祐一は、名雪がホストコンピュータから出してくれた設計図を黙って見ている。
名雪には何故これを見ようとしたか解らない。
「名雪、アルテミスって言う機体の設計図も出せるか?」
「え? ちょっと待ってね」
名雪はまた、端末をいじってアルテミスの設計図の画面を開いた。
祐一は設計図をまた黙って見ている。そして、大きなため息を吐いた。
「祐一? 一体何なの?」
「いや、見て気が付かないか?」
名雪も設計図を見るが、祐一が何にため息をついたか解らなかった。
その思考も途中から混じった知り合いの声に中断させられる。
「よーっす。新入り!」
北川が名雪と祐一を見つけて声をかけてきた。
祐一が北川を見る。名雪は北川を無視して画面を見続けた。
「新入りとはまた違うけどな」
「あんまり変らんだろ?」
「そうだな。俺は相沢祐一。あんたは?」
祐一は目の前に立つ男の名前は何となく見当が付いたが、先に言う事はやめた。
「お。まだ名乗ってなかった。北川潤だ。アルテミスのパイロットで、ランクはC+。それにしてもすまなかったな」
北川は祐一を前にして頭をかいた。
祐一はアルテミスに追われていた事を思い出していた。目を細めて北川を見る。
「ドールで、一般人を追い回すなよな……」
ポツリと祐一は呟いた。
当然、北川には聞こえている。
名雪はまだ設計図と睨めっこをしている。
「それについては申し訳なかったな。こっちとしても慌ててたんだ」
「まぁ、いいけど」
「ねぇ、祐一。変な所なんて何も無いよ?」
名雪が、設計図から目を離して祐一に聞く。
北川は設計図を覗き込んだ。
「これって、アルテミスの設計図じゃないか?」
「うん。そうだよ、北川君」
「何か問題でもあるのか?」
「うーん。問題といえば問題なんだけどな。こういう作りが多いのもまた事実なんだなぁ」
名雪も北川も何が悪いのかさっぱり解らなかった。
祐一は二人を見ながら、話を始めた。
「ここだな。2つの機体に共通している問題の箇所は」
祐一は腰にある動力部分とコクピットをつなぐ電力ラインを指差しながら話を続ける。
「ここのところのラインが一本しかないだろ? この作り方は作業用なんだ」
「これって、スタンダードな作り方じゃないのか?」
「確かにそうだ。作業用だとな。だけど、これは戦闘を目的に作られているわけだ」
名雪が何かに気が付いたように、あっと声を上げる。
北川はまだ疑問顔だった。
「名雪は気が付いたみたいだな。もしこのラインが断線したらどうなる?」
「そりゃ、補助電源に……あれ?」
北川も存在している欠陥に気がついた。
この機体に潜む潜在的な問題、脳であるコクピットにつながる電力ラインが一つしかないという事に。
「そう。このラインが切られるとこの機体は動けなくなる。戦闘用は何本かラインを引くんだが、これは一本しか引いていない」
「補助電源もこのラインを使ってるしね。でも戦闘で都合よく、このラインだけ切れるものなの?」
「……もしもを考えると確かに怖いな」
「万が一を考えないといけないのは確かだな。まぁ、問題が無いといえば問題は無いけどな」
祐一は結構、楽観視しているが北川は弱りきっていた。
「アルテミスは遠距離支援の機体だからな。それはそんな欠点にはならないと思うんだが?」
祐一は不安げな北川を見て不思議そうな顔をする。
「確かにそうだが、アテナのほうはそうじゃないだろ?」
「そうだな。格闘戦だと相手によっては断線する可能性はあるだろ」
祐一はその言葉にあっさりと、頷いた。
「なぁ、どうにかならないか?」
「栞ちゃん結構、意地っ張りな所あるしね。どう言ったら良いかな?」
「ま、ほっといても気がつくだろ? さて、俺は何をしにここに来たんだか……」
名雪と北川は、困った顔をする。
