あゆと石橋は結局、秋子にお世話になることになった。
有夏が、握り拳を作って脅したという事はこの際無視だ。
石橋もあゆの二人とも、首をがくがく縦に振って了承してくれた。
あゆ達は同じ寄宿舎の一階に住む事になった。
もちろん部屋は別々である。加えてあゆは一緒の職場で働く事になった。
石橋はたいやき屋を続けるという。さて、襲撃から1日が経った。
秋子の部隊つまり、特殊部隊は情報収集だけで、襲撃者の撃退には出ていなかったという。
出撃しようとした所、警備隊から拒否されたらしい。
ともかく異常事態に何も出来なかったという感じで職場の雰囲気は重たい。
今は通称美坂チーム+αで、話をしている。
会話と言っても昨日わかった事ぐらい。回収できたドールについてなどだ。
意外にもあゆはすんなりと受け入れてもらえた。どうやら名雪達とは話が合うらしい。
そこへ、メカニックに案内されて来た、青い髪のツインテールの女性が現れた。
「あ、あの! 北川少尉はいらっしゃいますか!?」
かなり緊張した声で、部屋の中に入ってくる。
皆は呆気に取られてそれを見ていた。入ってきた女性は心持、顔が赤い。
「あの、どちら様で、どうしたんですか?」
不思議そうな顔をした祐夏がその女性に声をかけた。
皆の視線が女性に集まる。女性はあたふたし始めた。
「あ、七瀬瑠奈です。昨日、北川少尉に助けていただいて、その御礼に来たのですが……」
北川は何の事だかさっぱりだという顔をする。
祐一はそれに肘鉄をいれた。そして後で説明すると北川にアイコンタクトをする。
いきなり入ってきた女性には気が付かれない様に北川は祐一に判ったよと、アイコンタクトを返した。
「北川は俺だ。もしかして昨日の?」
「はい!覚えてくれてて嬉しいです! 昨日助けてもらった、Nドールに乗っていたものです!風邪は治ったんですね。良かった……」
「あぁ、いや、大した事してないし」
顔に少しの困惑を浮かべながら北川は瑠奈を見る。
瑠奈の視線は恋する乙女のそれだった。
「生身でドールに立ち向かうなんて私には出来ません。あの時は助けていただいて本当にありがとうございました」
北川に向かって瑠奈は頭を下げた。北川ひたすら困惑する。
「あ、え、無事で何よりだよ」
「あ、あの。また、お会いしてもらえますか?」
「え? 別にかまわないけど。こんな俺でかまわないなら」
「……ヤッタ!」
聞き取れないくらいの小さな声でガッツポーズを決めた。
その後に、顔を赤くして、失礼しました。また来ます。と言って瑠奈は出て行った。
「さて、説明してもらおうか相沢」
北川は祐一に向かう。祐一は、昨日起こった事を説明した。
あゆ以外の皆が呆れている。そんな無茶よくしたなと。
「それにしても、北川君にも春が来たのね」
「へぇ〜北川君にも春が来たんだ〜」
「良かったですね。北川さん」
「祐夏には良く分からないや」
「何だか、大変だね」
香里達女性陣が意地悪い笑顔を浮かべながら北川を見る。
北川は満更でも無さそうな顔をしていた。
「これで、自分がやってたら文句は無いんだけどな……」
「勝手に名前を借りたのは謝るよ」
「いや、別に良い。だって正直に名前を言う事は拙いだろ? そのくらい俺だってわかってるからな」
「ありがたい。今度は遠慮無く借りれる」
「あ〜、でも次は勘弁してくれ。今回のこれは名前を貸した代償と思っておくよ。言い訳しても聞いてくれ無さそうだしな」
そのまま、わいわい雑談が始まった。中心は北川の春についてだった。
結局、真面目だった議題は跡形も無くなくなってしまう。
「じゃあ次、名前を借りるときは香里の名前でも借りようかな?」
なんて事を真面目な顔で祐一は小声で言ったりする。
最も次があるとは思えないがその顔は真剣だ。
「今度も北川君の名前にしたほうが良いよ。祐一君」
その声が聞こえていたあゆは祐一にそう忠告した。
そうでもないと隣に座っている香里が爆発しそうだった。
「そうか?」
「うん。絶対」
「ならそうしておこう」
あゆは心持安心しながらその会話を打ち切った。
こんな会話をしていたら、身が持たないと思っていた。
同じ時刻の隊長室。有夏は顔を怒らせていた。
秋子は困った顔をしていた。
「私はこれには反対だ」
「でも、姉さん。これは首脳部からの通告です。無理に撥ね付けると何が起こるか解りません」
「しかしだな……あの機体は不吉すぎる」
「私だって嫌ですが、こればっかりはどうにもなりません……」
