~なぁ、秋子。昔を思い出さないか? ~あら、やだ姉さん。私達まだまだ若いですよ。~そうか。そうだったな~ とある姉妹の会話。 ~祐一君、全てを思い出しちゃったんだね……~ 月宮あゆ、祐一の身を案じて。 ~俺は気が触れてなんかいない! 何故、拘束具を付けられなくてはいけないんだ!~ 相沢祐一起きた時に拘束具を引きちぎりながら。
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神の居ないこの世界で |
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結局、ベルセルクが暴れた被害は、死者2、意識不明の重体3名、ケガ人多数。 ドールの研究室は壊滅。ベルセルクの暴れた研究所の復旧のめども立たない。 新しく研究所を作った方が早いのではないかと囁かれていた。 死者が出たが、秋子の警告を無視したとあって祐一は罪に問われないらしい。 生き残った研究員からも、警告を無視した上司にも非があるという証言が取れた。 これは首脳部からの圧力が有ったとか無かったとか。 その祐一は、病院に入院してから1週間経つが、一向に目を覚ます事は無かった。 顔色こそ元に戻って入るが、腕に点滴が付けられていかにも病人であるという感じの姿だ。 祐一が入院しているのは意識が戻らない事もあるが、それに加えて体中に出来た内出血による所も大きい。 何故、体中に内出血が有るのは原因が不明。 検査入院に加えて、原因究明も兼ねて精密検査を受けたが、原因は分からず仕舞いになっている。 入院しているのだから、服装も入院者の証である白装束にその上に拘束具が付けられていた。 もしかしてという事を天秤にかけて起きても抵抗できないようにという配慮である。 祐一の寝顔は安らかで、普段なら好意を持っている人の顔だという感じで見とれるかもしれない。 しかし、この場所にはそんな余裕は無かった。 祐一以外の人は肉体的には疲れていないが、精神的にまいっている人たちが多くいた。 名雪もそのうちの一人である。 あゆだって精神的にまいっているが、顔には出ていない。 ちなみに最も酷いのは妹の祐夏だった。 「ねぇ、あゆちゃん。祐一、目を覚ますのいつかな?」 見舞いに来ていた名雪とあゆ。 この1週間、2人1組で夕方にお見舞いに来る事になっていた。 昨日は美坂姉妹だった。 「早く目が覚めると良いよね……」 あゆも名雪も暗い顔をしている。 今にも起きそうな祐一を見て二人揃ってため息をついた。 名雪は病室の簡単な掃除をして、あゆは花瓶の水を換えに行った。 そして戻ってきてから二人で祐一に話しかける。 今日の一日こんな事があってという他愛も無い事から始まって、私こんなドジしちゃったとか、微笑ましい話題が続く。 それは目覚めない祐一に対する遠回しの文句のような響きが若干混じっていた。 もちろん祐一の返事は無い。 祐一が起きることなく、面会時間ぎりぎりになって二人は病室を後にした。 その日の夜半。 有夏に病院から連絡が入った。祐一が目を覚ましたと。 しかし、錯乱しているらしく手が付けれないという内容だった。 有夏、秋子、香里、北川、名雪、あゆ、栞、祐夏は揃って病院に駆けつけた。 祐一の病室からはなにやら声が聞こえてくる。 医者に対した声ではなくて漠然とした怒りみたいな物が含まれる言葉で、医者はひたすらその言葉に戸惑っている感じだ。 皆が有夏を先頭にして病室に入った。 病室に医師は助かったという顔をしてから、有夏に一言、後を頼みますと言って出て行った。 「来ないでくれ」 祐一は皆に向かってそう言った。 明らかな拒絶の言葉だった。 「……祐一?」 名雪は戸惑って、呆然と祐一を見つめる。 あゆは何かを悟ったかのような、辛い顔をしていた。 「名雪達が知っているほど、俺は良い人間じゃない……」 有夏を睨みながら、祐一は血を吐くような声を上げている。 周りは静かにそれを傍観するしかなかった。 