有夏達がエリアMに来てから2週間。
その間は平和だった。否、何事も無かった。
祐一は買出しのために商店街を歩いている。
もちろん人が少ない所ではホバーボードに乗っていたのでボードを腕にくくり付けている。
祐一には久しぶりに与えられた休日である。
この2週間、祐一には休日というものが無かった。
母である有夏に訓練と称していじめられる日々だった。
他の人の目があるのでそれなりに手加減はされているが、それでも、その訓練は凄まじかった。
祐一の妹である祐夏が一度一緒になって訓練したが、それ以来一緒には訓練していない。
もちろん、エリアMのメンバーはそれを応援こそすれ一緒になって訓練しようとはしなかった。
見るに見かねた秋子が祐一に休日を与えたというわけである。
もちろん、有夏の反対がある。それを押し切って祐一の休日は決まった。
それで今日は待ちに待った休日である。
数少ない休日を祐一は羽を伸ばすつもりで商店街を歩いていた。
商店街を歩いているときにいつもは見慣れないものを見てしまった。
バイクにつながっているたいやき屋台だ。
「はて? あんな場所にあんなの有ったか?」
祐一は思案に暮れる。しかし頭を振ってそれを否定した。
毎日商店街に来ているわけではないし別にいいやという考えでもある。
そのままたいやき屋の前を通り過ぎようとして、通り過ぎる事はできなかった。
腰に原因不明の衝撃に襲われたからだ。
ラグビーのトライを阻止するディフェンスのように腰に何者かが取り付いている。そのために祐一は転んでいた。
周りの目が痛い。何故こんな事になっているのか判らないが、ともかく祐一は恥ずかしかった。
何事も無かったように立ち上がって、そのまま他人を装いながら通り過ぎようとして、それも出来なかった。
いまだに何者かは腰に引っ付いており、その顔は明らかに怒っている。祐一は泣きたくなった。
「なぁ、あゆ。何か俺に恨みでも有るのか?」
「祐一君酷いよ! なんで、僕を無視するのさ!」
腰に張り付いていた少女、月宮あゆは明らかに怒っている。
祐一の腰から手を離したもののその進路を抜け目無く塞いでいた。
あゆの格好はエプロン姿で、そのエプロンにはでかでかと『たいやき台風一家』という微妙に物騒な名前が書いてあった。
周りの人の目はより一層冷たくなる。
その場面だけ見れば祐一が食い逃げをしたかのようだった。
あぁ、太陽が眩しいと祐一は思っていたが思い切ってあゆに声をかける。
「あのな、無視したんじゃなくて、気がつかなかった。まさか、あゆがたいやき屋の店員をしているなんて思わないだろ?」
「うぐぅ。でも気がついて欲しかったよ? だって6年と8ヶ月23日と13時間12分47秒ぶりの再会なんだから!」
「えらく細かいな……」
周りの人はなんだ痴話喧嘩か? というので興味深深で、その視線を強めている。
祐一はあゆに気がつかれない様にため息をはいた。
せっかくの休日は羽を伸ばすどころでは無くなってしまったからだ。
まぁ、これもこれで良いかとか思うのは祐一の性格だったりする。
「はっはっは! あゆがそんな状態だと、今日はもう店じまいだな」
あゆの後ろから白髪交じりの男があゆの方に歩いてい来る。
たいやき台風一家の亭主の石橋彰雄だ。
「おっさん。生きてたか」
ちなみに、有夏の知り合いであゆの保護者だったりもする。
本職は祐一には解らないが、趣味でたいやき屋をやっているみたいだった。
「そういう坊主こそよく生きてるな。俺だったら、真っ先に逃げるぞ。なにせ、あの有夏の下で生活するんだろ?」
「おっさん。母さんに知れたらそれこそ生きてられないぞ」
「なに。逃げて回るさ。はっはっは!」
生命の危機を感じたのこの笑い声だけが少し大きかった。
あゆは先ほどから展開されている二人の会話についていけなかった。
「ところで祐一君なんで、こんな所にいるの?」