何にせよ無視して良い問題じゃない。でも栞が素直に従うとも思えなかった。
それに祐一の態度もある。確かに祐一は部外者だし、仕事というものは確かに無い。
何のためにここに居るのかも分からない。
だからってそんな態度は無いんじゃないかと、名雪は思った。
北川は確かに指摘しても聞き入れてくれないだろうなと思っていた。
色々と対策を考える二人。そこへ、美坂姉妹が来た。
祐一はアテナを見上げたままだった。名雪は香里の方を向いていた。
「お? 美坂に、栞ちゃん」
「あ、北川さん。居たんですね」
栞に、さりげなく酷い扱いを受けた北川だったが二人が、何故ここに来たかわからなかった。
「それで、お二人さん。どうしたんだ?」
「栞が、アルテミスとアテナを見た、相沢君の評価が聞きたいそうなのよ」
「だから、ここに来たって訳だ」
北川が受け答えをしている。祐一は美坂姉妹が現れてから一言も話してはいない。
「北川さん。アルテミスは腕の交換だけで済みましたから、ピッカピカに磨いてくださいね」
「それにしても腕のストックがあってよかったわね。北川君」
何となく、栞の視線が冷たい。まだ怒っているようだ。
香里は北川に頑張ってねという視線を送った。
「……解りました」
そのまま、北川はとぼとぼと、アルテミスの置いてある第1格納庫に向けて歩いていった。
「祐一さん。秋子さんから聞きました。ドールの開発も出来るんですよね? 私の作ったドールはどうですか?」
栞は少し興奮しつつ、祐一に評価を求めた。
香里は呆れた顔で、名雪はちょっと困った顔でそれを見ている。
祐一は何かを考えるような動きをしてから、栞を見て言った。
「評価ね……観賞用なら、完璧じゃないか?」
「観賞用? 何を言っているのですか? アテナは戦闘用ですよ?」
祐一は視線を栞からアテナに戻して、またそれを見上げた。
「なるほどね。戦闘用ね」
呟くように祐一は言う。しかしそれは、美坂姉妹の耳にも名雪の耳にも届いていた。
「俺ならこの機体に自分で作ったNドールで勝つ自信があるが……そんなHドールをそれでも戦闘用というのか?」
アテナを見上げながら飄々と祐一は続ける。栞は顔を真っ赤にして怒っていた。
「もちろん1対1で、だ」
「ちょっと良いかしら?」
香里が栞を手で制しながら、祐一に向かって一歩前に出た。
「ん? 香里。なんか問題でもあるのか?」
「えぇ、それは私が操縦していても、勝てるという事なのかしら?」
「アテナは香里の機体だろ? だったら当たり前じゃないか?」
その言葉に、美坂姉妹が同時に切れた。
名雪は喧嘩を平気で売っている、いとこにちょっとした目眩を覚えている。
「だったら、証明してください!」
「そうね。その証拠を見せてもらおうかしら?」
「そんなに見たいなら見せてやるよ。ただ、1週間、時間とメカニック、名雪を借りるぞ?」
祐一は栞と香里の方向にまだ向いていない。視線はアテナを見たままだ。
「いいですよ! 絶対にアテナは負けませんから!」
「ただの勝負じゃ、つまらないから、負けた方が勝った方の言う事を一つ聞くって言うのはどうかしら?」
「俺は別にそれで良いぞ。負けるつもりは無いし。あ、名雪は関係ないからな」
名雪はそのやり取りをただおろおろして見ていた。
周りのメカニックは何事か? と集まってきている。
「じゃあ、秋子さんに許可貰ってくるが本当に良いんだな?」
「後悔させてあげるわ!」
「後悔させてあげます!」
声を合わせた二人の声。祐一は、やっぱり二人は姉妹なんだと感じながらその場を後にする。
祐一は名雪を引き連れて、秋子を探し始めた。
後ろでは、美坂姉妹とメカニックが盛り上がっていた。
「ねぇ、祐一。あんな事、言っても大丈夫なの?」