「それはどう言う事だ。祐一」 「母さんは知っているんだろ。俺が化物だって事を! 作られた存在だって事を!!」 その言葉に誰もが「え?」という言葉を口にした。 ただ、有夏だけが冷静に祐一を見ていた。 「何で、今まで忘れていたんだろうな。こんな危ないのが、みんなと一緒に居て良いわけないよな……」 「まて!」 有夏の制止を振り切って、祐一は窓ガラスを突き破って窓から外に飛び降りた。 祐一は外に飛び出て皆の視界から外れた瞬間に雨どいのパイプを握って落下する速度を落として地面に着地する。 病室に残った人たちにしてみれば、いきなり窓から飛び降りたように見えるだろう。 事実それを見た皆が飛び降り自殺を図ったと思い、呆然としている。 「お姉ちゃん……ここ3階ですよね?」 栞が今、思った事を口にする。 慌てて香里と名雪が窓に駆け寄って下を覗き見た。 しかし下には誰も居ない。足跡だけが残っていた。 「嘘でしょ? ここ3階よ?」 「何で誰も下に居ないの? 祐一が飛び降りたでしょ?」 「まじか?」 北川も下を覗き見た。二人は何故、祐一にそん事ができるのかわからない。 秋子は追おうとしたがそれは有夏に行く手を遮られた。 行く手を遮られた秋子は、険しい顔で有夏に詰め寄る。 秋子の出す声は、微かに震えている。 「姉さん。祐一さんが言っていたことは本当ですか?」 「はぁ、だから祐一の奴をCROSSに関わらせるのが嫌だったんだ。ともかく、ここは狭い。話を聞きたい奴はついて来い」 「でも、祐一さんを追わなくても良いのですか!?」 焦った声が諦めの混じった声に打ち消される。 「今の奴を追うのは無理だ。それに話を聞いてからでも遅くはあるまい」 有夏はそのまま病室に出て行く。 皆は黙ってついていった。あゆと祐夏は終始無言だった。 秋子は、騒ぎに駆けつけてきた医者に事情を説明して病院を後にした。 有夏は自分の部屋のリビングに来ていた。ソファーにどっかりと座った。 皆も黙って自分の居場所を作る。 さりげなく、石橋も来ている。どうやらあゆが呼んだらしい。 あぁ、面倒だといわんばかりの表情で有夏は口を開く。 「秋子は知っていると思うが、皆はサイレンスという集団を知っているか?」 それに反応したのは北川だった。 香里、名雪、栞、祐夏は良く分からない顔である。 「伝説の傭兵団じゃないですか!?」 「伝説というのは余計だがな」 「え?」 「続けるぞ。その集団は私に、そこにいる石橋とあゆの母親、現Air会長の晴子、現ONE社長の由紀子の5人組だった」 「それと祐一さんがどんな関係が有るのですか? 姉さん」 話の先を知りたい秋子は話を急かした。 しかし、有夏は話をゆっくりとしか話さない。 「まぁ、慌てるな物事には順序と言うものがある。まず、祐一は私の子供ではない」 「え!? お兄ちゃんが!?」 それに絶句をしたのは祐夏だった。 あゆ、石橋以外の皆の視線が祐夏に集まる。 「祐夏は覚えていないか? 7年前の出来事を。私が久しぶりに会ったときにつれていた子供を」 「え? え? だって母さんは体が弱くて親類に預けていたお前の兄さんだって……」 思い出している事がどんどん不安になっていくのか、祐夏の声はだんだんと小さくなっていく。 「ともかく、話を聞け」 祐夏は酷く混乱している。 その話を無理やり断ち切って、有夏は昔話を始めた。 「あれは8年前の事だった。私の親友だった川澄冬葵から非人道的な研究所があるという密告を受けた」 石橋がなにやら頷いている。 有夏はそれを無視して話し続けた。 「それを受けた頃、中央政府に雇われた傭兵だった。エリアOにある、相沢祐治の研究所でそれが行なわれていると報告したわけだ」 嫌な物を思い出すかのように顔を顰めながら有夏は話を続ける。 「私、月宮美晴、石橋彰雄、神尾晴子、小坂由紀子の5人、研究所についたときには既にそこは火の海だった。 そこには1機のドールと10才に満たない餓鬼しか生き残っていなかった。 