秋子は顔を曇らせる。有夏も顔を曇らせていた。
「しょうがない。祐一には私から言おう。それと条件がある」
「姉さん。何でしょうか?」
「一つ目に電源は外部から取り非常事態が起きたらそれを即座に切る事」
「それは私がどうにかします」
「二つ目は辺りの建物の警護を秋子の部隊ですることだ。それが出来なければ私は頷けん」
「解りました。私が掛け合います」
お互いに曇りきった顔だ。
特に有夏は苦渋の選択をしている。
「出来れば祐一にはもうCROSSには関わって欲しくないのだが、しょうがないのか……」
ポツリと呟いてから、有夏が隊長室を後にした。
残された秋子は嫌な予感に囚われていた。
翌日。祐一、栞、秋子、名雪の4人は研究室のドール開発部門に来ていた。
ドール開発部門の研究室の敷地は広い。
周りには何も無いといった方が良いだろう。
もし爆発事故が起きたとしても被害を回りに出さないための処置だった。
その敷地の中にドーム状の建物がある。
4人はそのドーム上の建物に入る。大きな建物で、ドールの格闘技場みたいな感じの建物だ。
ドーム状の大きな建物の中に、一体ぽつんとドールが立っている。
YA−04−ベルセルクだ。
「本当にあれに乗るんですか? いくら母さんの頼みでも気乗りがしないのですが」
「申し訳ありません。これでも、頑張ったんです。祐一さん」
「そんな顔されたら、反対できないじゃないですか……」
秋子の顔は本当に申し訳無さそうだ。
名雪と栞は黙っている。二人とも嫌な予感がしていた。
研究室の中から白衣の人物が現れた。
祐一はこの人物に何故だか知らないが反感を覚えたが、顔には出さなかった。
「ようこそ、よく来てくれました」
「こちらの条件を飲んでいただく条件でこの起動テストをします。それは解っていますね」
「もちろん。解っていますよ。流石に大事な甥っ子さんがあれに乗るのですから。そのくらいの妥協はします」
祐一は何故かこの人物はあまり好きになれない部類だと再認識した。
「ねぇ、祐一。大丈夫だよね?」
「解らない。でも、最善は尽くすさ」
「……でも、ちゃんと帰ってきてね」
「あぁ、その位なら、約束するよ」
名雪は心配な顔で祐一の顔を見上げる。
祐一はそれに笑顔で答えて、他の研究員に連れられてベルセルクの元へ行った。
残された3人はそのまま、コントロールルームに歩いていく。
コントロールルームに到着すると秋子がマイクで、祐一と通信をした。
「祐一さん。問題ありませんか?」
『まだ起動もしていませんからね。ともかく何が有っても知りませんよ』
「大丈夫です。任せてください」
名雪と栞はベルセルクから送られてくるデータを見ている。
二人は秋子の視線を受けて頷いた。
「それでは、起動を開始してください」
『解りました』
起動を開始してから、栞が些細な事を疑問視した。
「あれ? CROSSが起動するときは確か、CROSSへようこそだったはずです」
送られてくるデータを見る。
確かに【CROSS起動】 となっていて、栞という事が食い違っている。
「え? そうなの? じゃあ何でだろうね?」
名雪が不思議な事があるもんだみたいな顔をする。
突然、ディザスターの色が変り始めた。
色が変っているというのは正確には間違いだ。
装甲が入れ替わっているというのが正確なところだった。
「祐一さん!? 応答してください!?」
秋子が血相を変えている。祐一からの応答が途絶えていた。
代わりに弱弱しく何かを呟く声が聞こえてくる。
秋子は祐一に何かが起こったと考えて叫んだ。
「起動を中止してください!」
弱弱しい呟きは怨嗟と懺悔の声に変りつつある。
決定的に拙い予感がした。
直後に耳を劈く、あまりにも嫌な叫び声。
「何を言っているのですか!?」
秋子の声に反応したのは出迎えた研究員だった。結局、ここでいざこざになった。
その間に、ベルセルクがコントロールルームの方へ向けて歩いてきている。
秋子は、マイクとイヤホンを外しつつ、研究員に見切りをつけた。
「なんて頭が固いの! 名雪に栞ちゃん! 避難します! ついてきなさい!」
「頭が固いのはあなただ!」
血相を変えた秋子の一言に、栞と名雪は作業を投げ出してすぐに部屋を飛び出た。
秋子もそれに続く。秋子が部屋を出た瞬間に、そこに腕が突き込まれた。
秋子達を出迎えたあの研究員はベルセルクの腕に吹き飛ばされてゴムマリのように壁に叩きつけられていた。
破壊する音がずっと続いている。秋子達は後ろを振り向かないでそのまま走り続けた。