「負けるのを心配してるのか? 多分、負けないぞ?」
名雪にはその自信が何処からわいてくるか不思議でしかなかった。
確かにアテナにはさっき指摘された欠点がある。
それでも、1対1でNドールがHドールに勝てるとは思わなかった。
名雪は気が付くと秋子のいる隊長室まで歩いてた。
「失礼します。秋子隊長」
ドアをノックして名雪が先頭になって隊長室に入る。祐一も名雪の後に続いた。
「何か問題でもありましたか?」
「簡単に言うと、祐一が、香里達に喧嘩を売りました」
秋子が面白そうに、名雪を見ている。
そして、その話の続きを話す様に名雪を促す。
「1週間、メカニックと私を借りたいそうです。この私闘を許可してもらえますか?」
「了承。ただし、名雪は通常の職務をこなす事が条件です」
「判りました」
何かを考えているのか祐一は黙っている。
名雪は視線を祐一に送った。それに気が付いたのか、秋子が質問する。
「それの私闘は、祐一さんの意思ですか?」
「そうです。あの秋子さん。材料として、あの2機の廃棄ドールを使って良いですか?」
「かまいません。他の材料は必要ありますか?」
「いえ、そのドールの設計図と端末、メカニックさえ居れば、他は望みません」
秋子は満足そうに頷いた。名雪はやはり心配そうな顔をしている。
「解りました。日にちは私が決めます。明日から一週間後の、昼1時にそれを行いましょうか。端末は後で部屋に届けます」
秋子は机の引き出しから、2機のドールの設計図を出して祐一に渡しながら言った。
「ありがとうございます。まぁ、見ててください」
祐一は名雪を連れて隊長室を出ていった。そのまま、あの2機のドールの前に行く。
警備隊に見捨てられた新型のNドール。
それも初期不良ではなく操縦マニュアルを読まないで動かしたときに起こる特有の故障だった。
「本当に大丈夫なの?」
「ま、少なくとも負けはしないさ。アルテミスなら負けるけどな。まぁ、みんな戸惑うと思うぞ」
2機を見上げながら祐一は続ける。
そして、設計図を見ながら名雪に自分の考えの説明を始めた。
「えぇ! そんな事出来るの!?」
「YASならではの方法だけどな」
驚いた名雪だったが、落ち着くと行動は早かった。
これは名雪の性分でもある。 流石は秋子さんの娘。祐一はそう思っていた。
「じゃあ、私、メカニックの人呼んでくるよ」
秋子が隊長を務める、ドール特殊部隊には格納庫が3つある。
名雪はそのうちの一つ、第1格納庫に向かって走っていった。
メカニックは、一つの機体に5人付く。
アテナのメカニックは借りれないので、アルテミスのメカニックが祐一に付く事になった。
メカニックが一同に2つの機体のある第3格納庫に集まった。
ちなみにアルテミスは第2格納庫、アテナは第1格納庫にある。
「あんたかい? 香里嬢と栞嬢に喧嘩を売った面白い人は」
「あぁ、そうです。自己紹介しようか?」
「頼むよ」
代表格の30代のメカニックが嬉しそうに目を細めながら自己紹介を待った。
「美坂姉妹に喧嘩を売った、相沢祐一だ。皆さんの技術と経験を貸してください」
「こっちも自己紹介しないといけないな。左から伊藤、鈴木、坪田、宮川、そして、牧田だ」
「よろしく頼みます」
祐一は深く頭を下げた。メカニックの人達は嬉しそうに祐一の手をとって握手をした。
「俺らとしても、名雪ちゃんの頼みを無下には出来ないもんな? そうだろみんな!」
他のメンバーの声が「おう」と重なった。
名雪はみんな結婚してるのに……と呟いて、苦笑いしていた。
祐一は、名雪にも説明した考えをメカニックの人にも伝える。
メカニックたちの顔色がどんどんと変っていくのが分かった。
その表情は生き生きとしている。