「母さんの気まぐれでな。それで、あゆ達こそなんで、こんな所にいるのさ」
「たいやき屋で世界を一周したくなったのさ! はっはっは! ここは最後のエリアだ! はっはっは!」
あゆと石橋が胸を張っている。祐一は呆れた顔をした。
「それはすごい目的だな。俺にはまねできないよ」
「祐一君。微妙に馬鹿にしているでしょ?」
「そんな事無いぞ」
なんだか納得できないような顔をする。
そのやり取りを石橋は嬉しそうに見ていた。
ふと、周りの人が一斉にある方向へ向けて走っていく。
3人はその走っていく反対の方向を見る。
500m位先の商店街の入り口ではドールが1対3の戦いを開始していた。
都市迷彩の機体と、警備隊の緑色の機体だった。
突然始まった戦闘に、人々はまだ非難しきっていない。なのに戦闘は始まっていた。
「非常識な! こんな場所で戦闘をするなんて!」
石橋が怒鳴り声を上げる。そして、屋台のバイクに走って行く。
あゆと祐一は石橋の後に続いた。
「おっさん! 何かあれを止める手が有るのか!?」
「そうだよ! 先生!」
「大丈夫だ!」
屋台の下とバイクを繋ぐ部分をなにやらガチャガチャいじっている。
そこから、ケースを取り出してあゆに放り投げた。
「あゆ。それを組み立てろ。対装甲ライフルが入ってるからな!」
「うん! でもこんな物を持っていたなんて知らなかったよ! さすが先生だね!」
祐一はその会話を頭の痛い思いで見ていた。
何故俺の周りにはこうおかしな人間ばかりいるのかと、嘆きたくなっていた。
「おい、坊主は何か持っているのか?」
「俺はこれだけだ」
祐一はコートの内側から少しの工具と一丁の回転式の拳銃を取りだして石橋に見せる。
「まいったな。このライフル以上の火力はもうここには無いぞ」
「……いや、これがあれば十分だと思うぞ?」
「そうか? なら、坊主ならどうする?」
あゆが、ケースから取り出して見る見るうちにライフルを組み立てていく。
「あいつの動きが止まれば、おっさんが狙撃できるだろ?」
「おいおい、こんなおっさんにそんな危険な物を撃たせるつもりか? あゆの方が適任だぞ!? なぁ、あゆ」
「え? うん。そのくらいなら出来るよ。先生」
意外そうな顔であゆを見る祐一。
既に組み上がりつつあるライフルをみて無理やり自分を納得させた。
「なら、あゆ、まずは振り向いた瞬間にそれで頭部カメラを狙撃してもらえるか?」
「え? それってどっちの?」
「都市迷彩の1体の方だ。頭部カメラを狙撃したら脚部の関節部分を重点的に狙撃してくれ」
「うん。それなら安い御用だよ」
ふと、ここで祐一はライフルの性能について気になった。
狙撃がうまく出来ても弾丸に威力が無ければそれでおしまいだ。
「ところで、このライフルはあいつの装甲を貫けるのか?」
「性能は通常の対装甲ライフルの4倍! 保証書つきだ! 何故なら、ONEの最新型だぞ! まぁ、試作品だがな……」
最後の小声の声を祐一は意識的に聞き流した。
そしてあゆに向かう。あゆはもう準備が出来ていた。
「俺があいつを振り向かせるから、その瞬間を狙ってくれ。いいな!」
そのまま、返事も聞かないでボードを展開して商店街の入り口に向かった。
サイクロプスに乗っている沢渡真琴はいらついていた。
なにせ、上から指示出してくるのはあの久瀬だ。
真琴には久瀬が設計したこの機体もその本人も嫌いだった。
しかも久瀬の指示に従って行動したとたん、警備隊の3体のドールに囲まれてしまう。
しかも向こうから先に発砲されてしまう始末だ。
美汐も一緒に来ているが、美汐は別任務の為に真琴とは別の行動に単独行動をしている。
今、乗っているサイクロプスは前回と違いマシンガンを1丁しか持っていない。
代わりに予備のマガジンを4つ持ってきていた。
3機いる警備隊のNドールを相手にしていて真琴のいらつきは頂点に達していた。
「あ〜! もう、邪魔なのよ!」
パパパパパパパ!
