模擬の試合が終わった後に、4人は大きな画面の前で名雪とあゆに出会った。
ちょうど、そこでは先ほどのタッグ戦の映像を別視点で見ている状態の映像が流れている。
「わ……すごいね」
「うぐぅ……あの動きなに?」
その場面はちょうど祐一が北川を仕留めた所だった。
何故だか色とりどりのペイントにまみれた二人が驚いている。
そのペイントはあゆはそうでもないが、名雪のほうは酷い。
これは新しいファッションか? と思えるくらいだ。
全身ペイントまみれの名雪と、人体の急所を外した所に結構な数のペイントをつけられているあゆ。
でも、この部屋に居た人にしてみれば、どんぐりの背比べだった。
「どちらかというと、あゆと名雪の格好の方が『すごいね』だな」
祐一が呟く。
『すごいね』の言葉を名雪調にアレンジはしているがはっきり言って似ていない。
真似をされた本人も含めた周りからかなり白い目をされている。
北川だけが、その白い目をしていない。
何かを考え込むように、祐一に近づいた。
「相沢……そういえば、アレスは全速だったはずだが、俺の弾丸を避けた後に加速したよな?」
「ん? そうだな。あれは説明すると面倒臭いんだが……」
「そんなに面倒なのか? 説明が」
「……説明した後だな」
祐一は栞に気付かれない様に意味深な視線を送る。
それを見てピンと来た北川。
栞がアレスの性能の全て引き出せていると思っていた。
しかし、アレスの性能を限界まで引き出せていなかった。
栞の限界がアレスの限界と思い込んで、それを相沢に当てはめて考えていた。
相沢が機体の性能の限界近くまで引き出せただけなんだ。
そう北川は納得した。
確かに、それを説明すれば、面倒だ。
栞の機嫌取りで。
「それと弾丸を避けたあとのあれだな」
「うん。祐一君、あの不可解な動きは何かな?」
「あれはだな、口では説明し辛いんだが……」
あゆと北川が祐一に詰め寄ってくる。
香里、名雪、栞は遠巻きにそれを見ていた。
祐一が説明の為に軽くステップを踏む。
そのステップは不可解な動きに似ているが、その場で複雑に回転をしただけだ。
「こう、回転させたんだよな」
「ちょっとまて、違うじゃないか。あの動きは具体的にどうやったんだ?」
「あぁ、あれは盾を装備していないと出来ないぞ。盾を振り回して遠心力で無理に方向転換、移動しているからな」
「……ライフルで、それに似たことは出来ないか?」
「出来ない事無いけど……北川。お前、平衡感覚は丈夫か?」
「丈夫な方だと思うが?」
「まぁ、いいか」
祐一は何か重い物を探して、扉の横に立てかけてあったモップを持ってきた。
これじゃあちょっと軽いんだけどなっている顔をしている。
それを持ってさっきと同じステップを踏んだ。
すると、僅かだが回転を終えたときに移動している。
あゆはしきりに頷いていた。
どうやら、やり方が分かったみたいだ。
「やってみるか?」
「お、おう」
モップを手渡されて、見よう見まねで祐一の動きを真似する北川。
ステップを踏む動きはつたないが、勢いだけはある。
不恰好だが、なんとか移動は出来た。
「……きついな」
「それよりも実際には重たい物でやるからもっと辛くなるぞ」
「そうだな……」
祐一と北川はそのまま動きのアドバイスを受けている。
あゆも祐一の説明を一緒に受けていた。
残りの香里、栞、名雪はその後の場面を見るために画面を見ている。
場面が香里のやられた画面になった。
香里は何故自分がやられたのか解らなかった。
その映像を見てようやく、どうしてやられたのかを知った。
一騎打ちのときの一撃目、祐一の盾を受け止めたその直後にその盾の後ろからパイルバンカーが打ち込まれている。
相手の装甲を突き破るために、パイルバンカーを盾に密着させてあった。
「相手の武器を知らない上に、初めに盾の攻撃を受けたときに2撃目は無いと思い込んだ事が敗因かしら?」