他に生きているのもは居ないと思われるほどの場所でだった。 その中で、1人の餓鬼は炎の中で立ち尽くしていた。 感情を炎で焼き払ったかのように、その顔から表情は消えてた。 しかし、その眼からは涙があふれているんだ。 その光景は、かなり場違いなものに見えて、この子はこの場所に居てはいけない。 そう思ったさ。餓鬼がこっちに気がついたときの行動はすばやかった。 私達は駆け寄る時間も交渉する時間も与えられなかった。 すぐに武装の無いドールが起動し、あっという間に私達の乗ってきた機動車を破壊してしまった。 驚いた事に、ドールは動いているのが不思議なくらい壊れている。それでも、動いていた。 最初の動きに驚いたものの、こっちの武装は、19体のドールと戦争をするつもりだったので、準備は万端だったさ。 それが、その餓鬼の運の尽きだった。確かに餓鬼の運の尽きだった。しかしこっちの運のつきでもあった。 もし、この餓鬼と同じ動きをするのが、後18体出てきたら間違いなく、こっちが皆殺しにされていただろう。 撃っても、殆どの弾が当たらない。晴子と由紀子が、敵のNドールを奪う事を前提にしていた事もある。 なんと言う動きをするんだ! 新型OSのCROSSとかいうのを積んだド-ルは! と皆が悪態をついていた。 まるで生き物、いや、あれは生き物と言った方が良いだろう。まさに怪物だった。 ようやく、対装甲弾を一発当てる事が出来た。しかし、奴にはダメージがないように見える。 そうやって、19体のドールの為に用意した弾を半分消費してしまった。弾が当たらない。 はっきり言ってあれほどのドールの動きを見たことは無い。あのベルセルクとかいうの以外はな」 有夏が一言、その動きについて感想を入れる。ベルセルクに対峙したメンバーはその動きを想像していた。 「弾丸がぽつぽつ当たるようになったら、急にそのドールは動きを止めた。 機体から餓鬼が飛び出てどこかに走っていく。 それを追いかけようとして、嫌な予感がしんだ。 そして皆をその場にとどめた。その予感がなければ全滅していただろうな。 ドールが自爆したからだ。幸いこっちには人的な被害はなかった。 その餓鬼を追って、火の手の上がっている研究所の奥まで入って行く事になってな。 奥の道が狭くなっている所で、その餓鬼は立っていた。 その後ろの部屋は火の手が来ていない。特別な部屋なのか、構造上の安全な所かは判別が付かなかったな。 道は人が一人通れる位。あの餓鬼なら2人は通れるがこっちは大人。一人が通るしかない。 餓鬼の手には何も持っていなかった。しかし、餓鬼の意思はわかった。ここは通さない。と言う事はな。 私が、その餓鬼と戦った。なぜなら私がそのメンバーの中で、一番格闘戦で強かったからだ。 格闘は熾烈を極めた。はっきり言ってあれは人間の動きでは無かったからな。あれは一言で表せる事は出来ない。 ともかく、そいつから強烈な一撃を貰って私はその餓鬼を気絶させる事に成功したんだ」 有夏は一呼吸置いて、続きを話そうとする。 そこに石橋が割り込んだ。有夏は一瞬、不快な顔を示したが黙った。 「さて、その前にその研究所で行なわれていた事を説明した方が良いだろう。 その相沢祐治の研究所は、ドールと人間の完全なる一体化を目的として作られたもので、 このエリアにある研究所で完璧な破壊兵器を作り、それと融合する事が目的だった。 それとは別に機械兵器に生身で対抗出来る様にする部門もあったという話だ。 相沢祐治の研究所で行なわれていた研究とはあらゆる武器・物を使える兵士を育てて、 その後にドールの適正ある者に手を加えていき、最終的にドールと一体化させるというのが目的だったようだ。 CROSSの初期型はそこで開発されたと思って良い。元々CROSSはそのために開発されたのさ。」 言う事を言いきったのか、石橋が黙り込む。 有夏がさっきの話の続きを話し始めた。 「餓鬼は死んだように気絶していた。そいつを石橋と晴子と由紀子に任せて、私とあゆの母親はその部屋に踏み込んだ。 