手にしているマシンガンを敵のドールに向けて一掃する。
乾いた音と共に銃身より吐き出された弾丸が敵のドールの装甲に当たって火花を散らした。
敵がひるんだ隙にそのうちの一体に近づいて、敵の武器である銃をマシンガンで破壊してしまう。
パパパパパパパパ!
そして、脚部に弾丸を浴びせた。
そうして、銃を持つ腕と銃そして、脚部の大部分を潰されたドールのパイロットは脱出装置を使って逃げ出した。
残った2体は仲間のパイロットが安全圏に逃げるまで武器を発砲しないようにした。それが間違いだった。
真琴は、残った2体に向けてマシンガンを向ける。そして、それを無造作に発射した。
2体いた警備隊のドールのうち一つが、1機をかばうように前に出てその弾丸を受け止めた。
機体のいたる所から火を噴き、それは崩れ落ちる。
そして、脱出装置が作動してコクピットにいたパイロットがその機体を廃棄した。
しかし残った1機も、もう既に反撃が出来ないほどに機体にダメージを貰っていた。
武器を持った腕からは黒煙が上がっている。
それ以外にダメージは無さそうだが、銃がつかえない以上、格闘戦でHドールに勝てる術は無い。
カチン。かチャ、カッチャン。
真琴は、マシンガンのマガジンを交換するために、一度手を止めた。そしてマカジンを交換し始めた。
最後に残ったNドールが諦めかけた頃、祐一は目の前の都市迷彩の施されたドールに向けて拳銃を発砲する。
ガガガガガガン!
とりあえず、祐一の最速で六連射。すぐに弾を込めなおす。
それもボードを走らせたままでだ。
(チッ! やっぱり祐夏よりも速射は遅いか。しかもドール相手にこれは弱いか? お願いだから、こっちに振り向けよ)
ガガガガガガン!
二回目の六連射。それでドールはこちらに注意を向け、振り向いた瞬間にそれは起こった。
ダァァァァン!
尾を引く長く鈍い音。あゆのライフルの弾丸が目の前のドールの頭部カメラを吹き飛ばしていた。
(なんていう危ない物持ってるんだ! あのおっさんは!)
都市迷彩のドールの動きは一旦止まる。
そして、何も手にしていない方の腕を頭部に伸ばしていた。しかしそれは何の解決にもならない。
ダァァァァン!
ダァァァァン!
ダァァァァン!
一定の間隔をあけながら、あゆのライフルは正確にドールの脚部の膝部分を打ち抜く。
がたん!