「こんな使い方があったんですね……」
「でもこれって1対1じゃないと使えないね」
「あ、そうですね。盾に穴が開く上に電撃を放ってますから右腕は電撃のショックを回復するまで使えませんから……」
「それでも、相手のコックピット、いえ、搭乗者のみを破壊するなんて出来ないわよ普通」
「あ〜、止めを刺した一撃は偶然なんだ。うん」
「「あれが偶然なの?」」
驚きの声を上げる、名雪に香里。
北川にアドバイスし終わったのか、祐一は香里達の論議に混ざっていた。
あゆと北川は一緒になってモップを持ち、くるくる回っている。
あゆの方が筋は良さそうだった。
「あぁ、たまたまだ。それに俺は、アレス向きじゃないな。」
「え? それってどう言う事ですか?」
その疑問の言葉を遮って祐一は操っていたドールのことを質問する。
「それよりも、あのアレスって機体は実際なんなんだ?」
「あぁ。あれは相沢君が入院してた時に搬入された機体よ」
「でも栞は、戦闘要員じゃないだろ?」
「そうなんですけど、適正の有る人間が少ないので、もしもの為の保険だそうです」
「無いよりも有った方が良いって事か」
納得した祐一は、苦笑を浮かべて遮ってしまった質問の答えを口にした。
「話しは戻るけど、俺にはアレスは使いこなせないんだよ。あれは栞にあわせて作ってあるから」
「あら? それは栞にもいえることじゃないかしら?」
「そんなこと言う人は嫌いです!」
香里が栞に意味深な視線を送った。
栞が真っ赤な顔をしてそれに猛抗議をする。
仲睦まじい姉妹を見つつ、ペイントまみれの名雪に祐一は質問する。
名雪は祐一に対して曖昧な笑みを浮かべた。
「名雪、一体どうすればそんなの格好になれるんだ?」
「え、えぇっと。あのね、お母さんとあゆちゃんと祐夏ちゃんと有夏さんと私がペイント弾で模擬戦闘をすることになったの」
「それで、母さん対それ以外でやったと。でもそれでなんでそうなったんだ?」
少し赤くなって言いにくそうにする名雪。
祐一は何となく、見当がついてしまった。
しかし、その事を顔の表情には出さないでいた。
その口から聞いたほうが面白そうだと思ったからだ。
気がつけば美坂姉妹も同じように聞き耳を立てている。
器用なことに口論をしながら。
「それでね、あゆちゃんが有夏さんが驚けばいいやってトラップを張ったの。ネットで吊り上げる奴」
「ふんふん」
「そうしたら有夏さんが引っかかって、その動けなくなった隙にお母さんが眉間に1発、祐夏ちゃんが背中に6発。私が足に1発……」
「あちゃぁ……それで母さんが笑顔になったと」
「すごい! 何で解るの!?」
「あぁ、その後に清々しい笑顔で『やられたら、お返しはのし紙をつけて倍返しだな』って言ったんだろ?」
「すごい! すごい! なんで!? なんで、そこまで解るの!?」
その事がありありと想像出来る祐一。
名雪はひたすら驚いていた。
気がつけば美坂姉妹も口論をやめて名雪の話を聞いていた。
祐一は驚きの表情を崩さない名雪に対して、俺があの人の息子何年していると思うんだ? という顔をしていた。
「それで、何発当てられたんだ?」
「それがね、有夏さんが8発で、死亡判定が3回。あゆちゃんが16発で死亡判定が6回。私が56発で死亡判定が48回」
「その先は?」
「お母さんが、88発で死亡判定が72回。一番酷かったのが、祐夏ちゃんの136発で死亡判定が105回だったんだよ」
「それで、秋子さんと祐夏の奴がいまペイント落としてて、暇だからこっちに来たと」
「うん。そうなるね」
「お疲れ様……」
その会話に疲れた顔をする名雪に祐一。
「それにしても、相沢君には勝てないわね……」
「香里、ドールに乗り始めたのはいつだ?」
「え? 2年位前かしら」
「だったら、しょうがないと思うぞ。俺は物心つく頃からみっちり乗せられていたからな。それもほぼ毎日、一日中な……」