ベルセルクが起動するちょっと前。
祐一はベルセルクのコクピットに乗り込んでいた。
手と目には既にトレーサーとアイモニターがつけてある。
祐一は渋い顔をしているが、アイモニターでその表情は分からない。
秋子から通信が入った。
『祐一さん。問題ありませんか?』
「まだ起動もしていませんからね。ともかく何が有っても知りませんよ」
『大丈夫です。任せてください』
もしここで、祐一がベルセルクを降りていたらまた違った結果になったであろう。
しかし、祐一はその声に安心しながらコクピットの扉を閉じた。
そして、淡い青の光がモニターに灯った。
【CROSS起動】
さすがに2回目とあって、頭痛が祐一を襲う事は無かった。
代わりに、目の前には見慣れない光景が流れていく。
(おかしい。何だこれは……)
小さい子供が白衣を着たい大勢に囲まれている。
囲まれた小さな子供は泣いているようだった。
祐一にはその小さな子供が他人のようには見えない。
むしろあれは自分なのでは? と言う思いを必死で否定し続けた。
あれは自分であると、心の中で解ってしまった。
祐一にはいろいろな光景がどんどん流れ込んでくる。
「何だこれは? 白衣を着た人たちに、俺が何かに繋がれてる?」
『イタイ、何で、何で?』
「あれは俺なのか? いや違う……違うんだ……」
『一人は嫌……もう、嫌。何故、みんな僕をいじめるの?』
「やめてくれ! 俺は、そんなもの見たくない! やめてくれ、やめてくれよ……」
『どうして? どうして? どうして?』
「俺じゃないんだ……そうだろ……」
『ヤラレタラ、ヤリカエシテ、イインダヨネ? ジャナイト、ボク、シンジャウヨ?』
「あぁ……」
『君達はどうするの? 僕と来る? そう……分かったよ……ここで終わりにしてあげる。』
「俺は……俺は……」
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』
「違う……違うんだ! そんな事をしたかったわけじゃない!」
『力の無い僕を許して……』
秋子が必死で祐一に問いかけている。
しかし、それは祐一の耳には届かなかった。
「……やり返さなきゃ……俺は……殺される……」
祐一は意識を見失っている。
秋子の必死な呼びかけは、祐一には届かなかった。
意識の無いのに機体を動かすべく体は勝手に動いた。
ベルセルクを誰かがコントロールルームに向けて動かし始めた。
コントロールルームに無造作に腕を突き入れる。
そして、その中身が全て壊れるまで腕をむちゃくちゃに動かした。
同じ時刻、外に居た秋子の部隊。
香里、北川、有夏、祐夏、あゆはそれぞれのドールに乗って起動実験をするドームを見ていた。
あゆはCROSSに対する適正があったが、Hドールの調達がまだなので、急遽Nドールで警備に加わっていた。
その腕には大型のライフルを持っている。
それ以外にも警備隊のドールが何機かいる。
ふと、中からの通信が途絶えた。有夏はそれを危機として受け取っていた。
「中からの通信が途絶えた。これからの指揮は私が執る。いいな?」
有夏はHドールに3人に通信を入れた。
真っ先に答えたのは祐夏だった。続いてあゆだった。
「祐夏は文句無いよ、母さん」
「僕も。有夏さん」
「ちょっと待ってください。有夏さん! 理由は何ですか!?」
「私の勘、じゃ駄目か?」
「でも!「相沢の母さん。指示をください」」
香里の通信を遮って北川が有夏に通信を入れた。
「解った。あゆと北川は狙撃地点を選んでそこに待機。機体が外に出てきたら自分の判断で狙撃しろ。」
「「了解(したよ)」」
北川はアルテミスを動かして狙撃地点(といっても距離を開けるだけだが)を探して歩き始めた。
「祐夏、香里、良いか出てくるやつと格闘戦をしようと思うな」
「それも勘ですか?」
やけに刺々しい香里の対応。
しかし、香里も有夏の指示に従うようだ。
「あぁ、そうだ」
「でも私には距離を置いて戦う事は出来ませんよ。武器が格闘武器だけですから……」
「それなら大丈夫だ。私の武器を使えば良い」
マントの中からショットガンを一丁取り出してアテナに渡す。
有夏自身も両腕に自動拳銃を握った。
香里は受け取っていながらも、かなり不思議な物を見た気持ちで一杯だった。
あのマントの下には一体どれだけの武器があるのだろうと。
「使い方はわかるな? 香里」
「え? あ、解ります。そんなに心配しないでください」