目の前のドールは片膝をついた。
それは、片足の膝部分があゆの狙撃によって自らの自重を支えきれなくなったためだ。
祐一は、ドールのコクピットに取り付き、手動の開閉レバーを探し始める。
ドールは祐一を取り付かせたまま、あゆの方を向こうと腰を捻っているが、なかなかその方向を向く事が出来ないでいた。
祐一が開閉レバーを見つけ、乱暴にそれを引き倒す。
バクン、と鳴ってコクピットは開き始めた。
コクピットが開ききってから、祐一はもう弾を込めていない拳銃を構えてそこを覗き込んだ。
「さて、おとなしく出てもらおうか?」
片手に銃を構えてもう片方の手をパイロットに差し出す。
パイロットはおとなしく手を掴んだ。
(さて、困ったな。あそこのドールにはどこかに行ってもらわないといけないけど、俺の名前は出したくないしな)
「ちょっとここで待ってくれないか? すぐに済むから。後、逃げようとしたら容赦なく撃つからな」
祐一はパイロットに差し出していた手を離してポケットから携帯無線を取り出した。
そして鼻をつまみながらそれを動かす。
「商店街の近くにいる警備隊のドール。応答してくれ」
鼻をつまんでいるので、風邪をひいたような声が無線には流れているだろう。
『は、はい! なんでしょうか!?』
緊張しきった声が無線に流れてきた。どうやら女性らしい。
「不審ドールは押えた。そっちは格納庫まで引き揚げると良い。こっちは任せてもらいたい」
『本当ですか!?』
「その証拠に不審ドールの動力反応はもう無いだろ? だから安心してくれ」
『ぁ、本当だ……解りました。基地に帰還します。すいませんが名前を教えてもらいませんか?』
祐一は困った。心の中で、友達になった北川に謝る。
勝手に名前を借りてごめんな、と。
「北川潤少尉だ。あなたの奮戦感謝する」
『ふふふ、わかりました北川さん。こちらこそ、あなたの奮戦感謝します。風邪を治してくださいね』
安心しきった声の女性は何か勘違いした様子で、警備隊の基地に帰っていったようである。
「さて、一緒に来てくれるか?」
祐一はパイロットだったツインテールの少女に向けて手を再び差し出した。
「あぅ……」
少女はゆっくりと祐一の手を握った。
そして、一緒になって動かないドールから降りた。
そして、ここまで乗ってきたホバーボードを担いでたいやきの屋台まで歩いていく。
少女は無言のまま素直に従ってくれた。
「あっと、自己紹介がまだだったな。俺は相沢祐一」
「え?」
少女は混乱した。何故、北川潤と名乗ったのに、自己紹介では違う名前を言うのか?
そんな疑問を口に出せないまま、少女は祐一の手を握って素直に従った。
祐一は片手をそのまま繋いだままで、もう一度無線機を手にする。
「名雪。聞こえてるか?」
『あ!? おか、秋子隊長! 祐一から無線が入ったよ!』
無線からは名雪の嬉しそうな声が聞こえてきた。
少女はその無線のやり取りに聞き耳を立てた。
『祐一、大丈夫? 怪我は無い?』
「心配しなくても大丈夫だ。知り合いと一緒に今は商店街に居る」
『え!? それって危ないんじゃないの!?』
「ん? あぁ、不審ドールが暴れてるって言うんだろ? 不審ドールなら、もう沈黙してるから回収するならしてくれ」
無線の声が名雪から秋子に変った。
ちょっと安堵の入った声で祐一に問いかける。
『祐一さん。まずその機体を調べてもらえませんか? パイロットがいたら拘束してもらいたいのですが……』
「すいません。俺がついたときには、既にもぬけの殻でした。すいません、力になれなくて」
『解りました。気を落とさないでください』
「母さんの知り合いが2人、この町に居るのでそっちで保護してもらえませんか?」
『了承』
「では通信終わります」
そう言って祐一は無線を切る。
そうしているうちに、あゆ達の前についた。
「あゆってすごい腕の持ち主だったんだな」
感心しながら祐一はあゆを褒めた。
あゆはそれに嬉しそうに目を細めてそれに答える。
「おっさんとあゆは秋子さん、母さんの妹なんだけど、その人の所に行ってくれないか? 話は通してあるから」