「経験の差で片付けたくは無いけどね……」
「お話の途中で悪いですけど、お姉ちゃん。ちょっとこれから付き合ってください」
「分かったわ。じゃあ相沢君、失礼するわね」
「あぁ。じゃあな」
そう言って美坂姉妹は妹が先導する形でシミュレーター室から出て行った。
「ねぇ、祐一。帰り一緒に帰れるかな?」
「名雪に用事が無ければ帰れると思うぞ」
「じゃあ、約束だよ」
嬉しそうな名雪。
祐一は何故そんなに嬉しそうなのか分からなかった。
ともかくそこで解散となって各自、自分に割り当てられた訓練や職務に戻る事となった。
殆どの作業に訓練が終わり、祐一は格納庫の入り口手前で名雪を待っている。
そこに全てのペイントを落として、綺麗になった名雪が手を振りながら歩いてきた。
結局、あのあとペイントを落とす暇がなく、そのまま自分の作業に戻った名雪とあゆ。
ペイントを落とせたのは、自分達の作業が終わってからだった。
初めは笑った周りの人はそのまま作業する名雪達を笑うことが出来なかった。
周りの人たちが引きつった笑いを浮かべて、先にあがっても良いと言う言葉をありがたく頂戴したのは言うまでもない。
「お待たせ。待った?」
「そんなに待ってないぞ。こっちもちょっと用があってな」
「ふーん。それってHドールのコクピットの注文?」
「お? よく分かったな」
「その位、分かるよ」
「話しはこの位にして行くか」
「え? 行くって何処に?」
「この前、約束してないか? イチゴサンデーとか言う物を食べに行くんじゃないのか? 俺の勘違いなら嬉しいが……」
そうじゃないだろ? っと、かなりの呆れ顔で名雪を見る祐一。
名雪はそんな前の事を覚えてたんだと言う顔で驚いている。
祐一の家族に祐一の事等、色々な事が有ってすっかり名雪も忘れていた約束だった。
嬉しそうな顔を作る名雪。
言わなきゃ忘れていたのか? と言う顔を作る祐一。
「うん! 行こう祐一! 私、美味しいお店知っているんだ」
「あ! おい! 名雪恥ずかしいから放せ!」
「聞こえないよ〜」
嬉しそうに祐一の腕を組み、駆け出す名雪。
祐一は引きずられるように名雪について行く。
流石に商店街の中で腕を組むのは恥ずかしいので名雪に強く言って、普通に並んで歩くようにした。
名雪はその際残念そうな顔をしたが、祐一に強く言われたためにしぶしぶ従った。
着いた場所は、商店街の中心辺りにある喫茶店、百花屋。
その店の奥の方の席に二人は案内された。
「ご注文は」
「イチゴサンデーと、祐一は?」
「珈琲を」
「かしこまりました」
定員は注文を聞くと、すぐに厨房の方へ歩いていく。
「祐一はコーヒーだけで良いの?」
「あぁ。今、食べると夕食が食べれなくなるだろ?」
「イチゴサンデーは別腹だから大丈夫だよ」
「名雪ならそういうと思った。そんなに美味しいのか?」
「食べる?」
「いや、いらない。甘い物は苦手だ」
そんな他愛無い会話をして入るうちに注文の品が席に届けられる。
名雪はイチゴサンデーを前に目を輝かせ、祐一はコーヒーを手にとって口をつけた。
名雪が食べている間は、会話も無く静かなものだった。
食べるものを食べて精算を済ませて外に出る。
幸せなひと時をすごした名雪を眺めながら祐一は感心したように言った。
「名雪って本当にイチゴ好きだよな」
「うん、好きだよ〜」
「好きなら良いけどな」
百花屋を出て帰る。
その進行方向に人だかりが出来ていた。
それに何かを感じ取って祐一はその輪の中に入って行こうとする。
名雪が隣にいる事を思い出して、名雪に一言をかける。
「名雪、ちょっと見てくる」
「ちょっとまってよ! 祐一!」
とっさに祐一を捕まえようとした名雪の手は虚しく空を掴んだ。
祐一はそのまま人ごみの中に入っていく。
その時、祐一が無理やり入り込んで行っている人ごみの中から怒号が聞こえる。
