何の事かわかりませんでしたから。
ランクは必須じゃないみたいなので、現在の検定とかそんな感じでしょうかね。
免許みたいだと同じ仕事する祐一は拙いんじゃないかなぁ。
祐一には妹が……。
お約束的にブラコン。(笑
これで血が繋がってなかったら完璧ですな。(何が
お母様は男らしい性格で最強っぽいですが、最近流行っているのでしょうか?
次回は佐祐理さんの登場ですか。
やはり舞とセットなんでしょうかね。
敵対してても面白そうではありますが。
祐一が作っていたのはジャ○なのか……。
秋子さんが何やら可愛らしく。
もういっそヒロインに。(またか
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)