そこには一人の少女しか居なかった。そこにいるあゆだ。さて、私達は、その事を事実を歪めて報告。 自分達が壊滅させ、ドールと研究施設を焼き払ったと、被検体はその途中で全て自殺したと伝えた。 餓鬼・祐一は私が少女・あゆは月宮が引き取った。もちろん、引き取った事は報告はしなかった。 祐一に関しては私が引き取らざるおえない状況にあった。それが私の知る祐一の過去だ」 有夏の視線が、あゆに突き刺さる。 あゆは重たい口を開いた。 「それじゃあ、その前は僕が説明するよ。あそこでは2つ部門があったんだ。 一つは生身で機械兵器と対抗できる兵士を育成する部門。 もう一つが、ドールと融合する事を前提としてあらゆる兵器を使いこなす兵士を作る部門。 僕は前者で祐一君は後者だったんだ。 その詳しい事は後から知ったんだけどね。僕はその頃の記憶を忘れていないから……」 一旦、息を吐きその先を続けようとする。 石橋があゆの肩に手を乗せた。 しかし、あゆは首を振って先を話し始めた。 「祐一君のいた部門の事は良く分からない。でも、それが凄惨な場所だった事は判ったんだ。 被検体達つまりは僕達は一箇所で生活、いや違うね、生かされてた。 僕らの部門の被検体は生傷こそ絶えないけど、それも祐一君達が居た所よりもずっと良かった。 違いが解っちゃうんだよ。僕らはただ生きていたけど、あそこまで怯えてはいなかった。 あの人たちはすごい怯えてたんだよ。研究員に。そして教官に。 ある日、つまり研究所が全滅した日だけど、その日は責任者、つまり相沢祐治がいなかったんだ。 その日の夕方に物音がして、僕の前に祐一君が来たんだ。 そして言ったの。『僕と来る?』って。僕はうんって答えた。 外に出てびっくりしたよ。僕以外のみんな死んでるんだ。 祐一君は問いかけで死を望んだから殺してあげたって泣きそうな顔で言うんだ。 僕は黙って祐一君についていったよ。 ある部屋の前で祐一君が僕が戻ってくるまで扉を開けないでって言って出て行ったんだ。 その後、すぐに破壊音が続いて、3時間くらいかな? その位してから、気がついたら、母さんと有夏さんが部屋に入ってきたんだ」 あゆの後に素直の質問が有夏に飛ぶ。 それは秋子から出た質問だった。 「姉さん。そういえば何故祐一さんを引き取ったのですか?」 有夏は顔を顰める。その顰め方がいつもと違うので、何か有るなと秋子は感じていた。 「それはだな……」 有夏にしては歯切れが悪かった。 それを石橋が補足するように質問を答えた。 「それは俺たちにも問題があったんだ。坊主が目を覚ましたときに坊主の記憶がすっぽりと無くなっていたんだ」 「どういう事ですか?」 「研究室にいた頃の記憶、格闘等の戦闘に関する知識等がすっぽり無くなっていたんだ。 何処で生まれてどう生きてきたかも、何故こんな場所に居て何をしていたのかもな。 不思議な事に機械とか火器に関する知識は残っているのにな。全く不思議なもんだよ」 有夏にしては珍しく顔を赤くして黙っている。 あまり思い出したくないらしい。石橋は続ける。 「それを面白がった晴子が冗談でお母さんはあの部屋におるよって言ったんだ。そうして、部屋に入ったら有夏が目に入ったと」 皆がこの話についていけなかった。 要するに刷り込みが起こったと思えば良いのか? という顔が3人。 呆然としているのが3人。 有夏の顔の赤みが少し取れて、有夏がようやく口を開いた。 「あゆの話を美晴と聞いていたら、いきなり腰に抱きつかれてお母さんって言うんだあいつは。 そのときは何がなんだか解らなかったさ。私だって驚いた」 「そうだね。いきなり部屋に入ってきたと思ったら、有夏さんに抱きついてお母さん。お母さん。って言って泣き出すんだもん」 「本来なら施設に送るのが筋だろう? でも、お母さんと一緒じゃなきゃ嫌だとか言い出してな。……それで引き取ったんだよ」 ジト目で、秋子が有夏を見ている。有夏は秋子を手まねきで呼び寄る。そして耳打ちした。 