「ちょっとまてや!」
その中には香里の腕を掴む警備隊の制服を着た男、その周りを囲む同じような男達8人。
「何かしら?」
腕を掴まれて明らかに怒りと疲労の顔を見せる香里。
それがカチンと来たのか、腕を掴んだ人間が声色を高めた。
「特殊部隊の人間が、何故この場所に居るんや? エリート様には、こないな場所に来る所ちゃうぞ!?」
どうやら、薬局から出てきた香里が一方的に因縁をつけられているみたいだった。
「薬を買うのがおかしいかしら?」
「そんな事とちゃうで! 何故俺らにぶつかって何も無しか!?」
そう言いながら掴んだ手で手荒く香里を投げつけた。
地面に転がる香里。
その拍子で紙袋の中身がこぼれる。
いくら香里が訓練を受けているとはいえ、ドールから降りれば、ただ少女である。
筋力のある警備隊の男達には筋力では勝つことは出来ない。
「……」
香里は何もせずにただ男達を睨んでいた。
男達はそれを見て気を良くしたのか香里に詰め寄ろうとする。
そこに割り込んだ影あった。祐一だ。
男達は祐一を睨みつける。
普通なら誰もしないような行動にいらついている様でもあった。
「下がらないと後悔するよ」
「あん? それは誰がや?」
いきなり割り込んできた祐一に、中心核の男が食って掛かる。
周りの男達も祐一の行動に失笑をしていた。
「あなたたちさ」
得体の知れない気配を放ちながら、祐一は薄気味悪い笑みを浮かべる。
男達の中から、「薄気味悪い笑いをしやがって」と言う呟きが聞こえてくる。
その呟きを聞いて、さらに薄気味悪い笑みを深め、侮蔑の視線を男達に投げかけながら言う。
「それでも全員で俺を相手にしますか?まぁ、勝てないと思うけど」
「なんやと!?」
祐一の一言で9人の男達の感情に火が付いた。
九人の男達が香里を放って置いて祐一に殺到する。
殺到した順番に祐一に殴りかかる。
殴りかかったその一人一人が呻き声すら上げる前に気絶させられていく。
それも誰一人と逃げる暇も無くで、だ。周りにいた人間には何が起こったのか解らない。
ただその事実だけがそこに残っていた。
あっという間に地面に這い蹲る9人の人間。
周りの人垣はそれを何かの間違いのように見ていた。
屈強な9人の男達が一人の優男に負けてしまったのである。
その優男が、一人の男の方へ歩いていった。そして耳打ちする。
「この後の処理を頼みますよ。上官殿。あなたがこの隊の隊長じゃないのですか?」
「……あ、え?」
「なんなら俺の方からこの国の上層部に報告しましょうか? 俺はそれでも構いませんが、それではあなたが困ると思いますが?」
「…………解った」
「下手な報告をしても俺には解りますから。下手な報告をしないほうが身の為ですよ」
「……お前、一体、何者だ?」
「さて、誰でしょうか? でも情報が分かる立場に居ると言ったら想像できるでしょう? 想像にお任せしますよ」
祐一が青くなった男から離れて、香里の元に行く。
そして香里の紙袋から落ちたものを拾ってからその袋を手に持って香里に手を差し出した。
香里が呆気に取られて祐一を見上げている。
その目には驚きしかない。
その驚きも何故助けてくれたのかそれが大きな驚きだった。
「さて、騒ぎが大きくならないうちに帰るぞ」
今までの得体の知れない気配は微塵も無い。
買い物帰りの青年がそこにいた。
「どうした? どこか打ったのか?」
「なんでもないわ」
祐一の手を取って立ち上がる香里。
「あなたの本当の……いえ、なんでもないわ。帰りましょ」
「ん? 何か言いたそうだけどまぁ、良いか。そんな事、言われなくても帰るぞ」
「祐一! 待って! すいません! そこどいてください!」
名雪が普段出さないような声を出して人ごみの中に入ってきた。
「お? 名雪、ここだ!」
「名雪、ここだ! じゃないよ〜。あ! 香里、大丈夫?」