「そりゃ、面白いものが作れる! でもYASの調整はどうするんだ?」
「それは俺がやります。だから皆さんは、機体の事だけ考えてもらいますか? 明日、設計図を持ってきますから」
「わかった。明日を楽しみにしているからな。良いか! 皆! このことは外部に漏らすんじゃねえぞ!」
リーダーの牧田が皆に檄を飛ばす。皆はそれに「おう」と答えた。
「今日は解体をお願いして良いですか?」
皆は笑いながら、機体に取り付く、祐一も一緒になって解体作業を手伝った。
日が暮れる頃には2機の解体は終わった。
第3格納庫には2機分の機体の手足などがある規則にしたがって並べられている。
「今日はありがとうございました」
「なに。明日からよろしく頼むぜ。大将」
メカニックのリーダー格の牧田は笑いながら、他のメカニックを連れて格納庫を出て行った。
これ以後、祐一はメカニックの人から大将と呼ばれる事になった。
「さて、帰るとしますか。名雪はどうする?」
「え? 私も仕事は殆ど無いから帰ろうかな」
祐一は壁に立てかけてある、ホバーボードを展開しながら外へ歩き始めた。名雪もそれに続く。
「祐一。私は屋根の上を走るのはもう嫌だよ」
「そんな事、心配してるのか? 帰りは道の上だから安心して良いぞ」
名雪は祐一の言う事を信じて、ボードに乗り祐一にしっかりつかまった。
ボードは速度を出すものの、朝のように飛んだり跳ねたりはしなかった。
名雪はちょっと得した気分で帰宅したのだった。
帰宅して着替えた後。名雪は自分の部屋のリビングに秋子に当てた手紙を残して祐一の部屋に来ていた。
祐一と一緒になって夕食を作っている。名雪は祐一の料理の技術に驚いていた。
「祐一、勝っても負けてもイチゴサンデーだからね」
「ま、巻き込んだんだし、給料も出ないんだからその位はな……」
名雪は自分は巻き込まれた事を主張し、祐一と二人でイチゴサンデーを食べに行く事を約束させた。
祐一はその位はしょうがないと苦笑いを浮かべた。名雪を巻き込んだのは祐一だからだ。
この勝負で一番、得をするのは名雪かもしれない。
祐一は名雪の言う事に頷きながらそんな事を思っていた。
「それにしても、名雪って本当にイチゴ好きだよな」
思った事の内容にかするようにして、祐一は口を開いた。夕食の用意は殆ど出来ていた。
「え? 私は普通だと思うけどなぁ……」
「自覚無しか……」
「祐一さんに名雪。楽しそうね」
会話の途中、何処からともなく秋子が割り込んだ。
ちょっとすねた顔をしている。名雪は慌てたが、祐一は落ち着いていた。
「あ。秋子さん。ちょうど良いところに来てくれました。これから夕飯にしますから、テーブルで座っててください」
秋子は祐一の言葉を強く反論せずに素直に従った。
名雪は料理をテーブルに運んでいる。そして夕食が始まった。
「端末は、祐一さんの部屋に置いておきましたので、好きに使ってください」
「ありがとうございます」
「ところで、どんな機体を作るのですか?」
祐一は名雪に目で合図を送る。名雪はそれに静に頷いた。
秋子はそれを羨ましそうに見ていた。
「それは当日までのお楽しみという事で。もちろん、勝てる機体は用意します」
「どうしてもですか?」
上目遣いで秋子は祐一に迫った。名雪はそんな母を見て驚く。
お母さんにもあんな表情が出来るんだと。
「どうしてもです。そんな可愛い顔されても、答えません」
そんな会話があったが、夕食は無事に終わった。部屋には祐一、一人となる。
端末に向かいながら、設計図を仕上げていく。そして、その計画・予定表も作っていった。
「明日から夜は、OSの調整か。しかし、面白い事になったな」
実際なんでここに居るのか分からないが、こんなお祭り事は祐一は好きだった。