「私だってそのときは引き取る気は無かったんだ! でもな、捨てられた子犬のような潤んだ目で駄々をこねられてみろ」 有夏に言われて、秋子はその情報と祐一の小さい頃を思い出して想像をスタートさせる。 「……無理ですね」 顔を心持、上気させながら秋子は耳打ちを返した。 それは部屋の全員に見られていた。二人は咳払いをして誤魔化した。 「それで、それをみていた美晴があゆを引き取りたいって言い始めたんだ」 「うん。あのときのお母さんの一言はすごく嬉しかったよ。もうお母さんはこの世に居ないけどね」 有夏がもう一度、咳払いをして話の筋を戻そうとした。 「さて、ここで祐一に関して選択肢が3つくらいある。1つはこのまま放置する」 「ちょっと待ってよ! 過去に何があっても、祐一は祐一でしょ?」 名雪が有夏の話に咬みついた。 有夏は迷惑そうな顔をする。 「名雪。人の話はちゃんと聞くもんだぞ。私は3つ位、選択肢があるといったんだ。人の話はちゃんと聞くもんだぞ……」 「う~。う~~。う~~~~」 「名雪。話が終わるまで黙っていてくれ」 納得がいかないが言っている事が正論だけに、名雪は唸り声を上げるにとどまった。 唸り声は小さくなったがまだ発していた。 有夏はそんな名雪を見て呆れ顔になる。 しかし話を途中で打ち切るわけにはいかないのでそのまま話を始める。 「話は途中で切れてしまったが、2つ目が説得して連れ戻す。3つ目は問答無用で連れ戻す。その位か?」 「そのくらいだろうな。ただし、坊主が抵抗すると考えると3つ目は考えない方が良い」 「どうしてかしら?」 香里はそれを聞いて真っ先に声を上げた。 北川は考え顔でそれを見ていた。どうやら祐一の実力を測りかねているらしい。 北川の目には少しだけ見た祐一の動きつまり、先日の手合わせのときの実力が本気には見えていなかった。 何せドールで追いかけた時のような動きの切れが全く無い。 それが北川の感想で、それが祐一の実力を測りかねている原因でもあった。 もちろん祐夏、栞、名雪には問答無用で連れ戻す力が無いためそれは考えていない。 黙ってそれを傍観している。 祐夏に関して言えば、銃を使えば連れ戻す事は出来るだろう。 ただそれは瀕死の重体でということになる。 「香里、お前はこの前におかしいと思わなかったのか? 祐一が私と対等に戦っていた事を」 「でも、有夏さんは勝ったじゃないですか?」 「勝ったんじゃない途中で止めたんだ。祐一は戦闘に関しての知識は全て失っている状態で私と引き分けれるんだぞ?」 有夏は香里に向かってため息を吐いた。 そして香里を真剣な目で見つめる。 「元々祐一に戦闘知識を教えたのは身の保身のためだ。壊す事に特化した戦闘術を思い出してみろ。下地がある分、性質が悪い」 「そんなのやってみないと解らないじゃないですか!」 「確かに解らない。でもな、それで命を賭けれるのか。それに記憶が無い状態でも私と似通ったものを持つあいつに勝てるのか?」 「そ、それは……」 有夏のその言葉に香里は息を飲む。 思ってもみなかったといえば嘘になるが、考えていなかったといえばそうなる。 「俺は、説得で無理なら相沢の好きにさせるのが良いと思う」 「私は無理やり説得してでも連れて帰ってくるんだから!」 「そうです! 祐一さんだってちゃんと話せば、解ってくれます!」 上から北川、名雪、栞の順である。香里は無言であった。 「さて、俺はどうしようかな? 有夏、どうすれば良い?」 「すまないが、彰雄には頼みごとがある。これを徹底的に洗ってもらえないか?」 そう言いながら有夏は石橋に紙切れを手渡した。 石橋はそれを見て一瞬、顔色を変えた。 「こりゃ、また厄介な。頑張ってみるが、成果が無くともあまり文句は言わないでくれよ?」 「解っている。しかし、彰雄の腕は一流だ。それで掴めないのならば諦めもつくさ」 「まぁ、この件は引き受けた。期待しないで待っていてくれ」 「あぁ、頼んだ」 「姉さん。一体何を頼んだんだのですか?」 「ん? 