「そうか、なら問題ない。各機展開。絶対にやつと格闘戦にだけは持ち込まれるなよ」
有夏は終始、口を酸っぱくしてその事を注意した。
各機が、研究室から距離をとる。
その周りにいるのは警備隊のNドールくらいだ。
しかし、そのドール達は有夏達の行動を不思議な目で見ていた。
建物から距離を置いて少ししてから、建物の中から破壊音が聞こえてくる。
異変を感じ取った周りにいるNドール達も動き始めた。
「Nドールは、私達の後ろにいたほうが良い。後ろから援護射撃をしてくれるとありがたい」
有夏がNドールの隊長らしきやつに通信を入れる。
反応はすぐに返ってきた。
「従来なら拒否したいのだが、あの機体だけは別だ。素直に従う。各機、展開しろ」
流石にベルセルクが、侵入してきたドールを原形を留めないまで破壊している事は知っていた。
最悪の事態を想定しているので、警備隊のメンバーも慎重な判断をしている。
「協力感謝する」
「こちらこそ」
ドーム上の建物の搬入口前に立っているのは有夏達3機。
その後、少し離れてNドールが4機、展開した。
あゆと北川はかなり離れた場所に陣取っていつでも狙撃できる格好で居る。
建物中からの破壊音は収っている。
不気味な沈黙が辺りを支配している。
気持ちが悪いほどの静寂。
(嫌な静寂だ……杞憂なら嬉しいが、そうもいかないだろうな)
有夏の思った通りに建物の搬入口がこじ開けられた。
こじ開けられた口の中から一気に黒い機体が飛び出してくる。
「やつを逃すな!」
3機、同時に銃が火を噴いた。遅れてNドールの4機も発砲する。
それを物ともせずに黒い機体は外に這い出てきた。
その黒い塊は真っ先に香里の機体に向かう。
ガォン!
北川の狙撃が始まった。狙撃は黒い機体の脚部にあたり、それはバランスを崩した。
しかし、脚部を破壊するには至らない。
最も攻撃力のある北川のライフルでも装甲の上からでは黒い機体を破壊できない。
バランスを崩しながら転がり目標を変えたようだ。
今度は有夏の機体に向かってバランスを立て直した。
ダァァァン!
あゆの狙撃も始まった。あゆの狙撃は黒い機体の頭を掠めるように外れた。
「うぐぅ! 動きが速過ぎるよ!!」
その動きはさながら、獣のような動きで同じHドールでもあんな動きは出来ないものだった。
「あの時と同じ動き方! だからあれに関わらせるのは嫌だったんだ!」
悪態をつきながら有夏は自機を操る。
誰もが、無我夢中で弾丸を撃ち込む。
当たりはするものの黒い機体の勢いは止まらない。
「く! やはり火力が足りない!」
今まで動いて機体を捻らせ、急いで黒い機体の一撃を避ける為に大きくサイドステップをする。
黒い機体の一撃はサイレントの右肩をかする。
それが右肩の装甲を削った。マントにも大きな裂け目を入れる。
そのまま黒い機体から距離を離そうと銃を乱射しながら動き回る。
黒い機体には、周りからの銃弾が雨霰と降り注いでいた。
それでもその黒い機体の勢いは止まらない。
有夏が一撃をもらう事を覚悟したとき、目の前の黒い機体は崩れ落ちた。
「ふぅ……ようやくエネルギー切れか……助かった」
有夏は額に浮かんだ嫌な汗を手でぬぐう。
そのかいた汗に気がついて、くそ! と小さな声で毒づいていた。
皆が呆然とその機体を見る。崩れ落ちた機体は装甲が黒のままだ。装甲がいたるところ凹んでいる。
凹んでいるだけで、エネルギーが補給されれば、また活動するだろう。
しかし、装甲が凹んでいるためにもとに戻れない、というわけのようだ。
動く事はもう無いと考えられるが、もしかすると動くかもしれないという恐れから誰も黒い機体に近づこうとしない。
『これって止まったのよね?』
『香里さん。動力反応は消えていますけど……近づきたいですか?』
『私だって嫌よ』
『ですよね』
有夏は中に乗っているのは祐一だぞ? という思いでその香里と祐夏の通信を黙って聞いていた。
「相沢のお母さん。どう判断しますか?」
北川から有夏に向かって通信が入ってきた。有夏は返答に困った。
「今は、秋子達の安否を確認してからだな。それまであれには近づかない方が良い」
「解りました」
皆が遠巻きになって黒い機体を見守る。
建物の人のほうの入り口から3人組が出てきた。
通信が出来るだろうと3人組に向けて通信を入れる。
そのうちの一人が携帯無線を取り出して返事をしてくれる。
「秋子か?」
『姉さん達は無事でしたか?』
「こっちは無事だ。被害は特に出ていない。そっちは?」