「えぇ。私に怪我は無いわ。相沢君のおかげよ」
「そう……良かったね。香里」
「さて、騒ぎが大きくならないうちに逃げるぞ」
祐一は二人の手を掴んで人ごみを裂くように走り出した。
二人とも、それに従って走り出す。
商店街から出ると、人ごみも少なくなる。
そこでようやく、手を離してゆっくりと歩き出した。
(祐一は気がついているかな? 私の気持ちに。祐一って残酷だよね。どんな人とも、誰とも等分に距離を置いて接しようとする)
しょうがない考えが名雪の中に浮かんでは消える。
胸の中にある感情は不安だった。
(それに誰にだって優しい。それは悪い事じゃない。でも私にはそれが辛い。私だけ見てって言えない。でも私だけを見て欲しい)
「さっきはありがとう」
「なんだ? 別にたいした事じゃないだろ?」
(今日の約束を覚えてくれてたのは凄く嬉しかった。私の事を考えていてくれたんだって。でも、でも)
「貴方にとって大した事じゃなくても、私にとっては大した事なのよ」
「そうか?」
(その気持ちが今は小さくなってる。さっきはあれだけ嬉しかったのに。近くに居れてあれだけ嬉しかったのに……)
「そうよ。ところで、相沢君と名雪が何でこの時間に商店街を歩いてるの?」
(私って嫌な女なのかな? 香里は親友だし、助けてくれて嬉しい。でも今の感情は何かな?)
「あぁ、それは名雪に借りがあってそれを返してたんだ。なぁ、名雪」
(祐一の中で一番にはまだ、なれない、なれそうに無いよ。私じゃ駄目なのかな?でも私の中では祐一が一番なんだよ……)
先ほどから俯いている名雪。
祐一が話を振っているのに何にも反応をしてくれなかった。
商店街からの帰り道で、名雪だけが会話に馴染めていない。
それをおかしく思った祐一が名雪の額にでこピンをした。
「だお!」
「どうした? ボーっとして、名雪らしくない」
「ごめん。ちょっと考え事」
「そうか、何か困った事だったら、力になるぞ?」
「ううん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとね祐一」
強がりかもしれない、名雪の笑顔。
自分をどんな小さな事でも、心配してくれる自分の中で1番の人。
それだけで嬉しい。
でもその裏には寂しい気持ちも同居していた。
祐一はその人が1番じゃなくても、その人の力になろうとするから。
(たぶん、私はまだ祐一の中で一番じゃないから、こんな事考えちゃうんだよね。もっと頑張らなくちゃ……)
その後の名雪は、普通に会話に参加してそれぞれの部屋に帰った。
その胸に少しの寂しさを抱えて。
4日後、自分専用のHドールを作るために許可と資材の相談に祐一は秋子の隊長室に訪れていた。
何故、4日も時間が空いたかというと、CROSSのコアユニット、つまりはコクピット部分の発注をしていたからだ。
それが届き、祐一を登録して正式に問題が無い。
有夏がそう判断するまで時間がかかったと言う事だ。
シミュレーター室の登録はあくまで事前学習みたいなものと言う意味合いが強い。
祐一のその手には、自分で考えた二つの設計図と計画表、必要だと思われる機材に資材の一覧がある。
資材に機材はあらかじめ、秋子の部隊にある資材のストックを聞いた中から選び、すぐに機体を組み立てれるように考えてあった。
訪ねてきた祐一を見た秋子は祐一に話を切り出す。それは祐一を心配してものだった。
「祐一さん? 最近無理をしていませんか?」
「そんな事は有りません」
「そんな嘘を言っても駄目です。最近あまり眠れていないでしょう?」
「それは……」
「私にはお見通しなんですよ。私じゃあ、祐一さんの力になれませんか?」
祐一は秋子から目をそむけ、背中を見せた。
その背中は話したくないと拒絶の意志を放っている。
秋子は粘り強く、祐一の返事を待った。