秘密」 やけにニタニタした顔で秋子に答える有夏。 それを不審そうにみる秋子だった。 「私は、問答無用で連れ戻すわ。まだ相沢君には借りがあるし」 「僕は祐一君に会ったら決めるよ。でも僕も連れ戻したいよ」 「お兄ちゃんと血は繋がって無くても、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん。だから絶対に連れ戻すよ。絶対に」 みなの決意を聞いて一安心したのか、有夏が軽く息を吐いた。 「そうか、なら個人自由に探してくれ。ただし、今夜から探すのは無しだ」 その有夏の言葉に誰もが、疑問の顔をする。 何故そんな事を言うのか理解できないという顔だ。 「まぁ、そんな顔するな。祐一だって馬鹿じゃない。今は混乱していると思うが、時間を置けば説得しやすいだろう?」 「……でも、早く見つけて連れ戻したいんだよ」 「名雪、その気持ちはありがたいが、それで話がこじれてもつまらないだろう? 祐一にも冷静になれる時間をやってくれないか?」 「……分かったよ……」 その言い分に名雪はしぶしぶ納得した。 他のメンバーも同様である。ただし、秋子だけは納得していないようだ。 名雪達が、部屋を出て休みに行ったときに残ったのは秋子と祐夏が部屋に残った。 祐夏が同じ部屋に残るのは理解できる。 何故なら、家族だから。秋子が残ったのは、先ほどの疑問を解決するためだ。 秋子は祐夏が自室に戻ったのを確認してから有夏に話しかける。 「姉さん。さっきの口ぶりでは祐一さんの居場所がわかっていそうな感じでしたが?」 「大体は解るが、詳しくは解らん」 有夏の言葉はそっけない。 しかし、秋子を驚かせるには十分だった。 「姉さん? 一体どういうことでしょうか?」 傍からみれば、微笑ましい姉妹の絵に見えるだろうが、周りの雰囲気はそうではなかった。 空気が冷たい。 「私は、あいつの母親だぞ? その位、解らないでどうする」 自信ありげな有夏の言葉に、秋子は、もし名雪が自分から出て行ったときは自分はそんな風に断言できるか不安になっていた。 「と言っても外れている方が多い。それに今の祐一は見つかったとしても話し合いにならないだろう」 「……そうですね。お互いに話し合いにならないでしょう」 「だからお互いに時間が必要になるんだ。落ち着ける時間がな」 そう言われて、秋子も自室へと戻っていく。 そして、落ち着かない夜が始まった。 To the next stage
あとがき 本当なら、祐一君の過去を書くはずが……書きかけのデータが無くなってしまって困った事になってしまいました。 そこでと言ったらおかしいのですが、新しく書き始めたら無くなる前よりも良いペースで書けてしまいました。 ただ、内容は……ちょっとあれかもしれません。 すいません!ともかく次に祐一君の過去を祐一君の視点で書きたいと思います。 ではがんばります。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんからSSを頂きました。
中々に悲惨な祐一の過去。 実験動物にされてたとかは結構あるんで、ここからどう発展させるかは作者さんの腕の見せ所でしょう。 まぁ悲惨な実験内容とかを書くわけにもいかないでしょうけどね。 このサイトが18禁にならない範囲で、1つよろしくお願いします。
私としては、祐一より大人メンバーの過去が気になったり。 有夏は相沢姓を名乗ってますが、祐治氏との関係とか。 どうも祐治氏は、作中から人非人的なイメージしか湧いてこないもので。 後は傭兵団の残りの女性。 二人は金持ちの縁者だったのかなぁ~とか。(会社のトップですし
黒一点の石橋は、それはそれは肩身が狭かったんでしょうな。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
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