「それは良いが、その子はどうするんだ? 坊主」
手をつないでいる少女に視線をやりながら、石橋は祐一に質問した。
「俺に任せてもらえないか?」
「良いよね? 先生?」
「あゆに言われたら反対のしようが無い。坊主、ちゃんと説教するんだぞ!」
「わかってるよ。あゆにおっさん! それと、このことは秘密にしてもらえるか?」
「「わかってるよ(ぞ)!」」
方針が決まれば、二人の行動は早かった。
祐一から、秋子の居る場所を聞き出し、屋台を引いているバイクに二人が乗り込んだ。
あっという間にバイクは発進し目の前から居なくなった。
残されたのは祐一とその少女だけだ。今まで無言だった少女が口を開く。
「殺すんならさっさと殺しなさいよぅ!」
「はぁ? 何でそう死にたがるんだ? せっかく生きているというのに」
「なによ! 真琴を騙そうったてそうはいかないんだから!」
「真琴って言うのか? 出来れば、ここでは暴れて欲しくなかったんだ。まだ非難してない人が沢山いたから」
「それだけの為に、真琴を捕らえたの!?」
少女は一旦、声を出すのをやめて祐一を驚愕の目で見た。
「ん? そうだけど? まぁ、お前の部隊には返すよ。条件付で」
「お前は、何でそんなに優しいの? 真琴を殺そうとするんじゃないの?」
「ん? あぁ、俺は軍人じゃない。それに、このエリアの人間でもない。でもただ、人が殺されそうになる所が見たく無いだけだ」
「あぅ。何でなのよう……何でそこまで出来るのよぅ」
「まぁ、死者は出てないみたいだからな。出ていたら秋子さんにさっさと引き渡してるよ。それに反省してるだろ?」
祐一は真琴の目を覗き込んでやさしく問いかける。
「……うん。本当ならこんな所で戦いたくなかった……」
「ならいいよ。さて、お前の上司よりも、同僚の方が良いな。同僚の居そうな場所は判るか?」
しょんぼりと落ち込んでいる真琴の頭を優しくなでながら、祐一は真琴の答えを待った。
「……美汐が博物館に居ると思う」
「そうか、ならいこうか。落とされないようにしっかりつかまっててくれよ!」
ホバーボードに祐一は片足を固定させながら、真琴をボードに乗せる。
真琴はしっかりと祐一につかまった。
そのまま、祐一は不法侵入した博物館を目指してボードを走らせた。
美汐は観光客の一人のような顔をしながら、博物館から出てきた。
しかし、博物館には人の影も形も無い。既に避難した後だ。
その博物館には運び出されてしまったが例のドールの説明版があった。
美汐はそれを写真に収めて任務完了である。
美汐はこんな任務ならわざわざドールで紛れ込む事は無いと思っている。
が、上官の命令である。しぶしぶ従っていた。
そして前回と同じ機体、ファントムに乗り込む。
前回とは違い、レーダーを積み、手にはロッドを持っている。
そのまま、機体を動かして、元来た道を辿り始めた。
上官である久瀬が陽動を引き受けてくれているので、簡単に侵入脱出が出来る。
ふと、目を落とすと白旗らしき物を持ったボードがこちらに近づいてくる。
美汐はそれを見て目を疑った。
「……真琴?」
もう一度落ち着いてから、それを見る。
特徴的な髪型。間違いなく真琴だった。美汐は慌てて機体を停止させて降りた。
祐一は降りてきた美汐の前でボードを止める。
美汐の顔は険しい。そして、祐一を睨んでいた。
「話し合いに降りてきてくれたのかな?」
降りてきた美汐にそう祐一は切り出した。
美汐は険しい顔のまま祐一に答える。
「要求は何ですか?」
「このままドールを引き上げてくれれば、真琴は引き渡す。街と人に被害を出さない事が条件だ」
「その保証はあるのですか?」
美汐は冷たい声で祐一に対応する。
祐一はさも慣れたという声でそれを受け流した。
「俺が責任を持ってこいつでお前に付いて行く。街を離れたら、真琴をお前に引き渡す」
「私があなたを殺すかもしれませんよ?」
「駄目! 美汐やめて! 祐一は真琴を守ってくれたの! 祐一は何も悪くないんだから!」