しばらくの沈黙の後に震えた声で祐一は秋子に告白する。
「……不安なんです。あの時に見捨ててしまった、みんなみたいな事を繰り返してしまうんじゃないかって……」
震える声が続く。
祐一は身を自分で抱いて震えていた。
いつもの祐一が見せない弱さ。
そんな弱さを自分に見せてくれたことに少しの喜びを感じつつ、秋子は祐一の次の言葉を待った。
「また自分が全部壊してしまうんじゃないかって……」
怯えるように震える祐一を見るに見かねた秋子は震える祐一を後ろから優しく抱きしめた。
それでも、祐一はまだ震えている。
まるで秋子の事が存在しないように、震え続けていた。
「……怖いんです。半端な力しかない自分自身が。兵器だった自分が……」
「大丈夫ですよ。祐一さん。あなたは兵器ではありません。だって悔やんでいますもの」
秋子は抱きしめ方を変え、震える祐一を強めに抱きしめた。
そしてまるで泣いている子供をあやすような声で話し続ける。
頭を撫でながら、ゆっくりと、そしてやさしく、話し掛ける。
「兵器なら、そんな事気にしません。祐一さんは祐一さんです」
まだ震えている祐一。秋子は祐一をもう一度きつく抱きしめた。
今度は力強く、あなたは間違っていない。
そんな意思を込めて話し掛ける。
「自分に自信を持ってください。祐一さんは間違っていません。そして、横には私がいます。だから間違いは起こさせません」
祐一を秋子無理やり振り向かせて、その目を真っ直ぐに見つめた。
微笑み、祐一が目を逸らせないように、その顔をてで挟み、無理やり自分を見せる。
「それでも、まだ不安ですか? 祐一さん」
「……ありがとうございます。秋子さん。こんな俺を勇気づけてくれて」
初めはその目を見るのを躊躇った祐一だが、秋子の目を真っ直ぐに見つめ返し、祐一は言った。
秋子は表情は変えずにその先を静かに待った。
「そうですね。俺の周りには俺の間違いを正してくれる人が沢山いるんですね。それに秋子さん、名雪に母さん達を忘れてますよ」
そういって祐一は微笑んだ。
その微笑みを真正面から見てちょっと赤面し、そして残念に思う秋子。
残念に思う表情を顔に出さないように注意しながら、その微笑を見つめ返す。
「えぇ、そうですね。忘れないでください。祐一さんの周りには私達がいます。決して一人ではないんですよ」
「解ってますよ。秋子さん」
祐一が帰ってきてから、1番の笑顔。
それを見て満足そうに秋子は頷いた。
To the next stage
あとがき
最近思います。キャラの好き嫌いで書くんじゃ無くて、書きやすさで書く自分の癖をどうにかしたいって。
特別嫌いなキャラって居ないんですけど……書いているとどうしても書きやすいキャラが……
注意はしているんですけど、何故ここで? って修正を加えることがしばしばです。
あぁ、本当にこの癖どうにかならないかなぁ……佐祐理さんや舞さんもまだ本格的に登場できそうにないし……
こんな私ですが、ここまで読んでいただいてありがとうございます。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんからSSを頂きました。
書きやすさ云々を改善するにはプロットを立ててみては?
ある程度詳細な流れを決めれば、出すべきキャラなんかはしっかり書けるでしょうから。
私はなるべく全員書くようにはしてるんですが。
相変わらずの謎っぷりを発揮する祐一ですね。
結構顔も広いですし、真の姿はどこにあるのか。
裏側の力とか持ってそうで気になるところ。
やはりこのSSのメインヒロインは秋子さんで決定でしょうか。
名雪も中々乙女してますが、秋子さんには勝てませんし。
対抗するかもしれない佐祐理さんや舞の登場が待たれるところです。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)