『こっち研究室が壊滅しています』
「やはりか……」
有夏は思っていた通りの反応にため息をついた。
(いや、まだあの時よりもましか……まだな)
『姉さん。こちらからあの機体のコクピットをこじ開けます。もし動くようなら、躊躇わずに撃ってください』
「解った。各機に通達、もし黒いのが動く気配を見せたら躊躇わずに発砲しろ」
人が一人、黒い機体に近づいていく。
秋子だろう。黒い機体はピクリとも動かずにその場にいた。
秋子が気体のコクピットに取りついた時、ドールに乗る人間の緊張が最高潮に高まった。
機体のコクピットが開いてようやく、ドールに乗っていた皆に安心できる空気が流れる。
警備隊のNドールも皆が機体から降りて、秋子の下に集まる。
秋子のその肩には祐一が死んだようにもたれ掛っていた。
その顔は蒼白で、そんな顔は見たことの無い。
祐一を軽く肩で支えている秋子に有夏が話しかけた。
「秋子、この原因は何だと思う?」
それに答えたのは栞だった。
意外そうにみなの視線が集まる。
「あの、確実な原因だとはいえないのですが、たぶんCROSSのバージョンが古かったのではないかと思うんです」
それに咬みついたのは姉である香里だった。
「それってどういう意味なの?」
「起動するときの表示が違ったんですよ。普通なら、CROSSへようこそって表示されるじゃないですか」
栞は事細かに説明し始めた。
秋子は状況がわかっているので救急車を呼んでいる。
「それで、祐一さんは何らかの原因でのっとられたと思うんです」
「そんな機械が人を操るなんて事が出来るわけないじゃない。」
「でも……」
皆が疑問の視線を栞に投げかけた。
その意見は聞けないというわけである。
「さっきデータを拾ってきたのですが、Mクラスなんですよ。祐一さんの起動させたクラスは、普段ならありえないと思うんです」
「そんなクラス有るわけ無いと思うわ。一番高いクラスでもA+よ?」
その二人のやり取りを聞きながら、あゆは暗い顔をして祐一の顔を見ていた。
「だから乗っ取られてもおかしくないんです。それに、初期のCROSSって絶対数が少ない割りに事故が多いって噂ですし」
「ともかく、その論議はしまいだ。そういう事は専門家に任せよう」
有夏の意見に、皆が賛成した。
何台もの救急車が到着して祐一が運ばれる。他の隊員が、建物の中に入っていった。
有夏と祐夏がそれに付き添った。それに乗り込もうとする名雪たちを押しとどめた。
「後で報告するから。肉親の特権ぐらい噛み締めさせろ」
「え? でも、でも、祐一が心配なんだよ……」
「何、すぐに気がつくさ。大丈夫だろ?」
何ともいえない表情で、名雪が有夏を見つめるが名雪はその場に残った。
そのまま、救急車は軍の病院に向かった。
残ったメンバーはというと、帰還の準備をしていた。
次々といろんな物や人物がここに集まってきていた。
事故処理の人、救急隊の隊員、調査隊の人、他の研究室の人など。
秋子は事情聴取に残り、名雪と栞は後で書類を提出する事を取り付けて格納庫に帰れる事になった。
各ドールのパイロット達は映像データを提出する事を義務付けられてその場から解放された。
To the next stage
あとがき
えー賛否両論有ると思いますが、何となくで新しいキャラを作ってしまいました……
場所的にはONEの七瀬さんの従妹と言うことで設定しています。
それと、ちょっと展開を変えてと言いますか先に祐一さんの過去のお話しをしようと思いました。
そう言う訳で、こんな意味不明な展開に。後2、3回こんな感じです。
後は、実力不足です。戦闘シーンももっと迫力が有っても良いのになんて思います。
では、ここまで読んでいただいた方に感謝します。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんからSSを頂きました。
週刊で上げてもらえると助かりますねぇ。
祐一暴走な話。
今回かなり人殺しちゃってるのではないでしょうか……。
情状酌量の余地は多分にありますが、祐一はどう思うのか。
さすがにドールに殴られたら死にます、よね?
戦闘シーンはもう少し比喩表現を入れてみるといいかも?
過去形で終わる文が連続しているのも気になりました。
新キャラは、まだノーコメントで。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はメールかBBSまで。