真琴が叫んでいた。そんな真琴を見て美汐は戸惑う。
「真琴?」
「それは無いだろ。だって、あんたもこいつも良いやつみたいだしな。それに俺一人だ。何も出来ないぞ」
真琴を見てから、美汐は祐一を見た。
そして、もう一度、真琴を見る。
真琴は美汐の眼を見て頷いていた。
「解りました。信じます」
「それに、たとえ白旗をあげていてもドールから降りたりしないだろ? お人よし以外はな」
祐一は意地の悪い微笑みを浮かべながら美汐を見る。
美汐は顔を赤くしながら、ドールに乗り込んでいく。
ドールに乗り込んだときに通信を発した。
「影から太陽へ。作戦目的達成。加えて目標のおおよその現在地を特定。これより、ルート17で帰還します」
『こちら太陽。了解した。こちらはルート39で帰還する』
そのまま、ドールを走らせる。足についているローラーに切り換えて滑るように走る。
祐一は、ドールの出っ張りにロープを貼り付けて真琴と自分の体をそれで結びつけた。
走り始めて街から出て郊外に差し掛かったとき、ドールは止まるそぶりを見せた。
祐一は緩やかに減速して、美汐の操るドールにぶつからないように注意を払う。
完全にドールが止まり、美汐が再び降りてきた。
「約束です。真琴を引き渡してもらえますか?」
「あぁ、解ってる。真琴、約束してくれ。もう関係ない人を巻き込むのはやめてくれ」
「あぅ。わかったわよう……」
祐一は真琴の返答に満足して真琴を美汐の方に歩かせた。その顔は微笑んでいる。
「美汐とかいったか? あんたは、真琴を守ってやってくれ。機体を失ってしまっているから、多分、責められるだろう」
「分かっています。私は真琴の親友ですから」
「そうか、良かった。真琴に美汐、元気でな」
祐一は嬉しそうに真琴と美汐を見た後にボードに足を固定した。
そしてボードのスイッチを入れる。
そのまま、祐一はボードに乗ってもと来た道を引き返した。
真琴と美汐はそれが見えなくなるまで見送っていた。
「不思議な人でしたね。あの人はなんていう名前なんですか?」
「相沢祐一だって」
真琴と美汐はドールに乗り込んで、基地に帰還するために行動を始めた。途中、通信が入った。
『太陽より影へ。沢渡少尉のみ、消息が不明』
「影より太陽へ。沢渡少尉の身柄はこちらで確保しました。安心してください」
『了解。基地でお会いしましょう』
そして通信が切れる。真琴は不思議そうな顔で美汐を見る。美汐は笑って言った。
「相沢さんに感謝しないといけないですね」
「うん。祐一に感謝しないといけないね」
基地に帰る途中で、真琴と美汐は不思議な人物であった相沢祐一について話し合った。
To the next stage
あとがき
とりあえず、あゆと石橋先生の登場です。
まだ、活躍していない人たちが多々いますが、待ってください。
久瀬さんが登場していないのに作戦を指揮するという面白い事態になってしまいました。
文中にちょっと出ていますが、本人は出てきていませんから。
登場とは言わないですよね?
ちなみに久瀬さんは指示だけで直接戦闘には参加していません。そんな設定です。
管理人の感想
ゆーろさんからSSを頂きました。
投稿としては今月初ですね。
石橋とあゆが出ましたが、それは置いといて。
作中で祐一がリボルバーでドールに向かってますが、それってどうなのかなと。
あゆの腕がやばかったら、あっさり死ぬ可能性もありますよねぇ。
若さ故の無謀さかも。
真琴&美汐と知り合った事で、あっちにも祐一の名前が知れるかもしれませんね。
軍人としては、美汐が逆に祐一を持ち帰ったりしてみれば面白かったかも。
あっさり見逃したとこが甘いなと思ったりする、思考が捻くれてる管理人です。(苦笑
個人的には通信を受けた女性が気になったり。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSかメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)