次の日の朝、第3格納庫。名雪は仕事の為にここには居ない。
居るのは昨日のメカニックと祐一だ。
「とりあえず、これを見てください」
祐一は、手からプリントアウトした設計図と計画・予定表を5人のメカニックにそれぞれ渡した。
皆がそれに目を走らせる。それぞれの目が驚愕に見開かれた。
「こりゃ、すごい。こんなに完璧な設計図に計画・予定表は初めてだ。こりゃ、大将が作ったのか?」
「えぇ、俺が作りました。ありがとう、牧田さん」
他のメカニックの人も同じようにうなずいている。それに嬉しそうだ。
「じゃあ! 野郎ども! 期待に応えようじゃないか!! こんな仕事は滅多に出来ないぞ!!」
メカニックはリーダーの牧田の指示に嬉々として走り始めた。
祐一もその中に加わって一緒になって行動した。
仕事の為に遅れてきた名雪も途中から一緒になって行動する。皆が一丸となっていた。
そんな日が、5日間続き。見事にNドールが1機、形となった。
最後にマントを取り付けてそれは完成した。
マントの下、装甲の色はちぐはぐ。満足に塗装も行なってはいない。
しかしその機体、NM−06−阿修羅はそこに立っていた。
名前をつけるのに、祐一が嫌がったために名雪が名前を貸し、番号は祐一が作ったので祐一がつけた。
そして、機体の名前はメカニックの人達が付けてくれた。皆が一丸となって作った機体。
メカニックの人達が名雪がそれを満足そうに見上げていた。
一番ネックだったはずのYASの調整は祐一の手によって既に終わっている。
カメラは、人間の目と同じように二つ付いている。
顔が阿修羅像のように見えるのようにしたのは、牧田のアイディアだった。
外見は阿修羅像が大きなマントを羽織っている、そんな感じだ。
首から下はマントのためにあまりよく分からない。
動きは問題なく動き。後は勝負になるのを待つだけだった。
色がちぐはぐなその機体は静かにその時を待っている。
ちなみに、塗装は後日ちゃんとカラーリングされる。
同じ時刻。第2格納庫では同じように美坂栞が自分の自信である機体を見上げていた。
外に出れば回りに溶け込むような白。その外見は、中世の女性が甲冑を纏っているような感じだ。
頭は中世を思わせる兜を被り、体には甲冑を纏う。その姿はまさに、気品の溢れた女の騎士だった。
両腕にはそれとはミスマッチな物を手にしている。
トンファーだ。しかしそれすらも、その機体・アテナの一部に見えてしまう。
自然と、アテナに溶け込んでいるように見えるから不思議だった。真っ白な女性の騎士それが、アテナだ。
メカニック達の整備は完璧。栞も思いつくだけの確認はしている。
香里だって機体を動かして不具合が無いかチェックに余念がない。
全てが終わって、この機体の状態は完璧だと言わなかったらこの状態はなんというのか? と言う状態にまで仕上げていた。
栞はため息をついた。自分の機体には絶対の自信がある。しかし、何かを見落としていそうで怖かった。
それに、勝負を持ちかけたときの祐一の態度に何か引っかかっていた。
最後まで、何かを哀れんでいたかのような態度。
栞の思考を中断する声が後ろから聞こえる。栞はそちらに振り向いた。
「栞、安心しなさい。私は負けないから」
自分を落ち着かせるように、そして栞を落ち着かせるように香里が栞に声をかける。
「お姉ちゃん、大丈夫です。アテナは負けません。今の状態は完璧、絵に飾っておきたいくらいです」
「そうね。明日、あっさり勝って相沢君にいう事を聞いてもらいましょう」
香里は少し微笑みながら、栞を伺った。けれども、栞はどこか不安げだった。
「どうしたの?」
そんな栞の態度を不思議に思ったのか、香里が栞の目を覗き込んだ。
「なんでもないです。大丈夫。祐一さんにはいう事を一つ叶えて貰います」
普通に考えれば、HドールがNドールに負けるわけは無い。
3対1、ならいざ知らず、1対1ならば負けることは無い。
それが普通のはずだ。と栞は不安を心の奥にしまいこんだ。そして香里に微笑み返した。
真っ白の鉄の騎士は、静かにその時を待っていた。いつでも戦える。そんな事を喋りだしそうだった。
さて、普段イベントの少ない特殊部隊のメカニック達や北川はその事を面白そうに眺めていた。
普段は出撃もなく、訓練ばかり。メカニックにとっても訓練で壊れた箇所はあまりないので、メンテナンスが主となる。
忙しくないか? と問われれば、どちらかといえば忙しいと答える職場だろう。
しかし、刺激が少ないことも確かだ。
それは北川も同じだった。自分ではメンテナンスは出来ないものの、訓練ばかり。
ちょっとした刺激が欲しい所だった。
それに部外者があの美坂姉妹に喧嘩を売ったのである。
そんな訳で皆がこんな面白い事を見逃すわけがない。
「さて、今の倍率は美坂姉妹が2、相沢水瀬ペアが10だ! どっちにかける!?」
どちらが勝つか賭けになっていた。開催しているのは北川だ。もちろん許可などとっていない。
「やっぱ、Hドールの美坂姉妹だろ? そっちに1000」
「そうだな。やっぱり、美坂姉妹で決定だろ。俺も同じだけ」
「アテナと香里嬢の相性は抜群だからな! おれは2000」
皆が口々に、美坂姉妹の優勢を口にする。
ちなみに当事者である、美坂姉妹に名雪と祐一にそれぞれのメカニックは参加できない。
「あら、面白そうですね。じゃあ、私は相沢水瀬ペアに20000で」
秋子が、騒いでいた北川たちに加わって賭け事をしていた。
それを止めようとはしない。所詮、お遊びだ。
一瞬、場が凍りつくが秋子が賭け事に参加した事で、この賭けは当事者以外の皆が参加する事となった。
特殊部隊以外のメカニック達も集まってきている。
気が付けば、結構な大きさのイベントとなっていた。
もちろん開催している、北川も賭けには参加できない。
結局、祐一と名雪ペアに賭けたのは秋子だけだった。
もし、北川が儲かるとしたら、相沢水瀬ペアが勝つときだけだ。
だから北川は、アテナの欠点は口にはしなかった。
それに、自分で問題に気が付き、反省できないとこれから作られる機体に安心して乗る事は出来ないと、思ってもいた。
To the next stage
あとがき
ここでドールの名前の付け方の設定を書いておこうと思います。
と言っても複雑なわけではありません。
「設計者もしくは製造者のイニシャル」−「製造番号」−「機体名」と言う感じです。
例、佐祐理さんが設計・製造した場合。
SK−007−ガーディアン みたいな感じになります。
ちなみにこの機体は後で出てくる予定です。
頑張りますので、また読んでください。よろしくお願いします。ゆーろでした。
管理人の感想
祐一君喧嘩売るの巻。(笑
人の生き死にを左右するドールですし、問題個所の指摘はした方がいいでしょうね。
後々意見を通すために鼻っ柱をへし折る事も……。(笑
機体名は阿修羅。
マントで阿修羅だと、やはりその下は……。
例の欠点をつくなら、最低3本は必要でしょうからねぇ。(謎
その点阿修羅なら問題なさそうです。
名雪が操縦するみたいですが、祐一のパイロットとしての実力はもう少し後でしょうか。
マント装備の機動兵器って言うと、やはり某髑髏ガンダムなんですが。(苦笑
あのマントはビーム弾いたりしないのかな?(爆
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSかメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)